【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、澱粉及び/又は澱粉分解物を糖転移酵素及び/又は澱粉分解酵素により転移反応及び/又は加水分解反応により製造される、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端のアルデヒド基が酸化されたものである、糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩が良好な再石灰化促進作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
【0011】
第一に、本発明は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩を有効成分とすることを特徴とする歯牙エナメル質の再石灰化促進剤である。
第二に、本発明は、前記糖カルボン酸が、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、パノース酸化物、マルトオリゴ糖酸化物、分岐オリゴ糖酸化物、水飴酸化物、粉飴酸化物、デキストリン酸化物からなる群から選択された少なくとも一つであることを特徴とする、上記第一に記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤である。
第三に、本発明は、さらに、少なくとも一種のフッ化物を含むことを特徴とする、上記第一又は第二に記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤である。
第四に、本発明は、さらに、少なくとも一種の糖アルコールを含むことを特徴とする、上記第一から第三の何れか一つに記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤である。
第五に、本発明は、上記第一から第四の何れか一つに記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤を含有することを特徴とする口腔用組成物である。
第六に、本発明は、上記第一から第四の何れか一つに記載の歯牙エナメル質の再石灰化促進剤を含有することを特徴とする飲食物である。
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明において糖カルボン酸とは、澱粉及び/又は澱粉分解物を糖転移酵素及び/又は澱粉分解酵素により転移反応及び/又は加水分解反応により製造される、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化されたものをいい、さらにこれらの塩の形態も含む。
【0014】
具体例としては、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、パノース酸化物、マルトオリゴ糖酸化物、分岐オリゴ糖酸化物、水飴酸化物、粉飴酸化物、デキストリン酸化物等が挙げられる。
【0015】
本発明で用いられる糖カルボン酸はその形態は問わず、液体、粉末でもよく、遊離の酸のみならず、塩又はラクトンの形態であってもよく、これらを組み合わせても良い。塩の形態においては、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられるが、これらのうちカルシウム塩の形態が最も好ましい。
【0016】
糖カルボン酸は、澱粉分解物又は転移反応物を化学的な酸化反応により酸化する方法や、澱粉分解物又は転移反応物にオリゴ糖酸化能を有する微生物或いは酸化酵素を作用させる反応により製造することができる。
【0017】
化学的な酸化反応としては、パラジウムや白金、ビスマスを活性炭に担持させた酸化触媒の存在下、澱粉分解物又は転移反応物と酸素をアルカリ雰囲気下で接触酸化させることにより得る方法が知られている。
【0018】
また、オリゴ糖酸化能を有する微生物を用いた方法としては、アシネトバクター属やブルクホルデリア属、アセトバクター属、グルコノバクター属などの微生物変換・発酵法により得る方法が知られている。
【0019】
酵素反応による製造方法としては、前記酸化能を有する微生物から酸化酵素を抽出する方法で製造することが可能である。
【0020】
化学的な酸化反応による製造方法の一例を挙げれば、まず、50℃に保持した30%マルトース溶液100mLに白金−活性炭触媒3gを加え、100mL/minで酸素を吹き込みながら600rpmで攪拌する。反応pHは10N水酸化ナトリウム溶液を滴下することでpH9.0を維持させる。そして、反応5時間後、遠心分離とメンブレンフィルターろ過により触媒を取り除き、マルトビオン酸ナトリウム溶液を得ることができる。
【0021】
上記のように得たマルトビオン酸ナトリウム溶液をカチオン交換樹脂または電気透析により脱塩することで、マルトビオン酸溶液を得ることができる。
【0022】
上記方法で得られたマルトビオン酸溶液に炭酸カルシウムなどのカルシウム源を2対1のモル比となるように添加し溶解させることで、マルトビオン酸カルシウムの調製が可能である。また、本発明に用いるカルシウム源としては可食性のカルシウムであれば良く、例えば、卵殻粉末、サンゴ粉末、骨粉末、貝殻粉末等の天然素材や炭酸カルシウム、塩化カルシウム等の化学合成品などがある。
【0023】
本発明に係る糖カルボン酸が再石灰化促進剤として有効に働くためには、カルシウム及びリン酸源が必要となる。
【0024】
一般に歯牙エナメル質中のカルシウムとリンの構成比率はカルシウム/リン=1.0〜1.67程度であるため、口腔内へは、このような比率となるようにカルシウムとリン酸を供給するのが好ましい。
【0025】
本発明の特定の実施形態では、前記糖カルボン酸のカルシウム塩も含めカルシウム素材を配合することが可能である。使用可能なカルシウム素材としては、炭酸カルシウムや塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、クエン酸・リンゴ酸カルシウム、酢酸カルシウム、フッ化カルシウム、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、ギ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、イソ酪酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、フッ化カルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、ピロリン酸カルシウム、乳清カルシウム、卵殻カルシウム、海藻カルシウム、貝殻カルシウム、魚骨粉、卵殻粉末、サンゴ粉末、貝殻粉末などが挙げられる。
【0026】
本発明において使用可能なリン酸源化合物は、水に溶けることによってリン酸イオンを放出する化合物であれば良く、好ましくは水溶性のリン酸塩または無機リン酸である。このようなリン酸源化合物の例としては、メタリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムなどが挙げられる。
【0027】
本発明においては、再石灰化促進成分としてフッ化物を併用することも可能である。フッ化物は再石灰化促進、結晶性の向上、耐酸性の向上、抗菌・抗酵素作用を示すことが知られており、歯磨剤等へ利用されている。
【0028】
しかしながら、フッ化物を応用する際の問題として、カルシウムにとても反応しやすいため、フッ化物がカルシウムと作用して有効性がなくなるのを避けるため、通常歯磨剤にはカルシウムを含有する素材は使用されない。これに対して、本発明では糖カルボン酸又はそのカルシウム塩は、カルシウム存在下でもフッ化物がイオン状態を保持させることが可能であることを見出した。
【0029】
本発明において使用可能なフッ化物は好ましくは、食品、医薬品または医薬部外品への配合が認められているフッ化物であり、このようなフッ化物の例としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロ酢酸ナトリウム、氷晶石などが挙げられる。本発明のフッ化物として、食品として使用可能なお茶、井戸水、海水、魚介類、海草等由来のフッ素を用いることもできる。例えば、フッ素の濃度が極めて高く、かつ茶ポリフェノールの濃度が極めて低い茶抽出物を使用しても良い。
【0030】
また、本発明においては、再石灰化促進成分として糖アルコールを併用することも可能である。本発明においては、糖カルボン酸又はそのカルシウム塩に糖アルコールを併用添加することで、カルシウムイオンの安定化が高まることにより再石灰化に利用できるカルシウムイオン量が増加することを見出した。
【0031】
本発明において用いられ得る糖アルコールは好ましくは、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、還元水飴、還元澱粉糖化物、パラチニット、ラクチトール、エリスリトール、マンニトール、ガラクチトール、アラビトールなどが挙げられる。
【0032】
前記再石灰化促進剤、すなわち糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩或いは更にフッ化物や糖アルコールを含有する口腔用組成物としては、練り歯磨、粉歯磨又は液状歯磨当の歯磨類、洗口剤、歯肉マッサージクリーム、うがい用剤又はトローチなどが挙げられる。
【0033】
また、本発明に係る再石灰化促進剤を含む飲食物としては、ガム、キャンディー、グミ、錠菓、チョコレートなどの菓子類、クッキー、ビスケット等の焼き菓子類、アイスクリーム、氷菓、シャーベット等の冷菓類、緑茶、ウーロン茶、紅茶、コーヒー、ジュース、スポーツドリンク、加工乳などの飲料類、饅頭、ういろう、もち、おはぎ等の和菓子類、ゼリー、プリン、ケーキなどの洋菓子類、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品、パン、ホットケーキ等のベーカリー製品、ハム、ソーセージ等の畜肉製品類、かまぼこ、ちくわ等の魚肉製品、惣菜類などが挙げられる。
【0034】
口腔用組成物或いは飲食物への糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩の添加量としては、利用する口腔用組成物或いは飲食物の種類や形態等により一概に決めることは困難であるが、口腔用組成物或いは飲食物に対して、0.01%〜100%、好ましくは0.05%〜60%、さらに好ましくは0.1%〜40%で配合されるのが好ましい。
【0035】
一つの実施形態として、一般にガムなど20分間の咀嚼で唾液は20mL程度分泌されることが知られており、口腔内の唾液中のカルシウム量として1mM〜10mMの濃度となるように口腔用組成物或いは飲食物への配合設計をした場合、カルシウム含有量が5.3%であるマルトビオン酸カルシウムでは、40(カルシウム分子量)×(1.0mM〜10mM)×0.02L(唾液)×〔100%(マルトビオン酸カルシウム)/5.3%(カルシウム)〕=15mg〜150mg程度配合すれば良いことなる。これをガム2gへ配合した場合、マルトビオン酸カルシウムのガムへの配合量は、(15mg〜150mg)/2g×100=0.75%〜7.5%となる。また、カルシウム量1.3%のデキストリン酸化カルシウムを配合する場合には、60mg〜600mg程度の配合量となるため、ガム2gへは3%〜30%配合することになる。
【0036】
また、糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩とフッ化物とを併用添加する場合のフッ化物の添加量は、口腔用組成物或いは飲食物の種類や形態等により一概に決めることは困難であるが、これら口腔用組成物或いは飲食物に対して、0.1ppm〜1000ppm、好ましくは0.5ppm〜100ppm、さらに好ましくは5ppm〜50ppmで配合されるのが好ましい。
【0037】
更に、糖カルボン酸及び/又はそのカルシウム塩と糖アルコールとを併用添加する場合の糖アルコールの添加量は、口腔用組成物或いは飲食物の種類や形態等により一概に決めることは困難であるが、これら口腔用組成物或いは飲食物に対して、0.1ppm〜1000ppm、好ましくは1ppm〜500ppm、さらに好ましくは10ppm〜100ppmで配合されるのが好ましい。