【実施例】
【0037】
[歯付ベルトの心線の耐水性評価試験]
まず、本実施例に係る歯付ベルトの心線1〜3及び比較例に係る歯付ベルトの心線4〜6について、耐水性評価試験を行った。
【0038】
心線1〜6は、それぞれ、ガラス繊維に下撚り、上撚りを加えたものを用いた。心線1は、下撚り数を16(T/10cm)とし、上撚り数を8(T/10cm)とし、心線2,4〜6は、下撚り数を12(T/10cm)とし、上撚り数を8(T/10cm)とし、心線3は、下撚り数を8(T/10cm)とし、上撚り数を8(T/10cm)とした。ここで、ガラス繊維は、Eガラスを使用した。ガラス繊維は、原糸がECG−150であり、ストランドの構成が3/6であり、心線径が0.9mmである。心線1〜3,6はラング撚りで構成し、心線4,5は諸撚りで構成した。
【0039】
そして、心線1〜6について、それぞれ、RFL処理液にて接着処理(RFL処理)した。接着処理では、下撚り、上撚りを加えたガラス繊維を表1に示すRFL処理液に浸漬後、200〜280℃で熱処理した。
【0040】
【表1】
【0041】
RFL処理後、心線1〜3,5について、それぞれ、オーバーコート処理をした。オーバーコート処理では、RFL処理後のガラス繊維を、表2に示す処理液に浸漬後、130〜180℃で熱処理した。
【0042】
【表2】
【0043】
以上のように作製した心線1〜6の構成を以下の表3に示す。尚、表3に示すように、心線6のみにキンクが発生している。これは、ラング撚りの心線は、元来、キンクが発生しやすいという問題があり、オーバーコート処理を行っていないラング撚りの心線6にキンクが発生しているが、ラング撚りの心線1〜3は、オーバーコート処理することでキンクの発生を抑えることができていることを示している。
【0044】
【表3】
【0045】
次に、上記心線1〜6をそれぞれ使用して、歯付ベルトを作製した。歯付ベルトの作製に使用するゴム組成物は、表4の通りである。
【0046】
【表4】
【0047】
また、歯布で使用した繊維織物の構成は次の通りである。組成は、緯糸が66ナイロン、スパンデックス、経糸が66ナイロンである。糸構成は、緯糸が155dtex、122dtexであり、経糸が155dtexである。密度は、緯糸が95±5本/3cmであり、経糸が116本/3cmである。また、織り構成は、綾織りである。そして、上記構成の歯布を、表1に示したRFL処理液にて、RFL処理を行った。その後、表4に示したゴム配合物をトルエンに溶解したゴム糊にて接着処理し、更に、表4に示した配合のゴム組成物シートと積層してコート処理を行った。
【0048】
次に、ベルト成形用の金型に上記処理をした歯布を歯布面がベルト表面となるよう巻きつけた後、表3に示す心線1〜6を、それぞれ、歯布が巻きつけられた金型の歯布の上から巻きつけを行った。更に、表4に示すクロロプレンゴム配合物からなるゴムシートを巻きつけた。その後、加硫缶に投入して通常の圧力方式により歯形を形成させた後、161℃にて25分間加硫して、ベルト背面を一定厚さ研磨し一定幅に切断して歯付ベルトを得た。作製した歯付ベルトは、幅8mm、周長1000mm、歯形S5M(STPD歯形、歯ピッチ5.0mm)、歯数200歯である。
【0049】
そして、心線1〜6について、それぞれ作製した歯付ベルトの注水走行試験を行い、心線の耐水性を評価した。注水走行試験では、16歯の駆動プーリ(Dr)と16歯の従動プーリ(Dn)に歯付ベルトを架け渡し、従動プーリが水の入った容器に浸るようにして、表5に示す走行条件の元、連続的な耐久試験(走行時間40時間)を、3回繰り返し行った。
【0050】
【表5】
【0051】
注水走行試験前の引張強さと注水走行試験後の引張強さとを測定し、走行試験前後の引張強さの保持率に基づいて、心線1〜6を使用して作製した歯付ベルトの耐水性を評価した。その結果を、
図2及び
図3に示す。
図2は、注水走行試験前後の引張強さについて測定した結果を示すグラフである。
図3は、注水走行試験前後の引張強さに基づいて算出された引張強さ保持率を示すグラフである。
図2及び
図3において、originalは注水走行試験前の測定結果を示す。また、n=1,2,3は、それぞれ、注水走行試験を1回目、2回目、3回目行った後の測定結果を示す。また、表6は、
図2及び
図3の結果をまとめたものであり、注水走行試験後の測定結果は、n=1,2,3の測定結果の平均値を示している。表6に示す耐水性の評価では、引張強さ保持率80%以上のものを○、40%以上80%未満のものを△、40%未満のものを×とした。
【0052】
【表6】
【0053】
図2及び
図3、表6から、ラング撚りで且つ接着処理層にオーバーコート処理を行いオーバーコート処理層を形成した心線(心線1〜3)が、引張強さ保持力が高く、耐水性に優れていたことがわかる。より詳細には、ラング撚りの心線(心線1〜3、6)を使用した歯付ベルトは、諸撚りの心線(心線4、5)よりも耐水性が向上した。これは、ラング撚りの心線は水が浸水し、膨潤したとしても耐摩耗性に優れているため、構造的に表面がこすれにくく接着成分が離脱しにくいからであると考えられる。その結果、ラング撚りの心線は諸撚りの心線に比べると、心線の保護が比較的残っており、耐水性が高くなる。更に、ラング撚りの心線をオーバーコート処理することで(心線1〜3)、オーバーコート処理していない心線(心線6)に比べて、更に耐水性が向上した。これは、オーバーコート処理することで、心線に保護層(オーバーコート処理層)が形成され、水分との接触を防ぐためであると考えられる。
【0054】
[ゴム組成物の物性評価試験]
次に、本実施例に係る歯付ベルトの歯部及び背部を構成するゴム組成物について、物性評価試験を行った。
【0055】
ゴム組成物の配合は、表7の通り、配合1〜7の7種類である。ここで、配合2〜7のゴム組成物には、可塑剤を添加した。配合1のゴム組成物には、可塑剤を添加していない。尚、配合2〜6のゴム組成物には、アジピン酸系可塑剤を添加した。また、配合7のゴム組成物には、エーテルエステル系可塑剤を添加した。表7に示すゴム組成物の配合では、ゴム成分100質量部に対する可塑剤等の質量部を示している。
【0056】
配合1〜7のゴム組成物は、ゴム練り後、161℃にて25分間、加硫して、ゴム組成物の物性評価試験(後述するゴム硬度測定試験、低温衝撃脆化試験、ゲーマンねじり試験の各試験)の試験片を作製した。そして、配合1〜7のゴム組成物について、それぞれ、ゴム組成物の物性評価試験として、ゴム硬度測定試験、低温衝撃脆化試験、ゲーマンねじり試験を行った。
【0057】
ここで、ゴム硬度測定試験は、JIS K 6253(2012)に準拠して行い、JIS A型硬度計により測定した。また、低温衝撃脆化試験は、JIS K 6261(2006)に準拠して行い、低温衝撃脆化温度を測定した。尚、低温衝撃脆化温度は、値が小さいほど、より低温までしなやかさを維持でき、耐寒性(低温柔軟性)が向上することを示すものである。低温衝撃脆化試験のサンプル(試験片)は、40.0mm×6.0mm×2.0mmの短冊状とした。また、ゲーマンねじり試験では、JIS K 6261(2006)に準拠して行い、ゲーマンねじり試験のT10である、ねじり剛性が23℃での値の10倍になる温度を測定した。ゲーマンねじり試験T10の温度は、値が小さいほど、より低温までしなやかさを維持する ことができ、耐寒性(低温柔軟性)が向上することを示すものである。
【0058】
配合1〜7のゴム組成物のそれぞれについて行った、ゴム硬度測定試験、低温衝撃脆化試験、ゲーマンねじり試験の結果を表7に示す。
【0059】
【表7】
【0060】
表7の結果から、以下のことがわかった。配合1〜6のゴム組成物のゴム硬度の結果を参照すると、可塑剤の添加量に応じて、ゴム硬度が低下した。配合4と配合7のゴム組成物のゴム硬度の結果を参照すると、可塑剤の種類によるゴム硬度の違いはほとんど見られなかった。配合1〜6のゴム組成物の低温衝撃脆化温度及びゲーマンねじり試験温度の結果を参照すると、アジピン酸系可塑剤の添加量が多いほど、低温衝撃脆化温度、ゲーマンねじり試験温度の低下が見られた。これにより、アジピン酸系可塑剤を添加することで、ゴム組成物の耐寒性が向上していることがわかる。また、配合1、4、7のゴム組成物の低温衝撃脆化温度及びゲーマンねじり試験温度の結果を参照すると、エーテルエステル系可塑剤では、アジピン酸系可塑剤ほどの効果は得られなかったが、エーテルエステル系可塑剤を添加することで耐寒性の向上が見られた。以上により、ゴム組成物に可塑剤を添加することで、極低温でも硬化せず、常温と大差のない程度のしなやかさを有する構成となることがわかる。
【0061】
[歯付ベルトの物性評価試験]
次に、本実施例に係る歯付ベルトについて、物性評価試験を行った。
【0062】
表7に示す配合1〜7のゴム組成物と、表6に示す心線2及び心線5を使用して実施例1〜4及び比較例1〜4の8種類の歯付ベルトを作製した。尚、歯付ベルトに使用した歯布は、上述した歯付ベルトの心線の耐水性試験と同じである。また、ゴム組成物の加硫条件については、上述した本実施例に係る歯付ベルトのゴム組成物の物性評価試験と同じ161℃×25分間である。更に、歯付ベルトの成形方法は、ベルト幅が10mmであること以外は、上述した本実施例に係る歯付ベルトの心線の耐水性試験と同じである。
【0063】
そして、実施例1〜4及び比較例1〜4の8種類の歯付ベルトの物性評価試験として、後述する歯せん断力測定試験、ゴム硬度測定試験、耐寒耐久走行試験、及び起動トルク測定試験を行った。
【0064】
ここで、歯付ベルトの歯せん断力測定試験は、1つの歯を一定圧力で押え付けた状態で、オートグラフによって50±10mm/minの速度で引っ張り、引張値の最大値を歯せん断力とした。実施例1〜4及び比較例1〜4の歯付ベルトのそれぞれについて行った、歯せん断力測定試験の結果を表10に示す。表10では、歯せん断力は1200N以上の歯付ベルトを◎、800N以上1200N未満の歯付ベルトを○、800N未満の歯付ベルトを×として評価した。
【0065】
歯付ベルトのゴム硬度測定試験は、JIS K 6253(2012)に準拠したタイプAデュロメータを用いて、ゴム硬度は、歯付ベルトを雰囲気温度(25℃、−30℃)で90分間放置後、歯付ベルトの背面ゴム硬度を測定した。実施例1〜4及び比較例1〜4の歯付ベルトのそれぞれについて行った、ゴム硬度測定試験の結果を表10に示す。表10では、25℃と−30℃のゴム硬度の差が4°以下のベルトを○、4°より大きいベルトを×として評価した。
【0066】
また、歯付ベルトのゴム硬度測定試験において、25℃で測定したゴム硬度が、70〜85°であるかどうかにより、常温時において、使用可能な歯付ベルトのゴム硬度を確保できているか評価した。ここで、ゴム硬度が70°未満であると、歯付ベルトが柔らかすぎるため、巻き掛けるプーリ等に粘着してしまうという問題が生じる。一方、ゴム硬度が80°を超えると、歯付ベルトが硬すぎるため、プーリ等に巻き掛ける際の屈曲性に問題が生じる。
【0067】
歯付ベルトの耐寒耐久走行試験は、16歯の駆動プーリ(Dr)と16歯の従動プーリ(Dn)に歯付ベルトをかけた状態で、−30℃の雰囲気下で15時間放置後、表8に示す耐寒耐久走行条件にて、ベルト背面にクラックが発生するまでの走行時間を測定した。実施例1〜4及び比較例1〜4の歯付ベルトのそれぞれについて行った、耐寒耐久走行試験の結果を表10に示す。表10では、クラックが発生するまでの時間が50時間以上のベルトを◎、30時間以上50時間未満のベルトを○、30時間未満のベルトを×として評価した。
【0068】
【表8】
【0069】
歯付ベルトの起動トルク測定試験は、18歯の駆動プーリ(Dr)と従動プーリ(Dn)に歯付ベルトをかけ、雰囲気温度(25℃、−30℃)で90分間放置後、表9に示す条件で、トルクゲージにて手動でプーリを回転させ、この時の起動トルクを測定した。尚、耐寒性に優れた歯付ベルトであれば、操作力(起動トルク)を低く抑えることができる。実施例1〜4及び比較例1〜4の歯付ベルトのそれぞれについて行った、起動トルク測定試験の結果を表10及び
図4に示す。表10では、−30℃での起動トルクが25cN・m未満のベルトを◎、25cN・m以上30cN・m未満のベルトを○、30cN・m以上のベルトを×として評価した。
【0070】
【表9】
【0071】
歯付ベルトのベルト評価は、上述の歯せん断力測定試験の評価が◎または〇であり、且つ、ゴム硬度測定試験の評価が〇であり、且つ、耐寒耐久走行試験の評価が◎または〇であり、且つ、起動トルク測定試験の評価が◎または〇である歯付ベルトを、耐寒性に優れた歯付ベルトとして、〇と評価した。一方、上述の歯せん断力測定試験、ゴム硬度測定試験、耐寒耐久走行試験、起動トルク測定試験のいずれかの評価が×である歯付ベルトを、耐寒性を備えない歯付ベルトとして×と評価した。表10に示す通り、評価結果は、実施例1〜4の歯付ベルトが耐寒性に優れた歯付ベルトとなり、比較例1〜4の歯付ベルトが耐寒性を備えない歯付ベルトとなった。
【0072】
【表10】
【0073】
表10及び
図4の結果から、以下のことがわかった。
歯せん断力測定試験では、可塑剤の添加量の増加に伴い、歯せん断力が低下したことがわかる。具体的には、ゴム組成物の配合が表7に示す配合1〜6と順に可塑剤の添加量が増加する比較例1、比較例2、実施例2、実施例1、実施例3、比較例3の順に、歯せん断力が低下している。ゴム組成物の配合が配合6であり、最も可塑剤の添加量が多かった比較例3の歯付ベルトは、歯せん断力が小さく、実用的なレベルには達していなかった。尚、ゴム組成物の配合が配合4である実施例1の歯付ベルトとゴム組成物の配合が配合7である実施例4の歯付ベルトとを比較しても、可塑剤の種類による違いはほとんど見られなかった。心線が表6に示す心線2を用いた実施例1の歯付ベルトと心線が表6に示す心線5を用いた比較例4の歯付ベルトを比較しても、心線の種類による違いはほとんど見られなかった。
【0074】
ゴム硬度測定試験では、ゴム組成物の配合が表7に示す配合1,2である比較例1,2の歯付ベルトと比較して、配合3〜7の実施例1〜4及び比較例3,4の歯付ベルトが、25℃と−30℃のゴム硬度の差の評価が〇であり、可塑剤の添加により−30℃でのゴム硬度の上昇を抑えることができたことがわかる。即ち、可塑剤をゴム成分100質量部に対して5質量部以上添加した配合3〜7の実施例1〜4及び比較例3,4の歯付ベルトは、25℃と−30℃で測定したゴム硬度の値の差が小さく、4°以下であった。尚、ゴム組成物の配合が配合4である実施例1の歯付ベルトとゴム組成物の配合が配合7である実施例4の歯付ベルトとを比較しても、可塑剤の種類による違いはほとんど見られなかった。心線が表6に示す心線2を用いた実施例1の歯付ベルトと心線が表6に示す心線5を用いた比較例4の歯付ベルトを比較しても、心線の種類による違いはほとんど見られなかった。
また、可塑剤の添加量が最も多い比較例3の歯付ベルトは、25℃のゴム硬度が、70°未満であり、常温時において、使用可能な歯付ベルトのゴム硬度を確保できていないことが分かる。実施例1〜4及び比較例1,2,4の歯付ベルトは、25℃のゴム硬度が、70〜85°の範囲に含まれ、可塑剤を添加しても、常温での使用可能な歯付ベルトのゴム硬度を確保できていることが確認された。
【0075】
耐寒耐久走行試験では、心線2を使用し、アジピン酸系可塑剤をゴム成分100質量部に対して10質量部以上添加した実施例1、3及び比較例3の歯付ベルトは、60時間完走しても、ベルト背面にクラックが発生しなかった。ここで、アジピン酸系可塑剤をゴム成分100質量部に対して5質量部添加した実施例2の歯付ベルト及びエーテルエステル系可塑剤をゴム成分100質量部に対して10質量部添加した実施例4の歯付ベルトは、それぞれ36時間、34時間でベルト背面にクラックが発生したが、30時間以上走行しているので、実用的には許容な範囲である。即ち、エーテルエステル系可塑剤をゴム組成物に配合した実施例4の歯付ベルトでは、アジピン酸系可塑剤をゴム組成物に配合した実施例1〜3及び比較例3の歯付ベルトほどの効果は得られなかったが、可塑剤を添加することで耐寒耐久走行時間が延長したことがわかる。また、可塑剤を添加していない比較例1の歯付ベルトと、アジピン酸系可塑剤をゴム成分100質量部に対して2質量部添加した比較例2の歯付ベルトは、それぞれ3.5時間、20時間でベルト背面にクラックが発生した。比較例4の歯付ベルトは、アジピン酸系可塑剤をゴム成分100質量部に対して10質量部添加したが、心線に諸撚り心線を使用していたため、クラックが発生したと思われる。これは、諸撚りの心線はラング撚りの心線に比べ、耐屈曲疲労性が劣っているからであると考えられる。
【0076】
起動トルク測定試験では、25℃の試験環境下では、実施例1〜4の歯付ベルト、及び、比較例1〜4の歯付ベルトともに大きな違いは見られなかった。一方、−30℃の試験環境下では、可塑剤の添加量に応じて、起動トルクが低下した。具体的には、ゴム組成物の配合が表7に示す配合1〜6と順に可塑剤の添加量が増加する比較例1、比較例2、実施例2、実施例1、実施例3、比較例3の順に、起動トルクが低下している。可塑剤を添加していない比較例1の歯付ベルトと、アジピン酸系可塑剤をゴム成分100質量部に対して2質量部添加した比較例2の歯付ベルトは、起動トルクが大きく、実用的なレベルには達していなかった。エーテルエステル系可塑剤をゴム組成物に配合した実施例4の歯付ベルトでは、アジピン酸系可塑剤ゴム組成物に配合した実施例1〜3及び比較例3の歯付ベルトほどの効果は得られなかったが、可塑剤を添加することで−30℃での起動トルクを30cN・m未満に低下させることができた。
【0077】
以上の結果をまとめると、背部を構成するゴム組成物に可塑剤を添加することにより極低温でも硬化せず、常温時と大差のない程度のしなやかさを有する歯付ベルトを成形することができることがわかった。また、可塑剤を、ゴム成分100質量部に対して5質量部未満の量を添加しても、極低温時に常温時と大差の無い程度のしなやかさをゴム組成物に付与することができないことがわかった。一方、可塑剤を、ゴム成分100質量部に対して20質量部を超える量を添加すると、歯付ベルトの歯せん断力が低く、実用的なレベルには達しないことがわかかった。また、エーテルエステル系可塑剤ではアジピン酸系可塑剤ほどの効果は得られなかったが、可塑剤を添加することで耐寒性(低温柔軟性)が向上することがわかった。アジピン酸系可塑剤を添加しても、諸撚り心線を使用すると耐寒耐久走行試験で早期にクラックが発生することがわかった。
【0078】
[考察]
上述の試験より、以下のことが明らかになった。
【0079】
表6の結果から、水分との接触を妨げ、耐水性を向上させるために、ガラス心線を以下の構成にすると良いことが明らかになった。
ガラス心線をラング撚りとする。即ち、ラング撚り心線は水が浸入し、膨潤したとしても耐摩耗性に優れているため、構造的に表面がこすれにくく接着成分が離脱しにくい。そのため、諸撚り心線に比べると、心線の保護が比較的残っており、耐水性が向上する。表6に示す注水走行試験の心線4及び心線6の結果、心線を諸撚りからラング撚りとすることで(オーバーコート処理なし)、引張強さ保持率が約23%向上していることからも、ラング撚りのガラス心線の優れた耐水性が確認された。
更に、心線の接着処理層に更にオーバーコート処理し、保護層であるオーバーコート処理層を作製し、水分との接触を防ぐ。表6に示す注水走行試験の心線2及び心線4の結果、心線を諸撚りからラング撚りとし、更にオーバーコート処理を行うことで引張強さ保持率が約61%向上していることからも、オーバーコート処理による優れた耐水性が確認された。
【0080】
表10の結果から、極低温状態で放置しても硬化せず、常温時と大差の無い程度のしなやかさを有し、小さいトルクで起動できるために、以下の構成にすると良いことが明らかになった。
心線はラング撚りとすることで、常温だけでなく、−20〜−30℃の極低温でも耐屈曲疲労性は維持できる。また、歯付ベルトの背部を構成するゴム組成物を、極低温でも硬化しない、しなやかな配合とするために、ゴム組成物に可塑剤を添加する。ここで、可塑剤の添加量は、ゴム成分100質量部に対して5〜20質量部とする。また、可塑剤は、アジピン酸系可塑剤が好ましく、その他、エーテルエステル系可塑剤、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤等を用いても良い。
表10に示す歯せん断力測定試験の結果、上記構成の実施例1〜4の歯付ベルトは、歯付ベルトの1つの歯を一定圧力で押え付けた状態で、オートグラフによって50±10mm/minの速度で引っ張り、引張値の最大値である歯せん断力が、800〜1500Nであり、優れた歯の強度や耐歯欠け性が確認された。また、表10に示すゴム硬度測定試験の結果、上記構成の実施例1〜4の歯付ベルトは、JIS K 6253(2012)に準拠したタイプAデュロメータを用いて、−30℃の雰囲気下で90分間放置して測定した歯付ベルトの背部のゴムのゴム硬度が、25℃の雰囲気下で90分間放置して測定した歯付ベルトの背面ゴムのゴム硬度に対して、+0〜+4°しか増大せず、優れた耐寒性が確認された。また、表10に示すゴム硬度測定試験の結果、上記構成の実施例1〜4の歯付ベルトは、JIS K 6253(2012)に準拠したタイプAデュロメータを用いて、25℃の雰囲気下で90分間放置して測定した歯付ベルトの背面ゴムのゴム硬度が、70〜85°の範囲に含まれ、常温での使用可能な歯付ベルトのゴム硬度を確保できていることが確認された。また、表10に示す耐寒耐久走行試験の結果、上記構成の実施例1〜4の歯付ベルトは、2軸のレイアウトのプーリに巻きかけた状態で−30℃の雰囲気下に15時間放置した歯付ベルトを、クラックが発生するまでの走行させた走行時間が30時間以上であり、優れた耐寒性が確認された。更に、表10に示す起動トルク測定試験の結果、上記構成の実施例1〜4の歯付ベルトは、歯付ベルトを2軸のレイアウトのプーリに巻きかけた状態で、−30℃の雰囲気下に90分間放置した歯付ベルトに対して、プーリを180°回転させて起動させるのに必要な起動トルクが、30cN・m未満であり、優れた耐寒性が確認された。
【0081】
以上より、ラング撚りのガラス心線に対し、接着処理を行って、接着処理層を形成した後、更にオーバーコート処理を行って、オーバーコート処理層を形成し、また、背部を構成するゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して5〜20質量部の可塑剤が添加して作製した歯付ベルトが、耐屈曲疲労性を確保したまま、耐水性及び耐寒性に優れていることが明らかとなった。
【0082】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態及び実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態及び実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。