【解決手段】所定の断面形状を有する金属線材を円筒状に巻回して形成されたコイルばねを、コイルばねの軸方向に所定の圧力で押圧する。これにより、コイルばねの巻線の断面形状がコイルばねの半径方向に長い横長形状となるように塑性加工された異形線コイルばね1を得る。
所定の断面形状を有する金属線材を円筒状に巻回して形成されたコイルばねを、前記コイルばねの軸方向に所定の圧力で押圧することで、前記コイルばねの巻線の断面形状が前記コイルばねの半径方向に長い横長形状となるように塑性加工された
異形線コイルばね。
所定の断面形状を有する金属線材を円筒状に巻回して形成されたコイルばねを、前記コイルばねの軸方向に所定の圧力で押圧することで、前記コイルばねの巻線の断面形状が前記コイルばねの半径方向に長い横長形状となるように塑性加工する工程
を有する異形線コイルばねの製造方法。
所定の断面形状を有する金属線材を円筒状に巻回して形成されたコイルばねを、前記コイルばねの軸方向に所定の圧力で押圧することで、前記コイルばねの巻線の断面形状が前記コイルばねの半径方向に長い横長形状となるように塑性加工された異形線コイルばねによって構成された関節部と、
前記関節部の先端側に設けられ、把持動作を行うグリッパーと
を備えるマニピュレータ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る異形線コイルばね、異形線コイルばねの製造方法、並びに、マニピュレータの一例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0018】
〈1.第1の実施形態:異形線コイルばね〉
[1−1.異形線コイルばね、及び、異形線コイルばねの製造方法]
図1は、本実施形態の異形線コイルばねの概略構成図(一部断面図で示す)である。本実施形態の異形線コイルばね1は、後述する医療用ロボットにおけるマニピュレータ(
図20A参照)の関節部に好適に適用されるコイルばねである。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の異形線コイルばね1は、金属線材を円筒状に巻回して形成された巻線で構成され、巻線の断面形状はその異形線コイルばね1の半径方向に長い横長形状(本実施形態では矩形状)である。すなわち、
図1に示すように、本実施形態1の異形線コイルばね1の巻線断面は、その横幅aが縦幅bよりも大きい。なお、本実施形態では、異形線コイルばね1の半径方向(以下、コイル半径方向)における巻線断面の幅を「横幅」、異形線コイルばね1の軸方向(以下、コイル軸方向)における巻線断面の幅を「縦幅」と記す。また、後述するが、本実施形態の異形線コイルばね1は、所定の断面形状を有する金属線材を円筒状に巻回して形成されたコイルばねを、コイル軸方向に所定の圧力で押圧することで塑性加工されている。
【0020】
本実施形態の異形線コイルばね1を医療用ロボットのマニピュレータに適用する場合には、異形線コイルばね1の材料として、生体内で安全に使用ができる材料を用いるのが好ましい。生体内で安全に使用ができる材料としては、ステンレス綱、チタン又はチタン合金を用いることができる。その他、本実施形態の異形線コイルばね1の材料としては、アルミニウムやアルミニウム合金などの軽金属を用いることができる。これらの軽金属で形成された異形線コイルばね1を医療用ロボットのマニピュレータに適用する場合においては、異形線コイルばね1を樹脂で覆って用いることで、生体内で安全に使用が可能である。
【0021】
また、本実施形態の異形線コイルばね1を医療用ロボットのマニピュレータに用いる場合、生体内で用いられるため、異形線コイルばね1の外径は小さければ小さいほど生体への影響を低減できるというメリットがある。しかしながら、後述するマニピュレータの関節部として本実施形態の異形線コイルばね1を用いた場合、関節部の屈曲可動域を確保しつつ、先端に設けられたグリッパーを支持して動作させることができる強度(剛性)が必要である。すなわち、医療用ロボットのマニピュレータの関節部として異形線コイルばね1を用いる場合には、外径が小さく、かつ、ねじりに強く曲げやすいという特性が必要である。
【0022】
コイル半径方向に長い横長形状の巻線断面を有する異形線コイルばねを通常のコイリング加工で作製する場合、その曲げ剛性が大きく、外径の小型化が難しい。すなわち、通常のコイリング加工では、外径がより小さく、かつ、ねじりに強く曲げやすい特性を有する巻線断面が横長形状(矩形状)の異形線コイルばねを作製するのは難しい。
【0023】
一方、巻線断面がコイル半径方向に長い横長形状の異形線コイルばねを作製する方法として切削加工が上げられるが、切削加工はコストが高い。これに対し、本実施形態の異形線コイルばね1は、所定の断面形状の巻線で構成されたコイルばねを、そのコイル軸方向に圧縮することで作製することができる。以下、本実施形態の異形線コイルばね1の製造方法について説明する。
【0024】
図2に、本実施形態の異形線コイルばねの製造治具の概略構成を示す(一部断面図で示す)。本実施形態の異形線コイルの製造治具10は、
図2に示すように、内部に所望のコイルばね20が設置される容器13を固定する台11と、コイルばね20に当接してコイルばね20をそのコイル軸方向に押圧する押圧部12とで構成されている。
【0025】
台11は、耐摩耗性と強度に優れた合金で形成され、本実施形態では、SKD11(JIS規格)を用いて形成されている。台11は、容器13が載置される側の面に水平面を有する平板状の部材で構成されている。
【0026】
容器13は、炭素鋼鋼材で形成され、本実施形態では、S45C(JIS規格)を用いて形成されている。容器13は、コイルばね20が設置される孔13aを有する円筒形状の部材で構成されており、コイル軸方向の一方の端面は事前に研削加工により平坦化され台11の上に置かれている。この容器13の内径(すなわち、孔13aの直径)は、異形線コイルばね1のもとになるコイルばね20の外径よりも大きく形成されており、最終的に得られる異形線コイルばね1の外径とほぼ同じに形成されている。
【0027】
押圧部12は、押圧軸12aと、押圧部本体12bとで構成されている。押圧軸12aは、容器13の孔13aに挿入されながら、容器13の孔13aに設置されたコイルばね20を押圧する棒状の部材である。押圧軸12aは、耐摩耗性と強度に優れた超硬合金で形成されている。また、押圧軸12aは容器13の孔13aに挿入可能な円柱状の部材で構成されている。押圧部本体12bは、押圧軸12aの上部に設けられ、外部からの押圧力を受けると共に押圧軸12aにその押圧力を伝達する。押圧部本体12bは、台11と同様、耐摩耗性と強度に優れた合金で形成され、本実施形態では、SKD11(JIS規格)を用いて形成されている。また、押圧部本体12bは、押圧軸12aの外径よりも十分に大きい外径を有する円板状の部材で構成され、押圧軸12a側の面が押圧軸12aに接合されている。
【0028】
以上の構成を有する製造治具10において、容器13の孔13a内にコイルばね20をそのコイル軸方向が容器13の軸方向と平行になるように挿入する。そして、押圧部12の押圧軸12aを孔13aに挿入し、外部から押圧部本体12bに圧縮加重を印加することで容器13の孔13a内に設置されたコイルばね20をコイル軸方向に圧縮し、巻線断面の形状がコイル半径方向に長い横長形状になるように塑性加工する。これにより本実施形態の異形線コイルばね1を形成することができる。
【0029】
以下に、上述した製造治具10を用いた本実施形態の異形線コイルばね1の製造方法について、より詳細に説明する。まず、通常のコイリング加工によって作製された巻線断面が円形のコイルばね20を準備する。
図3に、本実施形態の異形線コイルばね1の製造に用いられる巻線断面が円形のコイルばね20の概略構成を示す。本実施形態では、人体への影響が少ないステンレス綱(SUS304)を用い、外径が12.5mm、巻線断面の直径が2.0mm、コイル軸方向の長さが40mmのコイルばね20を準備した。このコイルばね20は、通常のコイリング加工によって容易に形成可能な形状である。
【0030】
次に、このコイルばね20の巻き始めと巻き終わりの巻線を研磨(いわゆる座面研磨)し、コイルばね20の両端部が面一状になるように平坦化処理をする。コイルばね20の巻き始め及び巻き終わりの端部を先端に行くにしたがって徐々に薄くなるように研磨することで、コイルばね20の両端部を面一状にすることができる。
【0031】
次に、両端部に平坦化処理が施されたコイルばね20をそのコイル軸方向が製造治具10の台11の表面に対して垂直になるように容器13の孔13a内に設置する。このとき、コイルばね20の両端部には平坦化処理が施されているため、コイルばね20は、容器13の孔13a内に安定して載置することができる。
【0032】
次に、押圧軸12aをコイルばね20が設置された孔13a内に挿入し、押圧部本体12bが台11と平行になるように配置する。そして、図示を省略する圧力印加装置によって、約20tの圧力で押圧部本体12bを押圧し、コイルばね20をコイル軸方向に圧縮した。なお、本実施形態では、圧力印加装置としてアムスラー型油圧万能試験機UH−100kNAを用いた。本実施形態では、コイルばね20の押圧軸12aに当接する側の端部が平坦化処理されているので、安定してコイル軸方向に圧力を印加することができる。
【0033】
なお、押圧部12に印加する圧力は、形成したい異形線コイルばね1の巻線断面の縦幅bを決定し、その縦幅bから異形線コイルばね1のコイル軸方向の長さを算出し、その算出された長さになるようにコイルばね20を圧縮できる圧力とする。このとき、算出される異形線コイルばね1のコイル軸方向の長さは、隣接する巻線と巻線との間に隙間がないものとして計算する。
【0034】
そして、押圧部12によってコイルばね20に所定の圧力を印加し、コイルばね20を圧縮した後、コイルばね20を容器内から取り出す。圧縮後、取り出したコイルばね20は、隣接する巻線と巻線とが互いに圧着した状態である。このため、巻線のコイル軸方向の縦幅bと、隣接する巻線と巻線との隙間が1:1になるように、コイルばね20を軸方向に引張する。これにより、外径Doが13.5mm、軸方向の長さwが19mm、巻線断面の縦幅bが1.05mm、その短辺に直交する方向の巻線断面の横幅aが3.1mmである異形線コイルばね1が完成された。
【0035】
本実施形態の異形線コイルばね1は、
図1に示すように、巻線断面はコイル半径方向に長い横長形状(矩形状)であり、巻線断面の横幅aと縦幅bとの比がおよそ2.95:1である。このように、巻線断面が異形線コイルばね1の半径方向に横長の形状であり、横縦比a/bが高いと、線材の巻き方向に対する曲げ剛度が高くなる。この結果、その横縦比a/bが高く、かつ、巻線断面の横幅aに対して製造したい異形線コイルばね1の外径Doが小さい場合には、異形線コイルばね1を通常のコイリング加工で製造することができない。本実施形態では、通常のコイリング加工で形成できる断面形状が円形のコイルばね20をコイル軸方向に圧縮加工(塑性加工)することで、横縦比a/bの高い巻線断面を有する異形線コイルばね1を製造することができる。
【0036】
本実施形態の異形線コイルばね1をマニピュレータの関節部に用いる場合には、必要に応じて、関節部を屈曲駆動するための駆動ワイヤを挿通する貫通孔であって、巻線をコイル軸方向に貫通する貫通孔を放電加工により形成する。巻線の断面形状が円形のコイルばねの場合には、そのコイル軸方向に平行な貫通孔を巻線に形成することが難しい。一方、本実施形態の異形線コイルばね1は、所定のコイルばね20をコイル軸方向に所定の圧力で圧縮加工(塑性加工)することにより形成されるため、異形線コイルばね1において、隣接する巻線と接する面は平坦になる。これにより、本実施形態の異形線コイルばね1では、巻線をコイル軸方向に貫通する貫通孔を容易に形成することができる。
【0037】
[1−2.異形線コイルばねの特性]
以下、本実施形態で製造される異形線コイルばね1の特性について説明する。まず、本実施形態の製造方法である塑性加工による加工硬化の影響を見積もるため、巻線断面が円形であるコイルばねを簡略化したモデルとして2次元y軸対称のドーナツ型のモデルを作製し、このモデルによって塑性加工を再現した。このモデルに塑性加工を施した場合の解析結果により、塑性加工されたモデルでは、最大で相当塑性ひずみεp=1.0が生じていることがわかった。そこで、塑性加工を考慮するモデルでは、相当塑性ひずみεp=1.0が生じているとして解析を行った。
【0038】
本実施形態の異形線コイルばねの製造方法で製造した異形線コイルばね1の特性を有限要素法(Finite Element Method:FEM)及び実験により調査した。FEMによる解析では、実施例、比較例1、比較例2のコイルばねを用いて解析した。実施例のコイルばねは、本実施形態の製造方法で形成される(すなわち、塑性加工で得られる)巻線断面が矩形状の異形線コイルばねである。比較例1のコイルばねは、例えば、切削加工などによって形成される(すなわち、塑性加工することなく得られる)巻線断面が矩形状の異形線コイルばねである。比較例2のコイルばねは、巻線断面が円形(中実円)のコイルばねである。実施例及び比較例1の異形線コイルばねの巻線断面は、コイル軸方向の辺が短辺である矩形状し、その巻線断面の横幅と縦幅との比を2.95:1とした。なお、実施例、比較例1及び比較例2におけるそれぞれのコイルばねの寸法は以下の通りである。
実施例:外径Do=13.2mm、巻線断面の横幅a=2.95mm、巻線断面の縦幅b=1mm
比較例1:外径Do=13.2mm、巻線断面の横幅a=2.95mm、巻線断面の縦幅b=1mm
比較例2:外径Do=13.2mm、巻線断面の直径d=2mm
【0039】
また、FEMでは、モデルとしてそれぞれ3巻き分のコイルばねを作製したが、以下で示す比較結果は固定部を考慮して有効巻数9巻き分に換算したものである。
【0040】
まず、コイルばねのねじり剛性について調査した。ねじり剛性の解析では、実施例、比較例1、比較例2のそれぞれのコイルばねに、コイル軸を軸中心としたねじり負荷を与え、ねじり角度とトルクの関係を求めた。
【0041】
図4は、実施例、比較例1及び比較例2におけるコイルばねのねじり剛性の比較結果である。
図4の横軸はねじり角度の角度変位であり、縦軸は、そのねじり角度において発生するトルクである。
図4では、傾きが大きいほどねじり剛性が大きいことを示す。実施例や比較例1のように巻線断面が高矩形の矩形状である場合、巻線断面が円形の比較例2に比べてねじり剛性が大きい。また、塑性加工によって加工硬化した実施例の異形線コイルばねは、加工硬化していない比較例1の異形線コイルばねに比べて、弾性限界が角度変位において2倍以上に増加している。
【0042】
図5は、実際に作製した本実施形態の異形線コイルばね1にねじり負荷を与えた様子を示す概略図である。実験では、異形線コイルばね1のねじり試験治具を作製し、実際に得られた異形線コイルばね1にねじり負荷を与えてねじり剛性を調べた。
図6は、
図3におけるFEMの結果と、実際に作製された本実施形態の異形線コイルばね1のねじり剛性の実験結果を比較した図である。
図6に示すように、実験結果も、FEMの解析で得られた結果(実施例)と同等の性能を得ていることが確認できた。
【0043】
次に、コイルばねの曲げ特性について調査した。曲げ特性の解析では、実施例、比較例1及び比較例2のそれぞれのコイルばねの巻線端部において、コイル軸方向に荷重を与え、コイル軸の描く円弧の半径を曲げ半径として、荷重と曲げ半径の関係を求めた。
【0044】
図7は、実施例、比較例1及び比較例2におけるコイルばねの曲げ半径[mm]と荷重[N]の関係を示す図である。
図7の横軸は曲げ半径[mm]であり、縦軸は荷重[N]である。実施例及び比較例1の異形線コイルばねは、比較例2のコイルばねに比べて荷重に対する曲げ半径が小さく、曲げモーメントが小さいことがわかる。また、塑性加工によって加工硬化した実施例の異形線コイルばねは、加工硬化していない比較例1の異形線コイルばねに比較して弾性限界が生じる曲げ半径が1/2以下となり、弾性変形領域が拡大している。これにより、実施例におけるコイルばねは、比較例1及び比較例2のコイルばねに比較して「曲げやすくしなやか」であることが確認できる。
【0045】
図8に、実際に作製した本実施形態の異形線コイルばね1の曲げ半径を測定した様子を示す。実験では、実際に得られた本実施形態の異形線コイルばね1をコイル軸方向に垂直に立て先端の一点におもりを吊し、コイル軸の描く円弧R(曲げ半径)を記録して荷重と曲げ半径の関係を求めた。
図9は、
図7におけるFEMの結果と、実際に作製された本実施形態の異形線コイルばね1の曲げ特性の実験結果を比較した図である。
図9に示すように、実験結果も、FEMの解析で得られた結果(実施例)と同等の性能を得ていることが確認できた。
【0046】
以上のように、本実施形態の異形線コイルばね1は、曲げ変形における弾性変形領域が拡大するため、90度曲げるのに必要なバネの最小長が小さくなる。実施例、比較例1及び比較例2におけるコイルばねにおいて90度曲げるのに必要な最小長は、以下の通りである。
実施例(塑性加工による巻線断面矩形状の異形線コイルばね):29mm
比較例1(塑性加工によらない巻線断面矩形状の異形線コイルばね):65mm
比較例2(巻線断面円形状のコイルばね):129mm
【0047】
したがって、本実施形態の異形線コイルばね1をマニピュレータの関節部に用いた場合には、異形線コイルばね1の全長を短くすることができ、関節部のコンパクト化を図ることができる。
【0048】
ところで、前述したように、本実施形態の異形線コイルばね1を医療用ロボットのマニピュレータに用いる場合、異形線コイルばね1の小型化が望まれる一方、屈曲可動域を確保しつつ、グリッパーを支持して動作させることが可能な強度が必要である。
【0049】
これらを考慮し、関節部の屈曲可動域を確保しつつ、グリッパーを支持して動作させることができる異形線コイルばね1を構成する巻線の断面形状の好ましい寸法範囲について検討した。以下では、関節部の屈曲可動域を確保しつつ、グリッパーを支持して動作させることが可能な条件として、ばね定数k=2.5[N/mm]、ねじりトルク強度T=1.0[N・m]を設定した。
【0050】
まず、
図1に示す巻線断面が矩形状の異形線コイルばね1について、ばね定数2.5[N/mm]を一定にした場合の巻線断面の縦幅bを求めた。巻線断面の縦幅bを求めるために、以下の表1に示す条件を使用したモデルを作製した。
【0052】
表1の異形線コイルばねは、いずれも、
図1に示すように巻線の断面形状がコイル半径方向に横長の矩形状(横長形状)であるものとする。また、ここでは、巻線断面の横幅aと外径Doの比a/Do=0.25(一定)と仮定して理論計算を行った(参考文献 ばね 第4版:日本ばね学会 編)。
【0053】
図10Aはアルミニウムを使用した場合において所定のばね定数を得るための異形線コイルばねの巻線断面の縦幅bを示した図であり、
図10Bはアルミニウムを使用した場合の異形線コイルばねの巻線断面の横縦比a/bを示した図である(ばね定数k=2.5[N/mm])。また、
図11AはSUS304を使用した場合において所定のばね定数を得るための異形線コイルばねの巻線断面の縦幅bを示した図であり、
図11BはSUS304を使用した場合の異形線コイルばねの巻線断面の横縦比a/bを示した図である(ばね定数k=2.5[N/mm])。
図10A,B及び
図11A,Bにおいて破線はそれぞれ縦幅b又は横縦比a/bに対する上下各10%のずれを示している。ばね定数を一定とした場合、巻線断面の横縦比a/bの適正値は
図10B及び
図11Bに示す破線間である。
【0054】
図10A,
図10B,
図11A,
図11Bに示すように、ばね定数k=2.5[N/mm]を維持するには、外径Doの減少に伴い、縦幅b及び横縦比a/bも減少させる必要がある。しかし、後述する「ねじれにくい特性」を維持するためには縦幅bの減少は好ましくない。
【0055】
次に、
図1に示す巻線断面が矩形状の異形線コイルばね1について、ねじりトルク強度T=1.0[N・m]を一定にした場合の巻線断面の縦幅bを求めた。巻線断面の縦幅bを求めるために、以下の表2に示す条件を使用したモデルを作製した。
【0057】
表2における「塑性加工」を用いたモデルは本実施形態の異形線コイルばねのモデルであり、「機械加工」を用いたモデルは、実際に得るのは難しいが従来のコイリング加工や切削加工によって得られる異形線コイルばねのモデルである。表2の異形線コイルばねは、いずれも、
図1に示すように、巻線の断面形状がコイル半径方向に横長の矩形状(横長形状)であるものとする。また、ここでは、巻線断面の横幅aと外径Doの比a/Do=0.25(一定)と仮定して理論計算を行った。
【0058】
図12Aはアルミニウムを使用した場合において所定値以上のねじりトルク強度を得るための異形線コイルばねの巻線断面の縦幅bの範囲を示した図であり、
図12Bはアルミニウムを使用した場合の異形線コイルばねの巻線断面の横縦比a/bの範囲を示した図である(ねじりトルク強度T≧1.0[N・m])。また、
図13AはSUS304を使用した場合において所定値以上のねじりトルク強度を得るための異形線コイルばねの巻線断面の縦幅bを示した図であり、
図13Bは、SUS304を使用した場合の異形線コイルばねの巻線断面の横縦比a/bを示した図である(ねじりトルク強度T≧1.0[N・m])。
図12A,B及び
図13A,Bにおいて、実線はねじりトルク強度T=1.0[N・m]を得るための縦幅b及び横縦比a/bであり、斜線で示す範囲が、ねじりトルク強度T≧1.0[N・m]を得るための縦幅b及び横縦比a/bの範囲である。
【0059】
図12A,
図12B,
図13A,
図13Bに示すように、異形線コイルばねがねじりトルク強度T=1.0[N・m]に耐えるには、外径Doが小さくなると、縦幅bが大きくならなければならない。
図12A及び
図13Aでは実線よりも上側が使用可能な範囲であり、
図12B及び
図13Bでは実線よりも下側が使用可能な範囲である。すなわち、
図12A,
図12B,
図13A,
図13Bにおいて斜線で示す範囲内の寸法の条件がねじりトルク強度T=1.0[N・m]に耐えられる異形線コイルばねであることを示している。
【0060】
また、
図12A,
図12B,
図13A,
図13Bからわかるように、本実施形態の塑性加工によって異形線コイルばねを作製することによって、従来の機械加工によって異形線コイルばねを作製する場合に比較して、巻線断面の横縦比の適用範囲が拡大する。すなわち、本実施形態の塑性加工は、従来の機械加工に比較して、更に厳しい条件に耐えうる異形線コイルばねを製造できる点で優位であると考えられる。
【0061】
図14は、
図10B及び
図12Bを合成して示した図である。
図14の斜線部分がアルミニウムで異形線コイルばねを作製する場合に、ばね定数k=2.5[N/mm]及びねじりトルク強度T≧1.0[N・m]を満たすことのできる範囲である。アルミニウムを使用する場合には、切削加工でばね定数k=2.5[N/mm]及びねじりトルク強度T≧1.0[N・m]を満たすことのできる異形線コイルばねを作製することはできない。つまり、アルミニウムを使用すると、塑性加工によってのみ、
図14に示す斜線の寸法範囲でばね定数k=2.5[N/mm]及びねじりトルク強度T≧1.0[N・m]を満たすことのできる異形線コイルばねを作製することができる。
【0062】
また、
図15は、
図11B及び
図13Bを合成して示した図である。
図15の斜線部分がSUS304で異形線コイルばねを作製する場合に、ばね定数k=2.5[N/mm]及びねじりトルク強度T≧1.0[N・m]を満たすことのできる範囲である。
図15に示すように、SUS304を使用する場合には、機械加工においても斜線S1で示す寸法範囲でばね定数k=2.5[N/mm]及びねじりトルク強度T≧1.0[N・m]を満たすことのできる異形線コイルばねを作製することはできる。また、SUS304を使用し塑性加工によって異形線コイルばねを作製する場合には、斜線S1よりも拡大した斜線S2で示す寸法範囲でばね定数k=2.5[N/mm]及びねじりトルク強度T≧1.0[N・m]を満たすことのできる異形線コイルばねを作製することができる。
【0063】
図14及び
図15のそれぞれの右側に示した材料形態(中空線材又は中実線材)は、塑性加工する前のコイルばねの巻線断面の形状を示したものである。塑性加工によって形成する異形線コイルばねの横縦比を大きくしていくと、
図13に示した断面が中実円である巻線からなるコイルばねではなく、後述する断面が中空円である巻線からなるコイルばね(
図18A,B参照)を使用する必要がある。
【0064】
以上の結果をまとめると、横幅aと外径Doとの比a/Do=0.25(一定)とした条件では、材料にアルミニウムを用いる場合には、塑性加工で作製される異形線コイルばねの巻線断面は横縦比a/bが3.5以上4以下の矩形状とするのが好ましい。また、材料にSUS304を用いる場合には、塑性加工で作製される異形線コイルばねの巻線断面は横縦比a/bが3.5以上5.7以下の矩形状とするのが好ましい。さらに、
図15から、横幅aと外径Doとの比a/Do=0.25(一定)とした条件では塑性加工における異形線コイルばねの外径Doは、Do=5mmまで作製可能であることがわかる。また、従来マニピュレータに用いられている異形線コイルばねの外径はおよそ10mmであることから、本実施形態の異形線コイルばねの外径の好ましい範囲は5mm以上10mm以下である。
【0065】
なお、
図10〜
図15に示した異形線コイルばねの特性は、巻線断面の横幅aと外径Doとの比a/Do=0.25(一定)と仮定して行った。これに対し、巻線断面の横幅aと外径Doとの比を、例えば比a/Do=0.30に変更すると、傾向は同じであるが、
図10Bや
図11Bの破線領域は下側に移動する(すなわち、横縦比a/bは小さくなる)。したがって、本実施形態の異形線コイルばね1における巻線断面の横縦比a/bの好ましい範囲は、上述した限りではない。
【0066】
[1−3.変形例]
上述した本実施形態では、巻線断面が中実円のコイルばね20を塑性加工することで巻線断面が矩形状の異形線コイルばね1を形成する例を説明したが、塑性加工前のコイルばねの巻線断面を変えることで、塑性加工によって得られる異形線コイルばねの更なる特性の改善が可能になる。以下の変形例において、塑性加工前のコイルばねの形状を本実施形態とは異ならせる例を説明する。
【0067】
図16Aは上述した本実施形態における塑性加工前のコイルばね20の巻線断面図であり、
図16Bはそのコイルばねを塑性加工することで得られる異形線コイルばね1の巻線断面図である。
図16A,
図16Bに示すように、巻線断面が中実円のコイルばね20の場合、隣接する巻線同士の接触面積は小さいため、コイルばね20をコイル軸方向に押圧した場合、押圧力の伝達方向が不安定になりやすく、
図16Bに示すように、上下の巻線間に中心軸からの位置ずれが生じる場合がある。
【0068】
図17A,Bは、変形例1に係る塑性加工前のコイルばね40及び塑性加工後の異形線コイルばね41のそれぞれの巻線断面を示す図である。
図17Aに示すように、塑性加工前のコイルばねとして、巻線断面が矩形状のコイルばね40を用いると、隣接する巻線同士の接触面積が大きいため、コイルばね40をコイル軸方向に押圧した場合、押圧力の伝達方向が安定する。このため、コイルばね40を圧縮する工程で生じる巻線間のずれを低減することができる。これにより、
図17Bに示すように塑性加工後の異形線コイルばね41は上下の巻線間の中心軸に対する位置ずれを低減することができる。なお、
図17Aに示す塑性加工前の巻線断面が矩形状のコイルばね40は、その巻線断面の横縦比がそれほど高くなく、通常のコイリング加工によって作製可能なコイルばねであるものとする。
【0069】
図18A,Bは、変形例2に係る塑性加工前のコイルばね42及び塑性加工後の異形線コイルばね43のそれぞれの巻線断面を示す図である。変形例2は、
図18Aに示すように、巻線断面が中空円のコイルばね42をコイル軸方向に圧縮して、巻線の断面形状がコイル半径方向に長い横長形状である異形線コイルばね43を形成する例である。
図18Aに示すように、塑性加工前のコイルばねとして巻線断面が中空円のコイルばね42を用いることによって、
図18Bに示すように、より高い横縦比を有する異形線コイルばね43を得ることができる。また、変形例2のように、塑性加工前のコイルばね42を中空円とすることで、
図18Bに示すように塑性加工するために必要な軸方向からの圧縮力が低減するので、
図16A,Bに示す例に比較して上下の巻線間のコイル軸に対する位置ずれを低減できる。
【0070】
図19A,Bは、変形例3に係る塑性加工前のコイルばね44及び塑性加工後の異形線コイルばね45のそれぞれの巻線断面を示す図である。変形例3は、
図19Aに示すように、巻線断面が中空の矩形状のコイルばね44をコイル軸方向に圧縮して、コイル軸方向の巻線断面の形状が横長形状である異形線コイルばね45を形成する例である。
図19Aに示すように、塑性加工前のコイルばねとして、巻線断面が中空の矩形状のコイルばね44を用いることによって、
図19Bに示すように、塑性加工時における巻線間のずれを低減すると共に、より高い横縦比を有する異形線コイルばね45を得ることができる。
【0071】
〈2.第2の実施形態:マニピュレータ〉
次に、本発明の第2の実施形態として、上述した第1の実施形態における異形線コイルばねを用いたマニピュレータについて説明する。
図20は、本発明の第2の実施形態に係るマニピュレータの概略構成図である。
【0072】
本実施形態のマニピュレータ30は、腹腔鏡手術を行う医療用ロボットに用いられるものである。
図20に示すように、本実施形態のマニピュレータ30は、関節部31と、グリッパー32と、アーム部33と、駆動部34とを備える。
【0073】
関節部31は、上述した第1の実施形態で示した
図1の異形線コイルばね1で構成されており、その異形線コイルばね1に設けられた4つの貫通孔31aに駆動ワイヤ35が挿通されている。貫通孔31aは、異形線コイルばね1の巻線をコイル軸方向に貫通する孔であり、異形線コイルばね1のコイル軸方向と直交する面において等間隔に4つの貫通孔31aが設けられている。そして、関節部31では、異形線コイルばね1の貫通孔31aに挿通された駆動ワイヤ35は後述する駆動部34に設けられた空気圧シリンダ(図示を省略する)に接続されている。本実施形態では、4つの空気圧シリンダによる拮抗駆動により関節部31の曲げ伸ばしを行うことができる。そして、本実施形態の関節部31では、4つの空気シリンダによる拮抗駆動により2自由度の屈曲が可能である。
【0074】
グリッパー32は、対象物を把持したり抑えたりすることが可能な鉗子であり、関節部31を構成する異形線コイルばね1の一端側に取り付けられている。グリッパー32は、関節部31を構成する異形線コイルばね1の軸孔31b及びアーム部33を通って駆動部34に接続されるエアチューブ36に接続されておりエアチューブ36を介して駆動部34により把持動作が成される。
【0075】
アーム部33は、関節部31の外径とほぼ同程度の外径の円柱部材で構成されており、先端に関節部31が接続され、後端に駆動部34が接続されている。関節部31を駆動する駆動ワイヤ35やグリッパー32に接続されるエアチューブ36は、円柱部材で構成されるアーム部33の内部を通って駆動部34に接続されている。
【0076】
駆動部34は、関節部31を駆動する4つの空気圧シリンダとグリッパー32を駆動する空気圧シリンダとを備える。駆動部34では、4つの空気圧シリンダによって各駆動ワイヤの張力を制御することで関節部31を屈曲動作させる。また、本実施形態では、関節部31の屈曲とグリッパー32の把持動作とは個別に駆動されるので、関節部31の動作とグリッパー32の動作とは互いに干渉することはない。
【0077】
本実施形態では、関節部31に塑性加工により加工硬化された異形線コイルばね1を用いることによって関節部31の小型化が可能になるため、マニピュレータ30全体の小型化が可能になる。さらに、関節部31に用いられる異形線コイルばね1は、通常のコイリング加工よって形成可能なコイルばねを塑性加工することによって作製することができるため、コストの低減を図ることができる。
【0078】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。また、上述の実施の形態では、異形線コイルばねをマニピュレータの関節部として用いる例を説明したが、その他、小型化が要求されるロボットの関節部として使用することも可能である。本実施形態の異形線コイルばねは、例えば、小型のユニバーサルジョイント、先端が曲がるドライバー、回転曲げ加工機の変形可能なマンドレル等に適用できる。また、本実施形態の異形線コイルばねは小型化が可能であるため、小型ダンバーや、短尺なバネしか用いることのできない場所への適用が可能である。