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特開2015-216095電気化学発光セル及び電気化学発光セルの発光層形成用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-216095(P2015-216095A)
(43)【公開日】2015年12月3日
(54)【発明の名称】電気化学発光セル及び電気化学発光セルの発光層形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   F21K 2/08 20060101AFI20151106BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20151106BHJP
【FI】
   F21K2/08
   C09K11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-186488(P2014-186488)
(22)【出願日】2014年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-87362(P2014-87362)
(32)【優先日】2014年4月21日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100107205
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】米川 文広
(72)【発明者】
【氏名】坂上 知
(72)【発明者】
【氏名】竹延 大志
(57)【要約】      (修正有)
【課題】十分に均一な面発光が得られることによって、高い耐久性を有し得る電気化学発光セルを提供する。
【解決手段】発光層12と、その各面に配された電極13、14とを有する電気化学発光セルにおいて、発光層が、有機高分子発光材料及びイオン液体を含み、イオン液体が下記一般式(1)で表される、電気化学発光セル。

式中、MはN又はPを表す。また、R、R、R及びRは炭素数20までの飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基を表す。Xはアニオンである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層と、その各面に配された電極とを有する電気化学発光セルにおいて、
前記発光層が、有機高分子発光材料及びイオン液体を含み、
前記イオン液体が、下記一般式(1)で表される電気化学発光セル。
【化1】
(式中、MはN又はPを表す。また、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜20を有する飽和脂肪族基、炭素数2〜20を有する不飽和脂肪族基又は炭素数6〜20を有する芳香族環含有基を表す。ただし、R、R、R及びRの少なくとも1つが不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基である。前記飽和脂肪族基、前記不飽和脂肪族基及び前記芳香族環含有基を構成する炭素原子は、ヘテロ原子で置換されていてもよく、前記飽和脂肪族基、前記不飽和脂肪族基及び前記芳香族環含有基中の水素原子は官能基で置換されていてもよい。Xはアニオンである。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、R、R、R及びRの少なくとも1つが前記芳香族環含有基である、請求項1に記載の電気化学発光セル。
【請求項3】
前記一般式(1)において、前記不飽和脂肪族基が、二重結合又は三重結合を少なくとも1つ以上有する直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族炭化水素基である請求項1又は2に記載の電気化学発光セル。
【請求項4】
前記一般式(1)において、前記官能基が、アミノ基、ニトリル基、フェニル基、ベンジル基、カルボキシル基又は炭素数1〜12のアルコキシ基である請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学発光セル。
【請求項5】
前記有機高分子発光材料がポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(フルオレン)、ポリ(1,4−フェニレン)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリ(パラフェニレンスルフィド)、ポリベンゾチアジアゾール、ポリビオチオフィン又はこれらの誘導体若しくはコポリマーである請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気化学発光セル。
【請求項6】
前記一般式(1)において、R、R、R及びRのうち3つが前記飽和脂肪族基であり、1つがアリールアルキル基又はアルケニル基である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学発光セル。
【請求項7】
下記一般式(1)で表されるイオン液体、有機高分子発光材料及び有機溶媒を含有する、電気化学発光セルの発光層形成用組成物。
【化2】
(式中、MはN又はPを表す。また、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜20を有する飽和脂肪族基、炭素数2〜20を有する不飽和脂肪族基又は炭素数6〜20を有する芳香族環含有基を表す。ただし、R、R、R及びRの少なくとも1つが不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基である。前記飽和脂肪族基、前記不飽和脂肪族基及び前記芳香族環含有基を構成する炭素原子は、ヘテロ原子で置換されていてもよく、前記飽和脂肪族基、前記不飽和脂肪族基及び前記芳香族環含有基中の水素原子は官能基で置換されていてもよい。Xはアニオンである。)
【請求項8】
前記一般式(1)において、R、R、R及びRの少なくとも1つが前記芳香族環含有基である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記一般式(1)において、前記不飽和脂肪族基が、二重結合又は三重結合を少なくとも1つ以上有する直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族炭化水素基である請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
前記一般式(1)において、前記官能基が、アミノ基、ニトリル基、フェニル基、ベンジル基、カルボキシル基又は炭素数1〜12のアルコキシ基である請求項7〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記有機高分子発光材料がポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(フルオレン)、ポリ(1,4−フェニレン)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリ(パラフェニレンスルフィド)、ポリベンゾチアジアゾール、ポリビオチオフィン又はこれらの誘導体若しくはコポリマーである請求項7〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記有機溶媒がトルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメチルクロライド、クロロベンゼン又はクロロホルムである請求項7〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記一般式(1)において、R、R、R及びRのうち3つが前記飽和脂肪族基であり、1つがアリールアルキル基又はアルケニル基である、請求項7〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれか一項に記載の組成物を、発光層形成用材料として使用した電気化学発光セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料及びイオン液体を含む発光層を有する電気化学発光セルに関する。また本発明は、電気化学発光セルの発光層形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子とホールをキャリアとして自発光する素子である有機電界発光(有機EL)素子の開発が急激に進展している。有機ELはバックライトが必要な自発光しない素子である液晶素子よりも、薄型化及び軽量化が図れ、視認性に優れる等の特徴を有する。
【0003】
有機ELの素子は、一般に、各々の互いに対向する面に電極が形成された一対の基板と、一対の基板間に配された発光層とを備えている。このうち発光層は電圧が印加されることにより発光する発光物質を含む有機薄膜からなっている。このような有機ELの素子を発光させる場合、陽極と陰極から有機薄膜に電圧を印加して正孔と電子を注入する。このことにより、有機薄膜中で正孔と電子を再結合させ、再結合により生成された励起子が基底状態に戻ることにより発光が得られる。
【0004】
有機ELの素子では、発光層の他に、該発光層と電極との間に、正孔や電子の注入効率を挙げるための正孔注入層や電子注入層、並びに正孔と電子の再結合効率を向上させるための正孔輸送層や電子輸送層をそれぞれ設ける必要がある。このことにより、有機ELの素子は、多層構造となって構造が複雑になり、製造過程が多くなる。また有機ELでは、陽極と陰極に用いる電極材料の選択に仕事関数を考慮する必要があるため制限が多い。
【0005】
これらの問題に対処する自発光素子として、電気化学発光セル(Light-emitting Electrochemical Cells:LEC)が近年注目されている。電気化学発光セルは、一般に塩と有機発光物質とを含む発光層を有する。電圧印加時には、発光層中で塩に由来するカチオン及びアニオンがそれぞれ陰極及び陽極に向かって移動し、これは電極界面における大きな電場勾配(電気二重層)をもたらす。形成される電気二重層は、陰極及び陽極それぞれにおける電子及び正孔の注入を容易にするため、電気化学発光セルでは有機ELのような多層構造が必要ない。また、電気化学発光セルでは陰極及び陽極として用いる材料の仕事関数を考慮する必要性がないことから材料の制限が少ない。これらの理由から、電気化学発光セルは、有機ELに比べて製造コストを大幅に低減できる自発光素子として期待されている。
【0006】
電気化学発光セルに用いられる塩としては、リチウム塩やカリウム塩が一般的である。これらの塩は有機溶媒等に溶解されて用いられている。しかし、リチウム塩やカリウム塩等は有機溶媒が揮発した場合にイオンの移動性が低下する問題があった。この問題等を考慮して、不揮発性の塩であり、固体電解質と比較すると電界による再配向速度が速いイオン液体を用いる試みがなされている。これまでにイオン液体を用いた電気化学発光セルの製造例が複数報告されている(特許文献1及び2並びに非特許文献1)。
【0007】
従来、イオン液体については、カチオンがアンモニウムイオンやピリジウムイオン、イミダゾリウムイオン等の窒素系カチオンが原料の入手容易性等から広く研究されている。このため、電気化学発光セルを含め、イオン液体を用いる電気デバイスにおけるイオン液体としては窒素系のものを用いることが技術常識となっている。例えば、特許文献1及び2並びに非特許文献1に記載されたイオン液体におけるカチオンは、アンモニウムイオンやイミダゾリウムイオン等の窒素系カチオンである。近年、電気化学発光セルに用いるイオン液体のカチオンとして、4級アルキルホスホニウムカチオンを用いた例も報告されている(非特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−103234号公報
【特許文献2】特表2012−516033号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Qingjiang Sun,“Polymer Light-Emitting Electrochemical Cells for High-Efficiency Low-Voltage Electroluminescent Devices”JOURNAL OF DISPLAY TECHNOLOGY VOL.3 NO.2, JUNE 2007
【非特許文献2】Hyun Jung Lee “Hybrid organic-inorganic light-emitting electrochemical cells using fluorescent polymer and ionic liquid blend as an active layer”、APPLIED PHYSICS LETTERS 98, 253309 (2011)
【非特許文献3】Tomo Sakanoue,“Optically pumped amplified spontaneous emission in an ionic liquid-based polymer light-emitting electrochemical cell”Applied Physics Letters、100, 263301(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、イオン液体のカチオンとして特許文献1及び2並びに非特許文献1に記載された窒素系カチオン又は、特許文献2及び3に記載の4つの脂肪族炭化水素基がリン原子に結合してなるホスホニウムカチオンを用いた場合、有機高分子発光材料への溶解性が不十分である等の理由から、均一な面発光が得られない場合があった。この場合、電気化学発光セルにおける発光予定部分の一部に負荷が偏る等の理由から、電気化学発光セルの動作寿命が短くなり、耐久性が低くなりやすいという問題があった。
【0011】
そこで、イオン液体の有機高分子発光材料への溶解性を高めることを本発明者が鋭意検討した結果、イオン液体のカチオン部の正電荷を打ち消して、その電荷を、中性分子である有機高分子発光材料に近づけることが有効であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
イオン液体のカチオン部の正電荷を打ち消す方法ついて本発明者は鋭意検討した結果、カチオン部の側鎖炭素数を増やすことで構造的に正電荷を包み込み、より大きな分子として用いればよいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、発光層と、その各面に配された電極とを有する電気化学発光セルにおいて、
前記発光層が、有機高分子発光材料及びイオン液体を含み、
前記イオン液体が、下記一般式(1)で表される電気化学発光セルを提供するものである。
【0014】
【化1】
(式中、MはN又はPを表す。また、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜20を有する飽和脂肪族基、炭素数2〜20を有する不飽和脂肪族基又は炭素数6〜20を有する芳香族環含有基を表す。ただし、R、R、R及びRの少なくとも1つが不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基である。前記飽和脂肪族基、前記不飽和脂肪族基及び前記芳香族環含有基を構成する炭素原子は、ヘテロ原子で置換されていてもよく、前記飽和脂肪族基、前記不飽和脂肪族基及び前記芳香族環含有基中の水素原子は官能基で置換されていてもよい。Xはアニオンである。)
【0015】
また本発明は、前記一般式(1)で表されるイオン液体、有機高分子発光材料及び有機溶媒を含有する、電気化学発光セルの発光層形成用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、十分に均一な面発光が得られることによって、高い耐久性を有し得る電気化学発光セルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態における電気化学発光セルの概略断面図である。
図2図2は、電気化学発光セルの発光機構を示す概念図である。図2(a)は電圧印加前の電気化学発光セルを示し、図2(b)は電圧印加後の電気化学発光セルを示す。
図3図3は、実施例6により得られた電気化学発光セルの発光面を示す。
図4図4は、比較例2により得られた電気化学発光セルの発光面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の電気化学発光セルの好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明するように、本実施形態の電気化学発光セル10は、イオン液体のアニオンとして特定種のものを有する点に特徴の1つを有する。
【0019】
図1に示すように本実施形態の電気化学発光セル10は、発光層12と、その各面に配された電極13,14とを有する。具体的には、電気化学発光セル10は、各々が互いに対向する一対の電極である第1電極13及び第2電極14と、一対の電極13、14間に挟持された発光層12とを備えている。電気化学発光セル10は、電圧が印加されることにより発光され、各種ディスプレイ等として使用されるものである。図1においては、電源として直流電源を用い、第1電極13を直流電源の陽極に接続し、第2電極14を陰極に接続している。しかしながら、第1電極13を陰極に接続し、第2電極14を陽極に接続してもよい。また、電源として直流電源の代わりに交流電源を用いることも可能である。
【0020】
第1電極13及び第2電極14は、透光性を有する透明電極であってもよいし、半透明又は不透明な電極であってもよい。透光性を有する透明電極としてはインジウムドープ酸化スズ(ITO)やフッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの金属酸化物からなるものが挙げられる。また、不純物を添加したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の透明性を有する高分子からなるものを挙げることができる。また、半透明又は不透明な電極としては、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、銅(Cu)、クロム(Cr)等の金属材料が挙げられる。
【0021】
例えば、第1電極13及び第2電極14のうち少なくとも一方を透明電極とすると、発光層12から発せられた光を容易に外部に取り出せるため好ましい。また一方を透明電極とし、他方を不透明な金属電極とした場合、発光層12から発せられた光を金属電極で反射させつつ外部に取り出せるため好ましい。また、例えば、第1電極13及び第2電極14の両方を透明電極としてシースルー発光体としてもよい。また例えば、第1電極13及び第2電極14の両方を高い反射率を有する材質であるAg等からなる金属電極とし、発光層12の膜厚を制御することで、電気化学発光セル10をレーザー発振素子とすることもできる。
【0022】
例えば、第1電極13を透明電極とし、第2電極14を不透明又は半透明な金属電極とした場合、第1電極13は、適切な抵抗率及び光透過性を実現する観点から、例えば10nm以上500nm以下の厚さを有していることが好ましい。また第2電極14は、第1電極13と同様に、適切な抵抗率及び光透過性を実現する観点から、例えば10nm以上500nm以下の厚さを有していることが好ましい。
【0023】
発光層12は、有機高分子発光材料とイオン液体とが混合されてなる。発光層12は固体状及び液体状のいずれであってもよい。発光層12が固体状である場合、一定の形状を維持して、外から加えられる力に抵抗することができる。
【0024】
発光層に含まれるイオン液体は、イオン種でありながら常温(25℃)において液体状態を維持する物質である。上述したように、本実施形態の電気化学発光セル10は、このイオン液体として、カチオンが特定種のものを用いる。
【0025】
具体的には、本実施形態の電気化学発光セル10は、下記一般式(1)で表されるイオン液体を用いる。このことにより、本実施形態の電気化学発光セル10は、十分に均一な面発光が得られるため、耐久性に優れ、かつ高発光輝度を可能にするものとなり得る。また電気化学発光セル10は、化学的安定性に優れるホスホニウムカチオンを用いることができる等の理由から、耐電圧性、耐熱性、耐久性、耐変色性等の面でも優れたものとなる。更に電気化学発光セル10は、経済性に優れるアンモニウム系アニオンを用いることができるため、コストの面でも優れたものとなる。
【0026】
【化2】
(式中、MはN又はPを表す。また、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜20を有する飽和脂肪族基、炭素数2〜20を有する不飽和脂肪族基又は炭素数6〜20を有する芳香族環含有基を表す。ただし、R、R、R及びRの少なくとも1つが不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基である。前記飽和脂肪族基、前記不飽和脂肪族基及び前記芳香族環含有基を構成する炭素原子は、ヘテロ原子で置換されていてもよく、前記飽和脂肪族基、前記不飽和脂肪族基及び前記芳香族環含有基中の水素原子は官能基で置換されていてもよい。Xはアニオンである。)
【0027】
一般式(1)中、R、R、R及びRで表される炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基としては、直鎖状、分岐状、環状の飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基の具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、t−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、t−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、t−オクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロヘキシルメチル基、シクロデシル基等が挙げられる。
【0028】
一般式(1)中、R、R、R及びRで表される飽和脂肪族基は、電荷密度を下げて有機高分子発光材料への溶解性を高める観点、及び有機高分子発光材料へのドープ性能の観点から、炭素数が、2以上16以下であることが好ましく、4以上12以下であることがより好ましく、5以上12以下であることが特に好ましい。特に前記の飽和脂肪族基として、炭素数が前記の範囲である直鎖状のものを用いることが好ましい。
【0029】
一般式(1)中、R、R、R及びRで表される炭素数2以上20以下の不飽和脂肪族基は、二重結合又は三重結合を少なくとも1つ以上有する直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族炭化水素基である。この不飽和脂肪族基の例としては、前述で挙げた各脂肪族基における炭素−炭素間一重結合の1以上を二重結合又は三重結合で置き換えた基を挙げることができ、具体的には、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、1,1−ジメチルアリル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、4−ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基;エチニル基、プロパ−2−イン−1−イル基等のアルキニル基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基、4−メチルシクロヘキセニル基、4−エチルシクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基;アセチレンやブタジエン、イソプロピレンの重合物あるいはそれらの共重合物より成る基等が挙げられる。なお、不飽和脂肪族基がアルケニル基である場合、トランス体及びシス体の両者を包含する。
【0030】
一般式(1)中、R、R、R及びRで表される不飽和脂肪族基は、電荷密度を下げて有機高分子発光材料への溶解性を高める観点、及び有機高分子発光材料へのドープ性能の観点から、炭素数が、2以上12以下であることが好ましく、2以上6以下であることがより好ましい。
【0031】
一般式(1)中、R、R、R及びRで表される炭素数6以上20以下の芳香族環含有基は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族環を1つ又は2つ以上基中に有する炭化水素基である。芳香族環含有基の例としては、芳香族化合物中の芳香族環上の水素原子を1つ除いた基つまりアリール基、及び、前記で挙げた脂肪族基又は不飽和脂肪族基中の1以上の水素原子がアリール基で置換された基を挙げることができる。アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。前記脂肪族基中の1つ以上の水素原子がアリール基で置換された基としては、例えば、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基、4−フェニルブチル基、5−フェニルペンチル基、6−フェニルヘキシル基等が挙げられる。また、これらの基におけるフェニル部位のオルト位、メタ位及び/又はパラ位の水素原子がアルキル基で置換された基、例えばトリルメチル基、1−トリルエチル基、2−トリルエチル基、2−トリルプロピル基、3−トリルプロピル基、4−トリルブチル基、5−トリルペンチル基、6−トリルヘキシル基、キシリルメチル基、1−キシリルエチル基、2−キシリルエチル基、2−キシリルプロピル基、3−キシリルプロピル基、4−キシリルブチル基、5−キシリルペンチル基、6−キシリルヘキシル基等のアリールアルキル基が挙げられる。前記の不飽和脂肪族基中の少なくとも1つの水素原子が前記のアリール基により置換された基としては、前記の不飽和脂肪族基として挙げた各種のアルケニル基中の水素原子の1以上がアリール基で置換されたアリールアルケニル基や、前記の不飽和脂肪族基として挙げた各種のアルキニル基中の水素原子の1以上がアリール基で置換されたアリールアルキニル基等が挙げられる。これら芳香族環含有基(アリール基等)には、該芳香族環含有基に含まれる芳香族環に結合した1以上の水素原子が、前記の脂肪族基又は不飽和脂肪族基に置換されているものも含まれる。前記の芳香族環含有基は、有機高分子発光材料への溶解性及び有機高分子発光材料へのドープ性能の観点から、炭素数7〜14を有するものが好ましく、炭素数7〜11を有するものが更に好ましい。また同様の観点から、前記の芳香族環含有基は、アリールアルキル基であることも好ましい。前記の芳香族環含有基としては、具体的には、フェニル基、ベンジル基、p−トリルメチル基、フェニルエチル基であることが更に一層好ましく、ベンジル基であることが特に好ましい。
【0032】
一般式(1)中、R、R、R及びRで表される飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基及び芳香族環含有基中の炭素原子を置換してもよいヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等を挙げることができる。このようにヘテロ原子で置換された基としては、フリル基、チオフェン基、ピロール基、イミダゾール基等の芳香族複素環基又はこれらが脂肪族基若しくは不飽和脂肪族基に結合した基や、あるいは前述で例示した飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基及び芳香族環含有基中の1以上のメチレン基が酸素又は硫黄原子で置換された基、あるいは飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基及び芳香族環含有基中の1以上のCH基が窒素原子で置換された基等を挙げることができる。
【0033】
一般式(1)中、R、R、R及びRで表される飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基及び芳香族環含有基中の水素原子を置換してもよい官能基としては、ニトリル基、アミノ基、フェニル基、ベンジル基、カルボキシル基、炭素数1以上12以下のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0034】
一般式(1)中、R、R、R及びRは、その少なくとも1つが不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基である。すなわち本発明においては、不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基を少なくとも1つ以上有するアンモニウム系カチオン又はホスホニウム系カチオンから構成されるイオン液体を用いている。不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基を有するアンモニウム系カチオン又はホスホニウム系カチオンのイオン液体を使用することで、本発明の電気化学発光セルは十分均一な面発光を有するものとなる。また本発明の電気化学発光セルは、均一な面発光が可能になることから、発光効率が上がるため輝度の向上にもつながる。この理由は定かではないが、イオン液体のカチオン部の電荷を、比較的大きな構造を有する基である不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基によって包み込む状態とすることで該カチオン部が中性に近づき、そのことに起因して、中性である有機高分子発光材料との混合性が改善するためではないかと本発明者は推測している。
【0035】
また、不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基を有するアンモニウム系カチオン又はホスホニウム系カチオンのイオン液体は、その構造的安定性により耐電圧性が優れたものとなる。このことに起因して、本発明の電気化学発光セルは、上述した均一な発光面が得られることに加えて、耐電圧性にも優れたものとなるため、高寿命化にもつながる。
【0036】
一般式(1)で表されるイオン液体の中でも、R、R、R及びRのうち3つが前記飽和脂肪族基であり、1つが不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基であるイオン液体は、粘度及び融点が低く、耐電圧性等の化学的安定性にも優れるために好ましい。とりわけR、R、R及びRのうち3つが前記飽和脂肪族基であり、1つがアリールアルキル基又はアルケニル基であるイオン液体が好ましい。
【0037】
本発明で用いるイオン液体において、一般式(1)中のXとして表されるアニオンの種類に特に制限はなく、従来電気デバイスに用いられているイオン液体のアニオンを用いることができる。そのようなアニオンとしては、例えば、テトラフルオロボレート(BF)、ベンゾトリアゾレート(N(C))、テトラフェニルボレート(B(C)ヘキサフルオロホスフェート(PF)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(N(SOCF)、ビス(フルオロスルホニル)イミド(N(SOF))、トリフルオロメタンスルホネート(SOCF)、メタンスルホネート(SOCH)、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート((CPF)、トリフルオロ酢酸(CFCOO)、アミノ酸、ビスオキサラトボレート(B(C)、p−トルエンスルホネート(SOCH)、チオシアネート(SCN)、ジシアナミド(N(CN))、ハロゲン、ジアルキルリン酸((RO)POO)、ジアルキルジチオリン酸((RO)PSS)、脂肪族カルボン酸(RCOO)等の各アニオンが挙げられる。これらの中でも、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(N(SOCF)、テトラフルオロボレート(BF)、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、ビスオキサラトボレート(B(C、チオシアネート(SCN)は製造コストが低く、低粘性であり、有機高分子発光材料との混合性がよいという点で好ましい。
【0038】
一般式(1)で表されるイオン液体は例えば、以下のように製造できる。まず、前記のホスホニウム塩のうちアニオン成分がハロゲンであるものは、目的とするホスホニウムカチオンに対応した3級ホスフィン化合物とハロゲン化炭化水素化合物とを反応させて得られる4級ホスホニウムハライドを用いることができる。またアニオン成分がハロゲン以外のものは、前記の4級ホスホニウムハライドとアニオン成分の金属塩とを反応させアニオン交換することにより得ることができる。例えば一般式(1)中のR、R、R及びRのうち3つが飽和脂肪族基であり、残り1つが不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基であるホスホニウムカチオンを有し、アニオン成分がハロゲンであるイオン液体は、前記の3級ホスフィン化合物としてトリアルキルホスフィンを用い、前記のハロゲン化炭化水素化合物として該不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基がハロゲンと結合した化合物を用いることで得ることができる。また、一般式(1)中のR、R、R及びRのうち3つが飽和脂肪族基であり、残り1つが不飽和脂肪族基又は芳香族環含有基であるホスホニウムカチオンを有し、アニオン成分がハロゲン以外であるイオン液体は、前記したアニオン成分がハロゲンであるイオン液体を、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、テトラフルオロボレート(BF)、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、ビスオキサラトボレート(B(C、チオシアネート(SCN)等とアニオン交換することで得ることができる。
【0039】
本実施形態の電気化学発光セル10においては、イオン移動度を確保し、かつ発光層12の製膜性を高める観点から、発光層12におけるイオン液体の比率は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。また発光層12中のイオン液体の含有量は、有機高分子発光材料100質量部に対し、10質量部以上25質量部以下であることが好ましい。
【0040】
発光層12に含まれる有機高分子発光材料は、アニオン及びカチオンがドープされることにより電子及びホールのキャリア体として働くとともに、電子及びホールの結合により励起して発光する。このような有機高分子発光材料としては、各種のπ共役系ポリマーを挙げることができる。具体的には、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(フルオレン)、ポリ(1,4−フェニレン)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリ(パラフェニレンスルフィド)、ポリベンゾチアジアゾール、ポリビオチオフィン等を挙げることができる。またこれらに置換基を導入させた誘導体、及びこれらのコポリマーも、有機高分子発光材料として用いることができる。そのような置換基としては、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のアルコキシ基、炭素数6以上18以下のアリール基、〔(−CHCHO−)CH〕で表される基(ただし、nが1以上10以下の整数である)等を挙げることができる。またコポリマーとしては、前記で挙げたπ共役系ポリマーのうち2種類以上のポリマーの各繰り返し単位を結合させてなるものが挙げられる。コポリマーにおける各繰り返し単位の配列としては、ランダム配列、交互配列、ブロック配列、又はそれらを組み合わせた配列が挙げられる。
【0041】
有機高分子発光材料のこれらの機能を十分に発揮させる観点から、発光層12における有機高分子発光材料の比率は、10質量%以上95質量%以下であることが好ましく、20質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
発光層12は、有機高分子発光材料及びイオン液体以外を含有していてもよい。その他の成分としては、界面活性剤、導電性向上のためのポリマー成分(ポリエチレンオキシド等)、製膜性向上のためのポリマー成分(ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等)、イオン液体以外の塩等を挙げることができる。発光層12における有機高分子発光材料及びイオン液体以外の成分(ただし溶媒を除く)の量は、発光層12全体を100質量部としたときに、90質量部以下とすることが好ましく、60質量部以下とすることが更に好ましく、30質量部以下とすることが特に好ましい。
【0043】
このようにして構成される発光層12の膜厚は、10nm以上200nm以下であることが好ましく、50nm以上150nm以下であることがより好ましい。発光層12の膜厚がこの範囲であると、発光層12から十分かつ効率よく発光を得ることができ、また発光予定部分の欠陥を抑えることができ短絡を防止できる。
【0044】
本実施形態の電気化学発光セル10は、以下の製造方法により製造できる。まず、第1電極13が設けられた基板を準備する。例えば、第1電極13をITOから形成する場合は、例えばガラス基板等の表面に、フォトリソグラフィー法、又はフォトリソグラフィー法及びリフトオフ法を組み合わせて用いてITOの蒸着膜をパターン状に形成することによって、基板の表面にITOからなる第1電極13を形成することができる。
【0045】
次に、有機溶媒にイオン液体と有機高分子発光材料とを溶解して、電気化学発光セルの発光層形成用組成物を調製する。イオン液体と有機高分子発光材料とを効率よく混合する等の観点から、有機溶媒としてトルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメチルクロライド、クロロベンゼン又はクロロホルム等を用いることが好ましい。これらの有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。発光層形成用組成物中のイオン液体と有機高分子発光材料との配合比率(質量比)は前者:後者が1:1〜20であることが好ましい。この発光層形成用組成物を、基板の第1電極13上に、スピンコーティング法等により塗布する。その後、この塗布によって形成された塗膜を乾燥させて有機溶媒を蒸発させ、発光層12を形成する。発光層形成用組成物の調製及び発光層12の形成は、好ましくは水分率100ppm以下の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、この場合の不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等が挙げられる。
【0046】
次に、形成された発光層12に、第1電極13に対向する第2電極14を形成する。この場合、例えば発光層12上に、例えばマスクを介した真空蒸着法等によってアルミニウム(Al)を膜状に蒸着することにより、所定のパターンの電極を形成する。このようにして、発光層12上に第2電極14を形成する。これによって、図1に示す電気化学発光セル10が得られる。
【0047】
本実施形態の電気化学発光セル10は、以下の発光機構により発光する。図2(a)及び(b)に示すように、第1電極13が陽極となり第2電極14が陰極となるように発光層12に電圧が印加される。このことにより、発光層12内のイオンが電界に沿って移動し、発光層12における第1電極13との界面近傍にアニオン種が集まった層が形成される。一方、発光層12における第2電極14との界面近傍にカチオン種が集まった層が形成される。このようにして、それぞれの電極の界面に電気二重層が形成される。これにより陽極である第1電極13近傍にpドープ領域16が自発形成され、陰極である第2電極14近傍にnドープ領域17が自発形成される。そして、これらのドープ領域が高キャリア密度のp−i−n接合を構成する。その後、陽極と陰極から発光層12の有機高分子発光材料に正孔と電子がそれぞれ注入され、i層で再結合する。この再結合した正孔と電子とから励起子が生成され、この励起子が基底状態に戻ることにより光が発せられる。このようにして、発光層12から発光が得られる。所望の波長の光を得るためには、最高被占軌道(Highest OccupiedMolecular Orbital)と最低空軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)のエネルギー差(バンドギャップ)が当該所望の波長に対応する有機高分子発光材料を選択すればよい。
【0048】
本実施形態の電気化学発光セル10によれば、発光予定部分全体を容易に発光させることができる。しかも、発光予定部分全体を発光させ、かつ該発光予定部分の任意の部位が均一な輝度となるように発光させることが容易である。したがって、発光予定部分の全域にわたり均一に負荷が加わるので、耐久性が従来よりも向上する。発光予定部分とは、電気化学発光セル10を平面視したときに、第1電極13、発光層12、第2電極14が全て重なっている平面領域をいう。本実施形態の電気化学発光セル10によれば、発光しない部分の面積が小さく、かつ該発光しない部分が発光予定部分内に散点状に分散しているので、発光予定部分の面積に対する発光部分の面積の割合が同程度である場合、発光しない部分が1か所に集中した状態よりも、均一な負荷が掛かりにくく、また、発光しない部分の欠けが視認しにくいという利点がある。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の例中の特性は下記の方法により測定した。
【0050】
<発光特性>
電気化学発光セルに、第1電極を直流電流の陽極に接続し、第2電極を陰極に接続して、掃引速度1V/secで12Vまで電圧を印加し、発光を目視で確認しつつ、その間の輝度の最高値を発光輝度とした。発光輝度はCS−2000(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。
【0051】
<実施例1>
市販のITO膜付きガラス基板(ジオマテック株式会社製、ITO膜厚200nm)を第1電極13として用いた。
【0052】
有機高分子発光材料としてF8BT(ポリ[(9,9-ジ-n-オクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-alt-(ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール-4,8-ジイル)]、アルドリッチ社製、平均分子量(Mn)=10,000〜20,000)を用い、また、イオン液体として、トリオクチルベンジルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドを用いてこれらの混合溶液を調製した。具体的には、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下で有機高分子発光材料のトルエン溶液(濃度:9g/L)と、イオン液体のトルエン溶液(濃度:9g/L)とを体積比で有機高分子発光材料溶液:イオン液体の溶液=4:1で混合して発光層形成用組成物を調製した。
【0053】
次に、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下でガラス基板の第1電極13上に、前記で調製された発光層形成用組成物をスピンコートにより塗布して乾燥させ、更に50℃のホットプレート上で30分間加熱して有機溶媒を蒸発させた。このようにして、100nmの膜厚からなる固体状の発光層12を形成した。更に、形成された発光層12上に、上述した方法により、30nm厚さのアルミニウム(Al)からなる第2電極14を形成した。このようにして、発光予定部分の面積2mm×2mm角からなる電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0054】
<実施例2>
イオン液体として、トリエチルベンジルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドを用いる以外は実施例1と同じ方法で電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0055】
<実施例3>
イオン液体として、トリブチルベンジルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドを用いる以外は実施例1と同じ方法で電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0056】
<実施例4>
有機高分子発光材料としてPFO−DMP(Poly(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl) end capped with dimethylphenyl)、Luminescence Technology社製)を用い、また、イオン液体として、トリオクチルベンジルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドを用いてこれらの混合溶液を調製した。具体的には、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下で有機高分子発光材料のトルエン溶液(濃度:9g/L)と、イオン液体のトルエン溶液(濃度:9g/L)とを体積比で有機高分子発光材料溶液:イオン液体の溶液=4:1で混合して発光層形成用組成物を調製した。
以後の操作は、実施例1と同じ操作を行い、電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0057】
<実施例5>
イオン液体として、トリオクチルアリルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドを用いる以外は実施例4と同じ方法で電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0058】
<比較例1>
イオン液体として、トリオクチルブチルホスホニウムビスフルオロメタンスルホニルイミドを用いる以外は実施例1と同じ方法で電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
以上の結果から、不飽和結合を有するホスホニウムカチオンを有するイオン液体を用いた各実施例の電気化学発光セル10からは、十分均一な面発光が得られたが、不飽和結合を有しないホスホニウムカチオンを有するイオン液体を用いた各比較例の電気化学発光セル10からは、均一な発光が得られなかった。
【0061】
<実施例6>
市販のITO膜付きガラス基板(ジオマテック株式会社製、ITO膜厚200nm)を第1電極13として用いた。
【0062】
有機高分子発光材料としてSuper Yellow(メルク社製、製品名:PDY−132)を用い、またイオン液体として、トリオクチルベンジルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(日本化学工業株式会社製)を用いてこれらの混合溶液を調製した。具体的には、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下で有機高分子発光材料のトルエン溶液(濃度:9g/L)と、イオン液体のトルエン溶液(濃度:9g/L)とを体積比で有機高分子発光材料溶液:イオン液体の溶液=4:1で混合して、発光層形成用組成物を調製した。
【0063】
次に、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下でガラス基板の第1電極13上に、前記で調製された発光層形成用組成物をスピンコートにより塗布して乾燥させ、更に50℃のホットプレート上で30分間加熱して有機溶媒を蒸発させた。このようにして、100nmの膜厚からなる固体状の発光層12を形成した。更に、形成された発光層12上に、上述した方法により、30nm厚さのアルミニウム(Al)からなる第2電極14を形成した。このようにして、発光予定部分の面積2mm×2mm角からなる電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表2に示す。また、発光面の写真を図3に示す。
【0064】
<実施例7>
イオン液体として、トリオクチルフェニルエチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(日本化学工業株式会社製)を用いること以外は、実施例6と同じ方法で電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表2に示す。
【0065】
<実施例8>
イオン液体として、トリオクチル(4−メチルフェニル)メチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(日本化学工業株式会社製)を用いること以外は、実施例6と同じ方法で電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表2に示す。
【0066】
<実施例9>
イオン液体として、トリオクチルアリルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(日本化学工業株式会社製)を用いること以外は、実施例6と同じ方法で電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表2に示す。
【0067】
<比較例2>
イオン液体として、トリオクチルメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(iolitec社製)を用いる以外は実施例6と同じ方法で電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表2に示す。また、発光面の写真を図4に示す。
【0068】
<比較例3>
イオン液体として、トリブチルオクチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(日本化学工業株式会社製)を用いる以外は実施例6と同じ方法で電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示す結果から、芳香族環含有基を有するアンモニウム系カチオンを有するイオン液体を用いた実施例1の電気化学発光セル10は、図3に示すように十分均一な面発光が得られ、また、各実施例の電気化学発光セル10は、十分な発光輝度が得られるものである。これに対して、芳香族環含有基を有しないアンモニウム系カチオンを有するイオン液体を用いた比較例2の電気化学発光セル10では、図4に示すように均一な発光が得られず、また、各比較例の電気化学発光セル10は、発光輝度も低いものとなった。
【符号の説明】
【0071】
10 電気化学発光セル
12 発光層
13 第1電極
14 第2電極
16 pドープ領域
17 nドープ領域
図1
図2
図3
図4