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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-223812(P2015-223812A)
(43)【公開日】2015年12月14日
(54)【発明の名称】接合構造、及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20151117BHJP
【FI】
   B29C65/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-111561(P2014-111561)
(22)【出願日】2014年5月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000201113
【氏名又は名称】船井電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一戸 一男
【テーマコード(参考)】
4F211
【Fターム(参考)】
4F211AD24
4F211TA01
4F211TC02
4F211TD03
4F211TN16
(57)【要約】
【課題】溶着処理される光透過部材及び光吸収部材間の浮き上がり及び位置ずれを抑制又は回避して、光透過部材を精度良く光吸収部材に接合できる接合構造を提供する。
【解決手段】接合構造は、光透過部材と、光吸収部材と、溶着部と、連通部と、を備える。光吸収部材は光透過部材に当接し、光透過部材及び光吸収部材間の当接部には隙間空間が形成される。溶着部は、隙間空間内において光吸収部材に形成されて光透過部材に溶着する。連通部は、隙間空間から光透過部材及び光吸収部材の外部空間に連通する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過部材と、
前記光透過部材に当接する光吸収部材と、
前記光透過部材及び前記光吸収部材間の当接部に形成される隙間空間内において前記光吸収部材に形成されて前記光透過部材に溶着する溶着部と、
前記隙間空間から前記光透過部材及び前記光吸収部材の外部空間に連通する連通部と、
を備える接合構造。
【請求項2】
前記連通部が、前記光透過部材及び前記光吸収部材のうちの少なくとも一方に形成される貫通孔を含む請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記連通部が、前記光透過部材及び前記光吸収部材のうちの少なくとも一方に形成されて前記隙間空間から前記外部空間に連通する溝部を含む請求項1または請求項2に記載の接合構造。
【請求項4】
前記隙間空間内において前記光吸収部材から突設される突設部をさらに備え、
前記溶着部は、前記突設部に形成される請求項1〜請求項3のいずれかに記載の接合構造。
【請求項5】
前記隙間空間は、前記光透過部材及び前記光吸収部材のうちの少なくとも一方に形成される凹部を含む請求項1〜請求項4のいずれかに記載の接合構造。
【請求項6】
前記連通部を複数備える請求項1〜請求項5のいずれかに記載の接合構造。
【請求項7】
光透過部材及び光吸収部材間の当接部に形成される隙間空間が連通部を通じて外部空間に連通する接合構造の形成方法であって、
レーザ光が前記光透過部材及び前記隙間空間を介して前記光吸収部材に照射されるステップと、
前記レーザ光によって、前記光透過部材に溶着する溶着部が前記光吸収部材に形成されるステップと、
前記レーザ光の照射により前記隙間空間内に発生するガスが前記連通部を通じて前記外部空間に放出されるステップと、
を備える接合構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造、及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、部材を接合する手段として、接着剤を用いる方法がある。この方法では、部材の当接面に接着剤を塗布し、該当接面を他の部材の表面に当接する。接着剤が固化するまでこの状態を維持すれば、両者を接合させることができる。但し、一般的な接着剤は温度変化に応じて体積膨張し易い。そのため、温度が大きく変化する環境では、接着剤の膨張・伸縮によって部材間に位置ずれが生じる。
【0003】
一方、当接面において部材表面の一部を溶融させて他の部材に物理的に接着させる方法として、たとえば特許文献1のようなレーザ溶着がある。特許文献1では、レーザ光を透過する第1樹脂部材と、レーザ光を吸収する第2樹脂部材を重ね合わせ、その隙間を充填部材で埋めている。そして、第1樹脂部材側からレーザ光を照射することにより、第1及び第2樹脂部材を溶着している。
【0004】
レーザ溶着による接合構造では、温度が大きく変化する環境であっても接着剤を用いる接合構造と比べて、接合部分(すなわち溶着部分)の膨張・伸縮が小さい。従って、接合後の各部材間に位置ずれが発生し難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−119051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レーザ光による溶融部分は非常に高温になるため、樹脂部材の蒸発及び分解により、ガスが樹脂部材間に発生する。また、レーザ光の照射直後では、樹脂部材の溶融部分が大きく熱膨張する。このように、樹脂部材間に多量のガス及び溶融部分の熱膨張が発生すると、ガス及び溶融部分により樹脂部材が押される。そのため、溶融部分が冷却されて固化するまでの間に、浮き上がり及び位置ずれが樹脂部材間に発生する。従って、樹脂部材間を精度良く位置決めできないため、たとえば光学素子の固定部などでこのような問題が発生すると、光軸がずれてしまう。また、ガス及び溶融部の熱膨張の発生にはバラツキがあるため、接合状態がばらつくことがあり、樹脂部材間に接合強度が不安定になるという問題もある。
【0007】
このような問題に対して、特許文献1は何ら言及していない。また、特許文献1では、樹脂部材間の隙間が充填部材で埋められるため、ガス及び溶融部分により樹脂部材が押される力が強くなる。従って、樹脂部材間の浮き上がり及び位置ずれがより発生し易い。
【0008】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、溶着処理される光透過部材及び光吸収部材間の浮き上がり及び位置ずれを抑制又は回避して、光透過部材を精度良く光吸収部材に接合できる接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一の態様による接合構造は、光透過部材と、光透過部材に当接する光吸収部材と、光透過部材及び光吸収部材間の当接部に形成される隙間空間内において光吸収部材に形成されて光透過部材に溶着する溶着部と、隙間空間から光透過部材及び光吸収部材の外部空間に連通する連通部と、を備える構成(第1の構成)とされる。
【0010】
上記第1の構成によれば、光透過部材及び光吸収部材間の当接部に形成される隙間空間内において、溶着部が光吸収部材に形成されて光透過部材に溶着し、光透過部材が光吸収部材に接合される。また、隙間空間は、連通部を通じて光透過部材及び光吸収部材の外部空間に連通する。そのため、たとえば、溶着部の形成によって隙間空間内で発生するガスを連通部を通じて外部空間に放出することができる。また熱膨張する溶着部は、隙間空間内で広がることができるし、連通部内に広がることもできる。従って、隙間空間内において、発生したガス及び熱膨張する溶着部によって光透過部材及び光吸収部材が押圧される現象を緩和又は回避することができる。よって、光透過部材及び光吸収部材間の接合構造において、溶着処理される光透過部材及び光吸収部材間の浮き上がり及び位置ずれを抑制又は回避して、光透過部材を精度良く光吸収部材に接合できる。
【0011】
また、溶着処理での浮き上がり及び位置ずれを抑制又は回避できるので、光透過部材及び光吸収部材間の接合状態のばらつきを抑制し、安定した接合強度を得ることができる。さらに、連通部を通じて隙間空間と外部空間との間の通気状態が良くなるため、溶着部周辺の冷却効率が向上する。そのため、溶着部周辺にこもる熱による温度の過剰な上昇を抑制することができる。従って、溶着部からのガスの発生を低減し、溶着部の炭化を防止することもできる。
【0012】
また、上記第1の構成の接合構造において、連通部が、光透過部材及び光吸収部材のうちの少なくとも一方に形成される貫通孔を含む構成(第2の構成)としてもよい。
【0013】
この第2の構成によれば、光透過部材及び光吸収部材のうちの少なくとも一方に形成される貫通孔を通じて、隙間空間内に発生するガスを外部空間に放出することができる。さらに、隙間空間内で膨張する溶着部は貫通孔内に広がることもできる。
【0014】
上記第1又は第2の構成の接合構造において、連通部が、光透過部材及び光吸収部材のうちの少なくとも一方に形成されて隙間空間から外部空間に連通する溝部を含む構成(第3の構成)としてもよい。
【0015】
第3の構成によれば、光透過部材及び光吸収部材のうちの少なくとも一方に形成される溝部を通じて、隙間空間内に発生するガスを外部空間に放出することができる。さらに、隙間空間内で膨張する溶着部は溝部内に広がることもできる。
【0016】
上記第1〜第3のいずれかの構成の接合構造において、隙間空間内において光吸収部材から突設される突設部をさらに備え、溶着部は、突設部に形成される構成(第4の構成)としてもよい。
【0017】
第4の構成によれば、溶着部は隙間空間内の突設部に形成されるため、突設部が形成されない場合と比べて、隙間空間内における光透過部材及び光吸収部材間の間隔をより広く設定しても、両部材を溶着部により接合することができる。また、隙間空間の容積をより広くできるので、隙間空間内において、発生したガス及び熱膨張する溶着部によって光透過部材及び光吸収部材が押圧される現象を緩和又は回避する効果を高めることができる。
【0018】
上記第1〜第4のいずれかの構成の接合構造において、隙間空間は、光透過部材及び光吸収部材のうちの少なくとも一方に形成される凹部を含む構成(第5の構成)としてもよい。
【0019】
第5の構成によれば、光透過部材及び光吸収部材のうちの少なくとも一方に形成される凹部により、新たな部材又は製造工程を追加することなく、隙間空間を形成することができる。
【0020】
上記第1〜第5のいずれかの構成の接合構造において、連通部を複数備える構成(第6の構成)としてもよい。
【0021】
第6の構成によれば、複数の連通部を通じて隙間空間内に発生するガスを外部空間に放出したり、隙間空間内で膨張する溶着部が複数の連通部内に広がったりすることができる。
【0022】
上記目的を達成するために、本発明の一の態様による接合構造の形成方法は、光透過部材及び光吸収部材間の当接部に形成される隙間空間が連通部を通じて外部空間に連通する接合構造の形成方法であって、レーザ光が光透過部材及び隙間空間を介して光吸収部材に照射されるステップと、レーザ光によって、光透過部材に溶着する溶着部が光吸収部材に形成されるステップと、レーザ光の照射により隙間空間内に発生するガスが連通部を通じて外部空間に放出されるステップと、を備える構成(第7の構成)とされる。
【0023】
上記第7の構成によれば、光透過部材及び隙間空間を介して光吸収部材に照射されるレーザ光により、光吸収部材の表面のレーザ照射領域が溶融され、溶着部が光吸収部材に形成される。この溶着部が光透過部材に溶着することにより、光透過部材が光吸収部材に接合される。また、隙間空間は、連通部を通じて光透過部材及び光吸収部材の外部空間に連通する。そのため、溶着部の形成によって隙間空間内で発生するガスを連通部を通じて外部空間に放出することができる。また、熱膨張する溶着部は、隙間空間内で広がることができるし、連通部内に広がることもできる。従って、隙間空間内において、発生したガス及び熱膨張する溶着部によって光透過部材及び光吸収部材が押圧される現象を緩和又は回避することができる。よって、光透過部材及び光吸収部材間の接合構造において、溶着処理される光透過部材及び光吸収部材間の浮き上がり及び位置ずれを抑制又は回避して、光透過部材を精度良く光吸収部材に接合できる。
【0024】
また、溶着処理での浮き上がり及び位置ずれを抑制又は回避できるので、固定部材及び基体間の接合状態のばらつきを抑制し、安定した接合強度を得ることができる。
【0025】
さらに、連通部を通じて隙間空間と外部空間との間の通気状態が良くなるため、溶着部周辺の冷却効率が向上する。そのため、溶着部周辺にこもる熱による温度の過剰な上昇を抑制することができる。従って、溶着部からのガスの発生を低減し、溶着部の炭化を防止することもできる。また、半導体レーザ光の照射による熱を効率よく放散できるので、半導体レーザ光の照射条件の制限範囲をより広くすることができる。たとえば、隙間空間から外部空間に連通する連通部分がない場合と比べて、半導体レーザ光の照射出力をより強くしたり、1回の照射時間をより長くしたりすることができる。また、パルス状にレーザ照射する場合には、各照射期間の間のインターバルをより短くすることもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、溶着処理される光透過部材及び光吸収部材間の浮き上がり及び位置ずれを抑制又は回避して、光透過部材を精度良く光吸収部材に接合できる接合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】車両用のヘッドアップディスプレイ装置の概略図である。
図2】ヘッドアップディスプレイ装置の構成を示すブロック図である。
図3】接合構造の一例を示す外観図である。
図4】第1実施形態の固定部材の当接面の斜視図である。
図5】第1実施形態に係る接合構造の要部を示す断面構造図である。
図6】接合構造の形成工程を説明するためのフローチャートである。
図7】接合構造の他の一例を示す外観図である。
図8】第2実施形態の固定部材の当接面の斜視図である。
図9】第2実施形態に係る接合構造の要部を示す断面構造図である。
図10】第3実施形態に係る接合構造の要部を示す断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、光源を固定するための接合構造1を有するヘッドアップディスプレイ装置100を例に挙げ、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0029】
図1は、ヘッドアップディスプレイ装置100の概略図である。図2は、ヘッドアップディスプレイ装置100の構成を示すブロック図である。ヘッドアップディスプレイ装置100は、プロジェクタ100aから出射する走査レーザ光S(投射光)を車両200のフロントガラス200aに向けて投射し、投影像をユーザの視野内に重ねて表示する車両200用の表示装置である。なお、以下では、ヘッドアップディスプレイ装置100をHUD(Head-Up Display)装置100と呼ぶ。また、図1及び図2において、一点鎖線の矢印Uは車両200の運転席に座っているユーザの視線Uを示している。
【0030】
図1に示すように、フロントガラス200aの内面にはコンバイナ100bが貼り付けられている。このコンバイナ100bは、プロジェクタ100aの投影像をユーザの視野内に表示するための投影部材であり、たとえばハーフミラーなどの半透過性の反射材料を用いて形成されている。コンバイナ100bにプロジェクタ100aから走査レーザ光Sが投射されることによって、コンバイナ100bの所定領域に虚像が形成される。このために、車両200の前方(すなわち視線Uの方向)を見ているユーザは、車両200の前方の外界像と、プロジェクタ100aから投射される投射画像とを同時に視認することができる。
【0031】
次に、ヘッドアップディスプレイ装置100のプロジェクタ100aについて説明する。プロジェクタ100aは、図2に示すように、ハウジング101と、レーザダイオード102と、光学系103と、MEMSミラー104と、サーミスタ105と、加熱冷却部106と、を備えている。なお、以下では、レーザダイオード102をLD102と呼ぶ。また、プロジェクタ100aはさらに、本体筐体107と、LDドライバ108と、ミラーサーボ部109と、加熱冷却駆動部110と、電源111と、電源制御部112と、入出力I/F113と、操作部114と、記憶部115と、CPU116と、を備えている。
【0032】
ハウジング101は、LD102と、光学系103と、MEMSミラー104と、サーミスタ105と、加熱冷却部106と、を搭載する気密性の筐体部である。また、ハウジング101には、光学系103から出射される走査レーザ光Sを外部に出射するための窓部101aと、加熱冷却部106が配設される開口部(不図示)と、が形成されている。窓部101aは、たとえば、ガラス又は光透過性の樹脂材料などを用いて形成されている。
【0033】
LD102は、LDドライバ108により駆動制御される発光素子であり、LD102a〜102cを含んで構成される。LD102aは青色レーザ光を出射し、LD102bは緑色レーザ光を出射し、LD102cは赤色レーザ光を出射する。LD102a〜102cは、後述するように、レーザ溶着処理によって形成された接合構造1により、光軸が正確に調整された状態で固定されている。この接合構造1については、後に詳述する。
【0034】
光学系103は、LD102a〜LD102cから出射される各レーザ光をMEMSミラー104の光反射面に導く。MEMSミラー104は、ミラーサーボ部109の駆動制御により2軸方向に駆動し、光学系103から入射する各レーザ光の反射方向を変化させる。この動作により、各レーザ光は走査レーザ光Sとして反射される。走査レーザ光Sは、ハウジング101の窓部101a及び後述する光出射口107aを通過してハウジング101及び本体筐体107の外部に出射され、フロントガラス200aに貼り付けられたコンバイナ100b上に投射される。
【0035】
サーミスタ105は、各LD102a〜102cの周囲の環境温度を計測するために、ハウジング101の内部に設けられる温度検出部である。加熱冷却部106は、加熱冷却駆動部110により動作制御され、サーミスタ105の検出温度に基づいて各LD102a〜102cを加熱又は冷却し、LD102a〜102cの素子温度をそれぞれ調節する。
【0036】
本体筐体107は、ハウジング101と、LDドライバ108と、ミラーサーボ部109と、加熱冷却駆動部110と、電源111と、電源制御部112と、入出力I/F113と、操作部114と、記憶部115と、CPU116と、を搭載している。また、本体筐体107には、光学系103からハウジング101の窓部101aを通過して出射される走査レーザ光Sが出射される光出射口107aが形成されている。なお、この光出射口107aは開口であってもよいが、たとえばガラス又は光透過性の樹脂材料などを用いて形成されることが望ましい。こうすれば、本体筐体107の内部への塵埃及び水分(たとえば水滴、水気を含む空気)などの侵入を防止することができる。
【0037】
電源111は、たとえば車両200の蓄電池(不図示)などの電力源から電力の供給を受ける電力供給部である。電源制御部112は、電源111から供給される電力をプロジェクタ100aの各構成部に応じた所定の電圧値及び電流値に変換し、変換された電力をHUD装置100の各構成要素に供給する。入出力I/F113は外部装置と有線通信又は無線通信するための通信インターフェースである。操作部114は、ユーザの操作入力を受け付ける入力ユニットである。記憶部115は、不揮発性の記憶媒体であり、プロジェクタ100aの各構成要素により用いられるプログラム及び制御情報、コンバイナ100bに投影する映像情報などを非一時的に格納している。CPU116は、記憶部115に格納されたプログラム及び制御情報などを用いて、プロジェクタ100aの各構成部を制御する制御部である。
【0038】
<第1実施形態>
次に、LD102を固定するための接合構造1について説明する。図3は、接合構造1の一例を示す外観図である。図4は、第1実施形態の固定部材2(後述)の当接面2aの斜視図である。図5は、第1実施形態に係る接合構造1の要部を示す断面構造図である。なお、図3において、模様表示している部分Rは、半導体レーザ光Lが照射される領域を示している。また、図5は、図3のA−A線に沿う断面を示している。
【0039】
接合構造1は、図3図5に示すように、固定部材2と、基体3と、溶着部4と、を含んで構成されている。また、固定部材2及び基体3間の当接部には隙間空間5が形成され、固定部材2には貫通孔6が形成されている。
【0040】
固定部材2は、PPS(Poly Phenylene Sulfide)などの光透過性の樹脂材料を用いて形成されている。この樹脂材料は、少なくとも溶着処理用の半導体レーザ光L(たとえば940nmの赤外線レーザ光)を透過する。固定部材2は、仮止め用の接着層(不図示)を介して基体3に当接し、半導体レーザ光Lによる基体3の溶着処理により該基体3と接合されている。図4に示すように、固定部材2の当接面2aには、たとえば、平面形状がたとえば2.0〜3.0[mm]径の円形である凹部5aが形成されている。そのため、固定部材2に基体3に当接されると、両者の当接部において図5のように、固定部材2及び基体3間に、たとえば深さ(基体3表面の法線方向の幅)が50〜100[μm]である隙間空間5が形成される。隙間空間5の深さが50[μm]未満になると、レーザ溶着処理中に発生するガスG及び基体3の溶融部分4により隙間空間5が直ちに埋め尽くされるため、固定部材2及び基体3が押圧されて位置ずれを起こしやすくなる。また、深さが100[μm]を越えると、溶着部4が凹部5aの底面に到達し難くなるため、固定部材2を基体3に接合できなくなることがある。なお、凹部5a及び隙間空間5の平面形状及びそのサイズは特に限定しない。たとえば、該平面形状は、図4に示すような円形、又は楕円形あってもよいし、三角形状又は四角形状等の多角形状であってもよい。
【0041】
基体3は、たとえばPPSにカーボンを混合した光吸収性の複合樹脂材料を用いて形成されている。この樹脂材料は、少なくとも溶着処理用の半導体レーザ光Lを吸収する。
【0042】
溶着部4は、隙間空間5内において基体3の表面上に形成されている。この溶着部4は、半導体レーザ光Lの照射による基体3の溶融部分4であり、熱膨張によって基体3の表面から突出して固定部材2に溶着している。
【0043】
また、固定部材2の凹部5aの底面には、貫通孔6が形成されている。この貫通孔6は、凹部5aの底面からその反対の主面まで貫通している。そのため、固定部材2に基体3に当接された状態では、貫通孔6は、図5に示すように、隙間空間5から固定部材2及び基体3の外部空間に連通する連通部として機能する。なお、貫通孔6のサイズは特に限定しないが、本実施形態では、たとえば、その口径を0.5〜1.0[mm]の範囲で設定している。
【0044】
このような接合構造1にすると、たとえば、溶着部4の形成によって隙間空間5内で発生するガスGを貫通孔6を通じて外部空間に放出することができる。また熱膨張する溶着部4は、隙間空間5内で広がることができるし、貫通孔6内に広がることもできる。従って、隙間空間5内において、発生したガスG及び熱膨張する溶着部4によって固定部材2及び基体3が押圧される現象を緩和又は回避することができる。また、接合状態のばらつきも小さくできる。よって、固定部材2及び基体3間の接合構造1において、溶着処理中の固定部材2及び基体3間の位置ずれを抑制又は回避して、固定部材2を精度良く基体3に接合できる。
【0045】
また、溶着処理中の浮き上がり及び位置ずれを抑制又は回避できるので、固定部材2及び基体3間の接合状態のばらつきを抑制し、安定した接合強度を確保できる。さらに、貫通孔6を通じて隙間空間5と外部空間との間の通気状態が良くなるため、溶着部4周辺の冷却効率が向上する。そのため、溶着部4周辺にこもる熱による温度の過剰な上昇を抑制することができる。従って、溶着部4からのガスGの発生を低減し、溶着部4の炭化を防止することもできる。
【0046】
なお、図3図5の例示では、凹部5aに1つの貫通孔6が形成されているが、貫通孔6の数はこの例示に限定されない。凹部5aに形成される貫通孔6の数は複数であってもよい。こうすれば、複数の貫通孔6を通じて隙間空間5内に発生するガスGを外部空間に放出したり、隙間空間5内で膨張する溶着部4が複数の貫通孔6内に広がったりすることができる。
【0047】
また、貫通孔6の形状も図3図5の例示に限定されない。たとえば、貫通孔6は、貫通方向にテーパ状であってもよく、当接面2aでの開口径がその反対側の主面での開口径よりも小さい形状、或いは、当接面2aでの開口径がその反対側の主面での開口径よりも大きい形状であってもよい。
【0048】
次に、接合構造1の形成方法について説明する。図6は、接合構造1の形成工程を説明するためのフローチャートである。
【0049】
まず、固定部材2の当接面2aに仮止め用の接着層(不図示)が設けられる(ステップS101)。そして、該当接面2aを基体3の表面上の所定位置に当接して、固定部材2を基体3に仮止めする(ステップS102)。この際、基体3表面の法線方向から見た平面視において、半導体レーザ光Lが照射される予定の基体3表面上の領域(すなわち溶着部4の形成位置)は、固定部材2の凹部5a(すなわち隙間空間5)と重なるように仮止めが行われる。なお、隙間空間5から外部空間に連通する連通部分を塞がないようにするため、この照射予定位置は貫通孔6とは重ならない位置に設定される。
【0050】
次に、半導体レーザ光Lが、図5のように、固定部材2及び隙間空間5を介して基体3表面に照射される(ステップS103)。この半導体レーザ光Lにより、基体3表面のレーザ照射領域を溶融して、熱膨張により膨れ上がった溶融部分4を固定部材2の表面(すなわち凹部5aの底面)に溶着させる(ステップS104)。すなわち、この溶融部分4が、基体3に形成される溶着部4となる。この溶着部4が固定部材2に溶着することにより、固定部材2が基体3に接合される。
【0051】
また、基体3表面のレーザ照射領域が溶融される際、溶融部分4にて樹脂材料の蒸発及び分解などが起きるため、溶融部分4からガスGが発生する。このガスGは、隙間空間5に広がるが、図5のように、貫通孔6を通じて外部空間にも放出される(ステップS105)。
【0052】
また、基体3表面のレーザ照射領域が溶融される際、たとえば溶融部分4が急速に熱膨張する。このような場合でも、溶融部分4は、隙間空間5内に広がることができるし、貫通孔6内に広がることもできる(ステップS106)。
【0053】
このように接合構造1を形成すると、隙間空間5内において、発生したガスG及び熱膨張する溶融部分4によって固定部材2及び基体3が押圧される現象を緩和又は回避することができる。よって、固定部材2及び基体3間の接合構造1において、溶着処理中の固定部材2及び基体3間の浮き上がり及び位置ずれを抑制又は回避して、固定部材2を精度良く基体3に接合できる。
【0054】
また、貫通孔6を通じて隙間空間5と外部空間との間の通気状態が良くなるため、半導体レーザ光Lの照射条件の制限範囲をより広くすることができる。たとえば、隙間空間5から外部空間に連通する連通部分がない場合と比べて、半導体レーザ光Lの照射出力をより強くしたり、1回の照射時間をより長くしたりすることができる。また、パルス状にレーザ照射する場合には、各照射期間の間のインターバルをより短くすることもできる。
【0055】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態の接合構造1では、貫通孔6に代えて、溝部7が固定部材2に形成される。この溝部7は、凹部5aから当接面2aの外縁部に向かって延設される。それ以外は第1実施形態と同様である。以下では、第1実施形態と異なる構成について説明する。また、第1実施形態と同様の構成部には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0056】
図7は、接合構造1の他の一例を示す外観図である。図8は、第2実施形態の固定部材2の当接面2aの斜視図である。図9は、第2実施形態に係る接合構造1の要部を示す断面構造図である。なお、図7において、模様表示している部分Rは、半導体レーザ光Lが照射される領域を示している。また、図9は、図7のB−B線に沿う断面を示している。
【0057】
図7図9に示すように、接合構造1では、固定部材2の当接面2aにおいて、2つの溝部7が、凹部5aの周縁から固定部材2の外縁部に向かって延設されている。そのため、固定部材2に基体3に当接された状態では、溝部7は、図9に示すように、隙間空間5から固定部材2及び基体3の外部空間に連通する連通部として機能する。溝部7のサイズは特に限定しないが、本実施形態では、たとえば、深さを50〜100[μm]の範囲で設定し、幅を0.5〜1.0[mm]の範囲で設定している。
【0058】
このような接合構造1にすると、たとえば、溶着部4の形成によって隙間空間5内で発生するガスGを溝部7を通じて外部空間に放出することができる。また熱膨張する溶着部4は、隙間空間5内で広がることができるし、溝部7内に広がることもできる。従って、隙間空間5内において、発生したガスG及び熱膨張する溶着部4によって固定部材2及び基体3が押圧される現象を緩和又は回避することができる。また、接合状態のばらつきも小さくできる。よって、固定部材2及び基体3間の接合構造1において、溶着処理中の固定部材2及び基体3間の位置ずれを抑制又は回避して、固定部材2を精度良く基体3に接合できる。
【0059】
また、溶着処理中の浮き上がり及び位置ずれを抑制又は回避できるので、固定部材2及び基体3間の接合状態のばらつきを抑制し、安定した接合強度を得ることができる。
【0060】
さらに、溝部7を通じて隙間空間5と外部空間との間の通気状態が良くなるため、レーザ照射による溶融部分4周辺の冷却効率が向上する。そのため、溶融部分4周辺にこもる熱による温度の過剰な上昇を抑制することができる。従って、溶融部分4からのガスGの発生を低減し、溶融部分4の炭化を防止することもできる。また、半導体レーザ光Lの照射による熱を効率よく放散できるので、半導体レーザ光Lの照射条件の制限範囲をより広くすることができる。たとえば、隙間空間5から外部空間に連通する連通部分がない場合と比べて、半導体レーザ光Lの照射出力をより強くしたり、1回の照射時間をより長くしたりすることができる。また、パルス状にレーザ照射する場合には、各照射期間の間のインターバルをより短くすることもできる。
【0061】
なお、図7図9では凹部5aから2つの溝部7が延設されるが、溝部7の数はこの例示に限定されない。凹部5aから延設される溝部7の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0062】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態の接合構造1では、隙間空間5内において突設部8が基体3表面に形成される。また、溶着部4は、突設部8に形成される。それ以外は第1実施形態と同様である。以下では、第1実施形態と異なる構成について説明する。また、第1実施形態と同様の構成部には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0063】
図10は、第3実施形態に係る接合構造1の要部を示す断面構造図である。なお、図10は、図3のA−A線に沿う断面を示している。
【0064】
図10に示すように、接合構造1は、固定部材2、基体3、及び溶着部4のほか、突設部8をさらに含んで構成されている。この突設部8は、隙間空間5内において、半導体レーザ光Lが照射される予定の基体3表面上の領域に形成される。そのため、溶着部4は、突設部8の上面に形成される。
【0065】
このような接合構造1にすると、突設部8が形成されない場合と比べて、隙間空間5内における固定部材2及び基体3間の間隔(すなわち、基体3表面の法線方向における隙間部材高さ)をより広く設定しても、両部材を溶着部4により接合することができる。また、隙間空間5の容積をより広くできるので、隙間空間5内において、発生したガスG及び熱膨張する溶着部4によって固定部材2及び基体3が押圧される現象を緩和又は回避する効果を高めることができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、上述の実施形態は例示であり、その各構成要素や各処理の組み合わせに色々な変形が可能であり、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0067】
たとえば、上述の第1〜第3実施形態は、構成及び作用が矛盾しない範囲内で組み合わせることが可能である。
【0068】
また、上述の第1〜第3実施形態では、凹部5aは固定部材2の当接面2aに形成されているが、本発明はこの例示に限定されない。凹部5aは、固定部材2の当接面2a及び基体3の当接面のうちの少なくとも一方に形成されていればよい。たとえば、凹部5aは、基体3の当接面に形成されていてもよいし、固定部材2の当接面2a及び基体3の当接面の両方に形成されていてもよい。こうすれば、固定部材2及び基体3のうちの少なくとも一方に形成される凹部5aにより、新たな部材又は製造工程を追加することなく、隙間空間5を形成することができる。
【0069】
また、上述の第1実施形態では、貫通孔6は凹部5aの底面に形成されているが、本発明はこの例示に限定されない。貫通孔6は、固定部材2の凹部5a及び隙間空間5内の基体3の表面のうちの少なくとも一方に形成されていればよい。たとえば、貫通孔6は、隙間空間5内において基体3の表面に形成されていてもよいし、固定部材2の凹部5a及び隙間空間5内の基体3の表面の両方に形成されていてもよい。但し、基体3の表面に形成される貫通孔6は、基体3の表面の法線方向から見た平面視において、半導体レーザ光Lが照射される予定の位置とは重ならないように形成される。このようにすれば、固定部材2及び基体3のうちの少なくとも一方に形成される貫通孔6を通じて、隙間空間5内に発生するガスGを外部空間に放出することができる。さらに、隙間空間5内で膨張する溶着部4は貫通孔6内に広がることもできる。
【0070】
また、上述の第2実施形態では、溝部7が固定部材2の当接面2aに形成されているが、本発明はこの例示に限定されない。溝部7は、固定部材2の当接面2a及び基体3の当接面のうちの少なくとも一方に形成されていればよい。たとえば、溝部7は、基体3の当接面に形成されていてもよいし、固定部材2の当接面2a及び基体3の当接面の両方に形成されていてもよい。但し、基体3表面に形成される溝部7は、溝部7の一端が隙間空間5と連通するように形成される。このようにすれば、固定部材2及び基体3のうちの少なくとも一方に形成される溝部7を通じて、隙間空間5内に発生するガスGを外部空間に放出することができる。さらに、隙間空間5内で膨張する溶着部4は溝部7内に広がることもできる。
【0071】
また、上述の第1〜第3実施形態では、溶着処理用の半導体レーザ光Lとして、940nmの赤外線レーザ光を挙げているが、本発明はこの例示に限定されない。溶着処理に採用可能であれば、他のレーザ光を用いることができる。たとえば、他の波長の半導体レーザ光を用いてもよいし、炭酸ガスレーザ光、YAGレーザ光などを用いてもよい。
【0072】
また、上述の第1〜第3実施形態では、固定部材2及び基体3の当接部において2箇所のスポット状に溶着処理を行っているが、たとえば線状に溶着処理を行ってもよい。
【0073】
また、上述の第1〜第3実施形態では、HUD装置100の光源となるLD102を固定するための固定部材2と基体3との接合構造1を例に挙げて説明しているが、本発明の適用範囲はこの例示に限定されない。レーザ溶着により光透過性の樹脂部材と光吸収性の樹脂部材を接合する構造であれば、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 接合構造
2 固定部材(光透過部材)
2a 当接面
3 基体(光吸収部材)
4 溶着部(溶融部分)
5 隙間空間
5a 凹部
6 貫通孔
7 溝部
8 突設部
G ガス
L 半導体レーザ光
R レーザ照射領域
図1
図2
図3
図4
図6
図7
図8
図5
図9
図10