【課題】本発明は、磁束電流の大きさを誘導電動機運転状況に合うように変更して、誘導電動機のスリップ周波数を増大させて、これによって磁束推定性能を向上する誘導電動機制御装置を提供する。
【解決手段】本発明の制御装置は、トルク指令から同期座標系のd軸及びq軸電流指令を生成して、電動機の回転子の速度を推定して、これを利用してd軸及びq軸電流指令を修正することによって、スリップ周波数を大きくして、回転子の位置及び速度推定性能を向上する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンコーダ(encoder)、リゾルバ(resolver)のような電動機の回転子(rotor)位置センサーは、電動機駆動の性能を向上するのに役立つが、振動に弱いだけでなく、全体システムの価格を増大させる短所がある。このような問題点により位置センサーなしに電動機を駆動する技術に対する必要性が増大している。
【0003】
位置センサーなしに(センサレス、sensorless)電動機を運転する方式は、ファン(fan)、ポンプ、コンプレッサーといったHVAC(Heating、Ventilation、Air−Condition)負荷や、エレベーター、クレーンなどの昇降負荷で速度制御を目的として主に用いられている。
【0004】
また、位置センサーなしに誘導電動機を運転する方式は、コンベヤーなどトルク制御を目的として主に用いられている。
【0005】
しかし、一般のセンサレストルク制御では、低速及び低トルク領域での運転性能が速度制御でより低下すると知られているので、これに対する改善策が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする技術的課題は、磁束電流の大きさを誘導電動機運転状況に合うように変更して、誘導電動機のスリップ周波数を増大させて、これを介して磁束推定性能を向上する誘導電動機制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記のような技術的課題を解決するために、本発明の一実施形態の電動機制御装置は、トルク指令から同期座標系のd軸及びq軸電流指令を生成する生成部、前記同期座標系のd軸及びq軸電流指令から比例積分制御を行って同期座標系のd軸及びq軸電圧を出力する電流制御器、前記電流制御器から受信する前記同期座標系のd軸及びq軸電圧を静止座標界のd軸及びq軸電圧に変換する第1変換部、前記第1変換部から受信する前記静止座標界のd軸及びq軸電圧から、電動機を制御するための電圧を出力するインバータ、前記インバータから出力される相電流を同期座標系のd軸及びq軸電流に変換する第2変換部、前記インバータから出力される相電流と、前記第1変換部から出力される前記静止座標界のd軸及びq軸電圧から、前記電動機の回転子の速度と回転子の位置を推定する推定部、及び前記生成部から受信した前記同期座標系のd軸及びq軸電流指令と、前記推定部から受信した前記回転子の速度を利用して、前記生成部から受信した前記同期座標系のd軸及びq軸電流指令を修正して前記電流制御器に提供する修正部を含んでもよい。
【0008】
本発明の一実施形態において、前記修正部は、前記生成部から受信する前記同期座標系のd軸電流指令を減少して、これに対応してスリップ周波数の大きさを増加させて、これによって回転子磁束角を速くすることができる。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記修正部は、前記同期座標系のd軸電流指令に印加する所定の定数Kを決める決定部、前記定数Kを前記生成部から受信する前記同期座標系のd軸電流指令にかける第1演算部、及び前記定数Kの逆数を前記生成部から受信する前記同期座標系のq軸電流指令にかける第2演算部を含んでもよい。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記決定部は、電流制限条件、電圧制限条件、スリップ周波数条件及び励磁電流条件を考慮して、前記定数Kを決めることができる。
【0011】
【表1】
【0012】
【表2】
【0013】
【表3】
【0014】
【表4】
【0015】
【表5】
【0016】
【表6】
【発明の効果】
【0017】
前記のような本発明は、磁束電流の大きさを減少することによって、スリップ周波数を増大することによって、回転子磁束角の周波数が速くなって、回転子速度及び位置推定部に印加される電圧と電流の周波数が増加するので、同じ回転子速度に対しても安定的に回転子速度及び位置を推定するようにする効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、種々の変更を加えることができて、様々な実施形態を有することができ、特定実施形態を図面に例示して詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするのではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変更、均等物乃至代替物を含むものと理解しなければならない。
【0020】
以下、添付図面を参照して従来のセンサレストルク制御を説明して、本発明に係る一実施形態を詳細に説明する。
【0021】
図1は、一般的な誘導電動機のセンサレストルク制御装置を示す構成図である。
【0022】
電流指令生成部10は、トルク指令(torque reference)から同期座標系(synchronous reference frame)のd軸及びq軸電流指令を生成する。電流制御器20は、前向補償(feed−forward)を含む比例−積分(proportional and integral)電流制御器であって、同期座標系のd軸及びq軸電圧を出力し、第1座標変換部30が同期座標系のd軸及びq軸電圧を静止座標界(stationary reference frame)の電圧に変換する。
【0023】
一方、第2座標変換部40は、電流センサー(70a、70b、70c)が測定した誘導電動機2の相電流を同期座標系上d軸及びq軸電流に変換し、インバータ50は、誘導電動機2に電圧を印加する。
【0024】
また、回転子速度及び位置推定部60は、電流センサー70から受信した誘導電動機2の相電流と第1座標変換部30の出力電圧を受信して、3相誘導電動機2の回転子の速度と位置を推定する。
【0025】
以下、
図1の装置の構成を詳細に説明する。
【0026】
図2は、
図1の電流指令生成部10の詳細構成図であり、ユニット1(11)は、定格回転子磁束から同期座標系のd軸電流指令を決める。この時、Lmは励磁インダクタンス(magnetizing inductance)である。
【0027】
ユニット2(12)は、同期座標系のq軸電流指令を求めるために計算を行って、ユニット3(13)は、初期トルク指令の最大値を制限する。ユニット4(14)は、ユニット3(13)の出力であるトルク指令と定格回転子磁束の関係から同期座標系のq軸電流指令を出力する。この時、誘導電動機のトルクは下記の通りである。
【数1】
式(1)からq軸電流指令を下記の通り求めることができる。
【数2】
【0028】
図3A及び
図3Bは、
図1の電流制御器20の詳細構成図であり、
図3Aは、d軸電流制御器の構成図で、
図3Bは、q軸電流制御器の構成図である。
【0029】
図3A及び
図3Bに示したように、d軸及びq軸電流制御器は、同期座標系のd軸及びq軸電流を各々制御するための比例−積分形態の制御器と前向補償で構成される。この時、ユニット1(21a)、ユニット2(21b)と、ユニット5(24a)、ユニット6(24b)は、電流指令トル帰還電流から電流制御を行うための比例−積分ゲインを提供し、ユニット3(22)とユニット7(25)は、前向補償を行うもので、誘導電動機2のモデリングにより多様に構成される。
【0030】
また、ユニット4(23)とユニット8(26)は、電流制御器20の出力がインバータ50が合成できる電圧の大きさを超える場合、ユニット2(21b)及びユニット6(24b)の発散を防ぐためのアンチ−ワインドアップゲインを提供する。
【0031】
図1の第1座標変換部30は、電流制御器20の出力である同期座標系の電圧を静止座標系上の電圧に下記の式によって変換する。
【数3】
【数4】
【0032】
図1の第2座標変換部40は、電流センサー70a、70b、70cが測定した誘導電動機2の相電流を同期座標系のd軸及びq軸電流に下記の式によって変換する。
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0033】
図1の回転子速度及び位置推定部60は、誘導電動機2の出力電流とインバータ50の出力電圧を受信して、回転子速度と磁束の位置を出力するもので、多様な方式によって構成できる。
【0034】
このような従来の誘導電動機トルク制御装置は、磁束電流(magnetizing current)の大きさが一定で、一定トルク指令ではトルク電流が固定される。これによって同じ回転子速度状況で、スリップ周波数が低い状態に維持されるので、センサレス誘導電動機制御で必須である磁束推定性能が低下して、回転子速度及び磁束角の推定が難しくなる。
【0035】
従って、本発明は、磁束電流の大きさを制御状況に適合するように変化させることによって、誘導電動機のスリップ周波数を増加させ、これを介して磁束推定性能を向上するものである。
【0036】
図4は、本発明に係る誘導電動機の制御装置の一実施形態構成図である。
【0037】
図面に示したように、本発明の制御装置1は、電流指令生成部10、電流指令修正部80、電流制御器20、第1座標変換部30、第2座標変換部40、インバータ50、回転子速度及び位置推定部60、及び電流センサー70a、70b、70cを含み、誘導電動機2を制御する。
【0038】
電流指令生成部10は、トルク指令から同期座標系のd軸及びq軸電流指令を生成することができる。電流指令生成部10の詳細な動作については、
図2において詳細に説明したのと同様である。電流制御器20は、前向補償を含む比例−積分電流制御器を含み、同期座標系のd軸及びq軸電圧を出力する。電流制御器20の詳細な動作については、
図3A及び
図3Bにおいて詳細に説明したのと同様である。
【0039】
第1座標変換部30は、電流制御器20から受信する同期座標系のd軸及びq軸電圧を静止座標界のd軸及びq軸電圧に変換することができる。
【0040】
また、第2座標変換部40は、電流センサー70a、70b、70cから誘導電動機2の相電流を受信して、同期座標系のd軸及びq軸電流に変換し、インバータ50は、第1座標変換部30から受信した静止座標界のd軸及びq軸電圧を利用して誘導電動機2を制御するための電圧を出力することができる。
【0041】
回転子速度及び位置推定部60は、電流センサー70a、70b、70cから誘導電動機2の相電流を、第1座標変換部30から静止座標界のd軸及びq軸電圧を受信して、誘導電動機2の回転子の速度と回転子の位置を推定することができる。
【0042】
電流指令修正部80は、電流指令生成部10の出力である同期座標系のd軸及びq軸電流指令と、回転子速度及び位置推定部60の回転子の磁束速度を受信して、同期座標系のd軸及びq軸電流指令を修正することができる。
【0043】
以下、
図4の制御装置1の動作を説明し、この中電流指令修正部80を除いた構成要素の動作は、
図1〜
図3を参照して説明したのと同様であるため、主に電流指令修正部80の動作を説明する。
【0044】
まず、誘導電動機2の定常状態(steady state)トルク式は、下記の通りである。この時、d軸電流は、磁束電流に該当し、q軸電流は、トルク電流に該当する。
【数9】
【0046】
また、誘導電動機2の駆動で、回転子磁束角は下記の通り決定できる。
【数11】
【0047】
式(9)で、誘導電動機2のd軸電流を変化させると、トルク指令を満たすためにq軸電流が変化するが、特にd軸電流を減らすとq軸電流の大きさが増加して、結果的に式(10)の関係によってスリップ周波数の大きさが大きくなり、式(11)の関係によって同じ回転子速度で回転子磁束角が速く変わることになる。
【0048】
本発明は、このような現象を利用して、d軸電流(磁束電流)の大きさを減らして安定的に誘導電動機2を制御するためのものであり、本発明の電流指令修正部80は、下記の四つの条件を持って同期座標系のd軸及びq軸電流を修正することができる。
1.電流制限条件
2.電圧制限条件
3.スリップ周波数条件
4.励磁電流条件
【0049】
まず、電流制限条件は下記の式のように表現することができる。
【数12】
【0050】
もし、d軸電流をK倍(0<K≦1の実数)だけ変化させると、式(12)は、下記の通り表現することができる。
【数13】
【0051】
これから、定数Kの範囲を下記の通り求めることができる。
【数14】
【0052】
次に、電圧制限条件について調べると下記の通りである。
【数15】
【0053】
式(15)は、下記の式で近似化することができる。
【数16】
【0054】
式(16)から、下記の条件を設定することができる。
【数17】
【数18】
【0055】
次に、スリップ周波数条件に対し調べれば下記の通りである。
【0056】
式(10)からスリップ周波数条件は、下記式のように示すことができる。
【数19】
【0057】
式(19)は、一定トルク指令に対してスリップ周波数が定格スリップ周波数に対してM倍以下に維持されるのを意味し、通常Mは下記条件を満たす。
【数20】
【0058】
式(20)は、修正された電流指令から誘導電動機2のスリップ周波数が定格スリップ周波数の2倍以下に制御されるようにするためのものであり、式(20)の範囲は、誘導電動機2の種類によって変更されてもよい。
【0059】
これから、下記の条件を求めることができる。
【数21】
【0060】
最後に、励磁電流条件について調べると下記の通りである。
【0061】
誘導電動機20の制御は、通常励磁(excitation)が十分である場合、不安定になるので、誘導電動機2により最小励磁電流を下記の通り選定することができる。
【数22】
【0062】
式(22)では、最小励磁電流の比を定格励磁電流対比20%に選定した例を説明したが、これは誘導電動機2により変更されてもよい。
【0063】
式(14)、式(17)、式(18)及び式(22)からKの範囲を下記の通り求めることができる。
【数23】
【0064】
前記で、Max関数は最大値を探す関数であり、min関数は最小値を探す関数である。
【0065】
本発明では、K値を式(23)の範囲を満たす最小値に選定することによって、スリップ周波数が最大になるようにする。これにより、電流指令生成部10が生成した電流指令から一定トルクを維持する同期座標系のd軸及びq軸電流指令は、下記の式のように修正できる。
【数24】
【数25】
【0066】
図5は、
図4の電流指令修正部の一実施形態詳細構成図である。
【0067】
図面に示したように、本発明の制御装置1の電流指令修正部80は、K決定部81及び掛け算部82a、82bを含んでもよい。
【0068】
K決定部81は、前記で説明した制限条件により決定された式(23)によってKを決め、掛け算部82a、82bは、Kを利用して式(24)及び式(25)のように修正された電流指令を出力することができる。
【0069】
このように、本発明によると、スリップ周波数が増加すると、式(11)の関係により回転子磁束角の周波数が速くなって、回転子速度及び位置推定部60に印加される電圧と電流の周波数が増加するので、同じ回転子速度に対しても安定的に回転子速度及び位置を推定することができる。
【0070】
即ち、本発明は、一定トルク指令でスリップ周波数を最大になるようにすることによって、低速及び低トルクで誘導電動機の性能を向上することができる。
【0071】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、これは例示的なものに過ぎず、当分野で通常の知識を有する者であれば、これらから多様な変形及び均等な範囲の実施形態が可能であることを理解するであろう。従って、本発明の真の技術的保護範囲は、下記の特許請求範囲によって定まらなければならない。