【解決手段】タッチセンサ装置は、指示体との間に静電容量が形成されるタッチパネルと、静電容量の大きさに応じた信号の出力値を算出する信号算出機構と、を備える。指示体をタッチパネルに接近させて指示体とタッチパネルとが接触したと判定された後、指示体とタッチパネルとの距離を単調に増加させた場合に、指示体とタッチパネルが離脱したと判定されたときの指示体とタッチパネル間の第1距離と、指示体をタッチパネルに接近させて指示体とタッチパネルとが接触したと判定された後、指示体とタッチパネルとの距離を増加と減少を繰り返しながら次第に長くした場合に、指示体とタッチパネルが離脱したと判定されたときの指示体とタッチパネル間の第2距離と、を比較した場合に、第1距離は第2距離よりも短い。
【発明を実施するための形態】
【0037】
上記各視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0038】
上記第1視点の好ましい形態によれば、閾値算出機構は、信号の出力値の増加が検出された場合に、増加したと判断した当該信号の出力値よりも小さくなるように第1閾値を更新する。
【0039】
上記第1視点の好ましい形態によれば、タッチセンサ装置は、0.02秒〜0.2秒の第1単位時間において信号の出力値が増加したか否かを判断する信号比較機構をさらに備える。
【0040】
上記第1視点の好ましい形態によれば、接触判定機構は、指示体とタッチパネルとが接触したか否かの判定には、定数である第2閾値を使用する。
【0041】
上記第1視点の好ましい形態によれば、タッチセンサ装置は、第2単位時間当たりの信号の変化の大きさである第1差分値を算出する差分算出機構をさらに備える。接触判定機構は、指示体とタッチパネルが離脱したか否かの判定において、第1差分値の絶対値が第3閾値よりも大きい場合に離脱したと判定する。
【0042】
上記第1視点の好ましい形態によれば、接触判定機構は、指示体とタッチパネルが離脱したか否かの判定において、信号の出力値と閾値との比較は、第1差分値の絶対値が第3閾値以下である場合に実施する。
【0043】
上記第1視点の好ましい形態によれば、タッチセンサ装置は、第2単位時間当たりの信号の変化の大きさである第1差分値を算出する差分算出機構をさらに備える。接触判定機構は、指示体とタッチパネルとが接触したか否かの判定において、第1差分値の絶対値が第3閾値よりも大きい場合に接触したと判定する。
【0044】
上記第1視点の好ましい形態によれば、接触判定機構は、指示体とタッチパネルとが接触したか否かの判定において、信号の出力値と閾値との比較は、第1差分値の絶対値が第3閾値以下である場合に実施する。
【0045】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第2単位時間は、指示体がタッチパネルに接触した際の信号の変化時間、又は指示体がタッチパネルから離脱した際の信号の変化時間である。
【0046】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第2単位時間は、0.008秒〜0.1秒である。
【0047】
上記第1視点の好ましい形態によれば、タッチセンサ装置は、指示体による静電容量が影響していない状態において、タッチパネルに形成された静電容量の大きさに応じたベースラインを算出する基準算出機構と、をさらに備える。信号算出機構は、指示体によって形成された静電容量とベースラインから信号の出力値を算出する。
【0048】
上記第1視点の好ましい形態によれば、タッチセンサ装置は、信号の変化の大きさを判定する変化判定機構をさらに備える。差分算出機構は、第3単位時間において、信号の変化である第2差分値を算出する。変化判定機構は、第2差分値と第4閾値との比較により指示体の接近に伴う信号の変化か否かを判定する。
【0049】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第2単位時間は、第2差分値が第4閾値以上となる時点から、第2差分値が第4閾値以下となる時点までである。
【0050】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第2単位時間の上限値を32ミリ秒〜80ミリ秒の間に設定する。
【0051】
上記第1視点の好ましい形態によれば、第4閾値は第3閾値を第2単位時間の上限値で除算した値とする。
【0052】
上記第1視点の好ましい形態によれば、タッチセンサ装置は、指示体とタッチパネルとの接触する位置座標を算出する位置算出機構をさらに備える。信号算出機構は、タッチパネルの各チャンネルの信号を基に、信号の出力値を算出する。位置算出機構は、各チャンネルの信号から、指示体以外の要素の接近に伴う信号成分を減算した値を基に位置座標を算出する。
【0053】
上記第1視点の好ましい形態によれば、位置算出機構は、第4閾値以下の第2差分値と第2単位時間を基に外挿入して、指示体以外の要素の接近に伴う信号成分を算出する。
【0054】
上記第3視点の好ましい形態によれば、電子機器は、指示体との間で静電容量を形成する導電層も兼ねる対向電極と、配線と、対向電極と配線との間に介在する液晶と、配線の少なくとも一部を浮遊させるスイッチ部と、を備える。
【0055】
上記第3視点の好ましい形態によれば、電子機器は、指示体との間で静電容量を形成する導電層も兼ねる対向電極と、配線と、対向電極と配線との間に介在する液晶と、導電層に印加する交流電圧を配線の少なくとも一部にも同時に印加するスイッチ部と、を備える。
【0056】
上記第3視点の好ましい形態によれば、電子機器は、対向電極と、配線と、対向電極と配線との間に介在する液晶と、指示体との間で静電容量を形成する導電層と、対向電極と導電層との間に設けられる絶縁性基板と、導電層面に印加する交流電圧を対向電極にも同時に印加するスイッチ部と、を備える。
【0057】
本発明の第4視点によれば、指示体とタッチパネル間に形成される静電容量の大きさに応じた信号の出力値を算出する工程と、信号の出力値が第2閾値より大きい場合に、指示体とタッチパネルとが接触していると判定する工程と、信号の出力値が第1閾値以下である場合に、指示体とタッチパネルが離脱していると判定する工程と、指示体とタッチパネルとの接触を判定した後から離脱を判定するまでの間において、第1単位時間に信号の出力値が増加したかを検出する工程と、第1単位時間に信号の出力値が増加した場合に、第1閾値を更新する工程と、を含むタッチセンサ装置の制御方法が提供される。
【0058】
上記第4視点の好ましい形態によれば、第1閾値を更新する工程において、第1閾値は、増加したと判断された当該信号の出力値よりも小さい値に設定される。
【0059】
上記第4視点の好ましい形態によれば、第1単位時間は0.02秒〜0.2秒である。
【0060】
上記第4視点の好ましい形態によれば、第2閾値は定数である。
【0061】
上記第4視点の好ましい形態によれば、タッチセンサ装置の制御方法は、第2単位時間当たりの信号の変化の大きさである第1差分値を算出する工程と、をさらに含む。指示体とタッチパネルとの接触を判定する工程において、第1差分値の絶対値が第3閾値よりも大きい場合に指示体とタッチパネルとが接触していると判定する。指示体とタッチパネルの離脱を判定する工程において、第1差分値の絶対値が第3閾値よりも小さい場合に指示体とタッチパネルが離脱していると判定する。
【0062】
上記第4視点の好ましい形態によれば、指示体とタッチパネルとの接触を判定する工程において、第1差分値の絶対値が第3閾値以下である場合に、第2閾値と信号の出力値とを比較する。指示体とタッチパネルの離脱を判定する工程において、第1差分値の絶対値が第3閾値以上である場合に、第1閾値と信号の出力値とを比較する。
【0063】
上記第4視点の好ましい形態によれば、第2単位時間は、指示体がタッチパネルに接触した際の信号の変化時間、又は指示体がタッチパネルから離脱した際の信号の変化時間である。
【0064】
上記第4視点の好ましい形態によれば、第2単位時間は、0.008秒〜0.1秒である。
【0065】
本発明の第5視点によれば、上記第4視点に係るタッチセンサ装置の制御方法をタッチセンサ装置に実行させるためのプログラムが提供される。
【0066】
ここで、タッチパネルとは、指示体との接触を検知する機能を有するものであればよい。タッチパネルには、例えば、指示体との接触の有無のみを検知するタッチスイッチや指示体との接触の有無のみならずドラッグ操作も検知するタッチパネルが含まれる。
【0067】
本発明の第1実施形態に係るタッチセンサ装置について説明する。
図1に、本発明の第1実施形態に係るタッチセンサ装置の概略ブロック図を示す。タッチセンサ装置100は、ユーザが指先等の指示体で指示入力するタッチセンサとしてのタッチパネル101と、タッチパネル101の出力信号を取得する信号取得機構102と、を備える。また、タッチセンサ装置100は、信号取得機構102からの出力を基に、信号の出力値を算出するためのベースラインを算出する基準算出機構103と、基準算出機構103によって得られたベースラインを記憶する基準記憶機構104と、をさらに備える。さらに、タッチセンサ装置100は、信号取得機構102によって得られた出力及び基準記憶機構104に記憶されたベースラインを基に、タッチオン・オフを判定するための信号の出力値を算出する信号算出機構105と、タッチオン・オフを判定するための閾値を記憶する閾値記憶機構109と、閾値記憶機構109に記憶された閾値と信号算出機構105によって算出された信号の出力値とを比較してタッチオン・オフの判定をする接触判定機構110と、をさらに備える。さらに、タッチセンサ装置100は、信号算出機構105によって算出された信号の出力値と信号記憶機構107に記憶されている信号の出力値を比較する信号比較機構106と、信号比較機構106の結果に応じて閾値を算出する閾値算出機構108と、をさらに備える。閾値算出機構108によって算出された閾値は、閾値記憶機構109に記憶される。
【0068】
次に、タッチセンサ装置100の動作及び制御方法、並びにタッチセンサ装置100を動作させるためのプログラムについて説明する。
図2に、本発明の第1実施形態に係るタッチセンサ装置の動作及び制御方法、並びにタッチセンサ装置を動作させるためのプログラムを説明するためのフローチャートを示す。なお、便宜上、タッチの位置(座標)までは検出せずに、タッチの存在の有無を判断するアルゴリズムに限定して、説明する。また、
図2、
図8及び
図10においては、信号の出力値f[iT]を信号f[iT]と表記してある。
【0069】
まず、プログラム開始後、i=1とする(S100)。ここで、i(自然数)は、プログラム開始からi回目のタッチ判定の判断(ループ)であることを示す。ここで、タッチ判定の判断とは、タッチオン判定とタッチオフ判定の判断とを含む。
【0070】
次に、i=1のとき、接触判定機構110は、判定の初期設定によりタッチオフ判定とする(S101)。プログラム開始直後においては、タッチパネルの表面に指示体が接触していないことが前提となる。i≧2のときは、S101は、接触判定機構110がタッチ判定によりタッチオフ判定したことを意味する。
【0071】
ここで、第1実施形態に係る発明は、タッチオフ判定に関する発明であり、本実施形態では、タッチオン判定手段については簡略的に説明する。信号取得機構102が、タッチパネル101から信号を取得し、信号算出機構105が、基準記憶機構104に記憶されたベースラインに基づいて、取得した信号の出力値を補正し、信号の出力値f[iT]とする(S102)。ここで、Tはタッチ判定の判断の周期であり、すなわちタッチセンサの動作周波数の逆数となる。例えば、タッチセンサの動作周波数が40Hzのとき、T=25msecとなる。次に、接触判定機構110は、信号の出力値f[iT]と、閾値記憶機構109に記憶されている第1閾値Th1とを比較し(S103)、信号の出力値f[iT]のほうが大きければ(f[iT]>Th1)、タッチオン判定する(S106)。なお、S103後、iを1つカウントアップする(S104、S105)。なお、i=1のときは、第1閾値Th1は初期設定として閾値記憶機構109に記憶されているものを使用する。i≧2のときは、後述のS110で第1閾値Th1が更新されていた場合には、更新した第1閾値Th1を使用する。
【0072】
タッチオン判定(S106)後、i回目のタッチ判定の判断において、S102と同様にして信号の出力値f[iT]を取得する(S107)。
【0073】
次に、信号比較機構106は、S107で取得した信号の出力値f[iT]と、(i−q)回目の判定において取得した信号の出力値f[(i−q)T]とを比較する(S108)。ここで、f[(i−q)T]は、(i−q)回目のループで取得されて、信号記憶機構107に保持された信号データである。例えば、信号を比較する時間(第1単位時間)は3T(すなわちq=3)とすることができ、例えばT=25msecであるとき、第1単位時間は75msecとなる。但し、iが(q+1)以下である場合、例えばq=3であり、iが4以下の場合は、信号の出力値f[(i−q)T]を信号の出力値f[(1T)]とする。信号の出力値f[iT]が信号の出力値f[(i−q)T]の出力値よりも大きい場合、信号記憶機構107は、その信号の出力値f[iT]を「接触中の信号c」として格納する。
図2においては、q=3としている。
【0074】
次に、閾値算出機構108は、接触中の信号cを基に、新たな第1閾値Th1を計算し、閾値記憶機構109に記憶する(S110)。ここで、第1閾値Th1の計算式はTh1=c×αとする。αは感度とし、0<α<1範囲で予め設定するが、0.5〜0.7が好ましい。仮にαが高過ぎると、指先がタッチパネルの表面に接触していても、信号の出力値f[iT]がTh1より小さくなりやすく、タッチオフ判定されてしまうことがある。一方、αが低過ぎると、タッチパネルの表面に対して、指先が離脱しても、掌が近い場合、信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1より大きいままで、タッチオフ判定されないことがある。次に、iを1つカウントアップしてから、S107に戻る。この場合(f[iT]>f[(i−q)T]である場合)、S112等は省略する。
【0075】
図2に示すフローチャートにおいては、タッチオン判定(S106)後、S107において新たに信号の出力値f[iT]を取得した後に、S110において第1閾値Th1の更新を実施しているが、S107を経由せずに、S103においてタッチオン判定に使用した信号の出力値f[iT]をS108の信号の出力値f[iT]としてもよい。すなわち、S108において、S103においてタッチオン判定に使用した信号の出力値f[iT]と(i−q)回目に取得された信号の出力値f[(i−q)T]を比較し、出力値f[iT]のほうが大きい場合に、S110において第1閾値Thを更新するようにしてもよい。
【0076】
S108において、信号の出力値f[iT]が(i−q)回目の判定において取得した信号の出力値f[(i−q)T]以下である場合、接触判定機構110は、信号の出力値f[iT]と第1閾値Th1とを比較する(S112)。信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1以上である場合、iを1つカウントアップして(S113)から、S107に戻る。この場合、タッチオフ判定されない。
【0077】
一方、信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1より小さい場合、iを1つカウントアップして(S114)から、接触判定機構110はタッチオフ判定する(S101)。タッチオフ判定か否かのループを抜けて、タッチオン判定か否かのループへ移る。
【0078】
S101に戻る前にS110を経由したことがある場合、すなわち第1閾値Th1を更新していた場合、次回のS103においては、更新した第1閾値Th1を使用する。
【0079】
S108においては、i回目の信号の出力値と(i−q)回目の信号の出力値とを比較したが、q(自然数)は、第(i−q)T〜第iTの単位時間(第1単位時間)、すなわちqTが20msec〜200msecとなるように設定すると好ましい。
【0080】
まず、第1単位時間の上限の根拠について説明する。後述の実施例によれば、ドラッグ中の信号の増減を正弦波電圧として見ると、その周波数は概ね2.5Hzである。この傾向(波形)を正しく標本化するには、波形の持つ周波数成分の帯域幅の2倍より高い周波数で標本化する必要がある(これをサンプリング定理と呼ぶ)。信号の増減の周波数の2倍は5Hzであり、標本化周波数の逆数が第1単位時間になるので、信号の増減を判定する第1単位時間は、200msec以下であることが好ましい。
【0081】
次に、第1単位時間の下限の根拠について説明する。タッチパネルの表面に対して、指示体が離脱する動作速度が遅くなるにつれて、信号減少の傾きが小さくなる。もし、第1単位時間における減少量と比べて、ノイズ成分による信号変動が大きい期間があると、信号が単調減少とはならず、信号が増加する期間があるたびに、第1閾値Th1が更新されてしまう。ユーザによる動作によって信号が変化する成分に、それ以外のノイズ成分が重畳する。ノイズ成分は電源に入力される50Hzもしくは60Hzの100Vの単相交流電圧によるので、ノイズ成分のピークは50Hz、又は60Hzにある。この周波数帯域の信号は、電流検出回路に含まれるアナログフィルタ、及びマイクロコントローラのプログラムに組み込まれるデジタルフィルタによって減衰されるが、ある程度残ってしまう。フィルタは帯域通過フィルタ(バンドパスフィルタ)、及び低域通過フィルタ(ローパスフィルタ)などが用いられる。ここで、ローパスフィルタは、低周波を良く通し、ある遮断周波数より高い周波数の帯域を通さない(減衰させる)フィルタである。50Hzのノイズを減衰するためには、ローパスフィルタの遮断周波数(カットオフ周波数)を50Hzより低く設定する必要がある。また、50Hzに対してカットオフ周波数を低く設定するほど、50Hz帯域の減衰が大きくなる。一方、第1単位時間における信号変化は、タッチ判定の判断の1周期T毎の信号変化を積分したものであり、タッチ判定の1周期毎の信号変化に含まれるノイズ成分は、積分(加算)されることで、ノイズ成分は互いに相殺(キャンセル)されて0に近づく。したがって、第1単位時間が長くなるにつれて、信号変化に含まれるノイズ成分が大きく減衰する。周期は周波数の逆数であるので、第1単位時間は、ローパスフィルタのカットオフ周波数の逆数であり、第1単位時間は20msec以上に設定されると好ましい。
【0082】
次に、本発明の電子機器について説明する。以下においては、本発明の電子機器についてモニタを例にして説明する。
図3に、本発明の電子機器の概略斜視図を示す。
図4に、
図3のIV−IV線に沿った本発明の電子機器の概略断面図を示す。
図5に、本発明の電子機器におけるタッチセンサ機能の等価回路図を示す。
図6に、電流検出回路及びその周辺機能の概略ブロック図を示す。なお、
図4〜6は、
図3のモニタを90度時計回りに回転させた図に対応している。
【0083】
本発明の電子機器1は、本発明のタッチセンサ装置100を備える。タッチパネル101は、絶縁性基板41上に、透明導電層などのインピーダンス面39と、インピーダンス面39の四隅に設けられる複数の電極38と、インピーダンス面39の表面を覆う保護層37と、を有する。発振器が出力する交流電圧は、前記複数の電極38を介してインピーダンス面に印加される。指示体23がタッチパネル101の表面に接触(近接)すると、指示体23とインピーダンス面39との間に静電容量25が形成される。タッチセンサ装置100の電流検出部は、複数の電極に流れる電流をそれぞれ検出する複数の電流検出回路29a〜29dを有する。複数の電極38に流れる電流の総和は、指示体23とインピーダンス面39との間に形成される静電容量25に比例する。複数の電流検出回路29a〜29dの各出力は、標本化(サンプリング)と離散化によって、数値に変換される。これらの数値を基に静電容量25に比例する信号(以下「信号」とする)が計算される。信号は一定の周波数30〜120Hzで出力される。なお、本書にいうインピーダンス面とは、三次元的構造をも含み、例えば、表示部に対応する領域においてパターニングしていない透明導電層のことをいう。
【0084】
図4に示す形態においては、タッチパネル101の外周の上面と、電子機器1の筐体3の内部とが接着されることで、タッチパネル101が支持されている。ここで、筐体3の材質は例えばプラスチックとすることができる。プラスチックは、高分子化合物から成り、可塑性を有し、絶縁体である。また、タッチパネル101の下側に、表示装置としてLCD5が設けられている。
図4においては、タッチパネル101とLCD5の間を離しているが、LCD5とタッチパネル101との間に接着フィルムを使って、これらをラミネート加工などで貼り合わせてもよい。その場合は、LCD5とタッチパネル101との間に空気層が入らないので、LCD5からタッチパネル101への光の透過率を高められるという利点がある。LCD5は、CRT(Cathode Ray Tube)やPDPなど他の表示装置に比べて薄くて軽いので、電子機器に搭載するのに適している。LCD5に用いる液晶パネルは、二枚のガラス板の間に液晶を封入し、電圧をかけることによって液晶分子の向きを変え、光の透過率を増減させることで画像を表示する構造になっている。液晶を照明するために、液晶パネルの背面にバックライトが設けられている。二枚のガラス基板は、一般にTFT(Thin Film Transistor)基板と対向基板とからなる。このように、背面からの面状のバックライト光を液晶パネルで変調し画像を表示する透過型のLCDを例にとって説明したが、前述のTFT基板上に反射板となる金属電極を形成し、周囲光を表示に利用する反射型LCDとしてもよい。また、その反射板に網点状に微細な穴を開けることにより、透過・反射兼用とした半透過型LCDとしてもよい。
【0085】
タッチパネル101としては、絶縁性基板41上にスパッタ法などにより透明導電層39が形成されたものを用いることができる。ここで、透明導電層39の材料は、例えばITO(Indium Tin Oxide:インジウムスズ酸化物)とすることができる。透明導電層39の厚みは10nm〜300nmとすることができ、そのシート抵抗は100Ω〜1000Ωとすることができる。透明導電層39の四隅には、それぞれ異方性導電性フィルム(ACF;Anisotropic Conductive Film)などの導電性の接着材料を介して、フレキシブルプリント基板(以下「FPC」(Flexible Printed Circuit)」という)7の端子部(電極38)が接続されている。あるいは、透明導電層39の四隅に、金属から成る電極を形成してもよい。この場合の金属は、銀やチタンなどの、ITOに対して接触抵抗が低い材料が好ましい。また、金属から成る配線を形成し、透明導電層39の外周を引き廻してもよい。その場合、配線とITOとを絶縁するために、配線下のITOがパターニングされる。
【0086】
更に、透明導電層39を被覆する保護層37を形成する。保護層37にはガラス、プラスチック、樹脂などを用いることができる。ここで、保護層37の厚さは、0.1mm〜2.0mmの間で設定されると好ましい。保護層37の厚さが薄くなるにつれて、接触した指示体23と透明導電層39との間に形成される静電容量25が増加し、タッチセンサ機能の信号対雑音比(S/N)を高めることができる。一方、保護層37の厚さが厚くなるにつれて、指示体23による繰り返し入力に対する耐久性を高めることができる。
【0087】
図4に示す形態においては、FPC7は、タッチパネル101とメイン基板19とが離れているために、電気信号を伝達する配線として形成されている。ここでは、空間的制約のために配線や基板を曲げる必要がある箇所があるために、FPC7を用いると好ましい。FPC7は、一般的には、柔軟性があり大きく変形させることが可能なプリント基板であり、厚みが12μ〜50μmのフィルム状の絶縁性基板の上に接着層を形成し、更にその上に厚み12μ〜50μm程度の導体箔を形成した構造である。FPC7の端子部やハンダ部以外の部分は、絶縁体を被せて保護されている。
【0088】
透明導電層39から電極38を介して引き出されたFPC7のもう一方の端子部は、メイン基板19上のコネクタを介して、タッチセンサ装置100用のコントローラ21の入力側に接続されている。メイン基板19は、液晶パネル、バックライトなどから成るLCDモジュールと、コネクタを介して接続されている(不図示)。電源装置18は、コネクタを使わずにメイン基板19と接続されている。電源装置18とメイン基板19との間には、正電源電圧+3V〜+15V、負電源電圧−15V〜−3V及び、基準電圧0Vの配線を接続することができる。
【0089】
また、メイン基板19は、表面実装基板から成り、マイクロコントローラ58やフラッシュメモリを内蔵したチップ、ディスプレイのインターフェース用IC、電源制御IC、タッチセンサ装置100用のコントローラ21、発振回路ICの主要な機能を持つチップなどを実装している。あるいは、コントローラ21をFPC7上などに設けた薄型プリント配線基板上に、メイン基板19を実装してもよい。
【0090】
図5に示す形態においては、タッチセンサ装置100用のコントローラ21は、4つの電流検出回路29a〜29dなどから成り、透明導電層39の四隅の夫々に電極38を介して電気的に接続されている。また、発振回路ICの出力端子(交流電圧源27)が透明導電層39の四隅に電気的に接続されている。ここで、交流電圧は、正弦波電圧とし、その振幅を0.5V〜2V、その周波数を20kHz〜200kHzの間で設定することができる。
【0091】
図6に示す形態においては、電流検出回路29cは、前段である電流−電圧変換回路28cと後段であるAC−DC変換回路54cを有する。また、AC−DC変換回路54cの出力端子は、マイクロコントローラ58に内蔵されたアナログ−デジタル変換回路56に入力されている。ここで、アナログ−デジタル変換回路56はマルチチャンネル入力可能であり、AC−DC変換回路54a〜54dの4つの出力が入力されている。
【0092】
また、CPU60(Central Processing Unit:中央演算処理装置)は、マイクロコントローラ58の中心的な処理装置であり、アナログ−デジタル変換回路56、及びフラッシュメモリ62などと接続されている。フラッシュメモリ62には、タッチセンサ装置100の本発明のプログラムが保存されている。プログラムの保存にはフラッシュメモリ62のように、電源をオフしても、データを保持できる不揮発性のメモリが使用される。
【0093】
次に、第1実施形態に係るタッチセンサ装置100を含む電子機器1の動作について、主に
図5を参照して詳細に説明する。
【0094】
交流電圧源27から透明導電層39に正弦波電圧が印加され、透明導電層39が均一な電圧に保たれる。指示体23が保護層37の表面に接触すると、保護層37を介して、指示体23と透明導電層39との間に5pF〜50pFの静電容量25が形成される。また、指示体23が指先である場合、人体は導電性であるため、指示体23の接触により形成された静電容量25が人体の電位に接続される。人体に接地効果があり、静電容量25の一端が接地される。
【0095】
タッチに伴う電流は、透明導電層39を介して電流検出回路29a〜29dに夫々電流Ia〜Idとして分流する。電流Ia〜Idは、
図5に示した電流検出回路29a〜29dで検出される電流である。つまり、電流Iaは電流検出回路29a、電流Ibは電流検出回路29b、電流Icは電流検出回路29c、電流Idは電流検出回路29dで、それぞれ検出された電流である。電流Ia〜Idの比率は透明導電層39の抵抗Ra〜Rdに応じて変化し、抵抗Ra〜Rdはタッチパネル101上に接触した指示体23の位置に応じて変化する。タッチ位置に関する演算の一例は次式となる。
【0096】
x=k1+k2・(Ib+Ic)/(Ia+Ib+Ic+Id) (式1)
y=k1+k2・(Ia+Ib)/(Ia+Ib+Ic+Id) (式2)
ここで、xはタッチ位置のx座標、yはy座標である。k1及びk2は定数である。
【0097】
図7に、第1実施形態に係るタッチセンサ装置100における動作の電圧波形の一例を示す。
図7に示す例においては、タッチの検出期間を3msecとし、タッチの検出期間の周期を40Hzとしてある。ここで、タッチの検出期間の周期を20Hz〜120Hzの間に設定してもよい。このとき、1周期は25msecであるが、タッチの検出期間は3msecであるので、残りの22msecは休止期間とした。
【0098】
図7に示す、Vinは交流電圧源27の出力波形であり、Voutは、電流検出回路29に含まれる電流−電圧変換回路28の出力波形である。ここでは、Vinの周波数を100kHzとし、振幅を1Vとした。このとき、タッチの存在無しの場合は、例えば、Voutの振幅は3Vでとなり、タッチの存在有りの場合は、Voutの振幅は6Vとなる。すなわち、タッチに伴って振幅が3V増加する。ここで、タッチの存在無しの場合のVoutの振幅が3V生じているが、これは、透明導電層39から見た寄生容量(浮遊容量)の存在の影響、及びVoutにVinが含まれることによる。このように実際は、指示体23、及び掌などの人体の接近が無くても、アナログ−デジタル変換回路56の出力にある程度の出力が生じる。
【0099】
図5及び
図6に示す形態においては、電流検出回路29a〜29dの出力は交流電圧なので、その後段のAC−DC変換回路54a〜54dによって交流電圧を直流電圧に変換する。さらに、AC−DC変換回路54a〜54dの直流電圧出力はアナログ信号であるので、その後段のアナログ−デジタル変換回路56によってアナログ信号をデジタル信号に変換する。次に、変換されたデジタル信号を基にCPU60で数値計算する。これらの電流検出回路29〜CPU60の信号処理によって、タッチ判定の判断の1周期において、電流検出回路29に流れる電流Ia〜Idの各々が、その電流の大きさに比例する数値(検出信号)に変換されて、数値計算される。
【0100】
CPU60によって、各々の検出信号を基に、タッチの存在の感知、タッチ位置に関する演算、及びオペレーティングシステム上でマウスイベントを実行する。マウスイベントとは、ポインタ(マウスカーソル)の移動、又はポインタの指す項目の選択(決定)などである。ここで、項目の選択とは、例えば、指示体が接触直後にタッチオン判定によるマウスクリックダウン、指示体が接触中にマウスクリックダウンの維持、及び指示体が離脱直後にタッチオフ判定によるマウスクリックアップからなる。これらのマイクロコントローラ58による動作は、電子機器1に電源投入された後、CPU60によってフラッシュメモリ62からプログラムが読み出され、繰り返し実行される。このようにして、マイクロコントローラ58によって、アナログ−デジタル変換からマウスイベントまでの処理が、所定の周期40Hzで自動運転される。
【0101】
次に、透明導電層39から見た寄生容量(浮遊容量)の存在について説明する。電流検出回路29a〜29dは、オペアンプ50と抵抗素子52で構成されており、オペアンプ50の非反転入力端子と透明導電層39とが電気的に接続されている。オペアンプ50の非反転入力端子と透明導電層39とは、FPC7などの配線を介して接続されているが、配線間やグランド35との間で寄生容量26を形成する。
【0102】
この対策として寄生容量26に伴う信号をベースラインとして保持して、新たに取得した信号から差し引く、ベースライン補正を実施すると好ましい。ここでは、電流検出回路29a〜29dに対応するアナログ−デジタル変換回路56の出力を検出信号a〜検出信号dと表記する。また、タッチセンサ装置100が、指示体23、及び掌などの人体の接近が無いと判断した場合に取得した検出信号a〜検出信号dを、ベースラインa〜ベースラインdと表記する。式3に示すように、検出信号a〜検出信号dの総和を検出信号値h(iT)とする。式4に示すように、ベースラインa〜ベースラインdの総和をベースラインBLとする。ベースラインBLは基準記憶機構104に記憶される。式5に示すように、基準算出機構103は、検出信号値h(iT)からベースラインBLを差し引いた値を信号の出力値f(iT)とする。
【0103】
検出信号値h(iT)=検出信号a+検出信号b+検出信号c+検出信号d (式3)
ベースラインBL=ベースラインa+ベースラインb+ベースラインc+ベースラインd (式4)
信号の出力値f(iT)=検出信号値h(iT)−ベースラインBL (式5)
【0104】
本実施形態においては、タッチオン判定後、信号が上昇する場合は、タッチオン判定に対応する、タッチオフ判定の閾値(第1閾値)を更新する。一方、信号が一定かもしくは下降する場合は、第1閾値を更新しない。次に、信号と第1閾値とを比較し、信号が第1閾値よりも小さい場合に、タッチオフ判定する。指示体が離脱する場合は、時間経過に対して信号が単調減少する傾向がある。信号が減少中は第1閾値を更新しないとすれば、タッチパネルの表面に対して、指示体が完全に離脱すると、信号が大きく減少するので、信号が第1閾値より小さくなった際に、タッチオフ判定される。一方、指示体がタッチパネルの表面に接触し、ドラッグ動作をすると、信号が増減を繰り返す傾向がある。信号が増加する期間で、その時、取得した信号を基に第1閾値が計算されて、更新される。このようにして、信号が増減を繰り返しながら、信号が概ね低下していくと、第1閾値を低く調整することができるので、ドラッグ動作において、タッチオフ誤判定を防止することができる。従って、タッチパネルの表面に対して、指示体が接触している場合は、タッチオフ誤判定を防止しながらも、指示体が離脱する場合は、確実にタッチオフ判定できるという効果を奏する。
【0105】
次に、第2実施形態に係るタッチセンサ装置について説明する。
図8に、本発明の第2実施形態に係るタッチセンサ装置の動作及び制御方法、並びにタッチセンサ装置を動作させるためのプログラムを説明するためのフローチャートを示す。以下、第1実施形態と実質的に同様の構成に関しては第1実施形態と同じ符号を使用し、第1実施形態と異なる部分について主に述べる。第1実施形態においては、タッチオフ判定とタッチオン判定には共通の閾値(第1閾値)を使用したが、第2実施形態においては、タッチオン判定とタッチオフ判定とで異なる閾値を使用する。ここでは、タッチオフ判定に使用する閾値を第1閾値Th1とし、タッチオン判定に使用する閾値を第2閾値Th2とする。
【0106】
第1実施形態においては、接触中の信号を基に、第1閾値Th1を適宜更新していた。この場合、前回の接触中の信号を基に計算された第1閾値Th1は、前回と当回との接触の信号との差に応じて当回のタッチオン判定に不適当な値になる可能性がある。具体的には、接触中の信号の出力値が非常に高くなる可能性がある。前回の接触中の信号が非常に高い場合には第1閾値Th1も非常に高くなるので、当回のタッチ判定においてタッチオン判定しにくくなる。一方、前回の接触中の信号が非常に低い場合は第1閾値Th1も非常に低くなるので、当回のタッチ判定においては、指先が接触してなくても掌が接近するだけでオン誤判定してしまうことがある。
【0107】
そこで、第2実施形態においては、タッチオフ判定に使用する第1閾値Th1は第1実施形態と同様に更新するが、タッチオン判定に使用する第2閾値Th2は更新しない。すなわち、第2閾値は定数(固定型)とする。第2閾値Th2は、タッチパネルの表面の掌をかざすことに伴う信号、あるいは迷い指に伴う信号を予め測定し、これらの信号の出力値に対して十分に高く設定する。例えば、第2閾値Th2は、掌をかざした状態の信号の出力値よりも3pF〜5pF高く設定する。タッチパネルの表面の掌をかざすことに伴う信号測定において、タッチパネルと掌との距離を5mm〜50mmの間で設定するのが好ましい。これは、タッチパネルの表面と掌とが接触せずに、接近可能な最短距離は5mm程度であり、迷い指中の掌とタッチパネルの表面との距離は30mm〜50mmであることによる。第2閾値Th2は、第1閾値Th1と共に閾値記憶機構109に記憶される。これは、タッチオン判定に関しては、指先が接触して、仮にタッチパネルが反応(マウスイベント)しなくても、ユーザはやり直そうという意識が働く。次回は、より深く接触しようとする。ここで、“深く”とはタッチパネルの表面と指先との接触面積を大きくすることである。これは、タッチオン判定については、指先が浅く接触した場合などのケースにおいて、タッチオン判定されることは必須ではない、という考え方に基づいている。
【0108】
図8に示す形態においては、S203において、信号の出力値f[iT]と第2閾値Th2とを比較してタッチオン判定している。これ以外は、
図2に示す形態と同様である。
【0109】
本実施形態によれば、タッチオン判定の閾値(第2閾値Th2)を定数として、第2閾値Th2の値を迷い指に伴う信号などと比べて十分高くすることによって、タッチオン誤判定を抑制できるという効果がある。
【0110】
本発明の第3実施形態に係るタッチセンサ装置について説明する。
図9に、本発明の第3実施形態に係るタッチセンサ装置の概略ブロック図を示す。第3実施形態においては、信号の出力値と閾値の比較に加えて、所定の単位時間(第2単位時間)における信号の変化の大きさ(以下「信号の第1差分値」)もタッチ判定の指標に使用する。
【0111】
第3実施形態に係るタッチセンサ装置300は、第1実施形態の構成に加えて、さらに差分算出機構311を備える。差分算出機構311は、信号算出機構305によって算出された信号の出力値及び信号記憶機構307に記憶された信号の出力値から、所定時間当たりの信号の第1差分値を算出する。
【0112】
次に、タッチセンサ装置300の動作及び制御方法、並びにタッチセンサ装置300を動作させるためのプログラムについて説明する。
図10に、本発明の第3実施形態に係るタッチセンサ装置の動作及び制御方法、並びにタッチセンサ装置を動作させるためのプログラムを説明するためのフローチャートを示す。
【0113】
まず、動作開始(S300)後、接触判定機構310は、第1実施形態と同様にタッチオフ判定する(S301)。次に、信号取得機構302は、i回目のタッチ判定の判断において、信号を取得する。信号算出機構305は、第1実施形態と同様に、信号の出力値f[iT]を算出する。
【0114】
次に、差分算出機構311は、第2単位時間jTにおける信号の第1差分値gj[iT]を算出する(S303)。信号の第1差分値gj[iT]は、f[iT]−f[(i−j)T]で算出される(ステップA03)。
図10に示す形態においては、第2単位時間を決める係数jを2としており、例えば、Tが25msecである場合、第2単位時間は50msecなる。信号の出力値f[(i−2)T]は、(i−2)回目のループで取得されて、信号記憶機構307に保持された信号データである。但し、iが3以下の場合は、f[(i−2)T]はf[1T]とする。
【0115】
次に、接触判定機構310は、差分算出機構311によって算出された第1差分値g2[iT]と、閾値記憶機構309に設定された第3閾値Th3とを比較する(S304)。第1差分値g2[iT]が第3閾値Th3よりも大きい場合、iを1つカウントアップしてから(S305)、接触判定機構310はタッチオン判定する(S308)。
【0116】
S304において、第1差分値g2[iT]が第3閾値Th3以下である場合、接触判定機構は、第1実施形態又は第2実施形態と同様にして、信号の出力値f[iT]と第1閾値Th1又は第2閾値Th2とを比較する(S306)。
図10に示す形態においては、第2実施形態と同様にして定数である第2閾値Th2を使用している。信号の出力値f[iT]が第2閾値Th2よりも大きい場合、iを1つカウントアップしてから(S305)、接触判定機構310はタッチオン判定する(S308)。一方、S306において、信号の出力値f[iT]が第2閾値Th2以下である場合、iを1つカウントアップしてから(S307)、S302に戻る。この場合、接触判定機構310はタッチオン判定しない。
【0117】
次に、タッチオン判定(S308)後、i回目のタッチ判定の判断において、信号算出機構305は、信号の出力値f[iT]を算出する(S309)。
【0118】
次に、信号比較機構306は、第1実施形態と同様にして、i回目の信号の出力値f
[iT]と(i−q)回目の信号の出力値f[(i−q)T]とを比較する(S310)。
図10に示す形態においては、q=3としてある。i回目の信号の出力値f[iT]がi−3回目の信号の出力値f[(i−3)T]以下である場合、差分算出機構311は、S303と同様に、第1差分値g2[iT]=f[iT]−f[(i−2)T]を計算する(S314)。次に、接触判定機構310は、第1差分値g2[iT]と負の第3閾値−Th3とを比較する(S315)。第1差分値g2[iT]が負の第3閾値−Th3よりも小さい場合、iを1つカウントアップしてから(S316)、接触判定機構310はタッチオフ判定する(S310)。一方、S315において、第1差分値g2[iT]が負の第3閾値−Th3以上である場合、接触判定機構310は、信号の出力値f[iT]と第1閾値Th1とを比較する(S317)。信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1よりも小さい場合、iを1つカウントアップしてから(S316)、接触判定機構310はタッチオフ判定する(S301)。S317において、信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1以上である場合、iを1つカウントアップしてから(S318)、S309に戻る。この場合、接触判定機構310はタッチオフ判定しない。
【0119】
S304とS306、及びS315とS317では、第1差分値と第3閾値との比較と、信号の出力値と第1閾値との比較をタッチ判定に用いている。指示体の接触及び指示体の離脱が遅い場合には、単位時間当たりの差分値が小さく、S304及びS315ではタッチ判定できないことになるが、S306とS317において信号の出力値も利用することにより、確実にタッチ判定できるようになる。例えば、もし、指先が離脱しても、仮にタッチオフ判定されないと、マウスクリックダウン(ポインタ選択)が維持されてしまう。そして、指示体の接触と無関係な信号を基に、ポインタの座標位置を計算するため、座標位置がランダムな値となり、ユーザの意思と異なる座標位置でポインタ選択・決定されてしまう。この現象は誤動作であり、またタッチセンサ装置が自動で、元の正常な状態に復帰できないという、非常に深刻な状態となる。
【0120】
上記形態においては、例えば、S304やS315においては、正負を考慮したが、差分値と閾値とは絶対値で比較しても良い。
【0121】
第3閾値Th3は、その絶対値が1pF〜3pFに設定すると好ましい。この範囲であれば、素手、また手袋を装着した場合でも、指先がタッチパネルに接触したり、又はタッチパネルとの接触を解除したりしたときにタッチ判定することができる。
【0122】
第2単位時間は、8msec〜100msecに設定すると好ましい。信号変化に要する時間を考慮した第2単位時間を設定することにより、タッチ判定において、掌の接近に伴う影響を大幅に減少することができる。また、掌を近づけたまま、掌を静止する、迷い指に伴う影響も大幅に減少できる。これは、タッチパネルの表面に対して、掌が接近して、掌を水平に移動させる動作も、指先の接触動作に比べて非常に遅いことによる。
【0123】
なお、上記形態においては、差分値をタッチオン判定及びタッチオフ判定の両方に使用しているが、差分値はいずれか一方の判定にのみに使用してもよい。また、上記形態においては、第3閾値をタッチオン判定及びタッチオフ判定に共通の閾値として用いたが、タッチオン判定とタッチオフ判定とで第3閾値を異なる値に設定してもよい。
【0124】
第3実施形態のその他の形態は、第1実施形態と同様である。上記説明においては、第2実施形態との組み合わせを例に説明したが、第3実施形態は、第2閾値を使用しない第1実施形態と組み合わせることも可能である。
【0125】
第3実施形態によれば、ユーザが手袋を装着していた場合やタッチパネル301のカバーガラス(保護層)が厚い場合であっても適切にタッチ判定することができる。また、カバーガラスを厚くすることにより、タッチセンサ装置の耐久性を向上させることができる。特に、差分値を用いるタッチ判定のみでは手袋装着時のタッチオフ判定を誤るおそれがあるが、第1実施形態のタッチオフ判定に差分値を用いるタッチ判定を組み合わせることにより、手袋を装着した場合であっても確実にタッチオフ判定することが可能となる。
【0126】
第1〜第3実施形態に係るタッチセンサ装置においては、タッチオン判定された後に、信号の出力値を一定の割合で減少させてタッチオフ判定させる場合と、信号の出力値を周期的に増減させながら、全体的に減少させてタッチオフ判定させる場合とで、タッチオフ判定時の第1閾値Th1が異なる。すなわち、信号の出力値を周期的に増減させるほうが、第1閾値Th1を低くすることができる。
【0127】
指示体とタッチパネルとの距離の観点でいえば、信号の出力値を周期的に増減させながら、全体的に減少させてタッチオフ判定させる場合のほうが、信号の出力値を一定の割合で減少させてタッチオフ判定させる場合よりも、タッチオフ時における指示体とタッチパネルの距離を離すことができる。
【0128】
ここで、信号の出力値を周期的に増減させる場合、信号がひとたび減少し、ひとたび増加する周期の周波数は2.5Hz以下であると好ましい。信号が増加しているか否かを判定する単位時間である第1単位時間は200msec以下が好ましいので、信号増減を正弦波としてサンプリングするには、信号増減の周期は400msec以上である必要があるからである。1周期において、信号の出力値の減少の大きさは、信号の出力値の増加の大きさより大きくなるように設定し、減少の大きさの絶対値は、増加の大きさの絶対値よりも1pF以上3pF以下であるように設定する。また、第1周期の信号減少で、信号の出力値が第1閾値Th1より小さくなると、タッチオフ判定される距離Lが十分に長くならない。従って、第1周期の信号減少によって、信号の出力値が第1閾値Th1より小さくならないように信号減少量を設定する。また、一方、信号の出力値を一定の割合で減少させる場合、1秒当たり0.12pF減少させるようにする。第1閾値Th1は、現在の信号の出力値c×感度α(=0.6)によって更新する。
【0129】
このように指示体の昇降を繰り返して、タッチパネルの表面から指示体を離すことによって、ドラッグ動作中の信号推移を再現し、タッチセンサ装置における第1閾値更新の効果を確認することが可能となる。
【0130】
本発明の電子機器は、本発明のタッチセンサ装置を備える。本発明の電子機器としては、例えば、ゲーム機、携帯情報端末、PDA、カーナビゲーション、ノートパソコン、携帯DVDプレーヤ、飛行機やバスの客席に取り付けるテレビ・ゲーム機、ファクトリ・オートメーション(FA)機器等が挙げられる。
【0131】
本発明のプログラムは、タッチセンサ装置に上記各機能や各手順を実現させることができるものである。
【0132】
次に、本発明の第4実施形態に係る電子機器について説明する。
図11に、本発明のタッチセンサ装置を備える本発明の電子機器の概略分解斜視図を示す。
図12に、
図11に示す電子機器の概略平面図を示す。
図11及び
図12においては、電子機器としてLCDを例示的に図示している。
図12においては、対向基板の図示を省略してある。なお、
図11及び
図12は、断面でない部分であっても、視認しやすいようにハッチを付してある。また、
図11及び
図12において、上記実施形態と同じ要素には同じ符号を付してある。
【0133】
第4実施形態に係る電子機器401は、本発明のタッチセンサ装置400を備える。電子機器401は、対向電極412と、画素電極405と、配線404,406,408と、対向電極412と配線404,406,408との間に介在する液晶402と、を有する。対向電極412は、インピーダンス面として兼用される。電子機器401は、配線404,406,408の少なくとも一部を電気的に浮遊させる、又は、配線404,406,408の少なくとも一部を電気的に浮遊させたうえで、インピーダンス面に印加する交流電圧を配線404,406,408の少なくとも一部に印加するスイッチ部416,417,418,421を更に有する。LCD401は、対向電極412、液晶402及び画素電極405から成る三層構造を有し、対向電極412がインピーダンス面として兼用され、インピーダンス面に印加する交流電圧を蓄積容量線408にも同時に印加する又は走査線406を電気的に浮遊させるスイッチ部416,417,418,421を更に有する。
【0134】
電流検出回路29によって検出された電流を基に、信号の出力値及び差分値が算出され、タッチオン判定及びタッチオフ判定に使用される。タッチオン判定及びタッチオフ判定に関することは、上記第1〜第3実施形態と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0135】
第1実施形態においては、タッチセンサ装置は、表示装置と別体として製造されていた。これに対して、第4実施形態においては、表示装置にLCD401を用いて、表面型静電容量結合式のタッチセンサ装置400が内蔵されている。例えば、LCD401の対向電極412に用いる透明導電層をインピーダンス面として利用する。これにより、タッチセンサ装置400及び電子機器401の製造工程を簡略化し、製造コストを低減することができる。さらに、タッチセンサ装置400の専用の基板が不要となるので、軽量かつ薄型になる。そして、光の透過率が高く表示装置の画質が良くなるという効果も得られる。
【0136】
しかし、対向電極412は液晶素子402を介してTFT基板410に接近しているため、液晶素子402などの極めて大きな静電容量が存在する。そのため、TFT基板410上の電極及び配線(蓄積容量線408、信号線404、走査線406等)の電位によって、対向電極412とTFT基板410との間に電位差が生じることになる。したがって、インピーダンス面を兼ねる対向電極412は、極めて大きな寄生容量の影響を受ける。その結果、タッチセンサ機能のS/Nが減少することにより、タッチの存在を感知してタッチの位置を正確に検出することが困難になってしまう。
【0137】
そこで、第4実施形態においては、表示期間と位置検出期間とを時間的に分割する。そして、位置検出期間において、表示領域403をその外部に対してハイインピーダンスにして、電気的にフローティングにする。あるいは、位置検出期間において、TFT基板410上の電極及び配線に、対向電極412と同じ電圧を印加する。これらの結果、表示領域403と対向電極412との間の容量結合により、表示領域403が対向電極412と同じ電位に保持される。このため、表示領域403の電位が対向電極412と同じ電位に追従するので、対向電極412に対する寄生容量の影響を極めて小さくできる。
【0138】
第4実施形態に係る電子機器401の詳細について説明する。第4実施形態においては、表示領域外部から表示領域内部へ電気信号を伝えるための配線上にスイッチ素子を設けた構成としている。具体的には、表示領域403の外部の第2回路部(走査線駆動回路414、信号線駆動回路415等)から表示領域403の内部の第1回路部(TFT411等)へ電気信号を伝えるための配線部上に、第1ハイインピーダンススイッチ部416、第2ハイインピーダンススイッチ部417、第3ハイインピーダンススイッチ部418が設けられている。
【0139】
ここで、表示領域403の外部の第2回路部は、表示領域403の内部の第1回路部と同一基板上に形成されていても、外部基板上にあってもよい。表示領域403の外部の第2回路部が表示領域403の内部の第1回路部と同一基板上に設けられる場合、表示領域403の外部と外部基板とを結ぶ配線部上にハイインピーダンススイッチ部416,417,418を設けることが好ましい。具体的には、ハイインピーダンススイッチ部416,417,418が設けられる配線部は、信号線404、走査線406、蓄積容量線408、電源線(図示せず)の少なくとも1つであることが好ましい。
【0140】
また、ハイインピーダンススイッチ部416,417,418を制御するスイッチング制御回路を備えることが好ましい。スイッチング制御回路は、電流検出回路29が電流を検出する期間に、表示領域403の外部から表示領域403の内部へ電気信号を伝えるための配線部の少なくとも1つをハイインピーダンスに制御することが好ましい。
【0141】
ここで、ハイインピーダンススイッチ部416,417,418とスイッチング制御回路とにより、「インピーダンス制御機構」を構成することができる。この「インピーダンス制御機構」は、TFT基板410上に形成されてもよいし、別体の制御回路基板に形成されてもよい。
【0142】
この「インピーダンス制御機構」は、接触位置を検出する検出期間中に、TFT基板410の表示領域403内の第1回路部を、表示領域403外の第2回路部に対して電気的にハイインピーダンスとすることができる。また、この「インピーダンス制御機構」は、第1回路部と第2回路部とを接続する配線部に形成されるハイインピーダンススイッチ部416,417,418と、ハイインピーダンススイッチ部416,417,418をオンオフ制御するスイッチング制御回路と、を含むことができる。
【0143】
次に、ハイインピーダンススイッチ部416,417,418の動作について説明する。表示領域403の内部(画素マトリクス部内)の第1回路部と、表示領域403の外周部の第2回路部との間を、電気的にハイインピーダンスとするために、表示領域403の外周部は次のような構成になっている。走査線406の信号パスにはそれぞれ第1ハイインピーダンススイッチ部416が設けられており、信号線404の信号パスにはそれぞれ第2ハイインピーダンススイッチ部417が設けられており、蓄積容量線408の信号パスにはそれぞれ第3ハイインピーダンススイッチ部418が設けられている。ハイインピーダンススイッチ部416,417,418は、スイッチング制御回路によってスイッチング制御される。これにより、表示領域403の外部から内部へ電気信号を伝えるための走査線406や信号線404をハイインピーダンスにすることが可能となる。
【0144】
位置検出期間は、垂直ブランキング期間を利用する。位置検出期間において、ハイインピーダンススイッチ部416,417,418は、
図12に示すように、全てオフ状態となる。このとき、信号線404、走査線406及び蓄積容量線408は、表示領域403の外部の配線(走査線駆動回路414、信号線駆動回路415及び共通電極COMに接続されている配線)に対して、ハイインピーダンスとされる。
【0145】
また、位置検出期間において、COM−電流検出回路切り替えスイッチ部421は、電流検出回路29を含む交流電圧源27側に対して導通状態となる。
図12に示すスイッチの状態において、交流電圧源27によって生成される同相の交流電圧をTFT基板410の四隅近傍にある電極430a〜430dに印加する。電極430a〜430dは異方性導電体434を介して対向電極412と電気的に接続しているので、対向電極412の四隅近傍に交流電圧が印加される。
【0146】
図13に、第4実施形態に係る電子機器401の各部の電圧を示すタイミングチャートを示す。対向電極412の電圧はVc、信号線404の電圧はVd、走査線406の電圧はVg、画素電極405の電圧はVsで、それぞれ示した。走査線406の電圧Vgと画素電極405の電圧Vsとの差をVgsで示した。対向電極412、信号線404、走査線406及び画素電極405は、共通電極COM又は電流検出回路29に配線を介して電気的に接続される。共通電極COM又は電流検出回路29の切り替えには、COM−電流検出回路切り替えスイッチ部421が使用される。
【0147】
また、表示駆動期間の後に、位置検出期間がある構成としている。なお、図中には各電圧の例を示しているが、信号線404の電圧Vdは書き込む信号によって電圧が異なるため、特に数値は記入していない。
図13の電圧のタイミングチャートを参照すると、位置検出期間中、各走査線406は、ハイインピーダンスであり、かつ、対向電極412と容量結合している。そのため、対向電極412の電圧振幅と同振幅で走査線406の電圧Vgが変動する。
【0148】
以上のように第4実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏しながらも、位置検出期間において、画素マトリクス内部の回路(画素電極405等)が外部の回路に対してハイインピーダンスとされるため、対向電極412に交流電圧を印加する際に、対向電極412から見た寄生容量が極めて小さくなる。具体的には、背景技術(表示領域を電気的にフローティングしない構成)では寄生容量が例えば15nFであるのに対して、第4実施形態では寄生容量が例えば100pFまで小さくなる。この結果、電流検出回路29から出力される信号のS/N比が、背景技術では例えば4×10
−4であるのに対して、第4実施形態では例えば6×10
−2と140倍になる。
【0149】
また、位置検出期間中は、TFT410のゲート電圧及びソース電圧がともに対向電極412の電圧振幅と同振幅で電圧が変化するために、ゲート電圧とソース電圧の相対的な差は一定となり、トランジスタのVgsは変動しない。この結果、位置検出期間の駆動による画質劣化への影響を最小限にするといった格別な効果が得られる。
【0150】
ここで、表示領域403の内部と外部とを電気的にハイインピーダンスとするハイインピーダンススイッチ部416,417,418としてnチャネル型TFTを用いている。しかし、このハイインピーダンススイッチ部は、pチャネル型のTFTでもよいし、nチャネル型とpチャネル型とを組み合わせたトランスファーゲートでもよい。
【0151】
このようにして、タッチセンサ装置400及び電子機器401の製造工程を簡略化し、製造コストを低減できる。更に、タッチセンサ装置400の専用の基板が不要であるので、軽量かつ薄型になる。そして、光の透過率が高く表示装置の画質が良いという効果がある。
【0152】
タッチ検出用のインピーダンス面である対向電極412と指示体23との間には、絶縁性基板41、及び偏向板がある。絶縁性基板41の厚さは、例えば、0.2mm〜1.0mmとすることができる。偏向板の厚さは、例えば、0.1mm〜0.3mmとすることができる。この場合、指示体23と対向電極412との距離が長くなる。このため、タッチセンサ装置と表示装置とを組み立てで外付けするタイプと比べると、本実施形態の電子機器401においては、指示体23と対向電極412とで形成される静電容量が小さくなり、これに伴い、掌などの接近に伴う信号の影響が大きく、正確なタッチ判定が困難となる場合がある。そこで、第1〜第3実施形態に記載の構成によって、掌の接近に伴う影響を低減し、指示体の接触に伴う信号変化を捉えながらも、指示体の離脱の際には、確実にタッチ判定される、という効果がある。その他の構成、作用及び効果は、第1〜第3実施形態と同様である。
【0153】
次に、本発明の第5実施形態に係るタッチセンサ装置について説明する。ここでは、第4実施形態と実質的に同様の構成に関しては図示を略し、第4実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
図14に、本発明のタッチセンサ装置を内蔵した第5実施形態に係る電子機器の対向基板を示す平面模式図を示す。
図15に、
図14のXV−XV線に沿った概略断面図を示す。なお、
図14は、断面でない部分であっても、視認しやすいようにハッチを付してある。また、
図14及び
図15において、上記実施形態と同じ要素には同じ符号を付してある。
【0154】
第5実施形態に係る電子機器は、インピーダンス面501に印加する交流電圧を対向電極412及び蓄積容量線(第4実施形態参照)にも同時に印加するスイッチ部(第4実施形態参照)を備える。すなわち、第4実施形態と異なる点は、対向基板119にある。
【0155】
第4実施形態においては、電子機器であるLCDの対向電極412を位置検出期間中にタッチセンサとして用いて、表示領域外部に対して表示領域を電気的にハイインピーダンスにしている。この結果、対向電極412の寄生容量が低減されているものの、タッチに伴う容量と比べて、対向電極412から見た寄生容量が依然として遥かに大きい。
【0156】
これに対して、
図15を参照すると、第5実施形態においては、対向電極412が下側に形成された絶縁性基板41上に、透明導電層から成る位置検出導電層501が形成されている。この位置検出導電層501を、タッチパネルの一部として利用する。更に、位置検出導電層501上に絶縁性の保護層37が形成されている、ここで、保護層37として偏光板を用いるとよい。この理由は、偏光板はLCDを表示するのに必要であり、タッチセンサ装置用に保護層37を形成するための工程が不要であることによる。
【0157】
図14を参照すると、位置検出導電層501の四隅にそれぞれ電極430a〜430dが形成されており、電極430a〜430dにそれぞれ電流検出回路29a〜29dが電気的に接続されている。更に、電流検出回路29a〜29dを介して、交流電圧源27が電気的に接続されている。
【0158】
ここで、第4実施形態の対向電極412の透明導電層と比べて、位置検出導電層501は、TFT基板に対して遠く、タッチセンサ装置の表面(指示体の接触面)に対して近くなる。したがって、対向電極412と比べて、位置検出導電層501から見た寄生容量は小さく、指示体の接触に伴う静電容量が大きい。この結果、タッチセンサ装置のS/Nが向上する。
【0159】
ただし、指示体の接触に伴う静電容量に対して、位置検出導電層501から見た寄生容量の変動の方が大きいという問題がある。特に、LCDの表示内容に伴う変動が問題である。これは、液晶分子の誘電率異方性に起因するもので、表示内容によって配向が変化し、位置検出導電層501の寄生容量に作用する原理に基づいて生じる問題である。この結果、信号処理回路は、タッチの存在の有無を感知することが難しいといった問題が生じる。つまり、信号処理回路は、指先の接触で信号が変化したのか、あるいは、表示内容が変化したから信号が変化したのかを区別しにくい。
【0160】
図16に、第5実施形態における電子機器の電極の電圧を示すタイミングチャートを示す。位置検出導電層501の電圧は、
図16のVaで示した。他の電圧は、第4実施形態と同様の記号が割り当てられるとともに、同様の電圧が印加されている。Vaは交流電圧源27の電圧とし、対向電極412の電圧VcにもVaと同位相・同振幅の電圧が印加されている。この結果、対向電極412が、位置検出導電層501に対する理想的なシールド層として機能するようになり、対向電極412とTFT基板との間に存在する誘電体の誘電率変動で生じる、対向電極412から見たTFT基板の静電容量の変動の影響を受けにくくなる。
【0161】
この結果、位置検出導電層501の寄生容量(より正確には寄生容量として検出される信号)が顕著に減少する。また、人体の指と位置検出導電層501とで形成される静電容量に対して、LCDの表示内容に伴う静電容量の変動の方を小さくでき、タッチの有無を正確に検出できるという効果がある。その他の構成、作用及び効果は、第1〜第4実施形態と同様である。
【0162】
本発明の第6実施形態に係るタッチセンサ装置について説明する。
図17に、本発明の第6実施形態に係るタッチセンサ装置の概略ブロック図を示す。第3実施形態においては、所定の単位時間(第2単位時間)当たりの信号の変化の大きさ(信号の第1差分値)と第3閾値Th3とを比較し、タッチオンか否かを判断するが、第2単位時間は初期設定で決まる固定値であった。第6実施形態においては、タッチ毎の状況に応じて第2単位時間を自動的に調節する。また、外挿値を利用して掌の接近に伴う影響を考慮して指示体の位置を算出する。
【0163】
第6実施形態に係るタッチセンサ装置600は、第3実施形態の構成に加えて、さらに単位時間当たりの信号の出力値の変化の大きさを判定する変化判定機構613、外挿値を算出する外挿算出機構614、及び接触判定や指示体の位置の算出に使用する外挿値を記憶する外挿記憶機構615を備える。なお、上記実施形態のおいては表記していなかったが、
図17においては、本実施形態の説明のため、差分値を記憶する差分記憶機構612及び指示体の位置を算出する位置算出機構616を図示してある。差分記憶機構612及び位置算出機構616は、本実施形態のみが有する要素ではない。
【0164】
図18に、本発明の第6実施形態に係るタッチセンサ装置の動作及び制御方法、並びにタッチセンサ装置を動作させるためのプログラムを説明するためのフローチャートを示す。第6実施形態においては、パネルの四隅で取得されるチャンネル信号の出力値のひとつをfch[iT]とする。指示体の接触位置は、各チャンネル信号の出力値fch[iT]をもとに算出される。4つのチャンネル信号の出力値fch[iT]の合計値を信号の出力値f[iT]とし、信号の出力値f[iT]をもとに、タッチオン判定等を行う。フローチャートの各ステップの説明では、極力4チャンネル信号の合計値f[iT]を使用し、位置算出に関するステップのみに各チャンネルの信号の出力値fch[iT]を使用する。
図40に、本実施形態を基にした実施例8における測定結果を示す。
図40には、以下の説明に対応する説明が付されている。
【0165】
まず、初期設定後、接触判定機構610は、第1実施形態と同様にタッチオフ判定する(S601)。次に、i回目のタッチ判定の判断において、信号取得機構602は、信号を取得する。信号算出機構605は、第1実施形態と同様に、信号の出力値f[iT]を算出する(S602)。
【0166】
次に、差分算出機構611は、第3単位時間当たりの信号の第2差分値g1[iT]を算出する(S603)。ここで、信号の第2差分値g1[iT]は、g1[iT]=f[iT]−f[(i−1)T]で算出される。第3単位時間は、f[iT]が緩やかに変化しているか否かを判断するための区間である。例えば、第3単位時間は16ミリ秒(=1T=1*16ミリ秒)と設定することができる。
【0167】
次に、変化判定機構613は、第2差分値g1[iT]と第4閾値Th4とを比較する(S604)。ここで、第4閾値Th4は、f[iT]が緩やかに変化しているか否か、すなわち掌の接近に伴い信号変化しているか否かを判断する閾値であり、予め閾値記憶機構609に記憶させておく。第4閾値Th4は、第3閾値Th3をmax(n−m)で除算した値とする(Th4=Th3/max(n−m))。第3閾値Th3は、第3実施形態と同様にしてタッチオン判定するための閾値である。mは、指示体とタッチセンサとの接触に伴うf[iT]の急上昇を判定するiであり、nはタッチオン判定されるiである。このとき、タッチオン判定か否かを判断する第2単位時間は(n−m)Tとなる。max(n−m)は、(n−m)の上限値であり、(n−m)Tの上限値をmax{(n−m)T}とする。例えば、T=16ミリ秒とし、max(n−m)=5と設定した場合、max{(n−m)T}=5*16ミリ秒=80ミリ秒となる。第3閾値Th3を1.5pFと設定した場合、第4閾値Th4は、0.3pF(=Th3/max(n−m)=1.5pF/5)となる。
【0168】
S604において、第2差分値g1[iT]が第4閾値Th4以下である場合、S605でiを1つカウントアップしてから、S602に戻る。一方、第2差分値g1[iT]が第4閾値Th4より大きい場合、iをmに代入し、f[iT]が急上昇しはじめる第1変化点をmTより1T前である時刻(m−1)Tにおけるf[(m−1)T]とする(S606)。
【0169】
次に、iを1つカウントアップし(S607)、S602同様にして、信号取得機構602は信号を取得し、信号算出機構605は、信号の出力値f[iT]を算出する(S608)。
【0170】
次に、S603と同様にして、差分算出機構611は、第3単位時間当たりの信号の第2差分値g1[iT]を算出する(S609)。差分記憶機構612は、第2差分値g1[iT]を記憶する。
【0171】
次に、変化判定機構613は、第2差分値g1[iT]と第4閾値Th4とを比較する(S610)。ここでは、第2差分値g1[iT]が第4閾値Th4以上である場合、iを1つカウントアップしてから(S611)、S608に戻る。一方、第2差分値g1[iT]が第4閾値Th4より小さい場合、外挿算出機構614は、信号の出力値f[iT]が第1変化点を過ぎて急上昇してからも、第1変化点以前の緩やかな上昇の傾向をもとに第1変化点から時刻iTまで外挿する外挿値をもとめる(S612)。ここでは、第2単位時間(i−m+1)T、及び第1変化点の信号の出力値f[(m−1)T]をもとに、外挿値e[iT]を2*f[(m−1)T]]−f[(2m−i−2)T]とする。外挿記憶機構615は、外挿値e[iT]を記憶する。
【0172】
後述の実施例における
図41を参照して、外挿値e[iT]=「2*f[(m−1)T]−f[(2m−i−2)T」の数式を説明する。時刻iTと第1変化点の時刻(m−1)Tとの差は(i−m+1)Tである。時刻(m−1)Tから(i−m+1)Tまえの時刻は(2m−i−2)Tであり、このときの信号はf[(2m−i−2)T]である。第1変化点の時刻は(m−1)Tであるので、第1変化点の信号はf[(m−1)T]である。時刻(m−1)Tから(i−m)Tまえの信号から、時刻(m−1)Tの信号を減算すると、f[(m−1)T]−f[(2m−i−2)T]となる。この減算値と第1変化点のf[(m−1)T]とを加算すると、外挿値e[iT]は「2*f[(m−1)T]−f[(2m−i−2)T]」となる。
【0173】
外挿値e[iT]は、fch[iT]が第1変化点を過ぎて急上昇しても、第1変化点以前の緩やかな上昇の傾向をもとに第1変化点から時刻iTまで外挿して求めることができる。外挿値をもとめる目的は、指先とパネル表面との接触に伴って、信号が急上昇している間も、指だけでなく掌もパネル表面に対して接近するので、この区間における掌の信号成分の増加を見込むことにより、より正確に掌の接近に伴う信号を推測するためである。
【0174】
次に、差分算出機構603は、信号の出力値f[iT]と外挿値e[iT]との差を算出する。次に、接触判定機構610は、その差と第3閾値Th3と比較する(S613)。差(f[iT]−e[iT])が第3閾値Th3以下である場合、iを1つカウントアップしてから(S614)、S602に戻る。これは、タッチオン判定の閾値に達しないため、タッチオン判定をはじめからやり直すことに相当する。一方、差(f[iT]−e[iT])が第3閾値Th3より大きい場合、iをnに代入し、f[iT]が飽和しはじめる第2変化点をnTから1T前である時刻(n−1)Tとし、時刻(n−1)Tにおける信号の出力値をf[(n−1)T]とし、タッチオン判定する(S615)。
【0175】
第4閾値Th4については、第3閾値Th3をmax(n−m)で除算した値とした場合、max{(n−m)T}を短くするにつれて、第4閾値Th4が高くなるので、S604において第2差分値g1[iT]が第4閾値Th4より小さくなりやすい。一方、S604において第2差分値g1[iT]が第4閾値Th4より大きくなる区間が、max{(n−m)T}だけ続くと、Th4=Th3/max(n−m)より、S613における差(f[iT]−e[iT])が第3閾値Th3より大きくなることがあり、タッチオン判定される。
【0176】
ここで、e[iT]でなく、第1変化点f[(m−1)T]を使用する場合、必然的にf[iT]−f[(m−1)T]>Th3が成り立つ。以下、この根拠を説明する。g1[iT]はf[iT]とf[(i−1)T]との差分値である。時刻(m−1)Tから時刻iTまでにおいて、区間Tあたりの各々の差分値g1は次のとおりである。
・ g1[iT]=f[iT]−f[(i−1)T]
・ g1[(i−1)T]=f[(i−1)T]−f[(i−2)T]
・ g1[(m+1)T]=f[(m+1)T]−f[mT]
・ g1[mT]=f[mT]−f[(m−1)T]
次に、g1[mT]〜g1[iT]を加算すると、右辺のf[iT]、−f[(m−1)T]以外は消去され数式1となる。
・ g1[iT]+g1[(i−1)T]+・・・+g1[mT]=f[iT]−f[(m−1)T] (数式1)
S604のg1[iT]>Th4がTRUEになる区間が、max{(n−m)T}だけ続くとすると、数式2が成り立つ。
・ g1[iT]+g1[(i−1)T]+・・・+g1[mT]>Th4*max{(n−m)T} (数式2)
数式1、数式2の左辺である、g1[iT]+g1[(i−1)T]+・・・+g1[(m)T]を消去すると、f[iT]−f[(m−1)T]>Th4*max{(n−m)}となる。初期設定より、Th4=Th3/max(n−m)が成り立つので、Th4、max(n−m)を消去して、f[iT]−f[(m−1)T]>Th3となる。
ここで、f[(m−1)T]は第1変化点であり、S604のg1[iT]>Th4がTRUEになる区間が、max{(n−m)T}だけ続くと、Th4=Th3/max(n−m)より、必然的にf[iT]−f[(m−1)T]>Th3が成り立つ。一方、外挿点e[iT]を使用した場合について説明する。外挿点e[iT]は時刻(m−1)Tまでの緩やかな上昇傾向をもとに、(m−1)Tが過ぎても、緩やかな上昇傾向をもとに、時刻i時点での外挿点を算出するので、たいていf[(m−1)T]<e[iT]となるので、必ずしもf[iT]−e[(n−1)T]>Th3は成り立たない。
【0177】
外挿算出機構614は、タッチオン判定時の4チャンネルの外挿値の合計をe[(n−1)T]=2*f[(m−1)T]]―f[(2m―n―1)T]に確定する。また、各チャンネルの外挿値をech[(n−1)T]=2*fch[(m−1)T]]―fch[(2m―n―1)T]とし、これらの外挿値を外挿記憶機構に記憶させる。ここまででタッチオンが確定したので、次にタッチオフ判定に入る。
【0178】
次に、閾値算出機構608は、f[iT]*αをタッチオフ判定の第1閾値Th1とし、閾値記憶機構609に記憶させる(S616)。ここで、αは、第1実施形態と同様に、タッチオフ判定の第1閾値Th1を計算するためのパラメータである。例えば、αは0.6に設定する。次に、iを1つカウントアップする(S617)。
【0179】
次に、S602と同様にして、信号算出機構605は、信号の出力値f[iT]を取得する(S618)。
【0180】
次に、差分算出機構611は、S603と同様にして、第3単位時間当たりの信号の第2差分値g1[iT]を算出する(S619)。
【0181】
次に、接触判定機構610は、信号の出力値f[iT]と第1閾値Th1とを比較する(S620)。信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1より小さい場合、iを1つカウントアップしてから(S621)、S601に戻る。すなわち、タッチオフ判定され、次のタッチオン待ちとなる。一方、信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1以上である場合、位置算出機構616は、各チャンネル信号の出力値と各チャネルの外挿値との差(fch[iT]−ech[(n−1)T])を基に、指示体の位置を算出する(S622)。ここで、ech[(n−1)T]は、指示体が指である場合、掌の信号成分に相当する。すなわち、掌の信号成分の除いた値を基に指示体の位置を算出する。
【0182】
次に、変化判定機構613は、S619で算出した第2差分値g1[iT]と0とを比較する(S623)。第2差分値g1[iT]が0以下である場合、S624を経由せずに、S625に進む。一方、第2差分値g1[iT]が0より大きい場合、f[iT]*αを新たなタッチオフ判定の第1閾値Th1とする(S624)。次に、iを1つカウントアップしてから(S625)、S618に戻る。
【0183】
第6実施形態においては、信号の出力値fch[nT]から掌の接近に伴う影響を除去することによって、指示体の位置精度を高めることができる。位置精度に関して、タッチに伴う急峻な信号変化、すなわち第2単位時間(n−m)T当たりの信号変化はシグナル(S)成分となり、掌の接近に伴う緩やかな信号変化、すなわち第2単位時間(n−m)T以前の信号変化はノイズ(N)成分となる。第2変化点以降で信号の出力値fch[iT]が飽和すると、S612において第2差分値g1[iT]は第4閾値Th4より小さくなる。ここでは、信号の出力値fch[iT]が飽和した時刻nTでタッチオン判定されて、時刻(n+1)Tで、タッチしてからはじめの位置座標が算出される。信号の出力値fch[iT]が飽和してから位置座標を算出することによって、タッチに伴う急峻な信号変化すなわちシグナルをもれなく抽出し、S/Nを高めて、タッチしてからはじめての位置座標をより正確に算出することができる。
【0184】
また、S622における位置算出に付随して、マウスイベント等のタッチセンサ装置から反応があるが、信号の出力値fch[iT]が飽和した時刻(n+1)Tでは、指先とパネル表面とがきちんと接触した直後であるので、タッチセンサ装置からの応答の時刻は適切である。また、S622においては、位置算出を時刻(n+1)Tで実施したが、時刻nTで実施することも可能である。
【0185】
以上より、タッチ前後の信号の出力値f[iT]の時間変化をもとに、タッチオンか否かを判定する第2単位時間を自動的に調節して、掌の接近に伴う信号を推測する。そして、掌の接近に伴う影響を除去することによって、タッチオン誤判定を抑制しながらも、位置精度を改善するという効果を奏する。
【0186】
なお、S612で算出した外挿値の算出方法について、第1変化点以前の緩やかな信号変化をもとに近似式を算出し、第1変化点から時刻iTまで外挿して、外挿値をもとめてもよい。たとえば、近似式の算出方法については、{(m−6)T〜(m−1)T}のfch[iT]について、線形近似式を最小二乗法で算出してもよい。この場合、fch[iT]にノイズが重畳し、fch[iT]が変動する場合に、ランダムノイズが平均化されて除去されるので、外挿値をより正確に算出できる。
【0187】
S613及びS622において掌の接近に伴う信号に外挿値を使用したが、第1変化点を使用してもよい。外挿値と比べて、第1変化点の算出は簡単であり、算出する過程を大幅に減らすことが可能である。
【0188】
第6実施形態のその他の形態は、第1実施形態及び第3実施形態と同様である。
【0189】
次に、第7実施形態に係るタッチセンサ装置について説明する。
図19に、第7実施形態に係るタッチセンサ装置の概略断面図を示す。
図20に、第7実施形態に係るタッチセンサ装置の概略平面図を示す。第1実施形態においては、表面型静電容量方式タッチパネルを例にして説明したが、第7実施形態においては、投影型静電容量方式タッチパネルを例にして説明する。
図19は、投影型静電容量方式タッチパネル付LCDの断面模式図であり、
図20は、その平面模式図である。
図20においては、投影型の動作原理を簡潔に図示するため、
図19に示した保護ガラス705、タッチパネル基板703、LCD701の図示を省略してある。
【0190】
LCD701上に配されたタッチセンサ装置700は、LCD701上に形成され、図面上上下方向に延在する複数のY透明電極702と、Y透明電極702上に形成されたタッチパネル基板703と、タッチパネル基板703上に形成され、図面上左右方向に延在する複数のX透明電極704と、X透明電極704上に形成された保護ガラスと、X透明電極704及びY透明電極702の静電容量の変化を検知するコントローラ706と、を備える。X透明電極704とY透明電極は、マトリクス形状に構成されている。
【0191】
図20には、各X透明電極704が検出した静電容量をプロットしたグラフ及び各Y透明電極702が検出した静電容量をプロットしたグラフを示す。タッチセンサ装置700においては、X透明電極704及びY透明電極702に指示体23が近づくと、電極間の静電容量が増加し、コントローラ706がX透明電極704及びY透明電極702の静電容量の変化を検知し、指示体23の位置を検出する。X透明電極704及びY透明電極702の静電容量は指示体23の接触付近で極大値となる。
【0192】
また、投影型静電容量方式タッチパネルを例にとって説明したが、第1実施形態に示す第1閾値Th1をタッチのオン・オフのみを検出するタッチスイッチに適用してもよい。
【0193】
第7実施形態のその他の形態は、第1実施形態と同様である。
【実施例】
【0194】
[実施例1]
第1実施形態に係るタッチセンサ装置について、ベースライン補正をした信号の推移をシミュレーションすると共に、ドラッグ操作中に信号推移の低下があることを確認した。カバーガラスの厚さを0.5mmとし、タッチパネルに対して、指先、及び掌などの接近状態を変えた場合の検出信号値h(iT)、及び信号の出力値f(iT)の推移を
図21に示す。h(iT)、及びf(iT)は、電圧値から静電容量値に換算されている。信号の出力値f(iT)は上記式5に基づいて算出した。指示体は指先とした。
【0195】
図21を参照すると、指先、及び掌などの人体の接近が無い状態で、検出信号値h(iT)は5pFであったが、信号の出力値f(iT)は、ほぼ0であった(
図21のt=0〜0.2秒)。これは、ベースライン補正によって、寄生容量に伴う信号が、ベースラインによって相殺(キャンセル)されたことによる。また、指先、及び掌などの人体の接近がある状態においても、寄生容量に伴う信号がベースラインによってキャンセルされて、ユーザの動作に伴う信号が抽出される。t=0.2〜0.7秒において、掌などの人体の接近によって、信号が緩やかに上昇した。次に、掌を近づけてから、指先とLCDに表示されているアイコンなどとの水平方向の位置関係を、ユーザは無意識のうちに再確認する傾向が有り、位置関係がずれていれば指先の位置を調整する。そこで、指先がタッチパネルの表面に接触はしていないが、タッチパネルの表面と掌とが距離がほぼ一定に保たれており、掌の水平移動も無い状況を想定したところ、信号が4pFとほぼ一定であった(t=0.7〜0.9秒)。
【0196】
次に、指先がタッチパネルの表面に接触すると、信号が10pFに急峻に増加した(t=0.9〜0.95秒)。次に、タッチパネルの表面上で指先が静止しているか、もしくはドラッグ動作したところ、t=1.15〜3.75秒において、信号が増減した。ドラッグ動作中において信号が低下する傾向が見られ、t=2.35秒のとき信号が6.5pFと最も小さくなった。第1閾値が例えば6.5pF以上に設定されていた場合には、タッチオン中であってもタッチオフ判定されることになる。
【0197】
次に、タッチパネルの表面に対して指先が離脱すると、信号が8pFから4pFに減少した(t=3.75〜3.95秒)。次に、指先が離脱したものの、掌や腕が接近したままであると、信号が4pFと一定であった(t=3.95〜4.15秒)。次に、タッチパネルから掌や腕も遠ざかると、信号が減少した。(t=4.15〜4.65秒)。その後、信号が0pFとなった(t=4.65秒〜)。
【0198】
これより、指示体が接触しているドラッグ操作中に信号が低下することがあることが確認されると共に、誤判定されるおそれがあることも確認された。
【0199】
図21は、タッチに伴うf[iT]の時間変化、及び掌の接近に伴うf[iT]の時間変化を想定したシミュレーション結果であるが、上記シミュレーションと同じ条件で検出信号値h(iT)を測定した。
図22に、検出信号値h(iT)の測定結果を示す。
図22は、ベース補正前のデータであり、浮遊容量が約100pFと高くなっている。
図22によれば、シミュレーション結果と同様にして指示体が接触しているドラッグ操作中に信号が低下することがあることが確認された。
【0200】
[実施例2]
実施例で得られた信号推移に対して、
図2に示す第1実施形態に係るフローのように、タッチオン判定後、信号が上昇した場合にタッチオフ判定の第1閾値を更新し、信号が下降(又は一定)する場合は第1閾値を更新しないとして、第1閾値の推移を算出した。
図23に、第1閾値(Th1)の信号推移を示す。第1閾値の初期値は8pFと設定した。信号の推移は
図21と同じである。
【0201】
タッチパネルの表面に指先が接触し、信号が10pFまで高くなり、タッチオン判定された(t=0.9〜0.95秒)。
【0202】
次に、本実施例においては、
図2に示すフローチャートと異なり新たな信号の出力値を取得せずに、タッチオン判定された直後(t=0.95秒)、タッチオン判定された時の信号の出力値10pFと3回前の信号の出力値4pFとを比較する。タッチオン判定された時の信号の出力値のほうが大きいので、タッチオン判定された時の信号の出力値10pFを基に、タッチオン判定後の第1閾値を更新する。ここでは、感度αを0.6に設定した。第1閾値Th1=現在の信号(10pF)*感度(0.6)から、新たな第1閾値Th1は6pFと計算される。ここで、現在の信号は、信号が上昇中と判定されたループと同一のループで取得された信号である。ここで、ベースライン補正によって、寄生容量に伴う信号がキャンセルされているので、現在の信号(10pF)を基に第1閾値Th1を計算する場合、第1閾値Th1においても寄生容量に伴う成分を排除できる。このようにして、タッチセンサ装置の製造ばらつき、あるいはタッチセンサ装置の周囲環境の影響によって、寄生容量が変化しても、ベースライン補正によって、第1閾値Th1を適切に設定可能となる。
【0203】
信号が10.5pFから8.5pFに減少している期間(t=1.35〜1.55秒)では、第1閾値Th1は6.3pFのままで、更新されない。次のステップで、信号の出力値f[iT]と第1閾値Th1とを比較するが、信号が閾値より大きいので、タッチオフ判定されない。
【0204】
次に、信号の出力値f[iT]が8.5pFから9pFに増加している期間(t=1.55〜1.75秒)では、第1閾値Th1が5.1pF〜5.4pFに更新される。t=2.35秒においては、指先が接触中に信号の出力値f[iT]が6.5pFと最も小さくなるが、第1閾値Th1は4.5pFに更新されており、信号が第1閾値Th1より大きいので、タッチオフ誤判定されない。
【0205】
ここで、例えば、タッチオフ判定及びタッチオン判定の第1閾値Th1が8pFと一定であった場合、タッチオフ誤判定してしまうことになる。本実施形態の効果が得られる理由は、信号が増減を繰り返しながら、信号が概ね低下していく場合に第1閾値Th1を低く調整できることにある。
【0206】
次に、タッチパネルの表面に対して、指先が離脱し、信号が8pFから4pFに減少する(t=3.75〜3.95秒)期間では、信号が減少しているので第1閾値Th1は5.4pFから更新されない。信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1より小さくなったときに、タッチオフ判定する。このようにして、指先が離脱する場合には、確実にタッチオフ判定できる。この作用は、指先が離脱する場合に、信号が単調減少する傾向による。さらに、指先が離脱すると、信号の減少量が大きいので、閾値が更新されなければ、信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1より小さくなることによる。次に、指先が離脱したものの、掌などが接近している。このとき、信号が4pFと一定であったが(t=3.95〜4.15秒)、指先が離脱した時点で、既にタッチオフ判定されている。
【0207】
図23は、タッチに伴うf[iT]の時間変化、及び掌の接近に伴うf[iT]の時間変化を想定したシミュレーション結果であるが、上記シミュレーションと同じ条件で信号の出力値f[iT]及び第1閾値Th1の変化を測定した。
図24に、信号の出力値f[iT]及び第1閾値Th1の測定結果を示す。
図24によれば、シミュレーション結果と同様にして、指示体が接触しているドラッグ操作中に信号が低下すること、及び第1閾値Th1を低く調整できることが確認された。
【0208】
[実施例3]
第2実施形態に係るタッチセンサ装置について、信号の出力値の推移をシミュレーションした。
図25に、信号の出力値、第1閾値及び第2閾値の推移を示す。掌をタッチパネルに接近させた状態における信号の出力値が4pFであったので、第2閾値Th2は8pFに設定し、プログラム開始後に更新されない定数とした。
【0209】
図25は、タッチに伴うf[iT]の時間変化、及び掌の接近に伴うf[iT]の時間変化を想定したシミュレーション結果であるが、上記シミュレーションと同じ条件で信号の出力値f[iT]、第1閾値Th1及び第2閾値Th2の変化を測定した。
図26に、信号の出力値f[iT]、第1閾値Th1及び第2閾値Th2の測定結果を示す。
図26によれば、第1閾値Th1がシミュレーション結果と同様の変化をすることが確認された。
【0210】
[実施例4]
第3実施形態に係るタッチセンサ装置について信号の出力値の推移をシミュレーションした。
図27に、信号の出力値、差分値、第1閾値及び第2閾値の推移を示すグラフを示す。
図27においては、第3閾値の図示は省略してある。
【0211】
タッチパネルの表面に対して、掌が接近すると(t=0.2〜0.7秒)、信号の出力値が緩やかに上昇し、差分値g2[iT]は0.4pFであった。次に、タッチパネルの表面に掌が接近しているが、人指し指は掌の内にあり、静止しているとき(t=0.7〜0.9秒)、差分値g2[iT]はほぼ0pFであった。
【0212】
次に、タッチパネルの表面に指先が接触すると(t=0.9〜0.95秒)、信号の出力値が急峻に立ち上がり、この間の差分値g2[iT]の極大値は6pFであった。次に、タッチパネルの表面上で、指先が静止していると(t=0.95〜3.75秒)、差分値g2は0.2pF程度あった。タッチパネルの表面から指先が離脱すると(t=3.75〜3.8秒)、信号の出力値が急峻に立ち下がっており、この間の差分値g2[iT]の極小値は−6pFであった。
【0213】
指先が離脱直後(t=3.8〜4秒)、タッチパネルの表面に掌が接近したままであり、差分値g2[iT]はほぼ0pFであった。次に、タッチパネルの表面に対して掌が遠ざかると(t=4〜4.5秒)、差分値g2[iT]は−0.4pFであった。
【0214】
掌の接近する場合の差分値g2[iT]と比べて、指先の接触する場合の差分値g2[iT]は10倍以上であった。また、迷い指において、掌が接近しているものの、差分値はほぼ0であった。これらの差分値0.4pF〜6pFの間に第3閾値Th3を設定すれば、指先の接触と掌の接近とを判別できることが分かった。
【0215】
差分値は、第2単位時間設定に依存する。第2単位時間より短い期間の信号変化については、その信号変化を差分値としてそのまま抽出できる。一方、第2単位時間より、長く続く信号変化については、期間が長くなるにつれて差分値が減少する。
【0216】
図27を参照すると、指先の接触に伴う信号の立ち上がり時間は50msecであり、掌の接近に伴う信号変化は500msecであった。掌の接近に伴う信号変化を排除するためには、第2単位時間はなるべく短い方がよく、指先の接触に伴う信号を抽出するにはその信号の立ち上がり時間より短くないほうがよい。したがって、指先の接触に伴う信号の立ち上がり時間を予め測定し、その立ち上がり時間、あるいは立ち上がり時間を目安に第2単位時間を設定するのが好ましい。
【0217】
図27を参照すると、第2単位時間=50msecに対して、指先の接触に伴う信号変化は50msecであったので、指先の接触に伴う信号変化の6pFをそのまま、差分値として抽出されており、一方で、掌の接近に伴う信号変化は4pFであるのに対して、差分値は0.4pFと約1/10に減少している。これにより、第2単位時間を50msec前後に亘って設定することにより、指先の接触に伴う信号変化と、掌の接近に伴う信号変化とを区別できることが分かった。
【0218】
図27は、タッチに伴うf[iT]の時間変化、及び掌の接近に伴うf[iT]の時間変化を想定したシミュレーション結果であるが、上記シミュレーションと同じ条件で信号の出力値f[iT]、第1閾値Th1、第2閾値Th2及び差分値g2[iT]の変化を測定した。
図28に、信号の出力値f[iT]、第1閾値Th1、第2閾値Th2及び差分値g2[iT]の測定結果を示す。
図28によれば、シミュレーション結果と同様の結果が得られることが確認された。
【0219】
[実施例5]
第3実施形態に係るタッチセンサについて、指示体の離脱の動作速度を意図的に遅くした場合の信号の出力値及び差分値の推移をシミュレーションした。
図29に、信号の出力値、差分値、第1閾値及び第2閾値の推移を示すグラフを示す。
【0220】
指先の接触を解除する際、1秒間かけて指先を徐々に離脱した(t=3.75〜4.75秒)。このときの差分値g2[iT]は−0.3pFであり、掌が遠ざかるt=4.95〜5.45秒での差分値g2[iT]の−0.4pFとほぼ同じであった。これより、差分値g2[iT]のみをタッチ判定の指標に利用すると、タッチ判定が困難となってしまう場合があることが分かった。したがって、差分値のみならず、実施形態1に記載の信号の出力値自体をタッチ判定に利用することが好ましいことが分かった。
【0221】
図29は、タッチに伴うf[iT]の時間変化、及び掌の接近に伴うf[iT]の時間変化を想定したシミュレーション結果であるが、上記シミュレーションと同じ条件で信号の出力値f[iT]、第1閾値Th1、第2閾値Th2及び差分値g2[iT]の変化を測定した。
図30に、信号の出力値f[iT]、第1閾値Th1、第2閾値Th2及び差分値g2[iT]の測定結果を示す。
図30によれば、シミュレーション結果と同様の結果が得られることが確認された。
【0222】
[実施例6]
カバーガラスの厚さとタッチ判定との相関について検討した。
図31に、カバーガラスの厚さが異なる場合に、タッチパネルの表面と指先とが接触した場合の信号の出力値の推移と、掌とタッチパネルの表面との距離を10mmとして掌をかざした場合の信号の出力値の推移とを示す。
図32に、カバーガラスの厚さに対する信号の出力値の変化を示すグラフを示す。なお、タッチパネル901の表面と指示体である指先923とが接触した場合、実際はタッチパネル901の表面と掌との距離が数cmと接近するが、
図31、及び
図32においては、指先の接触に伴う信号を抽出するために、タッチパネル901の表面に掌が数cmまで接近することに伴う信号を無視する。
【0223】
保護層であるカバーガラス937の厚さが0.3mmの場合、「指先923の接触に伴う信号の出力値」は「掌をかざすことに伴う信号の出力値」よりも大きいので、これらの信号の出力値の間に閾値を設定すればタッチ判定が可能となる。しかし、カバーガラス937の厚さを1.0mmと厚くした場合、「指先の接触に伴う信号」は「掌をかざすことに伴う信号」よりも小さくなり、信号の大小関係が逆転し、単純に信号の大小関係を比較するだけでは、正確にタッチ判定することができなくなる。
【0224】
図31は、タッチに伴うf[iT]の時間変化、及び掌の接近に伴うf[iT]の時間変化を想定したシミュレーション結果であるが、上記シミュレーションと同じ条件で信号の出力値f[iT]の変化を測定した。
図32に、信号の出力値f[iT]の測定結果を示す。
図32に示す測定においては保護層の厚さdを0.2mmとした。
図32によれば、シミュレーション結果と同様の結果が得られることが確認された。
【0225】
次に、指先923の接触に伴う信号の出力値、及び掌をかざすことに伴う信号の出力値について、平行平板導体の静電容量のモデルで計算した。面積S[m
2]、間隔d[m]の2枚の平行導体の間に、誘電率εの誘電体が均一に充填されている物体の静電容量CはC=ε*S/dで示される。ここで、ε=ε
r*ε
0であり、ε
rは物体の比誘電率であり、ε
0は真空の誘電率8.8x10
−12(F/m)である。
【0226】
図32を参照すると、指先923の接触に伴う信号の出力値、及び掌をかざすことに伴う信号の出力値のカバーガラス937の厚さ依存性が示されている。指先923の接触に伴う信号の出力値Cfの計算について(式6)、平行平板を指先923と透明導電層939とすると、誘電体はカバーガラス937となる。従って、比誘電率は、カバーガラス937の4.0とし、面積は、指先923とタッチパネル901の表面との接触面積8×10
−5(m
2)とし、距離は、カバーガラス937の厚さd(変数)とした。
【0227】
Cf=8.8×10
−12×4×8x10
−5/d
=2.8×10
−15/d(F) (式6)
【0228】
一方、掌をかざすことに伴う信号の出力値Chの計算については、平行導体を掌と透明導電層939とし、誘電体を大気とカバーガラス937とした。従って、これらの静電容量を直列接続して合成した(式7)。
【0229】
1/Ch=1/Ca+1/Cc (式7)
ここで、Caは大気の静電容量、Ccはカバーガラス937の静電容量とする。
【0230】
大気の静電容量Caの計算については(式8)、比誘電率は空気の1.0とし、面積は掌の面積5×10
−3(m
2)とし、距離は掌とタッチパネル901の表面との距離10mmとした。
【0231】
Ca=8.8×10
−12×1×5×10
−3/1×10
−2
=4.5×10
−12(F) (式8)
【0232】
カバーガラス937の静電容量Ccの計算については(式9)、比誘電率はカバーガラス937の4.0とし、面積は掌の面積5x10
−3(m
2)とし、距離はカバーガラス937の厚さd(変数)とした。
【0233】
Cc=8.8×10
−12×4×5×10
−3/d
=1.8×10
−13/d(F) (式9)
【0234】
式7、8、9より、
Ch=1.8×10
−13/(d+0.04) (F) (式10)
【0235】
図32において、カバーガラス937が厚くなるにつれて、指先923の接触に伴う信号の出力値は顕著に減少するが、掌をかざすことに伴う信号の出力値ほぼ一定となる。カバーガラス937の厚さが0.65mmより厚い場合は、指先923の接触に伴う信号の出力値が掌をかざすことに伴う信号の出力値より小さくなり、と大小関係が逆転する。この大小関係が逆転する厚さは、カバーガラス937の厚さの許容範囲の目安になる。この原因は、式6を参照すると、指先923の接触に伴う信号の出力値Cfは、カバーガラス937の厚さdに反比例する。一方、掌をかざすことに伴う信号の出力値は、掌とカバーガラス937の表面との距離に大きく依存性するが、この距離を一定に保つ条件下においては、カバーガラス937の厚さの依存性は非常に小さいことによる。以上より、単純に静電容量の大小関係を比較してタッチ判定する場合には、カバーガラス937が厚くなると正確なタッチ判定が困難となる。
【0236】
同様のことは、ユーザが手袋を装着した場合にも顕出される。すなわち、指先が接触する場合に、掌や腕などの人体の一部もタッチパネルに接近し、掌などと透明導電層とで静電容量が形成される。しかし、手袋を装着した指先と透明導電層とで形成される静電容量は小さくなるので、相対的に掌などの接近による影響が増加してしまうためである。
【0237】
そこで、指先の接触に伴う差分値(ΔCf)及び掌の接近に伴う差分値ΔChを計算する。指先の接触に伴う差分値(ΔCf)は、式6、第2単位時間設定=50msec、及び信号変化時間 =50msecを基に計算される(式11)。掌の接近に伴う差分値(ΔCh)は式10、第2単位時間設定=50msec、及び信号変化時間=500msecを基に計算される(式12)。
【0238】
ΔCf= Cf×(第2単位時間設定)/(信号変化時間)
=2.8×10
−12/d×50msec/50msec
=2.8×10
−12/d (式11)
ΔCh=Ch×(第2単位時間設定)/(信号変化時間)
=1.8×10
−13/(d+0.04)×50msec/500msec
=1.8×10
−14/(d+0.04) (式12)
但し、(信号変化時間)≦(第2単位時間設定)の場合、(第2単位時間設定)/(信号変化時間)=1とする。
【0239】
図34に、式11、12を基に、カバーガラスの厚さを変えて差分値を計算した結果を示す。
図34を参照すると、指先の接触に伴う差分値と比べて、掌の接近に伴う差分値が大きくなるカバーガラスの厚さは7.2mmであった。
図32の信号の大小のみを比較した場合と比べて、タッチ判定の指標に差分値を利用すると、カバーガラスの厚さの許容範囲が約10倍になるという顕著な効果があった。
【0240】
次に、掌の接近による影響を大幅に低減したことで、より小さな静電容量変化を検出可能になったので、手袋入力対応の可否を調べた。素手に手袋を装着して、タッチパネルの表面に接触すると、指先と透明導電層との間に静電容量が形成される。指先と透明導電層との間には手袋とカバーガラスが存在し、静電容量は、手袋とカバーガラスとに蓄積される静電容量の直列接続されたものとなる。手袋とカバーガラスとの比誘電率が等しいと近似すると、手袋の肉厚の分、カバーガラスが厚くなったものと等価と見なせる。
【0241】
図35に、ビニル製の手袋を装着して、信号の出力値、差分値及び第1閾値の推移をシミュレーションした結果を示す。
図35においては、第1閾値Th1の図示は省略してある。手袋は、肉厚が0.5mmのビニル製のものを使用した。
図28などの素手(裸指)の場合と比べて、手袋を装着した場合の接触に伴う差分値は3pFと約1/2になったが、差分値を利用し、掌の接近に伴う差分値0.4pFと比べて、接触に伴う差分値3pFは十分大きく、第3閾値Th3をこれらの間に設定すれば、掌の接近と指先の接触とを判別可能であることが確認された。また、手袋を装着した場合の接触に伴う差分値3pFより、第3閾値Th3を小さく設定すれば、手袋を装着した場合よりも素手で接触した場合の信号が大きいので、同一の設定によって、手袋装着の指先の接触と素手の指先の接触とのどちらの場合に対しても、正確にタッチ判定可能となることも確認された。例えば、手袋を装着した場合の接触に伴う信号3pFの30%〜100%の間でth3を設定すると好ましい。
【0242】
図35は、タッチに伴うf[iT]の時間変化、及び掌の接近に伴うf[iT]の時間変化を想定したシミュレーション結果であるが、上記シミュレーションと同じ条件で信号の出力値f[iT]、第1閾値Th1、及び差分値g2[iT]の変化を測定した。手袋として、肉厚0.20mmの合成樹脂素材のものを使用した。
図36に、信号の出力値f[iT]、第1閾値Th1、及び差分値g2[iT]の測定結果を示す。
図36によれば、手袋を使用しても正確なタッチ判定が可能であることが確認された。
【0243】
タッチ判定の指標に差分値を利用することによって、掌の接近に伴う影響を大幅に低減できるので、掌の接近と指先との接触とを判別できることが分かった。これにより、より厚いカバーガラスを使用することが可能となると共に、手袋を装着して入力することが可能となる。
【0244】
[実施例7]
タッチセンサ装置と指示体間の距離を変えながら、信号の出力値をシミュレーションした。
図37に、測定に使用した試験機の概略斜視図を示す。実施形態1と実質的に同様の構成に関しては実施形態1と同じ符号を使用する。試験機90にはステージ84が設けられており、ステージ84上にタッチパネル101の表面を上に向けて電子機器1を配置した。指示体(剛体)80の先端部80aは導体であり、先端部80aと試験機90における回路のグランド(基準電位ノード)とが電気的に接続されている(図示せず)。先端部80aの下面の面積を35(cm
2)と、指先の接触面積の40倍程度にして、指示体80とタッチパネル101の表面との距離Lが数mmと離れていても、指示体80と透明導電層39との間に、指先の接触に伴う静電容量と同等の静電容量が形成されるようにした。指示体80の本体部80bの表面は絶縁性であり、側面に距離センサ装置82が取り付けられている。距離センサ装置82には、距離Lの測定結果が表示される表示器が取り付けられている(図示せず)。本体部80bと、指示体80の高さを制御するモーターを内蔵したユニット86とが接続されている。また、ユニット86とスタンド88とが接続されている。
試験機90にはマイクロコントローラが内蔵されており(図示せず)、マイクロコントローラに組み込まれたプログラムによって、電子機器1が搭載するタッチパネル101の表面と指示体80との距離Lを自動で制御し、その時のタッチパネル101と指示体80との距離Lをモニタする。指示体80の昇降によって、タッチパネル101の表面をドラッグ動作した場合のタッチセンサ装置100で検出される静電容量の増減、もしくはタッチパネル101の表面に対して、指先を離脱した場合の静電容量の単調減少と同等の信号を与えることが可能となる。すなわち、ユーザがタッチセンサ装置100を操作する場合と同等な静電容量変化を、本試験機90からタッチセンサ装置100に与えることが可能となる。また、タッチセンサ装置100が静電容量変化を受けて、タッチセンサ装置1が外部にマウスイベントなど情報発信することによって、タッチセンサ装置100が搭載する本発明の機能をより客観的に調べることが可能となる。
【0245】
図38に、指示体80を単調上昇させた場合の信号の出力値、第1閾値及び距離のシミュレーション推移を示す。距離センサ装置82で測定した距離Lもあわせて示す。信号の出力値f[iT]、第1閾値Th1、及び第2閾値Th2の値は、グラフの左側の縦軸の静電容量の目盛りを使用した。また、距離Lの値は、右側の縦軸の距離の目盛りを使用した。
図39についても、グラフの縦軸の使用方法については
図38と同様である。タッチセンサ装置100のタッチ判定のプログラムとして、実施形態2に係る8に示すフローを使用した。
【0246】
まず、タッチパネル101の表面と指示体80との距離Lを30mmに保つ(時間経過t=0〜5秒)。次に、タッチパネル101の表面に対して指示体80を接近させていくと、信号の出力値f[iT]が第2閾値Th2=8pFより大きくなった時に、タッチオン判定された。このとき、電子機器1に搭載された表示器に表示されているポインタが選択された。次に、タッチパネル101の表面と指示体80との距離Lが3mmと接近すると、信号の出力値は10pFで一定となった(t=15〜20秒)。この時のタッチオフ判定の第1閾値Th1は6pFであった。
【0247】
次に、タッチパネル101の表面と指示体80との距離Lを離していくと、静電容量が単調減少していった(t=20〜95秒)。第1閾値Th1が6pFから更新されずに、信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1より小さくなったときに、タッチオフ判定された。このときの信号は6pFであり、距離Lは5.1mmであった(t=53.5秒)。
【0248】
図39は、指示体80の昇降を繰り返しながら、タッチパネル101の表面から指示体80を離していった場合の信号の出力値、第1閾値及び距離のシミュレーション推移を示す。タッチオン判定までは、
図38の動作と同様であり、説明を省略する。
【0249】
指示体80の昇降を繰り返して、タッチパネル101の表面から指示体80を離していった(t=20〜95秒)。タッチパネル101の表面から指示体80が離れるにつれて、信号の出力値f[iT]が概ね小さくなっていくが、指示体80が下降する期間で、指示体80とタッチパネル101の表面とが一旦近づくので、信号の出力値f[iT]が上昇し、第1閾値Th1が更新されるので、時間経過ともに概ね第1閾値Th1も低下していく。信号の出力値f[iT]が第1閾値Th1より小さくなった際に、タッチオフ判定された。このときの信号は2.4pFであり、距離Lは12.8mmであった(t=84秒)。
【0250】
図38の試験結果と
図39の試験結果とを比較すると、タッチオフ判定される際の距離Lが異なる。すなわち、指示体80の昇降を繰り返して、タッチパネル101の表面から指示体80を離していった方が、タッチオフ判定される際の距離Lが長くなった。これは、指示体80を単調上昇した場合と比べて、昇降を繰り返して離していった方が、タッチオフの第1閾値Th1が更新される期間があるので、タッチオフ判定される際の静電容量が小さくなることによる。
【0251】
次に、信号増減の周波数設定について
図39を参照して説明する。t=20〜25秒において信号の出力値f[iT]が減少し、t=25〜30秒においては信号の出力値f[iT]が増加している。信号が減少してから増加するt=20〜30秒の間を1周期(信号増減の周期)とすると、ここでは信号増減の周期は10秒であった。周波数は周期の逆数なので、信号が増減の周波数は0.1Hzであった。ここで、信号の出力値は距離Lに概ね反比例し、信号の出力値の増減は、指示体80の昇降によって制御されるので、信号増減の周波数と、指示体80の昇降の周波数とは同じ値となる。
【0252】
次に、指示体80の昇降を繰り返しながら上昇させていく動作において、信号増減の1周期あたりの指示体80の距離の上昇量について、
図39を参照して説明する。t=20〜25秒の間に信号の出力値f[iT]が10pFから8pFに減少し、t=25〜30秒においては信号の出力値f[iT]が8pFから9pFに増加している。従って、信号増減の1周期において、2pF減少してから1pF増加しているので、これらを加算すると1pF減少している。信号増減の全ての周期において、信号減少量を2pF、信号増加量を1pFとしている。
【0253】
第1回の信号増減(t=20〜30秒)を第1周期とし、q回目の周期を第q周期とすると、第7周期のt=80〜85secの間に、信号が4pFから2pFに減少する際に、信号の出力値が第1閾値Th1より小さくなり、タッチオフ判定された。これは、第q周期が後になるにつれて、信号の出力値が概ね低下していくので、その時の信号に対して、信号増減の1周期あたりの信号減少が相対的に大きくなることによる。具体的には、第1閾値Thは、第1閾値Th1=接触中の信号c×感度(α=0.6)で計算したので、信号増減の1周期において、信号の出力値が40%以上減少する期間があると、信号の出力値が第1閾値Th1より小さくなり、タッチオフ判定される。
【0254】
[実施例8]
第6実施形態に係るタッチセンサ装置についてチャンネル信号の出力値の推移を測定した。設定条件は、上記第6実施形態に示した例と同じとした。
図40に、チャンネル信号の出力値の推移を示すグラフを示す。
図41に、4つのチャンネル信号の出力値の和の推移を示すグラフを示す。実施例8においては、第2単位時間(n−m)T当たりの信号の差分値が第3閾値Th3=1.5pFより大きい場合、タッチオン判定される。ここで、第2単位時間は(n−m)T=2*16ミリ秒=32ミリ秒とした。
図40の第2単位時間は、これ以前の緩やかな信号変化を含まず、かつ急上昇している信号変化をもれなく抽出している。第6実施形態のアルゴリズムを使用すれば、掌の接近に伴う信号とタッチに伴う信号とを区別できる。
【0255】
第2単位時間(n−m)Tの上限値をmax{(n−m)T}=80ミリ秒と初期設定したので、タッチ毎の状況に応じて16ミリ秒乃至80ミリ秒と自動的に調節された。ここで、パネル表面に向けて掌を勢いよく接近させて、掌とパネル表面とが接触する寸前で止めるという試験を行った。max{(n−m)T}を160ミリ秒とした場合、本試験においてタッチオン判定された。これは、指示体とパネル表面とが接触していないので誤判定である。一方、上限値max{(n−m)T}=80ミリ秒とした場合は、タッチオン判定されなかった。したがって、第2単位時間(n−m)Tを自動で調整するとともに、max{(n−m)T}=80ミリ秒に設定することによって、掌の接近に伴うタッチオン誤判定を抑制できることが分かる。
【0256】
次に、第6実施形態の効果を検証するために、右手の人さし指を使用してパネル表面をタッチし、タッチセンサ装置が算出したポインタの位置を測定した。
図42に、
図40に説明を付したものを示す。まず、掌の接近に伴う影響について説明する。タッチオン直後に、単にfch[nT]を基に指示体23の位置を算出した場合、パネル表面と指とが接触した箇所を基準に、ポインタ630の位置がX方向に+8mm(右方向)、Y方向に−20mm(タッチする人の手前方向)ずれた。タッチした右手の人差し指に対して、右手の掌はおおむね右手前に位置しており、ポインタの位置ずれ方向と一致しており、ポインタの位置ずれの原因は掌の接近に伴う影響が存在していることが分かる。これに対して、タッチオン直後に、fch[(nT)]から掌の接近に伴う信号を除去し、位置を算出した場合、ポインタ630の位置ずれは指の接触位置からX方向、Y方向ともに1mm以下と大幅に改善された。
【0257】
[実施例9]
第7実施形態に係るタッチセンサ装置を用いて信号の出力値f[iT]及び第1閾値Th1の変化を測定した。閾値更新等の設定条件は第3実施形態と同様である。
図43に、信号の出力値f[iT]及び第1閾値Th1の測定結果を示す。全てのX透明電極704及びY透明電極702で検出された静電容量の合計をタッチに伴う容量f[iT]とする。Tは16ミリ秒とした。出力値f[iT]ははじめほぼゼロから緩やかに上昇した後に急上昇してから飽和した。第1実施形態と同様に、f[iT]が急上昇中にタッチオン判定されて、タッチオフの閾値である第1閾値Th1がf[iT]をもとに算出された。
【0258】
ここで、信号の出力値f[iT]は全てのX透明電極704及びY透明電極702で検出された静電容量の合計としたが、X方向の静電容量の極大値とY方向の静電容量の極大値を合計した値を使用してもよい。
【0259】
本発明のタッチセンサ装置及びその制御方法、電子機器並びにプログラムは、上記実施形態に基づいて説明されているが、上記実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、上記実施形態に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができることはいうまでもない。また、本発明の請求の範囲の枠内において、種々の開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0260】
本発明のさらなる課題、目的及び展開形態は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。