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特開2015-223693PCMを用いて機器部品を冷却するための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-223693(P2015-223693A)
(43)【公開日】2015年12月14日
(54)【発明の名称】PCMを用いて機器部品を冷却するための装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/14 20060101AFI20151117BHJP
   C09K 5/06 20060101ALI20151117BHJP
   B23B 19/02 20060101ALI20151117BHJP
   B23Q 11/12 20060101ALI20151117BHJP
【FI】
   B23Q11/14
   C09K5/06 L
   C09K5/06 J
   B23B19/02 A
   B23Q11/12 C
   B23Q11/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-107106(P2015-107106)
(22)【出願日】2015年5月27日
(31)【優先権主張番号】14170049.2
(32)【優先日】2014年5月27日
(33)【優先権主張国】EP
(71)【出願人】
【識別番号】515143463
【氏名又は名称】ステップ−テック アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Step−Tec AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス ヴァイス
(72)【発明者】
【氏名】ズィーモン ツュスト
(72)【発明者】
【氏名】ルートガー ヨーゼフ フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】イェアク ヴォアリチェク
(72)【発明者】
【氏名】エトヴィン ラインハート
【テーマコード(参考)】
3C011
3C045
【Fターム(参考)】
3C011FF01
3C045FD03
3C045FD28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】既存の冷却装置より格段に良好な冷却パワーを備えた、機械要素用の内蔵冷却システムと、対応する機械要素用の閉じた冷却循環路とを提供すること。
【解決手段】冷却剤4は、少なくとも1つの相転移材料を含む分散系であり、冷却循環路24は、少なくとも1つのポンプ5と、前記冷却剤4から熱を取り出す少なくとも1つのヒートシンク9とを有し、前記冷却循環路24は閉じた形態となるように、冷却路7を介して、有利には管路を介して、前記機械要素6の冷却剤インレット22および冷却剤アウトレット23に連通されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)、とりわけモータスピンドルまたは電気機械的駆動ユニットであって、
前記機械要素(6)は、少なくとも1つの熱源を有し、
前記熱源は、前記内蔵冷却システム(8)の冷却路内に流れる冷却剤(4)によって冷却され、
前記機械要素(6)に組み込まれた前記内蔵冷却システム(8)は、少なくとも1つの冷却剤インレット(22)と少なくとも1つの冷却剤アウトレット(23)とを有する機械要素(6)において、
前記冷却剤(4)は、少なくとも1つの相転移材料(PCM)を含む分散系である
ことを特徴とする機械要素(6)。
【請求項2】
前記分散系は、水含有の連続相と、前記相転移材料(PCM)から成る有機の非連続相とから成り、
前記相転移材料(PCM)は、18℃から28℃までの相転移温度域において、有利には21℃から25℃までの相転移温度域において、特に有利には24℃の相転移温度において、固液相転移を引き起こす、
請求項1記載の内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)。
【請求項3】
前記分散系の外相は、低粘性の流体から、有利には0.5mPa・sから1000mPa・sまでの粘性率の流体から成り、
前記外相は有利にはオイル、グリコールまたは水配合物から成り、特に有利には水から成り、有利には、腐食傾向および経時変化傾向を低下させるかまたは微生物の成長を低下させる、たとえば防止剤、保存剤等の添加物も含む、
請求項1または2記載の内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)。
【請求項4】
前記分散系の、前記相転移材料(PCM)である非連続の内相は、有機の無極性媒質から成り、有利にはパラフィン、脂肪酸または脂肪酸エステルから成り、
前記有機の無極性媒質は有利には、前記機械要素の所要冷却温度付近の非常に狭い融点ないしは相転移温度を有し、
前記有機の無極性媒質の融点は有利には、18℃から28℃までの温度域内であり、特に有利には21℃から25℃までの温度域内である、
請求項1から3までのいずれか1項記載の内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)。
【請求項5】
前記相転移材料(PCM)は、
・組成式がC2n+2であるパラフィン、有利には、
・組成式がC1736であるヘプタデカン、または、
・組成式がC1838であるオクタデカン
のいずれか1つの物質、またはこれらの組み合わせから成る、
請求項1から4までのいずれか1項記載の内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)。
【請求項6】
前記冷却剤の分散系は、安定化のため、界面活性剤から成る乳化剤系を含み、有利には、HLB値(Hydrophilic-Lipophilic Balance)が8から15までである乳化剤系を使用し、
特に有利には、前記乳化剤系は、
・ステアリン酸ソルビタン、
・モノオレイン酸ソルビタン、
・モノステアリン酸グリセロール、
・部分エトキシル化アルコール
のうちいずれか1つの物質、または少なくとも2つの物質の組み合わせを含む、
請求項1から5までのいずれか1項記載の内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)。
【請求項7】
前記乳化剤系は2つの乳化剤を含み、
前記2つの乳化剤のうち一方は、前記相転移材料の相転移温度域付近において、または当該相転移温度域自体の範囲内において、固液相間の相転移を引き起こし、かつ、他方の乳化剤は、僅かに高い融点を有し、
有利には、前記2つの乳化剤のうち一方は、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートまたはポリオキシエチレン(6)セチルステアリルエーテルである、
請求項6記載の内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)。
【請求項8】
前記冷却剤の分散系は更に、融点が前記相転移材料(PCM)の相転移温度を上回る別の成分を含み、
有利には前記成分は、脂肪酸または脂肪酸エステルの類に属する有機の無極性物質であり、
特に有利には、前記成分にパルミチン酸またはミリスチン酸が用いられる、
請求項1から7までのいずれか1項記載の内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)。
【請求項9】
前記内蔵冷却システム(8)は、前記機械要素(6)の下方出力域および中間出力域において、当該機械要素(6)を、前記冷却剤(4)に含まれる前記相転移材料(PCM)の固液相間の相転移温度域内である目標温度に冷却するのを保証するように構成されており、
前記機械要素(6)の前記中間出力域を超える場合、前記冷却システム(8)は、前記相転移温度域を上回る顕熱域に前記冷却剤(4)を加熱することにより、前記機械要素を冷却する、
請求項1から8までのいずれか1項記載の内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)。
【請求項10】
前記機械要素(6)は工作機械の加工スピンドルである、
請求項1から9までのいずれか1項記載の内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)を含む閉じた冷却循環路(24)において、
前記冷却循環路(24)は、
少なくとも1つのポンプ(5)と、
前記冷却剤(4)から熱を取り出す少なくとも1つのヒートシンク(9)と
を有し、
前記冷却循環路(24)は閉じた形態となるように、冷却路(7)を介して、有利には管路を介して、前記機械要素(6)の冷却剤インレット(22)および冷却剤アウトレット(23)に連通されている
ことを特徴とする、閉じた冷却循環路(24)。
【請求項12】
前記ヒートシンク(9)は熱交換時に、少なくとも1つの相転移材料(PCM)を含む前記冷却剤(4)が、前記分散系の相転移温度を下回る顕熱域に達する程度に、当該冷却剤(4)を冷却できるように構成されており、
有利には、前記閉じた冷却循環路(24)は、前記冷却剤の温度を一定に維持するため、前記ヒートシンク(9)に制御装置および温度測定装置(2,3)を有する、
請求項11に記載の、内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)を含む閉じた冷却循環路(24)。
【請求項13】
前記冷却剤(4)は、前記ヒートシンク(9)において冷却された後、前記冷却剤インレット(22)を介して前記機械要素(6)の内蔵冷却システム(8)内へ流入し、まず最初に、前記分散系の相転移温度を下回る温度まで少なくとも一部冷却可能である熱源を冷却し、
前記冷却剤(4)は前記熱源から流出するときに、有利には前記相転移温度に達している、
請求項11または12記載の、内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)を含む閉じた冷却循環路(24)。
【請求項14】
前記閉じた冷却循環路(24)と、前記機械要素(6)の内蔵冷却システム(8)とは、当該機械要素(6)の動作中断時に、当該閉じた冷却循環路(24)の前記ヒートシンク(9)を無効化し、かつ、前記冷却剤(4)に蓄積された潜熱エネルギーが、当該機械要素(6)の温度を相転移温度に維持する時間を長くするように構成されている、
請求項11から13までのいずれか1項記載の、内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)を含む閉じた冷却循環路(24)。
【請求項15】
前記冷却循環路(24)のポンプ(5)は、当該ポンプ(5)により、前記冷却剤(4)中における前記分散系の混合が一定になるように構成されている、
請求項11から14までのいずれか1項記載の、内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)を含む閉じた冷却循環路(24)。
【請求項16】
前記冷却循環路(24)のポンプ(5)の構造は、当該ポンプ(5)により、前記冷却剤のエマルジョンの液体成分の乳化、または、当該冷却剤の懸濁液の非連続相の再分散が促進されるように構成されている、
請求項11から15までのいずれか1項記載の、内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)を含む閉じた冷却循環路(24)。
【請求項17】
有利には回転数可変である前記ポンプ(5)は、循環ポンプであり、
前記循環ポンプは有利には、前記冷却剤の流れ方向で見て、冷却対象の前記機械要素(6)より上流に配置されており、
有利には、前記ポンプ(5)の、前記冷却剤を吐出するパワーは、1 l/minから15 l/minまでであり、特に有利には4 l/minから10 l/minまでである、
請求項11から16までのいずれか1項記載の、内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)を含む閉じた冷却循環路(24)。
【請求項18】
前記ポンプ(5)は、ステータリングギヤ(16)を備えたステータ(11)に、当該ステータリングギヤ(16)の内側で回転するロータ(12)を備えつけたものとして構成されており、
前記ロータ(12)はロータリングギヤ(15)を備えており、
前記ロータ(12)の外径と、前記ステータ(11)の内径との差は4mm未満であり、有利には1mmから2mmまでであり、
有利には、前記ステータリングギヤ(16)は前記ポンプ(5)のポンプ出口(21)の領域にも延在しており、
特に有利には、前記ポンプ(5)は渦巻きポンプ(13)として構成されており、さらに、多段ポンプ翼(14)も有する、
請求項11から17までのいずれか1項記載の、内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)を含む閉じた冷却循環路(24)。
【請求項19】
前記機械要素(6)には分散ユニット(10)が後置接続されており、
有利には、前記分散ユニット(10,13)はポンプ段と分散段とを有する、
請求項11から18までのいずれか1項記載の、内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)を含む閉じた冷却循環路(24)。
【請求項20】
前記分散ユニット(10)は前記ヒートシンク(9)に組み込まれており、
前記分散ユニット(10)は有利には、前記ヒートシンク(9)の冷却剤タンクより上流においてレシーバタンク内に組み込まれているか、または、当該ヒートシンク(9)の冷却剤タンク自体に組み込まれている、
請求項19記載の、内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)を含む閉じた冷却循環路(24)。
【請求項21】
前記閉じた冷却循環路(24)は、前記機械要素(6)の熱源において、前記冷却剤(4)の冷却剤インレット(22)と冷却剤アウトレット(23)との間において生じる温度差が1K未満になるように構成されている、
請求項11から20までのいずれか1項記載の、内蔵冷却システム(8)を組み込んだ機械要素(6)を含む閉じた冷却循環路(24)。
【請求項22】
請求項1から10までのいずれか1項記載の内蔵冷却システム(8)を組み込んだ少なくとも1つの機械要素(6)を含む、工作機械、有利にはフライス機または旋削機。
【請求項23】
前記工作機械は、請求項11から21までのいずれか1項記載の閉じた冷却循環路(24)を有する、
請求項22記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1の上位概念に記載の、一体に内蔵された冷却システムを有する機械要素、とりわけモータスピンドルまたは電気機械的駆動ユニットに関し、また、請求項11の上位概念に記載の、一体に内蔵された冷却システムを有する機械要素を含む閉じた冷却循環路とに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工作機械の機器部品の冷却は重要性を増している。最新の工作機械は高精度であり、とりわけ成形技術では近年、工作機械と、工作機械に組み付けられるモータスピンドル‐とりわけ主軸およびフライスヘッド‐とに課される要求は、大幅に厳しくなっている。基本的に、ワークの表面処理の品質を阻害する要因となるのは、動作するスピンドルの振動、加工プロセス、および、モータスピンドルならびに機械フレームの温度挙動である。とりわけ、ワークの切削加工により生じる振動においては、近年、多くのことが講じられてきており、今日では、高性能精密スピンドルが上述の要求を満たす。
【0003】
それに対して熱的挙動の場合には、公知の冷却手段では限界がある。理想的に調節されたスピンドルは、当該スピンドルにおいて、かつ全ての動作状態にわたって、一定の温度と均一の温度分布とを示す。しかし、実際は異なっており、動作時にはスピンドルは点状の熱源を有し、これにより熱入力が不均一となる。スピンドルにおいて熱源となる典型的なものは、ベアリング(摩擦)およびモータ(銅損、鉄損、付加損失および高調波損失)である。これらにより、実際のモータスピンドルが不均一に加熱され、この不均一な加熱により、当該スピンドルにおいて生じる温度分布が不均一となる。この温度は、周方向においても(いわゆる極性温度分布)、また軸方向においても変化する。
【0004】
モータスピンドルの場合、温度分布の不均一性は公知のように冷却によって低減させることができ、この冷却によって、負荷が変わっても一定の温度も保証しなければならない。しかし、とりわけ精密スピンドルの場合には、公知の冷却システムでは温度差を十分に小さく抑えることができない。公知の冷却システムの性能がこのように限られていることは、今日大きな問題となっている。
【0005】
とりわけ工作機械等である機械に組み付けられる機械要素は、特定の場合には、閉じられた冷却循環路を有する冷却システムによって冷却されるか、または熱的に安定化されることがある。既に述べたように、冷却を行う理由は種々存在する:
・機械要素は損失熱を生成し、当該機械要素の機能を保証するためには、この損失熱を強制的に放熱しなければならない。そうしないと、機械要素は過熱に直接起因して、そのまま機能不全となってしまうか、または、効率、有効パワーまたは寿命が明らかに低下してしまう。
・また、機械要素の機能‐たとえばワーク加工‐を適正に果たすためにも、機械要素を熱的に安定化させなければならない。このことはとりわけ、スピンドルの精密関連部品に当てはまる。この精密関連部品は大抵は鋼製であり、これが温度変化時に熱膨張することにより、寸法が変化してしまう。
【0006】
通常は、工作機械の機械要素の始動期間中にのみ動作温度まで加熱させる必要があるので、稼働中は冷却機能が優勢となる。したがって以下では、制御されない単なる冷却にのみ使用されるだけでなく、機械要素の温度安定化にも用いられるもの(つまり、放熱すべき熱量に応じて冷却パワーを適応調整する場合)であっても、簡単に冷却循環路という。さらに、上述のような冷却循環路は機械における温度分布にも、つまり、異なる機械要素間での温度分布(たとえばフライスヘッド、フライスヘッドのベアリング、および、フライスヘッドの領域にある機械フレーム)にも影響を及ぼす。さらに詳細には言及しないが、簡単にいうと、1つの工作機械のすべての機械要素およびすべての部分要素が等しい(動作)温度である場合には、確実に最良の状態になっていると断言することができる。以下、この温度を目標温度という。以下説明する解決手段は、必要に応じて他の事例にも、有効に適応させることができる。この目標温度は室温域内であり、周辺空気による対流によって、周辺へ流入する僅かな熱流が生じる傾向になるように、かつ、その逆に機械冷却によって部屋が冷却しないようにするため、前記目標温度を数K高くすること(たとえば通常は24℃)が多い。簡素化するため、以下では、前記目標温度が周辺温度より高いと仮定する。その逆の場合には、命題を理に適うように適合しなければならない。
【0007】
閉じた冷却循環路は、公知のように、少なくとも1つの熱源と、ヒートシンクと、管系統とを包含し、当該管系統内において冷媒が熱源とヒートシンクとの間で循環する。通常、この循環はポンプによって強制的に行われる。適した冷媒としては、水ベースの冷却剤を用いることが多い。というのも、水ベースの冷却剤の粘性は低く、比熱容量が高いからである。しかし、冷媒の流量は熱源の構造(たとえばスピンドルのサイズ)によって制限されているので、特定の領域に達すると、冷媒の熱容量を増大させることでしか、放熱を増大させることができなくなる。その際には、粘性を小さくすることによって、循環を容易にする。また、冷媒の流量を小さくし、かつ冷媒の粘性を小さくすることが有利である。というのも、こうすることにより、管およびポンプの寸法を小さくすることができ、ヒートシンクあるいは熱源における熱移動に際して必要とされる接触面積がより小さくなるからである。用途に応じて、特定の理由により、冷媒は他の液体とすることもできるが、以下では簡素化すべく、一例として水を冷媒として説明する。
【0008】
図1に、閉じた冷却循環路24を備えたスピンドル冷却システムの動作を概略的に示す。冷却対象であるモータスピンドル6(熱源)は、冷媒ないしは冷却剤4(たとえば水)を用いて冷却される。この冷媒ないしは冷却剤4は冷却剤ポンプ5によって駆動されて、冷却路7内を通って内部冷却システム8‐ここでは、モータスピンドル6の周面に螺旋状に設けられた冷却路内を流れる。組み込まれたスピンドル冷却装置ないしは内部冷却システム8から加熱された状態で出てきた冷媒4は、再び冷却路7を経由して貯蔵器(ヒートシンク)9内に流れて戻り、当該貯蔵器9において冷媒4から熱が取り出される。この熱の取り出しは、ヒートシンク9の貯蔵器9において冷却コンプレッサ1により行われ、この冷却コンプレッサ1は温度モニタ2により閉ループ制御される。この温度モニタ2はたとえば、冷媒を24℃まで冷却させる。冷却コンプレッサ1自体は、24℃より低い温度とすることができる。図1に示した閉じられた冷却循環路24にはさらに、信号接点3を有するフローモニタが組み込まれている。
図2にはその他の点として、内部冷却システム8の冷却路をモータスピンドルに実際にどのように配置できるかを示している。
【0009】
工作機械に冷却装置を設けることは周知であり、たとえばEP1252970A1には、フードが閉じられた工作機械において、冷却循環路と空気による熱対流とを利用して、機械の重要な要素を有利には基準温度に近づける手法が開示されている。
刊行物EP376178A1には、十分な冷却を実現するため、気体の冷媒による冷却システムを備えた工作機械においてモータスピンドルを設ける態様が記載されている。同刊行物では、往路と復路との間の温度差についての言及がない。
EP1927431A1に、スピンドルに用いられる冷媒の往路温度を狭い限界に収めるように閉ループ制御するための、スピンドル冷却用のヒートシンクの有利な構成が記載されている。同刊行物からは、従来の冷却システムで温度安定化を行うと、手間が大きくなることが明らかである。
【0010】
上述のような構成の冷却システムでは、冷媒の熱容量が必然的に制限されていることにより放熱および冷却の他の機能が制限されることについては、以下の複数の理由がある:
第一の理由は、冷媒が「顕熱」応答することである。すなわち、熱を吸収することにより、冷媒の温度は当該冷媒の熱容量に反比例して上昇する。冷媒が熱源内に流入するときの温度は必然的に、流出時の温度より低くなる。それゆえ、1つの冷却循環路では、直列の複数の熱源(図2参照)を同じ温度に安定化することはできず、ましてや、これら複数の熱源の時間特性にばらつきがある場合には尚更である。しかし、1つのスピンドルないしは機械要素はしばしば、1つより多くの熱源を有する場合が多く(たとえば、スピンドルの中間部分にある巻線、前部軸受または後部軸受)、理想的には、当該1つの機械要素のどの部分も同じ温度に安定化しなければならない。この欠点は並列接続を行うことにより緩和することができるが、この並列接続によって、たとえば冷却網の複数の異なる並列分岐の通流制御等、別の問題が生じる。冷却循環路が並列回路または直列回路であるか否かに依存せず、もしくは、存在している熱源の数、または、流される冷媒の質量流量に関係無く、上記手段では1つの機械要素を時間的にも位置的にも等温に維持すること‐すなわち、機械要素のどの場所も同じかつ一定の温度になるように‐維持することができない。
【0011】
第二の理由は、熱源から冷媒への熱流が温度差に依存することである。(たとえばモータ出力が増大することによって)生成される熱量が増大することにより、熱源の温度が上昇すると、局所的な熱吸収の結果として、冷媒の温度も上昇する(これにより、冷媒が顕熱応答する)。この温度上昇により、熱源と冷媒との間の温度差が小さくなり、これにより熱量が低減し、その結果、冷却パワーが減少傾向になる。このことは、目下所要冷却パワーが比較的多い場合と場所に当てはまる。
【0012】
第三の理由は、冷却パワーが冷媒の流量に大きく依存することである。所与の管断面の場合、冷媒の流量が増大すると所要ポンプ圧が増大する。その結果、ポンプ出力を増大させなければならず、ポンプ圧が上昇すると必然的に、冷媒が加熱されることにもなる。この損失熱は冷媒自身によって放熱しなければならず、この時点で既に、肝心の熱源における冷却パワーが低減する。したがって、流量を増大させるだけでは、使用可能な冷却パワーの増大量は比例関係未満になってしまう。
【0013】
第四の理由は、流量を増大させると、冷媒中に乱流が形成されるおそれが生じることである。乱流が形成されると所要ポンプ圧が更に増大し、この増大によってポンプ出力も一層増大し、上述の使用可能な冷却パワーの低下に繋がる。
【0014】
第五の理由は、管径および断面の形状は、実際には自由に選択できないことが多いことである。該当する機械要素は多岐にわたる要求を満たさなければならず、その思想は、これらの多岐にわたる要求を最大限に満たすために最良の妥協点を見出すことである。冷却循環路に使用可能であるスペースは限られており、要素が複雑であることにより、この使用可能なスペースには種々の制約が課され、その中でも特に幾何学的な制約が課される(図2の冷却路を参照のこと)。
【0015】
第六の理由は、冷媒の温度の閉ループ制御は重大な問題となることである。目標温度に対する許容誤差が狭い場合、この閉ループ制御に複雑なサブユニットやセンサ系、ハードウェアおよびソフトウェアを用いないと、この許容誤差を遵守することができない。通常、このような冷却は、いわゆるオンオフ制御器を用いることにより動作する。具体的には、上方制御点に達すると直ちにヒートシンクが冷却され、これにより、冷媒がヒートシンクから出て行くときの温度が下方制御点と上方制御点との間で変化する。たとえば精密加工用の加工スピンドルから、前記温度がこのように変化すると、数Kまたは数K未満のみであっても、使用に際して悪影響を及ぼすことが分かっている。
【0016】
第七の理由は、動作中断中には機械要素が冷却されてしまい、たとえば精密加工の場合、動作を再開すると、熱的に安定的な動作状態を確立するために加熱期間が必要となることである。
【0017】
上述の実施態様からは完全に離れて、他の技術分野では、いわゆる相転移材料(PCM)が吸熱能力を有することが知られている。PCMとは、所定の温度で相転移を引き起こし、この相転移時に大量の熱量を放出または吸収する物質である。相転移の最中‐たとえば固相から液相へ状態が変化するとき‐には、熱の流入や流出によって温度が変化することはない。このとき、外部からは、PCMを含む液体の比熱容量が通常の冷媒よりも格段に大きいように見える。PCMの研究はとりわけ、特に太陽熱を貯蔵するための蓄熱密度を高くするためになされてきた。PCMはさらに、特に建築技術において、建物の熱慣性を低減して出力ピークを小さくするためにいわゆる潜熱蓄熱材にも使用される。潜熱蓄熱材を用いて、周期的に発生する温度変動をレベリングすることが知られている。
【0018】
EP 2 375 483 A2 には、無水ベースの冷媒中に懸濁液またはエマルジョンとしてのPCMを用いることが開示されている。このPCMを含有する冷媒は、PCMの高い熱容量を利用して燃料電池にて応用されている。PCMとしては、無機塩を無水液体中に入れたものが記載されている。確かに、 EP 2 375 483 A2 には、PCMを含む分散系を冷媒として用いることが記載されているが、たとえば、燃料電池を目標温度に安定化させる手法についての示唆または動機づけは、同刊行物からは得られない。
【0019】
EP 0 987 799 A2 には、固体レーザを短時間冷却し、かつ熱的安定化するための受動冷却システムが記載されている。同刊行物に開示された冷却システムは、慣用されている冷却ボックスの冷却部材に相当する、固体のPCM冷却部材を使用する。しかし、固体のPCM冷却部材を用いる冷却システムは数分しか機能せず、同刊行物によればたとえば、誘導ミサイルの最終的ターゲット誘導のために用いることができる。ここで記載された冷却システムの連続動作を行うためには、EP 0 987 799 A2 では、固体PCMと、冷却液を用いて動作する熱交換器とを併用することが提案されている。このことにより、固体から液体へのPCM冷却部材ないしはその成分の相状態に有利に影響を及ぼすことができる。EP 0 987 799 A2 ではまた、冷却部材を複数の異なるPCM材料から作成することも提案されている。
【0020】
US 5 141 079 からは、工作機械において工具とワークとの間の加工箇所を冷却するために、マイクロカプセル化されたPCMを成分として含んでいる冷却潤滑剤を使用することが公知である。ここで記載された冷却潤滑剤は、加工箇所にある工具とワークとを非常に有効に潤滑かつ冷却する。それは、冷却液中に含まれるPCMの熱容量のおかげである。この冷却潤滑剤は、開放型ないしは外部の冷却循環路において働き、ワークの加工箇所を冷却したり、ないしはフライス工具または旋削工具の先端を冷却するためだけに用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】EP1252970A1
【特許文献2】EP376178A1
【特許文献3】EP1927431A1
【特許文献4】EP2375483A2
【特許文献5】EP0987799A2
【特許文献6】US5141079
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上述の公知の冷却システムおよびその欠点に基づき、本発明の基礎となる課題は、既存の冷却装置より格段に良好な冷却パワーを備えた、機械要素用の内蔵冷却システムと、対応する機械要素用の閉じた冷却循環路とを提供することである。本発明の冷却システムは特に、規定された動作パラメータの範囲内で、小さい冷却剤流量で機械要素の十分な冷却を可能にし、機械要素の熱源において冷却剤の往路と復路との間に生じる温度差が非常に小さいかまたは無くなるようにしなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記課題は、請求項1に記載の構成を備えた機械要素と、請求項11に記載の構成を備えた閉じた冷却循環路とにより解決される。
【0024】
分散系とは、(分散相を包囲する)液体の連続相から成り非連続相を含む混合流体である。この非連続相はたとえば、固体粒子または繊維から成ることができ、この場合には懸濁液という。非連続相も液体であり、たとえば粒子から成る場合には、エマルジョンという。本発明では、前記冷却剤はPCMを固体状でも、また液状でも含有することができる。
【0025】
本発明のように、機械要素の内蔵冷却システムの冷却剤に相転移材料を用いることにより、従来の公知の冷却装置よりも格段に高い良好な冷却パワーが実現される。この有利な効果について、以下説明する。
【0026】
機械要素のちょうど目標温度ないしは動作温度の領域にて相転移を引き起こす分散系を、たとえば水と適切なPCMとから成る分散系を用いることにより、当該目標温度において冷却剤の高い熱容量が実現される。このことにより、冷却剤温度を上昇させることなく、PCMを含む分散系によって機械要素からの損失熱を吸収することができる。このようにして、上述の分散系は、等温用途に理想的な冷媒となる。冷却対象となる機械要素はたとえば、工作機械のフライスヘッドに設けられるモータスピンドル、または、熱源を有する他の機械要素とすることができる。
【0027】
PCM分散系の比熱容量は、関連の温度域では水と比較して格段に高いことにより、水と比較して小さい流量で、より高い冷却パワーを冷却することができ、なおかつ、一定の温度を保つこともできる。このことによってさらに、周囲の固体から冷却剤への熱移動も促進される。というのも、その温度差は変わらないからである。また、冷却路または冷却流路の直径を小さくすることもでき、または、同じ管径でより多くの熱を輸送することができる。
さらに、熱源の温度が上昇すると、冷却剤に流れ込む熱が増大する。というのも、冷却剤自体は前記目標温度ないしは相転移温度を維持するからであり、このことにより推進温度勾配が増大し、この温度勾配の増大によって、技術的に望まれているように冷却効果を増大させることができる。
【0028】
他の利点として、前記目標温度はPCMの相転移温度により遵守され、複雑な閉ループ制御が不要となるという利点も奏される。冷却システムないしは冷却循環路の閉ループ制御では、ヒートシンクにおいてPCMの潜熱域を越えないことだけを保証すればよくなる(このことは、特定の実施形態ではむしろ望ましいことである)。
【0029】
したがって理想的な場合には、PCMを含む分散系から成る冷却液は、ほぼすべてのPCM固体粒子が凍結した状態で熱源に入りこみ、ほぼすべてのPCM粒子が溶解した状態で熱源から出て行くということになる。
【0030】
有利な実施形態では、相転移温度域の下端において冷却剤が顕熱挙動に移行することを、そのまま直接、ヒートシンクにおける冷却パワーの閉ループ制御の入力パラメータとして利用することができる。こうするためにはヒートシンクは、冷却剤の温度を測定するための測定装置と、当該ヒートシンクにおける冷却パワーを調整するための閉ループ制御装置とを有する。
冷却循環路のヒートシンク(裏面放熱器)において冷却剤を冷却すると、相転移温度より低い温度でも、冷却剤の潜熱域から離れることが可能である。その後に冷却剤が冷却循環路の冷却路を介して機械要素のヒートシンク内に流入すると、相転移潜熱域に迅速に戻り、これにより、相転移の温度によって熱的(等温)安定化が働く。この場合、熱源内における冷却剤の流れは有利には、目標温度ないしは動作温度自体を下回るまで冷却することが可能な熱源をまず最初に冷却し、その後に初めて、目標温度ないしは動作温度に維持しなければならない熱源へ当該冷却剤を供給するように構成する。その際には分散系ないしはPCMは、相転移温度が目標温度に相当するように構成ないしは選定される。有利には、相転移温度域において示すヒステリシスが小さく、かつ、多くのサイクルを経ても安定状態に留まるPCMが選定される。
【0031】
PCMを含む上述の分散系を用いることにより、たとえばスピンドルベアリング等の機械要素の重要な要素すべてを、所望の目標温度ないしは相転移温度まで冷却できるように、機械要素の内蔵冷却システムを、特に工作機械に設けられる加工スピンドル用の内蔵冷却システムを構成すること、または閉じた冷却循環路を構成することができる。従来の解決手段ではどうしても、機械要素冷却部の往路と復路との間に温度差が生じてしまっていたが、上述のことにより、機械要素ないしはスピンドルにおける温度差を実際に無くすことができる。本発明により、機械要素を、または機械要素の所望の部分を、近似的に等温に維持することができる。
【0032】
熱源の発生熱が大きくなり、冷却剤が、当該冷却剤に含有されるPCMの潜熱域から離れて、相転移温度より上方の顕熱域に移行する場合に生じる、特殊な事例がある。その際には前記冷却剤は、たとえば水等の従来の冷媒の機能を果たし、前記冷却システムは、冷却剤が損失熱を吸収すると顕熱域において通常加熱する従来の冷却システムのように通常動作する。本発明のPCM分散系は、有利にはその外相である連続相は水から成るので、たとえば水等の従来の冷媒と比較して格段に悪くなるということはない。
【0033】
この場合には、冷却剤の温度が上昇すると、熱源からの熱流は当該熱源の周辺空気による対流によって増幅される。このことによっても、より高い温度でも安定的な状態になることを保証することができる。たとえば、このような動作状態は具体的には、たとえば機械スピンドル等の機械要素に高いトルクを発生させなければならないが、ワーク加工に課される所要精度はそれほど高くない場合に可能となる。より低い出力かつより高い所要精度に戻ると、冷却システムないしは冷却循環路全体にわたって、冷却剤は‐上述のように‐再び潜熱域になる。
工作機械の加工スピンドルの場合には、上述の事例はとりわけ粗削り加工時に生じる。その際には高いトルクを生じさせなければならないので、スピンドルを上方の出力領域で動作させなければならなくなる。その際には、とりわけモータスピンドルのモータ巻線において生じる損失熱が著しく多くなる。しかし粗削り加工を行う場合には、加工精度に課される要求は小さいので、モータスピンドルを目標温度ないしは目標動作温度に安定化させる必要が無くなる。通常はその次にスムージング処理が行われ、その際にはスピンドルは下方または中間の出力領域においてのみ動作するので、損失熱は小さくなり、PCM冷却剤を再び潜熱域において使用できるようになり、このことにより、機械要素ないしはスピンドルを再び高精度で、かつ目標動作温度において等温で動作させることができるようになる。
【0034】
冷却循環路のヒートシンクにおいて冷却剤を顕熱域まで冷却させることにより、さらに、相転移潜熱温度域の下限を簡単に識別することができ、このことにより、1つまたは複数の熱源に対し、冷却剤の潜熱域全体を再び冷却に使用できることが保証される。また、相転移拡散時に観察される過冷却の傾向は、本発明を用いないと損傷の原因になってしまうが、これも解消することができる。
【0035】
PCMを含む冷却剤の下方顕熱域では、温度は迅速に下降するので、本発明の1つの有利な実施形態では、顕熱域へのこの移行を閉ループ制御によって簡単かつ低コストで検出および制御することができる。
【0036】
目標温度ないしは相転移温度では熱容量が増大するので、本発明の冷却システムないしは冷却循環路を低い冷却剤流量に合わせて構成することができ、このことにより当該冷却システムをより簡単に具現化することができ、より低いポンプ出力で動作させ、全体的により低コストの構成とすることができる。さらに、冷却がより安定的となり、かつ、熱源における温度差を格段に小さくすることができる。
【0037】
機械の動作を中断させた場合であって、目標温度ないしは動作温度が周辺温度より低いかまたは高い場合、冷却剤の潜熱域における高い熱容量を、各機械要素の動作温度の維持に利用することができる。こうするためには、管路系による熱損失と、周辺への熱移動とが著しく大きくなるが、機械要素を冷却剤の相転移温度に維持しながら、冷却循環路を更に動作させ続ける。その際に有利なのは、ある程度の時間にわたって、機械要素を目標温度に安定化するために、冷媒中に潜在する熱を利用できるように、ヒートシンクを無効化するが循環路を維持することである。しかし、潜熱域から離れて冷却剤が顕熱応答し始めた場合(すなわち、冷却剤の温度が相転移温度より下回った場合)、動作を再開すると、冷却剤の顕熱特性に起因して、相転移温度である目標温度に迅速に戻る。したがって、外相がたとえば水から成る冷却剤分散系の場合には、比熱容量を顕熱域において内相(たとえばPCM)によって低減させることは問題にはならず、むしろ有利である。このことにより、機械ないしは機械要素の加熱時に冷却剤を潜熱域まで迅速に加熱することができる。すなわち、目標温度ないしは相転移温度まで迅速に加熱することができる。
【0038】
本発明の解決手段はさらに、全体的な構成がより簡素化し、冷却循環路の寸法を、つまり冷却循環路の管路系およびポンプの寸法を小さくすることができるという利点も奏し、これはもちろん、動作時の冷却循環路の消費エネルギーが少なくなることにも拠るものである。
【0039】
本発明の冷却剤は分散系から成り、有利には以下の特徴を有する:
第1の特徴は、外相が低粘性の流体から成り、有利には0.5〜1000mPa・sの粘性率から成ることである。この流体は有利には難着火性であり、無毒であり、非腐食性である。有利なのはオイル、グリコールおよび水配合物である。特に有利なのは水である。調質のため、前記流体に更に、腐食傾向および経時変化の傾向を低下させる添加物を、または、微生物の成長を阻止する添加物(防止剤、保存料)を含有させることができる。
【0040】
第2の特徴は、内相が、前記外相との混和性が僅かである製品から成ることである。このことに応じて有利なのは、有機の無極性媒質である。有利なのは、パラフィン、脂肪酸および脂肪酸エステルである。
この有機相の融点は有利には、平均温度が所要冷却温度ないしは目標温度に相当する、非常に狭い溶解範囲を有する。
【0041】
使用可能なパラフィンはたとえば、組成式がC2n+2であるn‐アルカンである。その際に有利なのは、組成式がC1736であるヘプタデカンと、組成式がC1838であるオプタデカンとの混合物を、本発明の冷却剤に用いることである。
【0042】
市販されている有機物質の例としては、独国ベルリンの販売元ルビテルム(Rubitherm)の製品RT25 HCがある。
価数が比較的高いアルコールを適宜添加することにより、溶融挙動および融点を適宜調整することができる。
【0043】
第3の特徴は、乳化剤系が、分散系の安定化を保証する界面活性剤から成ることである。パラフィン分散系に有利なのは、HLB値(Hydrophilic-Lipophilic Balance)が8から15までである乳化剤系である。その際に有利なのは、以下の物質の混合物である:
ステアリン酸ソルビタン
モノオレイン酸ソルビタン
モノステアリン酸グリセロール
部分エトキシル化アルコール
【0044】
本発明のこの実施形態において有利なのは、2つの乳化剤を選定し、そのうち一方の乳化剤は、可能な限り正確に所望の目標温度ないしは冷却温度になったときに固液相転移を示し、他方の乳化剤の融点をそれより僅かに高くすることである。ここで特に有利な乳化剤は、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートである。この乳化剤は、ICI社から商品名ツイーン60(Tween 60)で、または、コルブ社(Kolb AG)から商品名コチレンS/1(Kotilen-S/1)で市販されている。
また、ポリオキシエチレン(6)セチルステアリルエーテルも有利であり、これは、ビーエーエスエフ社(BASF AG)から商品名クレモフォールA6(Cremophor A6)で、またはコルブ社から商品名インベンティンAG/168S/060(Imbentin-AG/168S/060)で市販されている。
【0045】
第4の特徴は、分散相が更に他の成分を含むこと、特に、過冷却を低減するための他の成分を含むことができることである。有利なのは、比較的高融点の有機の無極性物質である。目的は、動作域の範囲内(目標温度)において、当該比較的高融点の成分をより低濃度で常に凝固状態とし、これにより、当該高融点の成分が本来の分散相の結晶形成の核とすることである。
有利には、上記文献に記載された発明とは異なり、上述のようにするために、あまり類似の物質を選択しない。したがって、分散相が主に短鎖n‐アルカンから成る場合には、長鎖n‐アルカンを用いないのが有利である。その理由は、この場合、混合作用によって本来の分散相の融点が上昇し、および/または、結晶成長核であると考えられる物質の融点が低下してしまうからである。ここで有利なのは、脂肪酸、脂肪酸エステルの類から、比較的高融点の物質を選択することである。たとえば、パルチミン酸またはミリスチン酸が適している。
【0046】
概略的には、本発明の閉じた冷却循環路は図1の冷却循環路24と同様の構成となっているが、本発明にて使用される冷却剤が相違しており、また、特殊な測定手段と閉ループ制御手段と移送手段とを用いることも相違している。以下詳細に説明するように、たとえば冷却装置、循環ポンプ、移送圧または冷却剤温度(これらは、複数の異なる場所において測定することができる)を測定するための測定装置について、従来の冷却システムと相違することがある。
本発明では、冷却剤温度は有利には、機械要素(たとえばモータスピンドル、または他の電気機械的駆動装置等)の冷却剤インレットと冷却剤アウトレットとの双方において測定され、また、裏面放熱器(ヒートシンク)の入口もしくは出口または裏面放熱器内の複数の異なる場所においても測定される。
【0047】
以下、概略的な図を参照して、本発明およびその思想を説明する。図面中には、複数の異なる実施形態も示しているが、本発明ないしは本発明の思想は、ここで説明する実施例に限定されることはないことを明示的に述べておく。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】閉じた冷却循環路24を備えたスピンドル冷却システムの動作を概略的に示す図である。
図2】モータスピンドルにおける内部冷却システム8の冷却路の実際の配置構成を示す図である。
図3】本発明の閉じた冷却循環路24の有利な実施形態を示す概略図である。
図4図3の変形態様を示す図である。
図5】本発明の1つの有利な実施形態を示す図である。
【0049】
図3の概略図は、本発明の閉じた冷却循環路24の有利な実施形態を示している。この冷却循環路24は、冷却路7内において冷媒を移送するための冷却剤ポンプ5‐たとえば循環ポンプ‐を有し、この冷却剤ポンプ5は有利には、冷却剤の流れ方向で見て機械要素6(たとえば機械スピンドル)より上流に配置されている。その移送体積流量は、冷却対象の機械要素6の内部冷却システム8に必要な冷却パワーに依存する。本発明では有利には、循環ポンプが用いられる。たとえば、1〜15 l/minの吐出パワー、有利には4〜10 l/minの吐出パワーが可能である。
上述の構成の循環ポンプ5は有利には、所要パワーに応じて体積流量を調整するために回転数可変構成となっている。
本発明の1つの有利な実施形態では、循環ポンプによって生じさせるべき作動圧(ポンプからの流出圧=機械要素ないしはモータスピンドルへの流入圧)は、圧力測定装置を用いて測定して閉ループ制御することができる。この圧力は、冷却剤の粘性と前記体積流量とに依存し、通常は型式固有のポンプ特性曲線に従う。基本的には、体積流量が増大すると圧力が上昇する。というのも、冷却路内および冷却対象の機械要素内部における冷却剤の流速が上昇することにより、流れ抵抗が上昇するからである。
有利にはこれに応じて、内部冷却システム8による機械要素6ないしは機械スピンドルの十分な冷却を保証する適応調整された体積流量は、それ以外の点では必要以上に多くなることがなくなる。
【0050】
体積流量により生じさせる圧力が高くなることにより、必要とされる当該体積流量が多くなる場合には、冷却剤ポンプ5の回転数を上昇させる。本発明に有利なのは、たとえば渦巻ポンプ等の簡単な構造のポンプである。
循環ポンプのモータの電気エネルギーのうち、実際に体積動作(圧力および体積流)に変換できるのは一部のみであり、ポンプ動作の大部分は散逸してしまう。すなわち、損失熱として冷却剤でポンプ5から出て行ってしまう。この散逸ないしは損失熱はポンピング過程中に、冷却剤自体における剪断力と摩擦とによって生じ、特に、ポンプ5内部の回転ホイールとコントロール装置とにおいて生じる。
【0051】
ここで、エマルジョンの安定性に課される要求と関連して有利なのは、生じる剪断力の態様および場所が、エマルジョンの分散を生じさせるような態様および場所となるように、前記循環ポンプ5を構成することである。たとえば粒子成長等のエマルジョンの障害が生じた場合には、冷却剤4がポンプ5を通過するときにこの障害を解消することができる。必要な剪断力の大きさは、エマルジョンの一般的な安定性と、とりわけ乳化剤系とに依存する。
【0052】
本発明の1つの有利な実施形態では、冷却対象の機械要素6に分散ユニット10が後置接続されている(図3参照)。当該実施形態の1つの変形態様では、この分散ユニット10はポンプ段と分散段とを備えている(図5参照)。
【0053】
有利には、前記循環ポンプ5は現在の標準的構成とは変わらない構成であり、通常生じるその剪断力は、有効な再分散を保証するのに十分である。
【0054】
図4に示した別の変形態様では、循環ポンプ5ないしはそのポンプハウジング19は、リングギヤ16を有するステータ11と、その中で回転する、ロータリングギヤ15を備えたロータ12とを有する構成となっている。ステータ11のリングギヤ16は、ポンプ5の出口側21にも設けられており、これにより、ポンプの出口において生じる剪断力も増大する。
【0055】
図5に示した特に有利な変形態様では、前記ポンプとして、上述の用途に応じて特別に最適化された渦巻ポンプ13を用いる。この渦巻ポンプ13は多段のポンプ翼14を有し、このポンプ翼14は渦巻ポンプ13の本来のロータホイール12を補完する。このロータホイール12はロータリングギヤ15を有する。ロータリングギヤ15はステータリングギヤ16内にて同心に、かつ回動可能に配置されている。ロータ12の外径と、外側のステータ11の内径とはほとんど変わらないので、狭い横方向ギャップが実現される。有利なのは、ギャップを0.5〜1mmとすること、よって、ロータ12とステータ11との直径差を1〜2mmとすることである。ロータ12の選択すべき外径は、ポンプ13の回転数に依存する。この外径は有利には、ステータ11に対するロータ12の相対速度が5m/sから40m/sまでの間となるように選択される。放出されるエネルギーが過度に大きくならないようにするために有利なのは、5〜15m/sの相対速度を用いることである。
図5に概略的に示されているように、渦巻ポンプ13は駆動装置17(電動機)により駆動され、この駆動装置17は駆動軸18を介して、ロータ12と前記多段ポンプ翼14とを駆動する。さらに同図では、渦巻ポンプのポンプハウジング19と、ポンプインレット20と、ポンプアウトレット21とを示している。
【符号の説明】
【0056】
1 冷却コンプレッサ
2 温度モニタ
3 流れモニタ
4 冷却剤、冷媒、PCM
5 冷却剤ポンプ、循環ポンプ
6 機械要素、モータスピンドル
7 冷却路
8 内蔵された冷却システム、ないしは、組み込まれたスピンドル冷却装置
9 ヒートシンク、冷却装置
10 分散ユニット
11 ステータ
12 ロータ
13 渦巻ポンプ
14 多段ポンプ翼
15 ロータリングギヤ
16 ステータリングギヤ
17 渦巻ポンプの駆動装置ないしはモータ
18 駆動軸
19 ポンプハウジング
20 ポンプインレット、ポンプの入口側
21 ポンプアウトレット、ポンプの出口側
22 冷却剤インレット
23 冷却剤アウトレット
24 閉じた冷却循環路
図1
図3
図4
図5
図2