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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-220212(P2015-220212A)
(43)【公開日】2015年12月7日
(54)【発明の名称】アルミニウム端子
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/58 20060101AFI20151110BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20151110BHJP
   H01B 5/02 20060101ALN20151110BHJP
【FI】
   H01R4/58 A
   H01R4/18 A
   H01B5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-105358(P2014-105358)
(22)【出願日】2014年5月21日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】夏目 貴史
(72)【発明者】
【氏名】澤田 滋
【テーマコード(参考)】
5E085
5G307
【Fターム(参考)】
5E085BB02
5E085BB12
5E085CC03
5E085DD14
5E085EE03
5E085EE15
5E085FF01
5E085HH22
5E085JJ03
5E085JJ46
5G307BA04
5G307BB03
5G307BC03
5G307BC06
5G307BC07
5G307BC09
(57)【要約】
【課題】長期間に亘って低い接触抵抗を維持することができ、安価なアルミニウム端子を提供する。
【解決手段】アルミニウム端子1は、相手方端子と直接接触する接点部11に、Al合金材2上に形成された合金層3と、合金層3上に形成された導電性皮膜層4とを有している。合金層3は、Snを必須に含有し、さらにCu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の添加元素Mを含んでいる。導電性皮膜層4は、Sn32(OH)2を含んでいる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手方端子と直接接触する接点部に、Snを必須に含有し、さらにCu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の添加元素Mを含み、Al合金材上に形成された合金層と、
Sn32(OH)2を含み、上記合金層上に積層された導電性皮膜層とを有することを特徴とするアルミニウム端子。
【請求項2】
上記Al合金材は、JIS A3000系Al合金よりなることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム端子。
【請求項3】
上記導電性皮膜層は、さらにCuOa(a≠1)、ZnOb(b≠1)、CoOc(c≠1)、NiOd(d≠1)及びPdOe(e≠1)から選択される1種又は2種以上の酸化物を含有していることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム端子。
【請求項4】
上記合金層は、2種以上の上記添加元素Mを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム端子。
【請求項5】
上記合金層は、Cu6Sn5の金属間化合物を含有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム端子。
【請求項6】
上記Cu6Sn5金属間化合物におけるCuの一部がZn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の置換元素M’に置換されていることを特徴とする請求項5に記載のアルミニウム端子。
【請求項7】
上記合金層における上記添加元素Mの含有量は1〜50原子%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルミニウム端子。
【請求項8】
上記Al合金材と上記合金層との間に拡散バリア層を有していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のアルミニウム端子。
【請求項9】
上記アルミニウム端子は、相手方端子が挿入される角筒部と、該角筒部に連なり、電線を接続するバレル部と、上記角筒部の内部に存在し、上記角筒部に挿入された相手方端子を押圧する弾性片部とを有し、上記角筒部、上記バレル部及び上記弾性片部が一体に形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアルミニウム端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム端子に関する。
【背景技術】
【0002】
電線の端末やコネクタ等に装着される端子の素材にはCu(銅)合金材が多用されている。近年では、材料費の低減や軽量化のため、Cu合金材に比べて安価かつ軽量なAl(アルミニウム)合金材が端子の素材として用いられている。Al合金材を用いた端子の表面には、通常、Sn(スズ)等からなるめっき膜が形成されている(特許文献1、2)。Al合金材の表面にめっき膜を設けることにより、不導体であるAl23よりなる自然酸化膜の形成を抑制することができ、相手方端子との接触抵抗を低減することができる。
【0003】
また、Al合金材はCu合金材に比べて耐力が低く、応力緩和が早く進行するため、使用期間が長くなるほど相手方端子との接点部における接触荷重が低下するという問題がある。接触荷重の低下を抑制して良好な電気的接続を維持するために、Al合金材の化学成分及び金属組織を制御することにより耐応力緩和性を改善する技術が提案されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−87411号公報
【特許文献2】特開2000−207940号公報
【特許文献3】特開2004−183098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、端子の小型化が強く望まれており、素材として用いられるAl合金材の板厚を薄くすることが求められている。しかしながら、板厚が薄い場合には応力緩和がより促進されるため、従来のAl合金材では使用中の接触荷重の低下を十分に抑制することができず、長期間に亘って高い接触荷重を維持することが困難である。
【0006】
また、端子の温度が高い状態が長時間維持されると、めっき膜の表面に厚い酸化物皮膜が形成され、相手方端子との接触抵抗が増大するという問題がある。接触抵抗を低減させるためには、相手方端子との接触荷重を増大させて酸化物皮膜を破壊し、良好な電気的接触を形成させることが有効である。しかし、上述のように、従来のAl合金材を用いた端子は、長期間に亘って高い接触荷重を維持することが困難であるため、高温環境下において長期間に亘って良好な電気的接続を維持することが難しいという問題がある。
【0007】
上記の問題の対策としては、Auめっき膜等の酸化されにくいめっき膜を用いる方法が考えられる。しかしながら、この場合には、端子全体のコストが増大するという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、長期間に亘って低い接触抵抗を維持することができ、安価なアルミニウム端子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、相手方端子と直接接触する接点部に、Snを必須に含有し、さらにCu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の添加元素Mを含み、Al合金材上に形成された合金層と、
Sn32(OH)2を含み、上記合金層上に積層された導電性皮膜層とを有することを特徴とするアルミニウム端子にある。
【発明の効果】
【0010】
上記アルミニウム端子(以下、適宜「端子」という。)は、上記Al合金材上に、上記合金層と、Sn32(OH)2を含み、上記合金層上に積層された上記導電性皮膜層を有している。上記導電性皮膜層は、上記特定の水酸化酸化物(Sn32(OH)2)を含んでいるため、従来のSnめっき膜等に比べて酸化されにくい。そのため、上記導電性皮膜層は、高温環境下において長期間に亘って高い導電性を維持することができ、ひいては端子間の接触抵抗が低い状態を長期間に亘って維持することができる。
【0011】
また、上記端子は、上記導電性皮膜層の存在により、相手方端子との良好な電気的接続を形成するために必要な接触荷重を従来よりも低減することができる。そのため、相手方端子に嵌合させる際に必要な挿入力を低減することができる。また、低い接触荷重で良好な電気的接触を形成できるため、従来のAl合金材を素材として用いることができ、材料コストをより低減することができる。
【0012】
また、上記導電性皮膜層は、安価なSnを用いて作製することができるため、上記端子全体のコストに与える影響が小さい。それ故、上記端子は、従来の端子と同等以下のコストで製造することができる。
【0013】
以上のように、上記端子は、長期間に亘って低い接触抵抗を維持することができ、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例における、アルミニウム端子の斜視図。
図2図1のII−II線一部矢視断面図。
図3図2における、接点部近傍を拡大した断面図。
図4】実施例における、多層金属層の断面図。
図5】実験例における、試料E1を用いて行ったボルタンメトリー法より得られる電流−電位曲線。
図6】実験例における、高温耐久性試験後評価により得られた接触抵抗−荷重曲線。
図7】実験例における、高温耐久性試験前後での接触抵抗の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記端子は、例えば、公知の形状を有するオス型端子、メス型端子及びPCB(Printed Circuit Board)用コネクタピンとして構成することができる。端子対における少なくとも一方の端子が上記導電性皮膜層を有する端子であれば、長期間に亘って低い接触抵抗を維持することができ、双方の端子が上記導電性皮膜層を有する端子であれば、より長期間に亘って低い接触抵抗を維持することができる。
【0016】
上記端子は、相手方端子が挿入される角筒部と、該角筒部に連なり、電線を接続するバレル部と、上記角筒部の内部に存在し、上記角筒部に挿入された相手方端子を押圧する弾性片部とを有し、上記角筒部、上記バレル部及び上記弾性片部が一体に形成されていることが好ましい。即ち、上記端子は、上記弾性片部が上記角筒部に連なって形成されたメス型端子として構成されていることが好ましい。
【0017】
従来、Al合金材よりなるメス型端子には、応力緩和による接触荷重の低下を抑制するため、加工性に優れたAl合金材よりなる角筒部及びバレル部と、比較的応力緩和が遅く進行するAl合金材よりなる弾性片部とを別々に作製した後に組み合わせる構成が多用されている。しかしながら、かかる構成においては、弾性片部を組み付ける作業における加工コストの問題があり、得られる端子のコスト低減には限界がある。
【0018】
また、角筒部、バレル部及び弾性片部を一体に形成しようとする場合には、加工性と接触荷重の低下とを両立させることが困難である。即ち、応力緩和が遅く進行するAl合金材は加工性が低い傾向を有するため、端子を成形する際の曲げ加工においてクラックが生じやすい。一方、加工性に優れたAl合金材は、応力緩和の進行が早い傾向を有するため、長期間に亘って接触荷重を維持することが困難である。
【0019】
これらの問題に対し、上記端子は、導電性皮膜層の存在により、低い接触荷重で十分に低い接触抵抗を得ることができる。そのため、加工性に優れたAl合金材を用いて角筒部、バレル部及び弾性片部を一体に形成することが可能となり、曲げ加工におけるクラックを抑制できると共に、長期間に亘って接触荷重を維持することができる。その結果、弾性片部を組み付ける作業を省略することができるため、コストをより低減することができる。
【0020】
上記端子を形作る上記Al合金材としては、例えば、JIS A 3000系Al合金、JIS A 5000系Al合金及びJIS A 6000系Al合金を用いることができる。
【0021】
性能とコストとのバランスの観点からは、A 3000系Al合金を用いることが好ましい。A 3000系Al合金は、5000系Al合金やA 6000系Al合金に比べて安価であるため、コストダウンが容易である。また、上記端子は、導電性皮膜層の存在により、低い接触荷重で十分に低い接触抵抗を得ることができるため、従来の端子に比べて応力緩和の進行を抑制することができる。それ故、A 5000系Al合金等に比べて強度が低く、応力緩和が早く進行する傾向を有するA 3000系Al合金を用いても、長期間に亘って低い接触抵抗を維持することができる。このように、導電性皮膜層を有する端子においては、A 3000系Al合金からなる上記Al合金材を用いることにより、十分な性能を確保しつつ、コスト低減を図ることが可能となる。
【0022】
上記Al合金材の形状としては、棒状、板状等種々の形状があり、厚み等の寸法は、用途に応じて種々選択可能である。なお、通常、厚みは0.2〜2mm程度とすることが好ましい。
【0023】
また、上記導電性皮膜層は、さらにCuOa(a≠1)、ZnOb(b≠1)、CoOc(c≠1)、NiOd(d≠1)及びPdOe(e≠1)から選択される1種又は2種以上の酸化物を含有していることが好ましい。上記特定の酸化物は、上記特定の水酸化酸化物と共存することにより、上記導電性皮膜層に上記特定の水酸化酸化物のみが存在する場合に比べて、高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。この理由は、以下のように考えられる。
【0024】
上記特定の水酸化酸化物は、高温環境下において、より安定なSnOに変化する。そして、導電性を有する上記特定の水酸化酸化物が不導体であるSnOに変化することにより、接触抵抗が増大する。これに対し、導電性皮膜層に上記特定の水酸化酸化物と上記特定の酸化物とが共存する場合には、上述したSnOへの変化が抑制されると考えられる。これにより、上記端子は、高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができると考えられる。
【0025】
また、上記端子は、2種以上の添加元素Mを含むことが好ましい。この場合には、上記導電性皮膜層に、2種以上の上記特定の酸化物が形成されやすい。そして、2種以上の上記特定の酸化物が存在することにより、上記特定の水酸化酸化物の変質が抑制され、ひいては高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。
【0026】
上記合金層は、Snと添加元素Mとの合金より構成されている。Snと添加元素Mとの化学成分比は、上記合金層が導電性を有するように、添加元素Mの種類に応じて適宜設定することができる。
【0027】
例えば、添加元素MがNiの場合には、合金層がNi3Sn4の金属間化合物やNiSn3の金属間化合物を含むようにSnとNiとの化学成分比を設定することが好ましい。また、添加元素MがCuの場合には、合金層がCu6Sn5の金属間化合物を含有するようにSnとCuとの化学成分比を設定することが好ましい。
【0028】
上述した金属間化合物が上記合金層中に存在することにより、高湿環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。また、導電性の観点からは、添加元素Mとして導電率の高いCuを含有し、上記合金層がCu6Sn5の金属間化合物を含有することがより好ましい。
【0029】
また、合金層がCu6Sn5を含む場合には、Cu6Sn5におけるCuの一部がZn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の置換元素M’に置換されていることが更に好ましい。すなわち、合金層に、(Cu,M’)6Sn5金属間化合物が含まれていることが更に好ましい。この場合には、高湿環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。この理由は、以下のように考えられる。
【0030】
Cu6Sn5は、高湿環境下に放置された場合、より抵抗率の大きいCu3Snという別形態の金属間化合物に変化し、これによって接触抵抗が増大する。一方、(Cu,M’)6Sn5金属間化合物は、Cu6Sn5に比べてCu3Snへの変化がより起こりにくく、(Cu,M’)6Sn5の状態をより長期間維持することができると考えられる。これにより、高湿環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができると考えられる。
【0031】
また、上記合金層における上記添加元素Mの含有量は、上記合金層に存在する添加元素M及びSnの合計を100原子%とした場合に、1〜50原子%であることが好ましい。この場合には、上記導電性皮膜層に、上記特定の水酸化酸化物と上記特定の酸化物とを確実に共存させることができる。それ故、上記端子は、高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。
【0032】
また、上記合金層にCu及び置換元素M’が含まれている場合には、Cu6Sn5金属間化合物におけるCuの一部が置換元素M’に置換されてなる(Cu,M’)6Sn5金属間化合物を確実に生成させることができる。それ故、上記端子は、高湿環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。
【0033】
また、高温環境及び高湿環境における耐久性をより向上させる観点からは、上記添加元素Mの含有量は、上記合金層に存在する添加元素M及びSnの合計を100原子%とした場合に、5〜10原子%の範囲内とすることがより好ましい。
【0034】
また、上記Al合金材と上記合金層との間には、拡散バリア層が設けられていてもよい。拡散バリア層は、合金層の膨れや剥がれ等を抑制することができる。なお、このような問題が生じない場合には、必ずしも拡散バリア層を設ける必要が無く、その分コストダウンを図ることができる。拡散バリア層としては、Cuめっき層、Niめっき層及びCoめっき層等を用いることができる。
【実施例】
【0035】
(実施例)
上記アルミニウム端子の実施例について、図を用いて説明する。本例の端子1は、図1に示すようにメス型端子であり、オス型端子8を相手方端子として端子対をなすよう構成されている。図2及び図3に示すように、端子1は、オス型端子8と直接接触する接点部11に、Al合金材2上に形成された合金層3と、合金層3上に積層された導電性皮膜層4とを有している。合金層3は、Snを必須に含有し、さらにCu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の添加元素Mを含んでいる。また、導電性皮膜層4は、Sn32(OH)2を含んでいる。
【0036】
図1及び図2に示すように、端子1は、オス型端子8のタブ部81が挿入される角筒部12と、角筒部12に連なり、電線を接続するバレル部13と、角筒部12の内部に存在し、角筒部12に挿入されたタブ部81を押圧する弾性片部14とを有している。また、角筒部12、バレル部13及び弾性片部14は一体に形成されている。
【0037】
端子1は略棒状を呈しており、角筒部12及びバレル部13が一列に並んでいる。なお、本例において、端子1の長手方向におけるバレル部13側を後方といい、角筒部12側を前方ということがある。前後方向の記載は便宜上のものであり、端子1を使用する際の実際の向きとは何ら関係がない。
【0038】
角筒部12は、端子1の長手方向に伸びた略角筒状を呈している。図1及び図2に示すように、角筒部12の前方の開口端121は、オス型端子8のタブ部81を挿入できるように開放されている。また、図1に示すように、後方の開口端122にはバレル部13が連なっている。
【0039】
バレル部13は、図1に示すように、電線の端末部から露出させた導体を圧着して電気的に接続するワイヤバレル部131と、電線の絶縁被覆部を圧着するインシュレーションバレル部132とを有している。ワイヤバレル部131及びインシュレーションバレル部132は、端子1の長手方向に垂直な断面が略U字状を呈している。
【0040】
ワイヤバレル部131の底面133には、周囲よりも突出したセレーション部134が設けられている。セレーション部134は、導体を圧着する際に、セレーション部134と導体との接触部分に圧力を集中させる作用を有する。これにより、導体の表面に存在する自然酸化膜を容易に破壊することができ、ワイヤバレル部131と導体との間の良好な電気的接続をより容易に形成することができる。
【0041】
図2に示すように、角筒部12の内部には、弾性片部14が設けられている。弾性片部14は、角筒部12の底板部123が内側後方へ折り返されて形成されており、角筒部12内に挿入されたオス型端子8のタブ部81を、底板部123に対面する天板部124へ向けて押圧する。また、弾性片部14にはタブ部81と直接接触する接点部11が設けられており、弾性片部14の表面には導電性皮膜層4が存在している。
【0042】
端子1の長手方向における弾性片部14の略中央には、略球面状を呈するように天板部124側に突出した接点部11が形成されている。接点部11は、オス型端子8のタブ部81を角筒部12に挿入した際に、タブ部81と接触しつつ、タブ部81を上方へ向けて押圧する。また、接点部11とタブ部81とが接触した状態においては、接点部11の表面に存在する導電性皮膜層4がタブ部81に押し付けられ、両者の間に電気的接続が形成される。
【0043】
本例の合金層3及び導電性皮膜層4は、例えば以下のようにして形成することができる。
【0044】
まず、板状のAl合金材2に脱脂処理等の前処理を施した後、複数回のめっき処理を行い、Al合金材2上に多層金属層20を形成する。多層金属層20には、Snめっき層202と、添加元素Mを含むめっき層とが少なくとも含まれる。多層金属層20には、後に拡散バリア層となるめっき層や、添加元素M’を含むめっき層等を必要に応じて追加しても良い。例えば本例の多層金属層20は、図4に示すように、Al合金材2上に、Niめっき層201、Snめっき層202、Znめっき層203及びCuめっき層204が順次積層された4層構造を有している。なお、めっき処理の条件としては、従来公知の条件を採用することができる。
【0045】
次に、多層金属層20を酸化雰囲気下において加熱してリフロー処理を行う。リフロー処理により、多層金属層20におけるSnめっき層202、Znめっき層203及びCuめっき層204を、図3に示す合金層3及び導電性皮膜層4に変化させることができる。なお、本例の構成においては、Niめっき層201を構成するNiの一部は合金層3に拡散し、残部が拡散バリア層5となる。
【0046】
次に、本例の作用効果を説明する。端子1は、Al合金材2上に、合金層3と、Sn32(OH)2を含み、合金層3上に積層された導電性皮膜層4を有している。そのため、高温環境下においても、端子間の接触抵抗が低い状態を長期間に亘って維持することができる。
【0047】
また、端子1は、角筒部12、バレル部13及び弾性片部14が一体に形成されている。それ故、従来の端子において行われていた弾性片部14を組み付ける作業を省略することができ、コストをより低減することができる。
【0048】
また、導電性皮膜層4の存在により、オス型端子8のタブ部81を角筒部12に挿入する際に必要な挿入力を低減することができる。さらに、低い接触荷重で良好な電気的接触を形成できるため、JIS A 3000系合金等の従来のAl合金材2を素材として用いることができ、材料コストをより低減することができる。
【0049】
また、導電性皮膜層4は、安価なSnを用いて作製することができるため、端子1全体のコストに与える影響が小さい。それ故、本例の端子1は、従来の端子と同等以下のコストで製造することができる。
【0050】
以上のように、端子1は、長期間に亘って低い接触抵抗を維持することができ、安価に製造することができる。
【0051】
(実験例)
本例は、導電性皮膜層4の高温耐久性を評価した例である。本例においては、以下の方法により、導電性皮膜層4を有する試料E1、E2及び従来のSnリフローめっき膜を有する試料C1を作製し、評価に供した。
【0052】
<試料E1>
JIS A 3000系合金よりなる板状のAl合金材2に電解脱脂処理を施した後、以下の条件でめっき処理を行い、Niめっき層201、Snめっき層202、Znめっき層203及びCuめっき層204が順次積層された4層構造を有する多層金属層20(図4参照)を形成した。
【0053】
(Niめっき層201の形成)
・めっき浴の液組成
硫酸ニッケル(NiSO4):265g/L
塩化ニッケル(NiCl2):45g/L
ホウ酸(H3BO4):40g/L
・光沢材
・膜厚:0.3μm
・液温:50℃
・電流密度:0.5A/dm
【0054】
(Snめっき層202の形成)
・めっき浴の液組成
硫酸第1スズ(SnSO4):40g/L
硫酸(H2SO4):100g/L
・光沢材
・膜厚:2μm
・液温:50℃
・電流密度:0.5A/dm
【0055】
(Znめっき層203の形成)
・めっき浴の液組成
塩化亜鉛(ZnCl2):60g/L
塩化ナトリウム(NaCl):35g/L
水酸化ナトリウム(NaOH):80g/L
・膜厚:0.2μm
・液温:25℃
・電流密度:1A/dm
【0056】
(Cuめっき層204の形成)
・めっき浴の液組成
硫酸銅(CuSO4):180g/L
硫酸(H2SO4):80g/L
塩素イオン(Cl-):40mL/L
・膜厚:0.2μm
・液温:20℃
・電流密度:1A/dm
【0057】
なお、多層金属層20を構成するSnめっき層202、Znめっき層203及びCuめっき層204の厚みは、原子比において、(Cu+Zn):Snがほぼ6:5になるように設定している。また、多層金属層20を構成する金属層のうち、最も酸化されにくいCuからなるCuめっき層204が最外層となるように多層金属層20を形成した。
【0058】
次に、大気雰囲気において、多層金属層20を有するAl合金材2を300℃で3分間加熱してリフロー処理を施し、拡散バリア層5、合金層3及び導電性皮膜層4を形成した(図3参照)。合金層3、導電性皮膜層4及び拡散バリア層5の膜厚は、それぞれ、2μm、0.02μm及び0.5μmであった。以上により、試料E1を得た。
【0059】
<組成分析>
試料E1の組成分析を以下の方法により行った。
【0060】
[合金層3]
EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて合金層3の組成分析を行った。その結果、合金層3には、Sn、Cu、Zn及びNiが存在していると共に、Sn、Cu及びZnが合金化した(Cu,Zn)6Sn5の金属間化合物が存在していることを確認した。
【0061】
[導電性皮膜層4]
XPS(X線光電子分光法)を用いて、導電性皮膜層4の組成分析を行った。その結果、導電性皮膜層4には、Sn、Cu及びZnが存在していることを確認した。しかしながら、これらの元素の化学状態を判別することはできず、Sn、Cu及びZnは、酸化物または水酸化物の状態で存在していることを確認した。なお、XPSでは、酸化物と水酸化物とを分離することが難しいのが実情である。
【0062】
次に、Snの化学状態を決定するため、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、導電性皮膜層4に存在するSn系化合物の格子定数を測定した。その結果、Sn系化合物の格子定数は0.260〜0.262nmであった。この値に対応するSn系化合物としては、Sn32(OH)2(格子定数0.254nm)及びSnO2(格子定数0.265nm)の2種の化合物が考えられる。しかしながら、格子定数の値からは両者を判別することは困難である。
【0063】
そこで、導電性皮膜層4に存在するSn系化合物の化学状態を更に詳細に分析するために、ボルタンメトリー法を用いた分析を行った。具体的には、0.5mol/LのNH4OH水溶液と0.5mol/LのNH4Cl水溶液との混合水溶液に、試料E1、対極(Pt網)及び基準電極(ビー・エー・エス製、Ag/AgCl(3mol/L NaCl))を浸漬した。この状態において、試料E1の電位を2mV/sの速度で浸漬した際の電位から掃引し、試料E1に流れる電流を測定した。
【0064】
図5に、ボルタンメトリー法により得られた初期状態の電流−電位曲線(符号60)を示す。図5の縦軸は電流であり、横軸は基準電極と試料E1との電位差である。図5より知られるように、本測定においては、−900mV付近に還元ピーク(符号601)が現れた。一方、特許第5235810号公報等に記載されているように、SnOに対応する還元ピークは−1200mV付近に出現し、SnO2に対応する還元ピークは−1450mV付近に出現することが知られている。従って、試料E1に含まれるSn系化合物は、Sn32(OH)2であると推定できる。
【0065】
また、160℃の高温下に120時間保持する高温耐久試験を行った後の試料E1より得られた電流−電位曲線(符号61)及び温度85℃、相対湿度85%RHの雰囲気下に96時間保持する高湿耐久試験を行った後の試料E1より得られた電流−電位曲線(符号62)を図5に示した。これらの電流−電位曲線の取得方法は、上述のボルタンメトリー法と同一である。
【0066】
図5より知られるように、試料E1は、初期状態(符号60)、高温耐久試験後(符号61)及び高湿耐久試験後(符号62)のいずれの状態においても、Sn32(OH)2に対応する−900mV付近の還元ピーク(符号601)が現れた。また、高湿耐久試験後においては、SnOに対応する小さい還元ピーク(符号621)が現れた。これらの結果から、試料E1は、高温環境下及び高湿環境下のいずれの環境においても、Sn32(OH)2の変質が抑制されていることがわかる。
【0067】
<試料E2>
試料E2は、Niめっき層201とSnめっき層202との間に膜厚0.3μmの内部Cuめっき層を追加し、多層金属層20を5層構造(図示略)とした以外は試料E1と同様に作製した。試料E2の表面には、試料E1と同様の導電性皮膜層4が形成されていると推定できる。
【0068】
<試料C1>
Al合金材2上に、0.3μmのNiめっき層と1.2μmのSnめっき層とを順次積層した後、リフロー処理を行い、従来のリフローSnめっき膜を有する試料C1を得た。
【0069】
<耐久性試験>
試料E1、E2及びC1を用い、初期状態における接触抵抗の測定(初期評価)及び高温耐久試験を行った後の接触抵抗の測定(高温耐久試験後評価)を行った。
【0070】
接触抵抗の測定は、以下の手順により実施した。まず、半径3mmの半球状凸部を備えた硬質Auめっき材を接触子として準備し、上記半球状凸部を測定対象の試料に当接させた。この状態から、各試料と接触子との間に付与する荷重を徐々に増加させつつ、試料と接触子との間の接触抵抗を測定した。
【0071】
図6に、高温耐久試験後の試料における、荷重の増加に伴う接触抵抗の変化をプロットしたグラフを示す。図6の縦軸は接触抵抗の値であり、横軸は荷重の値である。また、図7に、初期評価及び高温耐久試験後評価において、荷重が5Nである時の各試料の接触抵抗をプロットしたグラフを示す。図7の縦軸は接触抵抗の値であり、横軸方向には試料E1、E2及びC1の結果を順に並べた。
【0072】
図6及び図7より知られるように、導電性皮膜層4を有する試料E1及び試料E2は、高温耐久試験後評価においても低い接触抵抗を示した。なお、高温耐久試験後評価における試料E1及び試料E2の接触抵抗−荷重曲線は、初期評価における接触抵抗−荷重曲線(図示略)と略同一であった。
【0073】
一方、従来のリフローSnめっき膜を有する試料C1は、初期評価においては、試料E1及びE2と略同一の接触抵抗−荷重曲線(図示略)を示したが、高温耐久試験後評価において接触抵抗が増大した。
【0074】
また、試料E1及びE2は、高温耐久試験後評価において、測定開始時の接触抵抗が10mΩ以下であった。この結果から、試料E1及び試料E2は、ごく微小な接触荷重においても、端子1に要求される接触抵抗の特性を満たすことが理解できる。従って、接点部11の表面に導電性皮膜層4を有する端子1を用いることにより、弾性片部14による押圧力を低減することができ、ひいては応力緩和による接触荷重の減少を抑制できることが理解できる。
【符号の説明】
【0075】
1 端子
2 Al合金材
3 合金層
4 導電性皮膜層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7