【解決手段】 津波・高潮などの襲来が想定される特定地域を対象にして襲来に先立って始動される油圧シリンダや電動シリンダなどの直動式シリンダで昇降自在な防護堰を配備してなる。
津波・高潮などの襲来が想定される特定地域を対象にして襲来に先立って始動される油圧シリンダや電動シリンダなどの直動式シリンダで昇降自在な防護堰を配備してなる非常用防護装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
各実施形態で説明する各案は関係する他の実施形態においても適用することができる。
図1ないし
図4は本発明の一実施形態で、例えば、
図1に着陸方向を矢印で示すように各種航空機1が離着陸するような舗装された飛行場2が特定地域の対象とされており、しかもこうした特定地域である飛行場2が海岸線から数十m前後から100m前後と比較的近くて津波(押し波)が同図のX方向から襲来してくることが想定されるような飛行場2がその対象として選択されている。
特定地域としては、例えば、船舶が停泊して人の乗り降りや荷役作業などが行われる岸壁を含む臨海スペースやコンテナ埠頭などがその対象として挙げられる。また、特定地域は、津波が襲来してくることが想定されるならば海岸線から数百mあるいは数km離れたところにあるスペースであってもよい。
【0010】
これらの図において、3は飛行場2の外縁部で幅が5m前後のもので飛行場2内と同様に舗装が施されている。この外縁部3の津波Xが襲来してくるであろう側の2つの側辺には、それぞれ長さ100〜200m前後をなし上からみてL字形をなして非常用防護装置が設置されている。同装置はシール部分などを除いて主にスチールあるいはステンレス、アルミ合金などの金属製でなるが、樹脂などを選択してもよい。
非常用防護装置は、飛行場2のコーナー出隅に相当する個所とその個所から縦方向および横方向にそれぞれ30m程度離れた位置に
図2のように掘削された四角孔が形成されその内部に縦向きの四角な固定ガイド筒5が上向き開放状をなして固定されている。
【0011】
6は上端が閉止された中空四角筒状で高さ12m前後のコーナー配置用および長手配置用の間柱である。これら間柱6は、コーナーおよび長手離間位置に配備した固定ガイド筒4内に水を含むダストシール機能をもってその上端が外縁部3の上面と同一面となるように挿通支持されて平時の待機状態とされるようになっている一方、間柱6内には1本あるは複数本の間柱用直動シリンダ(油圧式)8が設けられている。
このシリンダ8は、その基部が固定ガイド筒4の底板に固定される一方先端が間柱6の上端板に備えたブラケットに連結されており、津波あるいは高潮襲来時の警報に対応する始動指令でシリンダ8が上昇駆動されるとすべての間柱6…が外縁部3の表層面より8m前後立ち上がるように駆動される。9は上からみて四辺枠状をしたシール材で、前記表層面に設けられて平時は固定ガイド筒5と間柱6間を上から密閉することで異物の侵入を阻止するとともに、間柱6が上昇した際にも間柱6の基部外周を通じての異物の侵入を防ぐものである。
【0012】
シリンダ8は電動シリンダその他の直動式シリンダでもよく、また、その駆動源としては商用電源の他にあとで述べる油圧駆動源としての蓄電機能を備えるソーラー発電装置によってもよいしエンジンを駆動源にしてもよい。
シリンダ8の駆動源やポンプ、油圧回路などの作動系は図示を省略するが、例えば、この実施形態の場合、空港管制塔内に始動操作系統が設置される。間柱6と固定ガイド筒4間にはシール材を介在させてもよい。また、間柱6の昇降にはローラーを介して軽く確実に行えるようにすることがある。
【0013】
11はピットで、上からみると幅6mで長さ30m前後の矩形で深さが5m程度の凹所であって外縁部3のコーナーを基準とする隣り合う2辺におけるコーナー配置と長手配置間の固定ガイド筒5の縦穴間および長手配置の固定ガイド筒5の縦穴間にそれぞれ形成され、その上端部は段差部12とされるとともに段差部12を含むピット11内部はその内層が耐震コンクリート施工されている。
13はヒンジで、各段差部12の飛行場2側の側縁部内に固定され、このヒンジ13を介して防護堰14を開閉自在に備える。防護堰14は、段差部12内寸法に対応した堰本体15とその底面に一体化した矩形枠状をした底枠16と補強枠17などで対津波タイプとして形成されている。防護堰14は前後幅が6mより少し長く横幅が31m前後とされている。この防護堰14は中空型で浮力を発生させるものにしてもよい。
【0014】
20は堰用直動式シリンダであり、同シリンダ20は、
図3に示すように、クレビス型で、ピット11の内底に固定した受台21に基部が固定される一方先端側であるロッド22のボスがブラケット23を介して防護堰14側に連結されている。シリンダ20は平時には
図3の実線のように短くされることにより防護堰14を水平に保つとともに堰シール材24の機能によりピット開口を密閉状態に保つようにする。防護堰14が平時に低い水平姿勢とされることで飛行に影響を与えない。一方、津波警報が出されて非常用防護装置の始動指令がなされると、間柱用直動式シリンダ8が堰用直動式シリンダ20よりも先に始動される場合と、両シリンダ8,20が同期に始動される場合とがある。間柱6には、
図4のように、スリット25内に収まったストッパ26を備えており、このストッパ26が間柱6の上昇に伴い外方へ自重により突き出すようになっている。なお、
図3のTは津波の襲来の想定高さ5m前後とされ、立ち上がる防護堰14は6m前後とされる。
【0015】
従って、間柱6の上昇とともに引っ込み状態のストッパ26が回転して突き出すようになっているがその突き出しが上昇してくる防護堰14よりも上側においてなされるようにすることが間柱6と防護堰14の上昇運動の好ましいタイミングである。すなわち、間柱6と防護堰14とが同時に上昇すると防護堰14の下側にストッパ26が突き出してくるのでストッパ26は機能しなくなるので適切でなく、間柱6が少なくとも少しの時間先に上昇を開始してストッパ26を先に突き出させておきそのあとを追う形で防護堰14が上昇してストッパ26に当たって停止するように構成されるのが好ましい。
【0016】
ストッパ26は、平時は仮想線のように固定ガイド筒5の中にあって待機していて間柱6の上昇につれて自重により突き出すようになっているが、
図4のようにバネ27により積極的に突き出すようにしてもよい。28はストッパ軸である。ストッパ26と併せてあるいはストッパ26を省略して
図3のようなリンクチェーン、ワイヤロープなどの牽張材29により別のストッパ手段を構成してもよい。牽張材29は1枚の防護堰14に対し複数本でもよい。
防護堰14の両側には、間柱6の側面に接触しながら上昇し遮蔽状態を保つための弾性質のサイドシール材31が設けられている。
【0017】
前記ピット11は、
図3に実線で示すように5m前後の中程度に深いものにして津波流を一旦そこに落とし入れるようにしてその中にあとからくる津波が混流化して流れ全体が防護堰14前で大きく減衰化されるようにしてあるが、
図3の仮想線のように10ないし15m前後の深いものにすればより大きな減衰効果が得られるようになる。
【0018】
一方、
図3の左下欄に示すように前記ピット11の底面11aを防護堰14に近くなるような浅いものにして底面11a上へのガレキの堆積が少なくなって除去作業が簡略で復旧が早く行えるようにしてもよい。この場合、シリンダセット穴33を形成してその中にシリンダ20を入れて穴シール34で密閉式にするとともに先端トラニオン型支持にすることができる。なお、防護堰14と底面11aとの間には侵入阻止材40を介装してもよく、この場合、阻止材40は防護堰14あるいは底面11aのいずれかの側に装備される。前記シリンダセット穴33は、
図3の左上欄に示すように、シリンダ20の直径よりも2〜5倍の幅Wをもってスリット溝状に形成したものにしてもよく、この場合他の部分は防護堰14の厚みに対応する程度の浅床状にすることにより防護堰14が上昇したあとの前方にガレキが堆積してもその堆積量が復旧しやすい浅いものになるようにしてもよい。
【0019】
また、シリンダ20は始動が遅れてその上昇途中の低い段階で津波流Xが襲来するようなことがありその際シリンダ20が勝手に停止してしまうようなことがあると防護堰14が低い状態で途中停止して津波流Xが越え易くなって飛行場2への進入が早まって被害が拡大してしまうことが想定されるが、
図3の右下欄に示すように、一次側にメータイン36を二次側にカウンタバランス弁37を付属装備しておくことにより防護堰14への津波流Xの負荷により二次側の内油が抜けて防護堰14は津波流Xにより容易に押し上げられて抵抗なく大きく立ち上がり津波流Xを効果的に堰き止めることができることから被害の拡大を抑えることができるものである。
【0020】
このようなカウンタバランス弁37による方式の他、
図3の右上欄に示すように、ロッド22のボス22aが一方向から嵌り込むコの字形ボス受38を防護堰14の底面に備えておき、防護堰14が中途角度まで上がった状態で津波流Xが襲来すると防護堰14に上昇負荷が掛ってボス受38がボス22aから抜けて防護堰14を勝手に持ち上げさせるようにする簡易な構成にしてもよい。この場合、ボスとはロッド22の先端部あるいは先端部に装備した先端部材のことを指す。例えば、ボス22a側をボスの軸としそれに対しボス受3を軸受(例えば、下向き開放状の溝を有するもの)として構成する場合もある。防護堰14は津波流Xの襲来前であるとボス22aがボス受38内に嵌ったまま上昇駆動されるものである。前記ボス22aは、防護堰14側にボス受38はロッド22側に設けることもある。前記カウンタバランス弁37を付属するシリンダ20の先端に
図3の右上欄のようなボス22aとボス受38との離脱機構を組み合わせて構成して防護堰14の立ち上がりをより確実化するようにしてもよい。防護堰14はストッパ手段で起立角度が一定になるようにする。
前記防護堰14(堰本体15)は、
図3の右上欄の模式図および右下欄の断面図に示すように、中空型に形成して浮力を発生できるようにしておけば津波流Xによる浮上作用を確実に得ることができる。この場合、防護堰14の先端内部や全体内部には発泡スチロールなどによる浮体18を充填しておけば堰本体15が破損して内部に浸水があっても浮力発生機能を維持することができる。
【0021】
前記防護堰14の上面には、
図1の右欄に示すように、直接あるいは設置架台を介して間接的にソーラーパネル39を設置してもよい。ソーラーパネル39をから得られる電源は蓄電タイプにしてシリンダ8,20の駆動・制御用とされる。
前記防護堰14の堰本体15は、
図3のように孔なしの全面板状のものであったが、
図1の下欄最左位置に示すように、下半部が全面板状で上半部が多孔状aをなすものにしたり、その右側位置に示すように、全面が多孔状aをなすものにすることができ、またその右側位置に示すように、下半部が全面板状で上半部が網状bをなすものにしたりさらに右位置に示すように、全面が網状bをなすものにしてもよい。これらは過大な負荷を軽減する一方において津波流Xの減衰作用や漂流物の捕捉作用も確実になし得るものである。
間柱6の寸法は上からみて防護堰14の幅(6m前後)と略同様の寸法の四角柱殻形をなすものにしてもよい(
図5の仮想線参照)。
【0022】
図5および
図6は他の実施形態を示す。この実施形態は、防護堰14用のシリンダ20とそのピット11のない簡略な構成にして津波襲来前にシリンダ8により上昇駆動される間柱6の動きに連れて防護堰14が上昇するようにリンクチェーンやロープなどの連動材44を間柱6と防護堰14間に張設してなるものである。シリンダ20とピット11を省略したことによりヒンジ13で支持された防護堰14を水平に収める凹所43を防護堰14の厚みに対応する程度の浅いものにして外縁部3に形成することで前記ピット11のように内部に雨水やごみなどの異物が多量に侵入するおそれがないようにして津波などの襲来時のように非常時に作動が確実化するようにした。防護堰14の端部には
図6のようなストッパ軸45を備えて間柱6の端部に当たって起き上がりが止まるようにしてあるが、
図4のようなストッパ方式にすることもできる。防護堰14の底面内には前記侵入阻止材40のようなものを付してもよい。前記防護堰14は中空型にして浮力を発生できるようにしておけば途中で連動材44が切れたりしても津波流Xの力を利用して積極浮上することができる。
【0023】
図7および
図8は他の実施形態を示す。
図1ないし
図4に示すものは、津波流Xの襲来してくる側に対し後側を支点にして前側が立ち上がるタイプ(前上がりタイプ)であったが、
図7および
図8に示す実施形態は、前側を支点(ヒンジ13)にして後側が立ち上がる後上がりタイプになっている。この実施形態では
図1ないし
図4に示す実施形態と基本構造は同じであるので同じ符号を付して説明に代える。コーナー位置の間柱6に隣合う防護堰14,14を共に後上がりタイプにすることができたのは、間柱6の側辺長さを防護堰14の幅と同等あるいはそれ以上の長いものにしたことによる。間柱6の側辺長さを
図1のように短い1m前後にすると隣合う防護堰14,14の幅を3mとした場合に互いに干渉する関係になって配置できなくなる。
尚、
図8の左下欄に示すように、防護堰14は中空型にして浮力体とすることがあり、その場合、堰本体が破損してもその浮力作用を発揮し得るように内部に浮力質材14aを一方部あるは全体に装填することができる。
【0024】
この実施形態の場合も、
図3の左下欄に示すように、ピット11を浅くしたり侵入阻止材40を付属させたりする方式を適用することができる。しかし、この実施形態のようにピット11を数mと深目にしておくと、防護堰14を越えた津波流Xはピット11内に流れ込み、あとで襲来した津波流Xがそのピット11内の乱流内に混流して減衰されることになって飛行場2の方向へ流れる津波流速度および威力を低減させる作用がある。なお、
図8に示す48は飛行場2近くの岸壁で飛行場2の外縁部3から直ぐ近くであったり数百〜数km遠くのこともあるが、いずれにしても飛行場2まで津波流Xの襲来が想定されることが条件とされている(以下同じ)。
【0025】
図9および
図10は他の実施形態を示す。この実施形態は、
図1ないし
図4に示す前上がりタイプのものと後上がりタイプのものとを適宜組み合わせて配列構成したものである。この実施形態では、コーナー位置の間柱6に隣接する防護堰14,14について前上がりタイプが採用されているが、
図7に示すように後上がりタイプとし、それに隣合う防護堰14を前上がりタイプとすることもある。
尚、防護堰14は中空型にすることもある。
【0026】
図11ないし
図14は他の実施形態を示す。この実施形態は、コーナー位置と長手位置にシリンダ8により昇降可能に配した間柱6…の間にピット11が形成されるとともに、このピット11はその上端開口に段差部12とストッパ部50が形成され、段差部12には津波流Xに対し後側となる個所にヒンジ13を備えたものになっている。防護堰14は、ヒンジ13に平行な2本の基部横フレーム51と扇形に開く頂点にあるように平行に設けられた先端横フレーム52,53を備えるとともに、基部横フレーム51と先端横フレーム52,53間を側端および側端間においてそれぞれつなぐ縦フレーム54および先端横フレーム52,53相互間を側端および側端間において円弧状につなぐ周フレーム55とを備え堤防全体が横からみて扇形フレームをなし横に20ないし30m前後の長いフレームをもつものとされている。これらは本体フレームであり、その上面には上面板57がまた扇状の前面には湾曲状の前面板58が密閉式に取り付けられている。59は堰シール材である。
【0027】
60は堰用直動式シリンダで、ピット11内に基部が固定されるとともに先端ロッドは縦フレーム54に連結されて津波の襲来が警告されたあとシリンダ60が始動されると前上がり式に立ち上がり、先端横フレーム53がストッパ部50に当たって止まることにより大きく立ち上がった姿勢を保つことになり、これにより、あとで来る津波流Xを防護堰14の前面板58が堰き止めるとともに津波流が防護堰14を越えるようなことがあってもそれを減衰して飛行場2の奥方まで至りにくくする。前面板58が何らかの理由で破壊されるようなことがあっても後の上面板57が堰き止めることになる。ピット11内には前方にさしかかる津波流Xが連通路63を通じて導かれるようにしておくと、前面板58に前方から津波流Xや漂流物が衝突してきても防護堰14の内部に導かれる津波流による抵抗によって破壊されにくくなる。なお、シリンダ60を省略する場合、間柱6と防護堰14間を連動材61でつないで間柱6の上昇とともに防護堰14が上昇するようにしてもよい。
図14の62は側部シール材である。前記防護堰14は前上がりタイプにしてあったが、後上がりタイプにしたり、前上がりおよび後上がりタイプの併合式にしてもよい。また、ピット11は、
図12に仮想線で示すように、防護堰14の扇形に対応する扇形の底断面形状となるように形成すれば平時において侵入物が少なく抑えられる。
尚、他の実施形態として、
図12の右上欄に示すように、上面板a・下面板b・前面板cの3面と左右両側面dを備え適宜内部補強枠を備えて側面扇形をした中空体を防護堰14として上面板aの先端部がストッパ部eに上から密閉状に当たるようにしてピット11内にやや底を浮かせた状態でヒンジ13で支持し、ピット11内に津波流Xあるいは給水設備からの給水を連通路63を通じて可能にして下面板bがストッパ部eに当たるまで防護堰14を浮上させるようにすることで非常用防護装置を構成したものである。この装置はシリンダなどの駆動手段を浮力手段で構成したので構造が非常に簡略なものとなる。
【0028】
図15および
図16は他の実施形態を示す。この実施形態は、海岸から近い飛行場2やコンテナ埠頭などに津波流Xが襲来して損害を受けないようにした非常用防護装置についてのもので、66は2か所に離れて設置されたRC製固定堤防で、基盤67に固定されて立ち上がっており、これら固定堤防66,66は離れた関係ではあるが直交する線上に配置されている。固定堤防66の各内側部には、収納ポケット部68が設けられているとともに2段階に伸縮する押出シリンダ69が内部中央に横置き式に固定されている。70は間柱で、収納ポケット部68,68の延長線上の交差点に配置されて非常時に始動される間柱用直動式シリンダ71により垂直に立ち上がるようになっている。
【0029】
73は基盤67に形成された2条のローラー溝で、これらの溝73に沿ってローラー74が移動するようにして伸縮運動可能な可動堤防75が大小3段階に重なり合う形で設けられている。76は堤防ストッパで、水平方向に伸びた可動堤防75の前後に出没可能に設けられて津波流Xから可動堤防75の転倒を防止するものである。
尚、前記押出シリンダ69に代えて
図17に示すように、可動堤防75の最も先行するものを押出運動させる無端押出装置78によって非常用防護装置を構成してもよい。可動堤防75は同図上欄のように前後が連鎖的に係合するものにする。
【0030】
図18および
図19は他の実施形態を示す。この実施形態は、基盤81に形成された前後幅5m・左右幅30mで深さ3mのピット82の上開口に段差部83を形成してこの段差部83内に後部のヒンジ84により支持された堰基体85を密閉可能な形で取り付け、この堰基体85を
図19に示すように左右両端をU字形に折り曲げ平時に下向きとなる側を大きく開放状とするとともにヒンジ84側とは反対の先端側を開放状としたフレーム体として形成して堰シリンダ86によりやや後倒れ状となるまで立ち上がり可能に構成してある。ピット82は、
図18の仮想線のように浅底82aにしてシリンダ穴82b内に堰シリンダ86を揺動可能な範囲で挿通した形にするとガレキが浅底82a上のピット内に溜まったとしても直ぐに除去できて復旧が早期にできるようになる。
【0031】
堰基体85の内部には、中空体でなる浮上体88が挿通され、この浮上体88は、その前面に備えた複数段の受羽根89に矢印のように津波流Xが当たることにより浮力とともに上昇させられる。すなわち、堰基体85は想定高さTよりも高い高さH1とされているので津波流Xを受け止めて安全であるが、想定を超えた高さTxの津波流が襲ってきた場合でも浮上体88がさらに1段階上昇するので津波流を阻止し安全となる。なお、浮上体88が一定の高さに止まるのは、
図18の右上欄に示すように、浮上体88の背面に突設したストッパ90が堰基体85に形成した長孔91内を移動・停止することができるようにしたことで可能になった。また、堰基体85を後倒れの状態で停止させるのは、シリンダ86およびリンクチェーンやワイヤなどの牽張材92である。この牽張材92は複数本にしたりメッシュワイヤにすることがある。
【0032】
この実施形態は、堰基体9の前後幅程度の短い装置および設置面積でありながらH1+H2のように高い防護堰を形成することができるので、前記のように想定高さがTでなく異常に高いTxになったとしてもそれに対応することができる点で有利である。尚、シリンダ86を複数段式にして先端を浮上体88に連結しておくことにより浮上体88を内部に備えた状態の堰基体85が立ち上がり、そのあとで堰基体85から浮上体88が押し出されるように構成してもよい。
シリンダ86には
図3右下欄のようにカウンタバランス弁を付属させたり右上欄のように離脱機構を構成したりすることがある。
【0033】
図20および
図21は提案例を示すもので、この例は、海岸線あるいは海岸より少し沖合に設置される防潮堤、防波堤などの堤防100に付設されて津波(押し波X・引き波Y)や高潮などの襲来に対するものとして構成された非常用防護装置についてのものである。堤防100以外に接岸可能な岸壁など広く臨海構造物を対象に構成することもできる。
【0034】
堤防100は新設と既設のいずれでもよく、この堤防100の上面前後間には、長手方向に複数の軸受体101が配列されている。軸受体101は、それ自体は上下分割型で止着具により合体化できるとともに全体としては上アンカー102を介して堤防100側に固定されるものである。103は前後幅が3m、左右幅が15m前後の矩形でかつ厚みが30cm前後の中空型で浮上可能な防護堰であり、その先端内部には発泡スチロールなどの浮上質材104が充填装備されているとともに、基部両端には支点軸105が突設されて合体される軸受体101により堤防100上に少しの隙間を置いて回転自在に支持されている。
【0035】
少しの隙間は堤防100上に点在的に配置される当て板106により形成され、そこに津波流Xが進入して浮力を発生できるようになっている。この隙間は
図21では2〜5cm程度の少ないものであるが、津波流Xが進入しやすいように積極的に10〜15cmの広いものにすることができる。
尚、防護堰103の前端面103aは斜め下向きとされて津波流Xによる下方からの持ち上げ力を受けやすくなっているが、
図21の右上欄のように垂直な面とされていてもよい。また、防護堰103の後端部103bは少なくとも下回りの部分が丸くなって回転に支障がないようになっているとともにその下回りの部分には堤防100上に固定した帯長状の尾部シール材107が密着してそこから津波流Xが抜け出さないようになっている。さらに、防護堰103の尾端上には、防護堰103が持ち上げられて90度起き上がったところで堤防100上に
図21左欄のように当接して止める回転ストッパ108が突設されている。防護堰103の前端上部には、防護堰103の左右幅全体に亘るように長い手摺109が突設されており、この手摺109は図示した前端位置よりも少し後に下がった位置に設けてもよい。また防護堰103の上面には、金属面あるいはメッキ面でなく堤防100と同様な違和感の少ない外見として統一するようにモルタル施工の外装面110を施してもよい。
【0036】
こうした防護堰103を
図21の側面図に示すようにその前半分弱の部分が堤防100から前方へ張り出す形にするとともに
図20のように堤防100の長手方向に少しの間隔を置いて1列に並ぶように軸受体101で回転自在に固定配備してある。そして、前記少しの間隔には、防護堰103の左右両端に備えた側部シール材112を密接するようにして配備してある。こうした防護堰103…は、前アンカー113により中間トラニオン式に堤防100の前面に支持された直動式シリンダ114により立ち上がり駆動されるようになっている。
【0037】
非常用防護装置は、平時は
図20および
図21のように、シリンダ114が短縮されて防護堰103が水平で前部が張り出した形として固定待機される。津波流Xの襲来が警報されると直動式シリンダ114が始動制御されて防護堰103は垂直な防護態勢とされる。津波流Xが押し波として襲来してくると、最早垂直な防護態勢に入っている防護堰103によって防護され、漂流物もこの防護堰103によって捕捉されて陸側にまで持ち込まれるおそれが少なくなり、津波流Xが防護堰103を越えるようなことがあっても津波流Xは減衰されて弱まった形になってしかも襲来時間を遅らせることができるようになる。
手摺109は
図21に仮想線で示すように垂直姿勢の防護堰103の上端から陸側へ向けて水平に伸びることになるので引き波Yに伴う漂流物が防護堰103を越えて海洋に流出されるのを阻止する。
【0038】
防護堰103は堤防100から前向きに張り出しているので、シリンダ114の始動が遅れてその作動途上で津波流Xが襲来してしまった場合でも
図21の矢印のように防護堰103を持ち上げるように作用し、さらに中空状であることから防護堰103は浮力が作用して持ち上げられることになって垂直態勢に持ち込まれる。尚、
図21の右下欄に示すように、一次側にメータイン116を二次側にカウンタバランス弁117を付属装備しておくことにより防護堰103への津波流Xの負荷により二次側の内油が抜けて防護堰103は津波流Xにより容易に押し上げられて抵抗なく大きく立ち上がり津波流Xを効果的に堰き止めることができることから被害の拡大を抑えることができるものである。このようなカウンタバランス弁117による方式の他、
図21の右上欄に示すように、ロッド118のボス119が一方向から嵌り込むコの字形ボス受120を防護堰103の底面に備えておき、防護堰103が中途角度まで上がった状態で津波流Xが襲来すると防護堰103に上昇負荷が掛ってボス受120がボス119から抜けて防護堰103を勝手に持ち上げるようにする簡易な構成にしてもよい。
【0039】
図22は
図20および
図21の提案例と同様に防護堰103が平坦な堤防100の上面に平行に設けられているなどの点で同じ内容の提案例であるが、特に異なるところは堤防100の前部に斜め下向きのシリンダ穴123を形成してシリンダ114をその中に挿通装備してある点である。シリンダ114を保護することができる。124はリンクチェーンなどの牽張材である引きストッパである。
【0040】
図23は堤防100の上部前半部分が低くなった段差部100aとされ、その段差部100a内に防護堰103が装備された実施形態である。シリンダ114は堤防100の前面外部に設けられているが、
図24に示すようにシリンダ穴123内に装備したものにしてもよい。
【0041】
図25および
図26は他の提案例を示し、この例は、堤防126の前面には前後面および上端が開放状になったガイド枠127が取り付けられているとともに、このガイド枠127内にはシリンダ128により上方へ伸びるような補助防護堰129が装備されている。補助防護堰129は浮上力が発生するように中空状であるが前面に補助浮上促進板130が設けられていて、シリンダ128が始動しないときあるいは浮上途中のときに前記カウンタバランス弁などの作用で補助防護堰129が勝手に持ち上げられるようにすることで確実に津波流Xや漂流物の捕捉ができるようになる。尚、前記ガイド枠12は、I形鋼である縦枠材と溝形鋼である底枠材との組み合わせで構築されて堤防12前面に取り付けられる。
【0042】
図27は他の提案例を示し、この例は、堤防133上に設けた軸134を支点にして前張り出し式の水平状態から防護立ち上がり状態になるように支持された中空型防護堰135の駆動方式を、堤防133の後側に配置した電動ウインチ136と、支柱137上に備えた固定シーブ138と、防護堰135上に設けた可動シーブ139、およびこれらに掛けられた牽張材140により行うようにしたものである。この方式の場合、電動ウインチ136が地震などの原因で始動しない場合でも防護堰135が浮力で立ち上がるようになっている。尚、防護堰135には立ち上がって支柱137に当たって止まるストッパ141が設けられている。