特開2015-220493(P2015-220493A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-220493(P2015-220493A)
(43)【公開日】2015年12月7日
(54)【発明の名称】スピーカー振動板
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/02 20060101AFI20151110BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20151110BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20151110BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20151110BHJP
【FI】
   H04R7/02 D
   C08J5/04CFG
   C08L77/00
   C08K7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-100529(P2014-100529)
(22)【出願日】2014年5月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上川 泰生
(72)【発明者】
【氏名】椛島 洋平
(72)【発明者】
【氏名】三井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 豊
(72)【発明者】
【氏名】甘利 太陽
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
5D016
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AA09
4F072AB06
4F072AB10
4F072AD44
4F072AG05
4F072AH05
4F072AH23
4F072AK16
4F072AL04
4F072AL16
4J002CL031
4J002CL032
4J002CL063
4J002DA016
4J002FA043
4J002FA046
4J002GC00
4J002GM00
4J002GT00
5D016AA01
5D016AA08
5D016AA09
5D016CA05
5D016EA00
5D016EC05
5D016HA02
5D016JA08
(57)【要約】
【課題】高温高湿下においても、剛性の変化が小さく、音質の変化が小さいスピーカー振動板を提供する。
【解決手段】結晶性半芳香族ポリアミド(A)、(A)以外のポリアミド(B)および繊維状強化材(C)を含有し、(A)〜(C)の質量比率が、(A)/(B)=100/0〜60/40)、かつ、[(A)+(B)]/(C)=100/10〜100/80を満足するポリアミド樹脂組成物からなるスピーカー振動板、および、結晶性半芳香族ポリアミド(A)が、ポリアミド6T、ポリアミド9Tまたはポリアミド10Tである前記振動板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)、(A)以外のポリアミド(B)および繊維状強化材(C)を含有し、(A)〜(C)の質量比率が、(A)/(B)=100/0〜60/40、かつ、[(A)+(B)]/(C)=100/10〜100/80を満足するポリアミド樹脂組成物からなるスピーカー振動板。
【請求項2】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)が、ポリアミド6T、ポリアミド9Tまたはポリアミド10Tである請求項1記載のスピーカー振動板。
【請求項3】
繊維状強化材(C)が、炭素繊維である請求項1または2に記載のスピーカー振動板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカー振動板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スピーカー部材としての振動板には、音響に影響する特性として、高音速、低密度、高ヤング率のほか、使用環境下において、内部損失(tanδ)の変化が小さいことが求められている。
【0003】
スピーカー振動板としては、例えば、特許文献1に、ポリアミドやポリプロピレンを塩基性硫酸マグネシウムで強化した複合材料からなるものが開示されている。また、特許文献2には、結晶化度が70%以上の超高結晶性ポリプロピレンを用いたスピーカー振動板が開示されている。しかしながら、これらの振動板を適用したスピーカーを自動車室内のような高温高湿にさらされる環境下に用いると、前者は、経時的に吸水し振動板の剛性が低下し、また、後者は、高温で剛性が低下し、結果として、いずれの材料を用いた場合においても内部損失が大きく変化するという問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−274661号公報
【特許文献2】特開平11−75290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術に鑑み、高温高湿下においても、剛性や内部損失の変化が小さく、音質の変化が小さいスピーカー振動板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、結晶性半芳香族ポリアミド(A)と(A)以外のポリアミド(B)と繊維状強化材を特定割合で用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)結晶性半芳香族ポリアミド(A)、(A)以外のポリアミド(B)および繊維状強化材(C)を含有し、(A)〜(C)の質量比率が、(A)/(B)=100/0〜60/40、かつ、[(A)+(B)]/(C)=100/10〜100/80を満足するポリアミド樹脂組成物からなるスピーカー振動板。
(2)結晶性半芳香族ポリアミド(A)が、ポリアミド6T、ポリアミド9Tまたはポリアミド10Tである(1)記載のスピーカー振動板。
(3)繊維状強化材(C)が、炭素繊維である(1)または(2)に記載のスピーカー振動板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温高湿下においても、剛性や内部損失の変化が小さく、音質の変化が小さいスピーカー振動板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のスピーカー振動板について詳細に説明する。
【0010】
本発明のスピーカー振動板は、結晶性半芳香族ポリアミド(A)、(A)以外のポリアミド(B)および繊維状強化材(C)から構成される。
【0011】
本発明で用いる結晶性半芳香族ポリアミド(A)は、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分とから構成される。なお、示差走査熱量計を用いて後述する測定方法で測定した融解熱量が4J/gより大きい場合に、結晶性であると判断する。
【0012】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)を構成するジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられ、中でも、テレフタル酸が好ましい。ジカルボン酸成分において、テレフタル酸の含有量は、80モル%以上とすることが好ましく、90モル%以上とすることがより好ましい。ジカルボン酸成分におけるテレフタル酸の含有量が高いほど、(A)の耐熱性が高くなる傾向がある。ジカルボン酸成分は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0013】
本発明においては、ジカルボン酸成分として、本発明の効果を損なわない限りで、芳香族ジカルボン酸以外の他のジカルボン酸を用いてもよい。他のジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。他のジカルボン酸の含有量は、ジカルボン酸成分において、5モル%以下であることが好ましく、実質的に含まないことがより好ましい。
【0014】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)を構成する脂肪族ジアミン成分としては、例えば、1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミンが挙げられる。中でも、汎用性が高いことから、1,6−ヘキサンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミンが好ましく、耐熱性や機械的強度が高いことから、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミンがより好ましい。これらは、それぞれ1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0015】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)のジアミン成分としては、本発明の効果を損なわない限り、脂肪族ジアミン以外の他のジアミンを用いてもよい。他のジアミンとしては、例えば、シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミンや、キシリレンジアミン、ベンゼンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。他のジアミンの含有量は、ジアミン成分において、5モル%以下とすることが好ましく、実質的に含まないことがより好ましい。
【0016】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)には、分子量の調整を目的に、モノカルボン酸を用いてもよい。モノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、4−エチル安息香酸、4−へキシル安息香酸、4−ラウリル安息香酸、アルキル安息香酸類、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸等の芳香族モノカルボン酸、酢酸、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の脂肪族モノカルボン酸、4−エチルシクロヘキサンカルボン酸、4−へキシルシクロヘキサンカルボン酸、4−ラウリルシクロヘキサンカルボン酸等の脂環族モノカルボン酸が挙げられる。中でも、成形時の流動性が向上することから、分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸を用いることが好ましい。モノカルボン酸の含有量は、原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下とすることが好ましい。
【0017】
また、結晶性半芳香族ポリアミド(A)には、本発明の効果を損なわない限り、カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸や11−アミノウンデカン酸等のω−アミノカルボン酸を用いてもよい。ラクタム類やω−アミノカルボン酸の合計の含有量は、原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下とすることが好ましく、実質的に含まないことがより好ましい。
【0018】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)としては、汎用性が高いことから、テレフタル酸と1,6−ヘキサンジアミンを主成分とするポリアミド6T、テレフタル酸と1,9−ノナンジアミンを主成分とするポリアミド9T、またはテレフタル酸と1,10−デカンジアミンを主成分とするポリアミド10Tが好ましい。
【0019】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)は、融点が300℃以上であることが好ましく、320℃以上であることがより好ましい。
【0020】
本発明に用いる結晶性半芳香族ポリアミド(A)は、96%硫酸中、25℃、濃度1g/dLで測定した場合の相対粘度が、1.8以上であることが好ましく、1.8〜3.0であることがより好ましく、1.9〜2.8であることがさらに好ましい。
【0021】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)の重量平均分子量は、15000〜50000であることが好ましく、20000〜50000であることがより好ましく、26000〜50000であることがさらに好ましい。
【0022】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)は、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。中でも、工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。
【0023】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)の製造においては、重合の効率を高めるため重合触媒を用いてもよい。重合触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられる。
【0024】
本発明で用いるポリアミド(B)は、結晶性半芳香族ポリアミド(A)以外のポリアミドであれば特に限定されない。(A)以外のポリアミドとしては、例えば、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3−メチル−4アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリウンデカミド(ポリアミド11)、ポリドデカミド(ポリアミド12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMDT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、およびこれらの共重合物、混合物等の結晶性ポリアミド、イソフタル酸/テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体、テレフタル酸/2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン/ω−ラウロラクタムの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン/ω−ラウロラクタムの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体とテレフタル酸/2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合体の混合物等の非晶性ポリアミドが挙げられる。これらの構成する芳香族成分のベンゼン環は、アルキル基やハロゲン原子で置換されていてもよい。(B)の中でも、ポリアミド6、ポリアミド66、イソフタル酸/テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体、テレフタル酸/2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合体が好ましい。
【0025】
結晶性半芳香族ポリアミド(A)と、(A)以外のポリアミド(B)の配合比率は、(A)/(B)=100/0〜60/40(質量比率)の範囲とすることが必要であり、90/10〜70/30(質量比率)とすることが好ましい。(B)を配合することにより、成形時の流動性が向上し、成形体の外観を向上させることができる。(A)と(B)の合計100質量%に対して、(B)の含有量が40質量%を超えると、剛性の保持率が低下し、内部損失の変化率が大きくなるため好ましくない。
【0026】
本発明に用いる繊維状強化材(C)としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維、セピオライト、パリゴルスカイトが挙げられる。上記のうち2種以上を併用してもよい。中でも、低比重の点で炭素繊維やアラミド繊維が好ましい。
【0027】
繊維状強化材の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)と(B)の合計100質量部に対し、10〜80質量部とすることが必要であり、15〜60質量部とすることが好ましく、20〜50質量部とすることがより好ましい。繊維状強化材の含有量が10質量部未満の場合、剛性が不十分になるので好ましくない。一方、繊維状強化材の含有量が80質量部を超える場合、後述する溶融混練時にストランド切れが多発し、樹脂組成物ペレットを得ることが困難となる。
【0028】
本発明に用いるポリアミド樹脂組成物には、さらに添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、板状強化材、タルク、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ等の充填材、酸化防止剤、銅化合物、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤が挙げられる。
【0029】
本発明に用いるポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)、(A)以外のポリアミド(B)、および繊維状強化材(C)やその他添加剤等を配合して、溶融混練法等により製造される。溶融混練法としては、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機等を用いる方法が挙げられる。溶融混練温度は、半芳香族ポリアミド(A)が溶融し分解しない温度であれば特に限定されないが、(半芳香族ポリアミドの融点−20℃)以上、(半芳香族ポリアミドの融点+40℃)以下とすることが好ましい。
【0030】
ポリアミド溶融混合物は、溶融混練後、ストランド状に押出しペレット形状としたり、ホットカット、アンダーウォーターカットしてペレット形状としたり、シート状に押出しカッティングしたり、ブロック状に押出し粉砕してパウダー形状としたりすることができる。
【0031】
本発明のスピーカー振動板は、公知の方法によって製造することができる。例えば、ポリアミド樹脂組成物を、可動型金型と固定型金型から構成される金型のキャビティの内部に充填して射出成形し、所定時間経過後、型開きすることによって製造することができる。スピーカー振動板の形状としては、特に限定されないが、コーン型、ドーム型、平面型などが挙げられる。
【0032】
スピーカー振動板の成形時には、十分に乾燥されたポリアミド樹脂組成物ペレットを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、成形時にシリンダー内で樹脂が発泡し、最適なスピーカー振動板を得ることが困難となることがある。射出成形に用いるポリアミド樹脂組成物ペレットの水分率は、ポリアミド樹脂組成物100質量部に対して、0.3質量部未満であることが好ましく、0.1質量部未満であることがより好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0034】
1.測定方法、評価方法
【0035】
(1)融点および融解熱量
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7を用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温した。25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温し、吸熱ピークのトップを融点とし、ピーク面積を融解熱量とした。
【0036】
(2)相対粘度
96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定した。
【0037】
(3)重量平均分子量
東ソー社製ゲル浸透クロマトグラフィ装置を用い、下記条件で調整した試料溶液にてGPC分析をおこなった後、ポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリーズ社製)を標準試料として作成した検量線を用いて、重量平均分子量を求めた。
<試料調製>
ポリアミド5mgに10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール2mLを加えて溶解後、ディスクフィルターで濾過した。
<条件>
・検出器:示差屈折率検出器RI−8010(東ソー社製)
・溶離液:10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール
・流速:0.4mL/分
・温度:40℃
【0038】
(4)標準条件下での曲げ弾性率
ポリアミド樹脂組成物を十分に乾燥した後、射出成形機(東芝社製EC−100)を用いて射出成形をおこない、試験片(ダンベル片)を作製した。シリンダー温度は、実施例1〜13、比較例3〜4は(半芳香族ポリアミドの融点+10℃)、比較例1は、260℃、比較例2は280℃、金型温度130℃、射出速度は150mm/秒、保圧は60MPaとした。
得られた試験片を、23℃環境下、ISO178に準拠して測定した。
実用上、標準条件下での曲げ弾性率は、5GPa以上が好ましい。
【0039】
(5)吸湿処理後の曲げ弾性率
(4)の標準条件で得られた試験片を、65℃×60%RHにて500時間吸湿処理後、23℃環境下、ISO178に準拠して測定した。
得られた値を用いて、標準条件の値に対する保持率(%)を求めた。
保持率は、80%以上であることが好ましい。
【0040】
(6)80℃環境下の曲げ弾性率
(4)の標準条件で得られた試験片を、80℃環境下、ISO178に準拠して測定した。
得られた値を用いて、標準条件の値に対する保持率(%)を求めた。
保持率は、80%以上であることが好ましい。
【0041】
(7)内部損失の変化率
ポリアミド樹脂組成物を十分に乾燥した後、射出成形機(東芝社製EC−100)を用いて射出成形をおこない、試験片(短冊状、幅12.7mm×長さ127mm×厚み0.8mm)を作製した。シリンダー温度は、実施例1〜13、比較例3〜4は(半芳香族ポリアミドの融点+10℃)、比較例1は、260℃、比較例2は280℃、金型温度130℃、射出速度は150mm/秒、保圧は60MPaとした。
得られた試験片の内部損失を、23℃環境下、レオメトリック社製粘弾性スペクトロメーターRSAIIを用いて、引張モード、振動周波数1Hz、歪み0.1%、昇温速度2℃/分の条件で測定した。
次に、試験片を、65℃×60%RHにて500時間吸湿処理し、その後、同じ条件で内部損失を測定した。
吸湿処理前後の内部損失の測定値を用いて、以下の式から変化率(%)を求めた。
変化率=(吸湿処理後の内部損失−吸湿処理前の内部損失)/(吸湿処理前の内部損失)
変化率は、2%以下であることが好ましい。
また、試験片の80℃環境下での内部損失を測定し、同様に、以下の式から変化率(%)を求めた。
変化率=(80℃環境下の内部損失−23℃環境下の内部損失)/(23℃環境下の内部損失)
変化率は、2%以下であることが好ましい。
【0042】
2.原料
(1)ジカルボン酸成分
・TPA:テレフタル酸
【0043】
(2)ジアミン成分
・NDA:1,9−ノナンジアミン
・DDA:1,10−デカンジアミン
【0044】
(3)末端封鎖剤
・STA:ステアリン酸
【0045】
(4)半芳香族ポリアミド
・P−1
芳香族ジカルボン酸成分として粉末状のTPA4.70kgと、モノカルボン酸成分としてSTA0.33kgと、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物20gとを、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、脂肪族ジアミン成分として100℃に加温したDDA4.97kgを、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し反応物を得た。なお、原料モノマーのモル比は、TPA:DDA:STA=48.5:49.5:2.0(官能基当量比はTPA:DDA:STA=49.0:50.0:1.0)であった。
続いて、得られた反応物を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで8時間加熱して重合し、半芳香族ポリアミドの粉末を作製した。
その後、得られた半芳香族ポリアミドの粉末を、二軸混練機を用いてストランド状とし、ストランドを水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングして半芳香族ポリアミド(P−1)を得た。
【0046】
・P―2〜P−4
表1に示すように用いるモノマーを変更した以外は、半芳香族ポリアミド(P−1)と同様にして、半芳香族ポリアミド(P−2)〜(P−4)を得た。
【0047】
得られた半芳香族ポリアミドの樹脂組成およびその特性値を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
・半芳香族ポリアミド(P−5)
三井化学社製ポリアミド6T、アーレンA3000、融点320℃、融解熱量38J/g
【0050】
(5)結晶性半芳香族ポリアミド以外のポリアミド
・PA6:ポリアミド6、ユニチカ社製A1030BRL、相対粘度2.51、融解熱量71J/g
・PA66:ポリアミド66、アセンド社製50BWFS、相対粘度2.75、融解熱量84J/g
・非晶PA:イソフタル酸/テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミンの重縮合体、DSM社製X21、ガラス転移温度125℃、相対粘度2.0、融解熱量0.4J/g
【0051】
(6)繊維状強化材
・E−1:炭素繊維、東邦テナックス社製HTA−C6−NR、平均繊維径7μm、平均繊維長6mm
・E−2:アラミド繊維、帝人社製テクノーラT322UR3−12、平均繊維長3mm
【0052】
実施例1
半芳香族ポリアミド(P−1)100質量部を、スクリュー径37mm、L/D40の同方向二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS)の主供給口に供給し、サイドフィーダーよりガラス繊維を30質量部供給し溶融混練をおこなった。320℃〜340℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量35kg/時間であった。その後、ストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0053】
実施例2〜13、比較例1〜4
表2に示すように樹脂組成物の組成を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
ただし、比較例1の溶融混練温度は250℃〜260℃、比較例2の溶融混練温度は270℃〜290℃とした。
【0054】
比較例5
繊維状強化材の含有量を、半芳香族ポリアミド100質量部に対して90質量部とする以外は、比較例3と同様にして半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを得ようとしたが、ストランドが切断し、ポリアミド樹脂組成物ペレットを得ることができなかった。
【0055】
実施例と比較例で得られたポリアミド樹脂組成物の組成およびその特性値を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例1〜13は、吸湿処理後および80℃環境下いずれの条件においても、曲げ弾性率の保持率が高く、内部損失の変化率が小さかった。したがって、スピーカー振動板用の樹脂組成物として適していることがわかる。
【0058】
比較例1、2は、結晶性半芳香族ポリアミドを用いていなかったため、曲げ弾性率の保持率が低かった。また、内部損失の変化率も大きかった。
比較例3は、繊維状強化材の含有量が本発明で規定する範囲よりも少なかったため、標準条件下での曲げ弾性率が低かった。
比較例4は、結晶性半芳香族ポリアミドと前記ポリアミド以外のポリアミドの合計に対する結晶性半芳香族ポリアミドの含有量が、本発明で規定する範囲よりも少なかったため、曲げ弾性率の保持率が低かった。また、内部損失の変化率も大きかった。