特開2015-218838(P2015-218838A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-218838高反応型流体式ファン・クラッチ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-218838(P2015-218838A)
(43)【公開日】2015年12月7日
(54)【発明の名称】高反応型流体式ファン・クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 35/02 20060101AFI20151110BHJP
【FI】
   F16D35/00 611J
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-103779(P2014-103779)
(22)【出願日】2014年5月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000120249
【氏名又は名称】臼井国際産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋平
(57)【要約】
【課題】 低ファン回転時の遠心力が弱い状態においても、制御信号によるファン回転の反応速度の優れた高反応型流体式ファン・クラッチ装置の提供。
【解決手段】 駆動ディスクを固着した回転軸に支承されたケースに環状の油溜り室が設けられ、油溜り室の油循環流通孔を電磁石により開閉する弁部材を備え、駆動側と被駆動側とのなすトルク伝達間隙部での油の有効接触面積を増減させて駆動側から被駆動側への回転トルク伝達を制御するようにしてなる外部制御式ファン・クラッチ装置において、前記環状の油溜り室内に当該油溜り室の外径壁に対して偏心させた内径壁を設けたことを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ディスクを固着した回転軸体上に、軸受を介して支承された非磁性体のケースと該ケースに取着されたカバーとからなる密封器匣の内部に、駆動ディスクを内装するトルク伝達室を備え、前記ケースの内部を中空となして設けた油溜り室の側壁面にトルク伝達間隙に通ずる少なくとも一つの油循環流通孔を有し、前記油循環流通孔を開閉する磁性を有する弁部材を備え、前記弁部材は前記ケースに取着された板ばねにアーマチャーが取付けられた構成となし、前記回転軸体に軸受を介して支持した電磁石、同回転軸体の外周にリング形状の非磁性部材を介して配置したリング形状の磁性部材を備え、前記電磁石により前記弁部材を作動させて前記油循環流通孔を開閉制御する仕組みとなし、駆動側と被駆動側とのなすトルク伝達間隙部での油の有効接触面積を増減させて駆動側から被駆動側への回転トルク伝達を制御するようにしてなる外部制御式ファン・クラッチ装置において、前記環状の油溜り室内に当該油溜り室の外径壁に対して偏心させた内径壁を設けたことを特徴とする高反応型流体式ファン・クラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に自動車等における機関冷却用のファン回転を外部周囲の温度変化あるいは回転変化に追従して制御する方式の流体式ファン・クラッチ装置に係り、より詳しくは制御信号によるファン回転の反応の迅速化をはかる高反応型流体式ファン・クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等における機関冷却用のファン回転を制御して冷却送風量を機関に供給するファン・クラッチ装置としては、温度感応型、外部制御タイプ等があり、温度感応型としては例えば、ケースとカバーとからなる密封器匣(ハウジング)の内部を、油の供給調整孔を有する仕切板により油溜り室と駆動ディスクを内装するトルク伝達室とに区劃し、回転時の油の集溜する駆動ディスクの外周壁部に対向する密封器匣側の内周壁面の一部にダムと、これに連なってトルク伝達室より油溜り室間に循環流通路を形成すると共に、外部周囲の温度等が設定値を超えると前記仕切板の供給調整孔を開放し、設定値以下では前記仕切板の供給調整孔を閉鎖する弁部材を内部に備え、駆動ディスクと前記密封器匣の外方付近の対向壁面に設けたトルク伝達間隙部での油の有効接触面積を増減させて、駆動側から被駆動側の密封器匣側へのトルク伝達を制御するものがある。この種のファン・クラッチ装置は、短冊タイプ又は渦巻きタイプのバイメタルによって雰囲気温度を検出し、この検出値に応じて前記油供給調整孔の開度を調整する方式が一般的である(特許文献1参照)。又、外部制御タイプとしては、基本構造は前記温度感応型ファン・クラッチ装置と同様であるが、このタイプは前記仕切板の油供給調整孔を開閉する弁部材を磁性材製とし、外部に設けた電磁石にて前記磁性を有する弁部材を制御する方式であり、その構造としては例えば、密封器匣の前面側または後面側に一対の電磁石を設け、その電磁石に対向して前記仕切板の油供給調整孔を開閉する磁性を有する弁部材を設けたものがある(特許文献2等参照)。
【0003】
さらに、車両の冷却ファンを駆動する外部制御式の粘性摩擦クラッチが知られている。この粘性摩擦クラッチは、駆動ディスク及びハウジング(ケースとカバー)と、環状の供給チャンバ(環状供給室)及び作業チャンバ(作動室)と、供給チャンバからのせん断流体(オイル)を作業チャンバに供給する供給装置及び作業チャンバからのせん断流体を供給チャンバに還流する還流装置を備え、供給チャンバの一部にせん断流体の貯蔵チャンバ(貯蔵室)を含み、この貯蔵チャンバは供給チャンバの他の部分により作業チャンバから離間されている構成となしたもので、前記供給チャンバはハウジング内に配置され、前記貯蔵チャンバは環状セグメントからなり、又、貯蔵チャンバは環状セグメントが補充容器として形成され、供給チャンバが少なくとも1つの供給口と少なくとも1つの還流口(回収口)を含み、その供給口と還流口はそれぞれ前記供給装置と還流装置の一部を形成する等の特徴を有するものである。そして、このような構成を有する外部制御式ファン・クラッチ装置は、ハウジングのケースあるいはカバー側の供給口から流出した粘性オイルを、ファン・クラッチが回転時に発生する遠心力により駆動ディスク、ハウジングのケースとカバーに設けられたトルク伝達部(ラビリンス部)へ供給する方式となしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−21048号公報
【特許文献2】特開2002−81466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1及び特許文献2記載の従来の流体式ファン・クラッチ装置は、仕切板の油供給調整孔より油溜り室からトルク伝達室に供給される油によって駆動ディスクの駆動トルクが密封器匣(ケース)に伝達され、該密封器匣に取付けられたファンが回転する仕組みとなっているため、弁部材により開閉される油供給調整孔が従動側に設けられている。このため、この種の従来の流体式ファン・クラッチ装置の場合は、低ファン回転時(OFF回転)には遠心力が弱くなり、それに伴い油の供給量も少なくなるため、ファン回転を上げる時の反応が遅くなりファンを高速度で回転させるのに時間を要するという欠点がある。さらに、スノープロー車両(雪掻きのための除雪板をフロントグリルの前に設置した車両)においては、フロントグリル前面の風速が周囲の風速よりも遅くなり、エンジンルーム内とフロントグリル周囲で圧力差が発生し、または床下からの巻上げ風によってファンと逆方向の風の流れを発生させ、それによってファンの回転が著しく低くなり、ファン回転を上げる時の反応が遅くなるかもしくは反応せずにファンの回転が上がらずにオーバーヒートしてしまうという欠点がある。
又、ハウジングのケースあるいはカバー側の供給口から流出した粘性オイルを、ファン・クラッチが回転時に発生する遠心力により駆動ディスク、ハウジングのケースとカバーに設けられたトルク伝達部(ラビリンス部)へ供給する方式の外部制御式の流体式ファン・クラッチ装置が知られている。この流体式ファン・クラッチ装置は、供給口が従動側にあるため、低ファン回転時(OFF)により遠心力が弱くなり、それに伴い粘性オイルの供給も弱くなり、制御信号に対するファン回転の反応が遅いという欠点がある。
【0006】
本発明は、ハウジングのケースあるいはカバー側の供給口から流出した粘性オイルを、ファン・クラッチが回転時に発生する遠心力により駆動ディスク、ハウジングのケースとカバーに設けられたトルク伝達部(ラビリンス部)へ供給する方式の外部制御式の流体式ファン・クラッチ装置の前記欠点、即ち、低ファン回転時(OFF)により遠心力が弱くなり、それに伴い粘性オイルの供給も弱くなり、制御信号に対するファン回転の反応が遅いという欠点を解消し、低ファン回転時の遠心力が弱い状態においても、制御信号によるファン回転の反応が速く、かつ少ないオイル量で供給に必要な圧力が得られる高反応型流体式ファン・クラッチ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る高反応型流体式ファン・クラッチ装置は、駆動ディスクを固着した回転軸体上に、軸受を介して支承された非磁性体のケースと該ケースに取着されたカバーとからなる密封器匣の内部に、駆動ディスクを内装するトルク伝達室を備え、前記ケースの内部を中空となして設けた油溜り室の側壁面にトルク伝達間隙に通ずる少なくとも一つの油循環流通孔を有し、前記油循環流通孔を開閉する磁性を有する弁部材を備え、前記弁部材は前記ケースに取着された板ばねにアーマチャーが取付けられた構成となし、前記回転軸体に軸受を介して支持した電磁石を備え、前記電磁石により前記弁部材を作動させて前記油循環流通孔を開閉制御する仕組みとなし、駆動側と被駆動側とのなすトルク伝達間隙部での油の有効接触面積を増減させて駆動側から被駆動側への回転トルク伝達を制御するようにしてなる外部制御式ファン・クラッチ装置において、前記環状の油溜り室内に当該油溜り室の外径壁に対して偏心させた内径壁を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る高反応型流体式ファン・クラッチ装置は、環状の油溜り室内に当該油溜り室の外径壁に対して偏心させて設けた内径壁の作用により、低ファン回転時の遠心力が弱い状態においても油溜り室の側壁面に設けた油循環流通孔に加わるオイルの圧力を増加させてオイルを供給することができるので、低ファン回転時の遠心力が弱い状態においても制御信号に対するファン回転の反応が速く、かつ少ないオイル量で供給に必要な圧力が得られるのでコスト低減にも寄与し得るという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る外部制御式の高反応型流体式ファン・クラッチ装置の一実施例を示す縦断面図である。
図2図1A−A矢示図である。
図3】本発明の実施例における油溜り室の外径壁に対する内径壁の偏心割合を示す概略図で、(a)は60:40(実施例1)、(b)は75:25(実施例2)(c)は50:50(従来例:偏心壁なし)、をそれぞれ示す。
図4】本発明の実施例における制御信号に対するファン回転の反応速度を調査した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1図2に示す外部制御式の高反応型流体式ファン・クラッチ装置は、駆動部(エンジン)の駆動によって回転する回転軸体(駆動軸)1に、軸受13、14を介してケース2−1とカバー2−2とからなる密封器匣2が支承され、この密封器匣2内のトルク伝達室6内に回転軸体1に固着された駆動ディスク3が内装されている。前記ケース2−1には、その内部を中空となして外径壁5−1と内径壁5−2を備え、プレート4でカバーされた環状の油溜り室(オイル貯蔵室)5が設けられている。この油溜り室5は内径壁5−2が外径壁5−1に対して偏心されて構成され、該油溜り室の外径壁5−1側に前記トルク伝達室6に通ずる油循環流通孔(油供給口)8と油回収口8−1が設けられている。ケース2−1に設けられた油循環流通孔8を開閉する油供給用の弁部材10は、板バネ10−1とアーマチャー10−2とからなり、当該弁部材のアーマチャー10−2が回転軸体1近傍に位置するように板バネ10−1基端部をケース2−1の裏面側に設けた弁部材取付部11に捩子等により固着している。密封器匣2の駆動部側には、回転軸体1に軸受15を介して支承されたリング状の電磁石支持体17にリング状の電磁石16が支持され、この電磁石16により前記プレート4を介して板バネ10−1の作用により油循環流通孔8が開閉される構成となしている。
【0011】
上記構成の高反応型流体式ファン・クラッチ装置において、電磁石16がOFF(非励磁)の時はアーマチャー10−2が当該板バネ10−1の作用により油溜り室5の外径壁5−1側の油循環流通孔8より離間することにより該油循環流通孔8が開き、油溜り室5とトルク伝達室6が連通し、油溜り室5内の油がトルク伝達室6内へ供給され、冷却用ファン(図示せず)が停止状態から回転状態へ移行する。他方、電磁石16がON(励磁)の時はアーマチャー10−2が当該板バネ10−1に抗して吸引されることにより、当該板バネ10−1が油溜り室5側に圧接して油循環流通孔8が閉じられ、油溜り室5内の油はトルク伝達室6内へ供給されない。
【0012】
本発明では、電磁石16がONの時に、環状の油溜り室5内に外径壁5−1に対して偏心させて設けた内径壁5−2の作用により、油循環流通孔8付近における油量が増加し水頭圧(供給圧力)が強くなる結果、トルク伝達室6内へ供給される油の供給量が増加する。従って、本発明によれば、低ファン回転時の遠心力が弱い状態においても、制御信号に対するファン回転の反応が速くなる。
【0013】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0014】
図1図2に示す外部制御式の高反応型流体式ファン・クラッチ装置を使用し、試験条件として、通常のOFF回転(200〜250rpm)状態から電磁石を励磁してトルク伝達までの反応速度を調査した(油の粘度:12500cst)。
本実施例では、油溜り室の外径壁に対する内径壁の偏心割合を図3(a)60:40(実施例1)、同(b)75:25(実施例2)とした場合の反応速度を、図3(c)50:50の従来例(偏心させていない内径壁5−2´)と比較して図4に示す。
【0015】
図4に示す結果より明らかのように、通常のOFF回転(200〜250rpm)で試験した場合、図3(c)50:50の従来例(偏心壁なし)の場合は、制御信号をONしてから反応するのに30sec以上要しているのに対し、本願発明の図3(a)60:40(実施例1)、同(b)75:25(実施例2)の場合は、いずれも僅か10秒以内で素早く反応した。その理由は、偏心壁を有しない従来例では油循環流通孔8付近に油を偏らせることができないため水頭圧(供給圧力)が弱いのに対し、本発明の実施例1、2では油溜り室5内に外径壁5−1に対して偏心させて設けた内径壁5−2の作用により水頭圧が強くなり、トルク伝達室6内へ供給される油の供給量が増加するためである。
【符号の説明】
【0016】
1 回転軸体(駆動軸)
2 密封器匣
2−1 ケース
2−2 カバー
3 駆動ディスク
4 プレート
5 油溜り室
5−1 外径壁
5−2 偏心させた内径壁
5−2´偏心させていない内径壁
6 トルク伝達室
8 油循環流通孔(油供給口)
8−1 油回収口
10 弁部材
10−1 板バネ
10−2 アーマチャー
11 弁部材取付部
13、14、15 軸受
16 電磁石
17 電磁石支持体
図1
図2
図3
図4