特開2015-221014(P2015-221014A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-221014(P2015-221014A)
(43)【公開日】2015年12月10日
(54)【発明の名称】大豆胚軸加工品
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/20 20060101AFI20151113BHJP
【FI】
   A23L1/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-107025(P2014-107025)
(22)【出願日】2014年5月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(72)【発明者】
【氏名】米元 博子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 俊充
(72)【発明者】
【氏名】大坪 信宏
【テーマコード(参考)】
4B020
【Fターム(参考)】
4B020LB24
4B020LC04
4B020LG01
4B020LP06
4B020LP30
(57)【要約】
【課題】そのまま食することができ、且つ存在感のある粒状の形態でカリカリと歯ごたえのある食感と風味のよい大豆胚軸加工品を得ることを解題とした。
【解決手段】大豆胚軸が膨化度1.1倍〜1.4倍になるように調整し加熱膨化加工を施すことにより、存在感のある粒状の形態でカリカリと歯ごたえのある食感と風味のよい大豆胚軸加工品を得ることができた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆胚軸を原料生胚軸の1.1倍〜1.4倍の容積まで膨化させた大豆胚軸加工品。
【請求項2】
大豆胚軸を原料生胚軸の1.1倍〜1.4倍の容積まで膨化させ、かつ色差計L値が35以上である大豆胚軸加工品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の大豆胚軸加工品が配合された飲食品。
【請求項4】
大豆胚軸を、常圧下で加熱することにより、原料生胚軸の1.1倍〜1.4倍の容積まで膨化させることを特徴とする、大豆杯軸加工品の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆胚軸の食品用加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
胚芽は、成長後に芽や根を形成する植物にとって重要な部位である。大豆胚芽は、大豆胚軸とも呼ばれ、重量比では丸大豆の約2%にすぎないが、大豆の微量成分であるイソフラボンやサポニンを多く含むことが知られている。イソフラボンは女性ホルモン様作用を有し、更年期障害の緩和、骨粗しょう症の予防、がん予防等の効果があると報告されている。またサポニンは、抗肥満効果などが期待される成分であるが、イソフラボン同様苦味を有することが知られている。
【0003】
大豆胚軸は、一般に健康食品用素材として食されているが、特有の風味や、固い食感等の問題があり食品用素材としてはまだ改良の余地がある。特にふりかけの具材や、トッピング剤のように大豆胚芽をそのまま食する場合には、食感に歯ごたえがあって且つ食べやすく、苦味の少ない素材である必要がある。
【0004】
大豆胚軸を加工し、価値を高める技術としては以下のような技術が挙げられる。
特許文献1には、大豆胚芽を高温高圧下に所定時間維持し、ついで低圧下に放出することによって大豆胚芽を1.5〜5倍に膨張させる加工方法について記載されている。
特許文献2では、大豆胚軸を115℃以上で加熱し健康機能を高める技術について記載されているが、加熱加工した大豆胚芽を粉末化や抽出液を濃縮としてもよいとあり、そのまま食するための加工技術としては、なんら記載されていない。
特許文献3においては、大豆胚軸を色差計L値25〜35及び同b値4〜13まで焙煎することによって風味良好な飲食用素材を得る技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−126078号公報
【特許文献2】特開平5−271087号公報
【特許文献3】特開平10−4904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、そのまま食することができ、且つ存在感のある粒状の形態でカリカリと歯ごたえのある食感と風味のよい膨化大豆胚軸を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題について、本発明者は鋭意検討を行った。
特許文献1には、大豆胚芽を1.5〜5倍に膨張させる加工方法について記載がされているが、膨張度が大きすぎると固さがなくなり、歯ごたえのある食感は得られず、苦味も強く感じるという問題や、膨化度が1.5倍未満では、食感が硬くて食に供さないという記載もあり、本発明の課題を解決する上では、低膨化度の使用は全く想定されていなかった。特許文献2では、大豆胚軸を115℃以上で加熱し健康機能を高める技術について記載されているが、加熱加工した大豆胚芽をそのまま食するための加工技術としては、なんら記載されておらず、本発明のような食感を示す食品を開発する示唆にはならなかった。特許文献3においては、大豆胚軸を色差計L値25〜35及び同b値4〜13まで焙煎することによって風味良好な飲食用素材を得る技術について記載されているが、得られる焙煎大豆胚芽は固く、苦味が残るなど改善の余地があり、本発明の課題を解決する上では、参考とはならなかった。
そこで、本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、大豆胚軸の膨化度を調整することで、従来困難とされていた低膨化率の領域において、食感と風味を改善する方法を見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、
(1)大豆胚軸を原料生胚軸の1.1倍〜1.4倍の容積まで膨化させた大豆胚軸加工品、
(2)大豆胚軸を原料生胚軸の1.1倍〜1.4倍の容積まで膨化させ、かつ色差計L値が35以上である大豆胚軸加工品、
(3)請求項(1)又は(2)に記載の大豆胚軸加工品が配合された飲食品、
(4)大豆胚軸を、常圧下で加熱することにより、原料生胚軸の1.1倍〜1.4倍の容積まで膨化させることを特徴とする、大豆杯軸加工品の製造法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、多くの健康機能を有する成分を含有した大豆胚軸を、食べやすい食感・風味でそのまま摂取することができ、ふりかけの具材やトッピング剤などに利用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(大豆胚軸)
本発明に使用する大豆胚軸は、丸大豆を脱皮する際に得られる胚軸を用いればよい。具体的には、丸大豆を乾熱加熱後グラインダーにて大豆の割りと剥皮を行い、風選、篩別を伴って大豆胚軸を分離する方法が例示される。また、大豆胚軸としての純度は高い方が好ましい。
【0010】
(膨化加工)
膨化加工については、加熱によって行うことができる。一般的な焙煎機器を用いることが出来るが、大豆胚軸中の水分を一気に蒸発させることによって膨化させる必要があるため、加熱温度の高い焙煎機が適している。乾熱加熱式の焙煎機としては、直火のロースターや熱風焙煎機が挙げられるが、150℃以上の高い加熱の出来る焙煎機であれば特に種類は問わない。加熱時間は加熱温度、原料の容量にもよるため、基本的には仕上がりの温度で調整される。仕上がりの温度は加熱方法にもよるが、概ね140℃〜180℃にするのがよい。
前処理については、最終の膨化度が1.1倍〜1.4倍の範囲に含まれれば特に問わない。予め加水をした上で焙煎するほか、加水時に粉末油脂などを溶解してから浸漬、焙煎してもよい。
膨化度が低すぎると風味が生っぽくなったり、食感が硬くなりすぎる場合があり、また、高すぎるとふわふわした食感で歯ごたえがなくなったり、苦味が強くなる場合がある。
【0011】
(大豆胚軸の膨化度)
大豆胚軸の膨化度については、比容(cm3/100g)を測定することによって得られる。詳しくは、大豆胚軸100gを計量し、メスシリンダーに投入後5回タッピングした後の容積を計測する。また、原料大豆胚軸の比容を予め測定しておくことで、膨化度を算出することができる。膨化度は加工後の大豆胚芽の比容/原料大豆胚芽の比容とする。
膨化度は、1.1〜1.4倍にすることが食感、風味の上で好ましく、さらに好ましくは1.1〜1.3倍がよい。膨化度が1.1倍より小さいと、固く噛みがたい食感となり、膨化度が1.4倍より大きいとやわらかすぎる食感となり、苦味も出てくる場合がある。
【0012】
(色差)
また、焙煎の程度を測るため、色差計(日本電色工業株式会社 測色色差計など)を用いることが出来る。明るさを示すL値において、35以上が風味の上で好ましく、より好ましくはL値40〜60が良い。L値が小さすぎると、焦げによる苦味が生じ、風味が悪くなることがある。
【0013】
(飲食品)
本発明が提供する大豆胚軸加工品の使用方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、一般食品や一般飲料、健康食品等の飲食品原料として使用することができる。例えば、ガム、チョコレート、キャンディー、スナック菓子、焼き菓子、ゼリー、ジャム、クリーム、パン等の菓子類;アイスクリーム、アイスシャーベット等の冷菓;加工乳、発酵乳等の乳製品;マーガリン、ホイップクリーム、マヨネーズ、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;そば、うどん、中華麺、即席麺等の麺類;かまぼこ、はんぺん、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;カレー、シチュー、マーボドーフ、ミートソース等のレトルト食品;ふりかけの具材やトッピング剤;種々の形態の飲料及び食品、並びに健康・栄養補助食品などが挙げられる。
【0014】
(製造方法)
丸大豆杯軸加工品の製造法としては、常圧での加熱により、膨化加工が出来る焙煎機器を用いる。具体的には、乾熱加熱式の焙煎機では直火のロースターや熱風焙煎機などが挙げられるが、150℃以上の高い加熱の出来る焙煎機であれば特に種類は問わない。加熱温度条件は、直下型焙煎機では、常圧で150℃〜280℃を好ましく、流動層焙煎機では、常圧で150℃〜280℃にするのが良い。加熱時間は加熱温度、原料の容量により設定されるが、基本的には仕上がりの温度で加熱時間を調整する。



【実施例】
【0015】
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。
【0016】
(実施例1〜3)、(比較例1〜2)
丸大豆から分離して得られた大豆胚軸を、表1に示す条件で、直火型焙煎機(フジローヤルロースターR105)にて焙煎を行った。

(表1)直火型焙煎機での焙煎条件
【0017】
(実施例4〜6)
丸大豆から分離して得られた大豆胚軸を、表2に示す条件で、流動槽焙煎機(熱風)にて焙煎を行った。なお、実施例5では前処理として0.2%重曹溶液を原料大豆胚芽に対して5%浸漬させた。実施例6では前処理として0.5%エマファット(理研ビタミン製粉末油脂)溶液を原料大豆胚芽に対して5%浸漬させた。

(表2)流動槽焙煎機での焙煎条件
【0018】
(実施例7)
実施例1で得られた膨化大豆胚軸を180℃に熱したフライパン上で5分間焙煎加熱した。
【0019】
(実施例8)
実施例1で得られた膨化大豆胚軸を180℃に熱したフライパン上で10分間焙煎加熱した。
【0020】
(比較例3)
丸大豆から分離して得られた大豆胚軸を、加圧加熱装置を用いて膨化させた。
【0021】
(比較例4)
丸大豆から分離して得られた大豆胚軸を、最終品温が120℃になるまでジャケット式焙煎機にて焙煎した。
【0022】
各条件で得られた膨化大豆胚軸について、食感、風味、膨化度、色調(L値)、評価を表3に示す。なお評価については、以下に示す評価基準に基づいて、訓練を受けた社内パネリスト3名で官能評価した。評価基準は、◎非常に良好 ○良好、△やや不良、×不良の4段階で評価し、◎、○を合格、△、×を不合格とした。

(表3)膨化大豆胚軸加工品の評価
【0023】
実施例1〜3はカリカリとしてよい食感であり、風味も香ばしく品質のよい膨化大豆胚軸であった。比較例1は風味がやや生っぽく、食感も固さが残ることとなった。比較例2は膨化度が高く、歯ごたえのない食感となっていた。実施例4〜6のように、焙煎機を熱風式に変えても、前処理を行っても膨化度が1.1倍〜1.4倍の範囲に含まれることで食感・風味ともに良好な大豆胚軸が得られた。また、実施例7、8で示されるように、一度膨化させた後焙煎を行っても膨化度に変化なければ、食感風味ともに良好な膨化大豆胚軸が得られた。比較例3、4のように膨化度が1.1倍〜1.4倍の範囲外であると、食感や風味は不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、健康的な素材である大豆胚軸を食感と風味が良好な状態で、ふりかけの具材や、トッピング剤のようにそのまま食したり、各種飲食品用原料として使用することができるようになった。