【実施例】
【0043】
<実施例1>堆肥混合物の効果の検討
(1)牛糞堆肥および馬糞堆肥の製造
まず、牛糞および牛厩舎の使用済み敷料の混合物に、スギの樹皮を破砕したものを同重量混合した後、散水して水分量を60〜65%(w/w)に調整した。これを、まず、屋外に一定期間置いたのち、水分量の調節を容易にするため雨よけの屋根の下に移動させて一定期間置くことにより堆肥化して、牛糞堆肥を製造した。置いた期間(堆肥化期間)は計12ヶ月とした。堆肥化期間中は、適宜散水して水分量を60〜65%(w/w)に保ちながら、1ヶ月に1〜2回の頻度で切り返しを行った。
【0044】
また、馬糞および馬厩舎の使用済み敷料の混合物に散水して水分量を60〜65%(w/w)に調整した。これを、まず、屋外に一定期間置いた後、水分量の調節を容易にするため雨よけの屋根の下に移動させて一定期間置くことにより堆肥化して、馬糞堆肥を製造した。堆肥化期間は1ヶ月とした。堆肥化期間中は、適宜散水して水分量を60〜65%(w/w)に保ちながら、3〜4日に1回の頻度で切り返しを行った。
【0045】
製造した牛糞堆肥および馬糞堆肥について、水素イオン濃度指数(pH)、窒素全量(T−N)、りん酸全量(T−P
2O
5)、加里全量(T−K
2O)、炭素窒素比(C/N)および有機物含有量を測定した。その結果を表1に示す。表1中、窒素全量、りん酸全量、加里全量、炭素窒素比および有機物含有量は、いずれも乾物計算にて算出した値であり、%は質量分率である。
【0046】
【表1】
【0047】
なお、pHの測定は、牛糞堆肥および馬糞堆肥それぞれ10gをとり、25mLの蒸留水を加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌後、上清のpHをpHメーターを用いて測定することにより行った。また、窒素全量は独立行政法人農林水消費安全技術センター発行の「肥料等試験法(2013)」(https://www.famic.go.JP/ffis/fert/bunseki/sub9_shiken2013.html)第26〜31頁の4.1.1aケルダール法により、りん酸全量は同文献第71〜75頁の4.2.1aバナドモリブデン酸アンモニウム吸光光度法により、加里全量は同文献第104〜106頁の4.3.1aフレーム原子吸光法により測定した。また、炭素窒素比は、まず、同文献第206〜208頁の4.11.1a二クロム酸酸化法により有機炭素の割合(%)を測定し、続いて、同文献第213頁の4.11.2に記載の方法により炭素窒素比を算出した。また、有機物含有量は、まず、同文献第17頁の3.2a強熱残分法により強熱残分(灰分)の割合(%)を測定し、この値を100から減ずることにより算出した。
【0048】
(2)マッシュルームの全体収量およびサイズの検討
C区、C25H区、C50H区およびH区の4つの試験区を設定した。各試験区ごとに、表2に示す割合で本実施例1(1)の牛糞堆肥および馬糞堆肥ならびにフスマ(江別製粉社)を撹拌混合し、水9.6kgを加えて、培地全重量当たりの水分量を60(w/w)%に調整することにより、マッシュルーム栽培用培地を作成した。以下、牛糞堆肥および馬糞堆肥を混合したものを「堆肥混合物」という。また、以下の表2〜9において、牛糞堆肥、馬糞堆肥およびフスマの重量は絶乾重量である。
【0049】
【表2】
【0050】
次に、作成したマッシュルーム栽培用培地を60℃の蒸気に3時間晒すことにより殺菌を行った。一晩放冷した後、殺菌後の培地の水素イオン濃度指数(pH)を測定した。pHの測定は、10gの培地をとり、25mLの蒸留水を加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌後、上清のpHをpHメーターを用いて測定することにより行った。続いて、殺菌後の培地を縦39cm×横59cm×深さ13cmのコンテナに充填した。マッシュルームの穀粒種菌(ブラウン系品種;「日農100号」日本農林種菌社)を400g(培地全重量の2.5(w/w)%)接種し、温度22±1℃、相対湿度70±5%、暗条件下で14日間培養した。続いて、培地の上部が2〜3cmの厚さで覆われるように覆土した。覆土には、水と全重量に対して2.5(w/w)%の炭酸カルシウムとを添加したピートモスを用いた。その後、温度22±1℃の条件下で14日間追培養した。続いて、覆土の攪拌(菌かき)を行った後、温度16±1℃、相対湿度85±5%、1日12時間の明条件(照度約350ルクス)および12時間の暗条件下で子実体の発生および生育を行った。子実体は、試験区毎に、内皮膜が切れる直前に収穫を行った。収穫した子実体をLL(生重量50g以上)、L(生重量30g以上50g未満)、M(生重量15g以上30g未満)およびS(8生重量15g未満)の4つのサイズに分け、各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した。以上の実験を3回繰り返し行い、平均値および標準偏差を算出した。その結果を
図1に示す。
【0051】
図1に示すように、全収量は、C区では1206g、C25H区では1358g、C50H区では1368gおよびH区では676gであった。また、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C区では1206−647=559g、C25H区では1358−600=758g、C50H区では1368−616=752gおよびH区では676−377=299gであった。すなわち、C25H区およびC50H区では、C区およびH区と比較して、全収量が大きくなるとともに、Mサイズ以上の収量が大きくなることが明らかになった。これらの結果から、マッシュルーム栽培用培地に牛糞堆肥と馬糞堆肥とを混合してなる堆肥混合物を用いることにより、マッシュルームの全体収量を増加させること、および、マッシュルームのサイズを大粒化させることができることが示された。
【0052】
(3)エルゴチオネイン濃度の検討
C区、C25H区およびC50H区の3つの試験区を設定し、本実施例1(2)と同様の方法により、マッシュルームを栽培して収穫した。また、市販のブラウン系品種のマッシュルームを用意した。凍結乾燥機を用いてこれらのマッシュルームを凍結乾燥した後、粉末化して、乾燥粉末を得た。乾燥粉末1gを40mLの蒸留水に懸濁して懸濁液とした後、5分かけて加熱して沸騰させ、その後、5分間煮沸した。氷冷した後、懸濁液をフードミキサーに供し、30秒間磨砕することにより、磨砕液を得た。磨砕液を5000×gで20分間遠心分離に供し、上清を回収して5A濾紙により濾過し、濾液を回収した。濾液をエバポレーターに供して濃縮した後、10mLの容量となるよう蒸留水を加えることによりサンプルを調製した。これを下記の条件のHPLC(Prominenceシステム;島津製作所社)に供することにより、マッシュルーム子実体の乾燥粉末1g当たりのエルゴチオネイン濃度(mg/g)を測定した。その結果を
図2に示す。
【0053】
カラム:Devolsil ODS−HG−5(4.6×250mm×2;野村化学社)
カラム温度:25℃
溶離液:0.1%(w/v)トリエチルアミン
流速:0.8mL/分
検出:SHIMADZU SPD−M20A PDA検出器
【0054】
図2に示すように、エルゴチオネイン濃度は、C区では3.71mg/g、C25H区では3.89mg/g、C50H区では2.78mg/gおよび市販のマッシュルームでは2.88mg/gであった。すなわち、C25H区では、C区および市販のマッシュルームと比較して、エルゴチオネイン濃度が大きいことが明らかになった。これらの結果から、マッシュルーム栽培用培地に牛糞堆肥と馬糞堆肥とを所定の割合で混合してなる堆肥混合物を用いることにより、マッシュルームのエルゴチオネイン濃度を増加させることができることが示された。
【0055】
<実施例2>牛糞堆肥および馬糞堆肥の混合割合の検討
C区、C25H区、C50H区およびC75H区の4つの試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、牛糞堆肥の堆肥化期間は6ヶ月とした。また、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表3のとおりとした。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を
図3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
図3に示すように、全収量は、C区では760g、C25H区では925g、C50H区では1209gおよびC75H区では525gであった。また、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C区では742g、C25H区では891g、C50H区では1142gおよびC75H区では488gであった。すなわち、C25H区およびC50H区では、C区と比較して、全収量が大きくなるとともに、Mサイズ以上の収量が大きくなった。これに対して、C75H区では、C区と比較して、全収量が小さくなり、Mサイズ以上の収量も小さくなった。これらの結果から、堆肥混合物における馬糞堆肥の重量割合が75(w/w)%未満の場合に、マッシュルームの全体収量を増加させる効果やマッシュルームのサイズを大粒化する効果が大きくなることが示された。
【0058】
<実施例3>核酸添加の影響の検討
C区、R1区、R2区、R3区およびR4区の5つの試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表4のとおりとし、核酸(「RNA−M」日本製紙社)を添加したマッシュルーム栽培用培地を作成した。また、マッシュルームの穀粒種菌は、ブラウン系品種(「日農100号」日本農林種菌社)とホワイト系品種(「日農118号」日本農林種菌社)とを用いた。また、暗条件下での培養は14日間に代えて21日間とし、覆土後の追培養は14日間に代えて7日間とし、実験の繰り返し数は3回に代えて6回とした。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を
図4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
図4の左側に示すように、ブラウン系品種の全収量は、C区では358g、R1区では317g、R2区では342g、R3区では373gおよびR4区では351gであった。また、ブラウン系品種のMサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C区では201g、R1区では217g、R2区では250g、R3区では274gおよびR4区では247gであった。
【0061】
また、
図4の右側に示すように、ホワイト系品種の全収量は、C区では262g、R1区では302g、R2区では301g、R3区では336gおよびR4区では287gであった。また、ホワイト系品種のMサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C区では103g、R1区では100g、R2区では119g、R3区では131gおよびR4区では95gであった。
【0062】
すなわち、R1区〜R4区では、C区と比較して、マッシュルームの全体収量が大きくなるとともに、Mサイズ以上の収量が大きくなる傾向があることが明らかになった。また、全体収量が大きくなる効果や、Mサイズ以上の収量が大きくなる効果は、R3区の場合に特に大きいことが明らかになった。これらの結果から、牛糞堆肥および馬糞堆肥を混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地に核酸を添加すると、マッシュルームの全体収量を増加させる効果やマッシュルームのサイズを大粒化する効果が大きくなることが示された。また、牛糞堆肥および馬糞堆肥を混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地2.5kg当たりの核酸の添加量が1.5g以上15g以下の場合(マッシュルーム栽培用培地1kg当たりの核酸の添加量が0.6g以上6g以下の場合)に、全体収量を増加させる効果やサイズを大粒化する効果が大きくなることが示された。
【0063】
<実施例4>アミノ酸添加の影響の検討
C区、L1〜3区、IL1〜3区およびG1〜3区の10の試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表5のとおりとし、ロイシン(プロテインケミカル社)、イソロイシン(プロテインケミカル社)およびグルタミン酸ナトリウム(関東化学社)を添加したマッシュルーム栽培用培地を作成した。また、暗条件下での培養は14日間に代えて21日間とし、覆土後の追培養は14日間に代えて7日間とし、実験の繰り返し数は3回に代えて6回とした。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を
図5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
図5に示すように、全収量は、C区では358g、L1区では340g、L2区では353g、L3区では305g、IL1区では350g、IL2区では327g、IL3区では263g、G1区では339g、G2区では313gおよびG3区では278gであった。また、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C区では201g、L1区では249g、L2区では236g、L3区では236g、IL1区では213g、IL2区では217g、IL3区では206g、G1区では216g、G2区では226gおよびG3区では190gであった。
【0066】
すなわち、L1〜3区、IL1〜3区およびG1〜3区では、C区と比較して、マッシュルームの全体収量はほとんど変わらない一方で、Mサイズ以上の収量が大きくなる傾向があることが明らかになった。特にロイシンを添加したL1〜3区の場合に、サイズ増大傾向が顕著であった。これらの結果から、牛糞堆肥および馬糞堆肥を混合してなる堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地にアミノ酸を添加すると、マッシュルームのサイズを大粒化することができることが示された。
【0067】
<実施例5>牛糞堆肥の堆肥化期間の検討
(1)牛糞堆肥のみを培地基材としたマッシュルーム栽培用培地での検討
C2区、C4区およびC6区の3つの試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、牛糞堆肥の堆肥化期間は2ヶ月、4ヶ月および6ヶ月とした。また、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表6のとおりとし、馬糞堆肥は混合せずに、牛糞堆肥のみを培地基材としたマッシュルーム栽培用培地を作成した。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を表7に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
表7に示すように、全収量は、C2区およびC4区では0gであったのに対して、C6区では133.8gであった。また、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C2区およびC4区では0gであったのに対して、C6区では98.1gであった。すなわち、牛糞堆肥の堆肥化期間が2ヶ月および4ヶ月の場合はマッシュルームが収穫できなかったのに対して、堆肥化期間が6ヶ月の場合はマッシュルームが収穫できたことが明かになった。これらの結果から、マッシュルーム栽培用培地に用いる牛糞堆肥の堆肥化期間は、4ヶ月より長いことが好ましいことが示された。
【0071】
(2)堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地での検討
C−6区、C25H−6区、C50H−6区、C−12区、C25H−12区およびC50H−12区の6つの試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、牛糞堆肥の堆肥化期間は6ヶ月および12ヶ月とした。また、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表8のとおりとした。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を
図6に示す。
【0072】
【表8】
【0073】
図6に示すように、全収量は、C−6区では331gであったのに対して、C−12区では240gであった。また、C25H−6区では385gであったのに対して、C25H−12区では307gであった。また、C50H−6区では492gであったのに対して、C50H−12区では263gであった。次に、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)を比較したところ、C−6区では231gであったのに対して、C−12区では130gであった。また、C25H−6区では277gであったのに対して、C25H−12区では173gであった。また、C50H−6区では284gであったのに対して、C50H−12区では111gであった。
【0074】
すなわち、牛糞堆肥の堆肥化期間が6ヶ月の場合は、12ヶ月の場合と比較して、マッシュルームの全体収量が大きくなること、および、マッシュルームが大粒化することが明らかになった。これらの結果から、マッシュルームの全体収量の増加効果およびサイズ増大効果の観点においては、堆肥混合物を含むマッシュルーム栽培用培地に用いる牛糞堆肥の堆肥化期間は、12ヶ月以下が好ましいことが示された。
【0075】
<実施例6>馬糞堆肥の堆肥化期間の検討
C10H−3区、C20H−3区、C50H−3区、C10H−6区、C20H−6区、C50H−6区、C10H−12区、C20H−12区、C50H−12区、C10H−24区、C20H−24区およびC50H−24区の12の試験区を設定し、実施例1(2)と同様の試験を行った。ただし、馬糞堆肥の堆肥化期間は3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月および24ヶ月とした。また、マッシュルーム栽培用培地を調製する際の各材料の混合割合は表9のとおりとした。収穫した子実体の各サイズごとの収量(g)および全収量を測定した結果を
図7に示す。
【0076】
【表9】
【0077】
図7に示すように、全収量は、C10H−3区では255g、C10H−6区では269g、C10H−12区では250gおよびC10H−24区では250gであった。また、C20H−3区では298g、C20H−6区では268g、C20H−12区では250gおよびC20H−24区では224gであった。また、C50H−3区では265g、C50H−6区では236g、C50H−12区では215gおよびC50H−24区では136gであった。
【0078】
次に、Mサイズ以上の収量(=全収量−Sサイズの収量)は、C10H−3区では166g、C10H−6区では166g、C10H−12区では159gおよびC10H−24区では163gであった。また、C20H−3区では194g、C20H−6区では137g、C20H−12区では100gおよびC20H−24区では135gであった。また、C50H−3区では160g、C50H−6区では104g、C50H−12区では123gおよびC50H−24区では38gであった
【0079】
すなわち、堆肥混合物中の馬糞堆肥の重量割合が10(w/w)%の場合は、マッシュルームの全体収量およびサイズ別収量は、馬糞堆肥の堆肥化期間にかかわらず、ほぼ同じ値であることが明らかになった。これに対して、堆肥混合物中の馬糞堆肥の重量割合が20(w/w)%および50(w/w)%の場合は、馬糞堆肥の堆肥化期間が短い方が、マッシュルームの全体収量が大きくなり、マッシュルームが大粒化する傾向があることが明らかになった。