【実施例】
【0032】
[亜臨界水処理の処理温度の違いによるメタン発酵阻害物質の生成評価]
メタン発酵阻害物質は、糖とタンパク質とのメイラード反応により生成することが知られている。そこで、糖としてグルコース、タンパク質としてポリペプトンを用いて試験試料を調製し、処理温度の異なる条件にて亜臨界水処理を行い、メイラード反応によるメタン発酵阻害物質の生成を評価した。
【0033】
(亜臨界水処理)
グルコース及びポリペプトンを夫々50g/Lとなるように試験試料を調製し、当該試料を、ステンレス製の亜臨界反応管に入れて密栓した。この亜臨界反応管を以下の表1に示す温度に設定したオイルバスに浸漬し、オイルを撹拌しながら10分間亜臨界水処理を行った。
【0034】
(メタン発酵試験)
亜臨界水処理後の試料7.5g、及び種汚泥として嫌気性消化汚泥30gを、三層構造フィルム製(ポリエチレンテレフタレート(PET)/アルミニウム(AL)/ポリエチレン(PE))のチャック付ラミネート袋(商品名「ラミジップ(登録商標)」、株式会社生産日本社製)に封入し、ラミネート袋を脱気しながらシールしたものをメタン発酵試験に供した。試料及び汚泥を封入した上記ラミネート袋の体積を初期体積とした。ラミネート袋を55℃の培養器内に静置して7日間メタン発酵させ、発酵後の袋体積を測定した。バイオガス発生量は、以下の計算により求めた。
(バイオガス発生量)=(発酵後の袋体積)−(初期体積)
得られたバイオガスを、ガスクロマトグラフ(型番GC−14B、株式会社島津製作所製)を用いて分析し、バイオガス中のメタンガス(CH
4)及び二酸化炭素(CO
2)の存在比率を測定した。バイオガス発生量とメタンガスの存在比率の値からメタンガス発生量を算出した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すように、120℃、10分の亜臨界水処理では、亜臨界水処理を行っていない試料と比較して、略同量のメタンガスの発生が認められたが、処理温度が200℃を超えると、メタンガスの発生量が顕著に減少した。これは、メイラード反応によりメタン発酵阻害物質が生成し、メタン発酵が大きく阻害されたためと推測される。
【0037】
[亜臨界水処理の処理圧力の違いによる有機物負荷量に対するメタン発酵の評価]
次に、有機物負荷量を増加させた場合におけるバイオガス及びメタンガスの発生量を評価した。
【0038】
(標準生ごみ)
有機廃棄物として「標準生ごみ」を、以下の表2に記載される配合量にしたがって調製した。各材料を、適当な大きさに切り分け、家庭用ミキサーで破砕し、スラリー状に加工して使用した。
【0039】
【表2】
【0040】
(亜臨界水処理)
ケーキを、亜臨界水処理の処理温度を120℃に設定し、処理圧力を「加圧なし」、「1.6MPa」、「3.0MPa」の異なる圧力で、10分間、亜臨界水処理した。次に、亜臨界水処理した各処理物について有機物負荷量が12kg−VS/m
3又は24kg−VS/m
3になるように調整し、メタン発酵試験に供した。
【0041】
(メタン発酵試験)
100mlバイアル瓶(広口バイアル瓶No.8、株式会社マルエム社製)に、それぞれ亜臨界水処理後の試料、及び種汚泥として嫌気性消化汚泥を投入して液相部分が30mlとなるように調整し、気相部分を窒素ガスで十分置換した後、バイアル瓶をブチルゴム栓で封止し、さらにその上からアルミシールでシールした。有機物負荷量が12kg−VS/m
3の試験サンプルには、亜臨界水処理後の試料3.33g及び種汚泥26.67gを投入し、有機物負荷量が24kg−VS/m
3の試験サンプルには、亜臨界水処理後の試料6.00g及び種汚泥24.00gを投入した。55℃に設定した恒温器に各種試験サンプルのバイアル瓶を静置した。試験サンプルの気相部分のガスを注射針付きガラスシリンジによって毎日採取し、発生したバイオガス量をシリンジの目盛りから読み取って測定した。バイオガス量を測定後、ガスクロマトグラフ(型番GC−14B、株式会社島津製作所製)により、メタン濃度を測定し、メタンガス量を算出した。バイオガス発生量及びメタンガス発生量は、培養7日までの総発生量で評価した。また、有機物負荷量を12kg−VS/m
3から24kg−VS/m
3に増加させた場合におけるバイオガス発生量の減少率及びメタンガス発生量の減少率を算出して、メタン発酵の発酵効率を評価した。亜臨界水処理を行わない試料についても同様のメタン発酵試験を実施した。
【0042】
図2は、加圧処理条件の違いによる有機物負荷量とバイオガス発生量との関係を示すグラフである。
図3は、加圧処理条件の違いによる有機物負荷量とメタンガス発生量との関係を示すグラフである。
図4は、加圧処理条件の違いによるバイオガス発生量の減少率及びメタンガス発生量の減少率を示すグラフである。
図2及び
図3に示すように、有機物負荷量を増加させると、何れの試料も単位有機物量あたりのバイオガス発生量の減少及びメタンガス発生量の減少が見られたが、
図4に示すように、有機廃棄物を3.0MPaの加圧条件で亜臨界水処理を行うと、バイオガス発生量の減少及びメタンガス発生量の減少を抑制できることが明らかとなった。この結果から、本発明の処理条件で有機廃棄物を亜臨界水処理すると、有機物負荷量を増加させてもメタン発酵の発酵効率が一定以上維持されることが示された。
【0043】
[処理圧力の違いによるバイオガス発生量の評価]
亜臨界水処理の処理温度を一定とし、処理圧力を異ならせて処理した処理物を使用してメタン発酵させた場合におけるバイオガスの発生量を評価した。標準生ごみについて、処理温度を「100℃」に設定し、処理圧力を「5.0MPa」、及び「8.0MPa」の異なる圧力で、10分間、亜臨界水処理した。標準生ごみは、前述の標準生ごみと同様のものを使用した。亜臨界水処理した各処理物の有機物負荷量が32kg−VS/m
3になるように調整し、前述のメタン発酵試験と同様の試験方法によりバイオガス発生量を評価した。
【0044】
図5は、処理圧力とバイオガス発生量との関係を示すグラフである。
図5に示すように、5.0MPa及び8.0MPaの処理圧力で亜臨界水処理すると、メタン発酵が促進し、未処理のものと比較してバイオガス発生量が増加した。
【0045】
[処理温度の違いによるバイオガス発生量の評価]
亜臨界水処理の処理圧力を一定とし、処理温度を異ならせて処理した処理物を使用してメタン発酵させた場合におけるバイオガスの発生量を評価した。標準生ごみを、処理圧力を「8.0MPa」に設定し、処理温度を「100℃」、「120℃」、及び「140℃」の異なる温度で、10分間、亜臨界水処理した。標準生ごみは、前述の標準生ごみと同様のものを使用した。亜臨界水処理した各処理物の有機物負荷量が32kg−VS/m
3になるように調整し、前述のメタン発酵試験と同様の試験方法によりバイオガス発生量を評価した。
【0046】
図6は、処理温度とバイオガス発生量との関係を示すグラフである。
図6に示すように、100〜140℃の処理温度で亜臨界水処理すると、メタン発酵が促進し、未処理のものと比較して、バイオガス発生量が増加した。
【0047】
[メタン発酵の連続運転による酢酸の蓄積評価]
亜臨界水処理の処理圧力を一定とし、処理温度を異ならせて処理した処理物を、メタン発酵槽に添加した場合における酢酸の蓄積を測定し、メタン発酵の安定性を評価した。亜臨界水処理の処理圧力を「3MPa」に設定し、処理温度を「120℃」及び「200℃」の異なる温度で、10分間、亜臨界水処理した。当該処理物をメタン発酵槽(容量100L)に供給し、100日間の連続運転を行い、メタン発酵槽内に蓄積する酢酸の濃度を測定した。メタン発酵槽への処理物の供給は、処理物を5日間連続供給した後、処理物の供給停止期間を2日間設けることを繰り返し行った。メタン発酵の連続運転は、運転開始から36日目まで、処理物の滞留時間(HRT)を60日となるように調整して、メタン発酵状態を安定化させた。その後、HRTを45日となるように調整し、運転43日目からはHRTを30日となるように調整した。標準生ごみは、前述の標準生ごみと同様のものを使用した。酢酸の測定には、高速液体クロマトグラフィー(日本分光株式会社製)を用いて、ブロモチモールブルーポストカラム法により行った。
【0048】
図7は、メタン発酵の連続運転における酢酸の蓄積を示すグラフである。メタン発酵槽の酢酸の蓄積は、メタン発酵効率の低下を表している。
図7に示すように、本発明の範囲内である120℃、3MPaで亜臨界水処理したものは、本発明の条件から外れる200℃、3MPaで亜臨界水処理したもの、及び未処理のものと比較して、メタン発酵槽の酢酸の蓄積が抑制され、メタン発酵が長期にわたって安定化することが確認された。200℃、3MPaで亜臨界水処理したものでは、メタン発酵阻害物質が蓄積してメタン生成菌の増殖が抑制され、酢酸が蓄積したと考えられる。未処理のものは、生ゴミが可溶化していないため、加水分解菌や酸生成菌がメタン生成菌よりも先に増殖することになる。これにより、メタン生成菌の増殖が抑制され、酢酸が蓄積したと考えられる。