【解決手段】本発明のスパッタリング装置100は、搬送ローラー3上を搬送される基板に対して順次成膜するためのターゲット4を保持するべく、基板の搬送方向に配列された3つ以上カソード隔壁9と、基板搬送速度及び成膜処理の際に使用されるターゲット4の数に応じて、マグネット駆動装置11を制御する複数の制御方法の中から、最も均一な膜厚分布が得られるものを選択し実行する制御選択ユニット25とを備えている。
前記選択部は、前記搬送速度が所定速度以上であり、且つ、使用される前記ターゲットが5以上の奇数であるN個であるとき、使用される前記ターゲットを、3つのターゲットからなる第1グループをX組と、2つのターゲットを有する第2グループをY組とに、式(3X+2Y=N)を満たすように分け、前記第1グループ及び前記第2グループのそれぞれで異なる前記方法を選択することを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
前記記憶部に記憶された方法は、前記第1の移動、前記第2の移動、前記第3の移動のそれぞれにおいて、前記マグネット部が停止させている時間は等しいものであることを特徴とする請求項4に記載のスパッタリング装置。
前記記憶部に記憶された方法は、前記第1の膜、前記第2の膜、前記第3の膜のうち、それぞれの前記マグネット部を停止させている間に堆積された部分が前記基板上で重なるものであることを特徴とする請求項5に記載のスパッタリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は発明を具体化した一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。実施形態においてスパッタリング装置として1つの成膜チャンバー内に2つ又は3つのマグネトロンスパッタユニットを備えた装置を例にとって説明するが、本発明はスパッタリング装置の基板搬送経路に沿って2つ以上のマグネトロンスパッタユニットを備えた装置に好適に適用できる。
【0014】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態である2つのスパッタユニットの制御方法を自動的に切り替えるスパッタリング装置について図を参照して説明する。
図1は、本発明に適用可能な基板搬送式のインライン型連続スパッタ成膜装置(スパッタリング装置)100の成膜室構成を説明するための概略断面図である。通常、ロードロック室やバッファー室、アンロードロック室など複数のチャンバーがゲートバルブを介して連結されて、一つの基板搬送式のインライン型連続スパッタ成膜装置を形成するが、
図1ではそのうちの成膜室のみを示している。
【0015】
図1に示すように、成膜室は、チャンバー2(真空容器)と、チャンバー2内(真空容器内)に設けられた基板1を搬送するための基板搬送部とチャンバー2上部に設置された2つのマグネトロンスパッタユニット(スパッタユニット)10で構成されている。基板搬送部は搬送ローラー3と搬送ローラー3を制御する搬送制御装置21とを有している。本実施形態では基板1は水平状態で搬送ローラー3に載っており図中右方向に一定速度で搬送される。チャンバー2は図示しない排気ポンプにより真空に排気され、図示しないガス配管によりプロセスガス(例えばArガス)が所定の圧力になるように供給される。スパッタユニット10は基板搬送方向の上流側から第1、第2のスパッタユニット10a,10bが配列されている。各スパッタユニット10a,10bは同じ構成となっている。なお、スパッタリング装置100は、スパッタユニットを2つ備えた構成として描かれているが、3つ以上のスパッタユニットを備えていてもかまわない。スパッタリング装置100が3つ以上のスパッタユニットを備える場合は、そのなかで任意の2つのスパッタユニット10a,10bを使用するものとする。
【0016】
本実施形態では、2つのスパッタユニット10a,10bが備えるターゲット4a,4bは同じ材料である。スパッタユニット10a,10bのカソード隔壁(ターゲット保持部)9a,9bはチャンバー2の天井壁にカソード絶縁部8a,8bを介して設置されている。カソード隔壁9a,9bには図示しない電力供給装置により電力が供給されるカソード6a,6bが設けられている。ここではカソード6a,6bにDC電力を供給している。ターゲット4a,4bはボンディングなどの方法でカソード6a,6bに接着されていて、カソード6a,6bとターゲット4a,4bは一体の状態でカソード隔壁9a,9b壁に固定される。カソード6a,6bはターゲット裏板やバッキングプレートと呼ばれることがある。カソード内部には、ターゲット4a,4bを冷却する冷媒を流すための不図示の水路が設けられている。
【0017】
ターゲット4a,4bの表面以外のスパッタを防止するためにターゲット側面、カソード6a,6b、カソード隔壁9a,9bの露出している面に対して2〜3mmの隙間をあけて覆うようにターゲットシールド5a,5bが設けられている。カソード隔壁9a,9bのカソード6a,6bとは反対側(大気側、又は裏側)にはマグネット7a,7b(マグネット部)がそれぞれ設置されている。マグネット7a,7bは平板状のヨークと永久磁石からなり、カソード側をS極とした中心極と、カソード側をN極とした外周極により構成されている。マグネット7a,7bが作る磁力線はターゲット表面付近では二つのトンネル状ループを形成する。放電した場合はターゲット表面付近の磁力線ループの場所で高密度のプラズマが生じることとなる。
【0018】
ターゲット表面にはマグネット位置により決まる高密度プラズマに対応した場所にエロージョン(ターゲットの侵食)が生じる。マグネット7a,7bをターゲット4a,4bに対して移動しながらスパッタ成膜することでターゲット表面に均一な深さのエロージョンを作ることによりターゲット利用率を向上させることができる。
【0019】
マグネット7a,7bはマグネット駆動装置11a,11b(マグネット駆動部)により基板1の搬送方向に往復移動することができる。マグネット駆動装置11a,11bは図示しないモーターやボールネジなどの動力伝達機構により構成されている。マグネット7を駆動するモーター(マグネット駆動装置11a,11b)はマグネット制御装置22により制御され、マグネット7a,7bを指定した速度で指定した位置に移動させることができる。マグネット7a,7bの速度制御は加速、等速、減速からなる台形駆動とした。
【0020】
マグネット7a,7bは停止状態から一定の加速度による加速移動、続いて等速移動、続いて一定の加速度による減速移動により再び停止する。この間に移動する距離は縦軸速度、横軸時間として描いた速度線図の台形部分の面積となる。マグネット7a,7bを動作させる制御方法(方法)には、単純揺動制御と2マグネット揺動制御の2つの制御方法があり、制御選択ユニット25(選択部)でどちらかを選択する。それぞれの制御方法については後述する。制御選択ユニット25は、後述の制御方法を選択するプログラムが格納されたRAMとマグネット制御装置22を有し、マグネット駆動部を制御する複数の方法を記憶した記憶部27と搬送制御装置21に接続されている。
【0021】
スパッタリング装置100を用いたスパッタ成膜方法について説明する。
真空に排気したチャンバー2に所定の圧力になるようにプロセスガス(例えばArガス)を導入し、基板1を一定の搬送速度で搬送(定速搬送)する。カソード6a,6bの水路にはあらかじめ冷却水を供給する。マグネットの制御方法の制御選択ユニット25では、単純揺動制御か、2マグネット揺動制御のいずれかを予め選択しておく。制御方法の選択は、主に基板搬送速度によって決定されるが、その選択方法については後述する。単純揺動制御、あるいは2マグネット揺動制御の制御方法のどちらかによりマグネット駆動装置を制御しマグネット7a,7bを基板1の搬送方向に往復移動させる。カソード6a,6bに一定のDC電力を印加しマグネトロンスパッタ成膜を実施する。このようにスパッタ成膜すると基板上には搬送方向に均一な膜が堆積する。
【0022】
ここで、単純揺動制御でのマグネットの動作について説明する。
図2に単純揺動制御でのマグネット7(7a又は7b)の動きの例を示す。グラフの横軸は時間、縦軸はカソード6(6a又は6b)に対する基板搬送方向のマグネット位置でカソード中心位置を0mmとして基板搬送方向である順方向を正に、逆方向を負に表している。なお、マグネット7の往復移動の片道の距離をストロークと呼ぶことにする。ここではストロークは100mmの場合を示す。最初マグネットは順方向のストローク端である+50mm位置にある。ここから出発してマグネット7は逆方向に移動し逆方向のストローク端である−50mmまで移動して一定時間停止する。次にマグネット7は反対方向の順方向に移動し順方向のストローク端である+50mm位置まで移動して一定時間停止する。ここまでが1周期であり、この後はこの動作を繰り返す。
【0023】
図3は
図2のマグネット7の動きの1周期分の速度変化を表した速度線図である。横軸は時間、縦軸はマグネット7のカソード6に対する速度Vmcを表し、速度の向きは基板搬送方向である順方向を正に逆方向を負にとっている。マグネット7は最初逆方向に速度Vbになるまで時間Tacc1の間等加速度で加速する。その後逆方向に一定速度Vb(
図3では逆方向が負なので−Vbとした)で移動し、次に逆方向に時間Tacc2の間等加速度で減速し速度はゼロとなる。ここまでの速度線図の形は台形を示している。本実施形態では一般に台形駆動(台形制御いう場合もある)といわれる速度制御を採用している。モーター駆動の制御方法として一般的な方法である。
【0024】
ここまでの速度制御によってマグネットは
図2に示す初期位置の順方向のストローク端の+50mm位置から逆方向のストローク端の−50mm位置まで移動したことになる。この後一定時間Tsew停止するため速度は0mm/sが保たれる。次に順方向(
図3では正の速度として記載した)に加速、等速(+Vf)、減速の台形駆動と一定時間Tsew停止を行う。順方向は逆方向と向きを逆にして同じ動きをする。
【0025】
単純揺動制御でマグネット7を基板搬送方向に対して往復移動させながらスパッタ成膜したときの基板上の搬送方向の膜厚分布について説明する。単純揺動制御の制御方法を採用した成膜では、ある程度マグネットを速く動かして成膜すると膜厚は均一になることがわかっている。
図4に、単純揺動制御の制御方法での成膜条件と膜厚分布について示す。
図4のグラフの横軸は(搬送速度Vt)×(周期T)でマグネットが基板搬送方向に1往復する間に基板が進む距離を示している。
図5の縦軸は基板搬送方向膜厚分布であり、Vt・Tについての膜圧分布を示したものである。膜厚計算には以下の計算式(膜厚分布計算式)を用いた。
膜厚分布(±%)=(最大値−最小値)/(最大値+最小値)×100
基板搬送方向の膜厚分布は、Vt・Tがおよそ70mmより小さい条件でほぼ0になる。したがって搬送速度Vtと周期Tが、以下の条件を満たせば、単純揺動制御で動作させてスパッタ成膜する方法においても膜厚は均一になる。
Vt・T<70mm (1)
【0026】
次に、2マグネット揺動制御でのマグネットの動作について以下に説明する。
2マグネット揺動制御は、一対のマグネット7a,7bの動作と基板1の搬送を連動させる制御方法である。2マグネット揺動制御でのマグネット7(7a又は7b)の基板搬送方向の動きの例を
図5に、速度線図を
図6に示す。この例ではマグネット7の往復移動のストロークL(片道)は100mm、往復移動の周期Tは9秒としている。本実施形態ではマグネット7の加速、減速を考慮した台形駆動を採用した。またストローク端での所定時間停止する。
【0027】
図5の縦軸はマグネット位置であり、カソード6(6a又は6b)の中心位置を0mmとして基板搬送方向である順方向を正に逆方向を負として表記した。最初マグネット7は順方向のストローク端である+50mm位置(初期位置)にある。マグネット7はここから出発して逆方向に移動し、逆方向のストローク端である−50mm位置で一旦停止する。次にマグネット7は反対方向の順方向に移動し順方向のストローク端である+50mm位置まで移動して同様に停止する。ここまでが9秒で1周期分になる。この後はこの動作を繰り返す。マグネット7は、逆方向への移動速度が速く、順方向への移動速度が遅くなるように制御されている。
【0028】
図6では
図5のマグネット7の動きの1周期分の速度変化を表した速度線図である。横軸は時間、縦軸はマグネット7のカソード6に対する速度Vmcを表し、速度の向きは基板搬送方向である順方向を正に逆方向を負にとっている。マグネット7は最初逆方向に一定時間等加速度で加速した後、逆方向に等速で移動し、逆方向に等加速度で減速して一旦停止する。本実施形態では一般に台形駆動といわれる速度制御を採用している。
【0029】
ここまでの速度制御によってマグネットは
図5に示す初期位置の順方向のストローク端の+50mm位置から逆方向のストローク端の−50mm位置まで移動したことになる。この後一定時間停止するため速度は0mm/sが保たれる。次にマグネットは順方向(
図6では正の速度)に加速、等速、減速の台形駆動と停止をおこなう。ただし順方向の等速の速度や等速の時間は逆方向のマグネット7の動きと異なる。マグネット7の順方向の動きは、逆方向の動きと比べて、等速の速度の絶対値は小さく、等速の時間は長くなる。
【0030】
ここまでは1つのスパッタユニット10(10a又は10b)のマグネット7(7a又は7b)の動きの例を示した。
図7に2マグネット揺動制御に用いられる2つのスパッタユニット10a,10bのマグネット7a,7bの動きの例を示す。第1のスパッタユニット10aのマグネット7aが最初に動き出し、周期9秒で動き続ける。第2のスパッタユニット10bのマグネット7bはここでは5秒後に遅れて動き出し、周期9秒で同様に動き続ける。それぞれのスパッタユニット10a,10bのマグネット7a,7bはこのように時間をずらして動き続ける。ずらす時間は基板1の搬送速度に応じて決められる。時間のずれについては後述する。
【0031】
2マグネット揺動制御でのマグネット7の動きについてさらに説明する。はじめに本実施形態で基板上の搬送方向の膜厚を均一にするための考え方を説明する。
スパッタユニット10のマグネット7はカソード中心位置に対して往復移動し、基板は搬送方向に一定速度(定速)で移動している。しかし、基板上の膜厚とマグネット7の速度の関係を説明するために
図8では基板を基準に表した。
図8は、2マグネット揺動制御において、基板1を基準としたマグネット7の相対速度Vms(上側)と、マグネット7の相対速度Vmsと膜厚の関係(下側)の模式図である。
図8の上側下側とも横軸は基板搬送方向の基板上の位置である。スパッタリング装置100では基板は、
図8の紙面上の左から右方向に向けて一定速度で搬送されており、ここでは便宜上、基板1を固定して見ているためマグネット7は基板に対して常に左から右方向に速度を変えながら移動する。このマグネット7の基板1に対する相対速度Vmsは
図8では右方向を正にとっている。
【0032】
図8の領域Aはマグネット7がカソード6に対して負の方向に移動している範囲を表し、マグネット7の基板1に対する相対速度は比較的速い領域である。領域Bはマグネット7がカソード6に対して正の方向に移動している範囲であり、マグネット7の基板1に対する相対速度は比較的遅い領域である。また領域A’、B’はマグネット7が停止している範囲を示している。各範囲の和(A+A’+B+B’)はマグネット7が1周期の往復移動をする間に基板1がマグネット7に対して移動する距離を表している。
【0033】
基板上にはマグネット7の相対速度の速い領域Aに対応する範囲に対しては比較的薄い膜が堆積し、マグネットの相対速度の遅い領域Bに対応する範囲に対しては比較的厚い膜が堆積する。これはカソード6に供給するDC電力が一定のためターゲット4(4a又は4b)から放出されるスパッタ原子の量が一定であり、またスパッタ原子の放出位置はマグネット7の位置に対応していることによる。従って基板上にはマグネット7の基板1に対する相対速度に反比例した膜厚が堆積することになる。
【0034】
ただし、基板上の膜厚変化はマグネット7の基板1に対する相対速度の変化のように急激に変化することはなく
図8の下側に図示したようになだらかに変化する。これはターゲット4から放出されるスパッタ原子の放出位置がマグネット7の幅程度の領域からあるなだらかな分布を持って放出されることと、ターゲット4と基板の間の距離をスパッタ原子が飛行する間にある程度広がるためである。ここで重要なことは領域A、Bで成膜される基板搬送方向の長さが基板上で同じになるようにマグネット7の移動速度を設定することである。また領域A’、B’で成膜される基板搬送方向の長さもそれぞれ同じである。基板上で成膜される長さを同じにすることで、他のスパッタユニット10の成膜により積層された膜と重ねることができる。後述するように、一対のスパッタユニット10a,10bでの成膜をいずれも終えた状態での膜厚分布を良くすることができる。
【0035】
図9にはマグネット7a,7bのそれぞれについて、基板を基準にした相対速度V
msを上下に分けて示した。横軸の基板上の位置は上下のグラフで揃えている。第1のスパッタユニット10aのマグネット7aの相対速度Vmsは
図8と同じである。第2のスパッタユニット10bのマグネット7bは第1のスパッタユニット10aのマグネット7aの動きに対して基板上の位置でA+A’の距離だけずらして同じ動きを繰り返している。
【0036】
図9中の領域Aについてみると、第1のスパッタユニット10aのマグネット7aの相対速度は比較的速く、第2のスパッタユニット10bのマグネット7bの相対速度は比較的遅い。領域Bでは第2のスパッタユニット10bのマグネット7bの相対速度は比較的速く、第1のスパッタユニット10aのマグネット7aの相対速度は比較的遅い。このようなマグネット7a,7bの相対速度で成膜処理をすると各領域で比較的薄い膜が1回、比較的厚い膜が1回、順次成膜される。従って、領域A、Bそれぞれでは2つのスパッタユニット10a,10bにより積層された膜厚は同じとなる。
【0037】
マグネット7がカソード6に対して等速移動中で相対速度が一定の部分について上述したがA、B各領域にはマグネット7の加速領域と減速領域が各領域の両端に存在する。この部分も2つのスパッタユニット10a,10bで考えると1つの比較的相対速度の速い領域と1つの比較的相対速度の遅い領域が同じ基板上の位置で重なるように制御している。このためこの加速、減速の部分も含めてA、Bそれぞれの領域での2つのスパッタユニット10a,10bにより積層された膜厚は同じとなる。
【0038】
さらに、マグネット7がカソード6に対して停止した状態で成膜する
図9の領域A’、B’について説明する。ここでの膜厚は上述した領域A、Bで成膜される膜厚の中間の厚さになる。そして、領域A’、B’での膜厚は同じであるため、基板上で重ねると領域A、Bで積層した膜厚と同じになる。すなわち、領域A、B、A’、B’で積層される膜厚はすべて同じである。
【0039】
2マグネット揺動制御のマグネット制御の考え方を簡単にまとめると、以下のようになる。
(a)領域A、Bで成膜される基板上の長さを同じにする。
(b)領域A’、B’で成膜される基板上の長さを同じにする。
(c)基板上で領域A+A’の長さだけ2つのスパッタユニット10a,10bのマグネット7a,7bの動きを基板搬送方向にずらす。
【0040】
これまでマグネット7の順方向の速度Vfは基板搬送速度Vtより小さい、つまりマグネット7は基板1を追い越さないことを前提としてきた。この条件を満たすときに2マグネット揺動制御のマグネット動作は適用できる。以上より、2マグネット揺動制御の成膜によって均一な膜厚分布を得るためには、以下の式を満たす成膜条件とする必要がある。
ここで、Tはマグネット7の往復移動の周期(単位は秒)、Tsewはマグネット7の停止時間、Taccは加速時間Tacc1と減速時間Tacc2の平均、Lはストローク(片道)、Vtは基板搬送速度である。
【0041】
図10に2マグネット揺動制御で成膜した例を示す。
図10には各スパッタユニット10a,10bによる基板上の膜厚が2本の線(破線と細い実線)で表されている。各膜厚は比較的厚い領域と薄い領域交互に現れている。それぞれの基板上での膜厚変化の周期はVt・T=300mmである。これらが基板上で150mmずつずれて膜として堆積している。上の方の太線は2つのスパッタユニット10a,10bにより積層された膜厚であり、下の2つの膜厚を合計したものである。積層した膜厚はほぼ均一となる。この例では膜厚分布は±0.03%となった。
【0042】
ここで、制御方法を選択する方法について説明する。
図11に基板搬送速度Vtに対してとりうる周期Tの範囲を単純揺動制御と2マグネット揺動制御について示した。この周期Tのとりうる範囲とは、マグネット7の動作に理論的な不都合はなく、少なくとも基板搬送方向の膜厚が均一となることを満たす周期の範囲である。
図11に示した2本の曲線のうち下側の曲線より下の範囲は、単純揺動制御で基板搬送方向の膜厚を均一にできる範囲である。この範囲では上述の(1)式を満たす。
【0043】
周期Tのとりうる範囲は搬送速度Vtに反比例する曲線より下側となる。たとえば搬送速度Vtが33.33mm/sの場合周期Tは2.1秒より小さいことが必要である。
図11に示した2本の曲線のうち上側の曲線より上の範囲は2マグネット揺動制御でマグネットの動作に理論的な不都合はなく搬送方向の膜厚を均一にできる範囲である。この範囲では上述の(2)式を満たす。
【0044】
周期Tのとりうる範囲は、マグネット7の加減速時間Taccとストローク端でのマグネット停止時間Tsewが小さい場合、搬送速度Vtにほぼ反比例する曲線より上側となる。たとえば搬送速度Vtが33.33mm/s、Taccが0.3秒、Tsewが0.4秒では周期Tは8.0秒より大きいことが必要である。なお、2マグネット揺動制御で周期Tを曲線に近い値に設定するとマグネット7の速度が非常に速くなってしまうので実際には曲線よりやや上側、つまり少し大きめの周期を選択するとよい。たとえば周期T=8.0秒のとき、ストロークL=100mmでは逆方向の等速の速度Vbは333.3mm/sと大きくなるが、周期Tを9秒とするとVbは125mm/sと大幅に小さくできる。
【0045】
上述のように基板搬送速度Vtが決まると周期Tのとりうる範囲が
図11で示した範囲に決まってしまう。本実施形態の装置では周期Tの範囲は単純揺動制御と2マグネット揺動制御でお互いに重なる領域はない。従って、基板搬送速度Vtが決まると単純揺動制御と2マグネット揺動制御のどちらかを選択し、それぞれで設定可能な周期Tを決定することになる。
【0046】
なお、本実施形態のようにターゲット4にノジュールがほとんど発生しない金属ターゲットを用いるときは、周期Tにさらに制限を設けた方が良い場合がある。すなわち、
図11からわかるように搬送速度Vtが遅いと、2マグネット揺動制御のマグネットの移動速度の周期Tは極端に大きくしなければならない。周期が大きいとマグネットの移動速度は遅いため、比較的長い時間スパッタされない領域がターゲット表面に生じることになる。スパッタされないターゲット表面には再付着膜が堆積し、その領域がスパッタされる際に再付着した物質も同時にスパッタされ基板に堆積する。そのため基板1に堆積した膜には不純物が多くなることがあるため、マグネット往復移動の周期Tはある程度以下にしない方が好ましい。一般的には周期Tは20秒以下であれば膜質に問題がない。また、マグネット駆動装置11の出力は有限であることから周期Tには下限値がある。一般的には周期Tは3秒以上に設定するとよい。
【0047】
基板搬送速度Vtは一般には装置構成と必要な膜厚によって決まる。どちらの制御方法を選択するかは以下のように決まる。
図12に周期Tのとりうる範囲をまとめた模式図を示す。搬送速度Vtがおよそ11mm/s以下では、
図12に示すように2マグネット揺動制御は選択できない。したがって単純揺動制御で適切な周期Tを
図12に示された範囲の中から選択する。搬送速度Vtがおよそ23mm/s以上では、
図12に示すように単純揺動制御は選択できない。したがって2マグネット揺動制御で適切な周期Tを
図12に示された範囲の中から選択する。搬送速度Vtがおよそ11mm/sから23mm/sの間では、単純揺動制御でも2マグネット揺動制御でもどちらでも適切な周期Tを選択できる。この搬送速度の範囲でどちらの制御方法を選択するかはその他の要因で総合的に判断される。
【0048】
以上のように基板搬送速度Vtが与えられた場合、
図12から単純揺動制御、あるいは2マグネット揺動制御のうち適切なマグネット揺動方法を選択する。そして制御選択ユニット25で単純揺動制御の制御方法か2マグネット揺動制御の制御方法のどちらかを選択する。制御選択ユニット25には、制御方法を選択するためのデータを記憶した記憶部27が接続されている(
図1参照)。制御選択ユニット25は、基板搬送速度と記憶部27内のデータを参照して、より均一な膜厚分布を得られる制御方法を選択するプログラムを有している。基板搬送速度は制御選択ユニット25に接続された搬送制御装置21から入力される。本実施形態の記憶部27には
図12の内容のデータが格納されている。なお、記憶部27は制御選択ユニット25内に設けてもよいし、スパッタリング装置の外部に設けても良い。また、制御選択ユニット25内のプログラムは記憶部27内のデータを参照して最適な周期Tを決定する。
【0049】
図13に基づいて制御方法を選択するプログラムについて説明する。
2つのスパッタユニット10a,10bを用いる第1の実施形態では基板搬送速度Vtが与えられれば
図12から適切な制御方法の選択とマグネット往復移動の周期Tを選択することができる。ただし、どちらの制御方法も選択可能な周期Tでは、一義的に周期Tを決定できない。そこで本実施形態では、いずれかを優先的に選択するものとした。例えば、マグネット7の動作が単純な単純揺動制御の制御方法を優先して選択するように設定できる。
【0050】
単純揺動制御の制御方法を選択した場合、周期Tはできるだけ小さい方が基板搬送速度Vtの広い範囲で使用できる。単純揺動制御の制御方法の場合の周期Tは最小の値(例えばT=3秒)を使用することができる。2マグネット揺動制御の制御方法を選択した場合、周期Tはできるだけ大きい方が基板搬送速度Vtの広い範囲で使用できる。2マグネット揺動制御の制御方法での周期Tは最大の値(例えばT=20秒)とできる。
【0051】
図13のフローチャートは上記の考え方に基づいている。マグネット制御方法の選択は、制御選択ユニット25で行われる。すなわち、制御選択ユニット25が基板搬送速度Vtを読み込む(ステップ1)。基板搬送速度Vtが23mm/s以下では単純揺動制御の制御方法を選択し、周期Tは3秒とする(ステップ2)。基板搬送速度Vtが23mm/sより大きいときは2マグネット揺動制御の制御方法を選択し、周期Tは20秒とする(ステップ3)。
【0052】
なお、ここで使用した基板搬送速度Vtの23mm/sは(1)式と(2)式を連立させて解くことで得られる。このように制御選択ユニット25で演算して、適切な制御方法の選択とマグネット往復移動周期Tを決定できる。制御選択ユニット25により選択された制御方法が、マグネット駆動装置11、搬送制御装置21によって実行される。この結果、どのような基板搬送速度Vtに対しても適切なマグネット駆動装置11でマグネット7を制御してスパッタ成膜し、少なくとも基板の搬送方向に均一な膜厚の成膜が可能となる。
【0053】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態である3つのスパッタユニットの制御方法を自動的に切り替えるスパッタリング装置について図を参照して説明する。上述の「2マグネット揺動制御」の制御方法では、成膜処理に用いるスパッタユニット10の数が奇数のときに搬送方向に均一な膜を作成することは難しい。そこで、「単純揺動制御」の制御方法を選択できない搬送速度で、スパッタユニット10を3つ使用する場合にも適用できる膜厚分布の改善方法について以下に説明する。
【0054】
図14は、第2の実施形態の基板搬送式のインライン型連続スパッタ成膜装置(スパッタリング装置101)の成膜室構成を説明するための概略断面図である。第1の実施形態では使用するスパッタユニット10の数が2つであったが、第2の実施形態では使用するスパッタユニット10の数は3つとなっている。3つのスパッタユニット10は基板搬送方向の上流側から順番に第1、第2、第3のスパッタユニット(10a,10b,10c)とする。各スパッタユニット10は、いずれも第1の実施形態と同じ構成である。本実施形態で選択しうるマグネット制御方法には、単純揺動制御と3マグネット揺動制御の2種類がある。制御選択ユニット25でどちらかが選択される構成は第1の実施形態と同様である。なお、スパッタリング装置101は、第1の実施形態のスパッタリング装置100にスパッタユニット10cを追加した構成として描かれているが、4つ以上のスパッタユニットを備えていてもかまわない。
【0055】
単純揺動制御は、3つのマグネットをそれぞれ単純揺動制御するものであり、上述した第1の実施形態でのマグネット7の動きと同様であるためその詳細な説明は省略する。3マグネット揺動制御は上述の2マグネット制御方法とはマグネットの動きが異なるものである。3マグネット揺動制御の制御方法は3つのマグネットと基板搬送装置を連動させて動作させて、搬送方向の膜厚を均一にするものである。以下に、3マグネット揺動制御によるスパッタ成膜方法について説明する。
【0056】
図15に3マグネット揺動制御でのマグネットの動きの例を、
図16にそのときのマグネットの速度線図を示す。このときのマグネット7と基板の位置関係の模式図を
図17(A)〜(C)に示す。この例ではマグネット7の往復移動のストロークL(片道)は100mm、往復移動の周期Tは9秒としている。
図15のグラフの縦軸は基板搬送位置であり、マグネット7の中心位置がカソード6の中心位置と重なる位置を0mmとして、また、基板搬送方向である順方向を正に逆方向を負に表している。マグネット7の初期位置は順方向のストローク端である+50mm位置(
図15−17中にP0で示す)である。ここから出発してマグネット7は逆方向に移動しストローク中心である0mm位置(第1所定位置)(
図15−17中にP1で示す)で一旦停止する。ここまでの移動を第1の移動(
図17(A)参照)と呼ぶ。成膜の際、第1の移動の間に基板に成膜される膜を第1の膜という。
【0057】
第1の移動後また逆方向に移動し逆方向のストローク端である−50mm(第2所定位置)(
図15−17中にP2で示す)まで移動して再び停止する。この移動を第2の移動(
図17(B)参照)とよぶ。成膜の際、第2の移動の間に基板に成膜される膜を第2の膜という。次にマグネット7は反対方向の順方向に移動し順方向のストローク端である+50mm位置(第3所定位置、
図15−17中にP3で示す)まで移動して停止する。この移動を第3の移動(
図17(C)参照)とよぶ。成膜の際、第3の移動の間に基板に成膜される膜を第3の膜という。ここまでが1周期分で9秒を要する。第3の移動が終了した後にマグネット7が停止する位置(P3)は第1の移動の開始位置(P0)である。マグネット7は、この第1から第3の移動を所定周期(本実施形態ではT=9秒)で繰り返す。第1、第2、第3の移動の際にそれぞれ停止する時間は等しい。
【0058】
図16は、
図15のマグネットの動きの1周期分の速度変化を表した速度線図である。横軸は時間、縦軸はマグネットのカソードに対する速度V
mcを表し、速度の向きは基板搬送方向である順方向を正に逆方向を負にとっている。また、
図16中でマグネット7が停止(速度がゼロ)する位置には、
図15中の位置に対応する符号(P0〜P3)を記載した。マグネット7は初期位置(位置P0)から逆方向に一定時間等加速度で加速しその後逆方向に等速で移動し、次に逆方向に等加速度で減速し速度はゼロとなり、位置P1で停止する。ここまでの速度線図の形は台形を示している。本実施形態では一般に台形駆動(台形制御)といわれる速度制御を採用している。モーター駆動の制御方法として一般的な方法である。ここまでの速度制御によってマグネットは
図15に示す初期位置(位置P0)の順方向のストローク端の+50mm位置からストローク中心の0mm位置(第1所定位置、位置P1)まで移動したことになる。この後一定時間停止するため速度は0mm/sが保たれる。ここまでが第1の移動である。
【0059】
次にこれまでの速度変化と同様に逆方向の加速、等速、減速の台形駆動と停止を繰り返す。ここまでで
図15に示す逆方向のストローク端から−50mm位置(第2所定位置、位置P2)まで移動したことになる。ストローク中心の0mm位置から−50mm位置までが第2の移動である。次に順方向(
図16では正の速度)に加速、等速、減速の台形駆動と停止(第3所定位置、位置P3)を行う。ただし順方向の等速の速度や等速の時間は逆方向のものと異なる。等速の速度の絶対値は逆方向より小さくなり、等速の時間は長くなる。ストローク中心の−50mm位置から+50mm位置までが第3の移動である。なお本実施形態では、第3の移動を終了した位置(位置P3)は第1の移動の開始位置(位置P0)と一致する。
【0060】
ここまでは任意の1つのスパッタユニット10のマグネット7の動きの例を示したが、
図18に3つのスパッタユニット10a,10b,10cのマグネット7a,7b,7cの動きの例を示す。第1のスパッタユニット10aのマグネット7aが最初に動き出し、周期9秒で動き続ける。第2のスパッタユニット10bのマグネット7bがここでは5秒後に遅れて動き出し、周期9秒で同様に動き続ける。さらに第3のスパッタユニット10cのマグネット7cがここでは10秒後に遅れて動き出し、周期9秒で同様に動き続ける。それぞれのスパッタユニット10のマグネット7はこのように時間をずらして動き続ける。マグネット7b,7cが動き出す時間のずれについては後で説明する。
【0061】
次に3マグネット揺動制御のときのマグネット7の動きの制御について説明する。はじめに本実施形態で基板上の搬送方向の膜厚を均一にするための考え方を説明する。スパッタユニット10のマグネット7は、カソード6の搬送方向の中心位置の前後で往復移動を行う。一方、基板1もマグネット7の往復移動中、搬送方向に一定速度(定速)で移動している。
図19は、任意の1つのスパッタユニット10について、搬送される基板を基準とするマグネット7の相対速度と膜厚を表す模式図である。
【0062】
図19は、基板上の膜厚とマグネット7の速度の関係を説明するための模式図であり、
図19の上段に、基板を基準としてマグネット7の相対的な速度を、マグネット7の基板に対する相対速度V
msとして表し、
図19の下段には、上段の横軸に対応する基板上の位置に形成される膜厚を模式的に表した。
図19の横軸は基板搬送方向の基板上の位置である。なお、実際のスパッタリング成膜装置では基板は、
図19の紙面上の右から左方向に一定速度で搬送されており、ここでは便宜上、基板を固定して見ているためマグネット7は基板に対して常に左から右方向に速度を変えながら移動する。このマグネット7の基板に対する相対速度V
msは
図19では右方向を正にとってグラフにしている。
【0063】
図19中に記載したAおよびBの範囲はマグネット7が基板搬送方向の逆方向に移動している範囲を表し、マグネット7の基板に対する相対速度は比較的速い領域である。Cの範囲はマグネット7が基板搬送方向(順方向)に移動している範囲を表し、マグネット7の基板に対する相対速度は比較的遅い領域である。またA’、B’、C’はマグネット7が停止している領域を示している。各範囲の和、A+A’+B+B’+C+C’が、マグネット7が1周期の往復移動をする間に基板1が進む距離を表している。
【0064】
図19中のAおよびBに対応する基板上の範囲には比較的薄い膜が堆積し、
図19中のCに対応する範囲に対しては比較的厚い膜が堆積する(
図19下側参照)。これはカソード6に供給されるDC電力が一定のためターゲット4から放出されるスパッタ原子の密度が一定であり、またスパッタ原子の放出位置はマグネット7の位置に対応した位置であることによる。したがって基板上にはマグネット7の基板に対する相対速度に反比例した膜厚が堆積することになる。
【0065】
ただし、基板上の膜厚変化はマグネット7の基板に対する相対速度の変化のように急激に変化することはなく
図19の下の図に示すようになだらかに変化する。これはターゲット4から放出されるスパッタ原子はマグネット7の幅程度の領域からスパッタされるので、放出されるスパッタ原子の分布はなだらかであることと、ターゲット4と基板の間の距離をスパッタ原子が飛来する間にある程度広がりを持つためである。
【0066】
ここで重要なことは、A、B、C各範囲に対応して基板上に成膜される基板搬送方向の長さがそれぞれ同じになるようにマグネット7のカソードに対する移動速度と基板の搬送速度を調整されていることである。またA’、B’、C’各範囲に対応して基板上に成膜される基板搬送方向の距離もそれぞれ同じである。成膜される長さ(基板搬送方向の距離)を同じにすることでこの後説明する第2、第3のスパッタユニットによる成膜により積層された後の膜厚を搬送方向で均一にすることができる。
【0067】
図20には基板を基準にして3つのスパッタユニットのマグネット7を見たときのマグネット7の基板に対する相対速度V
msをそれぞれ示す。横軸の基板上の位置は3つのグラフで揃えて示している。第1のスパッタユニット10aのマグネット7aの相対速度V
msは
図19と同じである。第2のスパッタユニット10bのマグネット7bは第1のスパッタユニット10aのマグネット7aに対して基板上の位置でA+A’の距離だけずらして同じ繰り返し移動をしている。第3のスパッタユニット10cのマグネット7cは第1のスパッタユニット10aのマグネット7aの動きに対して基板上の位置でA+A’+B+B’の距離だけずらして同じ繰り返し移動をしている。言い換えると、マグネット7は所定の周期の繰り返し移動をしており、基板を基準とすると、マグネット7bはマグネット7aに対して任意の一方向に1/3周期ずれており、マグネット7cはマグネット7aに対して一方向に2/3周期(又は逆方向に1/3周期)ずれている。
【0068】
このようにすると、
図20中の領域Aに対応する基板上の領域(領域A)は、第1のスパッタユニット10aではマグネット7aと基板の相対速度が比較的速い状態で成膜され、第2のスパッタユニット10bではマグネット7bと基板の相対速度が比較的遅い状態で成膜され、第3のスパッタユニット10cではマグネット7cと基板の相対速度が比較的速い状態で成膜される。
図20中のBとCの領域も同様に、3つのスパッタユニットのうち2つでマグネットとの相対速度は比較的速い状態で成膜され、1つでマグネットの相対速度は比較的遅い状態で成膜されることになる。このようなマグネット7の相対速度で成膜すると各領域には比較的薄い膜が2回、比較的厚い膜が1回成膜される。したがってA、B、Cそれぞれの領域では3つのスパッタユニットにより積層された膜厚は同じとなる。
【0069】
上記ではマグネット7がカソード6に対して等速移動中で相対速度が一定の部分について述べたがA、B、C各領域にはマグネットの加速領域と減速領域が各領域の両端に存在する。この部分も3つのスパッタユニットで考えると2つの比較的相対速度の速い領域と1つの比較的相対速度の遅い領域が同じ基板上の位置で重なるようになっている。このためこの加速領域、減速領域の部分も含めてA、B、Cそれぞれの領域での3つのスパッタユニットにより積層された膜厚は同じとなる。
【0070】
次にマグネット7がカソード6に対して停止した状態で成膜する
図20の領域A’、B’、C’について説明する。領域A’、B’、C’での膜厚は、上述したA、B、Cの領域でのマグネット7が基板搬送方向に移動しているときに基板に成膜される膜厚(比較的厚い膜厚)と、マグネット7が逆方向に移動しているときに基板に成膜される膜厚(比較的薄い膜厚)との中間の膜厚になる。もちろん、領域A’、B’、C’で基板上に成膜される膜厚は同じとなる。3つのスパッタユニットでこの領域A’、B’、C’は同じ膜厚で基板上に3層の積層をされる。後に説明する計算式により得られるマグネット7の動きで制御することで、この領域A’、B’、C’を通って3層に積層された膜厚は、A、B、Cの領域を通って3層に積層された膜厚と同じになることがわかっている。
【0071】
以上が本実施形態の成膜方法及び成膜装置の制御方法の考え方である。すなわちA、B、Cの領域で成膜される基板上の長さを同じにする。A’、B’、C’の領域で成膜される基板上の長さを同じにする。基板上でA+A’の領域で成膜される長さだけ、基板上での成膜位置が進むように、3つのスパッタユニットのマグネット7の動き(位相)をそれぞれずらす。
【0072】
もう少し具体的にいうと、成膜の際、第1の移動の間に基板に成膜される第1の膜と、第2の移動の間に基板に成膜される第2の膜と、第3の移動の間に基板に成膜される第3の膜とはそれぞれ異なるマグネトロンスパッタユニット(ターゲット)によって行われる。このとき、基板搬送速度とマグネット7の移動タイミングを合わせることで、一つのターゲットから成膜された第1の膜と、他のターゲットから成膜された第2の膜と、残りのターゲットから成膜された第3の膜とが基板上で重なるように成膜する。そして、第1,第2,第3の移動のそれぞれでマグネット7が停止しているときに堆積された部分が基板上で重なるように制御される。このような成膜方法により、成膜室100の3つのターゲット4a,4b,4cの前面(下側)を通過した後の基板には均一な厚さの膜が形成されることになる。
【0073】
3マグネット揺動制御も2マグネット揺動制御と同様にマグネットの順方向の速度Vfは基板搬送速度Vtより小さい、つまりマグネットは基板を追い越さないことを前提としている。この条件を満たすためには周期Tに対して以下の式が成り立つことが条件になる。
ここでTsewはマグネットの停止時間、Taccは加速時間Tacc1と減速時間Tacc2の平均、Lはマグネット往復移動のストロークである。
【0074】
制御選択ユニット25での単純揺動制御と3マグネット揺動制御の制御方法の2つの方法の選択方法について説明する。
図21に基板搬送速度Vtに対してとりうる周期Tの範囲を単純揺動制御と3マグネット揺動制御について示した。とりうる周期Tの範囲とは、マグネットの動作に理論的な不都合はなく、基板搬送方向の膜厚が均一にできる範囲である。
図21中の2本の曲線のうち下側の曲線より下の範囲は単純揺動制御で基板搬送方向の膜厚を均一にできる。この範囲では(1)式を満たす。周期Tのとりうる範囲は搬送速度Vtに反比例する曲線より下側となる。
【0075】
図21中の2本の曲線のうち上側の曲線より上の範囲は3マグネット揺動制御でマグネットの動作に理論的な不都合はなく、搬送方向の膜厚を均一にできる。3マグネット揺動制御で周期Tのとりうる範囲は、マグネット7の加減速時間Taccとマグネット停止時間Tsewが小さい場合、搬送速度Vtにほぼ反比例する曲線より上側となる。たとえば搬送速度Vtが33.33mm/s、Taccが0.3秒、Tsewが0.4秒では、周期Tは7.5秒より大きいことが必要である。
【0076】
ただし、3マグネット揺動制御では、周期Tを曲線に近いところに設定するとマグネット7の速度が非常に速くなってしまうので実際には曲線よりやや上側、つまり少し大きめの周期を選択している。たとえば、搬送速度Vt=33.33mm/sでは周期7.5秒が下限であり、このとき、ストロークL=100mmでは逆方向の等速の速度Vbは166.7mm/sとなるが、周期Tを8.5秒とするとVbは78.95mm/sと大幅に小さくできる。
【0077】
このように基板搬送速度Vtが決まると周期Tのとりうる範囲が
図21で示した範囲に設定できる。本実施形態の装置では周期Tのとりうる範囲は、単純揺動制御と3マグネット揺動制御でお互いに重ならない。したがって、基板搬送速度Vtが決まると単純揺動制御と3マグネット揺動制御のどちらかを選択し、その中で許される周期Tを決定することになる。なお、第1の実施形態でも説明したように、周期Tは20秒以下、且つ3秒以上であると望ましい。
【0078】
基板搬送速度Vtは一般には装置構成と必要な成膜の膜厚によって決まる。どのマグネット揺動方法を選択するかは以下のように決まる。
図22に周期Tのとりうる範囲をまとめた模式図を示す。搬送速度Vtがおよそ9mm/s以下では、
図22に示すように3マグネット揺動制御は選択できない。したがって単純揺動制御で適切な周期Tを
図22に示された範囲から選択する。搬送速度Vtがおよそ23mm/s以上では、
図22に示すように単純揺動制御は選択できない。したがって3マグネット揺動制御で適切な周期Tを
図22から選択する。搬送速度でVtがおよそ9mm/sから23mm/sの間では、単純揺動制御でも3マグネット揺動制御でもどちらでも適切な周期Tを選択できる。この搬送速度の範囲でどちらの制御方法を選択するかはその他の要因で総合的に判断される。
【0079】
以上のように基板搬送速度Vtが与えられた場合、
図22から単純揺動制御、あるいは3マグネット揺動制御のうち適切なマグネット揺動方法を選択する。予め定めた基板搬送速度以上(所定速度以上)のときに3マグネット揺動制御を選択する。このときのマグネット往復移動の周期Tは
図22から適切な値を設定する。制御選択ユニット25には、制御方法を選択するためのデータを記憶した記憶部27が接続されている(
図1参照)。制御選択ユニット25は、基板搬送速度と記憶部27内のデータを参照して、より均一な膜厚分布を得られる制御方法を選択するプログラムを有している。基板搬送速度は制御選択ユニット25に接続された搬送制御装置21から入力される。本実施形態の記憶部27には
図22の内容のデータが格納されている。なお、記憶部27は制御選択ユニット25内に設けてもよいし、スパッタリング装置の外部に設けても良い。また、制御選択ユニット25内のプログラムは記憶部27内のデータを参照して最適な周期Tを決定する。
【0080】
図23に基づいて、制御方法を選択するプログラムについて説明する。
3つのスパッタユニット10a,10b,10cを用いる第2の実施形態では基板搬送速度Vtが与えられれば
図22から適切なマグネット制御方法の選択とマグネット往復移動の周期Tを選択することができる。ただし、どちらの制御方法も選択可能な周期Tでは、一義的に周期Tを決定できない。そこで本実施形態では、いずれかを優先的に選択するものとした。例えば、マグネット7の動作が単純な単純揺動制御の制御方法を優先して選択するように設定できる。
【0081】
単純揺動制御の制御方法を選択した場合、周期Tはできるだけ小さい方が基板搬送速度Vtの広い範囲で使用できる。単純揺動制御の制御方法の場合の周期Tは最小の値(例えばT=3秒)を使用することができる。3マグネット揺動制御の制御方法を選択した場合、周期Tはできるだけ大きい方が基板搬送速度Vtの広い範囲で使用できる。3マグネット揺動制御の制御方法の場合の周期Tは最大の値(例えばT=20秒)とできる。
【0082】
図23のフローチャートは上記の考え方に基づいている。マグネット制御方法の選択は、制御選択ユニット25で行われる。すなわち、制御選択ユニット25が基板搬送速度Vtを読み込む(ステップ10)。基板搬送速度Vtが23mm/s以下では単純揺動制御の制御方法を選択し、周期Tは3秒とする(ステップ11)。基板搬送速度Vtが23mm/sより大きいときは3マグネット揺動制御の制御方法を選択し、周期Tは20秒とする(ステップ12)。
【0083】
なお、ここで使用した基板搬送速度Vtの23mm/sは(1)式と(3)式を連立させて解くことで得られる。このように制御選択ユニット25で演算して、適切な制御方法の選択とマグネット往復移動周期Tを決定できる。制御選択ユニット25により選択された制御方法が、マグネット駆動装置11、搬送制御装置21によって実行される。この結果、どのような基板搬送速度Vtに対しても適切なマグネット制御装置22でマグネット7(マグネット駆動装置11)を制御してスパッタ成膜し、少なくとも基板の搬送方向に均一な膜厚の成膜が可能となる。
【0084】
次に、5つ以上のスパッタユニットを使用する際の制御選択ユニット25での選択について説明する。特にスパッタユニットを5つ以上の奇数個、使用する場合は上述した2つの実施形態を組み合わせてマグネットの制御方法(方法)を選択する。具体例として、スパッタ成膜装置で7個のスパッタユニットを用いる場合を説明する。
この場合、7個のスパッタユニットは、2個のスパッタユニットを有するグループ(第2グループ)を2組と、3個のスパッタユニットを有するグループ(第1グループ)1組に分けて考える。すなわち、スパッタユニットを2個有するグループ(第2グループ)では、上述の第1の実施形態に基づいて、単純揺動制御と2マグネット揺動制御の2つの制御方法から適切なものを選択する。2個有するグループは2つあるが、それぞれで制御方法を決定できる。一方、スパッタユニットを3個有するグループ(第1グループ)では、上述の第2の実施形態に基づいて、単純揺動制御と3マグネット揺動制御の2つの制御方法から適切なものを選択する。この方法によれば、各グループで膜厚分布を均一にできる。
【0085】
また、この方法によれば、成膜に使用するスパッタユニットの数が変化しても、制御選択ユニット25で制御方法を切り替えるだけで膜厚分布の均一性を確保することができる。そのため、成膜工程の変更に素早く対応することができる。なお、5つ以上のスパッタユニットを使用する際に制御方法を選択するプログラムは、上述の実施形態と同様、制御選択ユニット25に入力されている。使用するスパッタユニットの数は、成膜プロセスが作業者などから入力されるコントローラーから、若しくは、キーボードやプッシュボタンなどの外部入力装置から制御選択ユニット25に入力することができる。
【0086】
第1の実施形態の2つのスパッタユニットからなるスパッタリング方法と第2の実施形態の3つのスパッタユニットからなるスパッタリング方法を組み合わせることで、5個以上のスパッタユニットを使用するスパッタリング成膜においても搬送方向に均一な成膜が可能となる。任意の数N(Nは5以上)のスパッタユニットを使用する場合は、スパッタユニットを3個有するグループX組と、2個有するグループY組に分けて考え、それぞれのグループで膜厚分布の均一性を確保できる制御方法を選択することで最終的な成膜された膜厚分布にすることができる。例えば、上述のように7個のスパッタユニットを使用する場合、スパッタユニットを2個有するグループ2つと3個有するグループ1つの組み合わせで考え、それぞれのグループで膜厚の均一性を確保すれば全体の膜厚分布を均一にすることができる。
【0087】
図24に基づいて、任意の数のスパッタユニットを使用するときのグループ分けを行うプログラムについて説明する。
図24のフローチャートは上記の考え方に基づいている。すなわち、使用するN個のスパッタユニットを、3個のスパッタユニットを有するグループX個と、2個のスパッタユニットを有するグループY個に分けて、2個のスパッタユニットを有するグループは
図13のフローチャートに従って制御方法を選択し、3個のスパッタユニットを有するグループは
図23のフローチャートに従って制御方法を選択する。このとき、3X+2Y=Nの関係を満たす。
【0088】
任意の数のスパッタユニットのグループ分けは、制御選択ユニット25で行われる。すなわち、制御選択ユニット25が使用するスパッタユニットの数Nを読み込む(ステップ20)。使用するスパッタユニットの数Nが偶数であれば、2個のスパッタユニットを有するグループがN/2セットあると判断する(ステップ21:Yes)。一方、使用するスパッタユニットの数Nが奇数であれば、3個のスパッタユニットを有するグループが1セットと、2個のスパッタユニットを有するグループが(N−3)/2セットあると判断する。その後、2個のスパッタユニットを有するグループについては、上述した
図13のステップ1にジャンプして、それぞれ
図13のフローチャートに従って制御方法を選択される。また、3個のスパッタユニットを有するグループについては、上述した
図23のステップ10にジャンプして
図23のフローチャートに従って制御方法を選択される。
【0089】
なお、本実施形態においては、使用するスパッタユニットの数が4つ以上の偶数の場合(ステップ21:Yes)は、第1の実施形態に基づいて選択された制御方法(方法)が複数の第2グループで実施される。しかし、使用するスパッタユニットの数が3の倍数の偶数であるときは、第2の実施形態に基づいて選択されたマグネットを制御する制御方法(方法)を複数の第1グループで実施するようにしてもよい。例えば、使用するスパッタユニットの数が10の場合は、2組の第2グループと2組の第1グループに分け、それぞれでマグネットを制御する制御方法(方法)を選択してもよいことはもちろんである。
【0090】
本発明に係るスパッタリング装置は、良好な膜厚分布を得ることができる制御方法に簡便に変更できる。特に、複数の種類の成膜を同じスパッタリング装置で行う場合には、その成膜プロセスの搬送速度と使用するターゲット数で最も均一な膜厚を得ることができる制御方法に簡便に変更できることから、多品種の製品を製造することに適したスパッタリング装置を提供することができる。