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特開2015-216859マッシュルーム栽培用培地およびマッシュルームの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-216859(P2015-216859A)
(43)【公開日】2015年12月7日
(54)【発明の名称】マッシュルーム栽培用培地およびマッシュルームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 1/04 20060101AFI20151110BHJP
【FI】
   A01G1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-101177(P2014-101177)
(22)【出願日】2014年5月15日
(71)【出願人】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】512222909
【氏名又は名称】MFフィード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100133260
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 基子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】原田 陽
(72)【発明者】
【氏名】長尾 秀則
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 仁志
【テーマコード(参考)】
2B011
【Fターム(参考)】
2B011AA05
2B011BA06
2B011BA10
2B011BA13
2B011BA14
2B011BA15
(57)【要約】
【課題】 子実体の発生初期で間引きなどを行わずとも、大粒のマッシュルームを収率よく簡便に製造し、マッシュルームのエルゴチオネイン濃度を増加させ、また、大量に発生する牛糞堆肥を有効利用することができるマッシュルーム栽培用培地およびマッシュルームの製造方法を提供する。
【解決手段】 牛糞堆肥および馬糞堆肥を所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地およびこれを用いるマッシュルームの製造方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛糞堆肥および馬糞堆肥を所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地。
【請求項2】
前記堆肥混合物における馬糞堆肥の重量割合が75(w/w)%未満である、請求項1に記載のマッシュルーム栽培用培地。
【請求項3】
核酸を添加した、請求項1または請求項2に記載のマッシュルーム栽培用培地。
【請求項4】
核酸の添加量が、前記マッシュルーム栽培用培地1kg当たり0.6g以上6g以下である、請求項3に記載のマッシュルーム栽培用培地。
【請求項5】
アミノ酸を添加した、請求項1から請求項4のいずれかに記載のマッシュルーム栽培用培地。
【請求項6】
前記牛糞堆肥が堆肥化期間が4ヶ月より長い牛糞堆肥である、請求項1から請求項5のいずれかに記載のマッシュルーム栽培用培地。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のマッシュルーム栽培用培地を用いてマッシュルームを栽培する工程を含むマッシュルームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッシュルーム栽培用培地およびマッシュルームの製造方法に関し、特に、牛糞堆肥および馬糞堆肥を所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地およびこれを用いるマッシュルームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーマーケットなどで一般的に市販されているマッシュルームの多くは、1個当たりの生重量が15g以下(Sサイズ)の小粒のものである。一方、Sサイズより大粒のものは商品価値が高く、高値で取引されることから、大粒のマッシュルームを収率よく簡便に製造する方法が求められている。
【0003】
ここで、マッシュルームは、一般に、堆肥を培地として栽培され、堆肥としては馬厩肥の敷藁に由来するもの、すなわち馬糞堆肥が最も適するとされている。従来のマッシュルームの栽培方法では、小粒のマッシュルームが集中的に発生することから、大粒のマッシュルームを製造するためには、子実体の発生初期で間引きを行う必要があり、多大な時間や労働力といったコストを要している。
【0004】
一方、家畜排泄物の60%は牛糞であり、牛糞を含む敷料は堆肥化が行われ、種々の作物の肥料や土壌改良材などに利用されているが、その発生量が膨大であるため、さらなる使途の開発が求められている。
【0005】
この点、牛糞堆肥をマッシュルームの栽培に活用する試みがなされており、特許文献1には牛糞オガクズを培地に用いるマッシュルームの栽培方法が、非特許文献1には乾燥牛糞あるいは牛糞堆肥を培地に用いるマッシュルームの栽培方法が、それぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3−60457号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本きのこ学会誌、2004年7月25日、第12巻、第2号、第99〜104頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および非特許文献1に記載のマッシュルームの栽培方法は、牛糞堆肥の有効利用という課題に対しては一定の解決策を提供するものの、大粒のマッシュルームを収率よく簡便に栽培するという課題に対しては、何ら解決策を提供するものでない。
【0009】
本発明は、上述した市場ニーズと従来の問題点を解決するためになされたものであって、大粒のマッシュルームを収率よく簡便に製造し、また、大量に発生する牛糞堆肥を有効利用することができるマッシュルーム栽培用培地およびマッシュルームの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、マッシュルーム栽培用培地として牛糞堆肥および馬糞堆肥を所定の割合で混合してなる堆肥混合物を用いることにより、全収量が増加するとともに、大粒のマッシュルームの割合が増加すること、およびマッシュルームのエルゴチオネイン濃度を増加させることができることを見出して、下記の各発明を完成した。
【0011】
(1)本発明に係るマッシュルーム栽培用培地は、牛糞堆肥および馬糞堆肥を所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含む。
【0012】
(2)本発明に係るマッシュルーム栽培用培地においては、前記堆肥混合物における馬糞堆肥の重量割合が75(w/w)%未満であることが好ましい。
【0013】
(3)本発明に係るマッシュルーム栽培用培地には、核酸を添加することが好ましい。
【0014】
(4)本発明に係るマッシュルーム栽培用培地に、核酸を添加する場合の核酸の添加量は、前記マッシュルーム栽培用培地1kg当たり0.6g以上6g以下であることが好ましい。
【0015】
(5)本発明に係るマッシュルーム栽培用培地には、アミノ酸を添加することが好ましい。
【0016】
(6)本発明に係るマッシュルーム栽培用培地においては、前記牛糞堆肥の堆肥化期間が4ヶ月より長いことが好ましい。
【0017】
(7)本発明に係るマッシュルームの製造方法は、(1)から(6)のいずれかに記載のマッシュルーム栽培用培地を用いてマッシュルームを栽培する工程を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るマッシュルーム栽培用培地やマッシュルームの製造方法によれば、子実体の発生初期で間引きなどを行わずとも、大粒のマッシュルームを収率よく簡便に製造することやマッシュルームのエルゴチオネイン濃度を増加させることができるとともに、大量に発生する牛糞堆肥を有効利用する使途を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】牛糞堆肥と馬糞堆肥とを所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地(C25H、C50H)、牛糞堆肥のみを培地基材としたマッシュルーム栽培用培地(C)および馬糞堆肥のみを培地基材としたマッシュルーム栽培用培地(H)をそれぞれ用いて栽培した子実体(マッシュルーム)のサイズ別収量および全収量を示す棒グラフである。棒グラフの各バーは、上部から順に、Sサイズ、Mサイズ、LサイズおよびLLサイズの収量を示す。
図2】牛糞堆肥と馬糞堆肥とを所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地(C25H、C50H)および牛糞堆肥のみを培地基材としたマッシュルーム栽培用培地(C)をそれぞれ用いて栽培したマッシュルーム、ならびに市販のマッシュルームのエルゴチオネイン濃度を示す棒グラフである。
図3】牛糞堆肥と馬糞堆肥とを所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地(C25H、C50H、C75H)および牛糞堆肥のみを培地基材としたマッシュルーム栽培用培地(C)をそれぞれ用いて栽培した子実体(マッシュルーム)のサイズ別収量および全収量を示す表および棒グラフである。棒グラフの各バーは、上部から順に、Sサイズ、Mサイズ、LサイズおよびLLサイズの収量を示す。
図4】牛糞堆肥と馬糞堆肥とを所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地に核酸(RNA−M)を添加して栽培した子実体(マッシュルーム)のサイズ別収量および全収量を示す棒グラフである。棒グラフの各バーは、上部から順に、Sサイズ、Mサイズ、LサイズおよびLLサイズの収量を示す。
図5】牛糞堆肥と馬糞堆肥とを所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地にアミノ酸(ロイシン、イソロイシン、グルタミン酸ナトリウム)を添加して栽培した子実体(マッシュルーム)のサイズ別収量および全収量を示す棒グラフである。棒グラフの各バーは、上部から順に、Sサイズ、Mサイズ、LサイズおよびLLサイズの収量を示す。
図6】堆肥化期間が6ヶ月および12ヶ月の牛糞堆肥と馬糞堆肥とを所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地(C25H−6、C50H−6、C25H−12、C50−12)ならびに堆肥化期間が6ヶ月および12ヶ月の牛糞堆肥のみを培地基材としたマッシュルーム栽培用培地(C−6、C−12)をそれぞれ用いて栽培した子実体(マッシュルーム)のサイズ別収量および全収量を示す表および棒グラフである。棒グラフの各バーは、上部から順に、Sサイズ、Mサイズ、LサイズおよびLLサイズの収量を示す。
図7】堆肥化期間が3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月および24ヶ月の馬糞堆肥と牛糞堆肥とを所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地で栽培した子実体(マッシュルーム)のサイズ別収量および全収量を示す表および棒グラフである。棒グラフの各バーは、上部から順に、Sサイズ、Mサイズ、LサイズおよびLLサイズの収量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るマッシュルーム栽培用培地およびマッシュルームの製造方法について詳細に説明する。本発明において、「マッシュルーム」は、ハラタケ属ツクリタケ(Agaricus bisporus)やAgaricus bitorquis Saccardoと同義に用いられ、ホワイト系品種、オフホワイト系品種、クリーム系品種およびブラウン系品種などの品種を含む。また、本発明において、単に「マッシュルーム」という場合、生物体としてのマッシュルームのうち、食用に供する部分(子実体)を指す場合がある。すなわち、「マッシュルーム」と「マッシュルーム子実体」は同義に用いられる場合がある。
【0021】
マッシュルームを栽培する工程は、一般に、次の(i)〜(v)のように分けられる。
(i)培地の準備;マッシュルーム栽培に適する培地を調製する。
(ii)殺菌;調製した培地を殺菌する。
(iii)種菌の接種;マッシュルームの種菌を培地に接種する。
(iv)培養;菌糸体を培養する。
(v)子実体の発生;子実体を発生させる。
【0022】
本発明に係るマッシュルーム栽培用培地は、牛糞堆肥および馬糞堆肥を所定の割合で混合してなる堆肥混合物を含み、上記(i)の工程において、マッシュルーム栽培に適する培地として用いることにより、マッシュルームの全収量を増加させる効果やマッシュルームのサイズを増大させる効果、マッシュルームのエルゴチオネイン濃度を増加させる効果を得ることができる。なお、エルゴチオネインは、含流アミノ酸の一種であり、活性酸素の働きを抑制する抗酸化作用(Arch.Biochem.Biophys.、1991年7月、第288巻、第1号、第10〜16頁)や、皮膚老化予防作用(J.Cosmet.Dermatol.、2007年9月、第6巻、第3号、第183〜188頁)、アルツハイマー病を予防する作用(Food Chem.Toxicol.、2012年11月、第50巻、第11号、第3902〜3911頁)など、人にとって有用な種々の作用効果を有することが知られている成分である。
【0023】
ここで、本発明においては、1個当たりの生重量が15gより重いものを大粒のマッシュルームとしている。例えば、後述する実施例においては、マッシュルームをLL(生重量50g以上)、L(生重量30g以上50g未満)、M(生重量15g以上30g未満)およびS(生重量15g未満)の4つのサイズに分け、Sサイズより重いM、LおよびLLサイズのマッシュルームを大粒のマッシュルームとしている。
【0024】
すなわち、本発明においては、マッシュルームのサイズの増大効果は、収穫したマッシュルームの全収量および1個当たりの生重量が15gより重いマッシュルームの収量を測定し、全収量中に占める1個当たりの生重量が15gより重いマッシュルームの収量の割合を算出することにより確認することができる。また、マッシュルームの全収量の増加効果は、マッシュルームのサイズにかかわらず、収穫した全てのマッシュルームの総重量を測定することにより、確認することができる。
【0025】
また、マッシュルームのエルゴチオネイン濃度の増加効果は、収穫したマッシュルームのエルゴチオネイン濃度を測定することにより確認することができる。ここで、マッシュルームのエルゴチオネイン濃度は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定することができる。すなわち、まず、収穫したマッシュルームを常法に従って乾燥粉末とし、これを懸濁した懸濁液を煮沸および磨砕に供することによりエルゴチオネインを抽出する。続いて、遠心分離および濾過を行って得られた抽出液を、サンプル試料とする。HPLCでは、まず、エルゴチオネインの標準試料を測定し、ピークが溶出する時間、ピーク面積および高さを確認する。続いて、標準試料の測定時と同じ条件(同じカラム、カラムサイズ、カラム温度、移動相(溶離液)組成、流量(流速)で、サンプル試料を測定する。標準試料のピークと同じ溶出時間において検出されたピークはエルゴチオネインと推定でき、ピーク面積および高さは濃度に比例するため、標準試料の測定結果に基づいて検量線を作成し、当該検量線を用いてサンプル試料のピーク面積から、エルゴチオネイン濃度を求めることができる。
【0026】
本発明において「堆肥」は、微生物によって有機物を完全にまたは部分的に分解(発酵)した肥料をいい、「コンポスト」と同義で用いられる。また、「堆肥化」とは堆肥を作ることをいい、「堆肥化期間」とは、堆肥化に要した期間をいう。
【0027】
また、本発明において「牛糞堆肥」とは、牛糞のみ、あるいは牛糞と副資材との混合物を堆肥化したものをいい、牛厩肥と同義で用いられる。ここで、副資材としては、例えば、牛厩舎の使用済み敷料や飼料残渣のほか、堆肥化工程における発酵促進などを目的として添加されるもの(稲藁や麦藁などの藁、オガクズ、樹皮、籾殻、ゼオライト、ビール粕や石膏、硫安、尿素、過リン酸石灰、炭酸カルシウム、水など)を挙げることができる。
【0028】
また、本発明において「馬糞堆肥」とは、馬糞のみ、あるいは馬糞と副資材との混合物を堆肥化したものをいい、馬厩肥と同義で用いられる。ここで、副資材としては、例えば、馬厩舎の使用済み敷料や飼料残渣のほか、堆肥化工程における発酵促進などを目的として添加されるもの(稲藁や麦藁などの藁、オガクズ、樹皮、籾殻、ゼオライト、ビール粕や石膏、硫安、尿素、過リン酸石灰、炭酸カルシウム、水など)を挙げることができる。
【0029】
牛糞や馬糞などの家畜糞、あるいは家畜糞と副資材との混合物(以下、まとめて「原料糞」という。)の堆肥化は、例えば、当該原料糞を野積みにして、適宜切り返しや攪拌を行いながら一定期間置くことにより行うことができる。切り返しや攪拌により微生物に酸素が供給され、一定期間置くことにより発酵が進行して、当該原料糞が堆肥に変化するという原理による。堆肥化は、雨よけの屋根や隔壁、乾燥設備、攪拌設備、通気設備、脱臭設備、温度調節設備、湿度調節設備などを備えた堆肥化施設にて行ってもよい。
【0030】
本発明において、堆肥化期間は、牛糞堆肥や馬糞堆肥における所望の含有成分の量、堆肥化の設備などの環境、堆肥化を行う季節、栽培するマッシュルームの種類や所望のサイズ、所望の収量などに応じて適宜設定することができるが、牛糞堆肥の堆肥化期間については、子実体を適切に発生させる点からは4ヶ月より長いことが好ましく、マッシュルームの全収量の増加効果やマッシュルームのサイズの増大効果が得られる点からは12ヶ月以下であることが好ましい。
【0031】
本発明に係るマッシュルーム栽培用培地においては、堆肥混合物中の牛糞堆肥と馬糞堆肥との混合割合は、牛糞堆肥の堆肥化期間、馬糞堆肥の堆肥化期間、牛糞堆肥の含有成分、馬糞堆肥の含有成分、マッシュルームの種類や所望のサイズ、所望の収量などに応じて適宜設定することができるが、マッシュルームの全収量の増加効果やマッシュルームのサイズの増大効果が得られる点から、前記堆肥混合物における馬糞堆肥の重量割合が75(w/w)%未満であることが好ましく、5(w/w)%以上70(w/w)%以下、10(w/w)%以上65(w/w)%以下、15(w/w)%以上60(w/w)%以下、20(w/w)%以上55(w/w)%以下であることがより好ましい。特に、後述する実施例2および図3では、前記堆肥混合物における馬糞堆肥の重量割合が50(w/w)%の場合に顕著なマッシュルームの全収量の増加効果やマッシュルームのサイズの増大効果が得られ、前記堆肥混合物における馬糞堆肥の重量割合が75(w/w)%の場合に当該効果がほとんど得られなかったことから、前記堆肥混合物における馬糞堆肥の重量割合が62.5(w/w)%以下であることがよりさらに好ましいと合理的に推察される。また、マッシュルームのエルゴチオネイン濃度の増加効果が得られる点からは、前記堆肥混合物における馬糞堆肥の重量割合が50(w/w)%未満であることが好ましく、5(w/w)%以上45(w/w)%以下、5(w/w)%以上40(w/w)%以下、5(w/w)%以上35(w/w)%以下、5(w/w)%以上30(w/w)%以下であることがより好ましい。
【0032】
また、本発明に係るマッシュルーム栽培用培地には、マッシュルームの全収量の増加効果やマッシュルームのサイズの増大効果をより大きくすることができる点から、核酸を添加することが好ましい。ここで、核酸はリボ核酸(RNA)でもデオキシリボ核酸(DNA)でもよく、その配列や塩基長も特に限定されない。例えば、後述する実施例においては、酵母から抽出したRNAを本発明に係るマッシュルーム栽培用培地に添加している。
【0033】
本発明に係るマッシュルーム栽培用培地に核酸を添加する場合の添加量は、マッシュルームの全収量の増加効果やマッシュルームのサイズの増大効果を大きくする効果が十分に得られる点から、マッシュルーム栽培用培地1kg当たり0.6g以上6g以下であることが好ましい。
【0034】
また、本発明に係るマッシュルーム栽培用培地には、マッシュルームのサイズの増大効果を大きくすることができる点から、アミノ酸を添加することが好ましい。ここで、添加するアミノ酸の種類は特に限定されず、例えば、システイン、ヒスチジン、イソロイシン、メチオニン、セリン、バリン、アラニン、グリシン、ロイシン、プロリン、トレオニン、フェニルアラニン、アルギニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン酸塩、グルタミンおよびリシン、あるいはこれらのうちから選択される2以上とすることができる。
【0035】
本発明に係るマッシュルーム栽培用培地には、上述した牛糞堆肥および馬糞堆肥を所定の割合で混合してなる堆肥混合物や核酸、アミノ酸のほか、本発明に係るマッシュルーム栽培用培地の特徴を損なわない限り、フスマ、水分などを添加してもよい。
【0036】
本発明において、「牛糞堆肥」は、牛糞のみ、あるいは牛糞と副資材との混合物を堆肥化したものであればよく、その物性や含有成分は特に限定されない。また、「馬糞堆肥」は、馬糞のみ、あるいは馬糞と副資材との混合物を堆肥化したものであればよく、その物性や含有成分は特に限定されない。また、「マッシュルーム栽培用培地」も、牛糞堆肥および馬糞堆肥を所定の割合で混合してなるものであればよく、その物性や含有成分は特に限定されない。
【0037】
なお、「牛糞堆肥」、「馬糞堆肥」および「マッシュルーム栽培用培地」の物性や含有成分は常法に従って測定することができ、例えば、独立行政法人農林水消費安全技術センター発行の「肥料等試験法(2013)」(https://www.famic.go.JP/ffis/fert/bunseki/sub9_shiken2013.html)に記載の方法により、pH、電気伝導率、粒度、水分、油分、灰分、窒素、りん酸(P)、加里(KO)、けい酸(SiO)、苦土(MgO)、マンガン(MnO)、ほう素(B)、硫黄分(SO)、石灰(CaO)、亜鉛、銅、鉄、モリブデンなどの含有量や炭素窒素比(C/N)、有機物含有量を測定することができる。
【0038】
具体的には、例えば、窒素全量(T−N)は、硫酸、硫酸カリウムおよび硫酸銅(II)五水和物を試料に加え、ケルダール分解法で前処理して試料中の全窒素をアンモニウムイオンにし、水酸化ナトリウム溶液を加えて水蒸気蒸留する。分離したアンモニウムイオンを中和滴定法で測定することにより、試料中のT−Nを求めることができる(ケルダール法)。
また、りん酸全量(T−P)は、硫酸、硫酸カリウム及び硫酸銅(II)五水和物を試料に加え、ケルダール分解法または灰化−塩酸煮沸法で前処理し、試料中の全りんをりん酸イオンにし、バナジン(V)酸アンモニウム、七モリブデン酸六アンモニウムおよび硝酸と反応して生ずるりんバナドモリブデン酸塩の吸光度を測定することにより、試料中のT−Pを求めることができる(バナドモリブデン酸アンモニウム吸光光度法)。
また、加里全量(T−KO)は、試料を灰化および塩酸で前処理し、試料中の全加里をカリウムイオンにし、干渉抑制剤溶液を加えた後、アセチレン−空気フレーム中に噴霧し、カリウムによる原子吸光を波長766.5nm または769.9nmで測定することにより、試料中のT−KOを求めることができる(フレーム原子吸光法)。
また、炭素窒素比(C/N)は、まず、二クロム酸カリウム−硫酸溶液を試料に加えて加熱し、有機炭素を二クロム酸カリウムで酸化した後、消費されなかった二クロム酸カリウムを酸化還元滴定法で定量して、試料中の有機炭素の割合を求める(二クロム酸酸化法)。続いて、この有機炭素の割合を上述のケルダール法により求めた窒素全量の割合で除することにより、試料の炭素窒素比(C/N)を算出することができる。
また、有機物含有量は、まず、試料を電気炉で強熱して、試料中の強熱残分(灰分)の割合(%)を測定し(強熱残分法)、この値を100から減ずることにより算出することができる。
【0039】
次に、本発明に係るマッシュルームの製造方法は、
(A)本発明に係るマッシュルーム栽培用培地を用いてマッシュルームを栽培する工程
を含む。本発明に係るマッシュルームの製造方法において、上述した本発明に係るマッシュルーム栽培用培地と同等または相当する構成については、再度の説明を省略する。
【0040】
(A)の本発明に係るマッシュルーム栽培用培地を用いてマッシュルームを栽培する工程は、本発明に係るマッシュルーム栽培用培地を用いる他は、上述した一般的なマッシュルームの栽培工程の(i)〜(v)に従って行うことができる。
【0041】
具体的には、例えば、(i)培地の準備工程では、マッシュルーム栽培に適する培地として本発明に係るマッシュルーム栽培用培地を調製する。続いて、(ii)殺菌工程では、本発明に係るマッシュルーム栽培用培地をプラスチックコンテナなどの栽培容器に充填し、蒸気などを用いて60℃程度の高温下に3〜5時間置くことにより殺菌を行う。次に(iii)種菌の接種工程では、殺菌した培地にマッシュルームの種菌を接種する。続いて、(iv)培養工程では、温度20〜25℃、相対湿度50〜80%、暗条件下で培地全体に菌糸体が蔓延するまで3週間程度培養する。その後、(v)子実体の発生工程では、覆土して約1週間追培養した後、覆土攪拌(菌かき)を行い、温度15〜20℃、相対湿度85%程度、間欠照明の条件下で子実体を発生させることにより、マッシュルームを製造することができる。
【0042】
以下、本発明に係るマッシュルーム栽培用培地およびマッシュルームの製造方法について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、当該実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0043】
<実施例1>堆肥混合物の効果の検討
(1)牛糞堆肥および馬糞堆肥の製造
まず、牛糞および牛厩舎の使用済み敷料の混合物に、スギの樹皮を破砕したものを同重量混合した後、散水して水分量を60〜65%(w/w)に調整した。これを、まず、屋外に一定期間置いたのち、水分量の調節を容易にするため雨よけの屋根の下に移動させて一定期間置くことにより堆肥化して、牛糞堆肥を製造した。置いた期間(堆肥化期間)は計12ヶ月とした。堆肥化期間中は、適宜散水して水分量を60〜65%(w/w)に保ちながら、1ヶ月に1〜2回の頻度で切り返しを行った。
【0044】
また、馬糞および馬厩舎の使用済み敷料の混合物に散水して水分量を60〜65%(w/w)に調整した。これを、まず、屋外に一定期間置いた後、水分量の調節を容易にするため雨よけの屋根の下に移動させて一定期間置くことにより堆肥化して、馬糞堆肥を製造した。堆肥化期間は1ヶ月とした。堆肥化期間中は、適宜散水して水分量を60〜65%(w/w)に保ちながら、3〜4日に1回の頻度で切り返しを行った。
【0045】
製造した牛糞堆肥および馬糞堆肥について、水素イオン濃度指数(pH)、窒素全量(T−N)、りん酸全量(T−P)、加里全量(T−KO)、炭素窒素比(C/N)および有機物含有量を測定した。その結果を表1に示す。表1中、窒素全量、りん酸全量、加里全量、炭素窒素比および有機物含有量は、いずれも乾物計算にて算出した値であり、%は質量分率である。
【0046】
【表1】
【0047】
なお、pHの測定は、牛糞堆肥および馬糞堆肥それぞれ10gをとり、25mLの蒸留水を加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌後、上清のpHをpHメーターを用いて測定することにより行った。また、窒素全量は独立行政法人農林水消費安全技術センター発行の「肥料等試験法(2013)」(https://www.famic.go.JP/ffis/fert/bunseki/sub9_shiken2013.html)第26〜31頁の4.1.1aケルダール法により、りん酸全量は同文献第71〜75頁の4.2.1aバナドモリブデン酸アンモニウム吸光光度法により、加里全量は同文献第104〜106頁の4.3.1aフレーム原子吸光法により測定した。また、炭素窒素比は、まず、同文献第206〜208頁の4.11.1a二クロム酸酸化法により有機炭素の割合(%)を測定し、続いて、同文献第213頁の4.11.2に記載の方法により炭素窒素比を算出した。また、有機物含有量は、まず、同文献第17頁の3.2a強熱残分法により強熱残分(灰分)の割合(%)を測定し、この値を100から減ずることにより算出した。
【0048】
(2)マッシュルームの全体収量およびサイズの検討
C区、C25H区、C50H区およびH区の4つの試験区を設定した。各試験区ごとに、表2に示す割合で本実施例1(1)の牛糞堆肥および馬糞堆肥ならびにフスマ(江別製粉社)を撹拌混合し、水9.6kgを加えて、培地全重量当たりの水分量を60(w/w)%に調整することにより、マッシュルーム栽培用培地を作成した。以下、牛糞堆肥および馬糞堆肥を混合したものを「堆肥混合物」という。また、以下の表2〜9において、牛糞堆肥、馬糞堆肥およびフスマの重量は絶乾重量である。
【0049】
【表2】
【0050】
次に、作成したマッシュルーム栽培用培地を60℃の蒸気に3時間晒すことにより殺菌を行った。一晩放冷した後、殺菌後の培地の水素イオン濃度指数(pH)を測定した。pHの測定は、10gの培地をとり、25mLの蒸留水を加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌後、上清のpHをpHメーターを用いて測定することにより行った。続いて、殺菌後の培地を縦39cm×横59cm×深さ13cmのコンテナに充填した。マッシュルームの穀粒種菌(ブラウン系品種;「日農100号」日本農林種菌社)を400g(培地全重量の2.5(w/w)%)接種し、温度22±1℃、相対湿度70±5%、暗条件下で14日間培養した。続いて、培地の上部が2〜3cmの厚さで覆われるように覆土した。覆土には、水と全重量に対して2.5(w/w)%の炭酸カルシウムとを添加したピートモスを用いた。その後、温度22±1℃の条件下で14日間追培養した。続いて、覆土の攪拌(菌かき)を行った後、温度16±1℃、相対湿度85±5%、1日12時間の明条件(照度約350ルクス)および12時間の暗条件下で子実体の発生および生育を行った。子実体は、試験区毎に、内皮膜が切れる直前に収穫を行った。収穫した子実体をLL(生重量50g以上)、L(生重量30g以上50g未満)、M(生重量15g以上30g未満)およびS(8生重量15g未満)の4つのサイズに分け、各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した。以上の実験を3回繰り返し行い、平均値および標準偏差を算出した。その結果を図1に示す。
【0051】
図1に示すように、全収量は、C区では1206g、C25H区では1358g、C50H区では1368gおよびH区では676gであった。また、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C区では1206−647=559g、C25H区では1358−600=758g、C50H区では1368−616=752gおよびH区では676−377=299gであった。すなわち、C25H区およびC50H区では、C区およびH区と比較して、全収量が大きくなるとともに、Mサイズ以上の収量が大きくなることが明らかになった。これらの結果から、マッシュルーム栽培用培地に牛糞堆肥と馬糞堆肥とを混合してなる堆肥混合物を用いることにより、マッシュルームの全体収量を増加させること、および、マッシュルームのサイズを大粒化させることができることが示された。
【0052】
(3)エルゴチオネイン濃度の検討
C区、C25H区およびC50H区の3つの試験区を設定し、本実施例1(2)と同様の方法により、マッシュルームを栽培して収穫した。また、市販のブラウン系品種のマッシュルームを用意した。凍結乾燥機を用いてこれらのマッシュルームを凍結乾燥した後、粉末化して、乾燥粉末を得た。乾燥粉末1gを40mLの蒸留水に懸濁して懸濁液とした後、5分かけて加熱して沸騰させ、その後、5分間煮沸した。氷冷した後、懸濁液をフードミキサーに供し、30秒間磨砕することにより、磨砕液を得た。磨砕液を5000×gで20分間遠心分離に供し、上清を回収して5A濾紙により濾過し、濾液を回収した。濾液をエバポレーターに供して濃縮した後、10mLの容量となるよう蒸留水を加えることによりサンプルを調製した。これを下記の条件のHPLC(Prominenceシステム;島津製作所社)に供することにより、マッシュルーム子実体の乾燥粉末1g当たりのエルゴチオネイン濃度(mg/g)を測定した。その結果を図2に示す。
【0053】
カラム:Devolsil ODS−HG−5(4.6×250mm×2;野村化学社)
カラム温度:25℃
溶離液:0.1%(w/v)トリエチルアミン
流速:0.8mL/分
検出:SHIMADZU SPD−M20A PDA検出器
【0054】
図2に示すように、エルゴチオネイン濃度は、C区では3.71mg/g、C25H区では3.89mg/g、C50H区では2.78mg/gおよび市販のマッシュルームでは2.88mg/gであった。すなわち、C25H区では、C区および市販のマッシュルームと比較して、エルゴチオネイン濃度が大きいことが明らかになった。これらの結果から、マッシュルーム栽培用培地に牛糞堆肥と馬糞堆肥とを所定の割合で混合してなる堆肥混合物を用いることにより、マッシュルームのエルゴチオネイン濃度を増加させることができることが示された。
【0055】
<実施例2>牛糞堆肥および馬糞堆肥の混合割合の検討
C区、C25H区、C50H区およびC75H区の4つの試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、牛糞堆肥の堆肥化期間は6ヶ月とした。また、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表3のとおりとした。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を図3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
図3に示すように、全収量は、C区では760g、C25H区では925g、C50H区では1209gおよびC75H区では525gであった。また、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C区では742g、C25H区では891g、C50H区では1142gおよびC75H区では488gであった。すなわち、C25H区およびC50H区では、C区と比較して、全収量が大きくなるとともに、Mサイズ以上の収量が大きくなった。これに対して、C75H区では、C区と比較して、全収量が小さくなり、Mサイズ以上の収量も小さくなった。これらの結果から、堆肥混合物における馬糞堆肥の重量割合が75(w/w)%未満の場合に、マッシュルームの全体収量を増加させる効果やマッシュルームのサイズを大粒化する効果が大きくなることが示された。
【0058】
<実施例3>核酸添加の影響の検討
C区、R1区、R2区、R3区およびR4区の5つの試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表4のとおりとし、核酸(「RNA−M」日本製紙社)を添加したマッシュルーム栽培用培地を作成した。また、マッシュルームの穀粒種菌は、ブラウン系品種(「日農100号」日本農林種菌社)とホワイト系品種(「日農118号」日本農林種菌社)とを用いた。また、暗条件下での培養は14日間に代えて21日間とし、覆土後の追培養は14日間に代えて7日間とし、実験の繰り返し数は3回に代えて6回とした。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を図4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
図4の左側に示すように、ブラウン系品種の全収量は、C区では358g、R1区では317g、R2区では342g、R3区では373gおよびR4区では351gであった。また、ブラウン系品種のMサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C区では201g、R1区では217g、R2区では250g、R3区では274gおよびR4区では247gであった。
【0061】
また、図4の右側に示すように、ホワイト系品種の全収量は、C区では262g、R1区では302g、R2区では301g、R3区では336gおよびR4区では287gであった。また、ホワイト系品種のMサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C区では103g、R1区では100g、R2区では119g、R3区では131gおよびR4区では95gであった。
【0062】
すなわち、R1区〜R4区では、C区と比較して、マッシュルームの全体収量が大きくなるとともに、Mサイズ以上の収量が大きくなる傾向があることが明らかになった。また、全体収量が大きくなる効果や、Mサイズ以上の収量が大きくなる効果は、R3区の場合に特に大きいことが明らかになった。これらの結果から、牛糞堆肥および馬糞堆肥を混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地に核酸を添加すると、マッシュルームの全体収量を増加させる効果やマッシュルームのサイズを大粒化する効果が大きくなることが示された。また、牛糞堆肥および馬糞堆肥を混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地2.5kg当たりの核酸の添加量が1.5g以上15g以下の場合(マッシュルーム栽培用培地1kg当たりの核酸の添加量が0.6g以上6g以下の場合)に、全体収量を増加させる効果やサイズを大粒化する効果が大きくなることが示された。
【0063】
<実施例4>アミノ酸添加の影響の検討
C区、L1〜3区、IL1〜3区およびG1〜3区の10の試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表5のとおりとし、ロイシン(プロテインケミカル社)、イソロイシン(プロテインケミカル社)およびグルタミン酸ナトリウム(関東化学社)を添加したマッシュルーム栽培用培地を作成した。また、暗条件下での培養は14日間に代えて21日間とし、覆土後の追培養は14日間に代えて7日間とし、実験の繰り返し数は3回に代えて6回とした。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を図5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
図5に示すように、全収量は、C区では358g、L1区では340g、L2区では353g、L3区では305g、IL1区では350g、IL2区では327g、IL3区では263g、G1区では339g、G2区では313gおよびG3区では278gであった。また、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C区では201g、L1区では249g、L2区では236g、L3区では236g、IL1区では213g、IL2区では217g、IL3区では206g、G1区では216g、G2区では226gおよびG3区では190gであった。
【0066】
すなわち、L1〜3区、IL1〜3区およびG1〜3区では、C区と比較して、マッシュルームの全体収量はほとんど変わらない一方で、Mサイズ以上の収量が大きくなる傾向があることが明らかになった。特にロイシンを添加したL1〜3区の場合に、サイズ増大傾向が顕著であった。これらの結果から、牛糞堆肥および馬糞堆肥を混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地にアミノ酸を添加すると、マッシュルームのサイズを大粒化することができることが示された。
【0067】
<実施例5>牛糞堆肥の堆肥化期間の検討
(1)牛糞堆肥のみを培地基材としたマッシュルーム栽培用培地での検討
C2区、C4区およびC6区の3つの試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、牛糞堆肥の堆肥化期間は2ヶ月、4ヶ月および6ヶ月とした。また、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表6のとおりとし、馬糞堆肥は混合せずに、牛糞堆肥のみを培地基材としたマッシュルーム栽培用培地を作成した。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を表7に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
表7に示すように、全収量は、C2区およびC4区では0gであったのに対して、C6区では133.8gであった。また、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C2区およびC4区では0gであったのに対して、C6区では98.1gであった。すなわち、牛糞堆肥の堆肥化期間が2ヶ月および4ヶ月の場合はマッシュルームが収穫できなかったのに対して、堆肥化期間が6ヶ月の場合はマッシュルームが収穫できたことが明かになった。これらの結果から、マッシュルーム栽培用培地に用いる牛糞堆肥の堆肥化期間は、4ヶ月より長いことが好ましいことが示された。
【0071】
(2)堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地での検討
C−6区、C25H−6区、C50H−6区、C−12区、C25H−12区およびC50H−12区の6つの試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、牛糞堆肥の堆肥化期間は6ヶ月および12ヶ月とした。また、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表8のとおりとした。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を図6に示す。
【0072】
【表8】
【0073】
図6に示すように、全収量は、C−6区では331gであったのに対して、C−12区では240gであった。また、C25H−6区では385gであったのに対して、C25H−12区では307gであった。また、C50H−6区では492gであったのに対して、C50H−12区では263gであった。次に、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)を比較したところ、C−6区では231gであったのに対して、C−12区では130gであった。また、C25H−6区では277gであったのに対して、C25H−12区では173gであった。また、C50H−6区では284gであったのに対して、C50H−12区では111gであった。
【0074】
すなわち、牛糞堆肥の堆肥化期間が6ヶ月の場合は、12ヶ月の場合と比較して、マッシュルームの全体収量が大きくなること、および、マッシュルームが大粒化することが明らかになった。これらの結果から、マッシュルームの全体収量の増加効果およびサイズ増大効果の観点においては、堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地に用いる牛糞堆肥の堆肥化期間は、12ヶ月以下が好ましいことが示された。
【0075】
<実施例6>馬糞堆肥の堆肥化期間の検討
C10H−3区、C20H−3区、C50H−3区、C10H−6区、C20H−6区、C50H−6区、C10H−12区、C20H−12区、C50H−12区、C10H−24区、C20H−24区およびC50H−24区の12の試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、馬糞堆肥の堆肥化期間は3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月および24ヶ月とした。また、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表9のとおりとした。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を図7に示す。
【0076】
【表9】
【0077】
図7に示すように、全収量は、C10H−3区では255g、C10H−6区では269g、C10H−12区では250gおよびC10H−24区では250gであった。また、C20H−3区では298g、C20H−6区では268g、C20H−12区では250gおよびC20H−24区では224gであった。また、C50H−3区では265g、C50H−6区では236g、C50H−12区では215gおよびC50H−24区では136gであった。
【0078】
次に、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C10H−3区では166g、C10H−6区では166g、C10H−12区では159gおよびC10H−24区では163gであった。また、C20H−3区では194g、C20H−6区では137g、C20H−12区では100gおよびC20H−24区では135gであった。また、C50H−3区では160g、C50H−6区では104g、C50H−12区では123gおよびC50H−24区では38gであった
【0079】
すなわち、堆肥混合物中の馬糞堆肥の重量割合が10(w/w)%の場合は、マッシュルームの全体収量およびサイズ別収量は、馬糞堆肥の堆肥化期間にかかわらず、ほぼ同じ値であることが明らかになった。これに対して、堆肥混合物中の馬糞堆肥の重量割合が20(w/w)%および50(w/w)%の場合は、馬糞堆肥の堆肥化期間が短い方が、マッシュルームの全体収量が大きくなり、マッシュルームが大粒化する傾向があることが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7