【解決手段】この非水系インク用インクジェット記録媒体は、支持体上に、ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーを含む層を有する。この塗工層上に非水系インクを用いてインクジェット印刷する。例えば、支持体上に前処理液を塗工して塗工層を形成した後、色材および非水系溶剤を少なくとも含んでなる非水系インクを前記塗工層上へ吐出させることにより印刷を行う非水系インクジェット印刷方法において、前記前処理液として、ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーを含有するものを用いる。
前記ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーのガラス転移温度は、30〜55℃である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水系インク用インクジェット記録媒体。
支持体上に前処理液を塗工して塗工層を形成した後、色材および非水系溶剤を少なくとも含んでなる非水系インクを前記塗工層上へ吐出させることにより印刷を行うインクジェット印刷方法において、前記前処理液は、ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーを含有することを特徴とするインクジェット印刷方法。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷システムにおいては、近年、記録媒体の制約を受けずに高速でフルカラー印刷が行えることが益々要求されている。この要求に応えるためには、ラインヘッド方式のインクジェットプリンタの使用が適しており、その場合、記録媒体への浸透が早く、乾燥が早く、かつ、印刷濃度が高く、滲みや裏抜けの少ない高画質な印刷画像の得られるインクが必要となる。
【0003】
インクジェット印刷方式に用いられるインクジェットインクは、水系インクと非水系インクに大別される。
水系インクは、溶媒として水を含有するため、記録媒体として普通紙を用いた場合、溶媒が記録媒体に容易に浸透し、色材が記録媒体の表面に留まり易いため、高濃度・高画質の印刷画像が得られ易い一方で、記録媒体がカールやコックリングを起こし易く、記録媒体の搬送性に悪影響を及ぼし、高速印刷の弊害となるという欠点がある。
【0004】
非水系インクのうち、主として低揮発性の有機溶剤を溶媒として含有する非水系インク(油性インク)は、記録媒体として普通紙を用いた場合、記録媒体への浸透性に優れるだけでなく、水系インクよりも溶媒が揮発し難いため、インクノズルにおける目詰まりが生じにくく、インクノズルのクリーニング回数が少なくて済むといった利点があり、高速印刷、特にラインヘッド方式の高速インクジェット印刷に適している。
【0005】
しかし、上記非水系インクは、記録媒体上における色材の溶媒からの離脱性が悪く、特に記録媒体として普通紙を用いた場合、色材と溶媒が一緒に記録媒体の繊維間隙に浸透し易く、画像濃度の低下、裏抜けの増大が生じ、印刷画像の画質が悪化するという欠点があった。
【0006】
一方、従来から、非水系インクの色材を記録媒体表面に留め、印刷濃度が高く色調の鮮やかな画像を印刷するために、親油性であり疎水性でもある合成非晶質シリカ及び/又はその塩、及び、必要に応じてバインダーとしての定着樹脂で構成されたインク受理層を表面に設けた塗工紙が各種提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。しかし、上記のようにインク受理層として非晶質シリカを含む表層を形成すると、印刷時に形成されるドットの径が小さくなりすぎ、得られる印刷物は、滲みが無く高精細であるとしても、印刷濃度が低く、鮮明性やコントラストに劣るものになる。この傾向は、解像度が300dpi以下で、特にラインヘッド方式の高速インクジェット印刷を行った場合に顕著になる。
【0007】
水系インク用の記録媒体としては、従来、インク浸透性の低いアート紙やOHPフィルムの表面に親水性ポリマーからなるインク受理層を形成したものが提案されている(特許文献4)。しかし、このインク受理層は、印字した後に、多量の水または水と親水性溶剤との混合溶媒を即座に吸収するように設計されており、非水系インクで印刷した場合は、インクの吸液速度が遅くなり、インクのローラー転写汚れの原因となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.非水系インク
本発明で使用する非水系インクは、非水系溶剤及び色材から主として構成されるが、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0016】
1−1.非水系溶剤
非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の何れも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、組み合わせて使用することもできる。なお、本発明において、非水系溶剤とは、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合しない有機溶剤をいう。
【0017】
非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の溶剤を挙げることができ、市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもJX日鉱日石エネルギー株式会社製);アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(いずれも東燃ゼネラル石油株式会社製)等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、グレードアルケンL、グレードアルケン200P(いずれもJX日鉱日石エネルギー株式会社製)、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれも東燃ゼネラル石油株式会社製)等を好ましく挙げることができる。石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがいっそう好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。
【0018】
極性有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。例えば、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2−オクチルデシル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル等の1分子中の炭素数が13以上、好ましくは16〜30の脂肪酸エステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソエイコシルアルコール、デシルテトラデカノール等の1分子中の炭素数が6以上、好ましくは12〜20の高級アルコール系溶剤;ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、α−リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の1分子中の炭素数が12以上、好ましくは14〜20の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。
【0019】
これらの非水系溶剤は、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、使用する非水系溶剤と単一相を形成できる範囲で他の有機溶剤を含ませてもよい。
【0020】
1−2.色材
色材としては、顔料及び染料の何れも使用することができ、単独で使用しても両者を併用してもよい。印刷物の耐候性及び印刷濃度の点から、色材として顔料を使用することが好ましい。
色材は、非水系インク全量に対して0.01〜20質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0021】
1−2−1.染料
染料としては、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、ナフトール染料、アゾ染料、金属錯塩染料、アントラキノン染料、キノイミン染料、インジゴ染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、カーボニウム染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、フタロシアニン染料、ペリニン染料などの油溶性染料が挙げられる。これらの染料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0022】
1−2−2.顔料
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料及び染付レーキ顔料等の有機顔料並びに無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキシサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。無機顔料としては、代表的にはカーボンブラック及び酸化チタン等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0023】
1−2−3.顔料分散剤
非水系インク中における顔料の分散を良好にするために、非水系インクに顔料分散剤を添加することが好ましい。本発明で使用できる顔料分散剤としては、顔料を非水系溶剤中に安定して分散させるものであれば特に限定されない。顔料分散剤の含有量は、上記顔料を十分に上記非水系溶剤中に分散可能な量であれば足り、適宜設定できる。
【0024】
1−3.その他の成分
本発明の非水系インクには、インクの性状に悪影響を与えない限り、上記非水系溶剤、色材、顔料分散剤以外に、例えば、界面活性剤、定着剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
【0025】
1−4.非水系インクの製造方法
本発明の非水系インクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め非水系溶剤の一部と色材の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
【0026】
2.前処理液
本発明で使用する前処理液は、ポリビニルアルコール(PVA)保護コロイド型アクリルポリマーを含有する液体であり、ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーの水系分散液であることが好ましく、ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーの水系エマルジョンであってもよい。前処理液は、前記ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマー以外に、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0027】
2−1.ポリビニルアルコール(PVA)保護コロイド型アクリルポリマー
本発明におけるポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーは、ポリビニルアルコールを保護コロイドに使用したアクリルポリマーであり、具体的には、ポリビニルアルコールを保護コロイドに使用した(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が挙げられる。ここで、保護コロイドを形成するポリビニルアルコールは、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を包み込んで、水系媒体中では乳化剤として働いているものと考えられる。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステル系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の単独重合体及び共重合可能な他の単量体との共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。これらは単独または2種以上を併用できる。
【0029】
また、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合できる単量体としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体、アクリロニトリル等のニトリル系単量体およびその誘導体、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体及びその誘導体、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体およびその誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等の不飽和酸が挙げられる。
【0030】
保護コロイドを形成するポリビニルアルコールは水溶性であれば、平均重合度、鹸化度に制限はない。又、かかるポリビニルアルコールには、チオール基変性ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、分子内に炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールも含まれるが、色材の浸透性及びローラー転写汚れの抑制の観点から、ノニオン性のポリビニルアルコールが好ましい。保護コロイドを形成するポリビニルアルコールの分子量は、3000〜20000が好ましく、けん化度は80〜100が好ましい。
【0031】
ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーのガラス転移温度(Tg)は、本発明の効果の発現の観点から、0〜80℃であることが好ましく、5〜60℃であることがより好ましく、30〜55℃であることが更により好ましい。
【0032】
2−2.前処理液の作製方法
支持体の非水系インク吸収性の被印刷面にポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーの層を形成するためには、前処理液は、ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーを適当な水系溶媒に分散させた溶液の形態であることが好ましい。ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーは、通常、ポリビニルアルコール保護コロイドが乳化剤として作用するので、水系溶媒中では樹脂エマルションの形態となる。
【0033】
水系溶媒としては、水及び水溶性有機溶剤が挙げられるが、取り扱い性の点から水、または、水溶性有機溶剤を含む水が好ましい。水としては、水道水、イオン交換水、脱イオン水等が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、グリコール系溶剤、グリコールエーテル類、グリコールエーテル類のアセタート、低級アルコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、イミダゾリジノン系溶剤、3−メチル−2,4−ペンタンジオールなどが挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、また、単一の相を形成する限り、2種以上混合して使用してもよい。
【0034】
前処理液中のポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーの濃度は、支持体に塗工可能な粘度を保持する濃度であれば特に制限されない。また、前処理液中の固形分全量に対するポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーの割合は、該固形分全量を100質量%とした場合、50〜100質量%が好ましく、75〜100質量%がより好ましい。固形分中のポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーの割合がこの範囲にあると、本発明による印刷濃度向上効果及びローラー転写汚れ抑制効果が良好に発揮される。
【0035】
2−3.その他の成分
本発明で使用する前処理液には、その性状に悪影響を与えない限り、上記ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマー以外に、例えば、分散剤、定着剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
【0036】
3.インクジェット印刷方法
本発明のインクジェット印刷方法は、支持体上に前処理液を塗工して塗工層を形成した後、非水系インクを該塗工層上へ吐出させることにより行われる。前処理液の支持体上への塗工は、刷毛、ローラー、バーコーター、エアナイフコーター等を使用して行ってもよく、または、インクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷手段によって画像を印刷することで行ってもよい。例えば、インクジェットプリンタを使用し、支持体上へ前処理液を吐出した後これに重ねて非水系インクを連続的に吐出させることにより印刷を行ってもよい。なお、本発明では、前処理液を支持体上に塗工した後、塗工された処理液が乾燥した後に非水系インクを吐出させることが好ましい。
【0037】
上記前処理液が塗工されて塗工層が形成された印刷前の記録媒体は、本発明の非水系インク用インクジェット記録媒体に該当するものである。前処理液の塗工量は、支持体が普通紙である場合は、乾燥後の固形分で0.1〜10g/m
2が好ましく、0.2〜5.0g/m
2がより好ましく、0.3〜3.0g/m
2が更により好ましく、0.7〜1.5g/m
2が更によりいっそう好ましい。支持体が非晶質シリカなどを含有した非水系溶剤浸透性のインク受理層を有するコート紙である場合は、乾燥後の固形分で1.0〜30g/m
2が好ましく、2.0〜15.0g/m
2がより好ましく、2.0〜4.0g/m
2が更により好ましい。この塗工量範囲では、解像度300×300dpi程度の印刷の際にも、印刷ドットの大きさが良好に保たれ、高濃度の印刷物が得られ、ローラー転写汚れも低減される。なお、前処理液によって形成される塗工層の塗工厚は、0.1〜10μmが好ましく、支持体が普通紙である場合は0.1〜2μmがより好ましく、コート紙である場合は1〜10μmがより好ましい。
【0038】
また、本発明のインクジェット印刷方法を容易に実施できるように、上記前処理液と非水系インクを少なくとも含むインクセットを構成して販売すると好都合である。また、このインクセットに、下記本発明の非水系インク用インクジェット記録媒体の支持体を同梱して、印刷キットとして販売してもよい。
【0039】
本発明の非水系インク用インクジェット記録媒体を構成する支持体は、被印刷面が非水系インクを吸収する性質を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、普通紙、コート紙及び特殊紙等の印刷用紙、布、並びに、無機質シート、フィルム及びOHPシート等を基材としてその被印刷面にインク受理層を備えた記録媒体等が挙げられる。これらの中でも、普通紙及びコート紙等の印刷用紙を好ましく用いることができる。
【0040】
普通紙は、その面上にインク受容層やフィルム層等が形成されていない印刷用紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙及び再生紙等を挙げることができる。また、コート紙としては、いわゆる塗工印刷用紙やインクジェット用コート紙を好ましく用いることができ、これらを用いることにより優れたインクジェット光沢紙を作製することができる。塗工印刷用紙とは、従来、凸版印刷、オフセット印刷及びグラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、クレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と澱粉等のバインダーを含む塗料を用いて、上質紙や中質紙の表面に塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙及びキャストコート紙等に分類される。インクジェット用コート紙としては、マット紙及びフォト光沢紙等を挙げることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
実施例1〜7、比較例1〜6
表の重量はすべて、乾燥重量(固形分量)である。
(1)非水系インクの作製
表1に示す各成分を表1に示す割合で混合し、その後、ビーズミルで顔料を十分に分散し、得られた顔料分散液をメンブレンフィルター(開口径3μm)でろ過し、非水系インクを得た。
【0043】
【表1】
【0044】
尚、表1記載の原材料の詳細は下記のとおりである。
・カーボンブラック:コロンビアン・ケミカルズ社製ラーベン1000(商品名)。
・顔料分散剤:アイ・エス・ピー・ジャパン株式会社製アンタロンV−216(商品名)。
・オレイン酸メチル:花王株式会社製エキセパールM−OL(商品名)
・ミリスチン酸イソプロピル:花王株式会社製エキセパールIPM(商品名)
・石油系炭化水素溶剤:JX日鉱日石エネルギー株式会社製アイソゾール400(商品名)
【0045】
(2)インクジェット印刷
グラビアミニ校正機CM型(商品名;株式会社日商グラビア製)(印刷スピード:30m/s、ベタ100%)により、理想用紙薄口(商品名;理想科学工業株式会社製普通紙)の片面に、表2に記載の処方(乾燥重量)からなるインク受理層を塗工し、100℃で1分間乾燥を行って支持体を作製した。さらに、インク受理層に表2に記載の処方(乾燥重量)からなる光沢層を塗工し、100℃で1分間乾燥を行い、記録媒体(インクジェット光沢紙)を作製した。なお、塗工に用いた処理液はすべて固形分30%の水溶液に調整したものを使用した。
【0046】
そして、前記非水系インクを、オルフィスX9050(商品名;理想科学工業株式会社製ラインヘッド方式インクジェットプリンタ)の吐出経路に導入し、上記記録媒体の光沢層の表面上に前記非水系インクを吐出させ、ベタ画像を印刷した。印刷は、解像度300×300dpiにて、1ドット当りのインク量が30plの吐出条件で行った。得られた印刷画像の表濃度、光沢度、及び、ローラー転写汚れを下記方法で測定し評価した。結果を表2に示す。
【0047】
(3)印刷画像の表濃度
光学濃度計(RD920:マクベス社製)を用い、印刷物を23℃、50%R.H.で1日放置した後のベタ画像の表側のOD値を測定し、以下の基準で評価した。
A:1.2≦OD値
B:1.15≦OD値<1.2
C:OD値<1.15
【0048】
(4)印刷画像の光沢度
上記(3)で用いた印刷物のベタ画像を肉眼で観察し、以下の基準で評価した。
○:光沢あり
×:光沢なし
【0049】
(5)ローラー転写汚れ
印刷直後の印刷物のローラーによる汚れを目視観察した。評価は以下の基準で行った。
AA:ローラー汚れが全くない
A:ローラー汚れがほぼない
B:ローラー汚れが若干あるものの、元画像を乱さないレベルである
C:ローラー汚れがある
【0050】
実施例8
理想用紙マットIJ(W)(商品名;理想科学工業株式会社製マット紙)のインク受理層に表2に記載の処方(乾燥重量)からなる光沢層を塗工し、100℃で1分間乾燥を行い、記録媒体(インクジェット光沢紙)を作製した。なお、前処理液は固形分30%の水溶液に調整したものを使用した。かくして得られた記録媒体を用いた以外、上記実施例1と同様にして、印刷を行い、印刷画像の表濃度、光沢度、及び、ローラー転写汚れを測定し評価した。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2の原材料は下記を意味する。
PVA保護コロイド型アクリル酸エステル共重合体A:ビニブラン2680(商品名;日信化学工業製)、Tg=8℃、固形分:30%
PVA保護コロイド型アクリル酸エステル共重合体B:ビニブラン2685(商品名;日信化学工業製)、Tg=50℃、固形分:30%
カチオン変性PVA保護コロイド型アクリル酸エステル共重合体:ビニブラン2687(商品名;日信化学工業製)、Tg=20℃、固形分:30%
PVAグラフト型アクリル共重合体:PA−82(商品名;ダイセル化学製)、Tg=20℃、固形分:42%
アクリル酸エステル共重合体:ビニブラン2585(商品名;日信化学工業製)、Tg=20℃、固形分:45%
PVA:クラレポバール PVA117(商品名:クラレ製)
PVA保護コロイド型酢酸ビニル系樹脂:S−400(商品名;住化ケムテックス社製)、Tg=0℃、固形分:55%
合成非晶質シリカ:ミズカシル P−78A(商品名;水澤化学工業株式会社製)
バインダー:JMR−10Mとモビニール966Aの7:3混合液
JMR−10M(商品名):日本酢ビ・ポバール株式会社製のポリビニルアルコール(けん化度65.0mol%、重合度250、固形分:70%)。
モビニール966A(商品名):日本合成化学株式会社製のスチレン/アクリル系エマルション樹脂(固形分45%)。
【0053】
表2の結果から、以下のことがわかる。
ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーを被印刷面の最外層として積層した記録媒体を用いた実施例1〜8では、印刷濃度が高く、光沢もあり、ローラー転写汚れも低減され、特に、カチオン変性していないノニオン性ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーを用いた実施例3、4及び6ではローラー転写汚れが顕著に抑制された。
【0054】
これに対し、インク受理層は備えるが光沢層を備えない記録媒体を用いた比較例1では、印刷画像は、印刷濃度が低く、光沢もなかった。また、光沢層をポリビニルアルコールグラフト型アクリル共重合体で形成した比較例2では、ローラー転写汚れが発生した。また、光沢層を非保護コロイド型アクリルポリマーとポリビニルアルコールとの混合物で形成した比較例3では、印刷濃度が低く、ローラー転写汚れも発生した。また、光沢層を非保護コロイド型アクリルポリマー単独で形成した比較例4では、印刷濃度が低く、光沢もなく、さらには、ローラー転写汚れも発生した。また、光沢層をポリビニルアルコール単独で形成した比較例5では、ローラー転写汚れが顕著であった。また、光沢層をポリビニルアルコール保護コロイド型酢酸ビニル系樹脂で形成した比較例6では、印刷濃度が低く、ローラー転写汚れも発生した。
【0055】
実施例9〜14、比較例7〜12
記録媒体として、理想用紙薄口(商品名;理想科学工業株式会社製普通紙)の片面に表3に記載の処方からなる上層を塗工し、100℃で1分間乾燥を行って作製したものを用い、その上層に印刷を行った以外、実施例1と同様にして試験を行った。なお、前処理液はすべて固形分30%の水溶液に調整したものを使用した。そして、印刷画像の表濃度及び裏抜けを下記方法で測定し評価した。ローラー転写汚れは実施例1と同様に測定し評価した。結果を表3に示す。
【0056】
(1)印刷画像の表濃度
光学濃度計(RD920:マクベス社製)を用い、印刷物を23℃、50%R.H.で1日放置した後のベタ画像の表側のOD値を測定し、以下の基準で評価した。
A:1.15≦OD値
B:1.1≦OD値<1.15
C:OD値<1.1
【0057】
(2)印刷画像の裏抜け
上記(1)の印刷画像の表濃度の測定時に、同じ光学濃度計を用いてベタ画像の裏側のOD値を測定し、以下の基準で裏抜けを評価した。
AA:OD値≦0.15
A:0.15<OD値≦0.17
B:0.17<OD値≦0.2
C:0.2<OD値
【0058】
【表3】
【0059】
表3の原材料は表2と同様である。
【0060】
表3の結果から、以下のことがわかる。
ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーを被印刷面の最外層として積層した記録媒体を用いた実施例9〜14では、印刷濃度が高く、裏抜けも低減され、ローラー転写汚れも低減され、特に、カチオン変性していないノニオン性ポリビニルアルコール保護コロイド型アクリルポリマーを用いた実施例11、12及び14ではローラー転写汚れが顕著に抑制された。
【0061】
これに対し、普通紙をそのまま用いた比較例7では、印刷濃度が低く、裏抜けも顕著であった。また、上層をポリビニルアルコールグラフト型アクリル共重合体で形成した比較例8では、裏抜けの抑制が十分でなく、ローラー転写汚れも発生した。また、上層を非保護コロイド型アクリルポリマーとポリビニルアルコールとの混合物で形成した比較例9では、印刷濃度が低く、裏抜けの抑制が十分でなく、ローラー転写汚れも発生した。また、上層を非保護コロイド型アクリルポリマー単独で形成した比較例10では、印刷濃度が低く、裏抜けが顕著であり、さらには、ローラー転写汚れも発生した。また、上層をポリビニルアルコール単独で形成した比較例11では、ローラー転写汚れが顕著であった。また、上層をポリビニルアルコール保護コロイド型酢酸ビニル系樹脂で形成した比較例12では、印刷濃度が低く、裏抜けの抑制が十分でなく、ローラー転写汚れも発生した。