【課題】本発明は、スイッチングアンプ(D級アンプ)のユニット数を可変にすることにより、出力電力を可変にすることができる電力増幅装置において、電力増幅効率を向上させるとともに、回路規模を小型化させることを目的とする。
【解決手段】本発明は、電力増幅対象の信号を位相変調して、位相変調に応じた位相差を互いに有しデューティー比率がともに50%である2系統の矩形波を出力する位相変調部8と、位相変調部8の矩形波出力をそれぞれ電力増幅する複数の電力増幅部2と、各電力増幅部2の矩形波出力をそれぞれパルス幅変調信号に変換する複数のパルス幅変調信号変換部9と、各パルス幅変調信号変換部9の矩形波出力をそれぞれ帯域制限する複数の帯域制限部4と、各帯域制限部4の正弦波出力を電力合成する電力合成部3と、を備えることを特徴とする電力増幅装置Aである。
各帯域制限部の正弦波出力の位相のばらつきを補償するように、各電力増幅部の矩形波入力、各電力増幅部の矩形波出力、各帯域制限部の矩形波入力及び各帯域制限部の正弦波出力のうち少なくともいずれか一つに対して、遅延処理を行なう位相ばらつき補償部、
をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の電力増幅装置。
前記位相ばらつき補償部は、一の電力増幅部の矩形波入力、一の電力増幅部の矩形波出力、一の帯域制限部の矩形波入力及び一の帯域制限部の正弦波出力のうち少なくともいずれか一つの位相(以下では、「変化位相」という。)を変化させ、他の電力増幅部の矩形波入力、他の電力増幅部の矩形波出力、他の帯域制限部の矩形波入力及び他の帯域制限部の正弦波出力の位相を固定して、前記電力合成部の出力電力を最大にする前記変化位相を設定することにより、他の帯域制限部の正弦波出力の位相に対する一の帯域制限部の正弦波出力の位相のばらつきを補償する
ことを特徴とする請求項3に記載の電力増幅装置。
前記位相ばらつき補償部は、少なくとも3点の前記変化位相における前記電力合成部の出力電力の測定結果に対して、所定の関数のフィッティングを行なうことにより、前記電力合成部の出力電力を最大にする前記変化位相を設定する
ことを特徴とする請求項4に記載の電力増幅装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、電力合成部3は、各電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4の矩形波出力を電力合成する。よって、各電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4の矩形波出力の位相にばらつきがあるとき、電力合成部3で損失が発生し、電力増幅効率が低下する。また、従来技術では、帯域制限部4は、電力合成部3の矩形波出力を帯域制限する。よって、帯域制限部4は、幅広い可変の出力電力に対応する必要があり、大型化される。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本発明は、スイッチングアンプのユニット数を可変にすることにより、出力電力を可変にすることができる電力増幅装置において、電力増幅効率を向上させるとともに、回路規模を小型化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、複数の帯域制限部は、各電力増幅部の矩形波出力をそれぞれ帯域制限し、電力合成部は、各帯域制限部の正弦波出力を電力合成する。
【0008】
具体的には、本発明は、電力増幅対象の信号を位相変調して、位相変調に応じた位相差を互いに有しデューティー比率がともに50%である2系統の矩形波を出力する位相変調部と、前記位相変調部の矩形波出力をそれぞれ電力増幅する複数の電力増幅部と、各電力増幅部の矩形波出力をそれぞれパルス幅変調信号に変換する複数のパルス幅変調信号変換部と、各パルス幅変調信号変換部の矩形波出力をそれぞれ帯域制限する複数の帯域制限部と、各帯域制限部の正弦波出力を電力合成する電力合成部と、を備えることを特徴とする電力増幅装置である。
【0009】
また、本発明は、電力増幅対象の信号をパルス幅変調するパルス幅変調部と、前記パルス幅変調部の矩形波出力をそれぞれ電力増幅する複数の電力増幅部と、各電力増幅部の矩形波出力をそれぞれ帯域制限する複数の帯域制限部と、各帯域制限部の正弦波出力を電力合成する電力合成部と、を備えることを特徴とする電力増幅装置である。
【0010】
この構成によれば、電力合成部は、各帯域制限部の正弦波出力を電力合成する。よって、各帯域制限部の正弦波出力の位相にばらつきがあっても、従来技術と比較して、電力合成部で損失が発生せず、電力増幅効率が向上する。また、この構成によれば、複数の帯域制限部は、各電力増幅部の矩形波出力をそれぞれ帯域制限する。よって、各帯域制限部は、従来技術と比較して、幅広い可変の出力電力に対応する必要がなく、小型化される。
【0011】
また、本発明は、各帯域制限部の正弦波出力の位相のばらつきを補償するように、各電力増幅部の矩形波入力、各電力増幅部の矩形波出力、各帯域制限部の矩形波入力及び各帯域制限部の正弦波出力のうち少なくともいずれか一つに対して、遅延処理を行なう位相ばらつき補償部、をさらに備えることを特徴とする電力増幅装置である。
【0012】
この構成によれば、位相ばらつき補償部は、各帯域制限部の正弦波出力の位相のばらつきを補償する。よって、各帯域制限部の正弦波出力の位相にばらつきがあっても、従来技術と比較して、電力合成部で損失がほとんど発生せず、電力増幅効率がさらに向上する。
【0013】
電力増幅前にパルス幅変調する場合と比べ、電力増幅後にパルス幅変調する場合には、デューティー比率がともに50%である2系統の矩形波に対する遅延処理が容易である。
【0014】
また、本発明は、前記位相ばらつき補償部は、一の電力増幅部の矩形波入力、一の電力増幅部の矩形波出力、一の帯域制限部の矩形波入力及び一の帯域制限部の正弦波出力のうち少なくともいずれか一つの位相(以下では、「変化位相」という。)を変化させ、他の電力増幅部の矩形波入力、他の電力増幅部の矩形波出力、他の帯域制限部の矩形波入力及び他の帯域制限部の正弦波出力の位相を固定して、前記電力合成部の出力電力を最大にする前記変化位相を設定することにより、他の帯域制限部の正弦波出力の位相に対する一の帯域制限部の正弦波出力の位相のばらつきを補償することを特徴とする電力増幅装置である。
【0015】
この構成によれば、位相ばらつき補償部は、電力合成部の出力電力を最大にする変化位相を設定することにより、各帯域制限部の正弦波出力の位相のばらつきを補償する。よって、各帯域制限部の正弦波出力の位相にばらつきがあっても、従来技術と比較して、電力合成部で損失がほとんど発生せず、電力増幅効率がさらに向上する。
【0016】
また、本発明は、前記位相ばらつき補償部は、少なくとも3点の前記変化位相における前記電力合成部の出力電力の測定結果に対して、所定の関数のフィッティングを行なうことにより、前記電力合成部の出力電力を最大にする前記変化位相を設定することを特徴とする電力増幅装置である。
【0017】
この構成によれば、位相ばらつき補償部は、少なくとも3点の変化位相における電力合成部の出力電力に対してフィッティングを行なうことにより、電力合成部の出力電力を最大にする変化位相を設定する。よって、各帯域制限部の正弦波出力の位相にばらつきがあっても、従来技術と比較して、電力合成部で損失がほとんど発生せず、電力増幅効率がさらに向上する。そして、電力合成部の出力電力の測定結果の分解能が低くても、確実にかつ迅速に電力合成部の出力電力を最大にする変化位相を設定することができる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明は、スイッチングアンプのユニット数を可変にすることにより、出力電力を可変にすることができる電力増幅装置において、電力増幅効率を向上させるとともに、回路規模を小型化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施の例であり、本発明は以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0021】
本発明の第1の電力増幅装置の構成を
図2に示す。本発明の電力増幅装置Aは、スイッチングアンプのユニット数を可変にすることにより、出力電力を可変にすることができ、位相変調部8、電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4、電力合成部3、帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4、パルス幅変調信号変換部9−1、9−2、9−3、9−4、遅延処理部5−1、5−2、5−3、5−4、電力測定部6及び位相設定部7から構成される。
【0022】
位相変調部8は、電力増幅対象の信号を変調波により位相変調して、位相変調に応じた位相差を互いに有しデューティー比率がともに50%である2系統の矩形波を出力する。電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4は、位相変調部8の矩形波出力をそれぞれ電力増幅する。パルス幅変調信号変換部9−1、9−2、9−3、9−4は、各電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4の矩形波出力をそれぞれパルス幅変調信号に変換する。帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4は、各パルス幅変調信号変換部9−1、9−2、9−3、9−4の矩形波出力をそれぞれ帯域制限する。電力合成部3は、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力を電力合成する。最終的に、電力増幅装置Aは、電力増幅対象の信号を電力増幅することができる。
【0023】
本発明の第2の電力増幅装置の構成を
図3に示す。本発明の電力増幅装置Aは、スイッチングアンプのユニット数を可変にすることにより、出力電力を可変にすることができ、パルス幅変調部1、電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4、電力合成部3、帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4、遅延処理部5−1、5−2、5−3、5−4、電力測定部6及び位相設定部7から構成される。
【0024】
パルス幅変調部1は、電力増幅対象の信号を変調波によりパルス幅変調する。電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4は、パルス幅変調部1の矩形波出力をそれぞれ電力増幅する。帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4は、各電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4の矩形波出力をそれぞれ帯域制限する。電力合成部3は、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力を電力合成する。最終的に、電力増幅装置Aは、電力増幅対象の信号を電力増幅することができる。
【0025】
このように、電力合成部3は、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力を電力合成する。よって、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力の位相にばらつきがあっても、従来技術と比較して、電力合成部3で損失が発生せず、電力増幅効率が向上する。また、複数の帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4は、各電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4の矩形波出力をそれぞれ帯域制限する。よって、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4は、従来技術と比較して、幅広い可変の出力電力に対応する必要がなく、小型化される。このように、スイッチングアンプのユニット数を可変にすることにより、出力電力を可変にすることができる電力増幅装置Aにおいて、電力増幅効率を向上させるとともに、回路規模を小型化させることができる。
【0026】
遅延処理部5−1、5−2、5−3、5−4は、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力の位相のばらつきを補償するように、各電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4の矩形波入力に対して、それぞれ遅延処理を行なう。
【0027】
なお、遅延処理部5−1、5−2、5−3、5−4は、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力の位相のばらつきを補償するように、各電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4の矩形波出力に対して、それぞれ遅延処理を行なってもよい。
【0028】
また、遅延処理部5−1、5−2、5−3、5−4は、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力の位相のばらつきを補償するように、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の矩形波入力に対して、それぞれ遅延処理を行なってもよい。
【0029】
また、遅延処理部5−1、5−2、5−3、5−4は、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力の位相のばらつきを補償するように、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力に対して、それぞれ遅延処理を行なってもよい。
【0030】
また、遅延処理部5−1、5−2、5−3、5−4は、以上に説明の遅延処理を組み合わせることにより、それぞれ遅延処理を行なってもよい。以下の説明では、遅延処理部5−1、5−2、5−3、5−4は、各電力増幅部2−1、2−2、2−3、2−4の矩形波入力に対して、それぞれ遅延処理を行なうとする。
【0031】
このように、遅延処理部5−1、5−2、5−3、5−4は、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力の位相のばらつきを補償する。よって、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力の位相にばらつきがあっても、従来技術と比較して、電力合成部3で損失がほとんど発生せず、電力増幅効率がさらに向上する。
【0032】
電力増幅前にパルス幅変調する場合と比べ、電力増幅後にパルス幅変調する場合には、デューティー比率がともに50%である2系統の矩形波に対する遅延処理が容易である。
【0033】
電力測定部6及び位相設定部7については、
図4−9を用いて詳しく説明する。
【0034】
本発明の電力合成部の構成を
図4に示す。電力合成部3は、バランス抵抗R1、R2、R3、負荷抵抗RL及びトランスT1、T2、T3、T4、T5から構成される。
【0035】
ここで、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4において、振幅のばらつきがあっても、電力合成部3での損失は大きな問題にならない。しかし、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4において、位相のばらつきがあるとき、電力合成部3での損失が問題になりうる。ただし、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4において、位相のばらつきが小さいとき、例えば以下の実施形態では、位相のばらつきが5°以内であるとき、電力合成部3での損失は問題にならない。
【0036】
各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4において、位相のばらつきがあるとき、バランス抵抗R1での損失、バランス抵抗R2での損失、バランス抵抗R3での損失及び負荷抵抗RLでの出力は、それぞれ数式1−4で表される。ただし、RMS(Root Mean Square)は、実効値を表す。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0037】
よって、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4において、位相のばらつきがないときには、バランス抵抗R1、R2、R3での損失は0になり、負荷抵抗RLでの出力は最大になる。
【0038】
そこで、負荷抵抗RLでの出力を最大にして、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4において、位相のばらつきを補償する。
【0039】
つまり、位相設定部7は、一の電力増幅部2(例えば、2−1)の矩形波入力の位相(以下では、「変化位相」という。)を変化させ、他の電力増幅部2(例えば、2−2、2−3、2−4)の矩形波入力の位相を固定して、電力合成部3の出力電力を最大にする変化位相を設定することにより、他の帯域制限部4(例えば、4−2、4−3、4−4)の正弦波出力の位相に対する一の帯域制限部4(例えば、4−1)の正弦波出力の位相のばらつきを補償する。そして、位相設定部7が、電力合成部3の出力電力を最大にする変化位相を設定するにあたり、電力測定部6は、電力合成部3の出力電力を測定する。
【0040】
以下の説明では、位相ばらつき補償の手順として、2種の手順を説明する。
【0041】
まず、第1の位相ばらつき補償の手順を説明する。位相設定部7は、スキャニングされた変化位相における電力合成部3の出力電力の測定結果に従って、電力合成部3の出力電力を最大にする変化位相を設定する。
【0042】
本発明の第1の位相ばらつき補償の手順を
図5に示す。位相設定部7は、電力増幅部2−1の矩形波入力の位相を遅延処理部5−1を通じてスキャニングして、電力増幅部2−2、2−3、2−4の矩形波入力の位相を固定して、電力合成部3の出力電力を最大にする電力増幅部2−1の矩形波入力の位相を遅延処理部5−1を通じて設定する。
【0043】
各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4について、初期状態の位相をそれぞれ0°、11°、12°、13°とする。初期状態では、位相のばらつきが5°以内でないため、電力合成部3での損失が問題になりうる。
【0044】
スキャニング曲線Sによれば、変化位相θ
1が0°であるとき、出力電力P
Oは初期電圧P
INIであるが、変化位相θ
1が12°であるとき、出力電力P
Oは最大電力P
MAXとなる。各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4について、位相補償後の位相はそれぞれ12°、11°、12°、13°である。位相補償後では、位相のばらつきが5°以内であるため、電力合成部3での損失は問題にならない。
【0045】
次に、第2の位相ばらつき補償の手順を説明する。位相設定部7は、少なくとも3点の変化位相における電力合成部3の出力電力の測定結果に対して、所定の関数のフィッティングを行なうことにより、電力合成部3の出力電力を最大にする変化位相を設定する。
【0046】
本発明の第2の位相ばらつき補償の手順を
図6に示す。位相設定部7は、電力増幅部2−1の矩形波入力の位相を遅延処理部5−1を通じて3点(例えば、測定点M1、M2、M3。ここで、測定点M1は、初期状態の位相。)選択して、電力増幅部2−2、2−3、2−4の矩形波入力の位相を固定して、電力合成部3の出力電力の測定結果に対して2次関数又は正弦関数のフィッティングを行ない、電力合成部3の出力電力を最大にする電力増幅部2−1の矩形波入力の位相を遅延処理部5−1を通じて設定する。
【0047】
各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4について、初期状態の位相をそれぞれ0°、11°、12°、13°とする。初期状態では、位相のばらつきが5°以内でないため、電力合成部3での損失が問題になりうる。
【0048】
フィッティング曲線Fによれば、変化位相θ
1が0°であるとき、出力電力P
Oは初期電圧P
INIであるが、変化位相θ
1が12°であるとき、出力電力P
Oは最大電力P
MAXとなる。各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4について、位相補償後の位相はそれぞれ12°、11°、12°、13°である。位相補償後では、位相のばらつきが5°以内であるため、電力合成部3での損失は問題にならない。
【0049】
次に、第1及び第2の位相ばらつき補償の原理を説明する。本発明の位相ばらつき補償の原理を
図7に示す。各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4について、それぞれベクトル表示しており、振幅をそれぞれ|V
1|、|V
2|、|V
3|、|V
4|として、位相をそれぞれθ
1、θ
2、θ
3、θ
4とする。
【0050】
ここで、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4において、振幅のばらつきがあっても、電力合成部3での損失は大きな問題にならないため、|V
1|、|V
2|、|V
3|、|V
4|は等しいと考えても問題はない。そして、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4において、位相のばらつきがあるとき、電力合成部3での損失が問題になりうるため、θ
1、θ
2、θ
3、θ
4は必ずしも等しいとは限らないと考えなければならない。
【0051】
電力合成部3の出力電力は、|V
1+V
2+V
3+V
4|の二乗に比例する。電力合成部3の出力電力を最大にするためには、|V
1+V
2+V
3+V
4|を最大にすればよい。
図5、6を用いて説明した第1及び第2の位相ばらつき補償の手順において、ベクトルV
1の位相θ
1を変化させ、ベクトルV
2、V
3、V
4の位相θ
2、θ
3、θ
4を固定して、|V
1+V
2+V
3+V
4|を最大にするためには、ベクトルV
1の方向をベクトルV
2+V
3+V
4の方向と同方向にすればよく、ベクトルV
1の位相θ
1は、数式5を満たせばよい。
【数5】
【0052】
各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4において、位相のばらつきが小さいときには、数式6を仮定することができる。
【数6】
数式6を仮定することができるときには、数式5を数式7に簡略化することができる。
【数7】
【0053】
図5、6を用いて説明した第1及び第2の位相ばらつき補償の手順において、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4について、位相補償後の位相はそれぞれ12°、11°、12°、13°である。位相補償後の位相は、12°=(11°+12°+13°)/3を満たしており、数式7を確かに満たしている。
【0054】
次に、第1及び第2の位相ばらつき補償の精度を説明する。本発明の位相ばらつき補償の精度を
図8に示す。電力測定部6は、電力合成部3のアナログ出力を12bitのデジタル出力に変換する、A/D(Analog/Degital)変換器であるとする。
【0055】
つまり、5Vフルスケールに対して、1.22mVの電圧分解能が得られる。よって、5Vフルスケールが10kWに対応するとすれば、5kW、2kW、1kW、500Wの出力電力に対して、3.5W、2.2W、1.5W、1.1Wの電力分解能がそれぞれ得られる。そして、5kW、2kW、1kW、500Wの出力電力に対して、どの程度の電力合成前の位相差があれば、どの程度の電力合成後の電力減少があるか、
図8に示した。
【0056】
すると、5kW、2kW、1kW、500Wの出力電力に対して、±3°以上、±4°以上、±4°以上、±5°以上の電力合成前の位相差がそれぞれ検出可能である。ここで、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4において、位相のばらつきが5°以内であるとき、電力合成部3での損失は問題にならない。
【0057】
よって、
図5を用いて説明した第1の位相ばらつき補償の手順において、電力合成部3での損失が問題にならない程度まで、電力合成部3での出力電力のピークは探索可能であり、電力合成前の位相ばらつきは検出可能である。
【0058】
しかし、第1の位相ばらつき補償の手順においては、ノイズ又は誘導等の影響があるとき、電力合成部3での損失が問題にならない程度には、電力合成部3での出力電力のピークは探索不能となり得て、電力合成前の位相ばらつきは検出不能となり得る。
【0059】
一方で、
図6を用いて説明した第2の位相ばらつき補償の手順において、測定点M1、M2、M3における変化位相θ
1に大きな差分があれば、測定点M1、M2、M3における出力電力P
Oに大きな差分が生じて、フィッティング精度は向上可能である。
【0060】
よって、第2の位相ばらつき補償の手順においては、ノイズ又は誘導等の影響があっても、電力合成部3での損失が問題にならない程度まで、電力合成部3での出力電力のピークは探索可能であり、電力合成前の位相ばらつきは検出可能である。
【0061】
このように、第2の位相ばらつき補償の手順においては、電力合成部3の出力電力P
Oの測定結果の分解能が低くても、確実に(ノイズ又は誘導等の影響を受けずに)かつ迅速に(3点の測定点M1、M2、M3のみ測定して)、電力合成部3の出力電力P
Oを最大にする変化位相θ
1を設定することができる。なお、ノイズ又は誘導等の影響を受けにくくするため、4点以上の測定点において測定してもよい。
【0062】
次に、本発明の位相ばらつき補償の一例を
図9に示す。
図9の具体例では、第1及び第2の位相ばらつき補償の手順のうち、いずれの手順を用いてもよい。
【0063】
図5、6の具体例では、各帯域制限部4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
2、V
3、V
4について、初期状態の位相は互いに近い値をとっている。よって、一の電力増幅部2−1の矩形波入力の位相を変化させ、他の電力増幅部2−2、2−3、2−4の矩形波入力の位相を固定して、電力合成部3の出力電力を最大にする変化位相を設定するのみにより、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力の位相のばらつきを、5°以内に抑えることができ、つまり補償することができる。
【0064】
図9の具体例では、各帯域制限部4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
2、V
3、V
4について、初期状態の位相は互いに離れた値をとっている。よって、一の電力増幅部2−1の矩形波入力の位相を変化させ、他の電力増幅部2−2、2−3、2−4の矩形波入力の位相を固定して、電力合成部3の出力電力を最大にする変化位相を設定するのみでは、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力の位相のばらつきを、5°以内に抑えることができず、つまり補償することができない。
【0065】
そこで、
図9の具体例では、以下に説明する第1及び第2のサイクルを実施する。これらのサイクルは、スイッチングアンプのユニットの交換時や、経年変化を考慮した定期メンテナンス時に、行なうことができる。これらのサイクルの終了後は、各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力の位相のばらつきが補償された状態で、電力増幅装置Aによる電力増幅対象の信号の電力増幅が行なわれる。
【0066】
まず、第1のサイクルについて説明する。各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4について、初期状態の位相をそれぞれ−12°、−12°、−12°、12°とする。θ
1の補償ステップでは、θ
1を変化させ、θ
2、θ
3、θ
4を固定して、P
Oを最大にするθ
1=−4°を設定する。θ
2の補償ステップでは、θ
2を変化させ、θ
1、θ
3、θ
4を固定して、P
Oを最大にするθ
2=−1°を設定する。θ
3の補償ステップでは、θ
3を変化させ、θ
1、θ
2、θ
4を固定して、P
Oを最大にするθ
3=2°を設定する。θ
4の補償ステップでは、θ
4を変化させ、θ
1、θ
2、θ
3を固定して、P
Oを最大にするθ
4=−1°を設定する。θ
4の補償ステップの後に、θ
1、θ
2、θ
3、θ
4のばらつきを、5°以内に抑えられていない。
【0067】
次に、第2のサイクルについて説明する。各帯域制限部4−1、4−2、4−3、4−4の正弦波出力V
1、V
2、V
3、V
4について、初期状態の位相はそれぞれ−4°、−1°、2°、−1°である。θ
1の補償ステップでは、θ
1を変化させ、θ
2、θ
3、θ
4を固定して、P
Oを最大にするθ
1=0°を設定する。θ
2の補償ステップでは、θ
2を変化させ、θ
1、θ
3、θ
4を固定して、P
Oを最大にするθ
2=0°を設定する。θ
3の補償ステップでは、θ
3を変化させ、θ
1、θ
2、θ
4を固定して、P
Oを最大にするθ
3=0°を設定する。θ
4の補償ステップでは、θ
4を変化させ、θ
1、θ
2、θ
3を固定して、P
Oを最大にするθ
4=0°を設定する。θ
4の補償ステップの後のみならず、θ
1の補償ステップの後であっても、θ
1、θ
2、θ
3、θ
4のばらつきを、5°以内に抑えられている。