【実施例】
【0036】
小さな粒径の水中油型潤滑流体パッケージを、鋼鉄冷間圧延プロセスにおいて提供される場合に、潤滑剤パッケージの性能を高度に予測する、以下を含む上記産業において考慮される一連の実験を使用して評価した:
(a)SODAおよびFalex潤滑試験で評価される本質的な潤滑特性;
(b)4−ボール試験で評価されるEP/耐摩耗特性;
(c)ナノメートル光学干渉計EHD装置との高速高圧EHD接触下で評価される、小さなPSDの水中油型潤滑剤パッケージの潤滑フィルム形成特性;
(d)エマルジョンが上記表面上に高圧でスプレーされる(鋼鉄冷間圧延ミルにおいて通常にかつ一般的に使用される冷却剤スプレーに似ている)場合に、シート表面上で油相を沈着させる特性;
(e)熱安定性およびエバポレーション特性を、熱重量分析TGA装置で試験した;
(g)圧延性能特徴を、4−ハイリバーシングローリングテストミル(4−high reversing rolling test mill)で、種々の製造ミルプロセス、タンデムもしくは逆に相関する試験手順を用いて試験した。
【0037】
以下の実施例は、本発明の代表的ないくつかの潤滑組成物をより詳細に記載する目的で提供されるに過ぎず、本発明の範囲に対して限定を設定するとみなされることは決してない。
【0038】
(処方物)
3種の処方物を、実施例において使用するために調製した:
処方物1:
上記油相の組成は、以下のとおりである:
パーム油: 63.05wt%
分枝状ポリマー界面活性剤(MW:3000−70,000): 30.00wt%
Pドナー1: 0.50wt%
Pドナー2: 0.40wt%
Sドナー1: 4.75wt%
トルトリアゾール: 0.10wt%
アルキル化アミノフェノール: 0.20wt%
分枝状脂肪酸: 1.00wt%
合計: 100.00wt%
3wt%の上記油相を、水に分散させた。
【0039】
PSD:0.13μm。
【0040】
処方物1 PSD約0.13μmを、
図1に、および表1のデータを以下に示す:
表1:PSD0.13μmを有する処方物1のPSD
【0041】
【表1】
処方物2:
上記油相の組成は、以下のとおりである:
パーム油: 78.05wt%
分枝状ポリマー界面活性剤(MW:3000−70000): 15.00wt%
Pドナー1: 0.50wt%
Pドナー2: 0.40wt%
Sドナー1: 4.75wt%
トルトリアゾール: 0.10wt%
アルキル化アミノフェノール: 0.20wt%
分枝状脂肪酸: 1.00wt%
合計: 100.00wt%
3wt%の上記油相を、水に分散させた。
【0042】
PSD:0.45μm。
【0043】
処方物2 PSD約0.45μmを、
図2に、および表2のデータを以下に示す:
表2: PSD d(50%) 0.45μmを有する処方物2のPSD
【0044】
【表2】
処方物3:
上記油相の組成は、以下のとおりである:
パーム油: 41.50wt%
分枝状ポリマー界面活性剤(MW:3000−70000): 30.00wt%
PEエステル 15.00wt%
ポリブテン 3.50wt%
脂肪酸 2.25wt%
Pドナー1: 0.50wt%
Sドナー1: 3.00wt%
Sドナー2: 1.00wt%
ベンゾトリアゾール: 0.25wt%
アルキル化アミノフェノール: 0.75wt%
Pドナー2: 1.25wt%
PE複合体エステル: 1.00wt%
合計: 100.00wt%
3wt%の上記油相を、水に分散させた。
【0045】
PSD:0.17μm。
【0046】
処方物3 PSD 約0.17μmを
図3に、および表3のデータを以下に示す:
表3:PSD d(50%) 0.17μmを有する処方物3のPSD
【0047】
【表3】
(実施例1:境界潤滑)
上記小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の水中油型潤滑流体パッケージの本質的な潤滑特性を、鋼鉄冷間圧延において使用するための潤滑剤の潤滑特性を評価するために一般的に使用される規定された試験手順で、SODA試験およびFalex試験を使用することによって評価した。3種の従来のエマルジョン(PSD≧2μm)潤滑剤パッケージ(良好な性能を有するマルチプロダクション(multiple production)4−スタンド 4−ハイおよび/もしくは5−スタンド 6−ハイタンデムミルおよび/もしくは6−ハイ高速リバーシングミルにおいて広く使用される)の結果を、比較参照として使用した(本明細書中以降、それぞれ、オイル1、オイル2およびオイル3といわれる)。
【0048】
SODA(50 C):オイルおよび小さなPSD生成物を、全てニート(=100%)で試験した。
【表A】
【0049】
*CoF:摩擦係数。
【0050】
製造ミルにおいて使用される潤滑オイルの大部分は、Soda(50℃)において摩擦係数約0.10〜0.15を有する。処方物1〜3は、この標準範囲内に入る。
Falex:オイルおよび小さなPSD生成物は、全てニート(=100%)である。
【表B】
【0051】
上記に示される試験結果から、全ての小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の水中油型潤滑流体パッケージは、3種の参照と比較して、より良好なもしくは匹敵する本質的な潤滑特性を与える。処方物1〜3は、上記標準範囲内に入る。
【0052】
(実施例2:極圧)
オイルおよび小さなPSD生成物を、全てニート(=100%)で試験する。
【0053】
上記小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の水中油型潤滑流体パッケージのEP潤滑特性を、鋼鉄冷間圧延において使用するための潤滑剤の潤滑特性を評価するために一般に使用される規定された試験手順で、4−ボール試験を使用することによって評価した。繰り返すと、上記3種の参照を、比較目的で使用した。その破壊荷重結果を、以下の表に含める:
【表C】
【0054】
極圧(P
B)結果
上記製造ミルにおいて使用される潤滑オイルの大部分は、4−ボールにおいて600Nを超える破壊荷重を有する。冷間圧延生成物は、一般に、約600N以上の破壊荷重を有する。処方物1〜3は、この標準範囲内に入る。
【0055】
(実施例3:フィルム厚)
オイルおよび小さなPSD生成物を、3wt%において試験する。
【0056】
高速高圧EHD接触下での小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の水中油型潤滑流体の上記フィルム形成特性を、鋼鉄冷間圧延において使用するための潤滑剤のフィルム形成特性を評価するために一般に使用される規定された試験手順で、光干渉装置(干渉計)を使用することによって評価した。参照オイル1および参照オイル2を、比較目的で使用した。
【0057】
処方物1〜3およびオイル1〜2のフィルム形成結果が、
図4に認められ得る。処方物1〜3の上記3% エマルジョンフィルムは、同じ条件下で、オイル1およびオイル2の3% エマルジョンのものより厚みがあった。これら結果は、上記小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の水中油型潤滑流体が、通常粒径のエマルジョンよりさらに厚みのあるフィルムを形成し得ることを示す。
【0058】
(実施例4:沈着値)
オイルおよび小さなPSD生成物を、3wt%において試験する。
【0059】
エマルジョンの上記「沈着」は、オイルが上記鋼鉄表面上に吸着する能力を記載するために使用される量である。上記エマルジョンを、規定される試験手順で高圧スプレーシステムを使用することによって評価した。製造ミルにおいて使用される3種の代表的オイル生成物(上記のオイル1、オイル2およびオイル3)を、比較のために参照として選択した。3% エマルジョンの上記沈着結果を、以下に示す:
【表D】
【0060】
沈着結果
処方物1〜3の小さなPSDの水中油型潤滑流体の上記沈着値は、オイル1およびオイ
ル2の通常PSDのエマルジョンのものより低い。処方物1〜3の上記小さなPSDの水中油型潤滑流体は、上記ストリップ上のオイル残渣の量がより低いことが原因で、より低いオイル消費、よりよい冷却能およびより容易な焼き鈍しを有すると予測される。
【0061】
(実施例5:スタック染み)
オイルおよび小さなPSD生成物を、3wt%において試験する。
【0062】
上記小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の水中油型潤滑流体パッケージの非汚染性を、スタック染み試験によって評価した。参照オイル1を、比較目的で使用した。上記結果を
図5に示し、処方物1〜3の非汚染性を、オイル1のものに匹敵することを示す。
【0063】
(実施例6:TGA)
オイルおよび小さなPSD生成物を、全てニート(=100%)で試験する。
【0064】
熱安定性およびエバポレーション特性を、熱重量分析(TGA)装置で評価した。製造ミルにおいて使用される代表的なオイル(オイル1)を、参照オイルとして再び選択する。上記TGA結果は、以下の表に含まれる:
【表E】
【0065】
TGA結果
オイル1の結果は、
図6に含められる。処方物1の結果は、
図7に含められる。上記結果は、処方物1が、上記TGA試験においてオイル1と同じレベルにあることを示す。
【0066】
(実施例7:試験ミル)
オイルおよび小さなPSD生成物は、3wt%において試験される。
【0067】
上記小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の水中油型潤滑流体パッケージの圧延性能は、種々の製造ミルプロセス、タンデムもしくはリバーシングに相関する試験プロセスで、4−ハイリバーシング圧延試験ミル(Northeast Universityの圧延および自動化のState Key Labから)によって評価した。上記ミルの技術的限界が原因で、2つのプロセスを設計した。プロセス1において、通過5は、より高速のプロセス(4m/s)であり、プロセス2において、通過5は、低速プロセス(1m/s)であり、続いて、通過6は、より薄いゲージへと行く。上記試験手順は、以下に示される:
プロセス1:
【表F】
【0068】
結果1:
【表G】
【0069】
プロセス2:
【表H】
【0070】
結果2:
【表I】
【0071】
処方物1および処方物2の上記単位圧延力は、オイル1およびオイル2のものと同じレベルにある。
【0072】
各通過の後の上記ストリップ温度は、
図8および
図9に示される。
図8は、プロセス1の結果を含む。
図9は、プロセス2の結果を含む。
【0073】
上記結果は、処方物1および処方物2のストリップ温度は、各通過の後のオイル1およびオイル2での圧延後に、上記ストリップ温度より低いことを示す。上記結果は、上記小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の水中油型潤滑剤(処方物1および処方物2)の冷却濃度が、上記オイル1およびオイル2のエマルジョンのものを超えることを示す。
【0074】
(実施例8:試験ミル)
さらなる処方物を処方し、圧延性能について試験した。
【0075】
処方物4:
上記油相の組成は、以下のとおりである:
パーム油: 58.00wt%
分枝状ポリマー界面活性剤(MW:3000−70000): 30.00wt%
脂肪酸: 3.25wt%
Pドナー1: 1.25wt%
Pドナー2: 1.00wt%
Pドナー3: 1.00wt%
Sドナー1: 4.50wt%
ベンゾトリアゾール: 0.25wt%
アルキル化アミノフェノール: 0.75wt%
合計: 100.00wt%
3wt%の上記油相を水に分散させた。
【0076】
PSD:0.13μm。
【0077】
処方物4 PSD 約0.13μmを、
図10に示す。
表4:PSD d(50%) 0.13μmを有する処方物4のPSD
【0078】
【表4】
上記小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の水中油型潤滑流体パッケージの圧延性能を、幅1450mmを有する4−ハイリバーシング製造ミルによって評価した。上記作業ロール直径は、約350mmである。上記使用されるストリップは、3.1mm厚および1010mm幅を有するSPHCストリップである。
【0079】
約650トン〜約700トンの一定の圧延力を、全ての通過で制御した。この製造ミルにおいて使用される伝統的なエマルジョン生成物は、比較参照として使用した(「オイル4」といわれる)。
【0080】
この圧延手順では、改善された潤滑が、6回の通過後のより薄い出口ストリップ厚を生じることが理解される。小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の水中油型潤滑流体パッケージ(処方物4)での3つの試験および参照生成物(オイル4)での2つの試験の結果を、以下の表に示す:
【表J】
【0081】
上記結果は、6回の通過後に、上記小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の処方物水中油型潤滑剤(処方物4)は、オイル4のものより薄いストリップ厚を生じることを示す。このような結果は、従来の圧延エマルジョンと比較して製造ミルを回転させるための改善(例えば、改善された潤滑)を示す。
【0082】
冷感圧延潤滑剤についての他の重要な性能(例えば、焼き鈍しおよび防錆)を、圧延後のコイルで評価した。その結果を以下に示す:
【表K】
【0083】
上記結果は、上記小さな粒径(PSD≦1μmもしくはPSD≦0.5μm)の処方物水中油型潤滑剤(処方物4)が、従来の圧延エマルジョンと同様に、焼き鈍しおよび錆の問題を防止することを示す。
本発明の好ましい実施形態によれば、例えば、以下が提供される。
(項1)
1μm以下の粒径値を有する水中油型エマルジョンを含む、鋼鉄冷間圧延において使用するための水中油型潤滑流体。
(項2)
約0.5μm以下の粒径値を有する水中油型エマルジョンを含む、鋼鉄冷間圧延において使用するための水中油型潤滑流体。
(項3)
水中油型エマルジョンを含む、鋼鉄冷間圧延において使用するための水中油型潤滑流体であって、ここで該水中油型エマルジョンは、
(a)以下を含む、油相:
約5wt%〜約40wt%の少なくとも1種のポリマー界面活性剤、
約25wt%〜約95wt% 基油、および
約0.2wt%〜約10wt% 極圧潤滑添加剤、ならびに
(b)水相、
を含み、
ここで該エマルジョンは、約1μm以下の粒径モーダル値d(50%)を有する油相粒子を含む、
水中油型潤滑流体。
(項4)
前記油相中に約0.5wt%〜約6wt% 機能的添加剤をさらに含む、上記項3に記載の水中油型潤滑流体。
(項5)
約0.5wt%〜約15wt%の油相を含む、上記項3に記載の水中油型潤滑流体。
(項6)
少なくとも1種のポリマー界面活性剤は、平均分子量約1,000〜約100,000を有する、上記項3に記載の水中油型潤滑流体。
(項7)
少なくとも1種のポリマー界面活性剤は、グラフトブロックポリマー界面活性剤を含む、上記項3に記載の水中油型潤滑流体。
(項8)
少なくとも1種のポリマー界面活性剤は、数平均分子量少なくとも約200を有する疎水性ブロックを含む、上記項3に記載の水中油型潤滑流体。
(項9)
少なくとも1種のポリマー界面活性剤は、数平均分子量少なくとも約200を有する親水性ブロックを含む、上記項3に記載の水中油型潤滑流体。
(項10)
前記基油は、天然エステル、合成エステル、ミネラルオイル、もしくはこれらの混合物を含む、上記項3に記載の水中油型潤滑流体。
(項11)
前記極圧潤滑添加剤は、リンベース、硫黄ベース、もしくはこれらの混合物である、上記
項3に記載の水中油型潤滑流体。
(項12)
前記油相のうちの少なくとも約50%は、1μm未満のサイズを有する粒子中に含まれる、上記項3に記載の水中油型潤滑流体。
(項13)
前記油相のうちの少なくとも約50%は、約0.5μm未満のサイズを有する粒子中に含まれる、上記項3に記載の水中油型潤滑流体。
(項14)
鋼鉄を冷間圧延するための方法であって、該方法は、該鋼鉄を、1μm以下の粒径値を有する水中油型エマルジョンで潤滑する工程を包含する、方法。
(項15)
鋼鉄を冷間圧延するための方法であって、該方法は、該鋼鉄を、約0.5μm以下の粒径値を有する水中油型エマルジョンで潤滑する工程を包含する、方法。
(項16)
鋼鉄を冷間圧延するための方法であって、該方法は、該鋼鉄を、水中油型エマルジョンを含む潤滑流体で潤滑する工程を包含し、ここで該エマルジョンは、
(a)以下を含む油相:
約5wt%〜約40wt%の少なくとも1種のポリマー界面活性剤、
約25wt%〜約95wt% 基油、
約0.2wt%〜約10wt% 極圧潤滑添加剤、および
約0.5wt%〜約6wt% 他の機能的添加剤;ならびに
(b)水相、
を含む、方法。
(項17)
前記エマルジョンは、約1μm以下の粒径モーダル値d(50%)を有する油相粒子を含む、上記項16に記載の方法。
(項18)
前記潤滑流体は、前記油相中に約0.5wt%〜約6wt% 機能的添加剤をさらに含む、上記項16に記載の方法。
(項19)
前記潤滑流体は、約0.5wt%〜約15wt%の油相を含む、上記項16に記載の方法。
(項20)
少なくとも1種のポリマー界面活性剤は、平均分子量約1,000〜約100,000を有する、上記項16に記載の方法。
(項21)
少なくとも1種のポリマー界面活性剤は、グラフトブロックポリマー界面活性剤を含む、上記項16に記載の方法。
(項22)
少なくとも1種のポリマー界面活性剤は、数平均分子量少なくとも約200を有する疎水性ブロックを含む、上記項16に記載の方法。
(項23)
少なくとも1種のポリマー界面活性剤は、数平均分子量少なくとも約200を有する親水性ブロックを含む、上記項16に記載の方法。
(項24)
前記基油は、天然エステル、合成エステル、ミネラルオイル、もしくはこれらの混合物を含む、上記項16に記載の方法。
(項25)
前記極圧潤滑添加剤は、リンベース、硫黄ベース、もしくはこれらの混合物である、上記項16に記載の方法。
(項26)
前記油相のうちの少なくとも約50%は、1μm未満のサイズを有する粒子中に含まれる、上記項16に記載の方法。
(項27)
前記油相のうちの少なくとも約50%は、約0.5μm未満のサイズを有する粒子中に含まれる、上記項16に記載の方法。