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特開2015-216712DC/DCコンバータおよびその制御回路、制御方法、ならびに電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-216712(P2015-216712A)
(43)【公開日】2015年12月3日
(54)【発明の名称】DC/DCコンバータおよびその制御回路、制御方法、ならびに電子機器
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20151106BHJP
【FI】
   H02M3/155 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-96315(P2014-96315)
(22)【出願日】2014年5月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】福島 瞬
(72)【発明者】
【氏名】柳田 修
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AS05
5H730BB13
5H730DD04
5H730EE57
5H730EE59
5H730EE60
5H730FD01
5H730FD41
5H730FD51
5H730FF05
5H730FG05
5H730FG07
5H730ZZ04
(57)【要約】
【課題】軽負荷時の制御と重負荷時の制御を連続的に変化可能なDC/DCコンバータを提供する。
【解決手段】ヒステリシスコンパレータ102は、DC/DCコンバータ1の出力電圧VOUTに応じたフィードバック電圧VFBと、基準電圧VREFに応じた上側しきい値電圧V、下側しきい値電圧Vそれぞれとの比較結果を示す比較パルスを生成する。ピーク電流検出回路104は、コイルL1に流れるコイル電流Iがピーク電流IPEAKに達すると、ピーク検出信号PEAKDETをアサートする。コントロールロジック部108は、比較パルスCOMPOUTがオンレベルに遷移すると、制御パルスCNTOUTをオンレベルに遷移させ、(ii)比較パルスCOMPOUTがオフレベルに遷移する時刻と、ピーク電流検出信号PEAKDETがアサートされる時刻の遅い方において制御パルスCNTOUTをオフレベルに遷移させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DC/DCコンバータの制御回路であって、
前記DC/DCコンバータの出力電圧に応じたフィードバック電圧が下側しきい値電圧まで低下するとオンレベルに遷移し、その後、オフレベルに遷移する比較パルスを生成するパルス変調器と、
前記DC/DCコンバータのコイルに流れるコイル電流が所定のピーク電流に達するとアサートされるピーク電流検出信号を生成するピーク電流検出器と、
(i)前記比較パルスが前記オンレベルに遷移すると、オンレベルに遷移し、(ii)前記比較パルスが前記オフレベルに遷移する時刻と、前記ピーク電流検出信号がアサートされる時刻の遅い方においてオフレベルに遷移する、制御パルスを生成するロジック部と、
前記制御パルスにもとづいて前記DC/DCコンバータのスイッチングトランジスタをスイッチングするドライバと、
を備えることを特徴とする制御回路。
【請求項2】
前記DC/DCコンバータは、前記スイッチングトランジスタに加えて、同期整流トランジスタを有する同期整流型であり、
前記制御回路は、前記コイルに流れるコイル電流の反転を検出するとアサートされる反転電流検出信号を生成する反転電流検出器をさらに備え、
前記ロジック部は、前記反転電流検出信号がアサートされると、前記スイッチングトランジスタおよび前記同期整流トランジスタを両方オフすることを特徴とする請求項1に記載の制御回路。
【請求項3】
前記パルス変調器は、その第1入力端子に前記フィードバック電圧を受け、その第2入力端子に基準電圧を受け、前記フィードバック電圧が前記基準電圧に応じた上側しきい値電圧に達するとオフレベルに遷移し、前記フィードバック電圧が前記基準電圧に応じた前記下側しきい値電圧に達するとオンレベルに遷移する比較パルスを生成するヒステリシスコンパレータを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の制御回路。
【請求項4】
前記ヒステリシスコンパレータは、遅延時間が可変に構成され、
前記制御パルスの周波数が所定値に近づくように、前記ヒステリシスコンパレータの遅延時間をフィードバック制御する周波数コントローラをさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の制御回路。
【請求項5】
前記周波数コントローラは、
前記制御パルスおよび基準クロックの少なくとも一方を分周し、周波数を一致させる分周器と、
前記分周器を経た前記制御パルスと前記基準クロックの位相差または周波数差に応じた誤差パルスを生成する位相比較器と、
前記誤差パルスを誤差電圧に変換するチャージポンプ回路と、
前記誤差電圧をフィルタリングし、前記ヒステリシスコンパレータの遅延時間を制御するループフィルタと、
を含むことを特徴とする請求項4に記載の制御回路。
【請求項6】
前記制御パルスに応じたリップル電圧を、前記ヒステリシスコンパレータの2つの入力の一方に重畳するリップル注入回路をさらに備えることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の制御回路。
【請求項7】
前記DC/DCコンバータは、前記スイッチングトランジスタに加えて、同期整流トランジスタを有する同期整流型であり、
前記制御回路は、
前記コイルに流れるコイル電流の反転を検出するとアサートされる反転電流検出信号を生成する反転電流検出器と、
前記制御パルスに応じたリップル電圧を、前記ヒステリシスコンパレータの2つの入力の一方に重畳するリップル注入回路と、
をさらに備え、
前記ロジック部は、前記反転電流検出信号がアサートされると、前記スイッチングトランジスタおよび前記同期整流トランジスタを両方オフするよう構成され、
前記リップル注入回路は、前記反転電流検出信号がアサートされるとオフとなるスイッチを含むことを特徴とする請求項3に記載の制御回路。
【請求項8】
前記出力電圧とその目標電圧の誤差を増幅し、前記基準電圧を生成する誤差増幅器をさらに備えることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の制御回路。
【請求項9】
前記基準電圧は所定電圧であることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の制御回路。
【請求項10】
前記パルス変調器は、前記フィードバック電圧を前記下側しきい値電圧と比較し、前記フィードバック電圧が前記下側しきい値電圧まで低下するとアサートされるボトム検出信号を生成するボトム検出コンパレータを含み、前記ボトム検出信号がアサートされると前記比較パルスを前記オンレベルとし、その後、所定のオン時間経過後に、前記比較パルスを前記オフレベルとすることを特徴とすることを特徴とする請求項1または2に記載の制御回路。
【請求項11】
前記ボトム検出コンパレータは、遅延時間が可変に構成され、
前記制御パルスの周波数が所定値に近づくように、前記ボトム検出コンパレータの遅延時間をフィードバック制御する周波数コントローラをさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の制御回路。
【請求項12】
前記周波数コントローラは、
前記制御パルスおよび基準クロックの少なくとも一方を分周し、周波数を一致させる分周器と、
前記分周器を経た前記制御パルスと前記基準クロックの位相差または周波数差に応じた誤差パルスを生成する位相比較器と、
前記誤差パルスを誤差電圧に変換するチャージポンプ回路と、
前記誤差電圧をフィルタリングし、前記ボトム検出コンパレータの遅延時間を制御するループフィルタと、
を含むことを特徴とする請求項11に記載の制御回路。
【請求項13】
前記制御パルスに応じたリップル電圧を、前記ボトム検出コンパレータの2つの入力の一方に重畳するリップル注入回路をさらに備えることを特徴とする請求項10から12のいずれかに記載の制御回路。
【請求項14】
前記DC/DCコンバータは、前記スイッチングトランジスタに加えて、同期整流トランジスタを有する同期整流型であり、
前記制御回路は、
前記コイルに流れるコイル電流の反転を検出するとアサートされる反転電流検出信号を生成する反転電流検出器と、
前記制御パルスに応じたリップル電圧を、前記ボトム検出コンパレータの2つの入力の一方に重畳するリップル注入回路と、
をさらに備え、
前記ロジック部は、前記反転電流検出信号がアサートされると、前記スイッチングトランジスタおよび前記同期整流トランジスタを両方オフするよう構成され、
前記リップル注入回路は、前記反転電流検出信号がアサートされるとオフとなるスイッチを含むことを特徴とする請求項10から12のいずれかに記載の制御回路。
【請求項15】
前記出力電圧とその目標電圧の誤差を増幅し、前記下側しきい値電圧を生成する誤差増幅器をさらに備えることを特徴とする請求項10から14のいずれかに記載の制御回路。
【請求項16】
前記下側しきい値電圧は所定電圧であることを特徴とする請求項10から14のいずれかに記載の制御回路。
【請求項17】
ひとつの半導体基板に一体集積化されたことを特徴とする請求項1から16のいずれかに記載の制御回路。
【請求項18】
少なくとも、インダクタまたはトランス、およびスイッチングトランジスタ、整流素子、出力キャパシタを有する出力回路と、
請求項1から17のいずれかに記載の制御回路と、
を備えることを特徴とするDC/DCコンバータ。
【請求項19】
請求項18に記載のDC/DCコンバータを備えることを特徴とする電子機器。
【請求項20】
DC/DCコンバータの制御方法であって、
前記DC/DCコンバータの出力電圧に応じたフィードバック電圧が下側しきい値電圧まで低下するとオンレベルに遷移し、その後、オフレベルに遷移する比較パルスを生成するステップと、
前記DC/DCコンバータのコイルに流れるコイル電流が所定のピーク電流に達するとアサートされるピーク電流検出信号を生成するステップと、
前記比較パルスが前記オンレベルに遷移すると、制御パルスをオンレベルに遷移させるステップと、
前記比較パルスが前記オフレベルに遷移する時刻と、前記ピーク電流検出信号がアサートされる時刻の遅い方において、前記制御パルスをオフレベルに遷移させるステップと、
前記制御パルスにもとづいて前記DC/DCコンバータのスイッチングトランジスタをスイッチングするステップと、
を備えることを特徴とする制御方法。
【請求項21】
前記DC/DCコンバータは、前記スイッチングトランジスタに加えて、同期整流トランジスタを有する同期整流型であり、
前記制御方法は、
コイルに流れるコイル電流の反転を検出するとアサートされる反転電流検出信号を生成するステップと、
前記反転電流検出信号がアサートされると、前記スイッチングトランジスタおよび前記同期整流トランジスタを両方オフするステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項20に記載の制御方法。
【請求項22】
前記比較パルスを生成するステップは、
ヒステリシスコンパレータが、前記DC/DCコンバータの出力電圧に応じたフィードバック電圧が基準電圧に応じた上側しきい値電圧に達するとオフレベルに遷移し、前記フィードバック電圧が前記基準電圧に応じた下側しきい値電圧に達するとオンレベルに遷移する前記比較パルスを生成するステップを含むことを特徴とする請求項20または21に記載の制御方法。
【請求項23】
前記ヒステリシスコンパレータは、遅延時間が可変に構成され、
前記制御方法は、前記制御パルスの周波数が所定値に近づくように、前記ヒステリシスコンパレータの遅延時間をフィードバック制御するステップをさらに備えることを特徴とする請求項22に記載の制御方法。
【請求項24】
前記比較パルスを生成するステップは、
コンパレータが、前記フィードバック電圧を前記下側しきい値電圧と比較し、前記フィードバック電圧が前記下側しきい値電圧まで低下するとアサートされるボトム検出信号を生成するステップと、
前記ボトム検出信号がアサートされると前記比較パルスを前記オンレベルとし、その後、所定のオン時間経過後に、前記比較パルスを前記オフレベルとするステップと、
を含むことを特徴とすることを特徴とする請求項20または21に記載の制御方法。
【請求項25】
前記コンパレータは、遅延時間が可変に構成され、
前記制御方法は、前記制御パルスの周波数が所定値に近づくように、前記コンパレータの遅延時間をフィードバック制御するステップをさらに備えることを特徴とする請求項24に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DC/DCコンバータ(スイッチングレギュレータ)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電話端末、タブレットPC(Personal Computer)等の電子機器には、電池電圧よりも高い電源電圧を必要とする液晶ドライバや、電池電圧よりも低い電源電圧を必要とする各種プロセッサが搭載される。このようなデバイスに適切な電源電圧を供給するために、DC/DCコンバータが利用される。
【0003】
DC/DCコンバータの制御方式として、ヒステリシス制御が知られている。ヒステリシス制御は、誤差増幅器を利用した電圧モードや電流モードの制御方式に比べて、負荷応答性に優れる。
【0004】
図1(a)、(b)は、ヒステリシス制御方式の降圧DC/DCコンバータを示す回路図である。
【0005】
図1(a)の降圧DC/DCコンバータ900aは、出力回路901、ドライバ904、パルス変調器906を備え、入力ライン902の入力電圧VINを所定の電圧レベルに安定化し、出力ライン903に接続される負荷(不図示)に供給する。出力回路901は、スイッチングトランジスタM1、同期整流トランジスタM2、インダクタL1、出力キャパシタC1を備える。出力キャパシタC1は、等価直列抵抗ESRを含む。
【0006】
パルス変調器906は、出力電圧VOUTが所定の目標レベルに近づくようにデューティ比が調節されるパルス信号S1を生成する。パルス変調器906は、抵抗R1、R2、キャパシタC2、ヒステリシスコンパレータ910を備える。
【0007】
抵抗R1、R2は、出力電圧VOUTを分圧する。分圧された出力電圧VOUTをフィードバック電圧VOUT’とも称する。ヒステリシスコンパレータ910は、フィードバック電圧VOUT’をしきい値電圧VTHと比較し、比較結果を示すパルス信号S1を生成する。しきい値電圧VTHは、比較結果に応じて2つの電圧レベルV、Vの間を遷移する。パルス信号S1は、V>VOUT’のときハイレベル、V<VOUT’のときローレベルとなる。
【0008】
ドライバ904は、パルス信号S1がハイレベルのとき、スイッチングトランジスタM1をオン、同期整流トランジスタM2をオフし、パルス信号S1がローレベルのとき、スイッチングトランジスタM1をオフ、同期整流トランジスタM2をオンする。
【0009】
図2は、図1(a)の降圧DC/DCコンバータ900aの動作波形図である。
時刻t1においてパルス信号S1がハイレベルに遷移する。このときしきい値電圧VTHは上側レベルVに遷移する。
【0010】
パルス信号S1がハイレベルの期間、コイル電流Iが増大し、ESRの電圧降下も増大する。その結果、出力電圧VOUTが上昇し、フィードバック電圧VOUT’も上昇する。時刻t2にフィードバック電圧VOUT’が上側レベルVに達すると、しきい値電圧VTHが下側レベルVに遷移するとともに、ヒステリシスコンパレータ910の出力S1がローレベルに遷移する。
【0011】
パルス信号S1がローレベルの期間、コイル電流Iは時間とともに減少し、ESRの電圧降下も減少する。その結果、出力電圧VOUTが低下し、フィードバック電圧VOUT’も低下する。時刻t2にフィードバック電圧VOUT’が下側レベルVまで低下すると、しきい値電圧VTHが再度、上側レベルVに遷移するとともに、ヒステリシスコンパレータ910の出力S1がハイレベルに遷移する。
【0012】
降圧DC/DCコンバータ900aはこの動作を繰り返す。その結果、フィードバック電圧VOUT’は、VとVの間に安定化され、出力電圧VOUTは、V×(R1+R2)/R2と、V×(R1+R2)/R2の間に安定化される。
【0013】
図1(a)の降圧DC/DCコンバータ900aにおいては、出力キャパシタC1のESRの電圧降下を、フィードバック電圧VOUTのリップルとして利用している。しかしながらこの場合、スイッチング周波数がESRのばらつきの影響を受けること、ESRによる電力損失が無視できないこと、などの問題を有する。
【0014】
図1(a)の降圧DC/DCコンバータ900aの問題を解決するため、リップル注入型の降圧DC/DCコンバータが提案されている。図1(b)は、リップル注入型のヒステリシス制御方式の降圧DC/DCコンバータ900bを示す。
【0015】
図1(b)の降圧DC/DCコンバータ900bは、図1(a)の降圧DC/DCコンバータ900aに加えて、リップル注入回路912を備える。
【0016】
リップル注入回路912は、ヒステリシスコンパレータ910の出力信号S1あるいはそれと相関を有するパルス信号を受け、ヒステリシスコンパレータ910の入力側にリップルを重畳する。具体的にはリップル注入回路912は、ヒステリシスコンパレータ910の出力S1がハイレベルの期間、つまりスイッチングトランジスタM1がオン、同期整流トランジスタM2がオフとなる期間、フィードバック電圧VOUT’に対して正方向に傾斜する電圧を重畳し、ヒステリシスコンパレータ910の出力S1がローレベルの期間、つまりスイッチングトランジスタM1がオフ、同期整流トランジスタM2がオンとなる期間、フィードバック電圧VOUT’に対して負方向に傾斜する電圧を重畳する。これにより、ESRによるリップルを利用せずに、フィードバック電圧VOUT’にリップルが重畳される。
【0017】
図1(b)の降圧DC/DCコンバータ900bの動作も、図2を参照して説明される。
時刻t1においてパルス信号S1がハイレベルに遷移する。このときしきい値電圧VTHは上側レベルVに遷移する。
【0018】
パルス信号S1がハイレベルの期間、リップル注入回路912によってフィードバック電圧VOUT’に正の傾斜の電圧が重畳され、フィードバック電圧VOUT’は時間とともに上昇していく。時刻t2にフィードバック電圧VOUT’が上側レベルVに達すると、しきい値電圧VTHが下側レベルVに遷移するとともに、ヒステリシスコンパレータ910の出力S1がローレベルに遷移する。
【0019】
パルス信号S1がローレベルの期間、リップル注入回路912によってフィードバック電圧VOUT’に負の傾斜の電圧が重畳され、フィードバック電圧VOUT’は時間とともに低下していく。時刻t3にフィードバック電圧VOUT’が下側レベルVまで低下すると、しきい値電圧VTHが再度、上側レベルVに遷移するとともに、ヒステリシスコンパレータ910の出力S1がハイレベルに遷移する。
【0020】
降圧DC/DCコンバータ900bはこの動作を繰り返す。その結果、フィードバック電圧VOUT’は、VとVの間に安定化され、出力電圧VOUTは、V×(R1+R2)/R2と、V×(R1+R2)/R2の間に安定化される。
【0021】
DC/DCコンバータのスイッチング周波数は必ずしも一定でないが、本明細書では、図2の動作モードをPWMモードと称する。
【0022】
DC/DCコンバータの軽負荷状態における効率を高めるために、軽負荷時において、PWMモードとは異なるモード(PFMモードと称する)で動作させることがある。PFMモードでは、コイル電流Iが所定のピーク電流IPEAKに達すると、スイッチングトランジスタをオフし、出力電圧VOUTが目標電圧まで低下すると、スイッチングトランジスタをオンさせる。このモードでは、スイッチング周波数が、負荷電流に応じてダイナミックに変化し、負荷電流が小さくなるほど、スイッチング周波数が低くなり、スイッチング損失を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2005−304295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
図3(a)、(b)は、PWMモードからPFMモード、PFMモードからPWMモードへの切りかえにおけるコイル電流Iの波形図である。
【0025】
コイル電流Iの平均が、負荷電流IOUTに相当する。図3(a)では、初期状態はPWMモードである。負荷電流IOUTが減少していくと、コイル電流Iが小さくなり、やがて負となる。降圧DC/DCコンバータ900は、コイル電流Iが負となる状態が、所定数Nサイクルにわたり連続すると(時刻t0)、PFMモードに遷移する。
【0026】
図3(b)では、初期状態はPFMモードである。負荷電流IOUTが増大していくと、コイル電流Iが増大する。時刻t1に、コイル電流Iのボトムレベルが正になると、DC/DCコンバータ900は、PWMモードに遷移する。
【0027】
本発明者等は、PWMモードとPFMモードの切りかえについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0028】
第1に、PWMモードにおける出力電圧VOUTの平均レベル(バイアス点)と、PFMモードにおける出力電圧VOUTの平均レベルは一致しない。このため、PWMモードとPFMモードの切りかえに際して、オーバーシュートやアンダーシュートが発生するおそれがある。大きなオーバーシュートやアンダーシュートは、負荷回路の誤動作を引き起こすため好ましくない。
【0029】
第2に、図3(a)のPWMモードからPFMモードに遷移するときの負荷電流IOUT1と、図3(b)のPFMモードからPWMモードに遷移するときの負荷電流IOUT2は一致しない。つまり、PFMモードとPWMモードとの遷移に、負荷電流IOUTに関してヒステリシスが存在し、ヒステリシス領域においてDC/DCコンバータ900の効率が低下するという問題がある。
【0030】
第3に、モード切りかえを伴う急峻な負荷電流IOUTの変動が発生した場合に、モード切りかえに起因する遅延によって、負荷変動に追従できず、出力電圧VOUTの変動の要因となり得る。
【0031】
なおこれらの問題は、降圧型のみでなく、昇圧型、昇降圧型、あるいはフォワードコンバータ、フライバックコンバータ等、トポロジーの異なるスイッチング電源においても生じうる。またここで説明した課題を、当業者における一般的な認識として把握してはならず、本発明者が独自に認識したものである。
【0032】
本発明はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、軽負荷時の制御と重負荷時の制御を連続的に変化させることが可能なヒステリシス制御DC/DCコンバータおよびその制御回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明のある態様は、DC/DCコンバータの制御回路に関する。制御回路は、DC/DCコンバータの出力電圧に応じたフィードバック電圧が下側しきい値電圧まで低下するとオンレベルに遷移し、その後、オフレベルに遷移する比較パルスを生成するパルス変調器と、DC/DCコンバータのコイルに流れるコイル電流が所定のピーク電流に達するとアサートされるピーク電流検出信号を生成するピーク電流検出器と、(i)比較パルスがオンレベルに遷移すると、オンレベルに遷移し、(ii)比較パルスがオフレベルに遷移する時刻と、ピーク電流検出信号がアサートされる時刻の遅い方においてオフレベルに遷移する、制御パルスを生成するロジック部と、制御パルスにもとづいてDC/DCコンバータのスイッチングトランジスタをスイッチングするドライバと、を備える。
【0034】
この態様によると、DC/DCコンバータの出力電流がある程度大きな状態では、ピーク電流検出信号が、比較パルスがオフレベルに遷移する前にアサートされるため、比較パルスのみにもとづいてスイッチングが制御される。出力電流が小さくなると、ピーク電流検出信号が、比較パルスがオフレベルに遷移した後にアサートされるようになり、コイル電流がピーク電流に達するのを待って、スイッチングトランジスタがオフされる。つまり出力電流が低下するにしたがい、スイッチングトランジスタのオン時間が引き延ばされ、スイッチング周波数が低下する。これにより、重負荷状態と軽負荷状態における制御を連続的に変化させることができる。
【0035】
DC/DCコンバータは、スイッチングトランジスタに加えて、同期整流トランジスタを有する同期整流型であってもよい。制御回路は、コイルに流れるコイル電流の反転を検出するとアサートされる反転電流検出信号を生成する反転電流検出器をさらに備えてもよい。ロジック部は、反転電流検出信号がアサートされると、スイッチングトランジスタおよび同期整流トランジスタを両方オフしてもよい。
これにより、軽負荷状態における、連続電流モードと不連続電流モードの切りかえを連続的に行うことができる。
【0036】
パルス変調器は、その第1入力端子にフィードバック電圧を受け、その第2入力端子に基準電圧を受け、フィードバック電圧が基準電圧に応じた上側しきい値電圧に達するとオフレベルに遷移し、フィードバック電圧が基準電圧に応じた下側しきい値電圧に達するとオンレベルに遷移する比較パルスを生成するヒステリシスコンパレータを含んでもよい。
【0037】
ヒステリシスコンパレータは、遅延時間が可変に構成されてもよい。制御回路は、制御パルスの周波数が所定値に近づくように、ヒステリシスコンパレータの遅延時間をフィードバック制御する周波数コントローラをさらに備えてもよい。
これにより、重負荷状態における比較パルスの周波数(周期)を安定化することができる。
【0038】
周波数コントローラは、制御パルスおよび基準クロックの少なくとも一方を分周し、周波数を一致させる分周器と、分周器を経た制御パルスと基準クロックの位相差または周波数差に応じた誤差パルスを生成する位相比較器と、誤差パルスを誤差電圧に変換するチャージポンプ回路と、誤差電圧をフィルタリングし、ヒステリシスコンパレータの遅延時間を制御するループフィルタと、を含んでもよい。
【0039】
ある態様の制御回路は、制御パルスに応じたリップル電圧を、ヒステリシスコンパレータの2つの入力の一方に重畳するリップル注入回路をさらに備えてもよい。
また、リップル注入回路は、反転電流検出信号がアサートされるとオフとなるスイッチを含んでもよい。
【0040】
ある態様の制御回路は、出力電圧とその設定電圧の誤差を増幅し、基準電圧を生成する誤差増幅器をさらに備えてもよい。
これにより、ロードレギュレーションやラインレギュレーションを改善できる。
【0041】
基準電圧は所定電圧であってもよい。
【0042】
パルス変調器は、フィードバック電圧を下側しきい値電圧と比較し、フィードバック電圧が下側しきい値電圧まで低下するとアサートされるボトム検出信号を生成するボトム検出コンパレータを含み、ボトム検出信号がアサートされると比較パルスをオンレベルとし、その後、所定のオン時間経過後に、比較パルスをオフレベルとしてもよい。
【0043】
ボトム検出コンパレータは、遅延時間が可変に構成されてもよい。制御回路は、制御パルスの周波数が所定値に近づくように、ボトム検出コンパレータの遅延時間をフィードバック制御する周波数コントローラをさらに備えてもよい。
【0044】
周波数コントローラは、制御パルスおよび基準クロックの少なくとも一方を分周し、周波数を一致させる分周器と、分周器を経た制御パルスと基準クロックの位相差または周波数差に応じた誤差パルスを生成する位相比較器と、誤差パルスを誤差電圧に変換するチャージポンプ回路と、誤差電圧をフィルタリングし、ボトム検出コンパレータの遅延時間を制御するループフィルタと、を含んでもよい。
【0045】
制御回路は、制御パルスに応じたリップル電圧を、ボトム検出コンパレータの2つの入力の一方に重畳するリップル注入回路をさらに備えてもよい。
【0046】
制御回路は、出力電圧とその目標電圧の誤差を増幅し、下側しきい値電圧を生成する誤差増幅器をさらに備えてもよい。
これにより、ロードレギュレーションやラインレギュレーションを改善できる。
【0047】
下側しきい値電圧は所定電圧であってもよい。
【0048】
制御回路は、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。
「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。回路を1つのIC(Integrated Circuit)として集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0049】
本発明の別の態様は、DC/DCコンバータに関する。DC/DCコンバータは、少なくとも、インダクタまたはトランス、およびスイッチングトランジスタ、整流素子、出力キャパシタを有する出力回路と、上述のいずれかの制御回路と、を備える。
【0050】
本発明の別の態様は電子機器に関する。電子機器は、上述のDC/DCコンバータを備える。
【0051】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0052】
本発明のある態様によれば、重負荷状態と軽負荷状態における制御を連続的に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1図1(a)、(b)は、ヒステリシス制御方式の降圧DC/DCコンバータを示す回路図である。
図2図1(a)の降圧DC/DCコンバータの動作波形図である。
図3図3(a)、(b)は、PWMモードからPFMモード、PFMモードからPWMモードへの切りかえにおけるコイル電流Iの波形図である。
図4】降圧DC/DCコンバータの回路図である。
図5図5(a)、(b)は、重負荷時および軽負荷時のDC/DCコンバータの動作波形図である。
図6】負荷電流IOUTを減少する方向にスイープさせたときの、DC/DCコンバータの動作波形図である。
図7】負荷電流IOUTを増大する方向にスイープさせたときのDC/DCコンバータの動作波形図である。
図8】実施の形態に係るDC/DCコンバータを用いた電子機器の一例を示す図である。
図9】第1の変形例に係るDC/DCコンバータの回路図である。
図10】ヒステリシスコンパレータおよび周波数コントローラの構成例を示す回路図である。
図11】第4の変形例に係る降圧DC/DCコンバータの回路図である。
図12図11の降圧DC/DCコンバータの動作波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0055】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0056】
図4は、実施の形態に係る降圧DC/DCコンバータ(以下、単にDC/DCコンバータという)1の回路図である。DC/DCコンバータ1は、入力ライン202の入力電圧VINを降圧し、所定レベルに安定化された出力電圧VOUTを生成し、出力ライン204に接続される負荷に供給する。
【0057】
DC/DCコンバータ1は、制御回路10および出力回路20を備える。出力回路20は、入力ライン202、出力ライン204、スイッチングトランジスタM1、同期整流トランジスタM2、インダクタL1、出力キャパシタC1を含む。出力回路20のトポロジーは、一般的な降圧DC/DCコンバータのそれであるため説明を省略する。
【0058】
制御回路10の入力(IN)端子は、入力ライン202と接続され、入力電圧VINが供給される。出力(OUT)端子は、インダクタL1の一端と接続される。接地(GND)端子は接地される。FB端子には、出力電圧VOUTがフィードバックされる。制御回路10は、フィードバックされた出力電圧VOUTが目標レベルに近づくように、スイッチングトランジスタM1および同期整流トランジスタM2のスイッチングを制御する。
【0059】
制御回路10は、いわゆるボトム検出ヒステリシス制御のコントローラであり、パルス変調器101、ピーク電流検出回路104、反転電流検出器106、コントロールロジック部108、ハイサイドドライバ110、ローサイドドライバ112、リップル注入回路120、誤差増幅器130およびスイッチング回路206を備え、ひとつの半導体基板に集積化された機能IC(Integrated Circuit)である。
【0060】
スイッチング回路206は、スイッチングトランジスタM1および同期整流トランジスタM2を含み、出力回路20の一部でありえる。スイッチングトランジスタM1および同期整流トランジスタM2は、IN端子とGND端子の間に直列に設けられる。スイッチングトランジスタM1と同期整流トランジスタM2の接続点(スイッチングノード)は、OUT端子と接続される。なおスイッチングトランジスタM1および同期整流トランジスタM2を、ディスクリート部品とし、制御回路10に外付けしてもよい。
【0061】
パルス変調器101は、ヒステリシスコンパレータ102を含む。ヒステリシスコンパレータ102は、その第1入力端子(−)にDC/DCコンバータ1の出力電圧VOUTに応じたフィードバック電圧VFBを受け、その第2入力端子(+)に基準電圧VREFを受け、フィードバック電圧VFBを基準電圧VREFに応じたしきい値と比較し、比較結果を示す比較パルスCOMPOUTを生成する。具体的にはヒステリシスコンパレータ102は、フィードバック電圧VFBが基準電圧VREFに応じた上側しきい値電圧Vに達すると、比較パルスCOMPOUTをオフレベル(たとえばローレベル)に遷移させ、フィードバック電圧VFBが基準電圧VREFに応じた下側しきい値電圧Vに達すると、比較パルスCOMPOUTをオンレベル(ハイレベル)に遷移させる。ヒステリシスコンパレータ102の構成は特に限定されず、公知技術を用いればよい。
【0062】
ピーク電流検出回路104は、インダクタL1(コイル)に流れるコイル電流Iを監視し、スイッチングトランジスタM1のオン区間において、コイル電流Iが所定のピーク電流IPEAKに達すると、ピーク電流検出信号PEAKDETをアサート(たとえばハイレベル)する。
【0063】
ピーク電流検出回路104の構成は特に限定されないが、たとえばスイッチングトランジスタM1の電圧降下にもとづいて、コイル電流Iを検出してもよい。ピーク電流検出回路104は公知技術を用いて構成することができる。
【0064】
負荷電流IOUTがある程度大きいとき、コイル電流Iは、正の向き(OUT端子から負荷に向かう向き)に流れる。負荷電流IOUTが小さくなると、コイル電流Iの向きが反転する。反転電流検出器106は、スイッチングトランジスタM1がオフの区間におけるコイル電流Iを監視し、コイル電流Iの反転を検出すると、反転電流検出信号REVDETをアサート(たとえはハイレベル)する。
【0065】
コントロールロジック部108は、比較パルスCOMPOUT、ピーク電流検出信号PEAKDETにもとづいて、制御パルスCNTOUTを生成する。具体的にはコントロールロジック部108は、(i)比較パルスCOMPOUTがオフレベル(ローレベル)に遷移すると、制御パルスCNTOUTをオフレベル(たとえばローレベル)に遷移させる。また、(ii)比較パルスCOMPOUTがオンレベルに遷移する時刻と、ピーク電流検出信号PEAKDETがアサートされる時刻の遅い方において、制御パルスCNTOUTをオンレベルに遷移させる。
【0066】
ハイサイドドライバ110およびローサイドドライバ112は、制御パルスCNTOUTにもとづいて、スイッチングトランジスタM1およびローサイドドライバ112をスイッチングする。
【0067】
またコントロールロジック部108は、反転電流検出信号REVDETがアサートされると、ローサイドオフ信号LS_OFFをアサート(たとえばハイレベル)する。ローサイドドライバ112は、ローサイドオフ信号LS_OFFがアサートされると、その出力をローレベルに固定し、同期整流トランジスタをオフに固定する。かくして、スイッチングトランジスタM1と同期整流トランジスタM2が両方オフとなる。
【0068】
制御回路10は、リップル注入型のヒステリシス制御方式を採用している。リップル注入回路120は、制御パルスCNTOUTに応じたリップル電圧VRIPを、フィードバック電圧VFBに重畳する。リップル注入回路120は、バッファ122、スイッチ124、インバータ126、キャパシタC11〜C13、抵抗R11〜R13を含む。抵抗R11,R12は、FB端子の電圧VOUTを分圧し、フィードバック電圧VFBのベースライン(平均レベル)を生成する。
【0069】
バッファ122は、制御パルスCNTOUTを受け、入力電圧VINと接地電圧0Vの間でスイッチングする帰還パルスを生成する。抵抗R13、キャパシタC11は、帰還パルスをフィルタリングするローパスフィルタであり、フィードバック電圧VFBに帰還パルスと同期した、言い換えれば制御パルスCNTOUTと同期したリップル電圧を重畳する。
【0070】
スイッチ124は、帰還パルスのフィードバック経路上に設けられ、反転電流検出信号REVDETがアサートされるとオフとなる。たとえばインバータ126は、ローサイドオフ信号LS_OFFを反転し、スイッチ124を制御してもよい。
【0071】
誤差増幅器130は、ロードレギュレーション、ラインレギュレーションの改善のために設けられる。誤差増幅器130は、出力電圧VOUTとその設定電圧VSETの誤差を増幅し、基準電圧VREFを生成する。
【0072】
以上がDC/DCコンバータ1およびその制御回路10の構成である。続いてその動作を説明する。
【0073】
図5(a)、(b)は、重負荷時および軽負荷時のDC/DCコンバータ1の動作波形図である。図5(a)に示すように、負荷電流IOUTが相対的に大きな重負荷状態では、ピーク電流検出信号PEAKDETが、比較パルスCOMPOUTがオフレベルに遷移する前にアサートされる。したがってピーク電流検出信号PEAKDETはスイッチング動作に影響せず、比較パルスCOMPOUTのみにもとづいてスイッチングが制御される。この状態は、図1(a)あるいは図1(b)のDC/DCコンバータのPWMモードに対応する。
【0074】
続いて軽負荷時の動作を説明する。負荷電流IOUTが減少すると、ピーク電流検出信号PEAKDETがアサートされる時刻が進んでいく。図5(b)に示すように、ピーク電流検出信号PEAKDETが、比較パルスCOMPOUTがオフレベルに遷移した後にアサートされるようになると、比較パルスCOMPOUTおよびピーク電流検出信号PEAKDETにもとづいてスイッチングが制御されるようになる。ピーク電流検出信号PEAKDETのアサート時刻が遅くなると、比較パルスCOMPOUTがオンレベルである期間(オン時間)TONが引き延ばされる。定常状態において、入力電圧VINと出力電圧VOUTの比が一定であれば、スイッチングのデューティ比TON/(TON+TOFF)は一定に保たれる。したがってオン時間TONが長くなるにしたがい、スイッチング周期TSW=TON+TOFFは長くなり、スイッチング周波数fSWは低くなっていく。この状態は、図1(a)あるいは図1(b)のDC/DCコンバータのPFMモードに対応する。
【0075】
図6は、負荷電流IOUTを減少する方向にスイープさせたときの、DC/DCコンバータ1の動作波形図である。図6において、時刻t0より前の負荷電流IOUTが大きいときには、図5(a)のPWMモードで動作する。負荷電流IOUTの減少にともない、各サイクルにおいて、ピーク電流検出信号PEAKDETがアサートされる時刻が後ろにシフトしていく。
【0076】
時刻t0は、ピーク電流検出信号PEAKDETのアサートが、比較パルスCOMPOUTのオフレベルへの遷移と同時に発生する時刻である。時刻t0以降、ピーク電流検出信号PEAKDETのアサート時刻が遅れていき、制御パルスCNTOUTのオン時間TONが引き延ばされ、スイッチング周波数fSWが低下していく。
【0077】
時刻t1より前においてコイル電流Iは常時正である。これを連続電流モードCCMという。さらに負荷電流IOUTが減少し、コイル電流Iのボトムが負の領域に入ると(時刻t1)、反転電流検出信号REVDETがアサートされるようになり、不連続電流モードDCMで動作する。不連続電流モードDCMでは、反転電流検出信号REVDETがアサートされると、次に比較パルスCOMPOUTがオンレベルに遷移するまでの間、スイッチングトランジスタM1と同期整流トランジスタM2が両方オフとなり、スイッチングが停止する。
【0078】
図7は、負荷電流IOUTを増大する方向にスイープさせたときのDC/DCコンバータ1の動作波形図である。負荷電流IOUTを増大させたときの回路動作には、図6と反対の制御により、DCMモードからCCMモードに遷移し、PFMモードからPWMモードへと遷移する。
【0079】
以上がDC/DCコンバータ1の動作である。
【0080】
実施の形態に係るDC/DCコンバータ1によれば、負荷電流IOUTが低下するにしたがい、スイッチングトランジスタM1のオン時間TONが引き延ばされ、スイッチング周波数fSWが低下する。これにより、重負荷状態と軽負荷状態における制御を連続的に変化させることができる。
【0081】
このDC/DCコンバータ1によれば、以下の効果を得ることができる。
第1に、このDC/DCコンバータ1においては、重負荷時と軽負荷時における制御方式が共通であるため、従来においてPWMモードとPFMモードを切りかえる場合に問題となった出力電圧VOUTの平均レベルの不一致は生じない。このため、負荷変動に際して、オーバーシュートやアンダーシュートが発生するのを防止できる。
【0082】
第2に、従来ではPFMモードとPWMモードとの遷移に、負荷電流IOUTに関してヒステリシスが存在し、ヒステリシス領域においてDC/DCコンバータ900の効率が低下するという問題があったが、この問題も解決できる。
【0083】
第3に、モード切りかえを伴わないため、モード切りかえに起因する遅延は生じず、したがって、良好な負荷応答性を実現できる。
【0084】
また、反転電流検出信号REVDETがアサートされると、スイッチングトランジスタM1と同期整流トランジスタM2を両方オフすることとした。これにより、軽負荷状態における、連続電流モードと不連続電流モードの切りかえを連続的に行うことができる。
【0085】
(用途)
続いて、DC/DCコンバータ1の用途を説明する。図8は、実施の形態に係るDC/DCコンバータ1を用いた電子機器700の一例を示す図である。電子機器700は、たとえば、携帯電話端末、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、タブレット端末、ポータブルオーディオプレイヤなどの電池駆動型デバイスである。電子機器700は、筐体702、電池704、マイクロプロセッサ706およびDC/DCコンバータ1を備える。DC/DCコンバータ1は、その入力ライン202に電池704からの電池電圧VBAT(=VIN)を受け、出力ライン103に接続されるマイクロプロセッサ706に、出力電圧VOUTを供給する。
【0086】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0087】
(第1の変形例)
図9は、第1の変形例に係るDC/DCコンバータ1aの回路図である。以下、図4のDC/DCコンバータ1との相違点を説明する。
【0088】
制御回路10aは、図2の制御回路10に加えて、周波数コントローラ140を備える。ヒステリシスコンパレータ102aは、その遅延時間が可変に構成される。たとえばヒステリシスコンパレータの遅延時間(応答速度)は、そのバイアス電流を増やすほど速くなり、バイアス電流を減らすほど遅くなる。したがってヒステリシスコンパレータ102aのバイアス電流を可変電流源により供給し、バイアス電流量を調節可能に構成してもよい。
【0089】
周波数コントローラ140は、制御パルスCNTOUTもしくはそれに応じたパルス信号を受け、制御パルスCNTOUTの周波数が所定値に近づくように、ヒステリシスコンパレータ102aの遅延時間をフィードバック制御する。
【0090】
図10は、ヒステリシスコンパレータ102aおよび周波数コントローラ140の構成例を示す回路図である。ヒステリシスコンパレータ102aは、差動増幅器150を含み、その出力電流(ソース電流、シンク電流)は、バイアス電流源152が生成するバイアス電流に応じて調節可能となっている。キャパシタ154は、寄生容量であり、差動増幅器150の出力電流によって充放電される。出力段156は、キャパシタ154の電圧を2値化して出力する。差動増幅器150の出力電流を増大させると、キャパシタ154の充放電速度が速くなり、したがってヒステリシスコンパレータ102の応答速度は速く、遅延時間は短くなる。反対に差動増幅器150の出力電流が小さくなると、キャパシタ154の充放電速度が遅くなり、したがってヒステリシスコンパレータ102の遅延時間は長くなる。
【0091】
周波数コントローラ140は、いわゆるPLL(Phase Locked Loop)あるいはFLL(Frequency Locked Loop)回路でありえる。分周器142は、制御パルスCNTOUTおよび基準クロックCLKREFの少なくとも一方を分周し、それらの周波数を一致させる。
【0092】
位相比較器144は、分周器142を経た制御パルスCNTOUTと基準クロックREFCLKの位相差に応じた誤差パルス(アップ信号UP/ダウン信号DN)を生成する。位相比較器144は、周波数比較器であってもよい。チャージポンプ回路146は、アップ信号UP、ダウン信号DNに応じてキャパシタを充放電することにより、誤差パルスを誤差電圧に変換する。ループフィルタ148は、誤差電圧をフィルタリングし、ヒステリシスコンパレータ102aの遅延時間を制御する。
【0093】
重負荷状態では、比較パルスCOMPOUTと制御パルスCNTOUTは一致する。したがって、ヒステリシスコンパレータ102の遅延時間を変化させると、制御パルスCNTOUTの周波数が変化する。そこでPLL回路あるいはFLL回路によって、制御パルスCNTOUTの周波数が一定となるようにヒステリシスコンパレータ102aの遅延時間を調節ことにより、重負荷状態におけるスイッチング周波数を一定に保つことができる。なお、軽負荷状態では、比較パルスCOMPOUTのネガティブエッジは無視され、ピーク検出信号PEAKDETが使用されることから、ヒステリシスコンパレータ102aの遅延時間は、スイッチング周波数には影響しない。
【0094】
(第1の変形例)
実施の形態では、リップル注入型の制御回路10を説明したが、本発明はそれには限定されない。出力キャパシタC1のESRがある程度大きい場合、リップル注入回路120を省略してもよい。
【0095】
(第1の変形例)
図4の制御回路10において、誤差増幅器130を省略し、基準電圧VREFを所定の電圧に固定してもよい。
【0096】
(第1の変形例)
実施の形態では、ヒステリシスコンパレータを利用したボトム検出ヒステリシス制御のコントローラを説明したが、本発明はそれには限定されない。図11は、第4の変形例に係る降圧DC/DCコンバータ1bの回路図である。制御回路10bは、いわゆるボトム検出オン時間固定型のヒステリシス制御のコントローラであり、パルス変調器101bは、図4のヒステリシスコンパレータ102に代えて、ボトム検出コンパレータ160、フリップフロップ162、オン時間設定回路164を含む。その他は図4の制御回路10と同様である。
【0097】
この変形例では、誤差増幅器130の出力電圧は、下側しきい値電圧Vとなる。ボトム検出コンパレータ160は、フィードバック電圧VFBを下側しきい値電圧Vと比較し、フィードバック電圧VFBが下側しきい値電圧Vまで低下するとアサート(たとえばハイレベル)されるボトム検出信号BTMを生成する。
【0098】
フリップフロップ162はたとえばRSフリップフロップであり、セット端子にボトム検出信号BTMが入力される。オン時間設定回路164は、フリップフロップ162の出力がオンレベル(ハイレベル)に遷移すると、所定のオン時間TONの経過後に、リセット信号RSTをアサート(ハイレベル)する。リセット信号RSTは、フリップフロップ162のリセット端子に入力される。オン時間設定回路164は、遅延回路あるいはワンショット回路で構成することができる。
【0099】
パルス変調器101bからは、ボトム検出信号BTMがアサートされるとオンレベルとなり、その後、所定のオン時間TON経過後に、オフレベルとなる比較パルスCOMPOUTが出力される。
【0100】
図12は、図11の降圧DC/DCコンバータ1bの動作波形図である。図11の降圧DC/DCコンバータ1bによれば、実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0101】
図11の制御回路10bにおいても、ボトム検出コンパレータ160を、その遅延時間を可変に構成し、周波数コントローラ140により遅延時間をフィードバック制御してもよい。図11の制御回路10bにおいて、誤差増幅器130を省略し、下側しきい値電圧Vを所定電圧に固定してもよい。また図11の制御回路10bにおいてリップル注入回路120を省略してもよい。
【0102】
(第1の変形例)
実施の形態では、同期整流型のDC/DCコンバータを説明したが、同期整流トランジスタM2をダイオードに置換したダイオード整流型にも本発明は適用可能である。この場合、DCMモードとCCMモードの切りかえは省略される。
【0103】
(第1の変形例)
実施の形態では、降圧型DC/DCコンバータを説明したが、DC/DCコンバータの形式は特に限定されない。本発明は、インダクタを用いた昇圧型、昇降圧型のDC/DCコンバータや、トランスを用いたフォワードコンバータ、フライバックコンバータにも適用可能であり、出力回路20のトポロジーにはさまざまな変形例が存在しうる。
【0104】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0105】
1…DC/DCコンバータ、10…制御回路、20…出力回路、202…入力ライン、204…出力ライン、206…スイッチング回路、C1…出力キャパシタ、L1…インダクタ、M1…スイッチングトランジスタ、M2…同期整流トランジスタ、101…パルス変調器、102…ヒステリシスコンパレータ、104…ピーク電流検出回路、106…反転電流検出器、108…コントロールロジック部、110…ハイサイドドライバ、112…ローサイドドライバ、120…リップル注入回路、122…バッファ、124…スイッチ、126…インバータ、R11,R12,R13…抵抗、C11,C12,C13…キャパシタ、130…誤差増幅器、140…周波数コントローラ、142…分周器、144…位相比較器、146…チャージポンプ回路、148…ループフィルタ、150…差動増幅器、152…バイアス電流源、154…キャパシタ、156…出力段。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12