【実施例】
【0023】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してさらに具体的に説明するが本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
〔実施例1〕
(15Na
2O・15CaO・20SiO
2・40Fe
2O
3・10Al
2O
3光触媒ガラス(30NCS40F10A)の製造)
なお、本明細書において、「15Na
2O・15CaO・(30−y)SiO
2・40Fe
2O
3・yAl
2O
3(重量部)」を「30NCS40FyA」と表記することもある。「N」、「C」、「S」、「F」、「A」は、それぞれ、ガラス構成元素であるNa、Ca、Si、Fe及びAlの頭文字、「30」はNa
2OおよびCaOの合計配合量の全体に対する割合(重量部)、「40」はFe
2O
3の配合量の全体に対する割合(重量部)、「y」はAl
2O
3の配合量の全体に対する割合(重量部)を意味し、例えば、上記「15Na
2O・15CaO・20SiO
2・40Fe
2O
3・10Al
2O
3」においては、Na
2OおよびCaOの合計配合量の全体に対する割合は30、Fe
2O
3の配合量の全体に対する割合は40、yは10であるので「30NCS40F10A」と表記する。
本発明の光触媒ガラス(30NCS40F10A)は、下記の方法により製造した。
(ガラス化工程)
本発明の光触媒ガラスの原料である、アルカリ金属化合物成分としてのNa
2CO
3粉末
0.513 g、アルカリ土類金属化合物成分としてのCaCO
3粉末 0.5354g、ケイ素化合物成分としてのSiO
2粉末 0.400g、鉄化合物成分としてのFe
2O
30.800g、及びアルミニウム化合物成分としてのAl(OH)
3の粉末 0.3060g、をそれぞれ秤量し、白金るつぼに投入し、混合した。
Na
2CO
3、CaCO
3、Al(OH)
3、についてはそれぞれNa
2O、CaO及びAl
2O
3に換算した場合に15:15:10となるように重量を算出した。
各粉末を投入した白金るつぼを電気炉に投入し、1400℃、1時間の条件で加熱処理を行い、粉末を溶融した。粉末を溶融して作製したガラス組成物を、白金るつぼの底を氷冷することで急冷して、該ガラス組成物を固体化し、黒褐色のガラス2gを得た。
(処理工程)
ガラス化工程で得られたガラスを80℃、6時間の条件で乾燥させた後、該ガラスを投入した白金るつぼを電気炉に投入し、1000℃、100分の条件でアニーリング処理を行い黒褐色の本発明の光触媒ガラス(30NCS40F10A)2gを得た。
【0024】
〔比較例1〕
(15Na
2O・15CaO・30SiO
2・40Fe
2O
3(30NCS40F0A)ガラスの製造)
アルミニウムを含有しないガラスを製造した。
ガラスの原料として、アルカリ金属化合物成分としてのNa
2CO
3粉末 0.513g、アルカリ土類金属化合物成分としてのCaCO
3粉末 0.5354g、ケイ素化合物成分としてのSiO
2粉末 0.600g、及び鉄化合物成分としてのFe
2O
3粉末 0.800gを用いた以外は実施例1のガラス化工程と同様にして、ガラス化工程を行い黒褐色のガラス2gを得た。
得られたガラスを実施例1の処理工程と同様にして、15Na
2O・15CaO・30SiO
2・40Fe
2O
3熱処理ガラス(30NCS40F0A)2gを得た。
【0025】
〔実験例1〕
57Feメスバウアースペクトル分析
実施例1で得られた本発明の光触媒ガラス、並びに比較例1で得られた熱処理ガラスにおける詳細なFe原子の挙動を明らかにするために、
57Feメスバウアースペクトル分析を行った。
メスバウアースペクトル分析は、解析装置として、Mossbauer driving unit MDU-1200(Wissenschaftliche Elektronik社製)、Digital function generator DFG-1000(Wissenschaftliche Elektronik社製)、High Voltage PowerSupply 456(ORTEC社製)、Amplifier 485(ORTEC社製)、Single channel analyzer SCA-550(ORTEC社製)、Multi-Channel Analyzer MCA-7700(SEIKO EG&G社製)を接続したものを使用した。
測定用試料は、本発明の光触媒ガラスをよく粉砕した後、該粉砕物をセロハンテープで挟み込んだものを使用した。
線源にはRhマトリックスに分散させた線量925Bqの
57Coを使用し、α−Feを基準物質とした。
なお、得られたスペクトルデータは、メスバウアー解析ソフトウェア(商品名:MossWin3.0iXP、トポロジックシステムズ社製)により、ローレンツ関数へフィッティングさせることによるカーブフィッティングを行った。
なお、分析は、ガラス化工程で得られたガラス(以下、このガラスを「アニーリング処理前」と表記することもある。)についても同様に行った。
得られたメスバウアースペクトルの結果のチャート及びそのパラメータを、
図1(チャート((a)アニーリング処理前、(b)アニーリング処理後)、パラメータ((c)アニーリング処理前、(d)アニーリング処理後)に示す。
【0026】
〔実験例2〕粉末X線回折
実施例1で得られた本発明の光触媒ガラス、並びに比較例1で得られた熱処理ガラスにおける詳細な原子・分子構造を明らかにするために、粉末X線回折(XRD)分析を行った。
XRD分析は、試料水平型強力X線回折装置(型式名:RINT-TTRIII、Rigaku社製)により、下記条件で行った。
なお、分析は、ガラス化工程で得られたガラス(アニーリング処理前)についても同様に行った。
条件:
回折角(2θ):10〜80°
インターバル:0.02°
スキャン速度:5.0°min
−1
X線源:CuKα線
X線波長(λ):1.54Å
管電流(mA):300
管電圧(kV):50
得られた結果を
図2(a)(アニーリング処理後)、(b)(アニーリング処理前)に示す。
【0027】
〔実験例3〕光触媒活性試験
実施例1で得られた本発明の光触媒ガラス、並びに比較例1で得られた熱処理ガラスの光触媒活性をメチレンブルー分解実験により評価した。
メチレンブルーの分解実験は、まず、実施例1で得られた本発明の光触媒ガラス、並びに比較例1で得られた熱処理ガラスのうち40mgを十分に粉砕し、別々の容器に入れ、20μMのメチレンブルー溶液10mLで浸漬させ、浸漬中、以下の条件で可視光照射を行った。
条件:
装置:装置名:MH−100 Illuminator(Edmund Optics社製)
光源:metal halide lamp
フィルター:UV cutoff FSAフィルター(Dolan-Jenner industries社製)
照射波長:420〜750nm
出力:100W
浸漬処理開始から30分、60分、90分、120分、150分、180分後に、それぞれの容器からメチレンブルー水溶液を採取し、紫外可視分光光度計(装置名:UV−1700、SHIMADZU社製)を用いて下記条件により吸光スペクトルを測定した。
また、浸漬処理を開始してから3時間後にも、それぞれの容器からメチレンブルー水溶液を採取し、紫外可視分光光度計(装置名:UV−1700、SHIMADZU社製)を用いて下記条件により吸光スペクトルを測定した。
なお、光照射を行わない実験、光触媒ガラス及び熱処理ガラスを入れない実験も合わせて行った。
条件:
測定波長:200〜800nm
測定波長間隔:1nm
光源:tungsten-deuterium lamp
出力:20W
なお、メチレンブルーの濃度は、得られた665nmの吸光度、メチレンブルーのモル吸光係数(9.5×10
4Lmol
−1cm
−1)、及び光路長(1cm)から算出した。また、メチレンブルー濃度から、一次反応速度定数を算出した。
さらに、浸漬処理開始から10日後におけるメチレンブルー溶液を採取し、ESI−MSスペクトル解析により、溶液中のメチレンブルーの分子状態の変化も分析した。
得られた浸漬処理3時間後におけるメチレンブルー溶液の吸光スペクトル測定の結果を
図3(a)(可視光照射下における結果)、(b)(可視光非照射下における結果)、(c)(可視光照射下において光触媒ガラス及び熱処理ガラスを入れないで実験を行った結果)に示す。
また、メチレンブルーの濃度の経時変化及び一次反応速度定数を
図4(a)(可視光照射下における結果)(b)(可視光非照射下における結果)に示す。
【0028】
以下、結果を考察する。
(
57Feメスバウアースペクトル分析)
図1は実験例1における
57Feメスバウアースペクトル分析の結果である。
結果から、実施例1で得られた光触媒ガラス、比較例1で得られた熱処理ガラスの両方において、アニーリング処理前はダブレットが大部分であり、アニーリング処理後はダブレットが減少しセクステットがみられることがわかる。
このことから、アニーリング処理前において、ガラスにおける鉄は、強磁性、フェリ磁性、および反強磁性の結晶粒子の状態ではなく、鉄がガラス内で均一分散されてガラス骨格を構築しているもので「常磁性」であると考えられる。また10ナノメートル以下の「微粒子」として存在する場合は「超常磁性」であると考えられる。
一方、アニーリング処理後においては、セクステットがみられることから反強磁性のα−Fe
2O
3が存在することがわかる。これらの結果からアニーリング処理前後において、ガラス内の鉄原子の状態は大きく変化し、鉄は「常磁性」または「超常磁性」の状態からアニーリング処理により結晶のα−Fe
2O
3に変化することがわかる。
また、実施例1で得られた光触媒ガラスと、比較例1の熱処理ガラスとは、アニーリング処理後における
57Feメスバウアースペクトルの結果が異なること、すなわち、実施例1で得られた光触媒ガラスにおいてはダブレットが多いのに対し、比較例1ではダブレットが少ないことがわかる。このことから、実施例1で得られた光触媒ガラス、比較例1で得られた熱処理ガラスとは、ガラス内の鉄原子の状態は大きく異なることがわかる。
【0029】
(粉末X線構造回折分析)
図2は実験例2における粉末X線回折の測定結果である。
アニーリング処理前と、アニーリング処理後における結果から、実施例1で得られた光触媒ガラス、比較例1で得られた熱処理ガラスの両方において、アニーリング処理前はベースラインがブロードで明白なピークが存在しない非晶質ガラスにおいて見られるいわゆるハローパターンであり、アニーリング処理後においては結晶性の明白なピークが存在するパターンに変化するのがわかる。
また、アニーリング処理後における結果から、実施例1で得られた光触媒ガラスにおいてはα−Fe
2O
3に由来するピークが多いのに対し、比較例1においてα−Fe
2O
3に加え、Na
4Ca
4Si
6O
18に由来するピークも多くみられることがわかる。
このことから、実施例1で得られた光触媒ガラスと、比較例1で得られた熱処理ガラスとは、ガラス内に存在する結晶相が大きく異なることがわかる。
【0030】
(光触媒活性試験)
図3は、実験例3における光触媒活性をメチレンブルー分解実験により評価した結果である。
図3の結果から、実施例1で得られた光触媒ガラスは、比較例1の熱処理ガラスと比較して、光触媒活性が顕著に高いことがわかる。
なお、光照射を行わなかった実験の結果(
図3(b))、及び可視光照射下において光触媒ガラス及び熱処理ガラスを入れないで実験を行った結果(
図3(c))において、メチレンブルーの分解が見られないことから、
図3(a)の結果において見られるメチレンブルーの分解は、光照射に起因するものであり、メチレンブルーのガラスへ吸着に由来するものではないことがわかる。
また、
図4の結果からも、実施例1で得られた光触媒ガラスは、比較例1の熱処理ガラスと比較して光触媒活性が顕著に高いことがわかる。また、高い一次反応速度定数を有することから、優れた光触媒活性を有するものであることがわかる。
【0031】
以上から、本発明の光触媒活性ガラスは、レアメタルを使用せず、可視光で十分な光触媒活性を示す光触媒であり、低コストで製造できるものであることがわかる。