【解決手段】幼児を座らせる座部と、座部の後部で立ち上がる背もたれ部と、背もたれ部の左右両側部から座部の左右両側部に沿いつつ前方へ張り出した左右一対のサイドガード部と、座部に着座した幼児の正面部を遮る配置で設けられて幼児の前方移動を阻止するフロントガード部と、を有した構成とする。
前記フロントガード部には、その上縁部に沿って前記座部に着座した幼児用のハンドル部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の幼児用座席装置。
前記左右一対のサイドガード部は、前記座部に着座した幼児が前記背もたれ部にもたれ掛かっているときに幼児の身体を左右両側方から完全に視覚遮断できるだけの前方張出寸法で形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項4のいずれか1項に記載の幼児用座席装置。
【背景技術】
【0002】
自転車に取り付ける幼児用座席装置には、自転車のハンドル上へ配置するもの(特許文献1等)や、ハンドルの後部(サドルとの間)へ配置するもの(特許文献2)、或いは、自転車の後部荷台上へ配置するもの(特許文献3等)など、取付箇所が異なる種々のタイプが提案されている。
なお、特許文献2に記載の幼児用座席装置では、自転車のハンドルステムを左右両側から挟むような配置で左右のステップが設けられている。また特許文献3に記載の幼児用座席装置でも、自転車の後輪を左右両側から挟むような配置で左右のステップが設けられている。そのため、これら左右のステップは左右方向の外方が開放した構造となっており、座部に対する幼児の乗せ降ろしを容易に行えるようにしてあった。
【0003】
これに対し、特許文献1に記載の幼児用座席装置は、自転車の前輪上に取り付けた前篭内を利用して、幼児用座席装置へ乗車させた幼児の脚を投げ出させるようにする構成としてある。そのため、幼児は、脚を含めた身体のまわり全周が包囲されることとなり、高い安全性が確保されるようになっている。
このように、今日、幼児用座席装置には種々様々なタイプのものが提案され、また好適に実用化されているところである。しかしながら、体格の小さな幼児、殊に体力や判断力も未熟な低年齢の幼児(生後2年以内の幼児等)を乗車対象としたものは未だ提案されていないのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の幼児用座席装置において、体格の小さな幼児を乗車させた場合、装置内で幼児がユラユラ動かないように身体をしっかりと固定するには自ずと限度がある。なぜなら、シートベルトにより身体を強く拘束すると、幼児は窮屈感を嫌って余計に動こうとするからである。従って当然のことながら、幼児が左右へふらついたり前のめりになったりするのを防ぐため、細心の注意を払いつつ、急ハンドルや急ブレーキを操作しなくてもよい運転を心懸ける必要がある。
【0006】
特許文献2や特許文献3に記載された幼児用座席装置では、座部に着座した幼児の正面中央に、幼児専用のハンドル(自転車のハンドルとは別のもの)が設けられている。ところが、この幼児専用のハンドルと座部との前後間は左右方向に通り抜けた開放空間とされており、この開放空間を塞ぐような構造は何ら設けられていない。言うまでもなく、この開放空間が幼児の脚を通すための空間だからである。この開放空間から幼児が落下する等といったことは実際には起こり得ない。しかしながら、幼児にとっても自転車の運転者にとっても、また周囲の傍観者にとっても、この開放空間が存在することで心理的、視覚的に安心し難いという一面があった。
【0007】
殊に、体力や判断力も未熟な低年齢の幼児(生後2年以内の幼児等)を乗車させた場合では、幼児が両脚をばたつかせるなど、大人には予測のできないような咄嗟の動きをすることがあって、自転車の走行中だけでなく、幼児の乗車中には常に神経を尖らせておく必要があった。
一方、特許文献1に記載された幼児用座席装置では、前記したように前篭の利用により座部に着座する幼児の前方が取り囲まれるようになっている。しかしながら、前篭は、幼
児用のハンドルからその前方へ荷物を入れるスペースを離して前壁部を設けた構造であるから、幼児の前方が広い開放空間となっていることに変わりはない。従って、やはり心理的、視覚的に安心し難いという課題は生じている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、体格の小さな幼児、殊に年齢の低い幼児(例えば生後2年以内など)であったとしても安全に乗車させることができるようにした幼児用座席装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る幼児用座席装置は、幼児を座らせる座部と、前記座部の後部で立ち上がる背もたれ部と、前記背もたれ部の左右両側部から座部の左右両側部に沿いつつ前方へ張り出した左右一対のサイドガード部と、前記座部に着座した幼児の正面部を遮る配置で設けられて幼児の前方移動を阻止するフロントガード部と、を有していることを特徴とする。
【0010】
前記フロントガード部は、前記座部の前部から当該座部に着座した幼児の下半身を超える高さまで立ち上がる支柱部と、前記支柱部により支持された状態で前記左右のサイドガード部間を渡る左右長さに形成されたガード本体と、を有したものとするのが好適である。
前記フロントガード部は、前記支柱部が前記座部に着座した幼児の股間に挟まれる配置で立ち上げられ、この支柱部に対して前記ガード本体が幼児の脚上方を横切って左右外方へ突出する配置とされることによって正面視T形に形成されており、前記支柱部の下端部が前記座部に対して水平軸まわりに前後揺動自在に連結されているものとしてもよい。
【0011】
前記フロントガード部には、その上縁部に沿って前記座部に着座した幼児用のハンドル部が形成されたものとしてもよい。
前記左右一対のサイドガード部は、前記座部に着座した幼児が前記背もたれ部にもたれ掛かっているときに幼児の身体を左右両側方から完全に視覚遮断できるだけの前方張出寸法で形成されたものとするのが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る幼児用座席装置では、体格の小さな幼児、殊に年齢の低い幼児(例えば生後2年以内など)であったとしても安全に乗車させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至
図7は、本発明に係る幼児用座席装置1の実施形態を示している。
図7に示すように、本実施形態の幼児用座席装置1は自転車2の後部荷台3上(サドル4の後方)へ取り付けるタイプとしてある。また、低年齢の幼児(生後2年以内の幼児等)を乗車対象としたものを示してある。
【0015】
なお以下では、説明の便宜上、
図1(平面図)の下方を幼児用座席装置1の「前方」とおき、
図1の上方を同装置1の「後方」とおく。また
図1の右方を幼児用座席装置1の「左方」とおき、
図1の左方を同装置1の「右方」とおく。これら幼児用座席装置1の「前
後左右」は、この幼児用座席装置1に乗車した幼児から見た方向に一致させてある。
図1乃至
図6に示すように、この幼児用座席装置1は、幼児を着座させる(幼児の尻部を支持する)座部5と、この座部5の後部で立ち上がって幼児の背中を支える背もたれ部6とを有しており、これら座部5と背もたれ部6とによって装置本体が構成されている。
【0016】
また、この幼児用座席装置1は、背もたれ部6の左右両側部から前方へ張り出す左右一対のサイドガード部10,10と、座部5に着座した幼児の正面部を遮る配置(
図5(a)参照)で設けられたフロントガード部11と、座部5の前方下部で左右両側に振り分け配置された左右一対の脚入れ部12,12とを有している。
まず、背もたれ部6について説明する。背もたれ部6には、幼児の頭部を後方からサポートするためのヘッドレスト部7が設けられている。このヘッドレスト部7は、
図6に示すように上下にスライド可能な状態に設けられているが、最も低位に配置しても(
図5(a)及び
図6(a)参照)、座部5に着座する幼児の頭部を超えた高さとなるように配置されている。なお、言うまでもなく、背もたれ部6とヘッドレスト部7との間には、ヘッドレスト部7を任意の高さ位置へ移動させた状態で位置固定を可能にするための高さ調節機構(
図4にその操作部8のみを示す)が設けられている。
【0017】
本実施形態では、ヘッドレスト部7の下端部が幼児の背中に達する程度まで、下方へ延長させてあり、幼児の背中から頭部までをしっかりとサポートできるようにし、且つ上下スライド時における動作の安定性をも図られるようにしてある。
次に、左右のサイドガード部10,10について説明する。サイドガード部10は、前記した背もたれ部6の左右両側に対し、いずれも座部5から背もたれ部6(ヘッドレスト部7)の頂上部までの高さ範囲全部にわたるように設けられている。ヘッドレスト部7の上下スライドを可能にするために、サイドガード部10,10は上下に分割されている。すなわち、サイドガード部10の上半分はヘッドレスト部7と一体形成され、サイドガード部10の下半分は、ヘッドレスト部7を除く背もたれ部6側(ヘッドレスト部7の上下スライドを保持する土台部分)に対して一体形成されている。
【0018】
そして、左のサイドガード部10は、背もたれ部6の左側部から座部5の左側部に沿いつつ前方へ張り出しており、右のサイドガード部10は、背もたれ部6の右側部から座部5の右側部に沿いつつ前方へ張り出している。
これらのサイドガード部10,10は、
図5(a)に示すように、座部5に着座した幼児が背もたれ部6にもたれ掛かっているときに、幼児の身体(肩〜腕〜胸〜腹〜腰〜尻にわたる全部)を左右両側方から完全に視覚遮断できるだけの前方張出寸法で形成されている。ここにおいて「視覚遮断」とは、真横からは見えないほどに覆っている状態を言うものであって、要は、そのような大きさでサイドガード部10,10が背もたれ部6から張り出していることを表したものである。
【0019】
要するに、幼児は左右のサイドガード10,10と背もたれ部6とによってスッポリと包み込まれるようにサポートされる。
本実施形態では、幼児の後頭部〜側頭部、更には顔面のおおよそ後半分にかけた程度を、左右両側方から視覚遮断できるような前方張出寸法としてある。但し、幼児にとって左右側方への視覚を完全に遮断してしまうことは閉そく感や圧迫感を与えるだけでなく、景色が見えないことから興味を半減させ、また危険性への配慮もできなくするおそれもある。
【0020】
そこで、幼児の左右側方への視覚を全部遮断することはしていない。寧ろ、サイドガード部10の上縁部を緩い凸円弧状にカーブさせることで、幼児の顔面が少し左右両側から見えるようにしてある。このことから、幼児が横を向けば気軽に左右の景色を楽しむことができるものとしてある。
また、左のサイドガード部10と後述する左の脚入れ部12における外側面の上部、及び右のサイドガード部10と右の脚入れ部12における外側面の上部とが、下半身ガード部13,13によって連続形成されたものとしてある。この下半身ガード部13,13は、座部5に着座した幼児の腰から下を左右方向の外方から完全に視覚遮断するような(
図5(a)参照)前方張出寸法を有して形成されている。
【0021】
なお、サイドガード部10と下半身ガード部13との間、下半身ガード部13と座部5(脚入れ部12)との間には、物理的に明確な区切りがあるわけではなく、作用として、幼児の腰から下を視覚遮断する領域を言うものとする。本実施形態では、上縁部を緩い凹円弧状にカーブさせることで、幼児の乗せ降ろしには邪魔とならないように配慮してある。
【0022】
次に、フロントガード部11について説明する。フロントガード部11は、座部5の前方を水平方向に横切るようにして設けられている。本実施形態のフロントガード部11は、座部5に着座した幼児の下半身を超える高さまで立ち上がる支柱部14と、この支柱部14の上端部に配置されたガード本体15とを有している。
支柱部14は、座部5に着座した幼児の股間に挟まれるように配置されており、その下端部は、座部5に対して水平軸まわりに前後揺動自在に連結されている。本実施形態では、座部5の前端中央部から上方へ突出する支持台20を設けてあり、この支持台20の前面に対して水平軸の軸支部21(
図6参照)を形成してある。
【0023】
これに対してガード本体15は、支柱部14から左右方向の各外方へ突出して、座部5に着座した幼児の脚上方を横切った後、その左右両端部がサイドガード部10の前部に向くように(後方へ向けて)曲げられている。すなわち、ガード本体15は、左右のサイドガード部10間を渡る左右長さに形成されている。なお、ガード本体15の左右両端部がサイドガード部10と当接するか否かは特に限定されるものではない。本実施形態では、ガード本体15の左右両端部とサイドガード部10とが非当接に保持されるようにしてある。
【0024】
このように、支柱部14の上部で左右突出するガード本体15を有した構成のフロントガード部11は、正面視するとT形を呈したものである。そのため、このフロントガード部11は、座部5に着座した幼児が前方移動すること(故意的な動作又は自転車の急停車による前のめり)がないように、その動きを阻止するための作用を奏する。また幼児がむやみに脚をばたつかせるようなことを抑制する作用をも奏する。
【0025】
このフロントガード部11は、前記したように支柱部14の下端部を支点として前後揺動可能であるため、幼児を座部5に対して乗せ降ろしする際には、フロントガード部11を前方へ倒して座部5の上方を広く開放させればよく、また幼児を乗せた後ではフロントガード部11を後方へ立て起こして、起立状態にさせればよい。
なお、言うまでもなく、座部5(支持台20)とフロントガード部11(支柱部14)との間には、フロントガード部11の起立状態を保持させるためのストッパ機構(
図2及び
図3にその操作部22のみを示す)が設けられている。
【0026】
フロントガード部11には、その上縁部に沿って幼児専用のハンドル部25が形成されている。
次に、左右の脚入れ部12,12について説明する。脚入れ部12は、前記したように座部5の前方下部で左右両側に振り分け配置されている。従って、これら脚入れ部12により、座部5に着座した幼児が座部5より下方へ垂らす脚を収容することができる。
【0027】
脚入れ部12は、収容した幼児の脚に対して、その前後左右を包囲できるように、前面12a、後面12b、左右方向の内側面12c、左右方向の外側面12dを有して筒形に形成されている。また、この筒形の下端を閉鎖する底面12eをも有してカップ形に形成されている。
脚入れ部12には、前面12aに前後方向へ貫通する通気孔が形成され、また底面12eに上下方向へ貫通する通孔が形成されている。これらの通孔により、風通しが良好となり、幼児の脚が蒸せることが防止される。また底面12eの通孔では、雨天時における雨滴排水の作用も得られるため、自転車2を駐輪している間に雨水が溜まるようなこともない。
【0028】
このような構成の脚入れ部12では、筒形となっているので、対衝撃や接触に対して高い防御効果が得られるだけでなく、防寒、防風、防滴、虫よけなどの各種効果が得られるものとなっている。また、幼児の脚に向けて犬などが飛び付くのを防ぐ効果もある。
以上詳説したところから明らかなように、本発明に係る幼児用座席装置1では、座部5
に幼児を着座させた状態で、幼児の正面にフロントガード部11を横切らせるようにセットするものである。すなわち、幼児の正面に開放空間が存在しないため、幼児はもとより、自転車2の運転者や周囲の傍観者にとって心理的、視覚的に安心できるものとなる。また、実際に幼児が咄嗟の前方移動動作をしたり両脚をばたつかせたりしたとしても、フロントガード部11を乗り越えて前方へ飛び出すようなことは決して起こらないため、安全である。
【0029】
そのため、体格の小さな幼児、殊に年齢の低い幼児(例えば生後2年以内など)であったとしても、安全に乗車させることができる。
ところで、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
例えば、座部5の上面、背もたれ部6の前面、サイドガード部10の左右方向内面、フロントガード部11の後面などに対して、各部ごと、或いは全面一体的に、EVA樹脂(エチレン酢酸ビニル共重合体)等により形成したクッション性の高い内装材を貼り付けると好適である。
【0030】
サイドガード部10に対して左右方向に貫通する通孔を形成したり、背もたれ部6に対して前後方向へ貫通する通孔を形成したり、座部5に対して上下方向に貫通する通孔を形成したりするとよい。
フロントガード部11は、座部5の左右両側(幼児の両脇)で立ち上がる左右一対の支柱部14,14を備えたものとしてもよい。またガード本体15は、平面視形状が半円状にカーブするもの、或いはコーナーが鋭利な角度で折れ曲がった凹形を呈するものとしてもよい。
【0031】
フロントガード部11は、上方跳ね上げ式や観音開き式などとして、幼児の乗せ降ろしに対応させる構造としてもよい。
脚入れ部12は、角筒形としてもよいし、円筒形としてもよいし、ブーツ形としてもよい。円筒形とした場合、前面12a、後面12b、左右方向の内側面12c、左右方向の外側面12dの各区別は曖昧なものとなるが、作用的(視覚遮断)に見て、それらを判別するものとおく。また、脚入れ部12は、座部5に対して着脱自在な構造としてもよい。このようにすることで、幼児の体格や年齢に応じて左右開放型のステップと使い分けができるようになる。
【0032】
2点式、3点式、4点式、5点式など、各種のシートベルトを取り付けておけばよい。
本発明に係る幼児用座席装置1は、体格の小さな幼児、殊に年齢の低い幼児(例えば生後2年以内など)を乗車対象とすることが限定されるものではなく、それ以上の年齢の幼児用としても当然に適用可能である。
また、本発明に係る幼児用座席装置1は、自転車2の後部荷台3上へ配置するものに限らず、自転車2のハンドル上(前輪上方を含む)へ配置するものや、ハンドルの後部(サドル4との間)へ配置するものとして実施することができる。