(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-223373(P2015-223373A)
(43)【公開日】2015年12月14日
(54)【発明の名称】医療用容器
(51)【国際特許分類】
A61J 1/10 20060101AFI20151117BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20151117BHJP
【FI】
A61J1/00 330Z
A61B1/00 330C
A61B1/00 334Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-110651(P2014-110651)
(22)【出願日】2014年5月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】内橋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】谷地 貴道
【テーマコード(参考)】
4C047
4C161
【Fターム(参考)】
4C047AA11
4C047BB12
4C047BB13
4C047BB17
4C047CC04
4C047DD22
4C047DD32
4C161GG16
4C161HH04
4C161HH56
4C161JJ03
4C161JJ20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】定量排出が可能で、薬液が逆流することがなく、廃棄の際には減容化することが可能で低コスト化も可能な医療用容器を提供する。
【解決手段】口部3と底部5を有し、胴部2が複数のリング状頂部4a、4b、4cを有する蛇腹状とされており、リング状頂部の寸法が底部に向かって次第に縮小され、且つ、リング状頂部から口部に向かって傾斜する斜面に比べて、リング状頂部から底部に向かって傾斜する斜面の方が急峻である。胴部の底部は球面形状とされており、薬液を排出した後には球面形状の底部が反転する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口部と底部を有し、胴部が複数のリング状頂部を有する蛇腹状とされており、
前記リング状頂部の寸法が底部に向かって次第に縮小され、且つ、前記リング状頂部から口部に向かって傾斜する斜面に比べて、前記リング状頂部から底部に向かって傾斜する斜面の方が急峻であることを特徴とする医療用容器。
【請求項2】
内視鏡に設けられた導入口より薬液を送液する医療用容器であることを特徴とする請求項1記載の医療用容器。
【請求項3】
少なくとも前記胴部が、環状ポリオレフィン層とポリオレフィン層とを有する積層フィルムからなることを特徴とする請求項1または2記載の医療用容器。
【請求項4】
前記胴部の底部が球面形状とされており、薬液を排出した後に前記球面形状の底部が反転していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の医療用容器。
【請求項5】
前記胴部が、リング状頂部を3つ有する3段の蛇腹であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の医療用容器。
【請求項6】
前記胴部が、リング状頂部を2つ有する2段の蛇腹であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の医療用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内視鏡の導入口から薬液を送液するために用いられる医療用容器に関するものであり、減容化が可能で薬液が逆流することのなくシリンジ代替えとなる新規な医療用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種薬液が充填される医療用の容器として、例えばプラスチックをブロー成形したブロー成形ボトルやブロー成形バッグ等が用いられている。ブロー成形によれば効率的に容器を製造することが可能であり、近年では、バイアルと称される医療用の容器もブロー成形技術により製造されるようになってきている。
【0003】
近年では、医療技術の進歩に伴い、用いられる医療用容器の形態も多様化しており、医療過誤を防止するため、事前に定量薬液が充填された製品を用いるケースが増えている。容器形態としては、いわゆるシリンジが使用されることが多く、いわゆるプレフィルドシリンジと称される形態で供給されている。
【0004】
例えば、内視鏡の使用に際して、鉗子口等を導入口として体内に薬液を注入することが行われており、薬液を送液するために前記プレフィルドシリンジが用いられている。また、送液の作業性等を考えると、前記シリンジでは必ずしも作業性が良好ではなく、これを改善するために、シリンジに代わる薬液注入具も提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0005】
特許文献1では、球形の容器本体を押し潰すことで容器本体内の薬液を送液するようにした薬液注入具や、蛇腹状の薬液注入具が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−49595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述のプレフィルドシリンジや特許文献1に記載される薬液注入具は、未だ改良すべき点も多く、その改善が望まれている。例えば、プレフィルドシリンジの場合、製造コストの問題がある。使用する薬液によっては、シリンジを構成する樹脂に成分が吸着され、濃度変化が発生する場合がある。そのような場合、薬効成分を吸着することが少ない環状ポリオレフィン樹脂等を使用する必要があるが、環状ポリオレフィンは価格が高く、シリンジのような単層構成のものを剛性を維持し得る厚さで形成すると、樹脂の使用量が増えて、高価なものとなる傾向にある。薬価が高い製品の場合、多少高価であっても使用することは可能であるが、後発薬等においては包装材のコストダウンが必須であり、高価な容器の使用は避けなければならない。
【0008】
また、シリンジの場合、減容化が難しいという問題もある。医療用容器は、使用後に廃棄する際に減容化できることが好ましいが、シリンジを押し潰すことは難しく、そのまま廃棄せざるを得ない。これは廃棄物処理において、処理効率の低下につながる。
【0009】
一方、特許文献1に記載されるような球形の容器本体を押し潰すことで容器本体内の薬液を送液するようにした薬液注入具や、蛇腹状の薬液注入具の場合、製造コストの削減は可能となるが、性能面で課題が多い。例えば、球形や蛇腹状の薬液注入具の場合、薬液を残らず排出することは難しい。定量排出が求められる場合、薬液を全て速やかに排出することが求められる。
【0010】
また、球形や蛇腹状の薬液注入具の場合、逆流の問題もある。球形や蛇腹状の薬液注入具では、押圧力を加えることで薬液が排出されるが、押圧力を解放すると、元の形状に戻ろうとする力が働き、これが薬液の逆流につながる可能性がある。
【0011】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、定量排出が可能で、薬液が逆流することがなく、廃棄の際には減容化することが可能な医療用容器を提供することを目的とする。また、本発明は、シリンジに比べて製造コストを大幅に削減することが可能な医療用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の目的を達成するために、本発明の医療用容器は、口部と底部を有し、胴部が複数のリング状頂部を有する蛇腹状とされており、前記リング状頂部の寸法が底部に向かって次第に縮小され、且つ、前記リング状頂部から口部に向かって傾斜する斜面に比べて、前記リング状頂部から底部に向かって傾斜する斜面の方が急峻であることを特徴とする。
【0013】
蛇腹状の医療用容器は、シリンジと異なり、手軽に送液が可能であり、低コスト化が可能で、減容化による廃棄も容易であるという特徴を有する。ただし、単なる蛇腹状としたのでは、押圧力を解放した際に逆流するおそれがあり、定量排出も難しい。本発明の医療用容器では、胴部を蛇腹状とするとともに、その形態を最適化しているので、内部の薬液が余すところなく排出され、定量排出が実現可能である。また、押し潰した後には、形状が反転して元の形状に戻ろうとする力が働かなくなり、逆流が抑制される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、定量排出が可能で、薬液が逆流することがなく、廃棄の際には減容化することが可能な医療用容器を提供することが可能である。また、本発明によれば、シリンジに比べて製造コストを大幅に削減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態にかかる医療用容器を示す概略斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態にかかる医療用容器の形状を説明する図である。
【
図3】本発明の実施形態にかかる医療用容器を使用して薬液の送液が行われる内視鏡の一例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態にかかる医療用容器の使用後の形態を示す概略斜視図である。
【
図5】本発明の他の実施形態を示す概略側面図である。
【
図6】本発明のさらに他の実施形態を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した医療用光容器の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の医療用容器1は、胴部2に薬液を排出するためのノズル3を口部として設けたものであり、胴部2は、山部と谷部が交互に形成された蛇腹状とされている。各山部の頂部は、先端が尖ったリング状頂部となっており、本実施形態の医療用容器1の場合、3段の蛇腹とされ、3つのリング状頂部4a,4b,4cを有している。
【0018】
また、胴部2の底部5は、球面形状を有しており、前記蛇腹状の胴部2の形状を最適化することと相俟って、薬液の定量排出や逆流防止を実現するようにしている。以下、蛇腹状の胴部2の形状的特徴について説明する。
【0019】
本実施形態の医療用容器1において、前記の通り胴部2が蛇腹状とされているが、その形態は単なる蛇腹ではない。先ず第1に、
図2に破線で示すように、蛇腹状の胴部2の寸法は、底部に向かって次第に縮小されている。すなわち、各リング状頂部4a,4b,4cの外径寸法は同じではなく、ノズル3に近い側のリング状頂部4aの外径寸法が最も大きく、底部5に最も近いリング状頂部4cの外径寸法が最も小さい。
【0020】
外径寸法の縮小の程度であるが、例えばリング状頂部4a,4b,4cの外径寸法を1mmずつ小さくする。勿論これに限らず、1.5〜2mm程度ずつ小さくすることも可能である。
【0021】
前述のように蛇腹状の胴部2の寸法を段々小さくなる形状とすることで、医療用容器1を押し潰した際に、各蛇腹が反転し、医療用容器1内の液残りやエアー残りを僅かなものとすることができる。液残りを少なくすることで、定量排出が可能となる。
【0022】
また、第2に、蛇腹状の胴部2においては、前記リング状頂部4a,4b,4cを挟んでノズル3側及び底部5側にそれぞれ斜面が形成されて山部とされているが、本実施形態の医療用容器1においては、底部5側の斜面6とノズル3側の斜面7は、その傾斜角度が同じではない。底部5側の斜面6の方がノズル3側の斜面7よりも急峻とされている。2段目の山部を例に角度で示すと、リング状頂部4bにおける水平断面に対する底部5側の斜面6の傾斜角度をα、ノズル3側の斜面7の傾斜角度をβとすると、α<βである。具体的角度としては、例えば、斜面6の傾斜角度αが35°、斜面7の傾斜角度βが45°である。傾斜角度αと傾斜角度βの差は10°程度とすることが好ましい。
【0023】
胴部2を蛇腹状とした場合、斜面6と斜面7の傾斜角度を同じにすると、押し潰した際に元に戻ろうとする力が働き、薬液の逆流の原因となる。それに対して、押し付ける側(底部5側)の斜面6を急峻にすると、反発し難くすることができる。
【0024】
底部5の球面形状であるが、その曲率半径Rは40mm以下であることが好ましい。曲率半径Rが
40mmを超えると、反転させるために強く押す必要が生ずる。本実施形態では、何度も使用する際に使い勝手が悪くなるため、底部5の球面形状の曲率半径Rを40mm以下とすることで、容易に反転可能な形状とした。
【0025】
以上が形状的な特徴であるが、次に、本実施形態の医療用容器1の材質について説明する。本実施形態の医療用容器1は、内視鏡等で使用する薬液を収容するものであり、薬効成分の吸着の少ない材質を用いることが好ましい。また、滅菌については、薬剤が経口投与されるものであり、輸液のように無菌保証の必要がないため、80℃程度の殺菌処理で対応が可能である。
【0026】
このような状況から、本実施形態では、医療用容器1の層構成を多層構成とし、内層を例えば環状ポリオレフィン(COP)やポリエチレンテレフタレート(PET)等により構成している。外層はポリプロピレン(PP)や直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)等であり、これらを接着層を介して積層する。
【0027】
環状ポリオレフィンは、環内にエチレン性二重結合を有する重合性の環状オレフィンを少なくとも重合成分とする樹脂であり、重合成分である環状オレフィンは、単環式オレフィンであってもよく、多環式オレフィンであってもよい。
【0028】
前記環状オレフィンとしては、公知のものがいずれも使用可能であるが、代表的なものとしては、ノルボルネン類、シクロペンタジエン類、ジシクロペンタジエン類、さらにはノルボルネン類とシクロペンタジエンとの縮合により得られる多環式オレフィン等を例示することができる。
【0029】
また、前記環状ポリオレフィン系樹脂は、1種類の環状オレフィンの単独重合体であってもよいし、種類の異なる環状ポリオレフィンの共重合体(例えば、単環式オレフィンと多環式オレフィンとの共重合体等)であってもよい。あるいは、環状オレフィンと他の共重合性単量体との共重合体であってもよい。この場合、他の共重合性単量体としては、例えば、エチレンやプロピレン等の鎖状オレフィン、(メタ)アクリル系単量体、不飽和ジカルボン酸又はその誘導体、重合性ニトリル化合物、ビニルエステル類、共役ジエン類等を挙げることができる。
【0030】
前記多層構成において、環状ポリオレフィン(内層)の厚さは、全体の20%以下とすることが好ましい。環状ポリオレフィンからなる層の厚さが厚くなると、柔軟性に欠けることになり、反転押し潰しが速やかに進行しなくなるおそれがある。本実施形態の医療用容器1においては、薄肉化が可能であり、また、高価な環状ポリオレフィンの比率を少なくすることができるので、環状ポリオレフィン単層からなるシリンジと比べて、製造コストを大幅に削減することが可能である。
【0031】
次に、前述の本実施形態の医療用容器1の使用方法について説明する。
図3は、本実施形態の医療用容器1により薬液を送液する内視鏡11の一例を示すものである。内視鏡11は、細長い可撓性を有する挿入部13と、その基端に設けられた操作部12とを基本構成とするものであり、挿入部13を体内に挿入することで、体内の観察等が行われる。また、操作部12には、薬液を供給するための薬液導入口14が設けられており、ゴム栓等で密封されているが、ここに本実施形態の医療用容器1のノズル3を貫通・挿入して、内部の薬液を送液する。
【0032】
医療用容器1内に収容される薬液は任意であるが、例えば内視鏡11による上部消化管内視鏡検査の際に、胃部の蠕動運動を抑制するための薬液(例えば、L−メントール等)を挙げることができる。
【0033】
医療用容器1による薬液送液の際には、医療用容器1内に、薬液とともに少量のエアーを入れておく。エアー量は少量で良く、例えば10〜20mL程度である。使用時には、医療用容器1を逆さにし、底部5を押して医療用容器1内の薬液を送液する。底部5を押し込むことで、蛇腹状の胴部2が順次反転して潰れていく。これに伴い、医療用容器1内の薬液が体内に送り込まれる。
【0034】
医療用容器1内の薬液が全て送り込まれると、最後に残存するエアーが送る込まれる。それにより、内視鏡11の経路内に滞留する薬液が全て体内へと送り込まれ、定量排出される。
【0035】
図4は、送液完了後の医療用容器1の形態を示すものである。内部の薬液を全て送液した後には、蛇腹状の胴部2が順次反転して潰れ、球面形状の底部5も反転する。また、反転した状態が元に戻ることはない。これにより、使用後の医療用容器1の減容化が図られ、廃棄等も容易である。
【0036】
以上、本発明を適用した実施形態についてを説明してきたが、本発明が前述の実施形態に限られるものでないことは言うまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、多様な変更または改良を加えることが可能である。
【0037】
例えば、先の実施形態においては、ノズル3を一体に形成したが、
図5に示すように、ノズル部分をねじタイプにして容器本体に対して着脱可能とすることもできる。この場合、胴部2に外周面にネジ山を形成した口部8を設けておき、ノズル3側にもこれに対応するキャップ部9を形成し、これらを螺合することで装着する。
【0038】
この場合、ノズル3を2段形状にして、内視鏡11のゴム栓を貫通しやすいように先端を細く設定することも可能である。また、薬液の表面張力が低くても、液漏れしにくくさせる効果も得ることができる。
【0039】
また、先の実施形態では、蛇腹状の胴部2は、3段の蛇腹状としたが、
図6に示すように2段の蛇腹状とすることもできる。この場合には、2つのリング状頂部4a,4bを有することになる。勿論、これに限らず、内容量等に応じて段数は任意に設定することができ、例えば4段、5段の蛇腹状とすることもできる。
【符号の説明】
【0040】
1 医療用容器
2 胴部
3 ノズル
4a,4b,4c リング状頂部
5 底部
6 斜面(底部側)
7 斜面(ノズル側)