(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-223771(P2015-223771A)
(43)【公開日】2015年12月14日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 17/06 20060101AFI20151117BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20151117BHJP
H01L 27/12 20060101ALI20151117BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20151117BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20151117BHJP
【FI】
B32B17/06
H01L27/12 B
G09F9/00 342
G09F9/30 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-110182(P2014-110182)
(22)【出願日】2014年5月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】伊東 翔
【テーマコード(参考)】
4F100
5C094
5G435
【Fターム(参考)】
4F100AD00B
4F100AG00A
4F100AS00B
4F100BA02
4F100EH46
4F100EJ30
4F100EJ42
4F100EJ52
4F100EJ54
4F100EJ86
4F100GB41
4F100JK17A
5C094AA43
5C094BA27
5C094BA43
5C094EB02
5C094GB10
5G435AA17
5G435BB05
5G435BB12
5G435KK05
(57)【要約】
【課題】
積層体を利用してガラス基板を製造する際に、処理を終えたガラスフィルムの円滑な剥離を可能とし、且つガラス基板の品質の低下を防止すること。
【解決手段】
ガラスフィルム1と支持ガラス2とを、面接触させて相互に密着させた積層体3を作製する積層体作製工程と、積層体3におけるガラスフィルム1に電子デバイス材4を形成してガラス基板5とする処理工程と、支持ガラス2からガラス基板5の全体を剥離させる剥離工程とを含んだガラス基板の製造方法であって、処理工程の実行後で、且つ剥離工程の実行前に、積層体3にパルスレーザー6を照射して、その照射領域6xを含んだ包含領域6yで支持ガラス2からガラス基板5の一部を剥離させることで、剥離工程の起点となる剥離起点部5xを形成する剥離起点部形成工程を実行するようにした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するガラスフィルムと、該ガラスフィルムを支持する支持ガラスとを、面接触させて相互に密着させた積層体を作製する積層体作製工程と、
前記積層体における前記ガラスフィルムに電子デバイス材を形成して、該ガラスフィルムをガラス基板とする処理工程と、
前記支持ガラスから前記ガラス基板の全体を剥離させる剥離工程とを含んだガラス基板の製造方法であって、
前記処理工程の実行後で、且つ前記剥離工程の実行前に、前記積層体にパルスレーザーを照射して、その照射領域を含んだ包含領域で前記支持ガラスから前記ガラス基板の一部を剥離させることで、前記剥離工程の起点となる剥離起点部を形成する剥離起点部形成工程を実行することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記剥離起点部形成工程の実行後で、且つ前記剥離工程の実行前に、前記ガラス基板と前記支持ガラスとの少なくとも一方について、前記包含領域に対応する部位から前記照射領域に対応する部位を切断によって取り除く切断除去工程を実行することを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記パルスレーザーの焦点位置を前記積層体の厚みの範囲内に位置させることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記支持ガラスの厚みを前記ガラスフィルムよりも大きくし、
前記パルスレーザーを前記ガラス基板側から照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記パルスレーザーを前記支持ガラス側から照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記パルスレーザーの光軸が前記積層体の厚み方向に沿って延びるように、該パルスレーザーを照射することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記ガラスフィルムが矩形の形状を有し、
前記剥離起点部を前記ガラス基板のコーナー部に形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスフィルムに液晶素子等の電子デバイス材を形成して、ガラス基板を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年急速に普及しているスマートフォンや、タブレット型PC等のモバイル機器は、軽量であることが要求されるため、これらの製品に組み込まれるガラス基板においては、薄肉化が推進されているのが現状である。そして、このような要求に応えるものとして、板ガラスをフィルム状にまで薄肉化(例えば、厚みが300μm以下)したガラスフィルムが開発されるに至っている。このガラスフィルムは、その厚みが極めて薄いことから、可撓性に富んだ性質を有している。
【0003】
このガラスフィルムに対して、例えば、透明導電膜等の電子デバイス材を形成する処理を施し、ガラス基板を製造するような場合には、ガラスフィルムの取り扱いを容易にするため、ガラスフィルムと、これを支持する支持ガラスとを重ね合わせた積層体を利用する場合がある。この積層体を利用すれば、支持ガラスと重ね合わせたことで、ガラスフィルムの可撓性に富んだ性質を一時的に排除することができる。また、重ね合わせた両ガラスの間に密着力が作用することから、パターニングの位置ずれが生じにくいという利点もある。
【0004】
このような優れた機能を有する積層体であるが、処理を終えたガラスフィルムをガラス基板として製品に組み込むにあたり、支持ガラスから剥離させる際には、以下のような不具合を生じることがある。すなわち、積層体におけるガラスフィルムと支持ガラスとの間には、水素結合に起因して発生しているものと想定される密着力が作用している。そのため、この密着力によって支持ガラスからガラスフィルムを円滑に剥離させることが困難となる場合があった。
【0005】
そこで、このような不具合を解消し得る技術が特許文献1に開示されている。同文献には、支持ガラスからガラスフィルムを剥離させやすくするための積層体が開示されている。この積層体は、矩形のガラスフィルムを支持ガラスが支持する構成となっている。そして、支持ガラスには、その厚み方向に延びる孔が形成されており、この孔上にガラスフィルムのコーナー部の一つ(以下、特定コーナー部と表記する)が位置するように、両ガラスが重ね合わされている。つまり、この積層体では、ガラスフィルムの特定コーナー部が支持ガラスと非接触の状態下にある。
【0006】
このため、ガラスフィルムを支持ガラスから剥離させる際には、支持ガラスと密着することのない特定コーナー部を起点として、ガラスフィルムの剥離を開始することができると共に、剥離させるために要する力をガラスフィルムに好適に作用させることが可能になる。これにより、支持ガラスからガラスフィルムを円滑に剥離させやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−30404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の技術によっても、未だ下記のような解決すべき問題が残存している。すなわち、上記の積層体においては、剥離の起点となるガラスフィルムの特定コーナー部を支持ガラスと非接触の状態とするために、支持ガラスに孔が形成されている。そして、この孔の内周部においては、他の部位とは異なり、不可避的にガラスフィルムと支持ガラスとの相互間に隙間ができやすい傾向がある。
【0009】
このため、ガラスフィルムに対して、例えば、フォトレジストの形成等の液体を使用する必要がある処理を施す際には、当該液体が両ガラスの相互間に形成された隙間に入り込んでしまう場合がある。このような事態が発生すると、ガラスフィルムを好適に剥離させることが困難となり、ひいては、製造されるガラス基板の品質を低下させる結果を招いてしまう。
【0010】
このように、上記の技術においては、支持ガラスからのガラスフィルムの円滑な剥離と、製造されるガラス基板における品質の低下の防止とを両立させることが困難であった。このような事情に鑑みなされた本発明は、積層体を利用してガラス基板を製造する際に、処理を終えたガラスフィルムの円滑な剥離を可能とし、且つガラス基板の品質の低下を防止することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために創案された本発明は、可撓性を有するガラスフィルムと、ガラスフィルムを支持する支持ガラスとを、面接触させて相互に密着させた積層体を作製する積層体作製工程と、積層体におけるガラスフィルムに電子デバイス材を形成して、ガラスフィルムをガラス基板とする処理工程と、支持ガラスからガラス基板の全体を剥離させる剥離工程とを含んだガラス基板の製造方法であって、処理工程の実行後で、且つ剥離工程の実行前に、積層体にパルスレーザーを照射して、その照射領域を含んだ包含領域で支持ガラスからガラス基板の一部を剥離させることで、剥離工程の起点となる剥離起点部を形成する剥離起点部形成工程を実行することに特徴付けられる。ここで、「包含領域」とは、照射領域の全域を包含する領域のみでなく、照射領域における一部の領域のみを包含する領域をも含む。
【0012】
このような方法によれば、処理工程の実行後で、且つ剥離工程の実行前に、剥離起点部形成工程を実行することから、処理工程の実行時においては、剥離工程の起点となる剥離起点部が当然に未形成の状態にある。従って、剥離起点部の形成に起因して、支持ガラスとガラスフィルムとの相互間に隙間が形成された状態の下で、処理工程が実行されてしまうような状況が生じ得なくなる。その結果、ガラスフィルムに電子デバイス材を好適に形成することができ、隙間の形成に起因したガラス基板の品質の低下を確実に防止することが可能となる。また、この方法では、剥離起点部形成工程の実行時には、以下のような作用が生じる。すなわち、積層体へのパルスレーザーの照射に伴って、当該パルスレーザーによる加熱に起因したガスが発生する。そして、このガスが、ガラス基板と支持ガラスとを分離させるように両ガラスを押し分ける。この作用により、パルスレーザーの照射領域を含んだ包含領域において、ガラス基板の一部が支持ガラスから剥離して剥離起点部が形成される。これにより、剥離起点部を起点にガラス基板の剥離を開始することができると共に、ガラス基板を剥離させるために要する力を効率よく作用させることが可能になる。その結果、ガラス基板の全体を円滑に支持ガラスから剥離させることができる。
【0013】
上記の方法において、剥離起点部形成工程の実行後で、且つ剥離工程の実行前に、ガラス基板と支持ガラスとの少なくとも一方について、包含領域に対応する部位から照射領域に対応する部位を切断によって取り除く切断除去工程を実行することが好ましい。
【0014】
剥離起点部形成工程を実行する際、パルスレーザーの照射領域では、当該レーザーによる加熱に起因して、一旦は支持ガラスから剥離したガラス基板が、再び支持ガラスと密着してしまうような事態を生じるおそれがある。これに対し、包含領域のうち、照射領域を除く領域においては、パルスレーザーが照射されていないため、このような事態を生じるおそれが可及的に排除され、ガラス基板が支持ガラスから確実に剥離した状態とすることができる。このことから、剥離起点部形成工程の実行後で、且つ剥離工程の実行前に、切断除去工程を実行して、ガラス基板と支持ガラスとの少なくとも一方について、包含領域に対応する部位から照射領域に対応する部位を切断によって取り除けば、以下のような好ましい態様が得られる。すなわち、切断除去工程の実行後における剥離起点部に、ガラス基板が支持ガラスから確実に剥離した箇所のみを残存させることが可能となる。その結果、ガラス基板の全体を支持ガラスから円滑に剥離させる上で、より好適な状態とすることができる。
【0015】
上記の方法において、パルスレーザーの焦点位置を積層体の厚みの範囲内に位置させることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、パルスレーザーによる加熱に起因して発生するガスが界面付近に発生しやすくなる。その結果、両ガラスを好適に押し分けることができ、剥離起点部を効率よく形成することが可能となる。
【0017】
上記の方法において、支持ガラスの厚みをガラスフィルムよりも大きくし、パルスレーザーをガラス基板側から照射してもよい。
【0018】
このようにすれば、支持ガラスの厚みがガラスフィルムよりも大きいことで、積層体におけるガラスフィルム側の表面から両ガラスの界面までの距離と、支持ガラス側の表面から両ガラスの界面までの距離とでは、前者の方が短くなる。そのため、パルスレーザーをガラス基板側(電子デバイス材が形成されたガラスフィルム側)から照射すれば、両ガラスの界面にガスを発生させる上で好適となり、一層効率よく剥離起点部を形成することができる。
【0019】
上記の方法において、パルスレーザーを支持ガラス側から照射してもよい。
【0020】
このようにすれば、積層体に対して電子デバイス材が形成されていない側からパルスレーザーを照射することになる。これにより、当該レーザーの照射による電子デバイス材への影響を可及的に排除することが可能となる。
【0021】
上記の方法において、パルスレーザーの光軸が積層体の厚み方向に沿って延びるように、パルスレーザーを照射することが好ましい。
【0022】
このようにすれば、パルスレーザーの焦点位置について、その制御を簡便化することができる。従って、ガスが発生する位置を調節しやすくなり、剥離起点部を効率よく形成する上でさらに有利となる。
【0023】
上記の方法において、ガラスフィルムが矩形の形状を有し、剥離起点部をガラス基板のコーナー部に形成することが好ましい。
【0024】
このようにすれば、剥離工程において、ガラス基板の支持ガラスからの剥離を、コーナー部を起点として開始することができる。これにより、ガラス基板を剥離させるために要する力を一層効率よく作用させることが可能となる。その結果、ガラス基板を支持ガラスから簡便に剥離させることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、積層体を利用してガラス基板を製造する際に、処理を終えたガラスフィルムを円滑に剥離させることができると共に、製造されたガラス基板の品質の低下を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における積層体作製工程を示す側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における処理工程を示す側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す側面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す平面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における切断除去工程を示す平面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における切断除去工程を示す平面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離工程を示す側面図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す側面図である。
【
図9】本発明の他の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す平面図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係るガラス基板の製造方法における剥離起点部形成工程を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法について、添付の図面を参照して説明する。
【0028】
図1〜
図7は、本発明の実施形態に係るガラス基板の製造方法に含まれる各工程を示す図である。これらの図に示すように、このガラス基板の製造方法は、ガラスフィルム1と支持ガラス2とを、相互に密着させた積層体3を作製する積層体作製工程(
図1)と、ガラスフィルム1に電子デバイス材4を形成して、ガラス基板5とする処理工程(
図2)と、積層体3にパルスレーザー6を照射して、その照射領域6xを含んだ包含領域6yで支持ガラス2からガラス基板5の一部を剥離させ、剥離起点部5xを形成する剥離起点部形成工程(
図3,
図4)と、ガラス基板5について、包含領域6yに対応する部位から照射領域6xに対応する部位を切断によって取り除く切断除去工程(
図5,
図6)と、支持ガラス2からガラス基板5の全体を剥離させる剥離工程(
図7)とを含んでいる。
【0029】
積層体作製工程では、まず、可撓性を有するガラスフィルム1と、ガラスフィルム1を支持し、且つガラスフィルム1よりも厚みの大きい支持ガラス2との各々について、相互に密着する側の面の表面粗さRaを2.0nm以下の平滑な面に仕上げる。この表面粗さRaは、例えば、オーバーフローダウンドロー法で成形されたガラスを未研磨で使用したり、ガラスにケミカルエッチングを施すにあたってエッチング液の濃度、液温度、処理時間の調整を行ったり、ガラスに鏡面研磨や光学研磨を施したりすること等で制御することが可能である。次に、両ガラス1,2を面接触させて相互に密着させることで、積層体3を作製する。なお、本実施形態においては、両ガラス1,2は共に矩形の形状を有しており、支持ガラス2はガラスフィルム1に対して、ひとまわり大きいサイズを有している。
【0030】
処理工程では、積層体作製工程で作製された積層体3について、ガラスフィルム1に電子デバイス材4を形成して、ガラスフィルム1をガラス基板5とする。ここで、電子デバイス材4としては、例えば、液晶素子、有機EL素子、タッチパネル素子、太陽電池素子、圧電素子、受光素子、リチウムイオン2次電池等の電池素子、MEMS素子、半導体素子等を形成する。
【0031】
剥離起点部形成工程では、
図3に示すように、パルスレーザー6を支持ガラス2側からガラス基板5の表面に集光させる(ガラス基板5の表面をパルスレーザー6の焦点位置とする)。このパルスレーザー6は、ガルバノミラー(図示省略)とf−θレンズ(図示省略)とによって、その光軸が積層体3の厚み方向に延びるように照射される。なお、
図4に示すように、本実施形態においては、パルスレーザー6の照射領域6xは、ガラス基板5のコーナー部に位置する円形の領域として設定されている。そして、パルスレーザー6の照射スポット6aが、設定された照射領域6xの中心部から、渦巻き状に延びる走査経路Sに沿って漸次に外側へと移動するように、パルスレーザー6を走査させる。このようにして、設定された照射領域6xをパルスレーザー6で万遍なく走査する。
【0032】
これにより、積層体3へのパルスレーザー6の照射に伴って、当該レーザー6による加熱に起因したガスが発生する。そして、このガスが支持ガラス2とガラス基板5とを分離させるように両ガラス2,5を押し分ける。この作用により、パルスレーザー6の照射領域6xを含んだ包含領域6y(本実施形態においては、照射領域6xの全域が包含領域6yに含まれている)において、ガラス基板5の一部が支持ガラス2から剥離して、ガラス基板5のコーナー部に剥離起点部5xが形成される。なお、ガラス基板5が支持ガラス2から剥離した箇所には、支持ガラス2とガラス基板5との間にナノメートルオーダーのギャップが発生する。これにより、ニュートンリングが形成されることから、剥離した箇所を目視で確認することができる。そして、ニュートンリングの形成状態に基づき、剥離起点部5xの形成が不十分である場合には、走査経路Sに沿ったパルスレーザー6の走査を繰り返し実行する。なお、パルスレーザー6の走査を繰り返し実行する場合には、焦点位置を積層体の厚み方向において変更してもよい。パルスレーザー6の走査を繰り返し実行するか否かについては、例えば、以下ようにして判断すればよい。すなわち、照射領域6xの周囲に形成されたニュートンリングの形成幅(照射領域6xの中心を中心とする円の半径方向に沿った幅)を測定し、測定された値の大小に基づいて判断すればよい。なお、ニュートンリングの外周端は、包含領域6yの外周輪郭と一致する。
【0033】
ここで、パルスレーザー6の種類としては、固体レーザー、LDレーザー、ディスクレーザー、ファイバーレーザー、エキシマレーザー等を使用することができる。また、パルスレーザー6の波長としては、250nm〜5000nmとすることが好ましい。さらに、パルス幅としては、100ps〜1000nsとすることが好ましい。加えて、周波数としては、1kHz〜50MHzとすることが好ましい。また、パルスエネルギーとしては、10μJ〜1mJとすることが好ましい。さらに、走査速度(照射スポット6aの移動速度)としては、10mm/s〜10000mm/sであることが好ましい。加えて、
図4に示すパルスレーザー6の照射ピッチPとしては、0.1μm〜100μmとすることが好ましい。また、照射領域6xの径(照射範囲)Dは、0.1mm〜100mmとすることが好ましい。
【0034】
切断除去工程では、
図5に示すように、包含領域6y内に延びた切断予定線7に沿ってガラス基板5側からパルスレーザーを照射する。そして、当該パルスレーザーの照射スポット8を切断予定線7に沿って移動させ、ガラスが除去された被除去部9を順次に形成していくことで、照射領域6xを含んだガラス基板5のコーナー部を切断する。これにより、ガラス基板5について、包含領域6yに対応する部位から照射領域6xに対応する部位を取り除く。つまり、
図6に示すように、切断除去工程の実行後には、剥離起点部5xとして包含領域6yの一部のみが残存する。
【0035】
剥離工程では、支持ガラス2からのガラス基板5の剥離に、複数の吸着パッド10を使用する。この吸着パッド10の各々は、ガラス基板5との当接部に複数の吸引孔を有しており、この吸引孔を介してガラス基板5に負圧を発生させることで、ガラス基板5を吸着する。そして、ガラス基板5を吸着した各吸着パッド10が、剥離起点部5xの側から順次に上方へと移動することで、支持ガラス2からガラス基板5の全体を剥離させる。以上の各工程を経てガラス基板5が製造される。
【0036】
以下、上記のガラス基板の製造方法の作用・効果について説明する。
【0037】
このガラス基板の製造方法によれば、処理工程の実行後で、且つ剥離工程の実行前に、剥離起点部形成工程を実行することから、処理工程の実行時においては、剥離工程の起点となる剥離起点部5xが当然に未形成の状態にある。従って、剥離起点部5xの形成に起因して、ガラスフィルム1と支持ガラス2との相互間に隙間が形成された状態の下で、処理工程が実行されてしまうような状況が生じ得なくなる。従って、水等の液体を使用する必要のある処理を行う場合であっても、当該液体が隙間に入り込むようなおそれがない。その結果、ガラスフィルム1に電子デバイス材4を好適に形成することができ、隙間の形成に起因したガラス基板5の品質の低下を確実に防止することが可能となる。
【0038】
また、この方法では、剥離起点部5xを起点にガラス基板5の剥離を開始することができると共に、ガラス基板5を剥離させるために要する力を効率よく作用させることが可能になる。なお、この効果は、剥離起点部5xをガラス基板5のコーナー部に形成したことで、より高められる。その結果、ガラス基板5の全体を円滑に支持ガラス2から剥離させることができる。
【0039】
ところで、剥離起点部形成工程を実行する際、パルスレーザー6の照射領域6xでは、当該レーザー6による加熱に起因して、一旦は支持ガラス2から剥離したガラス基板5が、再び支持ガラス2と密着してしまうような事態を生じるおそれがある。これに対し、包含領域6yのうち、照射領域6xを除く領域においては、パルスレーザー6が照射されていないため、このような事態を生じるおそれが可及的に排除され、ガラス基板5が支持ガラス2から確実に剥離した状態とすることができる。
【0040】
このことから、切断除去工程の実行により、ガラス基板5について、包含領域6yに対応する部位から照射領域6xに対応する部位を切断によって取り除くことで、以下のような作用・効果をも得ることができる。すなわち、切断除去工程の実行後における剥離起点部5xに、ガラス基板5が支持ガラス2から確実に剥離した箇所(
図6に示す包含領域6yの一部)のみを残存させることが可能となる。その結果、ガラス基板5の全体を支持ガラス2から円滑に剥離させる上で、より好適な状態とすることができる。
【0041】
さらに、この方法では、剥離起点部形成工程において、パルスレーザー6を支持ガラス2側からガラス基板5の表面に集光させている。これにより、パルスレーザー6の照射によってガラスに生じた欠陥が、ガラス基板5の表面から支持ガラス2側へと向かって形成されていく。そのため、特にパルスレーザー6の走査を繰り返し実行した場合には、両ガラス2,5の界面付近にガスを発生させやすくなる。その上、パルスレーザー6の光軸が積層体3の厚み方向に延びるように、当該レーザー6を照射しているため、パルスレーザー6の焦点位置について、その制御を簡便化することができ、ガスが発生する位置を調節しやすくなる。その結果、両ガラス2,5を好適に押し分けることができ、剥離起点部5xを効率よく形成することが可能となる。
【0042】
また、この方法では、剥離起点部形成工程において、パルスレーザー6を支持ガラス2側から照射している。つまり、積層体3に対して電子デバイス材4が形成されていない側からパルスレーザー6を照射している。これにより、当該レーザー6の照射による電子デバイス材4への影響を可及的に排除することができる。
【0043】
ここで、本発明に係るガラス基板の製造方法は、上記の実施形態で説明した態様に限定されるものではない。上記の実施形態では、剥離起点部形成工程において、パルスレーザーを支持ガラス側から照射しているが、ガラス基板側から照射してもよい。支持ガラスの厚みがガラスフィルム(ガラス基板)の厚みよりも大きい場合、積層体におけるガラスフィルム側の表面から両ガラスの界面までの距離と、支持ガラス側の表面から両ガラスの界面までの距離とでは、前者の方が短くなる。そのため、パルスレーザーをガラス基板側から照射すれば、両ガラスの界面にガスを発生させる上で好適となり、一層効率よく剥離起点部を形成することができる。
【0044】
また、上記の実施形態では、剥離起点部形成工程において、パルスレーザーを支持ガラスとガラス基板との界面に集光させているが、この限りではない。例えば、積層体の厚みの範囲内の任意の位置に集光させてもよい。この他、
図8(a)に示すように、ガラスフィルム1側から照射するパルスレーザー6を、ガラス基板5の表面に集光させてもよいし、
図8(b)に示すように、支持ガラス2側から照射するパルスレーザー6を、支持ガラス2とガラス基板5との界面に集光させてもよい。さらには、ガラスフィルム側の表面から500μm程度までの距離であれば、パルスレーザーの焦点位置が積層体の厚みの範囲外に位置していてもよい。加えて、上記の実施形態では、光軸が積層体の厚み方向に沿って延びるようにパルスレーザーを照射しているが、積層体の厚み方向に対して傾斜した方向に光軸が延びるようにパルスレーザーを照射してもよい。
【0045】
また、上記の実施形態では、剥離起点部形成工程において、パルスレーザーの照射領域が円形の領域として設定されている。しかしながら、この照射領域の形状は任意の形状としてよい。例えば、楕円形であってもよいし、三角形や矩形であってもよい。さらに、上記の実施形態では、パルスレーザーの照射領域をガラス基板のコーナー部に位置させているが、任意の位置に照射領域を位置させてよい。例えば、矩形のガラス基板における一の辺部に沿った領域を照射領域としてもよい。また、
図9に示すように、照射領域6xの一部がガラス基板5から食み出すように位置させてもよい(この場合、照射領域6xのうち、ガラス基板5のコーナー部に位置した領域のみが包含領域6yに含まれる)。加えて、パルスレーザーの走査経路についても、上記の実施形態で説明した経路に限られるものではなく、設定された照射領域を万遍なく走査できる経路であれば、任意の経路としてよい。一例としては、
図10に示すような走査経路Sが挙げられる。
【0046】
また、上記の実施形態では、切断除去工程において、切断予定線に沿ってパルスレーザーを照射して、照射領域を含んだガラス基板のコーナー部を切断することで、包含領域に対応する部位から照射領域に対応する部位を取り除いているが、この限りではない。例えば、切断予定線に沿ってガラス基板にスクライブラインを形成した後、当該スクライブラインの周辺に曲げモーメントを作用させ、照射領域を含んだガラス基板のコーナー部を折割ることで、照射領域に対応する部位を取り除いてもよい。この他、照射領域の周辺に発生した引張応力により、当該領域の周辺に形成したクラックを進展させ、照射領域を含んだガラス基板のコーナー部を切断することで、照射領域に対応する部位を取り除いてもよい。また、上記の実施形態では、ガラス基板についてのみ、包含領域に対応する部位から照射領域に対応する部位を取り除く態様となっているが、この限りではない。すなわち、支持ガラスについてのみ、或いは、支持ガラスとガラス基板との双方について、照射領域に対応する部位を取り除く態様としてもよい。
【0047】
また、上記の実施形態では、剥離工程において、支持ガラスからのガラス基板の剥離に吸着パッドを使用しているが、この限りではない。例えば、ブレードを使用し、剥離起点部から支持ガラスとガラス基板との間に当該ブレードを進入させることで、支持ガラスからガラス基板を剥離させてもよい。また、この他、樹脂シート等を使用することにより、支持ガラスからガラス基板を剥離させてもよい。
【0048】
なお、本発明に係るガラス基板の製造方法は、例えば、以下のような場合にも適用することができる。すなわち、液晶パネルを製造する際に、液晶を封入するためのシール部材を挟んで二枚のガラス基板が貼り合わされるように、二つの積層体を対向させた後、両積層体の各々について、支持ガラスからガラス基板を剥離させるような場合に適用することが可能である。
【実施例】
【0049】
本発明の実施例として、ガラス基板の製造方法を下記の各実施条件の下で実施し、支持ガラスからのガラス基板の剥離の可否について検証を行った。なお、実施例については七つの条件の下で検証を行い、比較例については二つの条件の下で検証を行った。
【0050】
以下、実施例1〜7の全てに共通する実施条件について説明する。ガラスフィルム、及び支持ガラスとして、日本電気硝子社製のOA−10G(無アルカリガラス)を準備した。ガラスフィルムの厚みは0.2mm、支持ガラスの厚みは0.5mmである。次に、積層体作製工程として、両ガラスを常温下で密着させて積層体を作製した。次に、処理工程を実行した。なお、処理工程では、電子デバイス材の形成を省略しており、その代替として、電子デバイス材を形成する場合の温度変化を積層体に与えるべく当該積層体の加熱を行うと共に、レジストインクの塗布、硬化、除去を行っている。レジストインクは加熱後の積層体に塗布し、オーブンで乾燥させた後、UV光を照射することで硬化させた。さらに、レジスト剥離剤を用いることで硬化したレジストを除去した。次に、剥離起点部形成工程として、ガルバノミラーとf−θレンズとによって、パルスレーザーを積層体に照射した。パルスレーザーの波長は355nm、パルス幅は40ns、周波数は100kHz、出力は10W、焦点距離は100mm、照射スポットの径は20μm、走査速度4000mm/sとした。また、パルスレーザーの照射領域は径が10mmの円形、走査経路は渦巻き状の経路、照射ピッチは20μmとした。最後に、剥離工程として、複数の吸着パッドによってガラス基板を吸着し、支持ガラスからのガラス基板の剥離を試みた。
【0051】
以下、実施例1〜7のそれぞれに固有の実施条件について説明する。実施例1〜7において、(1)積層体の加熱温度、(2)走査経路に沿ったパルスレーザーの走査の繰り返し回数、(3)走査を繰り返す際に、パルスレーザーの焦点位置(集光位置)を積層体の厚み方向において変更した回数、(4)パルスレーザーの照射元側、(5)パルスレーザーの焦点位置(走査を繰り返す際に焦点位置を変更した場合においては、最初の焦点位置)、(6)パルスレーザーの照射領域の位置、(7)切断除去工程の有無、(8)切断除去工程の実行態様の八点については、それぞれに固有の実施条件とした。
【0052】
(1)について、実施例2及び実施例5のみ、電気マッフル炉で積層体を250℃まで加熱した。その他の実施例では積層体の加熱を実施しなかった。(2)について、実施例1、実施例2及び実施例7では20回とした。実施例3では5回とした。実施例4及び実施例5では100回とした。実施例6では500回とした。(3)について、実施例1及び実施例2のみ、パルスレーザーの焦点位置を7回変更した。そして、変更を1回行う度に、支持ガラス側からガラス基板側に向かって0.1mmずつ焦点位置を移動させた。つまり、7回変更を行った後の焦点位置と最初の焦点位置との間には、積層体の厚み方向において0.7mmのずれがある。その他の実施例では、パルスレーザーの焦点位置の変更は行っていない。(4)について、実施例1〜6では支持ガラス側をパルスレーザーの照射元側とした。実施例7ではガラスフィルム側をパルスレーザーの照射元側とした。(5)について、実施例1及び実施例2では、積層体における支持ガラス側の表面とした。実施例3〜7では、積層体におけるガラスフィルム側の表面とした。(6)について、実施例1及び実施例2では、
図9に示す位置とした。実施例3〜7では、
図4に示す位置とした。(7)について、実施例1及び実施例2のみ、切断除去工程を実施しなかった。その他の実施例では、切断除去工程を実施した。(8)について、実施例3〜5、及び実施例7では、パルスレーザーを照射することで、照射領域を含んだガラス基板のコーナー部を切断して取り除いた(検証の結果を示す〔表1〕では、除去切断と表記)。実施例6では、照射領域の周辺に発生した引張応力により、当該領域の周辺に形成したクラックを進展させることで、照射領域を含んだガラス基板のコーナー部を切断して取り除いた(検証の結果を示す〔表1〕では、応力切断と表記)。
【0053】
以下、比較例1及び2の実施条件について説明する。比較例1及び2が、共通して実施例1〜7と相違している点は、積層体作製工程と処理工程とを実行した後、剥離起点部形成工程を実行せずに、剥離工程を実行している点である。比較例1と比較例2との間における相違点は、以下のとおりである。比較例1のみ、支持ガラスに孔を設け、この孔上にガラス基板のコーナー部の一つを位置させることで、当該コーナー部を剥離工程における起点とした。また、比較例1では、積層体の加熱を実施しなかったのに対し、比較例2では、電気マッフル炉で積層体を250℃まで加熱した。
【0054】
〔表1〕に、各条件の下において、支持ガラスからのガラス基板の剥離の可否について検証を行った結果を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
〔表1〕の結果から、実施例1〜7においては、比較例1及び2とは異なり、良好な結果が得られていることが分かる。以上のことから、本発明に係るガラス基板の製造方法によれば、ガラス基板の支持ガラスからの円滑な剥離が可能となるものと推認される。
【符号の説明】
【0057】
1 ガラスフィルム
2 支持ガラス
3 積層体
4 電子デバイス材
5 ガラス基板
5x 剥離起点部
6 パルスレーザー
6x 照射領域
6y 包含領域