(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-221954(P2015-221954A)
(43)【公開日】2015年12月10日
(54)【発明の名称】繊維送りローラ、ドラフト装置及び紡績機
(51)【国際特許分類】
D01H 5/80 20060101AFI20151113BHJP
【FI】
D01H5/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-107378(P2014-107378)
(22)【出願日】2014年5月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100180851
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼口 誠
(72)【発明者】
【氏名】宮川 敬史
(72)【発明者】
【氏名】平尾 修
(72)【発明者】
【氏名】高嶌 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】森田 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】垂野 善高
【テーマコード(参考)】
4L056
【Fターム(参考)】
4L056AA19
4L056BC02
4L056BC23
4L056BC25
4L056BC35
4L056FA14
(57)【要約】
【課題】外周面の摩耗を抑制することができる繊維送りローラ、ドラフト装置及び紡績機を提供する。
【解決手段】フロントトップローラ65bは、スライバSを送るためにドラフト装置6に設けられる繊維送りローラであって、40度以上83度以下の硬度を有するゴム組成物によって形成されるローラ本体部92と、ローラ本体部の外周面に形成される改質層94と、を備え、改質層は、ローラ本体部の硬度よりも1度以上15度以下の高い硬度を有するように、ローラ本体部を形成するゴム組成物を改質することにより形成されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束を送るために繊維機械に設けられる繊維送りローラであって、
40度以上83度以下の硬度を有するゴム組成物によって形成されるローラ本体部と、
前記ローラ本体部の外周面に形成される改質層と、
を備え、
前記改質層は、前記ローラ本体部の硬度よりも1度以上15度以下の高い硬度を有するように、前記ローラ本体部を形成する前記ゴム組成物を改質することにより形成されている、繊維送りローラ。
【請求項2】
前記ローラ本体部は、45度以上78度以下の硬度を有している、請求項1に記載の繊維送りローラ。
【請求項3】
前記改質層は、前記ローラ本体部よりも4度以上13度以下の高い硬度を有している、請求項1又は2に記載の繊維送りローラ。
【請求項4】
前記改質層の外周面の静止摩擦係数は0.3以下である、請求項1〜3の何れか一項に記載の繊維送りローラ。
【請求項5】
前記改質層の外周面の静止摩擦係数は0.1以下である、請求項1〜4の何れか一項に記載の繊維送りローラ。
【請求項6】
前記改質層は、軸方向における所定の幅で前記ローラ本体部の周方向に沿って設けられている、請求項1〜5の何れか一項に記載の繊維送りローラ。
【請求項7】
前記ローラ本体部を形成する前記ゴム組成物には、水酸化ニトリルゴム(H−NBR)が含まれる、請求項1〜6の何れか一項に記載の繊維送りローラ。
【請求項8】
前記ローラ本体部を形成する前記ゴム組成物には、メタクリル酸亜鉛が含まれる、請求項1〜7の何れか一項記載の繊維送りローラ。
【請求項9】
前記改質層は、前記ゴム組成物に表面改質剤が塗布されることにより形成される、請求項1〜8の何れか一項に記載の繊維送りローラ。
【請求項10】
前記改質層は、前記表面改質剤により前記ゴム組成物が改質された第1改質層と、前記第1改質層を覆う前記表面改質剤による層である第2改質層と、を有している、請求項9に記載の繊維送りローラ。
【請求項11】
前記ローラ本体部の厚みは、2.0mm以上7.0mm以下である、請求項1〜10の何れか一項に記載の繊維送りローラ。
【請求項12】
前記改質層の厚みは、200μm以下である、請求項1〜11の何れか一項に記載の繊維送りローラ。
【請求項13】
前記繊維送りローラは、繊維束をドラフトする際に用いられるドラフトローラである、請求項1〜12の何れか一項に記載の繊維送りローラ。
【請求項14】
繊維束をドラフトするローラ対を備えており、
前記ローラ対を構成するローラの少なくとも1つが、請求項1〜13の何れか一項に記載の繊維送りローラである、ドラフト装置。
【請求項15】
請求項14に記載のドラフト装置と、
前記ドラフト装置でドラフトされた前記繊維束に撚りを与えて糸を生成する空気紡績装置と、
前記空気紡績装置で生成される前記糸をパッケージに巻き取る巻取装置と、
を備える、紡績機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維送りローラ、ドラフト装置及び紡績機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気紡績装置、リング精紡機及び練条機などの繊維機械は、繊維束(スライバを含む)を下流方向に送るための繊維送りローラを備えている。このような繊維送りローラとして、ドラフト装置に設けられる紡績ローラが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平11−500498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような繊維送りローラは、使用に伴って外周面が摩耗することから、外周面の摩耗を抑制できる構成とすることが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、外周面の摩耗を抑制することができる繊維送りローラ、ドラフト装置及び紡績機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維送りローラは、40度以上83度以下の硬度を有するゴム組成物によって形成されるローラ本体部と、ローラ本体部の外周面に形成される改質層と、を備え、改質層は、ローラ本体部の硬度よりも1度以上15度以下の高い硬度を有するように、ローラ本体部を形成するゴム組成物を改質することにより形成されている。
【0007】
ここでいうローラ本体部の硬度は、JIS K 6253−3:2012に定義されるタイプAデュロメータによる硬さであり、改質部の硬度は、硬度計(MD−1capa:高分子計器株式会社製)を用い、JIS K 6250の6.と同じ温度及び湿度の試験条件において測定した値である。
【0008】
この構成の繊維送りローラでは、ローラ本体部の硬度よりも改質層の硬度を高くした。これにより、繊維送りローラにおける外周面の摩耗を抑制することができる。なお、ローラ本体部は、繊維送りローラの径方向内側部分である。改質層は、繊維送りローラの径方向外側部分であり、繊維束と接触する部分である。
【0009】
ローラ本体部は、45度以上78度以下の硬度を有していてもよい。
【0010】
改質層は、ローラ本体部よりも4度以上13度以下の高い硬度を有していてもよい。
【0011】
改質層の外周面の静止摩擦係数は0.3以下としてもよい。
【0012】
この構成の繊維送りローラによれば、使用に伴って発生する改質層における外周面の傷つきを抑制することができる。なお、ここでいう傷つきとは、繊維束との摩擦による擦り減りにより繊維送りローラの外周面に徐々に形成される凹部ではなく、繊維束との摩擦によって繊維送りローラの外周面から塊単位でゴム組成物が剥落することにより形成される凹部をいう。
【0013】
改質層の外周面の静止摩擦係数は0.1以下としてもよい。
【0014】
この構成の繊維送りローラによれば、使用に伴って発生する改質層における外周面の傷つきをより一層抑制することができる。
【0015】
改質層は、軸方向における所定の幅でローラ本体部の周方向に沿って設けられていてもよい。
【0016】
この構成の繊維送りローラによれば、繊維束が接触する部分、言い換えれば、繊維束を把持させようとする外周面の一部の硬度を相対的に高めることができる。
【0017】
ローラ本体部を形成するゴム組成物には、水酸化ニトリルゴム(H−NBR)が含まれていてもよい。
【0018】
この構成の繊維送りローラによれば、容易に所望の硬度のローラ本体部を形成することができる。
【0019】
ローラ本体部を形成するゴム組成物には、メタクリル酸亜鉛が含まれていてもよい。
【0020】
この構成の繊維送りローラによれば、耐摩耗性に優れたローラ本体部を形成することができる。
【0021】
改質層は、ゴム組成物に表面改質剤が塗布されることにより形成されてもよい。
【0022】
この構成の繊維送りローラによれば、ローラ本体部の外周面のゴム組成部を容易に改質することができる。
【0023】
改質層は、表面改質剤によりゴム組成物が改質された第1改質層と、第1改質層を覆う表面改質剤による層である第2改質層と、を有していてもよい。
【0024】
ローラ本体部の厚みは、2.0mm以上7.0mm以下としてもよい。
【0025】
改質層の厚みは、200μm以下としてもよい。
【0026】
本発明のドラフト装置は、繊維束をドラフトするローラ対を備えており、ローラ対を構成するローラの少なくとも1つが、上記繊維送りローラである。
【0027】
この構成のドラフト装置によれば、ローラ対における繊維束の把持力(挟持力)を維持しつつ、繊維送りローラにおける外周面の摩耗を抑制することができる。ドラフト装置の最下流部に配置されるローラ対を構成する繊維送りローラは、このローラ対よりも上流側のローラ対を構成する繊維送りローラと比べ高速で回転しているので、より一層の耐久性が求められる。したがって、ドラフト装置の最下流部に配置されるローラ対を構成する繊維送りローラとして、上記の構成の繊維送りローラが用いられるのが特に有効である。
【0028】
本発明の紡績機は、上記のドラフト装置と、ドラフト装置でドラフトされた繊維束に撚りを与えて糸を生成する空気紡績装置と、空気紡績装置で生成される糸をパッケージに巻き取る巻取装置と、を備えている。
【0029】
この構成の紡績機によれば、ドラフト装置を構成するローラ対における繊維束の把持力を維持しつつ、ローラ対のうち繊維送りローラにおける外周面の摩耗を抑制することができる。これにより、より品質の高い糸を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、外周面の摩耗を抑制することができる繊維送りローラ、ドラフト装置及び紡績機を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】一実施形態のトップローラを有するドラフト装置を備える紡績機の正面図である。
【
図2】
図1の紡績機の紡績ユニットの側面図である。
【
図3】
図2の紡績ユニットのドラフト装置の平面図である。
【
図4】
図2の紡績ユニットのドラフト装置の側面図である。
【
図5】
図2及び
図3のドラフト装置に配置されるフロントトップローラの軸方向断面図である。
【
図6】変形例1及び変形例2に係るフロントトップローラの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0033】
図1に示されるように、紡績機1は、複数の紡績ユニット2と、糸継台車3と、ブロアボックス4と、原動機ボックス5と、を備えている。複数の紡績ユニット2は、一列に配列されており、各紡績ユニット2は、糸Yを生成してパッケージPに巻き取る。糸継台車3は、糸Yが切断された紡績ユニット2において糸継動作を行う。ブロアボックス4には、紡績ユニット2の各部において吸引流や旋回流などを発生させるためのエアー供給源などが収容されている。原動機ボックス5には、紡績ユニット2の各部に動力を供給するための原動機などが収容されている。なお、以下の説明では、糸Yが走行する経路(すなわち、糸道)において、糸Yが生成される側を上流側といい、糸Yが巻き取られる側を下流側という。
【0034】
図1及び
図2に示されるように、各紡績ユニット2は、上流側から順に、ドラフト装置(繊維機械)6と、空気紡績装置7と、糸監視装置8と、テンションセンサ9と、糸貯留装置50と、ワキシング装置11と、巻取装置12と、を備えている。これらの装置は、上流側が機台高さ方向において上側となるように(すなわち、下流側が機台高さ方向において下側となるように)、機台フレーム13によって直接的に又は間接的に支持されている。
【0035】
ドラフト装置6は、スライバ(繊維束)Sをドラフトする。ドラフト装置6は、上流側(スライバSが送られる経路において、スライバSが供給される側)から順に、バックローラ対61と、サードローラ対62と、エプロンベルト63が各ローラに架けられたミドルローラ対64と、フロントローラ対65と、を有している。
【0036】
空気紡績装置7は、ドラフト装置6でドラフトされた繊維束Fにエアーの旋回流によって撚りを与えて糸Yを生成する。より詳細には(ただし、図示省略)、空気紡績装置7は、紡績室と、繊維案内部と、旋回流発生ノズルと、中空ガイド軸体と、を有している。繊維案内部は、上流側のドラフト装置6から供給された繊維束Fを紡績室内に案内する。旋回流発生ノズルは、繊維束Fが走行する経路の周囲に配置されており、紡績室内に旋回流を発生させる。この旋回流によって、紡績室内に案内された繊維束Fの繊維端が反転されて旋回させられる。中空ガイド軸体は、紡績された糸Yを紡績室内から空気紡績装置7の外部に案内する。
【0037】
糸監視装置8は、空気紡績装置7と糸貯留装置50との間において、走行する糸Yを監視し、糸欠陥を検出した場合に、糸欠陥検出信号をユニットコントローラ10に送信する。なお、糸監視装置8は、糸欠陥として、例えば、糸Yの太さ異常及び/又は糸Yに含有されている異物を検出する。テンションセンサ9は、空気紡績装置7と糸貯留装置50との間において、走行する糸Yのテンションを測定し、テンション測定信号をユニットコントローラ10に送信する。ワキシング装置11は、糸貯留装置50と巻取装置12との間において、走行する糸Yにワックスを付与する。なお、ユニットコントローラ10は、紡績ユニット2ごとに設けられており、紡績ユニット2の動作を制御する。ユニットコントローラ10は、複数の紡績ユニット2ごとに設けられていても良い。
【0038】
糸貯留装置50は、空気紡績装置7と巻取装置12との間において、走行する糸Yを貯留する。糸貯留装置50は、空気紡績装置7から糸Yを安定して引き出す機能、糸継台車3による糸継動作時等に空気紡績装置7から送り出される糸Yを滞留させて糸Yが弛むのを防止する機能、及び巻取装置12における糸Yのテンションを調節して巻取装置12における糸Yのテンションの変動が空気紡績装置7に伝わるのを防止する機能を有している。
【0039】
巻取装置12は、空気紡績装置7で生成された糸Yを巻き取ってパッケージPを形成する。巻取装置12は、クレードルアーム21と、巻取ドラム22と、トラバース装置23と、を有している。クレードルアーム21は、支軸24によって揺動可能に支持されており、回転可能に支持するボビンB又はパッケージP(すなわち、ボビンBに糸Yが巻き付けられたもの)の表面を巻取ドラム22の表面に適切な圧力で接触させる。巻取ドラム22は、紡績ユニット2ごとに設けられた電動モータ(図示省略)によって駆動されて、接触するボビンB又はパッケージPを回転させる。トラバース装置23は、複数の紡績ユニット2で共有されるシャフト25によって駆動されて、回転するボビンB又はパッケージPに対して糸Yを所定幅で綾振りする。
【0040】
糸継台車3は、糸Yが切断された紡績ユニット2まで走行し、当該紡績ユニット2において糸継動作を行う。糸継台車3は、糸継装置26と、第1糸捕捉装置27と、第2糸捕捉装置28と、を有している。第1糸捕捉装置27は、支軸31によって回動可能に支持されており、空気紡績装置7からの糸Yの糸端を吸い込みつつ捕捉して糸継装置26に案内する。第2糸捕捉装置28は、支軸32によって回動可能に支持されており、巻取装置12からの糸Yの糸端を吸い込みつつ捕捉して糸継装置26に案内する。糸継装置26は、例えばスプライサであり、案内された糸端同士の糸継ぎを行う。
【0041】
上述したドラフト装置6について、より詳細に説明する。
図3及び
図4に示されるように、バックローラ対61は、スライバSを走行させる走行経路R1を挟んで互いに対向するバックボトムローラ61a及びバックトップローラ61bを有している。サードローラ対62は、走行経路R1を挟んで互いに対向するサードボトムローラ62a及びサードトップローラ62bを有している。ミドルローラ対64は、走行経路R1を挟んで互いに対向するミドルボトムローラ64a及びミドルトップローラ64bを有している。ミドルボトムローラ64aには、エプロンベルト63aが架けられており、ミドルトップローラ64bには、エプロンベルト63bが架けられている。フロントローラ対65は、走行経路R1を挟んで互いに対向するフロントボトムローラ65a及びフロントトップローラ(繊維送りローラ)65bを有している。複数のローラ対61,62,64,65は、ケンス(図示省略)から供給されて繊維束ガイド77によって案内されたスライバSをドラフトしつつ上流側から下流側に送る。
【0042】
バックボトムローラ61aは、バックローラハウジング66に回転可能に支持されている。サードボトムローラ62aは、サードローラハウジング67に回転可能に支持されている。ミドルボトムローラ64aは、ミドルローラハウジング68に回転可能に支持されている。フロントボトムローラ65aは、フロントローラハウジング69に回転可能に支持されている。各ボトムローラ61a,62a,64a,65aは、原動機ボックス5からの動力によって、下流側ほど速くなるように互いに異なる回転速度で回転させられる。なお、各ボトムローラ61a,62a,64a,65aの少なくとも一部又は全部は、各紡績ユニット2に設けられた駆動モータにより回転させられてもよい。
【0043】
バックトップローラ61b、サードトップローラ62b、ミドルトップローラ64b及びフロントトップローラ65bは、ドラフトクレードル71に回転可能に支持されている。各トップローラ61b,62b,64b,65bは、各ボトムローラ61a,62a,64a,65aに所定圧力で接触させられて従動回転させられる。
【0044】
ドラフトクレードル71は、各トップローラ61b,62b,64b,65bが各ボトムローラ61a,62a,64a,65aに所定圧力で接触する位置と、各トップローラ61b,62b,64b,65bが各ボトムローラ61a,62a,64a,65aから離間する位置とに、支軸72を中心として回動可能である。ドラフトクレードル71の回動は、ドラフトクレードル71に設けられたハンドル(図示省略)を用いて実施される。なお、ドラフトクレードル71は、隣り合う一対の紡績ユニット2のそれぞれが備えるドラフト装置6の各トップローラ61b,62b,64b,65bを回転可能に支持している。つまり、ドラフトクレードル71は、隣り合う一対の紡績ユニット2のそれぞれが備えるドラフト装置6に共有されている。
【0045】
サードローラ対62とミドルローラ対64との間には、例えばスライバガイド又はコンデンサと称される規制部74が配置されている。規制部74には、スライバSが通される貫通孔74aが形成されている。各ローラ61a,61b,62a,62b,64a,64b,65a,65bの回転軸が延在する方向(以下、「回転軸方向」という)におけるスライバSの幅は、回転軸方向における貫通孔74aの幅に規制される。このように、規制部74は、スライバSが走行する経路を走行経路R1上に規制すると共に、回転軸方向におけるスライバSの幅を回転軸方向における貫通孔74aの幅に規制する。規制部74は、支持部75に支持されている。支持部75は、機台高さ方向において走行経路R1の下側に位置しており、ミドルボトムローラ64aを回転可能に支持するミドルローラハウジング68に取り付けられている。これにより、ミドルローラ対64に対する規制部74の位置が維持される。なお、
図1及び
図2においては、規制部74及び支持部75は、省略されている。
【0046】
繊維束ガイド77は、支持部79によって支持されている。
図5に示されるように、筒状に形成されており、スライバSを案内すべき案内経路R2に沿ってスライバSを案内する。
【0047】
次に、各トップローラ61b,62b,64b,65bについて説明する。まずは、ドラフト装置6の最も下流側に配置されているフロントトップローラ65bについて説明する。
【0048】
図5に示すように、フロントトップローラ65bは、ローラ筒体91と、ローラ本体部92と、改質層94と、を備えている。
【0049】
ローラ筒体91は、例えば、アルミニウムなどからなり、円筒状に形成されている。ローラ筒体91が図略のベアリングを介してシャフト80に外挿されることにより、フロントトップローラ65bがシャフト80に対し回転自在に固定される。シャフト80は、鉄又は樹脂により形成されている。
【0050】
ローラ本体部92は、ローラ筒体91の外周面に設けられている。ローラ本体部92は、40度以上83度以下、好ましくは、45度以上78度以下の硬度を有するゴム組成物によって形成されている。ここでいうゴム組成物には、原料ゴム(例えば、水酸化ニトリルゴム)のみからなる場合、及び、他のゴム原料及び/又は添加剤などとの組み合わせからなる場合も含む。
【0051】
ローラ本体部92は、例えば、水酸化ニトリルゴム(H−NBR)にメタクリル酸亜鉛を配合したゴム組成物により形成することができる。水酸化ニトリルゴムにメタクリル酸亜鉛を配合することにより、耐摩耗性に優れたローラ本体部92を形成することができる。また、ローラ本体部92を形成するゴム組成物には、例えば、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)及びアクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)などが適宜配合されていてもよい。
【0052】
ローラ本体部92の硬度は、JIS K 6253−3:2012に定義されるタイプAデュロメータによる硬さをいう。例えば、JIS K 6253−3:2012に定義されるタイプAデュロメータの測定方法に従って、アスカーゴム硬度計A型(高分子計器株式会社製)を用いて測定した硬度とすることができる。
【0053】
ローラ本体部92は、軸方向における中心部近傍に径方向外側に凸となる凸部93が、周方向に沿って形成されている。なお、凸部93は、必ずしも周方向に沿って連続していなくてもよい(円環状でなくてもよい。)。凸部93は、スライバSの走行経路R1を含むように形成されている。言い換えれば、ローラ本体部92のうち、スライバSを把持させようとする部分に形成されている。
【0054】
改質層94は、ローラ本体部92の外周面において、軸方向の一部に形成されている。具体的には、改質層94は、ローラ本体部92における凸部93の外周面に形成されている。改質層94は、ローラ本体部92の硬度よりも1度以上15度以下、好ましくは、4度以上13度以下の高い硬度を有するように、ローラ本体部92を形成するゴム組成物を改質することにより形成されている。また、改質層94の外周面の静止摩擦係数が0.3以下、好ましくは0.1以下となるように形成されている。
【0055】
改質層94の硬度は、硬度計(MD−1 capa:高分子計器株式会社製)のタイプA(押針形状)を用いて測定した値である。具体的には、JIS K 6250の6.と同じ温度及び湿度の試験条件において、ローラ本体部92の外周面に改質層94が形成されたフロントトップローラ65bを準備し、上記硬度計を改質層94における測定点を通る接線に対し垂直となるように押し付けて、改質層94の硬度を測定した値である。なお、硬度計の測定モードは、ノーマルモードに設定した。
【0056】
改質層94の静止摩擦係数は、摩擦計(ポータブル摩擦計Type94I−II:新東科学株式会社製)を用いて測定した値である。具体的には、治具に固定された試験片に摩擦計を載置し、摩擦計のスイッチを押すことにより測定される。
【0057】
改質層94は、ローラ本体部92を形成するゴム組成物に表面改質剤が塗布されることにより形成されている。表面改質剤の例は、イソシアネート系化合物塗料である。改質層94は、ローラ本体部92の外周面に表面改質剤が塗布されることにより、単に表面改質剤の層が形成されているのではない。改質層94は、ゴム組成物により形成されるローラ本体部92の外周面に表面改質剤が塗布されることにより、この表面改質剤がゴム組成物に浸透し、ゴム組成物が改質されることにより形成される層である。したがって、単に塗料などが塗布され、ゴム組成物の表面を覆うコーティング層とは異なる。表面改質剤は、できるだけ均一の厚さで塗布されることが好ましい。これにより、改質層94の硬度及び改質層94の外周面の静止摩擦係数を均一化することができる。
【0058】
なお、改質層94は、ローラ本体部92の外周面に表面改質剤が塗布されてローラ本体部92を形成するゴム組成物が改質されることにより形成された第1改質層と、ゴム組成物の改質に寄与せずに第1改質層の外周面に残った表面改質剤そのものにより形成される第2改質層と、を有する構成であってもよい。
【0059】
ローラ本体部92の軸方向における長さW2は、例えば、30mm以上34mm以下とすることができる。凸部93の軸方向における長さW1は、例えば、12mm以上32mm以下とすることができる。ローラ本体部92の凸部93の外径φ1は、例えば、12mm以上40mm以下、好ましくは25mm以上35mm以下とすることができる。凸部93が形成された部分でのローラ本体部92の厚みt1は、例えば、2.0mm以上7.0mm以下とすることができる。
【0060】
改質層94の厚みt11は、例えば、200μm以下とすることができ、好ましくは、10μm以上50μm以下である。
【0061】
フロントトップローラ65b以外のトップローラ61b,62b,64bは、上述したフロントトップローラ65bと同様の構成であってもよいし、フロントトップローラ65bとは異なる構成であってもよい。トップローラ61b,62b,64bのそれぞれは、例えば、アルミニウムなどからなるローラ筒体と、ローラ筒体の外周面に設けられたゴム組成物によって形成されたローラ本体部(硬度は問わない)とから形成されていてもよい。
【0062】
以上のように構成されたフロントトップローラ65bでは、ローラ本体部92の硬度が40度以上83度以下、ローラ本体部92の外側の改質層94の硬度がローラ本体部92の硬度よりも1度以上15度以下の高い硬度を有するように形成されている。これにより、フロントトップローラ65bとフロントボトムローラ65aとによるスライバSの把持力(挟持力)を維持しつつ、フロントトップローラ65bにおける外周面の摩耗を抑制することができる。
【0063】
上記フロントトップローラ65bは、ローラ本体部92を形成するゴム組成物に、表面改質剤としてのイソシアネート系化合物塗料が塗布されることにより形成されている。これにより、フロントトップローラ65bは、内部の硬度は維持したまま、外周面の硬度が向上されると共に静止摩擦係数が下げられる。この結果、対向して配置されるフロントトップローラ65bとフロントボトムローラ65aによるスライバSの把持力を維持しつつ、フロントトップローラ65bにおける外周面の摩耗を抑制することができる。更に、フロントトップローラ65bにおける外周面の傷つきを抑制できる。
【0064】
従来のUV処理では、極めて薄い表面層しか形成することができず、所望の耐摩耗性が得難かった。上記実施形態のフロントトップローラ65bでは、改質層94は、ゴム組成物に表面改質剤が塗布されることにより形成される。これにより、フロントトップローラ65bでは、外周面の摩耗が抑制されると共に外周面の傷つきが抑制される。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されない。
【0066】
<変形例1>
上記実施形態のフロントトップローラ65bでは、ローラ本体部92における凸部93の外周面に改質層94が設けられている例を挙げて説明した。本発明はこれに限定されない。例えば、
図6(A)に示すように、フロントトップローラ(繊維送りローラ)165bは、凸部193の外周面だけでなく、ローラ本体部192全体の外周面に改質層194が設けられてもよい。
【0067】
<変形例2>
図6(B)に示すように、フロントトップローラ(繊維送りローラ)265bは、ローラ本体部292に凸部が設けられない構成であってもよい。この場合、フロントトップローラ265bは、ローラ本体部292の外周面全体に改質層294が設けられてもよい。また、フロントトップローラ265bは、ローラ本体部292の外周面全体ではなく、軸方向における中心部近傍(スライバSの走行経路R1を含む領域)に周方向に沿って改質層294が設けられてもよい。
【0068】
<変形例3>
上記実施形態のフロントトップローラ65bでは、表面改質剤としてイソシアネート系化合物塗料を用いる例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。ゴム組成物を改質する表面改質剤の例には、エポキシ系又はウレア系の表面改質剤が含まれる。表面改質剤は、各改質剤単体から構成されていてもよいし、複数の改質剤が配合されていてもよい。また、フロントトップローラ65bは、複数層にわたって改質が行われていてもよい。
<その他の変形例>
【0069】
空気紡績装置は、繊維束の撚りが空気紡績装置の上流側に伝わるのを防止するために、繊維案内部に保持されて紡績室内に突出するように配置されたニードルを更に備えていてもよい。空気紡績装置は、そのようなニードルに代えて、繊維案内部の下流側端部によって、繊維束の撚りが空気紡績装置の上流側に伝わるのを防止する構成であってもよい。更に、空気紡績装置は、互いに反対方向に撚りを掛ける一対のエアージェットノズルを備えていてもよい。
【0070】
紡績機1では、糸貯留装置50が空気紡績装置7から糸Yを引き出す機能を有していたが、本発明の紡績機では、デリベリローラとニップローラとで糸が引き出されてもよい。このニップローラとして、上記実施形態又は変形例に係るフロントトップローラ65b,165b,265bと同じ構成の繊維送りローラを用いてもよい。
【0071】
上記説明では、本発明の繊維送りローラを、ドラフト装置6に用いられるフロントトップローラ65b,165b,265b、又はニップローラに適用した例を挙げて説明した。本発明はこれに限定されず、リング精紡機又は練条機などの繊維機械に用いられるローラに適用してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…紡績機、2…紡績ユニット、3…糸継台車、4…ブロアボックス、5…原動機ボックス、6…ドラフト装置(繊維機械)、7…空気紡績装置、12…巻取装置、50…糸貯留装置、65…フロントローラ対、65b,165b,265b…フロントトップローラ(繊維送りローラ)、80…シャフト、91…ローラ筒体、92,192,292…ローラ本体部、93,193…凸部、94,194,294…改質層。