【実施例1】
【0015】
本発明の実施例1に係るグラファイトシート10について説明する。
図1(a)はグラファイトシート10の模式図である。本実施例に係るグラファイトシート10は、tμmの厚さを有するシート形状を有している。なお、グラファイトシート10において、厚さ方向はグラファイトのc軸方向と一致している。また、これ以降の説明において、グラファイトシート10のc軸方向と称した場合、特段の断りがない限り、グラファイトシート10のグラファイトのc軸方向を意味することとする。
【0016】
本実施例において、グラファイトシート10の厚さ(t)は、一例として250μmである。但し、グラファイトシート10の厚さはこれに限定されるものではない。グラファイトシート10の厚さは、例えば以下の観点で設定すればよい。具体的には、グラファイトシート10を例えば内燃機関の第1部材と第2部材との間に配置して使用する場合、グラファイトシート10の厚さが薄い方が、グラファイトシート10が間に配置された第1部材と第2部材との間の熱伝導率を小さくできる点で好ましい。一方、グラファイトシート10の厚さが薄過ぎた場合、グラファイトシート10の厚さ方向の弾性変形量が小さくなってしまう。その結果、第1部材と第2部材との間に配置されたグラファイトシート10のクッション性が悪化してしまう。そこで、グラファイトシート10の厚さは、このような熱伝導率とクッション性とのバランスを考慮して適切な値を設定すればよい。
【0017】
図1(b)はグラファイトシート10の一部を拡大した模式的断面図である。
図1(c)は
図1(b)のA部分を拡大した模式的断面図である。
図1(b)および
図1(c)を参照して、グラファイトシート10は、グラファイト部11を有している。このグラファイト部11の主成分(最も多い成分)はグラファイトである。すなわち、グラファイト部11はグラファイト製である。なお、グラファイト部11は、グラファイトを主成分とするものであればよく、グラファイト以外の成分を含んでいてもよい。
【0018】
またグラファイトシート10は、グラファイト部11の内部に、セラミック製のフィラー(混合物)であるセラミックフィラー12を一つ以上含んでいる。具体的には本実施例に係るグラファイトシート10は、セラミックフィラー12を複数含んでいる。また本実施例において、複数のセラミックフィラー12は、グラファイトシート10の内部に分散するように配置されている。また本実施例において、複数のセラミックフィラー12の大部分は、その全体がグラファイト部11の内部に埋設されている。なお、本実施例において、セラミックフィラー12とグラファイト部11との間には樹脂等は配置されていない。そのため、各々のセラミックフィラー12は、グラファイト部11を構成するグラファイトに接している。
【0019】
また本実施例において、セラミックフィラー12の形状は略球状である。なお、略球状とは、およそ球に見える形状であればよく、その具体的な形状は特に限定されるものではない。また、本実施例において略球状には、アスペクト比(長辺の長さを短辺の長さで除した値)が1のもの、すなわち真球も含まれている。この略球状の好ましい数値例を挙げると、例えばアスペクト比が2(これは、長辺の長さ÷短辺の長さ=2を意味している)以下のものが好ましい。なお、本実施例に係るセラミックフィラー12のアスペクト比は約1である。
【0020】
セラミックフィラー12の材質であるセラミックとしては、グラファイト部11を構成するグラファイトのc軸方向の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有するセラミックを用いる。ここで、本実施例に係るグラファイトのc軸方向の熱伝導率は、一例として約5(W/(m・K))である。そのため、本実施例に係るセラミックフィラー12のセラミックとしては、約5(W/(m・K))よりも熱伝導率の高いセラミックを用いる。
【0021】
また、セラミックフィラー12のセラミックは、できるだけ高い熱伝導率を有することが好ましく、またできるだけ安価であることが好ましい。グラファイトのc軸方向の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有するセラミック群の中において、比較的高い熱伝導率を有し且つ比較的安価であるセラミックの具体例として、例えば、AlN、SiC、BN、Si
3N
4、Al
2O
3等のセラミックを挙げることができる。そのため、セラミックフィラー12のセラミックは、これらのセラミックから選択されることが好ましい。
【0022】
ここで、上述したAlN、SiC、BN、Si
3N
4、Al
2O
3等のうち、AlNおよびSiCは特に熱伝導率が良好である。したがって、セラミックフィラー12のセラミックは、AlN(窒化アルミ)およびSiC(炭化珪素)の少なくとも一方を含むセラミックであることが好ましい。この具体例を挙げると、例えば複数のセラミックフィラー12は、AlNを含むセラミック(これはAlNを主成分とするものであればよく、AlN以外の成分を含んでいてもよい)からなるセラミックフィラーによって構成されていてもよい。あるいは、複数のセラミックフィラー12は、SiCを含むセラミック(これはSiCを主成分とするものであればよく、SiC以外の成分を含んでいてもよい)からなるセラミックフィラーによって構成されていてもよい。あるいは複数のセラミックフィラー12は、AlNを含むセラミックからなるセラミックフィラーと、SiCを含むセラミックからなるセラミックフィラーとの両方を含んでいてもよい。あるいは複数のセラミックフィラー12の中には、AlNとSiCとが混ざり合って一つの略球状のセラミックフィラーとなったもの(つまり、一つのセラミックフィラー12のセラミックがAlNおよびSiCを含むもの)が含まれていてもよい。なお、本実施例においては、グラファイトシート10に含まれる複数のセラミックフィラー12のセラミックは、全てAlNを主成分としたセラミックである。
【0023】
グラファイトシート10におけるセラミックフィラー12の体積パーセントは特に限定されるものではないが、本実施例においては、30vol%〜60vol%の範囲内となっている。なお、
図1(b)に図示されているグラファイトシート10におけるセラミックフィラー12の体積パーセントは、40vol%である。30vol%〜60vol%の範囲内の他の体積パーセントの具体例として、30vol%の場合の模式的断面図を示すと、次のようになる。
図2(a)は、セラミックフィラー12の体積パーセントが30vol%の場合におけるグラファイトシート10の一部を拡大した模式的断面図である。
図2(b)は
図2(a)のB部分を拡大した模式的断面図である。
図2(a)および
図2(b)に示すように、セラミックフィラー12の体積パーセントが30vol%の場合においても、セラミックフィラー12はグラファイト部11の内部に分散するように配置されている。
【0024】
セラミックフィラー12の粒径は、小さ過ぎた場合、セラミックフィラー12によってグラファイトシート10に層間剥離(層と層との間で剥離すること)が生じる可能性がある。また、粒径が大き過ぎた場合、セラミックフィラー12の可撓性が悪化し、その結果、セラミックフィラー12の成形時においてセラミックフィラー12に亀裂が発生する可能性がある。セラミックフィラー12の粒径が10μm〜300μmの範囲内にあれば、このような層間剥離および亀裂の発生を抑制することができる。そこで、セラミックフィラー12の粒径は10μm〜300μmの範囲内にあることが好ましい。なお、
図1(b)および
図2(a)に図示されているセラミックフィラー12の粒径は、この10μm〜300μmの範囲内に収まっている。
【0025】
グラファイトシート10の具体的な製造方法は特に限定されるものではないが、本実施例に係るグラファイトシート10は、例えば次の方法で製造することができる。まず、所定の平均粒径を有するセラミックフィラー12の原材料(本実施例ではAlN)をグラファイトの粉末に混合した混合粉を準備する。次いで、この混合粉をフェルト状に成形する(これを予備成形体と称する)。この予備成形体に対して、ロールシート成形等の圧延加工を施す。その結果、グラファイトシート10が得られる。なお、圧延時における圧延ロール間のギャップは、圧延加工の進行に従って、段階的に狭くすることが好ましい。圧延ロール間ギャップを段階的に狭くすることにより、圧延加工時において(すなわち成形時において)グラファイトシート10に亀裂が発生することを効果的に抑制できるからである。
【0026】
続いて、本実施例に係るグラファイトシート10の作用効果について説明する。但し、この説明の前に、前述した本発明が解決しようとする課題について、図を用いて詳細に説明すると次のようになる。
図4は、比較例に係るグラファイトシート200のグラファイトの層構造を示す模式図である。グラファイトシート200は、セラミックフィラー12を含んでいない点において、本実施例に係るグラファイトシート10と異なっている。すなわち、グラファイトシート200は、その全てがグラファイト部11によって構成されているグラファイトシートである。なお、本実施例に係るグラファイトシート10も、グラファイト部11におけるグフラファイトの構造は、
図4と同様な層構造になっている。
【0027】
グラファイトシート200のグラファイトは、複数の層201がc軸方向(c軸に沿った方向)に配置された構造を有している。またグラファイトシート200において、各々の層201は、複数の炭素原子202からなる六角形環203がa×b面内(a軸およびb軸を含む面)において配向している。グラファイトシート200において、グラファイトのc軸方向はグラファイトシート200の厚さ方向と一致しており、グラファイトのa×b面方向(a×b面に沿った方向)はグラファイトシート200の表面に沿った方向と一致している。グラファイトシート200において、隣接する層201同士は、ファンデルワールス力によって結合している。そのため、グラファイトシート200において、隣接する層201と層201との間には、空隙が存在している。
【0028】
このような構造を有することにより、グラファイトシート200は、a×b面方向においては、熱を効果的に伝導することが可能である。そのため、グラファイトシート200のa×b面方向の熱伝導率は良好である。具体的な数値例を挙げると、グラファイトシート200のa×b面方向の熱伝導率は約200(W/(m・K))である。一方、グラファイトシート200は、c軸方向においては、隣接する層201間に空隙があるため、熱を効果的に伝導することが困難である。このため、グラファイトシート200のc軸方向の熱伝導率は良好とはいえず、具体的な数値例を挙げると約5(W/(m・K))である。
【0029】
これに対して、本実施例に係るグラファイトシート10によれば、グラファイトのc軸方向の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有するセラミック製の略球状のセラミックフィラー12をグラファイト部11の内部に含んでいることから、このセラミックフィラー12によってc軸方向への熱の伝導を促進させることができる。それにより、グラファイトシート10のc軸方向の熱伝導率(具体的には、グラファイトのc軸方向におけるグラファイトシート10全体の熱伝導率)を向上させることができる。
【0030】
なお、本実施例においてグラファイトシート10は、複数のセラミックフィラー12を含んでいるが、グラファイトシート10の構成はこれに限定されるものではない。例えば、グラファイトシート10は、一つのセラミックフィラー12のみを含んでいてもよい。この場合においても、グラファイトシート10がセラミックフィラー12を全く含んでいない場合に比較して、グラファイトシート10のc軸方向の熱伝導率を向上させることは可能である。但し、グラファイトシート10がセラミックフィラー12を複数含む場合の方がセラミックフィラー12を一つのみ含む場合に比較して、c軸方向の熱伝導率をより効果的に向上できる点で好ましい。
【0031】
また、本実施例に係るセラミックフィラー12のセラミックは、熱伝導率が良好なAlNを含むことから、本実施例に係るグラファイトシート10によれば、c軸方向の熱伝導率を効果的に向上させることができる。なお、セラミックフィラー12のセラミックがSiCを含む場合においても、SiCはAlNと同様に良好な熱伝導率を有するため、AlNの場合と同様に、c軸方向の熱伝導率を効果的に向上させることができる。
【0032】
図3(a)は、グラファイトシート10の熱伝導率の測定結果をまとめたグラフである。具体的には
図3(a)は、セラミックフィラー12の体積パーセントが0vol%のグラファイトシート(これは前述した比較例に係るグラファイトシート200に相当する)と、30vol%のグラファイトシート10と、40vol%のグラファイトシート10とについて、c軸方向の熱伝導率を測定した結果をグラフ化したものである。c軸方向の熱伝導率は、具体的にはレーザーフラッシュ法によって測定した。なお、このセラミックフィラー12のセラミックは、AlNを主成分とするセラミックである。またこのセラミックフィラー12の平均粒径は約50μmである。
【0033】
図3(a)に示すように、体積パーセントが0vol%の場合、熱伝導率はa(W/(m・K))である。なお、aは0よりも大きい値である。これに対して、体積パーセントが30vol%の場合、熱伝導率は1.3a(W/(m・K))となっており、体積パーセントが0vol%の場合よりも1.3倍も熱伝導率が向上している。さらに、体積パーセントが40vol%の場合、熱伝導率は1.8a(W/(m・K))となっており、体積パーセントが0vol%の場合よりも1.8倍も熱伝導率が向上している。
【0034】
この
図3(a)から、グラファイトシート10がグラファイト部11の内部に略球状のセラミックフィラー12を含むことにより、グラファイトシート10のc軸方向の熱伝導率を向上できることが証明された。また、
図3(a)から、セラミックフィラー12のセラミックがAlNの場合、このセラミックフィラー12を40vol%含むだけで、c軸方向の熱伝導率を1.8倍(すなわち約2倍)も向上できることが分る。また、
図3(a)から、セラミックフィラー12の体積パーセントを増加させるほど、グラファイトシート10のc軸方向の熱伝導率を増加できることも分る。なお、
図3(a)のグラフは前述したようにセラミックフィラー12のセラミックがAlNの場合の測定結果に基づいて作成したものであるが、セラミックフィラー12のセラミックがAlN以外の場合であっても、このセラミックの熱伝導率がグラファイトのc軸方向の熱伝導率よりも高いものであれば、セラミックフィラー12の体積パーセントを増加させるほどグラファイトシート10のc軸方向の熱伝導率を増加させることは可能である。
【0035】
ところで、上述したように、セラミックフィラー12の体積パーセントを増加させるほどグラファイトシート10のc軸方向の熱伝導率を増加できるため、c軸方向の熱伝導率を向上させる観点からは、セラミックフィラー12の体積パーセントは高い方が好ましい。しかしながら、セラミックフィラー12の体積パーセントが高過ぎた場合、グラファイトシート10の可撓性が悪化する可能性がある。このようにグラファイトシート10の可撓性が悪化した場合、グラファイトシート10を成形する際にグラファイトシート10に亀裂が生じる可能性が高くなる。
【0036】
図3(b)は、このセラミックフィラー12の体積パーセントと成形時における亀裂発生の有無との関係を調査した結果を示す図である。
図3(b)から、セラミックフィラー12の体積パーセントが60vol%を超えた場合、グラファイトシート10の成形時(具体的には本実施例では圧延時)にグラファイトシート10に亀裂が発生することが分る。したがって、成形時の亀裂の発生を抑制する観点からは、セラミックフィラー12の体積パーセントは60vol%以下であることが好ましい。グラファイトシート10の成形時の亀裂の発生を抑制しつつc軸方向の熱伝導率が特に良好なセラミックフィラー12の体積パーセントの具体的な数値を挙げると、30vol%〜60vol%の範囲内が好ましい。なお、前述したように本実施例に係るセラミックフィラー12の体積パーセントはこの範囲内に含まれている。すなわち、本実施例に係るグラファイトシート10によれば、グラファイトシート10の成形時の亀裂の発生を抑制しつつc軸方向の熱伝導率を向上させることができる。
【0037】
また、グラファイトシート10は、c軸方向の熱伝導率が良好であるのみならず、グラファイト部11のグラファイトの特性に起因して、可撓性、圧縮されたときの復元性(圧縮復元性)、酸および塩基に対する耐食性等も良好である。そのため、グラファイトシート10は、このような優れた性能を活用できるような種々の用途に使用することができる。
【実施例2】
【0038】
本発明の実施例2はグラファイトシート10の使用態様の一例を示す実施例である。具体的には本実施例に係るグラファイトシート10は、内燃機関5の第1部材と、第1部材とは異なる第2部材との間に配置されて使用されている。この内燃機関5の第1部材および第2部材の一例として、本実施例においては、内燃機関5の排気が通過する部位に設けられた熱交換器の第1部材および第2部材を用いる。より具体的には、本実施例においては、この熱交換器の一例として、EGR(Exhaust Gas Recirculation)クーラ40を用いる。
【0039】
図5は、本実施例に係るグラファイトシート10を備える内燃機関5の模式図である。
図5に示す内燃機関5は車両に搭載されている。内燃機関5の種類は、特に限定されるものではなく、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等の種々の内燃機関を用いることができる。本実施例においては、内燃機関5の一例としてガソリンエンジンを用いる。内燃機関5は、気筒21を有する機関本体20と、気筒21に吸気を導く吸気通路30と、気筒21から排出された排気が通過する排気通路31とを備えている。なお、機関本体20は、気筒21が形成されたシリンダブロックと、シリンダブロックの上部に配置されたシリンダヘッドと、気筒21に配置されたピストンとを備えている。本実施例において、気筒21の数は複数(具体的には4つ)である。但し気筒21の数はこれに限定されるものではない。
【0040】
また内燃機関5は、前述したEGRクーラ40を備えるとともに、EGR通路60と、EGR通路60に配置されたEGRバルブ70と、冷媒供給通路80と、冷媒排出通路81とを備えている。なお、EGRクーラ40はEGR通路60の上流側端部と下流側端部との間の部分(すなわち通路途中)に配置されている。EGR通路60は、排気通路31の排気の一部を吸気通路30に再循環させる通路である。具体的には本実施例に係るEGR通路60は、吸気通路30の通路途中と排気通路31の通路途中とを接続している。これ以降、EGR通路60を通過する排気をEGRガスと称する。EGRバルブ70は、制御装置としての機能を有するECU(Electronic Control Unit)の指示を受けてEGR通路60を開閉する。EGRバルブ70がEGR通路60を開閉することで、EGRガスの流量を調整することができる。
【0041】
EGRクーラ40は、冷媒とEGRガスとの間で熱交換をすることで、EGRガスを冷却する装置である。冷媒供給通路80は、機関本体20の内部に形成された冷媒通路(以下、機関本体冷媒通路と称する)の冷媒をEGRクーラ40に導く冷媒通路である。冷媒排出通路81は、EGRクーラ40の内部を通過した冷媒を機関本体冷媒通路に戻す冷媒通路である。前述したグラファイトシート10は、このEGRクーラ40の内部において用いられている。
【0042】
続いてEGRクーラ40の詳細について説明する。
図6(a)はEGRクーラ40の模式的断面図である。本実施例に係るEGRクーラ40は、前述したグラファイトシート10に加えて、フランジ41a,41bと、コーンパイプ42a,42bと、ハウジング43と、EGRガスが通過する熱交換体50とを備えている。ハウジング43は、アウターパイプ44と、アウターパイプ44の内側に配置されたインナーパイプ45とを備えている。本実施例において、フランジ41a,41b、コーンパイプ42a,42bおよびハウジング43は金属製である。また、熱交換体50はセラミック製である。なお、
図6(a)に図示されている軸線100は、ハウジング43および熱交換体50の中心軸を表す線である。以下、軸線100に沿った方向を軸線方向と称する。また、
図6(a)においてEGRガスの流動方向は左から右に向う方向である。これ以降の説明において、上流側および下流側と称した場合、特段の断りがない限りEGRガスの流動方向で上流側および下流側を意味することとする。
【0043】
コーンパイプ42aは下流側に行くほど内径が拡径したコーン形状を有している。コーンパイプ42bは下流側に行くほど内径が縮径したコーン形状を有している。フランジ41aはコーンパイプ42aの上流側の端部に接続している。コーンパイプ42aの下流側の端部は、アウターパイプ44の上流側の端部に接続している。フランジ41bはコーンパイプ42bの下流側の端部に接続している。コーンパイプ42bの上流側の端部は、アウターパイプ44の下流側の端部に接続している。EGRクーラ40は、フランジ41aおよびフランジ41bを介してEGR通路60に接続している。
【0044】
本実施例において、フランジ41a,41bとコーンパイプ42a,42bとは、溶接によって接続されている。また、コーンパイプ42a,42bとアウターパイプ44とは溶接によって接続されている。但し、フランジ41a,41b、コーンパイプ42a,42bおよびアウターパイプ44の接続手法は、このような溶接による接続に限定されるものではなく、例えば金属ロウ材等によるロウ付け接続等、種々の接続手法を用いることができる。
【0045】
アウターパイプ44およびインナーパイプ45は略円筒形状を有するパイプ部材である。但しアウターパイプ44およびインナーパイプ45の形状はこれに限定されるものではない。またアウターパイプ44の両端部は、内側に屈曲してインナーパイプ45の外周面に接続している。具体的にはアウターパイプ44の両端部は、インナーパイプ45の外周面に溶接されている。但し、アウターパイプ44とインナーパイプ45との接続手法は、このような溶接による接続手法に限定されるものではなく、例えば金属ロウ材等によるロウ付け接続等、種々の接続手法を用いることができる。
【0046】
アウターパイプ44の中間部とインナーパイプ45との間には、冷媒が通過する冷媒通路46が設けられている。すなわち、本実施例に係るアウターパイプ44およびインナーパイプ45は、冷媒通路46を構成する金属部材としての機能を有している。アウターパイプ44のうち冷媒通路46を構成している部分には、冷媒供給口47および冷媒排出口48が設けられている。冷媒供給口47には、
図5において前述した冷媒供給通路80が接続され、冷媒排出口48には
図5において前述した冷媒排出通路81が接続されている。冷媒供給通路80を通過した冷媒は、冷媒供給口47から冷媒通路46に流入する。冷媒通路46に流入した冷媒は、冷媒通路46を通過した後に冷媒排出口48を通過して冷媒排出通路81に流入する。なお本実施例において、冷媒通路46の軸線方向の長さは熱交換体50の軸線方向の長さよりも長くなっている。その結果、本実施例に係る冷媒通路46は、熱交換体50の外周側の全体を覆うように設けられている。
【0047】
本実施例においては、コーンパイプ42a,42b、フランジ41a,41bおよびハウジング43(アウターパイプ44およびインナーパイプ45)の材質である金属の一例として、ステンレス(SUS)を用いる。但し、これらの部材の材質は、ステンレスに限定されるものではなく、他の金属であってもよい。あるいは、コーンパイプ42a,42b、フランジ41a,41bおよびハウジング43の材質はセラミックであってもよい。但し、本実施例のようにこれらの部材の材質が金属である場合の方が、セラミックである場合に比較して、溶接やロウ付けによって容易に接合できる点で好ましい。
【0048】
熱交換体50は、EGRガスの熱をグラファイトシート10に伝導させる媒体である。
図6(b)は熱交換体50の模式的断面図である。具体的には
図6(b)は、熱交換体50の軸線方向を法線方向とする面で
図6(a)の熱交換体50を切断した断面を模式的に図示している。本実施例に係る熱交換体50は、EGRガスが通過する内部ガス通路51を複数有している。この内部ガス通路51は、熱交換体50の外周を構成する外周部材52の内部が複数の隔壁部材53によって仕切られることにより形成されている。なお、本実施例において外周部材52は円筒形状を有しているが、外周部材52の形状はこれに限定されるものではない。また、本実施例において隔壁部材53は格子状に配置されているが、隔壁部材53の配置態様はこれに限定されるものではない。
【0049】
熱交換体50の材質(具体的には外周部材52および隔壁部材53の材質)であるセラミックの具体的な成分は特に限定されるものではないが、SiCが好ましい。SiCは、セラミックの中でも良好な熱伝導率を有するとともに、排気に対する耐食性が良好であり、加工性も良好であり、コストも高価でないため、EGRクーラ40用の熱交換体50の材質として特に適しているからである。そこで、本実施例においては、熱交換体50の材質の一例として、SiCを成分中に含むセラミックを用いる。このSiCを成分中に含むセラミックの具体例としては、SiC(つまりSiCの他に添加物が添加されていないもの)、Si含浸SiC、(Si+Al)含浸SiC、金属複合SiC等を用いることができる。本実施例においては、熱交換体50の材質の一例としてSi含浸SiCを用いる。
【0050】
グラファイトシート10は、熱交換体50の外周とインナーパイプ45の内周との間に配置されている。すなわち、本実施例に係るグラファイトシート10は、セラミック製の熱交換体50(第1部材)と、熱交換体50の外周側に配置された金属部材であるインナーパイプ45(第2部材)との間に配置されている。具体的にはグラファイトシート10は、c軸方向にある第1の面(具体的には内側の面)が熱交換体50の外周部材52の外周に接し、c軸方向にある第2の面(具体的には外側の面)がインナーパイプ45の内周に接するように、熱交換体50とインナーパイプ45との間に配置されている。なお、このように配置されたグラファイトシート10のc軸方向は、熱交換体50からインナーパイプ45に向かう方向(
図6(a)において上下方向)と一致している。
【0051】
また本実施例に係るグラファイトシート10は、熱交換体50の外周全体を覆うように配置されている。具体的には本実施例に係るグラファイトシート10は、
図1(a)で説明したシート状のグラファイトシート10が、円筒状に丸められて熱交換体50の外周全体を覆うように配置されたものである。なお、本実施例において、グラファイトシート10中のセラミックフィラー12の体積パーセントは40vol%であるが、セラミックフィラー12の体積パーセントはこれに限定されるものではない。また本実施例に係るグラファイトシート10のセラミックフィラー12の材質はAlNであるが、セラミックフィラー12の材質もグラファイトのc軸方向の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有するものであれば、これに限定されるものではない。
【0052】
EGRクーラ40は次のように作用する。まず、熱交換体50の内部ガス通路51にEGRガスが流入した場合、EGRガスの熱は、隔壁部材53を伝導して外周部材52に伝導する。外周部材52に伝導した熱はグラファイトシート10に伝導する。グラファイトシート10に伝導した熱はインナーパイプ45に伝導する。インナーパイプ45に伝導した熱は、冷媒通路46の冷媒に奪われる。このようにしてEGRクーラ40は、EGRガスの熱を冷媒によって冷却している。
【0053】
本実施例に係るグラファイトシート10によれば、実施例1で説明したようにc軸方向の熱伝導率が向上していることから、このようなグラファイトシート10が間に配置された内燃機関5の第1部材と第2部材との間の熱伝導率を向上させることができる。具体的には、本実施例においては、この第1部材の一例として、内燃機関5の排気が通過するセラミック製の熱交換体50、より具体的には内燃機関5のEGRクーラ40の熱交換体50を用いている。また本実施例においては、この第2部材の一例として、熱交換体50の外周側に配置された冷媒通路46を構成する金属部材、より具体的にはEGRクーラ40のインナーパイプ45を用いている。それにより、本実施例に係るグラファイトシート10によれば、グラファイトシート10によって熱交換体50の熱を効果的にインナーパイプ45に伝導することができる。その結果、熱交換体50の熱を効果的に冷媒通路46の冷媒によって冷却することができる。それにより、排気の冷却性能を向上させることができる。
【0054】
また、グラファイトシート10はグラファイト部11を有するため、グラファイトシート10の可撓性および圧縮復元性は良好であり、さらにグラファイトシート10の表面の摩擦係数も低い。そのため、グラファイトシート10によれば、熱交換体50およびインナーパイプ45が熱膨張した場合であっても、熱交換体50の熱膨張率とインナーパイプ45の熱膨張率との相違によって生じる熱交換体50への応力集中を緩和することができる。それにより、熱交換体50に亀裂が発生することを抑制できる。このグラファイトシート10による熱交換体50への応力集中の緩和効果について、より詳細に説明すると次のようになる。
【0055】
まず、前述したように、グラファイトシート10の可撓性は金属およびセラミックよりも良好である。その結果、グラファイトシート10は、c軸方向に対して容易に圧縮できる。そのため、例えばEGRクーラ40の温度が上昇して熱交換体50およびインナーパイプ45が径方向に熱膨張した場合であっても、グラファイトシート10がc軸方向に容易に圧縮されることにより、熱交換体50の径方向に生じる応力集中を緩和することができる。また、前述したようにグラファイトシート10の圧縮復元性は、金属およびセラミックよりも良好である。そのため、EGRクーラ40の温度が冷えて熱交換体50およびインナーパイプ45の径方向の寸法が元に戻った場合には、グラファイトシート10の厚さも容易に戻ることができる。それにより、熱交換体50とグラファイトシート10とインナーパイプ45との間に隙間が生じることは抑制されている。また、前述したようにグラファイトシート10の表面の摩擦係数はセラミックおよび金属の摩擦係数よりも低い。そのため、熱交換体50が軸線方向に熱膨張した場合であっても、熱交換体50の外周がグラファイトシート10に対して軸線方向に容易に滑ることができる。それにより、熱交換体50の軸線方向に生じる応力集中を緩和することができる。
【0056】
また内燃機関5の排気は酸性の成分を含んでいる。さらに内燃機関5の排気は、例えば内燃機関5が高負荷状態の場合には、高温(例えば約700℃程度)になる場合がある。これに対してグラファイトシート10は、高温の酸に対する耐食性がステンレス等の金属よりも良好である。そのため、本実施例に係るグラファイトシート10によれば、高温の排気に対する十分な耐食性を有しつつ、熱交換体50とインナーパイプ45との間の熱伝導率を向上させることができる。
【0057】
(変形例)
なお、グラファイトシート10の用途は、上述したような内燃機関5のEGRクーラ40に限定されるものではない。例えば、グラファイトシート10は、前述したように、良好な可撓性および圧縮復元性を有するとともに高温時における耐酸化性も良好であるため、内燃機関5のガスケットとして使用するのにも適している。グラファイトシート10を内燃機関5のガスケットとして使用する場合、例えばグラファイトシート10は、内燃機関5のシリンダブロック(すなわち第1部材)とシリンダヘッド(すなわち第2部材)との間に、グラファイトのc軸方向がシリンダブロックからシリンダヘッドに向う方向となるように配置される。この場合、グラファイトシート10によってシリンダブロックとシリンダヘッドとの間からガス、オイル、冷媒等が漏洩することを抑制しつつ、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間の熱伝導率を向上させることができる。
【0058】
また、グラファイトシート10の使用態様は、上述したような内燃機関5の第1部材と第2部材との間に配置される使用態様に限定されるものでもない。例えば、グラファイトシート10は、電気伝導率も良好なため、この特性を活かした他の用途に使用することもできる。この具体例として、例えばグラファイトシート10は、電子・電気機器等に使用することもできる。
【0059】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。