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特開2015-223566溶液イオン濃度の調整装置および溶液イオン濃度の調整方法、並びにpH緩衝液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-223566(P2015-223566A)
(43)【公開日】2015年12月14日
(54)【発明の名称】溶液イオン濃度の調整装置および溶液イオン濃度の調整方法、並びにpH緩衝液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20060101AFI20151117BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20151117BHJP
   B01D 61/54 20060101ALI20151117BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20151117BHJP
【FI】
   C02F1/46 103
   B01D61/46 500
   B01D61/54
   B01D61/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-110351(P2014-110351)
(22)【出願日】2014年5月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成25年11月28日、第30回イオンクロマトグラフィー討論会実行委員会発行の第30回イオンクロマトグラフィー討論会講演要旨集、p71において発表 [刊行物等] 平成25年11月29日、第30回イオンクロマトグラフィー討論会、(株)豊田中央研究所 厚生センター アクタス(愛知県長久手市)、Poster Presentation:P−20において発表
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】大平 慎一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 敬
【テーマコード(参考)】
4D006
4D061
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006HA42
4D006KA52
4D006KA55
4D006KA56
4D006KA67
4D006KE15P
4D006KE17Q
4D006KE18Q
4D006MA03
4D006MA13
4D006MA14
4D006PA10
4D006PB02
4D061DA02
4D061DB20
4D061EA02
4D061EA09
4D061EB04
4D061EB13
4D061EB19
4D061EB37
4D061EB39
4D061FA20
4D061GA22
4D061GC12
4D061GC14
(57)【要約】
【課題】生成される溶液のイオン濃度を制御でき、かつ、当該溶液において、水の電解により生じたガスが混入することがない、溶液イオン濃度の調整装置を提供する。
【解決手段】本発明の溶液イオン濃度の調整装置は、陽極チャネル(1)、調整溶液生成チャネル(1)、グランド電極チャネル(G)、調整溶液生成チャネル(2)及び陰極チャネル(2)を備えた5層溶液チャネルと、5層溶液チャネルに設けられた陽極とグランド電極との間、若しくは陰極とグランド電極の間に電圧を印加するための直流電源(1)及び(2)と、5層溶液チャネルに原料溶液あるいは純水を供給する溶液供給手段とを主要部として構成され、5層溶液チャネルから排出されるイオン濃度を調整後の溶液のpHを測定するためのpHメータを有し、測定したpHの変動に基づいて、直流電源(1)や直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御するフィードバック機構を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の陽イオン及び水酸化物イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(1)と、所定の陰イオン及び水素イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(2)とを混合することにより、溶液中のイオン濃度を調整する溶液イオン濃度の調整装置であって、
当該溶液イオン濃度の調整装置は、
調整溶液(1)を生成させるための調整溶液生成チャネル(1)と、陽イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、陽極(1)が配置された陽極チャネル(1)と、バイポーラ膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、陰極(1)が配置された陰極チャネル(1)と、前記陽極チャネル(1)に配置された陽極(1)と前記陰極チャネル(1)に配置された陰極(1)との間に電位差を生じさせる直流電源(1)と、を備えた溶液ジェネレータ(A)と、
前記所定の陽イオンを含む原料溶液を前記陽極チャネル(1)に供給する原料溶液供給手段(1)と、調整溶液生成チャネル(1)に被調整溶液を供給するための被調整溶液供給手段(1)と、陰極チャネル(1)に純水を供給する純水供給手段(1)と、を有する溶液調整機構(A)、及び、
調整溶液(2)を生成させるための調整溶液生成チャネル(2)と、バイポーラ膜を隔てて前記溶液生成チャネル(2)と隣接して設けられ、かつ、陽極が配置された陽極チャネル(2)と、陰イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(2)と隣接して設けられ、かつ、陰極(2)が配置された陰極チャネル(2)と、前記陽極チャネル(2)に配置された陽極(2)と前記陰極チャネル(2)に配置された陰極(2)との間に電位差を生じさせる直流電源(2)と、を備えた溶液ジェネレータ(B)と、
前記所定の陰イオンを含む原料溶液を陰極チャネル(2)に供給する原料溶液供給手段(2)と、調整溶液生成チャネル(2)に被調整溶液を供給するための被調整溶液供給手段(2)と、陽極チャネル(2)に純水を供給する純水供給手段(1)と、を有する溶液調整機構(B)、を主要部として構成され、
前記溶液ジェネレータ(A)より生成される調整溶液(1)と、前記溶液ジェネレータ(B)より生成される調整溶液(2)とが混合されるように、溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)と、溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)とが直列又は並列に接続されていることを特徴とする溶液イオン濃度の調整装置。
【請求項2】
溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)と溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)とが直列に接続され、前段の溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)から排出される調整溶液(1)が、後段の溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)に供給される請求項1に記載の溶液イオン濃度の調整装置。
【請求項3】
調整溶液(1)と調整溶液(2)とが混合された後の溶液のpHを測定するためのpHメータを有し、測定した溶液のpHの変動に基づいて、直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御するフィードバック機構を有する請求項1または2に記載の溶液イオン濃度の調整装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の溶液イオン濃度の調整装置を用いて、溶液イオン濃度の調整する方法であって、
前記直流電源(1)の電圧を制御することにより、調整溶液(1)に含まれる陽イオンと水酸化物イオンを所定の濃度に制御し、かつ、前記直流電源(2)の電圧を制御することにより、調整溶液(2)に含まれる陰イオンと水素イオンを所定の濃度に制御することにより、調整溶液(1)と調整溶液(2)とを混合した溶液中の溶液イオン濃度を制御することを特徴とする溶液イオン濃度の調整方法。
【請求項5】
請求項4に記載の溶液イオン濃度の調整方法を利用したpH緩衝液の製造方法。
【請求項6】
溶液ジェネレータ(A)の陽極チャネル(1)に供給される原料溶液が、KOH溶液であり、かつ、溶液ジェネレータ(B)の陰極チャネル(2)に供給される原料溶液が、リン酸塩溶液である請求項5に記載のpH緩衝液の製造方法。
【請求項7】
調整溶液(1)と調整溶液(2)とが混合された後のpHをpHメータで測定し、得られるpH緩衝液のpHが所定の範囲となるように、前記pHメータで測定したpHの変動に基づいて、直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御する請求項5または6に記載のpH緩衝液の製造方法。
【請求項8】
所定の陽イオン及び水酸化物イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(1)と、所定の陰イオン及び水素イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(2)とを混合することにより、溶液中のイオン濃度を調整する溶液イオン濃度の調整装置であって、
当該溶液イオン濃度の調整装置は、
調整溶液(1)を生成させるための調整溶液生成チャネル(1)と、陽イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、陽極(1)が配置された陽極チャネル(1)と、バイポーラ膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、グランド電極が配置されたグランド電極チャネル(G)と、前記調整溶液生成チャネル(1)の反対側にバイポーラ膜を隔ててグランド電極チャネル(G)と隣接して設けられ、調整溶液(2)を生成させるための調整溶液生成チャネル(2)と、陰イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(2)と隣接して設けられ、かつ、陰極(2)が配置された陰極チャネル(2)と、を有する5層溶液チャネルと、
前記陽極チャネル(1)に配置された陽極(1)と、グランドチャネル(G)に配置されたグランド電極との間に電位差を生じさせる直流電源(1)と、前記陰極チャネル(2)に配置された陰極(2)と、グランドチャネルに配置されたグランド電極との間に電位差を生じさせる直流電源(2)と、
前記所定の陽イオンを含む原料溶液を前記陽極チャネル(1)に供給する原料溶液供給手段(1)と、前記所定の陰イオンを含む原料溶液を陰極チャネル(2)に供給する原料溶液供給手段(2)と、溶液生成チャネル(1)に純水を供給する純水供給手段(1)と、グランドチャネルに純水を供給する純水供給手段(G)と、を主要部として構成され、
前記溶液生成チャネル(1)と溶液生成チャネル(2)とが接続されており、前段の調整溶液生成チャネル(1)から排出される調整溶液(1)が、後段の調整溶液生成チャネル(2)に供給される構成を有することを特徴とする溶液イオン濃度の調整装置。
【請求項9】
調整溶液(1)と調整溶液(2)とが混合された後の溶液のpHを測定するためのpHメータを有し、測定した溶液のpHの変動に基づいて、直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御するフィードバック機構を有する請求項8に記載の溶液イオン濃度の調整装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の溶液イオン濃度の調整装置を用いて、溶液イオン濃度の調整する方法であって、
前記直流電源(1)の電圧を制御することにより、調整溶液(1)に含まれる陽イオンと水酸化物イオンを所定の濃度に制御し、かつ、前記直流電源(2)の電圧を制御することにより、調整溶液(2)に含まれる陰イオンと水素イオンを所定の濃度に制御することにより、調整溶液(1)と調整溶液(2)とを混合した溶液中の溶液イオン濃度を制御することを特徴とする溶液イオン濃度の調整方法。
【請求項11】
請求項10に記載の溶液イオン濃度の調整方法を利用したpH緩衝液の製造方法。
【請求項12】
陽極チャネル(1)に供給される原料溶液が、KOH溶液であり、かつ、陰極チャネル(2)に供給される原料溶液が、リン酸塩溶液である請求項11に記載のpH緩衝液の製造方法。
【請求項13】
調整溶液(1)と調整溶液(2)とが混合された後のpHをpHメータで測定し、得られるpH緩衝液のpHが所定の範囲となるように、前記pHメータで測定したpHの変動に基づいて、直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御する請求項11または12に記載のpH緩衝液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インラインで溶液イオンを所定の濃度に制御できる溶液イオン濃度の調整装置および溶液イオン濃度の調整方法、並びに当該溶液イオン濃度の調整方法を利用したpH緩衝液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶存イオン、特に弱酸や弱塩基の化学形態は、溶液のpHにより決定される。そのため、化学製品や医薬品の製造工程において、各工程において最適なpHへの調整がなされる。また、生化学における反応は、生体内の環境を模擬的に再現するため、厳密なpH制御の条件下で検討されている。このように、溶液pHは化学反応や生命化学の実験において重要であり、pH緩衝溶液による制御がなされている。
【0003】
溶液内のpHを一定に保つための緩衝溶液は、共役な酸と塩基の混合によって調製される。2種類の溶液を単に混合して調製する場合には、複雑な濃度計算による混合比の計算を要する上、実際に調製した溶液のpHは必ずしも理論値と一致せず、酸や塩基の添加による微調整が必要となる。しかし、酸や塩基を添加することは溶液のイオン強度を変えることとなるため、化学反応、特に発酵などの生化学反応の場合において悪影響を与える恐れがある。また、反応の途中でpHを変化させる場合に、溶液のインライン混合が用いられるが、混合比を変えるだけでは、任意のpHを得ることはできない。
【0004】
これまでに、電気透析法による緩衝溶液生成に関する先行技術はほとんどない。いくつか報告されているものをあげると、非特許文献1には、溶液内の陽イオンや陰イオンを水素イオンや水酸化物イオンと置換することによるpHの調整法が開示されているが、生成溶液中の塩濃度を任意に設定できない。また、非特許文献2には、電気透析により共役酸・塩基対を導入による緩衝溶液の調整法が開示されているが、純水中へ任意の濃度でイオン対を供給して緩衝溶液を生成するものの水の電解により生じるガスが混入するため、直接、緩衝溶液を使用するシステムへ供給することができない。
【0005】
また、特許文献1には、調整溶液中のイオン濃度を電流滴定的に調整するための装置であって、それぞれが制御電極および拡散抑制手段を有する少なくとも3つの室形状の電解質領域であって、電解質を充填することができ、それにより該電解質領域がすべて、イオンが電解質から該拡散抑制手段を通って該調整溶液中にもしくはその逆方向に輸送され得るように、該調整溶液と接触され得るところの該少なくとも3つの電解質領域、および該電解質領域に制御電流を供給すための手段を備える該装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000−501173号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Analytical Chemistry, 84, 67-75 (2012).
【非特許文献2】Analytical Chemistry, 84, 59-66 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の文献では、電気透析法により、共役酸と塩基をそれぞれ異なる濃度で純水に導入するpH緩衝溶液の製造装置が報告されているが、電極が緩衝溶液に直接接触する構造を有するため、生成した緩衝溶液中に水の電解により生じたガスが混入する構造であり、インラインでの使用の際は混入ガスの除去が不可欠であるという問題があった。また、一定pHで溶液を連続生成した場合の安定性に関する記述は見られない。
【0009】
かかる状況下、本発明の目的は、生成される溶液のイオン濃度を制御でき、かつ、当該溶液において、水の電解により生じたガスが混入することがない、溶液イオン濃度の調整装置および該調整装置を使用した溶液イオン濃度の調整方法、並びにpH緩衝液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 所定の陽イオン及び水酸化物イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(1)と、所定の陰イオン及び水素イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(2)とを混合することにより、溶液中のイオン濃度を調整する溶液イオン濃度の調整装置であって、
当該溶液イオン濃度の調整装置は、
調整溶液(1)を生成させるための調整溶液生成チャネル(1)と、陽イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、陽極(1)が配置された陽極チャネル(1)と、バイポーラ膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、陰極(1)が配置された陰極チャネル(1)と、前記陽極チャネル(1)に配置された陽極(1)と前記陰極チャネル(1)に配置された陰極(1)との間に電位差を生じさせる直流電源(1)と、を備えた溶液ジェネレータ(A)と、
前記溶液生成チャネル(1)に供給される前記所定の陽イオンを含む原料溶液を、前記陽極チャネル(1)に供給する原料溶液供給手段(1)と、
陰極チャネル(1)に純水を供給する純水供給手段(1)と、を有する溶液調整機構(A)、及び、
調整溶液(2)を生成させるための調整溶液生成チャネル(2)と、バイポーラ膜を隔てて前記溶液生成チャネル(2)と隣接して設けられ、かつ、陽極が配置された陽極チャネル(2)と、陰イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(2)と隣接して設けられ、かつ、陰極(2)が配置された陰極チャネル(2)と、前記陽極チャネル(2)に配置された陽極(2)と、前記陰極チャネル(2)に配置された陰極(2)との間に電位差を生じさせる直流電源(2)と、を備えた溶液ジェネレータ(B)と、
前記溶液生成チャネル(2)に供給される前記所定の陰イオンを含む原料溶液を陰極チャネル(2)に供給する原料溶液供給手段(2)と、陽極チャネル(2)に純水を供給する純水供給手段(1)と、を有する溶液調整機構(B)、を主要部として構成され、
前記溶液ジェネレータ(A)より生成される調整溶液(1)と、前記溶液ジェネレータ(B)より生成される調整溶液(2)とが混合されるように、溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)と、溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)とが直列又は並列に接続されている溶液イオン濃度の調整装置。
<2> 溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)と溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)とが直列に接続され、前段の溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)から排出される調整溶液(1)が、後段の溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)に供給される前記<1>に記載の溶液イオン濃度の調整装置。
<3> 調整溶液(1)と調整溶液(2)とが混合された後の溶液のpHを測定するためのpHメータを有し、測定した溶液のpHの変動に基づいて、直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御するフィードバック機構を有する前記<1>または<2>に記載の溶液イオン濃度の調整装置。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の溶液イオン濃度の調整装置を用いて、溶液イオン濃度の調整する方法であって、
前記溶液ジェネレータ(A)の直流電源(1)の電圧を制御することにより、調整溶液(1)に含まれる陽イオンと水酸化物イオンを所定の濃度に制御し、かつ、前記溶液ジェネレータ(B)の直流電源(2)の電圧を制御することにより、調整溶液(2)に含まれる陰イオンと水素イオンを所定の濃度に制御することを特徴とする溶液イオン濃度の調整方法。
<5> 前記<4>に記載の溶液イオン濃度の調整方法を利用したpH緩衝液の製造方法。
<6> 溶液ジェネレータ(A)の陽極チャネル(1)に供給される原料溶液が、KOH溶液であり、かつ、溶液ジェネレータ(B)の陰極チャネル(2)に供給される原料溶液が、リン酸塩溶液である前記<5>に記載のpH緩衝液の製造方法。
<7> 調整溶液(1)と調整溶液(2)とが混合された後のpHをpHメータで測定し、得られるpH緩衝液のpHが所定の範囲となるように、前記pHメータで測定したpHの変動に基づいて、直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御する前記<5>または<6>に記載のpH緩衝液の製造方法。
<8> 所定の陽イオン及び水酸化物イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(1)と、所定の陰イオン及び水素イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(2)とを混合することにより、溶液中のイオン濃度を調整する溶液イオン濃度の調整装置であって、
当該溶液イオン濃度の調整装置は、
調整溶液(1)を生成させるための調整溶液生成チャネル(1)と、陽イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、陽極(1)が配置された陽極チャネル(1)と、バイポーラ膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、グランド電極が配置されたグランド電極チャネルと、前記調整溶液生成チャネル(1)の反対側にバイポーラ膜を隔ててグランド電極チャネル(G)と隣接して設けられ、調整溶液(2)を生成させるための調整溶液生成チャネル(2)と、陰イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(2)と隣接して設けられ、かつ、陰極(2)が配置された陰極チャネル(2)と、を有する5層溶液チャネルと、
前記陽極チャネル(1)に配置された陽極(1)と、グランドチャネル(G)に配置されたグランド電極との間に電位差を生じさせる直流電源(1)と、前記陰極チャネル(2)に配置された陰極(2)と、グランドチャネルに配置されたグランド電極との間に電位差を生じさせる直流電源(2)と、
前記所定の陽イオンを含む原料溶液を前記陽極チャネル(1)に供給する原料溶液供給手段(1)と、前記所定の陰イオンを含む原料溶液を陰極チャネル(2)に供給する原料溶液供給手段(2)と、溶液生成チャネル(1)に純水を供給する純水供給手段(1)と、グランドチャネルに純水を供給する純水供給手段(G)と、を主要部として構成され、
前記溶液生成チャネル(1)と溶液生成チャネル(2)とが接続されており、前段の調整溶液生成チャネル(1)から排出される調整溶液(1)が、後段の調整溶液生成チャネル(2)に供給される構成を有する溶液イオン濃度の調整装置。
<9> 調整溶液(1)と調整溶液(2)とが混合された後の溶液のpHを測定するためのpHメータを有し、測定した溶液のpHの変動に基づいて、直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御するフィードバック機構を有する前記<8>に記載の溶液イオン濃度の調整装置。
<10> 前記<8>または<9>に記載の溶液イオン濃度の調整装置を用いて、溶液イオン濃度の調整する方法であって、
前記直流電源(1)の電圧を制御することにより、調整溶液(1)に含まれる陽イオンと水酸化物イオンを所定の濃度に制御し、かつ、前記直流電源(2)の電圧を制御することにより、調整溶液(2)に含まれる陰イオンと水素イオンを所定の濃度に制御することにより、調整溶液(1)と調整溶液(2)とを混合した溶液中の溶液イオン濃度を制御することを特徴とする溶液イオン濃度の調整方法。
<11> 前記<10>に記載の溶液イオン濃度の調整方法を利用したpH緩衝液の製造方法。
<12> 陽極チャネル(1)に供給される原料溶液が、KOH溶液であり、かつ、陰極チャネル(2)に供給される原料溶液が、リン酸塩溶液である前記<11>に記載のpH緩衝液の製造方法。
<13> 調整溶液(1)と調整溶液(2)とが混合された後のpHをpHメータで測定し、得られるpH緩衝液のpHが所定の範囲となるように、前記pHメータで測定したpHの変動に基づいて、直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御する前記<11>または<12>に記載のpH緩衝液の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶液イオン濃度の調整装置では、電極と生成する緩衝溶液が直接接触しないため、水の電解により生成する水素や酸素が混入せず、緩衝溶液を供給する先、例えばクロマトグラフィーシステムへと直接供給することができる。また、緩衝溶液を形成する陽イオンと陰イオンの供給量をいずれも任意に設定できるため、任意の濃度、pHの溶液を供給することが可能である。
そのため、インラインでpH緩衝溶液を生成し、かつ、自在なpHの変化が可能である。
【0013】
溶液ジェネレータ(A)と溶液ジェネレータ(B)における印加電圧又は印加電流を独立して設定することで、酸と塩基の供給量をそれぞれ独立して制御できる。さらに、フィードバック制御により、一定pHの溶液を高い精度で供給できる。例えば、リン酸緩衝溶液を生成した場合、リン酸のpKa値付近では緩衝能が高く、それ以外のpH域では緩衝能が低いため、一定の電圧や電流を印加しただけでは、目的とするpHの溶液を安定して供給することはできない。しかし、本発明では、フィードバック制御により、緩衝能の高低によらず、広いpH範囲で安定して高精度な溶液を供給できる。
本発明では、リン酸に限らず、多くの緩衝溶液の調製が可能であるため、用途は無尽蔵な広がりを持っている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の態様の溶液イオン濃度の調整装置の一例を示す図である。
図2】本発明の第1の態様の溶液イオン濃度の調整装置の溶液ジェネレータ(A)における調整溶液(1)の生成メカニズムの説明図である(所定の陽イオン:K+)。
図3】本発明の第1の態様の溶液イオン濃度の調整装置の溶液ジェネレータ(B)における調整溶液(2)の生成メカニズムの説明図である(所定の陰イオン:H2PO4-)。
図4】本発明の第1の態様の溶液イオン濃度の調整装置の他の一例を示す図である。
図5】本発明の第2の態様の溶液イオン濃度の調整装置の実施形態の一例を示す図である。
図6】本発明の第2の態様の溶液イオン濃度の調整装置におけるフィードバック機構を使用した、pH緩衝液の製造方法の概念図である。
図7】本発明の第1の態様の溶液イオン濃度の調整装置に係る、溶液ジェネレータ(A)における印加電流と、調整溶液(1)のKOH濃度との関係を示す図である。
図8】本発明の第1の態様の溶液イオン濃度の調整装置に係る、溶液ジェネレータ(B)における印加電流と、調整溶液(2)のPO43-の濃度との関係を示す図である。
図9】本発明の第2の態様の溶液イオン濃度の調整装置によるリン酸緩衝液(目標pH4.00)の製造例である。
図10】本発明の第2の態様の溶液イオン濃度の調整装置によってリン酸緩衝液を、フィードバック機構におけるプログラムにてpH4〜12へ直線的に変化させた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0016】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態の溶液イオン濃度の調整装置について図面に基づいて説明する。当該溶液イオン濃度の調整装置の好適な使用方法は、溶液イオン濃度を調整し、pH緩衝液を製造することであるが、この用途に限定されない。
【0017】
図1に本発明の第1の実施形態に係る溶液イオン濃度の調整装置を示す。また、図2に当該溶液イオン濃度の調整装置の溶液ジェネレータ(A)における調整溶液(1)の生成メカニズムの説明図、図3に当該溶液イオン濃度の調整装置の溶液ジェネレータ(B)における調整溶液(2)の生成メカニズムの説明図を示す。図1図3において、Anodeは陽極、Cathodeは陰極、CEMは陽イオン交換膜、BPはバイポーラ膜、UPWは超純水を意味する。
【0018】
図1に示す本発明の第1の実施形態に係る溶液イオン濃度の調整装置は、溶液ジェネレータ(A)、原料溶液供給手段(1)、被調整溶液供給手段(1)及び純水供給手段(1)を有する溶液調整機構(A)と、溶液ジェネレータ(B)、原料溶液供給手段(2)及び純水供給手段(2)を有する溶液調整機構(B)とを備え、さらに調整溶液(1)と調整溶液(2)とが混合された後のイオン濃度を測定するためのイオン濃度計測器(pHメータ)を有し、当該イオン濃度計測器(pHメータ)で測定したイオン濃度(pH)の変動に基づいて、溶液ジェネレータ(A)及び溶液ジェネレータ(B)における直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御するフィードバック機構を有する。
なお、図1において、原料溶液供給手段(1)、被調整溶液供給手段(1)及び純水供給手段(1)、原料溶液供給手段(2)及び純水供給手段(2)、並びに直流電源(1)、直流電源(2)及びフィードバック機構については図示しておらず、その機能のみを後述することとする。
【0019】
なお、本実施形態では、溶液ジェネレータ(A)と溶液ジェネレータ(B)がこの順番に直列に接続され、溶液ジェネレータ(A)において調整溶液(1)として所定濃度のKOH溶液を生成させ、溶液ジェネレータ(B)において調整溶液(2)として所定濃度のH3PO4溶液を生成させると同時に、調整溶液(1)及び調整溶液(2)が混合されて、いわゆるリン酸緩衝液が製造される例を示している。
【0020】
以下、第1の実施形態に係る溶液イオン濃度の調整装置における構成要素を詳細に説明する。
【0021】
[溶液調整機構(A)]
溶液調整機構(A)は、溶液ジェネレータ(A)、原料溶液供給手段(1)、被調整溶液供給手段(1)及び純水供給手段(1)を主要部として構成される。
溶液ジェネレータ(A)は、調整溶液(1)を生成させるための調整溶液生成チャネル(1)と、陽イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、陽極(1)が配置された陽極チャネル(1)と、バイポーラ膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、陰極(1)が配置された陰極チャネル(1)を有する。さらに、図示しないが、陽極チャネル(1)に配置された陽極(1)と前記陰極チャネル(1)に配置された陰極(1)との間に電位差を生じさせる直流電源(1)を有する。
【0022】
溶液ジェネレータ(A)は、それぞれ平板状の構成部分を積層し、それぞれの間をシールした構造である。すなわち、図1図2に示すように陽極(1)、陽極チャネル(1)、陽イオン交換膜、溶液生成チャネル(1)、バイポーラ膜、陰極チャネル(1)、陰極(1)をこの順で積層した平板積層型である。すなわち、溶液ジェネレータ(A)は、それぞれ独立した3層の溶液チャネル(陽極チャネル(1)、溶液生成チャネル(1)、陰極チャネル(1))を有する構造である。
【0023】
溶液ジェネレータ(A)で使用される、陽イオン交換膜として、例えば、AGCエンジニアリング社製品名:セレミオンCMVが挙げられる。バイポーラ膜としては、例えば、アストム社製品名:ネオセプタバイポーラBP−1Eが挙げられる。
【0024】
原料溶液供給手段(1)は、溶液ジェネレータ(A)の陽極チャネル(1)に原料溶液を供給する手段である。具体的には使用される原料溶液、液流量を考慮して、公知のポンプと公知の液体用配管を使用する。本実施形態では原料溶液としてのKOH溶液を、陽極チャネル(1)に供給する。供給された原料溶液は陽極チャネル(1)を流通して排出される。
【0025】
被調整溶液供給手段(1)は溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)に水を供給する手段である。また、純水供給手段(1)は、溶液ジェネレータ(A)の陰極チャネル(1)に水を供給する手段である。これらとして、具体的には、液流量を考慮して、公知のポンプと公知の液体用配管を使用する。
本実施形態では水としての超純水を調整溶液生成チャネル(1)と陰極チャネル(1)に供給する。調整溶液生成チャネル(1)に供給された超純水は、詳細は後述するように、陽極チャネル(1)から供給されるK+と、陰極チャネル(1)から供給されるOH-により、所定の濃度のKOH溶液である調整溶液(1)として、後段の溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)へ供される。一方、陰極チャネル(1)に供給された超純水は流通して排出される。
【0026】
[溶液調整機構(B)]
溶液調整機構(B)は、溶液ジェネレータ(B)、原料溶液供給手段(2)、被調整溶液供給手段(2)及び純水供給手段(2)を主要部として構成される。
溶液ジェネレータ(B)は、調整溶液(2)を生成させるための調整溶液生成チャネル(2)と、バイポーラ膜を隔てて前記調整溶液生成チャネル(2)と隣接して設けられ、かつ、陽極が配置された陽極チャネル(2)と、陰イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(2)と隣接して設けられ、かつ、陰極(2)が配置された陰極チャネル(2)を有する。さらに、図示しないが、陽極チャネル(2)に配置された陽極(2)と、前記陰極チャネル(2)に配置された陰極(2)との間に電位差を生じさせる直流電源(2)を有する。
【0027】
なお、溶液ジェネレータ(B)は、それぞれ平板状の構成部分を積層し、それぞれの間をシールした構造である。すなわち、図1図3に示すように陽極(2)と陽極チャネル(2)、バイポーラ膜、溶液生成チャネル(2)、陰イオン交換膜、陰極チャネル(2)、陰極(2)をこの順で積層した平板積層型である。すなわち、溶液ジェネレータ(B)は、それぞれ独立した3層の溶液チャネル(陽極チャネル(2)、溶液生成チャネル(2)、陰極チャネル(2))を有する構造である。
【0028】
溶液ジェネレータ(B)で使用される、陰イオン交換膜として、例えば、AGCエンジニアリング社製品名:セレミオンCSVが挙げられる。バイポーラ膜としては、上記溶液ジェネレータ(A)と同様に、例えば、アストム社製品名:ネオセプタバイポーラBP−1Eが挙げられる。
【0029】
原料溶液供給手段(2)は、溶液ジェネレータ(B)の陰極チャネル(2)に原料溶液を供給する手段である。具体的には使用される原料溶液、液流量を考慮して、公知のポンプと公知の液体用配管を使用する。本実施形態では原料溶液としてのKH2PO4溶液を、陰極チャネル(2)に供給する。供給された原料溶液は陰極チャネル(2)を流通して排出される。
【0030】
純水供給手段(2)は、溶液ジェネレータ(B)の陽極チャネル(2)に水を供給する手段である。具体的には、液流量を考慮して、公知のポンプと公知の液体用配管を使用する。本実施形態では水としての超純水を陽極チャネル(2)に供給する。陽極チャネル(2)に供給された超純水は、陽極チャネル(2)を流通して排出される。
なお、被調整溶液供給手段(2)は、調整溶液生成チャネル(2)に被調整溶液を供給するものであるが、本実施形態では、溶液ジェネレータ(A)の後段に溶液ジェネレータ(B)が接続され、溶液ジェネレータ(B)における被調整溶液としての調整溶液(1)が直接調整溶液生成チャネル(2)に供給されるため、特別な機構は不要である。一方、溶液ジェネレータ(B)を前段にして直列接続する場合や、後述する並列接続の場合には、溶液ジェネレータ(B)においても、上記溶液ジェネレータ(A)と同様に、独立した水を供給する手段(公知のポンプと公知の液体用配管等)が必要となる。
【0031】
図1に示すように溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)と、溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)とは直列で接続されており、調整溶液生成チャネル(1)から排出された所定の濃度のKOH溶液(調整溶液(1))は、接続配管を介して、調整溶液生成チャネル(2)へ供給され、溶液ジェネレータ(B)によりH2PO4-が付与されてリン酸緩衝液として排出される。
【0032】
なお、本実施形態では、溶液ジェネレータ(A)により生成した調整溶液(1)を、溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)へ供給し、所定の陰イオン(H2PO4-)及び水素イオンの抽出溶液として使用するため、調整溶液(2)の生成と同時に目的とする調整溶液が形成されていることになるが、この場合も所定の陽イオン(K+)及び水酸化物イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(1)と、所定の陰イオン(H2PO4-)及び水素イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(2)とを混合したものとみなすこととする。
【0033】
なお、溶液ジェネレータ(A),(B)の構成において、調整溶液生成チャネル(1)及び(2)、陽極チャネル(1)及び(2)、陰極チャネル(1)及び(2)のそれぞれのチャネルの厚みは、調整溶液及び純水の送液量や、陽極(1)及び陰極(1)または陽極(2)及び陰極(2)の間の電位勾配を勘案して決定される。
陽極と陰極間の距離が大きくなりすぎると、必要な電位勾配が得られず、電圧印加による目的とする陽イオンあるいは陰イオンが、調整溶液生成チャネル(1)や(2)へ移動する、という本発明の効果が得られなくおそれがあるため、陽極と陰極間の距離は小さい方がよい。好適には各液層の厚さが、0.1〜2mmである。
【0034】
[フィードバック機構]
フィードバック機構は、溶液ジェネレータ(B)から排出された、目的とする調整溶液(pH緩衝液)の水素イオン濃度(pH)を測定するためのイオン濃度計測器(pHメータ)を有し、当該イオン濃度計測器(pHメータ)で測定した水素イオン濃度(pH)の変動に基づいて、直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御する。
本実施形態において、具体的には、図1に示す位置に配置されたpHメータにより、溶液ジェネレータ(B)から排出された調整溶液(pH緩衝液)のpHをモニターし、そのpHに基づいて、直流電源(1)や直流電源(2)への印加電圧又は印加電流をPIDによって制御し、調整溶液(1)へ供給される陽イオン(K+)及びその対イオンである水酸化物イオン、調整溶液(1)へ供給される陰イオン(H2PO4-)及び水素イオンを所定の濃度にコントロールすることができる。
【0035】
[pH緩衝液の製造方法]
本発明の第1の実施形態の溶液イオン濃度の調整装置を用いて、溶液イオン濃度を調整し、pH緩衝液を製造する方法について、図面に基づいて説明する。
【0036】
図2に示すようにデバイスの前段である溶液ジェネレータ(A)における陽極チャネル(1)に原料溶液(0.4M KOH)、調整溶液生成チャネル(1)及び陰極チャネル(1)に超純水(UPW)を図2に示すような条件で供給した状態で、直流電源(1)に所定の値の電圧を印加することにより、陽極チャネルから陽イオン交換膜を介して陽イオン(K+)が調整溶液生成チャネル(1)へ供給され、その対イオンとなる水酸化物イオンは、陰極チャネル(1)からバイポーラ膜における水の解離により供給される。これにより、調整溶液(1)は、含まれる陽イオン(K+)と水酸化物イオンとが所定の濃度に制御されたKOH溶液として、溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)から排出される。
【0037】
溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)から排出された調整溶液(1)は、デバイスの後段である溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)に供給され、陰極チャネル(2)に原料溶液(0.25M KH2PO4)、陽極チャネル(2)に超純水(UPW)を図3に示すような条件で供給した状態で、直流電源(2)に所定の値の電圧を印加することにより、陰極チャネル(2)から陰イオン交換膜を介して陰イオン(H2PO4-)が調整溶液生成チャネル(2)へ供給され、その対イオンとなる水素イオンは、陽極チャネル(2)からバイポーラ膜における水の解離により供給される。
結果として、調整溶液生成チャネル(2)において、調整溶液(1)として供給された所定の濃度の陽イオン(K+)と水酸化物イオンと、溶液ジェネレータ(B)により供給された所定の濃度の陰イオン(H2PO4-)と水素イオンとが混合したpH緩衝液(調整溶液(2))が生成する。
陽イオン(K+)と水酸化物イオンの濃度は、溶液ジェネレータ(A)における印加電圧又は印加電流、陰イオン(H2PO4-)と水素イオンの濃度は、溶液ジェネレータ(B)における印加電圧又は印加電流によってそれぞれ制御できる。また、リン酸の酸解離定数(pKa)は、2.12、7.21、12.67と広い範囲にわたっており、本発明でKOHとH3PO4を任意の割合で混合することにより、幅広いpH域のpH緩衝液を製造することができる。
【0038】
各チャネルへ供給される原料溶液や水の流量は、調整溶液生成チャネルに移動させる陽イオンあるいは陰イオンの種類や溶液ジェネレータ(A),(B)の構造、バイポーラ膜やイオン交換膜の種類や厚み、それぞれのチャネルの流量など諸条件によっても適宜決定される。また、印加電圧も、諸条件によっても適宜決定されるが、通常、1.5V〜40V程度である。
【0039】
このような溶液イオン濃度の調整方法では、前段である溶液ジェネレータ(A)と後段である溶液ジェネレータ(B)における印加電流(電圧)を独立して設定することで、酸と塩基の供給量をそれぞれ独立して制御できる。
また、本発明の溶液イオン濃度の調整装置では、緩衝溶液が生成するチャネルには電極を配していないため、水の電解により生成する水素や酸素のガス成分が混入しないことから、本発明の溶液イオン濃度の調整装置で溶液イオン濃度を調整した調整溶液(本実施例では、pH緩衝液)を、溶液イオン濃度の調整装置の後段の反応容器やクロマトグラフィーなどのシステムへと直接供給できる。
【0040】
さらに、生成した溶液のpHをモニターし、前段である溶液ジェネレータ(A)及び/又は後段である溶液ジェネレータ(B)における印加電流(電圧)へとフィードバックすることで任意のpHの溶液を精度良く得ることができる。
また、溶液イオン濃度の調整装置の後段の反応容器やクロマトグラフィーなどのシステムを設けた場合において、設定値のプログラミングにより、溶液を切り替えることなく、溶液イオン濃度を調整した調整溶液(本実施例では、pH緩衝液)を、pHを変化させながら、後段のシステムに供給することも可能となる。
【0041】
(その他の態様)
なお、本実施形態では、溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)と溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)とが直列に接続され、前段の溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)から排出される調整溶液(1)が、後段の溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)に供給される構成となっているが、この構成に限定されず、溶液ジェネレータ(A)と溶液ジェネレータ(B)とが逆の順番で直接に接続されていてもよい。
また、図4に示すように、溶液ジェネレータ(A)と溶液ジェネレータ(B)とが並列に接続されており、溶液ジェネレータ(A)の調整溶液生成チャネル(1)から排出される調整溶液(1)と、溶液ジェネレータ(B)の調整溶液生成チャネル(2)から排出される調整溶液(2)とを混合させる方式であってもよい。
【0042】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態の溶液イオン濃度の調整装置について図面に基づいて説明する。当該溶液イオン濃度の調整装置の好適な使用方法は、溶液イオン濃度を調整し、pH緩衝液を製造することであるが、この用途に限定されない。
【0043】
図5に本発明の第2の実施形態に係る溶液イオン濃度の調整装置を示す。図5において、Anodeは陽極、Cathodeは陰極、CEMは陽イオン交換膜、BPはバイポーラ膜、UPWは超純水を意味する。なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付して説明を省略する場合がある。
【0044】
図5に示すように、第2の実施形態に係る溶液イオン濃度の調整装置は、5層溶液チャネル−3電極式の平板状構造の溶液イオン濃度の調整装置である。
具体的には、陽極チャネル(1)、調整溶液生成チャネル(1)、グランド電極チャネル(G)、調整溶液生成チャネル(2)及び陰極チャネル(2)を備えた5層溶液チャネルと、5層溶液チャネルに設けられた陽極とグランド電極との間、若しくは陰極とグランド電極の間に電圧を印加するための直流電源(1)及び(2)と、5層溶液チャネルに原料溶液あるいは純水を供給する溶液供給手段とを主要部として構成され、さらに5層溶液チャネル内で調整溶液(1)と調整溶液(2)とが混合され、5層溶液チャネルから排出されるイオン濃度を調整後の溶液のイオン濃度を測定するための水素イオン濃度計測器(pHメータ)を有し、当該イオン濃度計測器(pHメータ)で測定した水素イオン濃度(pH)の変動に基づいて、直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御するフィードバック機構を有する。
【0045】
なお、本実施形態では、調整溶液生成チャネル(1)において調整溶液(1)として所定濃度のKOH溶液、調整溶液生成チャネル(2)において調整溶液(2)として所定濃度H3PO4溶液が生成すると同時に、調整溶液(1)及び調整溶液(2)が混合されて、いわゆるリン酸緩衝液が製造される例を示している。
【0046】
以下、第2の実施形態に係る溶液イオン濃度の調整装置における構成要素を詳細に説明する。なお、5層溶液チャネルのうち、陽極チャネル(1)、調整溶液生成チャネル(1)及びグランド電極チャネル(G)並びに直流電源(1)の組み合わせを「調整溶液(1)生成部」、グランド電極チャネル(G)、調整溶液生成チャネル(2)及び陰極チャネル(2)並びに直流電源(1)の組み合わせを「調整溶液(2)生成部」と称す。
【0047】
[5層溶液チャネル]
図5に示すように液イオン濃度の調整装置における5層溶液チャネルは、陽極(1)、陽極チャネル(1)、陽イオン交換膜、溶液生成チャネル(1)、バイポーラ膜、グランド電極を有するグランドチャネル、バイポーラ膜、溶液生成チャネル(2)、陰イオン交換膜、陰極チャネル(2)及び陰極(2)をこの順で積層した構成を有した平板積層型である。すなわち、5層溶液チャネルは、それぞれ独立した5層の溶液チャネル(陽極チャネル(1)、溶液生成チャネル(2)、グランド電極チャネル(G),溶液生成チャネル(2)、陰極チャネル(2))を有する構造である。
より詳しくは、調整溶液生成チャネル(1)と、陽イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、陽極(1)が配置された陽極チャネル(1)と、バイポーラ膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、グランド電極が配置されたグランド電極チャネルと、前記調整溶液生成チャネル(1)の反対側にバイポーラ膜を隔ててグランド電極チャネル(G)と隣接して設けられ、調整溶液(2)を生成させるための調整溶液生成チャネル(2)と、陰イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(2)と隣接して設けられ、かつ、陰極(2)が配置された陰極チャネル(2)と、を有する構造である。
【0048】
[調整溶液(1)生成部]
調整溶液(1)生成部は、5層溶液チャネルにおける、調整溶液(1)を生成させるための調整溶液生成チャネル(1)と、陽イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、陽極(1)が配置された陽極チャネル(1)と、バイポーラ膜を隔てて前記溶液生成チャネル(1)と隣接して設けられ、かつ、グランド電極が配置されたグランド電極チャネルの3層のチャネル部分、及び、陽極チャネル(1)に配置された陽極(1)、及び、グランドチャネル(G)に配置されたグランド電極、並びに当該陽極(1)とグランド電極との間に電位差を生じさせる直流電源(1)を有する。
【0049】
調整溶液(1)生成部で使用される、陽イオン交換膜として、例えば、AGCエンジニアリング社製品名:セレミオンCMVが挙げられる。バイポーラ膜としては、例えば、アストム社製品名:ネオセプタバイポーラBP−1Eが挙げられる。
【0050】
原料溶液供給手段(1)は、陽極チャネル(1)に原料溶液を供給する手段である。具体的には使用される原料溶液、液流量を考慮して、公知のポンプと公知の液体用配管を使用する。
本実施形態では原料溶液としてのKOH溶液を、陽極チャネル(1)に供給する。供給された原料溶液は陽極チャネル(1)を流通して排出される。なお、本実施形態では、図5に示すように、原料溶液供給手段(1)で使用するポンプは、後述する原料溶液供給手段(2)及び純水供給手段(G)と同じものを使用しているが、それぞれ独立したポンプを使用してもよい。
【0051】
純水供給手段(1)は、調整溶液生成チャネル(1)に水を供給する手段である。具体的には、液流量を考慮して、公知のポンプと公知の液体用配管を使用する。
本実施形態では水としての超純水を調整溶液生成チャネル(1)に供給する。調整溶液生成チャネル(1)に供給された超純水は、陽極チャネル(1)から供給されるK+と、グランドチャネル(G)から供給されるOH-により、所定の濃度のKOH溶液である調整溶液(1)として、後段の調整溶液生成チャネル(2)へ供される
【0052】
純水供給手段(G)は、グランドチャネル(G)に水を供給する手段である。具体的には、液流量を考慮して、公知のポンプと公知の液体用配管を使用する。供給された超純水は、グランドチャネル(G)を流通して排出される。なお、本実施形態では、図5に示すように、グランドチャネル(G)で使用するポンプは、原料溶液供給手段(1)及び原料溶液供給手段(2)と同じものを使用しているが、それぞれ独立したポンプを使用してもよい。
【0053】
[調整溶液(2)生成部]
調整溶液(2)生成部は、5層溶液チャネルにおける、グランド電極が配置されたグランド電極チャネル(G)と、調整溶液生成チャネル(1)の反対側にバイポーラ膜を隔ててグランド電極チャネル(G)と隣接して設けられ、調整溶液(2)を生成させるための調整溶液生成チャネル(2)と、陰イオン交換膜を隔てて前記溶液生成チャネル(2)と隣接して設けられ、かつ、陰極(2)が配置された陰極チャネル(2)の3層のチャネル部分、及び、陰極チャネル(2)に配置された陰極(2)、及び、グランドチャネル(G)に配置されたグランド電極、並びに当該陰極(2)とグランド電極との間に電位差を生じさせる直流電源(2)を有する。
すなわち、グランドチャネル(G)及びグランド電極は、調整溶液(1)生成部及び調整溶液(2)生成部の両方で共有されている。
【0054】
調整溶液(2)生成部で使用される、陰イオン交換膜として、例えば、AGCエンジニアリング社製品名セレミオンDSVが挙げられる。バイポーラ膜としては、上記調整溶液(1)生成部と同様に、例えば、アストム社製品名:ネオセプタバイポーラBP−1Eが挙げられる。
【0055】
原料溶液供給手段(2)は、陰極チャネル(2)に原料溶液を供給する手段である。具体的には使用される原料溶液、液流量を考慮して、公知のポンプと公知の液体用配管を使用する。本実施形態では原料溶液としてのKH2PO4溶液を、陰極チャネル(2)に供給する。供給された原料溶液は陰極チャネル(2)を流通して排出される。なお、本実施形態では、図5に示すように、原料溶液供給手段(2)で使用するポンプは、原料溶液供給手段(1)及び純水供給手段(G)と同じものを使用しているが、それぞれ独立したポンプを使用してもよい。
【0056】
図5に示すように第2の実施形態の溶液イオン濃度の調整装置は、調整溶液生成チャネル(1)と、調整溶液生成チャネル(2)とは直列で接続されており、調整溶液生成チャネル(1)から排出された所定の濃度のKOH溶液(調整溶液(1))は、接続配管を介して、調整溶液生成チャネル(2)へ供給され、H2PO4-が付与されてリン酸緩衝液として排出される。
【0057】
なお、本実施形態では、調整溶液(1)生成部により生成した調整溶液(1)を、調整溶液(2)生成部の調整溶液生成チャネル(2)へ供給し、所定の陰イオン(H2PO4-)及び水素イオンの抽出溶液として使用するため、調整溶液(2)の生成と同時に目的とする調整溶液が形成されていることになるが、この場合も所定の陽イオン(K+)及び水酸化物イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(1)と、所定の陰イオン(H2PO4-)及び水素イオンを所定の濃度に調整した調整溶液(2)とを混合したものとみなすこととする。
【0058】
なお、本実施形態の溶液イオン濃度の調整装置において、各溶液チャネルの厚みは、調整溶液及び純水の送液量や、陽極(1)及びグランド電極、またはグランド電極及び陰極(2)の間の電位勾配を勘案して決定される。
陽極(1)及びグランド電極、またはグランド電極及び陰極(2)の間の距離が大きくなりすぎると、必要な電位勾配が得られず、電圧印加による目的とする陽イオンあるいは陰イオンが、調整溶液生成チャネル(1)や(2)へ移動する、という本発明の効果が得られなくおそれがあるため、電極間の距離は小さい方がよい。好適には各液層の厚さが、0.1〜2mmである。
【0059】
[フィードバック機構]
フィードバック機構は、本発明の第2の実施形態の溶液イオン濃度の調整装置から排出された、目的とする調整溶液(pH緩衝液)の水素イオン濃度(pH)を測定するための水素イオン濃度計測器(pHメータ)を有し、当該水素イオン濃度計測器(pHメータ)で測定した水素イオン濃度(pH)の変動に基づいて、直流電源(1)及び/又は直流電源(2)における印加電圧又は印加電流をフィードバック制御する。図6もフィードバック機構の概念図を示す。
本実施形態において、具体的には、図5に示す位置に配置されたpHメータにより、本実施形態の溶液イオン濃度の調整装置から排出された調整溶液(pH緩衝液)のpHをモニターし、そのpHに基づいて、直流電源(1)や直流電源(2)への印加電圧または印加電流をPIDによって制御し、調整溶液(1)へ供給される陽イオン(K+)及びその対イオンである水酸化物イオン、調整溶液(1)へ供給される陰イオン(H2PO4-)及び水素イオンを所定の濃度にコントロールすることができる。
【0060】
[pH緩衝液の製造方法]
本発明の第2の実施形態の溶液イオン濃度の調整装置を用いて、溶液イオン濃度を調整し、pH緩衝液を製造する方法について、図面に基づいて説明する。
【0061】
図5に示すようにデバイスの前段である調整溶液(1)生成部における陽極チャネル(1)に原料溶液(例えば、0.4M KOH)、調整溶液生成チャネル(1)及びグランドチャネル(G)に超純水(UPW)を所定の条件で供給した状態で、直流電源(1)に所定の値の電圧又は電流を印加することにより、陽極チャネルから陽イオン交換膜を介して陽イオン(K+)が調整溶液生成チャネル(1)へ供給され、その対イオンとなる水酸化物イオンは、グランドチャネル(G)からバイポーラ膜における水の解離により供給される。これにより、調整溶液(1)は、含まれる陽イオン(K+)と水酸化物イオンとが所定の濃度に制御されたKOH溶液として、調整溶液生成チャネル(1)から排出される。
【0062】
調整溶液生成チャネル(1)から排出された調整溶液(1)は、デバイスの後段である調整溶液(2)生成部の調整溶液生成チャネル(2)に供給され、陰極チャネル(2)に原料溶液(例えば、0.25M KH2PO4)を所定の条件で供給した状態で、直流電源(2)に所定の値の電圧又は電流を印加することにより、陰極チャネル(2)から陰イオン交換膜を介して陰イオン(H2PO4-)が調整溶液生成チャネル(2)へ供給され、その対イオンとなる水素イオンは、グランドチャネル(G)からバイポーラ膜における水の解離により供給される。
結果として、調整溶液生成チャネル(2)において、調整溶液(1)として供給された所定の濃度の陽イオン(K+)と水酸化物イオンと、所定の濃度の陰イオン(H2PO4-)と水素イオンとが混合したpH緩衝液(調整溶液(2))が生成する。
陽イオン(K+)と水酸化物イオンの濃度は、調整溶液(1)生成部における印加電圧又は印加電流、陰イオン(H2PO4-)と水素イオンの濃度は、調整溶液(2)生成部における印加電圧又は印加電流によってそれぞれ制御できるので、幅広いpH域のpH緩衝液を製造することができる。
【0063】
各チャネルへ供給される原料溶液や水の流量は、調整溶液生成チャネルに移動させる陽イオンあるいは陰イオンの種類や各チャネルの厚み、バイポーラ膜やイオン交換膜の種類や厚み、それぞれのチャネルの流量など諸条件によっても適宜決定される。また、印加電圧も、諸条件によっても適宜決定されるが、通常、1.5V〜40V程度である。
【0064】
このような溶液イオン濃度の調整方法では、前段である調整溶液(1)生成部と後段である調整溶液(2)生成部における印加電流又は印加電流を独立して設定することで、酸と塩基の供給量をそれぞれ独立して制御できる。
また、本発明の溶液イオン濃度の調整装置では、緩衝溶液が生成するチャネルには電極を配していないため、水の電解により生成する水素や酸素のガス成分が混入しないことから、本発明の溶液イオン濃度の調整装置で溶液イオン濃度を調整した調整溶液(本実施例では、pH緩衝液)を、溶液イオン濃度の調整装置の後段の反応容器やクロマトグラフィーなどのシステムへと直接供給できる。
【0065】
さらに、生成した溶液のpHをモニターし、前段である調整溶液(1)生成部及び/又は後段である調整溶液(2)生成部における印加電流又は印加電流へとフィードバックすることで任意のpHの溶液を精度良く得ることができる。
また、溶液イオン濃度の調整装置の後段の反応容器やクロマトグラフィーなどのシステムを設けた場合においても、設定値のプログラミングにより溶液を切り替えることなく、溶液イオン濃度を調整した調整溶液(本実施例では、pH緩衝液)を、pHを変化させながら、後段のシステムに供給することも可能となる。
【0066】
(第2の実施形態の溶液イオン濃度の調整装置の利点)
第2の実施形態の溶液イオン濃度の調整装置は、上述の第1の実施形態の溶液イオン濃度の調整装置と同様に、デバイスの前段では、イオン交換膜を介して陽イオンと対イオンとなる水酸化物イオンを、後段では、イオン交換膜を介して陰イオンと対イオンとして水素イオンを供給する。水素イオンと水酸化物イオンは、共通のチャネルからバイポーラ膜における水の解離により供給される。
本法では、前段と後段における印加電流又は印加電流を独立して設定することで、酸と塩基の供給量をそれぞれ独立して制御できる。
また、緩衝溶液が生成するチャネルには電極を配していないため、水の電解により生成する水素や酸素のガス成分が混入しないことから、反応容器やクロマトグラフィーなどのシステムへと直接供給できる。
【0067】
さらに、第2の実施形態の溶液イオン濃度の調整装置は、5つの溶液層と3つの電極からなる電気透析デバイスであり、3つの溶液層と2つの電極からなる電気透析デバイスを2つ使用する第1の実施形態と比較して、コンパクトなシステムとなる。
また、前段から後段への輸送距離が短くてすむため、PIDによりフィーバック制御する際に有利である。さらに、グランドチャネルを前段と後段で共有するため、トータルのチャネル数が減少し、純水供給手段が少なくてすむ。
【0068】
(本発明のpH緩衝液の製造方法の利点)
本発明のpH緩衝液の製造方法の特徴は、目的とするpH緩衝液の原料溶液となる調整溶液(1)及び(2)が流通してきた調整溶液生成チャネル(1)及び(2)において、電極と、調整溶液(1)及び(2)が直接接触しないため、調整溶液(1)及び(2)を混合して製造されるpH緩衝液に、水の電解により生成する水素や酸素が混入しない。そのため、pH緩衝溶液を供給する先、例えばクロマトグラフィーシステムへと直接供給することができる。また、緩衝溶液を形成する陽イオンと陰イオンの供給量をいずれも任意に設定できるため、任意の濃度、pHの溶液を供給することが可能である。
さらに、本実施形態では、生成した溶液のpHをモニターし、前段(あるいは後段)の印加電流又は印加電流へとフィードバックすることで任意のpHの溶液を精度良く得ることができる。すなわち、フィードバック制御により、一定pHの溶液を高い精度で供給できる。また、設定値のプログラミングにより溶液を切り替えることなく、pHを変化させながら供給することも可能となる。
例えば、リン酸緩衝溶液を生成した場合、リン酸のpKa値付近では緩衝能が高く、それ以外のpH域では緩衝能が低いため、一定の電圧や電流を印加しただけでは、目的とするpHの溶液を安定して供給することはできないが、本実施形態ではフィードバック制御により、一定pHの溶液を高い精度で供給できる。
【0069】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
例えば、上記実施の形態では原料溶液としてKOH溶液と、リン酸塩溶液の組み合わせでpH緩衝液を製造した例を示したが、他の原料溶液を使用することもできる。
一例をあげると、リン酸塩溶液に代えて、生物学の分野において、安価でもあり広く用いられているトリスヒドロキシメチルアミノメタン溶液と塩酸によるトリス塩酸緩衝液とすると、濃度変化によるpH変化が大きいトリス塩酸緩衝液でも安定した任意のpH溶液が得られるという利点が得られる。
【0070】
また、本発明の溶液イオン濃度の調整装置の構成として、以下のものも有効である。
(1)本発明に係る溶液イオン濃度の調整装置2式を直列または並列に接続し、それぞれ調整溶液として緩衝溶液と塩溶液を生成し混合することで、例えば、生物学の分野で広く用いられるリン酸緩衝生理食塩水やpHコントロールされたメッキ溶液をオンデマンドで供給することができる。
(2)あらかじめ調製された溶液、反応容器内の溶液や、使用後の溶液を、調製溶液生成チャネルへと導入し、pHやイオン濃度を再度、厳密に調整して供給する。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
本発明の第1の態様の溶液イオン濃度の調整装置の溶液ジェネレータ(A)、(B)をそれぞれ単独で使用し、印加電流と溶液イオン濃度の関係を評価した。
【0073】
溶液ジェネレータ(A)を使用し、原料溶液として0.4MKOHや0.25MKH2PO4溶液を0.7mL/minの流量で陽極チャネルに導入し、調製溶液生成チャネルと陰極チャネルに超純水をそれぞれ0.3mL/min、0.8mL/minで流通させながら、直流電源(1)により電流を印加し、調整溶液(1)のK+濃度をイオンクロマトグラフにより測定した。評価結果を図7に示す。
【0074】
溶液ジェネレータ(B)を使用し、原料溶液として0.25MKH2PO4溶液を0.8mL/minの流量で陰極チャネルに導入し、調製溶液生成チャネルと陽極チャネルに超純水をそれぞれ0.3mL/min、0.7mL/minで流通させながら、直流電源(1)により電流を印加し、調整溶液(2)のPO43-の濃度を測定した。評価結果を図8に示す。
【0075】
(実施例2)
図5の構成を有する本発明の第2の態様の溶液イオン濃度の調整装置を用い、pH緩衝液の製造を行った。
条件は、0.4MKOH、0.25MKH2PO4溶液をそれぞれ陽極チャネル、陰極チャネルに3mL/minで導入し、超純水を調整溶液チャネルに3mL/minで導入した。グランド/陰極間には、77mAの定電流を印加することで、調整溶液中リン酸濃度を10mMとした。陽極/グランド間には、PID制御しない場合には、一定の電圧、4.3Vもしくは4.4Vを印加した。PID制御の場合には、設定値をpH4.00とし、陽極/グランド間の印加電圧へとフィードバックした。結果を図9に示す。
【0076】
本発明では、グラウンド/陰極間の電流値を一定とすることで、導入するリン酸濃度を任意の一定値とし、導入するKOHにより生成溶液のpHを調整することができる。
得られるpHをより高精度に制御するため、出口に設けたpHセンサーの信号を陽極/グラウンド間の印加電圧にフィードバックした。具体的には、pHメータの出力をPIDコントローラへ送り、演算により得られるフィードバック信号により陽極/グラウンド間の印加電圧を制御した。リン酸系においてpHジャンプが見られるpH4に調整する際、陽極/グラウンド間に一定の電圧を印加した場合、4.3〜4.4Vの間で厳密な電圧設定が必要な上、得られる溶液のpHの変動幅は大きい(〜1)。一方、得られた溶液のpHをフィードバックした場合、容易に設定値通りのpHが得られるだけでなく、変動幅も(〜0.02)と小さくなった。
【0077】
(実施例3)
図5の構成を有する本発明の第2の態様の溶液イオン濃度の調整装置を用い、実施例2と同じ条件で作動させた。フィードバック機構におけるpHの設定値を4〜12へと5分間で直線的に変化させた。結果を図10に示す。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、必要なpHや濃度の緩衝溶液を高精度かつ高純度にオンデマンドで供給することが可能となる。特に、pHを途中で変化させるような系への供給において本発明の特性を発揮できる。例えば、たんぱく質や抗体の分析には、溶離液のpHを徐々に変えていくグラジエントによる分離が行われている。また、酵素反応における活性制御においても溶液pHの変化が重要な鍵を握る。これ以外にも、染色工程、金属精錬、メッキ工程などpHによりコントロールされる化学プロセスでは、pHの安定性が重要であることはもちろん、pH変化による条件制御がなされている。本技術は、リン酸に限らず、多くの緩衝溶液の調製が可能であるため、用途は無尽蔵な広がりを持っている。
以上のように、本発明によれば、緩衝溶液を必要とするあらゆる場面で用いられるようになると期待される。
【符号の説明】
【0079】
1:溶液イオン濃度の調整装置(第1の実施形態(直列型))
1a:溶液イオン濃度の調整装置(第1の実施形態(並列型))
2:溶液イオン濃度の調整装置(第2の実施形態)
10A:溶液ジェネレータ(A)
10B:溶液ジェネレータ(B)
100A:溶液調整機構(A)
100B:溶液調整機構(B)
200:溶液供給手段
A1:陽極(1)
A2:陽極(2)
C1:陰極(1)
C2:陰極(2)
G:グランド電極
R1:調整溶液生成チャネル(1)
A1:陽極チャネル(1)
C1:陰極チャネル(1)
R2:調整溶液生成チャネル(2)
A2:陽極チャネル(2)
C2:陰極チャネル(2)
G:グランドチャネル
DC1:直流電源(1)
DC2:直流電源(2)
P:溶液配管
M:pHメータ
CEM:陽イオン交換膜
BP:バイポーラ膜
AEM:陰イオン交換膜
図3
図1
図2
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10