【実施例】
【0022】
(実施例1)
<スッポン由来のコラーゲンの抽出>
静岡県立焼津水産高校で養殖されたキョクトウスッポンのエンペラ部分10gを0.1Nの塩酸(HCl)溶液100mLに浸漬させ、24時間攪拌した。その後7000rpmで20分間遠心を行い、沈殿を回収した。
【0023】
得られた沈殿に100mLの0.1Nの水酸化ナトリウム(NaOH)を加え、24時間攪拌した。その後7000rpmで20分間遠心し、沈殿を回収した。この処理は3回行った。
【0024】
得られた沈殿約10gに0.03Mのクエン酸(Citric Acid)溶液100mLを加え、37℃で24時間インキュベートした。その後、7000rpmで20分間遠心し、上澄み溶液を回収し、スッポン由来コラーゲン溶液を得た。
【0025】
<スッポン由来のコラーゲンの分解>
上記で得たスッポン由来のコラーゲンを以下の手順で、分解酵素を用いて分解した。
【0026】
スッポン由来のコラーゲン100mgを炭酸水素アンモニウム(NH
4HCO
3)溶液(最終濃度100mM)に100mLマイヤーフラスコ中で懸濁した。なお、ここでスッポン由来のコラーゲン100mgとは、約2mg/mLで0.03Mクエン酸溶液に溶けているコラーゲンを100mg用いた意味である。
【0027】
ウシ由来トリプシン(SIGMA−ALDRICH社製)溶液(10mg/mL×100μL=1mg)を加え37℃で振盪しながらインキュベートした。インキュベートを始めてから5日後に、100℃で10分加熱し、酵素活性を失活させた。酵素活性を失活させた状態の溶液中には、コラーゲンペプチドが含まれている。この溶液をコラーゲンペプチド溶液と言っても良い。
【0028】
分解酵素で分解できているか否かをSDS−PAGEおよびCEで確認した。SDS−PAGEでは、インキュベートの時間を24時間、48時間、72時間の時点のコラーゲンペプチドについても測定を行った。また、インキュベート5日後のコラーゲンペプチド溶液を、MWCO100〜500の透析膜を用い、蒸留水に対して透析を行い、低分子の消化物断片や塩を取り除いた。これは精製コラーゲンペプチドを含む精製コラーゲンペプチド溶液である。
【0029】
<SDS−PAGE>
以下の手順でSDS−PAGE(Sodium Dodecyl Sulfate −Polyaclylamide Gel Electrophoresis:ドデシル硫酸ナトリウムアクリルアミドゲル電気泳動)を行った。
【0030】
常法にしたがって、電気泳動用のゲルを作製した。具体的には、以下のようにした。分離ゲルおよび濃縮ゲルを、水、アクリルアミド、Tris、APS(ペルオキソ二硫酸アンモニウム)、TEMED(テトラメチルエチレンジアミンを)を用いて表1の組成に従って、調製した。
【0031】
【表1】
【0032】
泳動させるサンプル(コラーゲンペプチド)は5〜10μg程度の量にそろえられるようにPBSで濃度調整をしておいた。サンプルはLaemmili Sample Buffer(Tris, Glycerol, SDS, Pyronin Y, β−メルカプトエタノール含)と1:1の割合で混合し、95℃、10分の加熱を行い変性させた。
【0033】
サンプルと分子量マーカーをそれぞれレーンにアプライした。ゲル1枚につき20mAの電流を定電流で流した。Sample Buffer中の色素(Pyronin Y)がゲルの下側まで来たら泳動を終了した。泳動が終了したら、CBB(Coomassie Brilliant Blue)で染色した。
【0034】
<キャピラリー電気泳動>
コラーゲンペプチドに、キャピラリー電気泳動(Capillary Electrophoresis:CE)を行った。キャピラリーにはフューズドシリカを用いた。泳動液は50mMホウ酸緩衝液(pH10.5)に20mMのSDSを添加した溶液を用いた。サンプル導入は落差法を用いた。印加電圧は20kV、検出は200−300nmのUV吸収で行った。また、トリプシンによるコラーゲンペプチドを透析した精製コラーゲンペプチドについてもCEを行った。
【0035】
泳動を行った温度は25℃であった。変性バッファは、pH6.8で1MのTrisが1.25mL、グリセロールを2.0mL、SDSを0.4mLに全量が10mLになるまで水を加えた。なお、サンプルには、泳動直前にケイ皮酸ナトリウム(C
6H
5CH=CHCOONa)を混入させた。
【0036】
<メラニン産生抑制効果の確認>
上記のコラーゲンペプチド溶液(1mg/ml)をリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline;以下「PBS」と呼ぶ。)で10倍に希釈した後、0.2μmフィルタでろ過することで滅菌した。
【0037】
B16F1細胞(マウス悪性黒色腫)を2×10
5個/60mm dishになるように分注した。和光社製のRMI1640培地に10%FBS(Fetal bovine serum:ウシ胎児血清)を添加した培地5mLに0.1mg/mLコラーゲンペプチド溶液を100μLまたは50μLを加えた。
【0038】
B16F1細胞を24時間培養した後、滅菌済みコラーゲンペプチドを投与する。対照として希釈に使用したPBSをB16F1細胞に加えたものを用意した。また、ペプチドの最大投与量と同等のコラーゲン(酵素で分解していないコラーゲン)も対照として用意した。
【0039】
コラーゲンペプチドを投与した後、48時間後さらに培養した。その後培養皿に接着している細胞をトリプシンで剥がし、1×10
6個の細胞を回収した。
【0040】
回収した細胞は、PBS5mLで洗浄し、0.85Mの水酸化カリウム(KOH)、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液500μlで細胞懸濁させた。次に80℃で30分インキュベートし、細胞中のメラニンを溶解させた。メラニンを溶解させた溶液を細胞メラニン溶液と呼ぶ。
【0041】
細胞メラニン溶液200μlを96well plateに移し、405nmの吸光度を測定した。
【0042】
(実施例2)
実施例1において、トリプシンの代わりにパパイン(和光純薬工業株式会社製)に変えた以外は、以下の点を除いて全く同じ手順を繰り返し、細胞メラニン溶液の405nmの吸光度を測定した。
(1)B16F1細胞(マウス悪性黒色腫)の培地に添加したコラーゲンペプチドは100μLだけであった。
(2)CEを行ったのは、コラーゲンペプチドだけであり、精製コラーゲンペプチドについては行っていない。
【0043】
<結果>
吸光度の結果を
図1(トリプシン)および
図2(パパイン)に示す。
図1および2で縦軸はPBSを入れた時の対照(コントロール:controlと呼ぶ。)の吸光度を100とした時の割合(%)である。横軸は、それぞれのサンプルの種類を表す。
【0044】
図1に分解酵素がトリプシンの場合の結果を示す。
図1を参照して、コントロール(PBS)に比べて、コラーゲンペプチドを投与することで、メラニン生成は抑制されたと言える。具体的には、コラーゲンペプチドを1μg/mL入れた場合は、約20%、2μg/mLでは約40%のメラニン生成抑制が確認された。なお、酵素で分解していないコラーゲンもコントロールに対して吸光度が約20%低減していた。
【0045】
図1のグラフ上には、色見本を参考に示した。これは256階調を有する画像データを使って、階調が20%、40%低減した場合の見え方を例示したものである。コントロールの階調(符号10)を128とした。コラーゲンだけの場合(符号12)とトリプシンによるコラーゲンペプチドを1μg/mL添加した場合(符号14)は、コントロールに対して効果の違いは少ない。
【0046】
トリプシンによるコラーゲンペプチドを2μg/mL添加した場合(符号16)は、色見本を比較しても濃淡が分かる。このように、少なくともコントロールに対して50%以上の吸光度の変化があれば、美白の効果が期待できると考えられる。
【0047】
また、
図1のように、コラーゲンペプチドの添加量を増やすことで、メラニン生成抑制の効果が反比例的に表れた。これは、人体に対して用いる際に、美白効果に対する摂取量を調節することができるという点で、利用し易い特性である。
【0048】
図2に分解酵素がパパインの場合の結果を示す。
図2を参照して、コントロールに対して、分解酵素をパパインにしたコラーゲンペプチドを2μg/mL入れた場合は、コントロールに対して約60%のメラニン生成抑制が確認された。
【0049】
図2のグラフの上には色見本を示した。コントロール(符号10)に対して60%階調を変化させた場合(符号18)は、明らかに白くなることが認識できる。
【0050】
図3には、トリプシンおよびパパインで酵素分解させた精製コラーゲンペプチドのSDS−PAGEの結果を示す。それぞれ分解時間を24時間、48時間、72時間と変化させた結果を並べて示す。第1、第2、第3レーンは、24時間、48時間、72時間後のパパインによるコラーゲンペプチドの泳動像である。また、第4、第5、第6レーンは、24時間、48時間、72時間後のトリプシンによるコラーゲンペプチドの泳動像である。なお、第ゼロレーンは分子量マーカーである。
【0051】
パパインで酵素分解させたコラーゲンペプチドは、15〜43kDaにかけて、明確な泳動像が複数本確認された。また、分解時間については、48時間と72時間の泳動像が同じであった。したがって、少なくとも48時間分解させれば、ほぼ完全に酵素分解されていると考えられた。
【0052】
一方、トリプシンでは、24時間後ですでに、泳動像は確認されなかった。これよりトリプシンで分解させると、3.5kDa以下の小さなコラーゲンペプチドが生成されていると考えられた。
【0053】
図4には、CEの結果を示す。
図4(a)はトリプシンで酵素分解させた場合であり、
図4(b)はパパインで酵素分解させた場合である。それぞれ、横軸は泳動時間(分)であり、縦軸は吸光度である。参考ピークであるケイ皮酸ナトリウム(C
6H
5CH=CHCOONa)のピークから比較すると、パパインで酵素分解させた場合は、分子量が大きいペプチドがリッチに存在し、トリプシンで酵素分解させた場合は、分子量が小さいペプチドがリッチに存在していることがわかる。これはSDS−PAGEの結果(
図3)とも一致する。
【0054】
図5には、トリプシンを用いたコラーゲンペプチドを透析し精製コラーゲンペプチドとした場合のCEの結果を示す。横軸および縦軸は泳動時間(分)と吸光度である。この場合精製コラーゲンペプチドは、透析で残った溶液である。つまり、透析で用いた膜の細孔径以下の物質は除去されたコラーゲンペプチドである。
図4(a)と比較し、ほとんどピークの位置及び分布比が変わらなかった。
【0055】
この精製コラーゲンペプチドもメラニン生成抑制効果があることを確認している。したがって、メラニン生成抑制効果は、透析により除去された低分子の物質による寄与ではなく、透析後でも残っているコラーゲンペプチドによるものと考えられる。なお、透析後の精製コラーゲンペプチドは、インキュベート後にしていたアミン臭等の不快臭はしなかった。