特開2015-218081(P2015-218081A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人首都大学東京の特許一覧 ▶ 学校法人近畿大学の特許一覧

<>
  • 特開2015218081-光触媒ガラス 図000003
  • 特開2015218081-光触媒ガラス 図000004
  • 特開2015218081-光触媒ガラス 図000005
  • 特開2015218081-光触媒ガラス 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-218081(P2015-218081A)
(43)【公開日】2015年12月7日
(54)【発明の名称】光触媒ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 4/00 20060101AFI20151110BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20151110BHJP
   C03B 32/02 20060101ALI20151110BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20151110BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20151110BHJP
   B01J 23/78 20060101ALI20151110BHJP
【FI】
   C03C4/00
   C03C3/083
   C03B32/02
   B01J35/02 J
   B01J37/08
   B01J23/78 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-102216(P2014-102216)
(22)【出願日】2014年5月16日
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】久冨木 志郎
(72)【発明者】
【氏名】飯田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】秋山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 哲明
【テーマコード(参考)】
4G015
4G062
4G169
【Fターム(参考)】
4G015EA02
4G062AA01
4G062AA10
4G062BB06
4G062DA04
4G062DA05
4G062DB04
4G062DB05
4G062DC01
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA02
4G062EA10
4G062EB01
4G062EB02
4G062EC01
4G062EC02
4G062ED01
4G062ED02
4G062EE01
4G062EE02
4G062EF01
4G062EF02
4G062EG01
4G062EG02
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH12
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM01
4G062MM40
4G062NN40
4G169AA02
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA03A
4G169BA14A
4G169BA14B
4G169BA48A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC01A
4G169BC02B
4G169BC08A
4G169BC09B
4G169BC16A
4G169BC16B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BD05A
4G169BD05B
4G169CA05
4G169CA10
4G169CA11
4G169EC25
4G169EC27
4G169FA01
4G169FB29
4G169FC08
4G169HA02
4G169HB06
4G169HC03
4G169HD03
4G169HE05
4G169HF02
(57)【要約】
【課題】レアメタルを使用せず、可視光で十分な光触媒活性を示す光触媒ガラスを提供すること。
【解決手段】鉄化合物成分、ケイ素化合物成分及びアルミニウム化合物成分を含有するガラス組成物を熱処理してなり、
上記ガラス組成物がアルカリ金属化合物成分、及びアルカリ土類金属化合物成分を有し、
上記ケイ素化合物成分がSiOであり、上記アルミニウム化合物成分がAlであり、両者の構成比が(30-y)SiO:yAl(式中yは5〜25、重量比)である光触媒ガラス。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄化合物成分、ケイ素化合物成分及びアルミニウム化合物成分を含有するガラス組成物を熱処理して得られる光触媒ガラス。
【請求項2】
上記ガラス組成物がさらにアルカリ金属化合物成分を有する
請求項1記載の光触媒ガラス。
【請求項3】
上記ガラス組成物がさらにアルカリ土類金属化合物成分を有する
請求項1または2記載の光触媒ガラス。
【請求項4】
上記ケイ素化合物成分がSiOであり、上記アルミニウム化合物成分がAlであり、両者の構成比が(30-y)SiO:yAl(式中yは5〜25、重量比)である
請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光で十分な光触媒活性を示す光触媒ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
1972年にアナターゼ型の二酸化チタン電極が紫外光で、水を水素と酸素に分解する活性が発見され(非特許文献1)、二酸化チタンの半導体が有する光触媒活性を用い効率的に光エネルギーを化学エネルギーに変換させることを最終目的する研究が幅広くなされている。
しかしながら、アナターゼ型二酸化チタンの半導体の光触媒は、3.2eVという比較的大きなバンドギャップがあり、それは388nm以下の波長に相当するものである。端的にいえば、二酸化チタンを用いた光触媒の場合、その光触媒活性には紫外光が必要であり、地表に到達する全太陽光エネルギー中の3〜4%である紫外光しか利用することができない。
このため、この数十年の間に、太陽光エネルギーの利用効率を高くするため、可視光で触媒活性を有する光触媒の開発が行われ、アナターゼ型二酸化チタンを主成分とする光触媒が多数開発されている(例えば、非特許文献2〜7)。また、少数ではあるが、アナターゼ型二酸化チタンを含まない触媒も開発されている。
たとえば、特許文献1には、光触媒反応ユニットに使用されるシリカガラスであって、光触媒の反応効率を向上させるために、250nm程度以下の光を約250nm〜450nm程度の長波長側へ効率よく波長変換することができ、それとともに、長時間紫外線を照射しても性能が低下しにくい、耐紫外線性等に優れた特性を兼ね備えた光触媒用シリカガラスとして、シリカガラスにおいて、少なくとも、前記シリカガラスは、OH基含有量が10wt.ppm以下であり、厚さ10mmの波長245nmでの直線透過率が90.0%〜30.0%の範囲であり、塩素及びフッ素の合計含有量が100wt.ppm以下であることを特徴とする光触媒用シリカガラスが提案されている。
本願発明者らは、近年、地方自治体のゴミ焼却施設から排出されるリサイクル焼却灰から調製した鉄含有ソーダ石灰シリカガラスが、模擬排水の化学的要求酸素量(COD)を減少させ、そしてその水浄化活性とメスバウアースペクトル分析により示される局所構造とには相関があることを報告している。(非特許文献8、9)この結果は、鉄含有ソーダ石灰シリカガラスが、水質汚染浄化に有用な光触媒として作用することを示唆するものである。
また、本願発明者らは、可視光で光触媒活性を示すガラスとして、鉄含有シリカガラスを提案している(非特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−154090号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fujishima A, and Honda K, (1972). Electrochemical photolysis of water at a semiconductor electrode. Nature 238, 37-38.
【非特許文献2】H. Ozaki, et al, (2007) Marked Promotive Effect of Ion on Visible-Light-Induced Photocatalytic Activities of Nitrogen-and Silicon-Codoped Titanias, J. Phys. Chem. C, 11117061.
【非特許文献3】Wang Z, et al., (2005), Visible-light-activated nanoparticle photocatalyst of iodine-doped titanium dioxide, Chem Mater l7(6), 1548-1552
【非特許文献4】Khan S U M, et al, (2002), Efficient Photochemical Water Splitting by a Chemically Modified n-TiO2, Science, 297, (5590), 2243-2245
【非特許文献5】Yanfang S, et al, (2009), Phosphorous, nitrogen and molybdenum ternary co-doped TiO2: preparation and photocatalytic activities under visible light, Journal of Sol-Gel Science and Technology, 50(1), 98-102
【非特許文献6】Zhang D, et al., (2011), Graphite-like carbon deposited anatase TiO2 single crystals as efficient visible-light photocatalysts., Journal of Sol-Gel Science and Technology., 58(3), 594-601
【非特許文献7】Smirnova N, et al., (2001), Synthesis and Characterization of Photocatalytic Porous Fe3+/TiO2 Layers on Glass., Journal of Sol-Gel Science and Technology., 21, 109-113
【非特許文献8】Kubuki S, et al, (2012), 57Fe Mossbauer study of iron-containing soda-lime silicate glass with COD reducing ability., American Institute of Physics Conference Proceeding Series., 1489, 41-46
【非特許文献9】Kubuki S, et al, (2012), Water Cleaning Ability and Local Structure of Iron Containing Soda-lime Silicate glass, Hyperfine Interact, 218, 41-45
【非特許文献10】Takahashi Y, et al., (2013), Visible Light Activated Photo-Catalytic Effect and Local Structure of Iron Silicate Glass Prepared by Sol-Gel Method, Hyperfine Interact, DOI: 10.1007/s10751-013-0928-0.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1及び非特許文献8〜10の提案に係る光触媒は、未だ、可視光領域における光触媒活性が不十分であるという問題がある。
また、アナターゼ型二酸化チタンを含む光触媒(非特許文献2〜7)は、可視光領域における光触媒活性が不十分である問題に加え、レアメタルであるチタンを用いているため、コストが高いという問題がある。
要するに、従来提案されている光触媒ガラスは、高価なレアメタルを用いなくては十分な光触媒活性が得られていないのが現状であり、レアメタル等の高価な材料を用いずに十分な光触媒活性の得られる光触媒ガラスの開発が要望されている。
このため、レアメタルを使用せず、可視光で十分な光触媒活性を示す光触媒ガラスの開発が要望されている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、レアメタルを使用せず、可視光で十分な光触媒活性を示す光触媒ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、特定の化学状態の鉄イオンを含有するガラスが可視光で高い光触媒活性を示すことを知見し、さらに検討した結果、当該鉄イオンと共に特定の化合物成分を含有する場合に特に光触媒活性が高いことを知見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.鉄化合物成分、ケイ素化合物成分及びアルミニウム化合物成分を含有するガラス組成物を熱処理して得られる光触媒ガラス。
2.上記ガラス組成物がさらにアルカリ金属化合物成分を有する1記載の光触媒ガラス。
3.上記ガラス組成物がさらにアルカリ土類金属化合物成分を有する1または2記載の光触媒ガラス。
4.上記ケイ素化合物成分がSiOであり、上記アルミニウム化合物成分がAlであり、両者の構成比が(30-y)SiO:yAl(式中yは5〜25、重量比)である1〜3のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光触媒ガラスは、レアメタルを使用せず、可視光で十分な光触媒活性を示す光触媒であり、低コストで製造できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実験例1のメスバウアースペクトルの結果を示すチャート((a)アニーリング処理前、(b)アニーリング処理後)及びパラメータ((a)アニーリング処理前、(b)アニーリング処理後)である。
図2図2は、実験例2の粉末X線回折の結果((a)アニーリング処理前、(b)アニーリング処理後)である。
図3図3は、実験例3の浸漬処理3時間後におけるメチレンブルー溶液の吸光スペクトルの結果である。
図4図4は、実験例3におけるメチレンブルー溶液濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の光触媒ガラスは、鉄化合物成分、ケイ素化合物成分及びアルミニウム化合物成分を含有するガラス組成物を熱処理して得られるものである。
なお、本明細書において、光触媒ガラスとは、可視光により触媒活性を示すガラスをいう。また、ガラスには、アモルファス構造のガラスの他、結晶成分を含む結晶化ガラス(ガラスセラミック)も含まれる。
【0011】
<ガラス組成物>
本発明において用いられる上記ガラス組成物は、鉄化合物成分、ケイ素化合物成分及びアルミニウム化合物成分を必須成分として含有する。
(鉄化合物成分)
上記鉄化合物成分は、鉄を含有する化合物であれば、特に限定されず、例えば、鉄、鉄イオン、鉄を含有する酸化物、鉄を含有する塩、鉄を含有する水酸化物、鉱物、岩石、結晶、鉄を含有する有機化合物などが挙げられ、これらは一種でも複数種組み合わせて用いてもよい。
上記化合物成分の例としては、Fe、FeO(酸化鉄(II)、鉱物においてはウスタイト)、Fe(酸化鉄(III)、鉱物においては、ヘマタイト、マグヘマイト)、Fe(Fe2+Fe3+、酸化鉄(II、III)、鉱物においてはマグネタイト)、硝酸鉄9水和物等の鉄を含有する硝酸塩、塩化鉄などが挙げられ、中でも、硝酸鉄、Fe、Fe等が好ましく用いられる。
【0012】
(ケイ素化合物成分)
上記ケイ素化合物成分は、本発明の光触媒ガラスのガラス形成成分として用いられる成分である。具体的には、二酸化ケイ素、ケイ酸等の珪素酸化物;窒化珪素;炭化ケイ素等を挙げることができ、これらは一種でも複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも特に二酸化ケイ素を好ましく用いることができる。
【0013】
(アルミニウム化合物成分)
上記アルミニウム化合物成分は、上記ケイ素化合物と同様に本発明の光触媒ガラスのガラス形成成分として用いられる成分である。具体的には、酸化アルミニウム(Al)、酸化アルミニウム(II)(AlO)、水酸化アルミニウム等を挙げることができ、これらは一種でも複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも特に水酸化アルミニウムを好ましく用いることができる。
【0014】
(アルカリ金属化合物成分)
また、本発明の光触媒ガラスにおいては、上記ガラス組成物にガラス安定化成分を添加してもよい。ここでガラス安定成分としては、通常のガラスに安定化剤として添加されるものを特に制限なく用いることができるが、本発明においてはアルカリ金属化合物成分を用いることができる。
アルカリ金属化合物成分としては、酸化リチウム、酸化ナトリウム炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられ、一種でも複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも特に炭酸ナトリウムを好ましく用いることができる。
【0015】
(アルカリ土類金属化合物成分)
また、上記ガラス安定化成分としては、アルカリ土類金属化合物成分を上記アルカリ金属化合物成分に代えて若しくは加えて用いることもできる。
アルカリ土類金属化合物成分としては、通常のガラスに安定化剤として添加されるものを特に制限なく用いることができ、酸化カルシウム、酸化バリウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等が挙げられ、一種でも複数種組み合わせて用いてもよい。これらのアルカリ土類金属化合物成分に加えて、酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムなど周期表第2族元素の化合物成分が挙げられる。これらの中でも特に炭酸カルシウムを好ましく用いることができる。
【0016】
(その他の成分)
本発明の光触媒ガラスにおける上記ガラス組成物においては、上述の各成分に加えてさらに本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々添加物を配合することができる。ここで用いられる添加物としては、通常ガラスに用いられるガラス安定化剤やガラス修飾剤を挙げることができる。
【0017】
(配合比)
本発明において、上記ガラス組成物における各成分の配合比は、鉄化合物成分100重量部に対して、ケイ素化合物成分とアルミニウム化合物成分との合計量で60〜100重量部であるのが好ましく、65〜90重量部であるのがさらに好ましい。
また、ケイ素化合物成分とアルミニウム化合物成分との配合比は、両者の合計量を30重量部とした場合に、ケイ素化合物1〜29重量部、アルミニウム化合物成分1〜29重量部とするのが好ましく、特に、上記ケイ素化合物成分がSiOであり、上記アルミニウム化合物成分がAl である場合においては、両者の構成比が(30-y)SiO:yAl(式中yは5〜25、さらには10〜15、重量比)であるのが好ましい。
また、アルカリ金属化合物成分及びアルカリ土類金属化合物成分の配合比は、鉄化合物成分100重量部に対して、それぞれ20〜50重量部とするのが好ましい。
【0018】
<製造方法>
本発明の光触媒ガラスの製造方法を説明する。
本発明の光触媒ガラスの製造方法は、上記ガラス組成物を溶融するガラス化工程と、上記ガラス化工程により得られたガラス前駆体をさらにアニーリング処理して光触媒ガラスを得る処理工程とを行うことにより実施できる。
以下、さらに詳述する。
(ガラス化工程)
上記ガラス化工程は、鉄化合物成分、ケイ素化合物成分及びアルミニウム化合物成分、並びにアルカリ金属化合物成分及アルカリ土類金属化合物成分を混合してガラス組成物を得、得られたガラス組成物を好ましくは1000〜1400℃、さらに好ましくは1200〜1400℃で、好ましくは0.5〜3時間、さらに好ましくは0.5〜2時間加熱処理することにより行うことができる。
混合に際しては、通常ガラスの調整に際して用いられる溶剤などを適宜使用することができる。
(処理工程)
上記処理工程は、上記ガラス化工程により得られたガラスをさらにアニーリング処理することにより行う。ここでアニーリング処理は好ましくは600〜1000℃、さらに好ましくは800〜1000℃で、好ましくは0.5〜4時間、さらに好ましくは1〜2時間加熱処理することにより行うことができる。
上記処理工程においてはアニーリング処理に先立って乾燥を行うこともできる。上記乾燥の条件は、特に制限されないが、室温〜80℃の温度条件で1日〜5日間乾燥させるのが好ましく、50〜80℃で3日間以上乾燥させるのがさらに好ましい。
【0019】
本発明においては、上述の各工程の他に必要に応じて適宜他の工程を用いて製造を行ってもよい。
【0020】
<光触媒ガラス>
本発明の光触媒ガラスは、ヘマタイトを含有すると共にアルミナやケイ素化合物を含有するものであり、これらの相互作用により優れた光触媒活性を発揮するものである。特にケイ素とアルミニウムとの配合比が特定の範囲内(上記yが10〜15)である場合に優れた性能を発揮するものである。
【0021】
<用途・効果>
本発明の光触媒は、可視光で光触媒活性を有するものであり、光触媒として各種の用途に用いることができ、例えば、汚染物質の分解などによる浄化などに用いることができる。
【0022】
本発明は上述した実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
本発明の光触媒の形状は、特に制限されず、たとえば、微粒子、薄膜、ファイバー(線材)など、公知の成形方法により、さまざまな形状にすることができる。中でも、触媒活性を向上させる点から、表面積が大きい方が好ましく、微粒子、薄膜、ファイバーなどの形状が好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してさらに具体的に説明するが本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
〔実施例1〕
(15NaO・15CaO・20SiO・40Fe・10Al光触媒ガラス(30NCS40F10A)の製造)
なお、本明細書において、「15NaO・15CaO・(30−y)SiO・40Fe・yAl(重量部)」を「30NCS40FyA」と表記することもある。「N」、「C」、「S」、「F」、「A」は、それぞれ、ガラス構成元素であるNa、Ca、Si、Fe及びAlの頭文字、「30」はNaOおよびCaOの合計配合量の全体に対する割合(重量部)、「40」はFeの配合量の全体に対する割合(重量部)、「y」はAlの配合量の全体に対する割合(重量部)を意味し、例えば、上記「15NaO・15CaO・20SiO・40Fe・10Al」においては、NaOおよびCaOの合計配合量の全体に対する割合は30、Feの配合量の全体に対する割合は40、yは10であるので「30NCS40F10A」と表記する。
本発明の光触媒ガラス(30NCS40F10A)は、下記の方法により製造した。
(ガラス化工程)
本発明の光触媒ガラスの原料である、アルカリ金属化合物成分としてのNaCO粉末
0.513 g、アルカリ土類金属化合物成分としてのCaCO粉末 0.5354g、ケイ素化合物成分としてのSiO粉末 0.400g、鉄化合物成分としてのFe0.800g、及びアルミニウム化合物成分としてのAl(OH)の粉末 0.3060g、をそれぞれ秤量し、白金るつぼに投入し、混合した。
NaCO、CaCO、Al(OH)、についてはそれぞれNaO、CaO及びAlに換算した場合に15:15:10となるように重量を算出した。
各粉末を投入した白金るつぼを電気炉に投入し、1400℃、1時間の条件で加熱処理を行い、粉末を溶融した。粉末を溶融して作製したガラス組成物を、白金るつぼの底を氷冷することで急冷して、該ガラス組成物を固体化し、黒褐色のガラス2gを得た。
(処理工程)
ガラス化工程で得られたガラスを80℃、6時間の条件で乾燥させた後、該ガラスを投入した白金るつぼを電気炉に投入し、1000℃、100分の条件でアニーリング処理を行い黒褐色の本発明の光触媒ガラス(30NCS40F10A)2gを得た。
【0024】
〔比較例1〕
(15NaO・15CaO・30SiO・40Fe(30NCS40F0A)ガラスの製造)
アルミニウムを含有しないガラスを製造した。
ガラスの原料として、アルカリ金属化合物成分としてのNaCO粉末 0.513g、アルカリ土類金属化合物成分としてのCaCO粉末 0.5354g、ケイ素化合物成分としてのSiO粉末 0.600g、及び鉄化合物成分としてのFe粉末 0.800gを用いた以外は実施例1のガラス化工程と同様にして、ガラス化工程を行い黒褐色のガラス2gを得た。
得られたガラスを実施例1の処理工程と同様にして、15NaO・15CaO・30SiO・40Fe熱処理ガラス(30NCS40F0A)2gを得た。
【0025】
〔実験例1〕57Feメスバウアースペクトル分析
実施例1で得られた本発明の光触媒ガラス、並びに比較例1で得られた熱処理ガラスにおける詳細なFe原子の挙動を明らかにするために、57Feメスバウアースペクトル分析を行った。
メスバウアースペクトル分析は、解析装置として、Mossbauer driving unit MDU-1200(Wissenschaftliche Elektronik社製)、Digital function generator DFG-1000(Wissenschaftliche Elektronik社製)、High Voltage PowerSupply 456(ORTEC社製)、Amplifier 485(ORTEC社製)、Single channel analyzer SCA-550(ORTEC社製)、Multi-Channel Analyzer MCA-7700(SEIKO EG&G社製)を接続したものを使用した。
測定用試料は、本発明の光触媒ガラスをよく粉砕した後、該粉砕物をセロハンテープで挟み込んだものを使用した。
線源にはRhマトリックスに分散させた線量925Bqの57Coを使用し、α−Feを基準物質とした。
なお、得られたスペクトルデータは、メスバウアー解析ソフトウェア(商品名:MossWin3.0iXP、トポロジックシステムズ社製)により、ローレンツ関数へフィッティングさせることによるカーブフィッティングを行った。
なお、分析は、ガラス化工程で得られたガラス(以下、このガラスを「アニーリング処理前」と表記することもある。)についても同様に行った。
得られたメスバウアースペクトルの結果のチャート及びそのパラメータを、図1(チャート((a)アニーリング処理前、(b)アニーリング処理後)、パラメータ((c)アニーリング処理前、(d)アニーリング処理後)に示す。
【0026】
〔実験例2〕粉末X線回折
実施例1で得られた本発明の光触媒ガラス、並びに比較例1で得られた熱処理ガラスにおける詳細な原子・分子構造を明らかにするために、粉末X線回折(XRD)分析を行った。
XRD分析は、試料水平型強力X線回折装置(型式名:RINT-TTRIII、Rigaku社製)により、下記条件で行った。
なお、分析は、ガラス化工程で得られたガラス(アニーリング処理前)についても同様に行った。
条件:
回折角(2θ):10〜80°
インターバル:0.02°
スキャン速度:5.0°min−1
X線源:CuKα線
X線波長(λ):1.54Å
管電流(mA):300
管電圧(kV):50
得られた結果を図2(a)(アニーリング処理後)、(b)(アニーリング処理前)に示す。
【0027】
〔実験例3〕光触媒活性試験
実施例1で得られた本発明の光触媒ガラス、並びに比較例1で得られた熱処理ガラスの光触媒活性をメチレンブルー分解実験により評価した。
メチレンブルーの分解実験は、まず、実施例1で得られた本発明の光触媒ガラス、並びに比較例1で得られた熱処理ガラスのうち40mgを十分に粉砕し、別々の容器に入れ、20μMのメチレンブルー溶液10mLで浸漬させ、浸漬中、以下の条件で可視光照射を行った。
条件:
装置:装置名:MH−100 Illuminator(Edmund Optics社製)
光源:metal halide lamp
フィルター:UV cutoff FSAフィルター(Dolan-Jenner industries社製)
照射波長:420〜750nm
出力:100W
浸漬処理開始から30分、60分、90分、120分、150分、180分後に、それぞれの容器からメチレンブルー水溶液を採取し、紫外可視分光光度計(装置名:UV−1700、SHIMADZU社製)を用いて下記条件により吸光スペクトルを測定した。
また、浸漬処理を開始してから3時間後にも、それぞれの容器からメチレンブルー水溶液を採取し、紫外可視分光光度計(装置名:UV−1700、SHIMADZU社製)を用いて下記条件により吸光スペクトルを測定した。
なお、光照射を行わない実験、光触媒ガラス及び熱処理ガラスを入れない実験も合わせて行った。
条件:
測定波長:200〜800nm
測定波長間隔:1nm
光源:tungsten-deuterium lamp
出力:20W
なお、メチレンブルーの濃度は、得られた665nmの吸光度、メチレンブルーのモル吸光係数(9.5×10Lmol−1cm−1)、及び光路長(1cm)から算出した。また、メチレンブルー濃度から、一次反応速度定数を算出した。
さらに、浸漬処理開始から10日後におけるメチレンブルー溶液を採取し、ESI−MSスペクトル解析により、溶液中のメチレンブルーの分子状態の変化も分析した。
得られた浸漬処理3時間後におけるメチレンブルー溶液の吸光スペクトル測定の結果を図3(a)(可視光照射下における結果)、(b)(可視光非照射下における結果)、(c)(可視光照射下において光触媒ガラス及び熱処理ガラスを入れないで実験を行った結果)に示す。
また、メチレンブルーの濃度の経時変化及び一次反応速度定数を図4(a)(可視光照射下における結果)(b)(可視光非照射下における結果)に示す。
【0028】
以下、結果を考察する。
57Feメスバウアースペクトル分析)
図1は実験例1における57Feメスバウアースペクトル分析の結果である。
結果から、実施例1で得られた光触媒ガラス、比較例1で得られた熱処理ガラスの両方において、アニーリング処理前はダブレットが大部分であり、アニーリング処理後はダブレットが減少しセクステットがみられることがわかる。
このことから、アニーリング処理前において、ガラスにおける鉄は、強磁性、フェリ磁性、および反強磁性の結晶粒子の状態ではなく、鉄がガラス内で均一分散されてガラス骨格を構築しているもので「常磁性」であると考えられる。また10ナノメートル以下の「微粒子」として存在する場合は「超常磁性」であると考えられる。
一方、アニーリング処理後においては、セクステットがみられることから反強磁性のα−Feが存在することがわかる。これらの結果からアニーリング処理前後において、ガラス内の鉄原子の状態は大きく変化し、鉄は「常磁性」または「超常磁性」の状態からアニーリング処理により結晶のα−Feに変化することがわかる。
また、実施例1で得られた光触媒ガラスと、比較例1の熱処理ガラスとは、アニーリング処理後における57Feメスバウアースペクトルの結果が異なること、すなわち、実施例1で得られた光触媒ガラスにおいてはダブレットが多いのに対し、比較例1ではダブレットが少ないことがわかる。このことから、実施例1で得られた光触媒ガラス、比較例1で得られた熱処理ガラスとは、ガラス内の鉄原子の状態は大きく異なることがわかる。
【0029】
(粉末X線構造回折分析)
図2は実験例2における粉末X線回折の測定結果である。
アニーリング処理前と、アニーリング処理後における結果から、実施例1で得られた光触媒ガラス、比較例1で得られた熱処理ガラスの両方において、アニーリング処理前はベースラインがブロードで明白なピークが存在しない非晶質ガラスにおいて見られるいわゆるハローパターンであり、アニーリング処理後においては結晶性の明白なピークが存在するパターンに変化するのがわかる。
また、アニーリング処理後における結果から、実施例1で得られた光触媒ガラスにおいてはα−Feに由来するピークが多いのに対し、比較例1においてα−Feに加え、NaCaSi18に由来するピークも多くみられることがわかる。
このことから、実施例1で得られた光触媒ガラスと、比較例1で得られた熱処理ガラスとは、ガラス内に存在する結晶相が大きく異なることがわかる。
【0030】
(光触媒活性試験)
図3は、実験例3における光触媒活性をメチレンブルー分解実験により評価した結果である。
図3の結果から、実施例1で得られた光触媒ガラスは、比較例1の熱処理ガラスと比較して、光触媒活性が顕著に高いことがわかる。
なお、光照射を行わなかった実験の結果(図3(b))、及び可視光照射下において光触媒ガラス及び熱処理ガラスを入れないで実験を行った結果(図3(c))において、メチレンブルーの分解が見られないことから、図3(a)の結果において見られるメチレンブルーの分解は、光照射に起因するものであり、メチレンブルーのガラスへ吸着に由来するものではないことがわかる。
また、図4の結果からも、実施例1で得られた光触媒ガラスは、比較例1の熱処理ガラスと比較して光触媒活性が顕著に高いことがわかる。また、高い一次反応速度定数を有することから、優れた光触媒活性を有するものであることがわかる。
【0031】
以上から、本発明の光触媒活性ガラスは、レアメタルを使用せず、可視光で十分な光触媒活性を示す光触媒であり、低コストで製造できるものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の光触媒ガラスは、可視光で十分な光触媒活性を示すため、各種触媒として用いることができる他、太陽光パネルや、光ファイバー等への応用が可能である。
また、電力メーカーの高炉から排出される飛灰(フライアッシュ)を原料として用いて本発明の光触媒ガラスを製造することも可能であると考えられるので、各種施設から排出される焼却灰などの無機系廃棄物を、本発明の光触媒ガラスとしてリサイクルすることが可能である。また、主成分がケイ酸塩ガラスで、処理するのに厄介な火山灰など、天然の「廃棄物」を有効活用することができる。

図1
図2
図3
図4