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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-221758(P2015-221758A)
(43)【公開日】2015年12月10日
(54)【発明の名称】レナリドミドの光学分割方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/04 20060101AFI20151113BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20151113BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20151113BHJP
   A61K 31/454 20060101ALN20151113BHJP
   A61P 35/02 20060101ALN20151113BHJP
【FI】
   C07D401/04
   G01N30/88 W
   G01N30/26 A
   G01N30/88 201W
   G01N30/88 101N
   A61K31/454
   A61P35/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-106388(P2014-106388)
(22)【出願日】2014年5月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】東條 洋介
(72)【発明者】
【氏名】三田 真史
(72)【発明者】
【氏名】ウォルフガング リンドナー
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB02
4C063CC11
4C063DD07
4C063EE01
4C086AA02
4C086AA04
4C086BC22
4C086GA07
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZB27
(57)【要約】      (修正有)
【課題】サリドマイドの誘導体であり、多発性骨髄腫など多様な悪性血液疾患に有効な免疫調製薬として広く用いられているレナリドミドの純粋なエナンチオマーを分離・精製するための新規な方法の提供。
【解決手段】レナリドミドのラセミ体混合物を、液体クロマトグラフィに供して光学分割を行う方法。固定相に多糖誘導体、移動相に非プロトン性溶媒、第二級アルコール及びこれらの混合物から選択される有機溶媒を用い、レナリドミドのS体がR体より早く溶出することを利用してレナリドミドのエナンチオマーを分離・精製方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レナリドミドのエナンチオマーを分離・精製するための方法であって、レナリドミドのエナンチオマー混合物をクロマトグラフィーに供し、そして、非プロトン性溶媒、第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒を移動相として用いることにより、レナリドミドのラセミ体混合物からレナリドミドの各エナンチオマーを光学分割することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記レナリドミドのエナンチオマーがS体であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レナリドミドのエナンチオマーがR体であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記光学分割において、レナリドミドのS体がレナリドミドのR体よりも早く溶出することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記非プロトン性溶媒が、酢酸エチル、アセトニトリル又はこれらの組み合せであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第二級アルコールが、イソプロパノールであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
多糖誘導体が固定相であるカラムが用いられることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記カラムが、Chiralpak(登録商標)IA又はChiralpak(登録商標)ICであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レナリドミドのエナンチオマーを分離・精製するための方法であって、レナリドミドのラセミ体混合物をクロマトグラフィーに供し、そして、非プロトン性溶媒、第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒を移動相として用いることにより、レナリドミドのエナンチオマーの混合物(例えばラセミ体)からレナリドミドの各エナンチオマーを光学分割することを特徴とする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レナリドミドは、サリドマイドの誘導体であり、多発性骨髄腫など多様な悪性血液疾患に有効な免疫調製薬として広く用いられている。レナリドミドは、サリドマイドと比較して、改善された毒性プロフィール及び優れた免疫調製活性を有することが報告されている(非特許文献1)。逆相モードを利用したHPLC法によって、レナリドミドの薬物動態学的特性が明らかにされており(非特許文献2; 非特許文献3; 及び非特許文献4)、レナリドミドの最終排泄半減期は、約3〜4時間であると推測されている。
【0003】
また、サリドマイドやその誘導体、類似体に関しては、R体とS体との薬物活性の相違が報告されている。例えば、サリドマイドの鎮静作用はR体のみに見られることが報告されている一方で(非特許文献5)、S−ポマリドミド(3−アミノ−フタリミド−グルタリミド)は、R体やラセミ体と比較して、bFGFやVEGFにより誘発される角膜血管新生を有意に阻害することが報告されている(非特許文献6)。
【0004】
このようなエナンチオマーにおける活性の違いにもかかわらず、依然として、サリドマイドがR体:S体=50:50のラセミ体混合物として投与されている。この主な理由の1つとして、血中での極めて速いラセミ化特性が挙げられる(非特許文献7)。
【0005】
サリドマイドのエナンチオマーは、有機溶媒を用いた反復抽出や、修飾アミロース(非特許文献8)、セルロース(非特許文献7)、バンコマイシン(非特許文献9)又はメタクリルアミド(非特許文献10)などのエナンチオ選択型の固定相を用いたクロマトグラフィー法によって分離・定量されており、血中で極めて迅速にラセミ化することが明らかになっている。このようなラセミ化は、G. Blaschke らによって初めて開示され、ヒト血漿中でのサリドマイドのラセミ化半減期は約10分であると報告されている(非特許文献10)。これは、サリドマイドの排出半減期が8.7時間であること(非特許文献11)を考慮すると極めて短いものである。
【0006】
このような体内動態を示すことから、サリドマイドの純粋なエナンチオマーを投与することに薬理学的な意義がないものと考えられており、サリドマイドに類似した基本骨格を有するレナリドミドについても同様の性質を有するものと考えられてきたため、レナリドミドの純粋なエナンチオマーの薬物動態学的・薬理学的特性については十分に研究されておらず、生体試料中のレナリドミドの純粋なエナンチオマーの分離・定量方法についても、これまでに全く報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hideshima T et al., Ther. Clin. Risk. Manag. 2008, 4(1), p.129-36
【非特許文献2】Tohnya TM et al., J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life. Sci., 2004, 811(2), p.135-41
【非特許文献3】Chen N et al., Cancer. Chemother. Pharmacol., 2012, 70(5), p.717-25
【非特許文献4】Chen N et al., J Clin Pharmacol., 2007, 47(12), p.1466-75
【非特許文献5】Hoeglund P et al., J. Pharmacokinet. Biopharm., 1998 26(4), p.363-83
【非特許文献6】Lentzsch S et al., Cancer. Res., 2002, 62(8), p.2300-5
【非特許文献7】Eriksson T et al., Chirality., 1995, 7(1), p.44-52
【非特許文献8】Meyring M et al., J. Chromatogr. A. 2000, 876(1-2), p.157-67
【非特許文献9】Murphy-Poulton SF et al., J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life. Sci., 2006, 831(1-2), p.48-56
【非特許文献10】Knoche B et al., J. Chromatogr. A., 1994, 666, p.235-240
【非特許文献11】Chen TL et al., Drug. Metab. Dispos., 1989, 17(4), p.402-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、レナリドミドの純粋なエナンチオマーを分離・精製するための新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、この度、レナリドミドのエナンチオマーが、サリドマイドのエナンチオマーと比較した場合、有意に長い間生体内に滞留する、という驚くべき知見を得た。上述のとおり、サリドマイドのエナンチオマーは生体内におけるラセミ化速度が極めて早いため、純粋なエナンチオマーを投与することに薬理学的な意義がないものと考えられていたが、レナリドミドは、その排泄半減期を考慮すると、薬理効果を無視できない程長い時間エナンチオマーとして生体内に留まっていることが明らかになった。したがって、レナリドミドの純粋なエナンチオマーの薬物動態学的・薬理学的作用の評価は、極めて重要な意味を有するものと考えられる。かかる知見に基づき、本発明者は、上記課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた結果、クロマトグラフィーを用いたレナリドミドのラセミ体のようなエナンチオマー混合物の光学分割において、非プロトン性溶媒、第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒を移動相として用いることにより、分解やラセミ化を抑制し、アーティファクトを含まないレナリドミドの純粋なエナンチオマーを分離・精製できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
具体的には、本発明は以下の発明を包含する。
[1] レナリドミドのエナンチオマーを分離・精製するための方法であって、レナリドミドのラセミ体混合物をクロマトグラフィーに供し、そして、非プロトン性溶媒、第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒を移動相として用いることにより、レナリドミドのラセミ体混合物からレナリドミドの各エナンチオマーを光学分割することを特徴とする、方法。
[2] 前記レナリドミドのエナンチオマーがS体であることを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3] 前記レナリドミドのエナンチオマーがR体であることを特徴とする、[1]に記載の方法
[4] 前記光学分割において、レナリドミドのS体がレナリドミドのR体よりも早く溶出することを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記非プロトン性溶媒が、酢酸エチル、アセトニトリル又はこれらの組み合せであることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記第二級アルコールが、イソプロパノールであることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 多糖誘導体が固定相であるカラムが用いられることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記カラムが、Chiralpak(登録商標)IA又はChiralpak(登録商標)ICであることを特徴とする、[7]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、レナリドミドの純粋なエナンチオマーを効率的に得ることが可能となる。このようにして得られたレナリドミドの純粋なエナンチオマーを用いて、生体内におけるレナリドミドの純粋なエナンチオマーの薬物動態学的特性や薬理学的特性を明らかにし、レナリドミドの純粋なエナンチオマーの投与による副作用低減や薬効向上の可能性を見出すのみならず、レナリドミドの純粋なエナンチオマーを生産することに役立つものと考えられる。したがって、本発明は、レナリドミドのエナンチオマーの薬理薬効・安全性・物性・薬物動態研究や製造プロセス開発など医療・製薬産業における活用・展開に大きく寄与するものと確信する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】各種溶媒中、室温及び50℃で24時間保存したレナリドミドの安定性を示すグラフである。黒塗りの棒グラフはエナンチオマー1を表し、斜線の棒グラフはエナンチオマー2を表す。
図2】移動相として酢酸エチルを用い、光学分割用カラムとしてChiralpak IC(4.6mm i.d.×250mm)を用いた場合のレナリドミドのエナンチオマーの分離を示す。
図3】移動相として酢酸エチルを用い、光学分割用カラムとしてChiralpak IC(20mm i.d.×250mm)によるレナリドミドのエナンチオマーの精製を示す。画分1に溶出したエナンチオマーをLL1と命名し、画分2に溶出したエナンチオマーをLL2と命名した。
図4】画分1(A−1)又は画分2(B−1)における精製(分取)エナンチオマーのクロマトグラムである。分析には、Chiralpak IAを用いた。
図5】S−サリドマイド(a)及びR−サリドマイド(b)を示すクロマトグラムである。
図6】室温で水性バッファーを添加した後の(S*)−LL及び(R*)−LLのピーク面積の時間変化を示す。
図7】室温における水性バッファー(pH4〜9)中のエナンチオマー過剰量の経時変化を示す。
図8】室温における時間に対するlog10(エナンチオマー過剰量)のプロットである。
図9】(a)水中のLLエナンチオマー(対照)及び(b)ヒト血清中のLLエナンチオマーのクロマトグラムを示す。試料:(a)水中0.1mg/mlのラセミ体LL、(b)ヒト血清中水中0.1mg/mlのラセミ体LL、(c)LLを含まないヒト血清。血清又は水にLLを溶解させた直後にHClO4を添加した。HPLC条件:カラム:Chiralpak IA(4.6 mm i.d.×250cm)+Security guard C8(3.0mm i.d.×4mm),流速:0.75mL/分,注入量:2μL。
図10】(a)Na−リン酸バッファー中0.01mg/mLのLL(pH7.4)(b)血清中0.01mg/mLのLL、及び(c)LLを含まないブランク血清のクロマトグラムである。
図11】37℃のヒト血清における10μg/mLの(S*)−LLの添加後のクロマトグラムである。
図12】Na−リン酸バッファー(pH7.4,斜線)及びヒト血清(黒塗り)における、LL及びTDエナンチオマーのラセミ化半減期を示す。棒グラフは、3回の試験の平均値を示し、エラーバーはSDを示す。有意差は、**p<0.01、***p<0.001である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
レナリドミド(LL)は、多発性骨髄腫治療薬として知られるサリドマイド(TD)の誘導体であり、多発性骨髄腫など多様な悪性血液疾患に有効な免疫調製薬として広く用いられている。以下の式により表される化学構造を有し、サリドマイドと同様に、ジオキソピペリジン環上に不斉中心を有する。
【化1】
【0014】
レナリドミドはデキサメタゾンとの併用により、再発・難治性多発性骨髄腫での奏効率が60%と高く、世界中で認可が進んでおり、これまでに約50ヶ国で認可され、売上は4000億円を超えるブロックバスター薬となっている。日本では2010年に承認されたが、安全性を確保する観点から医療関係者・患者・家族の管理手順遵守や全症例で使用成績調査を実施しなければならないという条件が付いている。レナリドミドはサリドマイドよりも薬効が高く、眠気や痺れ等の副作用は軽微である一方、サリドマイドと同様に催奇性のリスクが依然として存在するため、妊婦への投与は禁忌となっている。レナリドミドはサリドマイドの誘導体であるため、サリドマイドと同様、血中で速やかにラセミ化するものと推測されている。このため、R体:S体=50:50のラセミ体として販売されており、現在、レナリドミドの純粋なエナンチオマーを入手することは困難である。また、ラセミ化を抑制し安定な前処理・分離分析条件も確立されていないことから、レナリドミドの純粋なエナンチオマーの体内動態やラセミ化速度などについては、これまでにほとんど知見がない。
【0015】
本発明者は、この度、クロマトグラフィー法を用いた光学分割において、非プロトン性溶媒、第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒を移動相として用いることにより、分解やラセミ化を抑制し、レナリドミドの純粋なエナンチオマーを分離・精製できることを見出した。したがって、本発明の態様において、レナリドミドのエナンチオマーを分離・精製するための方法であって、レナリドミドのエナンチオマー混合物を含む試料をクロマトグラフィーに供し、そして、非プロトン性溶媒、第二級アルコール及びこれらの混合物から成る群から選択される有機溶媒を移動相として用いることにより、レナリドミドのエナンチオマー混合物からレナリドミドの各エナンチオマーを安定的に光学分割することを特徴とする方法が供される。
【0016】
クロマトグラフィー法は、不斉識別能を有する化合物(キラル識別子)が担持された固定相にエナンチオマー混合物を含む試料を移動相の有機溶媒と共に流し、各々のエナンチオマーを吸着させ、その保持時間の差を利用して各々のエナンチオマーを光学分割するための方法である。一般には、光学分割用カラムを装着した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置を用いて行われる。
【0017】
移動相として用いられる非プロトン性溶媒は、本発明の目的を達成できる限り特に制限されないが、例えば、アセトニトリル、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類又はこれらの組み合せなどが挙げられる。好ましくは、アセトニトリル、酢酸エチル又はこれらの組み合せである。
【0018】
移動相として用いられる第二級アルコールは、本発明の目的を達成できる限り特に制限されないが、イソプロパノール、2−ブタノール、シクロペンタノール、又はシクロヘキサノール又はこれらの組み合せが挙げられる。好ましくは、イソプロパノールである。
【0019】
本発明の方法において用いられる光学分割用カラムは、本発明の目的を達成できる限り特に限定されず、順相カラム、逆相カラム、その他の分離モードカラムやそれぞれのを組合わせたマルチモードカラムでもよい。典型的には、多糖誘導体キラルカラムが用いられる。多糖誘導体キラルカラムとは、キラル識別子として多糖誘導体が担体に固定化されたカラムである。多糖誘導体キラルカラムに担持される多糖誘導体としては、例えば、アミロース誘導体やセルロール誘導体が挙げられる。本発明においては、好ましくはChiralpak(登録商標)IA又はChiralpak(登録商標)ICが用いられる。
【0020】
本発明の光学分割法により、レナリドミドのエナンチオマー混合体(ラセミ体など)から、分解やラセミ化を伴うことなく、レナリドミドの純粋なエナンチオマーを分離・精製することができる。
【0021】
生体試料中のレナリドミドの純粋なエナンチオマーを分離・精製する場合には、一般に低分子の分離効率の低下をもたらすタンパク質のような高分子は、あらかじめ取り除く。サリドマイドの前処理は、従来、サリドマイドを含む生体試料を疎水性有機溶媒(例えば、n−ヘキサン/酢酸エチル混液)により、1又は複数回抽出し、得られた有機溶媒層を乾燥させた後、ジオキサンなどの有機溶媒に再溶解させることによって行っていた。しかしながら、レナリドミドはサリドマイドよりも極性が高く、有機溶媒層への溶解度が小さいため、従来の方法では効率が低く不適であった。このような課題を解決するために、本発明者らは、レナリドミドのエナンチオマーのラセミ化に及ぼすpHの影響について鋭意検討を重ねた結果、レナリドミドのエナンチオマーは、酸性条件下において極めて安定であることを見出した。したがって、本発明の別の態様においては、レナリドミドのエナンチオマーを含有する生体試料を前処理するための方法であって、前記生体試料を酸性条件下で除タンパクすることを特徴とする方法が供される。
【0022】
このような酸性条件は、典型的にはpH5以下であり、好ましくはpH2〜pH5の範囲であり、最も好ましくはpH4〜pH5の範囲である。
【0023】
酸性条件をもたらすために試料に加えられる酸は、本発明の目的を達成できる限り特に制限されないが、過塩素酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、メタリン酸、塩酸、又はコハク酸やマレイン酸などのジカルボン酸が挙げられる。
【0024】
生体試料は、レナリドミドが含有されている限り特に制限されないが、例えば、血液、血清、血漿、尿、唾液、母乳、汗、髄液、精液、組織又はミクロソームなどが挙げられる。
【0025】
このようにして、前処理したレナリドミドのエナンチオマーを含有する生体試料をクロマトグラフィー、好ましくは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供することにより、生体試料に存在するレナリドミドのエナンチオマーを簡便かつ効率的に分離・定量することが可能となる。
【0026】
さらに、画分を分取したレナリドミドのエナンチオマーを水性バッファー中で、酸性条件下で維持することにより、レナリドミドのエナンチオマーを保存することが可能となる。このような酸性条件は、典型的にはpH5以下であり、好ましくはpH2〜pH5の範囲である。水性バッファーは、酸性条件を維持することができる限り特に制限されないが、例えば、クエン酸バッファー、リン酸バッファー、酢酸バッファー、グリシン-塩酸バッファー、MES−HEPESバッファー、Trisバッファー、又はホウ酸バッファーが挙げられる。
【実施例】
【0027】
例1.多様な溶媒におけるレナリドミドの安定性
試料として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、酢酸エチル中の0.5mg/mLのレナリドミドのラセミ体(Selleck Chemicals(米))を室温又は50℃で24時間インキュベートし、以下のHPLC条件を用いて、レナリドミドのエナンチオマーを定量し、多様な溶媒におけるレナリドミドの安定性を評価した。
HPLC条件
装置: ナノスペース SI−2シリーズ(資生堂)
カラム: Chiralpak IA(4.6×250cm,5μm,株式会社ダイセル),RT
移動相: EtOH(100%)
流速: 1.0mL/分
注入体積: 5μL
検出: UV 230nm
【0028】
インキュベーション前後のエナンチオマーのピーク面積を図1に示す(最初に観察されたピークをエナンチオマー1とし、次に観察されたピークをエナンチオマー2とした)。メタノール及びエタノール中では、レナリドミドは極めて不安定であったが、アセトニトリルや酢酸エチルでは分解が見られなかった。また、レナリドミドは、イソプロパノール中でも安定であった。これらの結果を考慮すると、レナリドミドの分解は、カルボニル基のα炭素原子を攻撃するアルコールの弱塩基性により促進されるものと考えられる。これは、非プロトン性溶媒であるアセトニトリルや酢酸エチルでレナリドミドが安定性を示した結果にも矛盾しない。
【0029】
例2.多様な溶媒を用いたレナリドミドのエナンチオマーの分離
レナリドミドのエナンチオマーのラセミ化速度を明らかにするために、レナリドミドの純粋なエナンチオマーを分離・定量することは極めて重要である。例1に示されるとおり、アルコール(特に、メタノールとエタノール)や水(>pH7)溶媒中のレナリドミドは不安定であるため、安定性の高い非プロトン性溶媒を移動相や試料溶媒として用いるべきである。
以下のHPLC条件に基づき、表1に示される多様な有機溶媒を移動相として用いた場合のレナリドミド(LL)及びサリドマイド(TD)のエナンチオマーの分離について試験した。試料は、アセトニトリル中に溶解した0.5mg/mLのLL(和光純薬工業)及びTD(シグマアルドリッチ)を用いた。
【0030】
HPLC条件
装置: ナノスペース SI−2シリーズ(資生堂)
カラム: Chiralpak IC(4.6×250cm,5μm,株式会社ダイセル),RT
移動相: 表1に示される溶媒
流速: 1.0mL/分
注入体積: 5μL
検出: UV 230nm又は254nm
【0031】
移動相は、アセトニトリル(ACN)、酢酸エチル(EtOAc)、テトラヒドロフラン(THF)及びt−ブチルメチルエーテル(BME)から成る非プロトン性溶媒を用いた。また、イソプロパノール(IPA)は第二級アルコールであるが、図1に示されるとおり優れた安定性を有することから同様に試験した。エナンチオマー分離能は、以下の式に規定される分離係数(RS)を用いて評価した。
RS=2×(T2−T1)/(W1+W2
式中、数字1及び数字2は、それぞれ、エナンチオマー1及びエナンチオマー2に関することを意味し(ピーク1はピーク2よりも早く溶出する)、Tは保持時間を意味し、Wはピーク幅を意味する。移動相として、各種溶媒を用いた場合のLLエナンチオマーの分離度を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
これらの移動相の中で、LLエナンチオマーの分離において最も有効であったものは酢酸エチルであり、酢酸エチルを移動相として用いた場合(表1,No.02)に最も高い分離度が得られた(RS=12.51)。図2には、酢酸エチルを移動相として用いた場合に、LLエナンチオマーが良好に分離することが示されている。さらに、一定量の酢酸エチルが混合された移動相を用いた場合、酢酸エチルを全くあるいは僅かしか含まないものよりも優れた分離度を示した(例えば、No.3,10,11及び17)。これらの結果から、LLエナンチオマー分離のためのクロマトグラフィーの移動相として酢酸エチルは極めて優れた溶媒であることが判明した。
【0034】
また、アセトニトリルも良好な分離度を示した(表1,No.01,RS=7.26)。さらに、図1に示されるとおり、アセトニトリルも優れた安定性を示すことから、LLエナンチオマー分離のためのクロマトグラフィーの移動相として、良好な溶媒となり得る。
【0035】
一方で、TDについては、いずれの移動相を用いた場合にも十分な分離が観察されなかった。
【0036】
例3.レナリドミドの純粋なエナンチオマーの調製
上記レナリドミドの安定性及びエナンチオマー分離における結果に基づき、レナリドミドの純粋なエナンチオマーを調製するための方法を確立した。具体的には、以下のスキーム及びHPLC条件に従い、レナリドミドの純粋なエナンチオマーを調製した。
【0037】
【表2】
【0038】
HPLC条件
装置: HPD PUMP 及び LAMBDA1010 (Bischoff社)
カラム: Chiralpak IC(2.0mm i.d.×250cm,5μm,株式会社ダイセル),RT
移動相: 酢酸エチル
流速: 10mL/分
注入体積: 5000μLのアセトニトリル中2.3μL/mLのLLラセミ体
検出: UV 254nm
【0039】
図3に示されるとおり、LLエナンチオマーは完全に分離した。画分を分取し乾燥させた後、180mgのラセミ体から、80mg超の純粋なエナンチオマーが得られた。画分をアセトニトリル(1又は0.1mg/mL)に溶解し、−25℃で保管した。図4(A−2,B−2)に示されたクロマトグラムの積分ピーク面積に基づき、レナリドミドエナンチオマー1(LL1)及びレナリドミドエナンチオマー1(LL2)として回収された画分1及び画分2は、それぞれ99.02%及び99.96%の十分なエナンチオマー純度を示した。
【0040】
例4.溶出順番からのLL1及びLL2についての絶対配置の推定
LL1及びLL2の絶対配置は、LL1とLL2の溶出の順番を、商業的に入手可能なR−サリドマイド及びS−サリドマイド(シグマアルドリッチ)と比較することにより十分合理的に推定できる。溶出の順番は以下に示すHPLC条件を用いて確認した。
【0041】
HPLC条件
装置: ナノスペース SI−2 シリーズ(資生堂)
カラム: Chiralpak IA(4.6mm i.d.×250cm,5μm,株式会社ダイセル),RT
移動相: EtOH/H2O(95/5,v/v)中0.1%ギ酸
流速: 0.75mL/分
注入体積: 0.1mg/mLの(S)−TD,(R)−TD,5μL
検出: UV 230nm
【0042】
図5からも明らかなように、S−サリドマイドは、R−サリドマイドよりも早く溶出した。同じHPLC条件下において、LL1がLL2よりも早く溶出することを考慮すれば、LL1の絶対配置はS−エナンチオマーに対応し、LL2の絶対配置はR−エナンチオマーに対応するものと考えられる(以下、LL1及びLL2は、S*−LL及びR*−LLと規定する)。
【0043】
例5.pHにおけるラセミ化半減期の依存性
レナリドミドのラセミ化半減期及びそのpH依存性を明らかにするために、以下のスキーム及びHPLC条件にしたがい実験を行った。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
HPLC条件
装置: ナノスペース SI−2シリーズ (資生堂)
カラム: Chiralpak IA(4.6mm i.d.×250cm,5μm,株式会社ダイセル),RT
移動相: EtOH/H2O(95/5,v/v)中0.1%ギ酸
流速: 0.75mL/分
注入: 5μL
検出: UV 230nm
【0047】
多様なpHにおける(S*)−LLの変動を図6に示す。pH6でのインキュベーションでは(R*)−LLが僅かに産生し、7以上のpHではラセミ化が有意に加速した。また、pH9及び8では、(S*)−及び(R*)−LLのピーク面積が低下していることから、これらのpH条件ではLLのラセミ化および分解が生じていることがわかる。
【0048】
各ポイントの鏡像体過剰率(EE,[(S−R)/(S+R)×100],%)を図7にプロットし、そしてlog10(EE)対時間プロットを図8に示す。サリドマイドに関して報告されるとおり、ラセミ化は擬一次反応であると考えられるため、図8は、理想的な直線近似を示す。
この直線性を用いて、直線近似式(y=ax+b)に基づきEE=50の時間を計算することによりラセミ化半減期を算定した。純粋なエナンチオマーの安定性は、pHにおける極めて強い依存性を示し、その半減期は、pHが1下がるごとに10倍も長くなり、pH4において、半減期の推定は不可能となった。一方、pH9においては、急激なラセミ化と分解が観察された。これの結果は、レナリドミドのエナンチオマーが、酸性条件(<pH4)で安定であることを明確に示すものである。
【0049】
例6.生体試料の前処理方法の確立
これまでに、HPLCを用いた血液(血清及び血漿)又は尿中におけるサリドマイドやレナリドミドの測定については多く報告されている。TDに関して、生体試料中におけるエナンチオマーの測定が報告されており、生体内又は試験管内におけるラセミ化半減期は明らかとなっている(Eriksson T et al., Chirality., 1995, 7(1), p.44-52及びKnoche B et al., J. Chromatogr. A., 1994, 666, p.235-240)。これらの測定は全て液−液抽出法に基づくものである。このような、従来の方法をスキーム(a)に示す。非プロトン性溶媒は、ラセミ化や分解に実質的に不活性であるため、この方法により測定が可能である。しかしながら、疎水性である有機溶媒中のサリドマイドやレナリドミドの溶解度は高くないため、多量の溶媒を用いて繰り返し抽出する必要があった。
【0050】
このため、例5に実証された酸性条件におけるエナンチオマーの安定性に関する知見に基づき、極めて単純かつ効率的なレナリドミドの前処理方法を確立した。本発明の分析法をスキーム(b)に示す。反応を停止させ、かつ同時にタンパク質を沈殿・除去するために酸としてHClO4を用いた。
【0051】
【表5】
【0052】
スキーム(b)の方法を用いて得られたクロマトグラムを図9に示す。図9(b)に示されるとおり、血清中のレナリドミドのエナンチオマーはタンパク質などの夾雑成分の影響を受けることなく良好に分離・定量が可能で生体試料にも適用できることが示された。
【0053】
例7.生理条件におけるレナリドミドのラセミ化
得られた純粋なエナンチオマーを用いて、生体バッファー条件(pH7.4,37℃)及びヒト血清(37℃)におけるレナリドミドのラセミ化速度を、以下のスキームに従い評価した。
【0054】
【表6】
【0055】
HPLC条件
装置: ナノスペース SI−2シリーズ(資生堂)
カラム: Chiralpak IA(4.6mm i.d.×250cm,5μm)+Security guard C8(3.0mm i.d.×4mm)
温度: 40℃
移動相: EtOH/H2O(95/5,v/v)中0.1%ギ酸
流速: 0.75mL/分
注入: 20μL
検出: UV 230nm
【0056】
図10に示される(S*)−LLのクロマトグラム[(a)バッファー中、(b)血清中0.01mg/mL]からも明らかなように、本発明の方法は、十分な保持・分離と検出感度(シグナル/ノイズ比)を有する。LLを伴わない血清のみに由来するブランク試料(c)は、本発明の方法においてLLの測定を阻害する夾雑物質を含まなかった。図18(b)の(S*)−LLのピーク面積は、図18(a)の91%であった。これは、血清中レナリドミドの前処理において十分な回収率を有することを示す。
【0057】
*−LLのインキュベーションにおけるクロマトグラムの連続変化を図11に示す。LLのエナンチオマーは、試料中で他の物質に妨害されることなく、ラセミ化産物を検出するために十分なレベルで分離・定量された。
【0058】
例5に記載される方法と同様にしてラセミ化半減期を算出した。これにより、水性バッファー中のラセミ化半減期を以下のとおり推定した;(S*)−LL、(R*)−LL、(S)−TD及び(R)−TDについて、それぞれ、272±1.3、267±1.1、266±10及び295±24(分)。以上の結果から、pH7.4において、LLエナンチオマーは、水性バッファー中ではTDと同様の半減期を有することが明らかとなった。
【0059】
ヒト血清中における半減期もまた、同様に算定した;(S*)−LL、(R*)−LL、(S)−TD及び(R)−TDについて、それぞれ、131±4.9、109±2.0、21.8±1.0及び32.9±25(分)。これらの結果を、図12に示す。ヒト血清中のサリドマイドは、バッファー中と比較して僅か8.2%(S体)及び11.1%(R体)の半減期であり、サリドマイドのラセミ化は、血清中で極度に促進されることが解る。このエナンチオマーに認められたラセミ化の促進は、生体分子、例えば血清中のヒトアルブミンなどのタンパク質によるものと思われる。
【0060】
血清中のLLに関しては、(S*)−LLが(S)−TDよりも6倍も長いラセミ化半減期を有し、(R*)−LLは(R)−TDよりも3倍長いラセミ化半減期を有するという結果が得られた。これらの結果は、LLエナンチオマー、特に(S*)−LLが、サリドマイドと比較して極めて安定であることを明確に示すものである。なお、TDの場合とは対照的に、(S*)−LLのほうが(R*)−LLよりも安定であった。このようなS−及びR−エナンチオマーの半減期の相違にも注目すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12