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特開2015-224377耐リジング性に優れたアルミニウム合金板
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  • 特開2015224377-耐リジング性に優れたアルミニウム合金板 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-224377(P2015-224377A)
(43)【公開日】2015年12月14日
(54)【発明の名称】耐リジング性に優れたアルミニウム合金板
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20151117BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20151117BHJP
   C22C 21/12 20060101ALI20151117BHJP
   C22F 1/043 20060101ALI20151117BHJP
   C22F 1/047 20060101ALI20151117BHJP
   C22F 1/05 20060101ALI20151117BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20151117BHJP
   C22F 1/057 20060101ALI20151117BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20151117BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20151117BHJP
   B21B 1/38 20060101ALN20151117BHJP
【FI】
   C22C21/02
   C22C21/06
   C22C21/12
   C22F1/043
   C22F1/047
   C22F1/05
   C22F1/053
   C22F1/057
   B21B3/00 J
   C22F1/00 602
   C22F1/00 604
   C22F1/00 606
   C22F1/00 623
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 630Z
   C22F1/00 681
   C22F1/00 682
   C22F1/00 683
   C22F1/00 685A
   C22F1/00 685Z
   C22F1/00 686Z
   C22F1/00 691A
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 692A
   C22F1/00 692B
   C22F1/00 694A
   C22F1/00 694B
   C22F1/00 694Z
   B21B1/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-111117(P2014-111117)
(22)【出願日】2014年5月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】蔵本 遼
(72)【発明者】
【氏名】竹田 博貴
(72)【発明者】
【氏名】日比野 旭
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002AA08
4E002AD09
4E002BC01
4E002CB01
(57)【要約】
【課題】成形の厳しい条件においてもリジングマークの発生を確実に抑制できる耐リジング性に優れたアルミニウム合金板を提供する。
【解決手段】Mg及びSiを含有するアルミニウム合金板において、板厚方向に6以上の数に等分に分割した場合の全板厚の中央部分に該当する板厚中層部の結晶粒径を45μm以上150μm以下とする一方、板厚中層部以外の領域である板厚表層部における平均結晶粒径を80μm以下とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg及びSiを含有するアルミニウム合金板であって、板厚方向に6以上の数に等分に分割した場合の全板厚の中央部分に該当する板厚中層部の結晶粒径を45μm以上150μm以下とする一方、前記板厚中層部以外の領域である板厚表層部における平均結晶粒径が80μm以下とすることを特徴とする耐リジング性に優れたアルミニウム合金板。
【請求項2】
前記等分に分割する数を8とし、前記合金板表面から板厚1/8面までの任意の面での結晶粒径をd、板厚1/8面から板厚2/8面までの任意の面の結晶粒径をd、板厚2/8面から板厚3/8面までの任意の面の結晶粒径をd、板厚3/8面から板厚4/8面までの任意の面の結晶粒径をdとしたときに、
45μm≦d≦150μm・・・(1)
(d+d+d)/3≦80μm・・・(2)
の両式を満たすことを特徴とする請求項1記載の耐リジング性に優れたアルミニウム合金板。
【請求項3】
前記板厚3/8面から板厚4/8面までの領域内での任意の圧延方向−圧延せん断方向面における、Cube方位面積率をC、Goss方位面積率をGとしたときに、
C>10%のとき、C/G≧2・・・(3)
10%≧C>5%のとき、C/G≧1.5・・・(4)
5%≧Cのとき、C/G≧1.2・・・(5)
のいずれかの式を満たすことを特徴とする請求項2記載の耐リジング性に優れたアルミニウム合金板。
【請求項4】
前記合金板の組成として、質量%でMg:0.2〜1.5%、Si:0.3〜2.0%を含有し、かつMn:0.03〜0.6%、Cr:0.01〜0.4%、Zr:0.01〜0.4%、Fe:0.03〜1.0%、Ti:0.005〜0.3%、Zn:0.03〜2.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、さらにCuが1.5%以下に規制され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の耐リジング性に優れたアルミニウム合金板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディシート、ボディパネルのような各種自動車、船舶、航空機等の部材、部品、あるいは建築材料、構造材料、そのほか各種機械器具、家電製品やその部品等に好適に用いられるAl−Mg−Si系もしくはAl−Mg−Si−Cu系のアルミニウム合金板に関するものであり、特に、成形の厳しい条件においてもリジングマークの発生を確実に抑制できる耐リジング性に優れたアルミニウム合金板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディシートには、従来は冷延鋼板を使用することが多かったが、最近では地球温暖化抑制やエネルギーコスト低減等のために、自動車を軽量化して燃費を向上させる要望が高まっている。このため、従来の冷延鋼板に代えて冷延鋼板とほぼ同等の強度で比重が約1/3であるアルミニウム合金板を自動車のボディシートに使用する傾向が増大しつつある。また、近年では自動車以外の電子・電気機器等のパネル、シャーシの様な成形加工部品についても、高い熱伝導性や比強度といった特性を持つアルミニウム合金板を用いることが多くなっている。
【0003】
例えば、自動車のボディシートは、プレス成形における張出成形や、曲げ成形などの成形加工が複合して行われるため、成形加工性が優れていることが要求される。また、フードやドアなどといったアウターパネルにおいては、美麗な表面品質が要求される。
【0004】
一般に自動車ボディシート用のアルミニウム合金としては、Al−Mg系合金のほか、Al−Mg−Si系合金もしくはAl−Mg−Si−Cu系合金が主として使用されている。ここでAl−Mg−Si系合金、Al−Mg−Si−Cu系合金は時効性を有する合金であり、塗装焼付けの加熱工程を利用して塗装焼付前後で強度が向上する。つまり、塗装焼付前においては比較的強度が低く成形性が優れている一方、塗装焼付後の強度が高くなる利点を有するほか、Al−Mg系合金で問題となるリューダースマークが発生しにくいという長所を有するため、近年自動車材への適用が進んでいる。しかし、一方でプレス成形後の板表面に筋状の凹凸が形成されるリジングマークが発生することがある。
【0005】
リジングマークとは、板に成形加工を施した際に、素材の板の製造工程における圧延方向と平行な方向に筋状に現れる微細な凹凸模様である。リジングマークはプレス成形条件が厳しくなった場合に特に生じやすく、近年の自動車ボディの形状複雑化や薄肉化の要求の高まりと共に、リジングマークの発生しない材料が強く要求されている。なお、以下、本明細書では、成形加工時にリジングマークが発生しにくい性質を「耐リジング性」と記す。
【0006】
ところで、リジングマークの発生は、材料の再結晶挙動と深く関わっていることから、リジングマークの発生を抑制するためには、板製造過程での組織制御が不可欠とされている。そこで耐リジング性を向上させるための従来の技術としては、主として板の熱延工程中の再結晶状態の制御の観点、結晶方位の制御の観点から、例えば特許文献1〜4に示すような提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2823797号公報
【特許文献2】特許第3590685号公報
【特許文献3】特開2009−263781号公報
【特許文献4】特開2010−242215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近では意匠性などから材質、特に表面外観品質の一層の向上が求められている。特に前述のような成形性、塗装焼付け工程での強度向上に優れたAl−Mg−Si系、Al−Mg−Si−Cu系合金板は、利便性の点からより優れた耐リジング性を有することが強く要求されている。しかしながら前述のような従来技術では、その要求性能を十分に満足させることは困難であった。
【0009】
すなわち、特許文献1や特許文献2に示されている方法では、熱間圧延の開始温度を350℃から450℃までの範囲としているため、熱間圧延中の粗大な結晶粒の形成はそれなりに抑制されるものの、未だその抑制効果が不充分であった。特に、板厚中層部に粗大結晶粒が形成されてしまい、その結果、必ずしも充分な耐リジング性が得られないことが本発明者等の実験により判明している。
【0010】
また、特許文献3、4に記載のように板の特定の結晶方位を制御する方法では、耐リジング性の向上に一定の効果はあるものの、最近の耐リジング性向上の強い要求に対しては、その効果が未だ不充分であった。
【0011】
本発明は以上の事情を鑑みてなされたものであり、成形の厳しい条件においてもリジングマークの発生を確実に抑制できる耐リジング性に優れたアルミニウム合金板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、本発明者等は、リジングマークの発生原因について鋭意検討を重ねた。リジングマークは、熱間圧延や冷間圧延工程中で圧延方向に引き伸ばされた結晶粒が形成するバンド状組織(筋状組織)が起源であると考えられている。本発明者等は、このバンド状組織を再結晶させて分解する際に、その再結晶粒径を粗大化させることにより、この分解力を増大させ、リジングマークの特徴である圧延方向の強い直線性を大きく低減させ、リジングマークを抑制できることを見出した。
【0013】
本発明者等は、さらに検討を重ねた結果、リジングマークの発生は、板厚中層部で結晶粒群毎の塑性変形挙動差によって板厚方向の変形量が大きい場所と小さい場所が発生し、それが表面まで伝播していくことで表面に凹凸が現れるという現象であることが判明した。すなわち、リジングマーク発生の主原因となるバンド状組織は圧延板の板厚中層部に存在するということであり、特に圧延板の板厚中層部の再結晶粒径を適切なサイズまで大きくすることがリジングマークの防止に非常に効果的であることが判明したのである。これは、リジングマークが表面性状に関わる問題であることから、板厚表層部の組織が影響しやすいと考えられていた、これまでの見解とは全く異なる新しい知見である。
【0014】
しかしながら、板厚中層部の結晶粒径を適切なサイズまで大きくした場合でも、特に成形の厳しい条件であればリジングマークが発生してしまい、その効果は十分ではない場合があった。そこで、本発明者らが検討を重ねた結果、この解決のためには、さらに板厚中層部の結晶方位を制御することが有効であることが明らかとなった。リジングマーク発生に強く影響する結晶方位は一般に(001)<100>方位(以下、Cube方位と称す)と(011)<100>方位(以下、Goss方位と称す)と言われており、これらの変形挙動の差によって凹凸が発生すると考えられている。そこで、これらCube方位とGoss方位の関係を適切に制御することで、特に成形の厳しい条件でもリジングマークの発生を抑制することが可能となった。
【0015】
このように、本発明者等は、種々実験・検討を重ねた結果、Al−Mg−Si系もしくはAl−Mg−Si−Cu系合金の最終板の組織として、板厚表層部および板厚中層部の結晶粒径、および板厚中層部の結晶方位を制御することによって、肌荒れを防止するとともに、耐リジング性を確実かつ顕著に向上させることを見出したのである。
【0016】
具体的には、本発明の耐リジング性に優れたアルミニウム合金板は、MgおよびSiを含有するアルミニウム合金板において、板厚方向に6以上の数に等分に分割した場合の全板厚の中央部分に該当する板厚中層部の結晶粒径を45μm以上150μm以下とする一方、前記板厚中層部以外の領域である板厚表層部における平均結晶粒径が80μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成形の厳しい条件においてもリジングマークの発生を確実に抑制できる耐リジング性に優れたアルミニウム合金板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の耐リジング性に優れたアルミニウム合金板を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る耐リジング性に優れたアルミニウム合金板について詳細に説明する。
【0020】
[アルミニウム合金板の化学成分組成]
本発明のアルミニウム合金板は、基本的にはAl−Mg−Si系合金もしくはAl−Mg−Si−Cu系合金からなるものであれば良く、その具体的な成分組成は特に制約されるものではないが、通常は、質量%でMg:0.2〜1.5%、Si:0.3〜2.0%を含有し、かつMn:0.03〜0.6%、Cr:0.01〜0.4%、Zr:0.01〜0.4%、Fe:0.03〜1.0%、Ti:0.005〜0.3%、Zn:0.03〜2.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、さらにCuが1.5%以下に規制され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなる成分組成とすることが好ましい。
【0021】
次に、各元素の限定理由について説明する。
【0022】
(Mg)
Mgは本発明で対象としている合金系で基本となる合金元素であって、Siとともに強度向上に寄与する。Mg量は、0.2〜1.5%とすることが好ましい。Mg量が0.2%未満では塗装焼付時に析出硬化によって強度向上に寄与するG.P.ゾーンの生成量が少なくなるため、充分な強度向上が得られない。一方1.5%を超えれば、粗大なMg−Si系の金属間化合物が生成され、プレス成形性、主に曲げ加工性が低下する。特に、最終板のプレス成形性、主に曲げ加工性をより良好にするためには、Mg量は0.3〜0.9%の範囲内とすることがより好ましい。
【0023】
(Si)
Siも本発明の合金系で基本となる合金元素であって、Mgとともに強度向上に寄与する。またSiは、鋳造時に金属Siの晶出物として生成される。この金属Si粒子の周囲が冷間圧延時に付与される加工によって変形されて、溶体化処理の際に再結晶核の生成サイトとなるため、再結晶組織の微細化にも寄与する。Si量は、0.3〜2.0%とすることが好ましい。Si量が0.3%未満では上記の効果が充分に得られず、一方2.0%を超えれば粗大なSi粒子や粗大なMg−Si系の金属間化合物が生じて、プレス成形性、特に曲げ加工性の低下を招く。特に、プレス成形性と曲げ加工性とのより良好なバランスを得るためには、Si量は0.5〜1.3%の範囲内がより好ましい。
【0024】
(Mn、Cr、Zr、Fe、Ti、Zn)
これらの元素は、強度向上や結晶粒微細化、あるいは時効性(焼付硬化性)の向上に有効であり、いずれか1種または2種以上を添加する。これらのうちMn、Cr、Zrは強度向上と結晶粒の微細化および組織の安定化に効果がある元素である。Mn量が0.03%未満、もしくはCr、Zr量がそれぞれ0.01%未満では、上記の効果が充分に得られない。一方、Mn量が0.6%を超えるか、あるいはCr、Zr量がそれぞれ0.4%を超えれば、上記の効果が飽和するばかりでなく、多数の金属間化合物が生成されて成形性、特に曲げ加工性に悪影響を及ぼすおそれがある。従って、Mnは0.03〜0.6%の範囲内、Cr、Zrはそれぞれ0.01〜0.4%の範囲内とすることが好ましい。
【0025】
Feも強度向上と結晶粒微細化に有効な元素である。Fe量は、0.03〜1.0%の範囲内が好ましい。Fe量が0.03%未満では充分な効果が得られず、一方1.0%を超えれば、多数の金属間化合物が生成されて、プレス成形性、曲げ加工性が低下するおそれがある。特に、曲げ加工性の低下を最小限に抑えたい場合、Fe量は0.03〜0.5%の範囲がより好ましい。
【0026】
Tiは、鋳塊組織の微細化を通じて最終板の強度向上、肌荒れ防止、耐リジング性向上に効果があることから、鋳塊組織の微細化のために添加する。Ti量は0.005〜0.3%の範囲内とすることが好ましい。Ti量が0.005%未満では充分な効果が得られず、一方0.3%を超えればTi添加の効果が飽和するばかりでなく、粗大な晶出物が生じるおそれがある。さらに、Tiと同時に500ppm以下のBを添加することによって、鋳塊組織の微細化と安定化の効果が一層顕著となる。
【0027】
Znは時効性向上を通じて強度向上に有効な元素である。Zn量は0.03〜2.5%の範囲内が好ましい。Znの添加量が0.03%未満では上記の効果が充分に得られず、一方2.5%を超えれば成形性が低下する。
【0028】
(Cu)
Cuは強度向上および成形性向上のために添加されることがある元素である。Cu量が1.5%を超えれば耐食性(耐粒界腐食性、耐糸錆性)が低下することから、Cu量は1.5%以下とすることが好ましい。また、より耐食性の改善を図りたい場合はCu量を1.0%以下とすることが好ましく、特に耐食性を重視する場合は、Cu量は0.05%以下に規制することが望ましい。
【0029】
(その他の元素)
Al−Mg−Si系合金、Al−Mg−Si−Cu系合金においては、高温時効促進元素あるいは室温時効抑制元素であるAg、In、Cd、Be、あるいはSnを微量添加することがある。本発明の場合も微量添加であればこれらの元素の添加も許容され、それぞれ0.01〜0.3%の範囲内であれば特に所期の目的を損なうことはない。さらに、鋳塊組織の微細化にはScの添加も効果があるとされており、本発明の場合も微量のScを添加しても良く、Sc量0.01〜0.2%の範囲内であれば特に支障はない。
【0030】
(不可避的不純物)
例えば、地金や中間合金に含まれている通常知られている範囲内のGa、V、Ni等の不可避的不純物は、本発明の効果を妨げるものではないため、このような不可避的不純物の含有も許容される。
【0031】
[アルミニウム合金板の結晶粒径制御]
さらに、本発明のアルミニウム合金板において特に耐リジング性を確実かつ安定して向上させるためには、合金の成分組成を前述のように調整するばかりでなく、最終板であるアルミニウム合金板の結晶粒径を、板厚方向の各部位で適切に制御することが極めて重要であり、あわせて中層部での結晶方位を制御することが極めて重要である。
【0032】
リジングマークは、前述したように、圧延板を成形加工したときに、圧延板表面に圧延方向と平行な方向に筋状に生じる微小な凹凸模様である。このようなリジングマークは、熱間圧延および冷間圧延工程において圧延方向に引き伸ばされた結晶粒が形成するバンド状組織(筋状組織)が起源となり、以下のように発生すると考えられる。即ち、これらのバンド状組織を形作る圧延方向に伸長した結晶粒は、再結晶させることにより等軸粒に近い結晶粒となるため、バンド状組織は分解される。しかしながらその際に、圧延方向に伸長した元のバンド状組織に基づいて、類似した結晶方位を持つ結晶粒群を形成する。それらがあたかも単一の結晶粒かのように振舞うことで、それら結晶粒群同士の結晶方位の違いに起因した塑性変形挙動の違いにより、微小な凹凸が発生し、リジングマークとなってしまうと推定される。
【0033】
このようなバンド状組織の形成は、通常の圧延工程により製造を行う上では決して回避できるものではない。しかし、本発明では、前述したように、板厚中層部の結晶粒径を適切なサイズまで大きくすることがバンド状組織の分解に有効であること、同時に板厚表層部の結晶粒径を適切に制御することで肌荒れも防止できること、合わせて、板厚中層部の結晶方位を適切に制御することで、特に成形の厳しい場合であってもリジングマークを防止できること等の知見に基づきなされている。即ち、本発明では、アルミニウム合金板の板厚中層部と板厚表層部それぞれの結晶粒径、およびそれらの結晶方位適切に制御することで、アルミニウム合金板のリジングマークや肌荒れといった表面性状の問題を防止することができる。従って、本発明のアルミニウム合金板は、自動車のボディシートなど特に表面外観特性が優れていることが要求される成形加工用のアルミニウム合金圧延板として最適である。
【0034】
(具体的な結晶粒径分布)
アルミニウム合金板における具体的な結晶粒径分布について、例えば、図1に示すように、Al−Mg−Si系もしくはAl−Mg−Si−Cu系アルミニウム合金板の表面から板厚1/8面までの層(S1)の任意の面での結晶粒径をd、板厚1/8面から板厚2/8面までの層(S2)の任意の面の結晶粒径をd、板厚2/8面から板厚3/8面までの層(S3)の任意の面の結晶粒径をd、板厚3/8面から板厚4/8面までの層(S4)の任意の面の結晶粒径をdとした場合を考える。
【0035】
リジングマーク発生に特に強い影響を与えるバンド状組織は、図1における層S4箇所の板厚中層部に存在し、板厚中層部の結晶粒径を適切なサイズまで大きく再結晶させることでバンド状組織の分解を促し、リジングマークの発生を防止する。
【0036】
本発明者等の行った実験によれば、製造工程中で形成したバンド状組織を分解するためには、板厚中層部に相当する結晶粒径dを45μm以上、好ましくは50μm以上、さらに好ましくは60μm以上とすることが望ましい。結晶粒径dが45μmより小さい場合には、リジングマーク発生の原因であるバンド状組織を十分に分解することができず、リジングマークが発生してしまう。また、結晶粒径dが150μmを超えてしまうと伸びや成形性が大きく低下してしまうため、結晶粒径dは150μm以下、好ましくは100μm以下とすることが望ましい。さらに、特に伸びや成形性を必要とする場合には、結晶粒径dを80μm以下とすることが好ましい。
【0037】
さらに、特に成形の厳しい条件でリジングマークが発生しやすい場合には、板厚中層部にあたるS4の任意の面におけるCube方位面積率とGoss方位面積率をそれぞれC、Gとしたときに、C>10%のとき、C/G≧2好ましくはC/G≧4、10%≧C>5%のとき、C/G≧1.5好ましくはC/G>2、5%≧Cのとき、C/G≧1.2、好ましくはC/G≧1.5とすることが望ましい。C/Gが各Cube方位面積率に対して規定した値よりも小さい場合、変形挙動の特に大きく異なるCube方位とGoss方位の、成形時の変形挙動の差によって、板厚中層部で発生するリジングマークの凹凸が大きくなり、表面に伝播しやすくなる結果、リジングマークが発生してしまう場合がある。
【0038】
また、従来の知見では最終材の結晶粒径を大きくさせることは、表面性状や成形性を悪化させることにつながると考えられており、例えば、板厚表層部の結晶粒径を過度に粗大化させてしまうと肌荒れやオレンジピールと呼ばれるような表面性状に関わる問題を引き起こす場合がある。これらの抑制には結晶粒径を微細化させることが有効であることが公知である。このため、本発明においても、肌荒れやオレンジピールが発生しない程度に板厚表層部の結晶粒径を制御する必要がある。
【0039】
本発明者等の実験によれば、肌荒れやオレンジピールはリジングマークとは異なり、主に板厚表層部、すなわち図1における層S1〜S3の範囲の平均結晶粒径との相関が強いことが判明しており、板厚表層部の平均結晶粒径が80μmを超えると、特に肌荒れやオレンジピールが起こりやすくなる。そのため、板厚表層部に相当する結晶粒径dとdとdの平均値を80μm以下、好ましくは70μm以下、さらに好ましくは60μm以下とすることが望ましい。
【0040】
以上をまとめると、
45μm≦d≦150μm ・・・(1)
(d+d+d)/3≦80μm ・・・(2)
上記(1)および(2)式を満たし、
さらに、特に成形のきつい条件でも優れた耐リジング性を得るためには、
C>10%のとき、C/G≧2 ・・・(3)
10%≧C>5%のとき、C/G≧1.5 ・・・(4)
5%≧Cのとき、C/G≧1.2 ・・・(5)
上記(3)〜(5)式のいずれかを満たすように制御する必要がある。
【0041】
このように、耐リジング性向上のために、再結晶時に板厚中層部の結晶粒径を適切なサイズまで大きくさせることでバンド状組織を分解しつつ、板厚中層部の結晶方位を制御することで凹凸の形成を抑制し、また、肌荒れの防止のために板厚表層部の平均結晶粒径を制御することで、肌荒れを防止しつつ、苛酷な成形加工が施される部位でも、リジングマークの発生を防止することが可能となる。
【0042】
また、リジングマーク発生に強く影響する板厚中層部のバンド状組織は、熱間圧延時から形成されており、板厚中層部に当たる図1における層S4の領域の全板厚に対する割合は、圧延が進んで板厚が減少してもその割合を保つことになるから、上記結晶粒径の制御によりリジングマークを防止できる板厚は特に制限されるものではなく、製品に要求される所定の板厚の最終圧延板に対して適用できる。
【0043】
次に、各結晶粒径の具体的な測定方法について説明する。
【0044】
次に、各結晶粒径、結晶方位の具体的な測定方法について説明する。
【0045】
まず、(1)および(2)式の結晶粒径dからd、および(3)〜(5)式の結晶方位面積率C、Gは、組織観察用試験片の圧延面に対して、dからd、および結晶方位面積率C、Gそれぞれで定義された板厚方向部位の任意の面まで苛性エッチングで減厚した後に、機械研磨、バフ研磨、電解研磨を行う。それぞれの研磨面において、走査電子顕微鏡に付属の後方散乱電子回折測定装置(SEM−EBSD)で測定することによって集合組織の方位情報を取得する。試料の測定領域は1000μm×1000μm以上とし、測定ステップ間隔は結晶粒径の1/10程度としてやればよい。
【0046】
得られた方位データから、EBSD解析ソフト(TSL社製の「OIM Analysis」)を使用して結晶粒径を測定する。このときミスオリエンテーション5°以上の結晶境界線を結晶粒界とみなし、円相当として算出した直径を結晶粒径とする。
【0047】
また、同様に得られた方位データから、EBSD解析ソフトを使用して結晶方位面積率を測定する。Cube方位面積率は(001)<100>方位から15°以内の結晶方位をCube方位として、Goss方位面積率は(011)<100>方位から15°以内の結晶方位をGoss方位として計算する。
【0048】
[耐リジング性に優れたアルミニウム合金板の製造方法]
次に、前述のような結晶粒径の分布を有する本発明の耐リジング性に優れたアルミニウム合金板を製造するための方法について説明する。
【0049】
本発明の耐リジング性に優れたアルミニウム合金板を製造する方法は、基本的には特に限定されるものではなく、アルミニウム合金板の組織が前述の結晶粒径および結晶方位の規定を満足する、すなわち、耐リジング性を得るためには、板厚中層部の結晶粒径を粗大にしつつ、板厚中層部の結晶方位を制御すればよい。そのための方法としては種々考えられるが、次に述べるように、冷間圧延時の圧延方向を、熱延時の圧延方向と90°回転させた方向で行うクロス圧延を行い、その後異周速圧延を行い、溶体化処理前にストレッチを加えて焼鈍する工程を追加することが最適である。
【0050】
そこで次に本発明の耐リジング性に優れたアルミニウム合金板を得るための代表的かつ最適な製造方法について説明する。
【0051】
前述のような成分組成のアルミニウム合金を常法に従って溶製し、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の鋳造法を適宜選択して鋳造する。そして得られた鋳塊に対し、必要に応じて均質化処理を施した後、熱間圧延を行う。
【0052】
ここで、均質化処理を行う場合の処理条件は特に限定されないが、通常は、480℃以上、590℃以下の温度で0.5時間以上、24時間以下の加熱をすればよい。
【0053】
上述のように必要に応じて均質化処理を行った後には、従来の一般的な方法に従って熱間圧延を施せばよいが、熱間圧延開始までの過程においては、必要に応じて以下のいずれかの処理方法を適用することができる。すなわち、均質化処理後の冷却過程で常温もしくは常温近くまで冷却させた後、改めて熱間圧延の開始温度まで加熱して熱間圧延を開始してもよいし、あるいは均質化処理後の冷却過程で熱間圧延の開始温度まで冷却し、そのまま熱間圧延を開始しても良い。
【0054】
熱間圧延は、通常の条件に従えばよく、例えば熱間圧延開始温度を580℃未満、250℃以上とし、熱間圧延終了温度を150℃以上として熱間圧延が可能な温度に制御すればよい。
【0055】
熱間圧延に続いては、必要に応じて一次冷間圧延、一次中間焼鈍を施してから、二次冷間圧延を施す。この冷間圧延の圧延率は特に限定しないが、5〜85%程度が好ましい。ここで、中間焼鈍を施す場合の中間焼鈍条件は特に限定されるものではないが、対象とする合金種に応じて、バッチ式焼鈍の場合、材料到達温度を300℃以上、450℃以下とし、その材料到達温度での保持時間を0.5以上、5時間以下とすることが好ましく、連続式焼鈍の場合は350以上、580℃以下で5分以内とすることが好ましい。
【0056】
二次冷間圧延としては、前述したように、熱間圧延の圧延方向と90°異なる方向で圧延するクロス圧延のパス(以下、クロスパス)と、熱間圧延方向と同方向のパス(以下、ストレートパス)とを組み合わせた圧延を行うことが望ましい。具体的には、クロスパスから始めてクロスパスとストレートパスを交互に行い、最終パスをクロスパスとすることが望ましい。各パスはすべて同じ圧下率で行い、このときの圧下率は10%以上、30%以下とし、二次冷間圧延全体の圧下率を40%以上とすることで(3)〜(5)式のいずれかで規定する結晶方位の関係を満たす板を容易に得ることが可能となる。二次冷間圧延全体の圧下率が40%未満であると、クロス圧延の効果が小さくなり、式(3)〜(5)式のいずれかで規定する結晶方位の関係を満たすことが難しくなる。
【0057】
次に、上記二次冷間圧延を施した圧延板に対して、対となる上下圧延ロールの回転数が異なる異周速圧延を行う。この一次異周速圧延は、上下の圧延ロールの周速比を1.5以上2.0未満、圧延温度を室温以上150℃未満とし、1パスの圧下率を15%以下とする。このような条件内における所望の条件で異周速圧延を行うことにより、板厚表層部のみに強いせん断ひずみを加えることができ、後に続く中間焼鈍工程において板厚表層部の結晶粒径を微細化させることができる。
【0058】
次に、上記の冷間圧延を施した圧延板に対して、中間焼鈍を行う。中間焼鈍を施す場合の中間焼鈍条件は特に限定されるものではないが、対象とする合金種に応じて、バッチ式焼鈍の場合、材料到達温度を300℃以上、450℃以下とし、その材料到達温度での保持時間を0.5以上、5時間以下とすることが好ましく、連続式焼鈍の場合は350以上、580℃以下で5分以内とすることが好ましい。
【0059】
二次中間焼鈍後の圧延板に対して、ストレッチャーにより最終圧延方向にひずみを付与した後、溶体化処理を行うことにより、耐リジング性に特に優れた成形加工用アルミニウム合金板を得ることができる。ストレッチャーによるひずみ付与は、0.2%以上、3%以下とする。溶体化処理は、材料到達温度480℃以上590℃以下とし、保持時間は特に決まりはないが、生産性を考慮し5分以内とすることが好ましい。ストレッチャーによるひずみが0.2%未満であると、導入されるひずみエネルギーが小さく、溶体化処理中の結晶粒成長の駆動力が不十分となり板厚中層部の結晶粒径を45μm以上とすることができなくなる。また、ひずみが3%より大きいと、導入されるひずみエネルギーが大きすぎ、核発生の駆動力として使われる結果、結晶粒径が微細になり、また二次中間焼鈍時に形成した結晶方位が大きく変化し、(3)〜(5)式のいずれかを満たす結晶方位の関係を得ることが困難となる。また、溶体化処理後の冷却については、100℃/分以上の冷却速度で150℃以下の温度域まで冷却することで、十分な成形性、焼付硬化性を得ることができる。
【0060】
なお、さらに良好な焼付け硬化性を得るためには、溶体化処理後に、直ちに50〜150℃の温度範囲で1時間以上保持する予備時効処理を行うのが好ましい。但し、この予備時効処理は、結晶粒径に対しては本質的な影響は与えるものではなく、したがってこの発明において、予備時効処理を行うか否かは本質的な要件ではない。
【実施例】
【0061】
以下にこの発明の実施例を比較例とともに記す。なお以下の実施例は、この発明の効果を説明するためのものであり、実施例記載のプロセスおよび条件がこの発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0062】
表1の合金符号A〜Oに示す各成分組成のアルミニウム合金を常法に従って溶解し、DC鋳造法によりスラブに鋳造した。なお、本発明の本質であるリジングマークや肌荒れと言った表面性状の問題の防止に対しては、(1)〜(5)式で規定したような結晶粒径および結晶方位が重要なのであり、本実施例においては製造工程の工夫により結晶粒径と結晶方位を制御している。そのため、合金成分自体が表面性状に大きな影響を与えることはない。合金成分の与える影響は、機械的性質や成形性あるいは工業的な生産性においてである。
【表1】
“−”は無添加を表す
【0063】
得られた各スラブに対して530℃、8時間の条件で均質化処理を施した後、室温付近まで放冷した。次いで、熱間圧延開始温度を500℃として2時間保持する予備加熱を行った後、熱間圧延終了温度を250℃となるように熱間圧延を実施した。
【0064】
次に、板厚を9.0mm〜2.8mmとした熱延板に対して、冷間圧延を一回の圧延での圧下率が25%となるように3パス施し、板厚1.2mmの板とした。この冷間圧延は表2の「圧延方向」に示す方向に行った。表中の「→」は熱間圧延方向と同じ方向に圧延したことを示し、「↑」は熱間圧延方向と90°回転した方向に圧延したことを示す。例えば「↑→↑」は1パス目が熱間圧延方向と90°回転した方向、2パス目が熱間圧延方向、3パス目が熱間圧延方向と90°回転した方向であることを示す。
【表2】
異周速圧延の“−”は、異周速圧延処理を行わなかったことを表す
【0065】
次に、冷間圧延を施した板に対し、ロール周速比1.5、圧延開始温度120℃、圧下率15%の異周速圧延を施し、板厚1mmの板とした。その後、ソルトバスを用いて材料到達温度560℃、保持時間1分で中間焼鈍を行った。その後ストレッチャーを用いて最終圧延方向に表2に記載のひずみを加えた。溶体化処理では、昇温速度40℃/秒のソルトバスを用いて材料到達温度550℃にて5時間保持する処理を行い、室温付近までファンにて強制空冷後、直ちに80℃、5時間の予備時効処理を施した。
【0066】
以上のようにして得られた板厚1mmの各板材について、前述した方法で結晶粒径および結晶方位を測定した。dを例にすると、図1におけるS1の層の1/3面と2/3面の結晶粒径をそれぞれ測定し、その平均値をdとした。d、d、dに関しても同様に、それぞれS2、S3、S4の層において、その層板厚の1/3面と2/3面の2面の結晶粒径を測定し、その平均値をd、d、dとした。また、dを測定した際のEBSD測定データを用いてCube方位面積率CとGoss方位面積率Gをそれぞれ求めた。表3にこれらの測定結果を示す。また、(1)および(2)式の条件を満たしているものを○、満たしていないものを×、(3)〜(5)式のいずれかの条件を満たしているものを○、いずれの条件も満たしていないものを×として併せて記載した。
【表3】
【0067】
さらに、前述のようにして得られた各板材について、従来から行われている簡便な評価手法を用いて耐リジング性の評価を行った。具体的には、圧延方向に対し90°をなす方向に沿ってJIS5号試験片を採取し、5%および15%ストレッチを行い、表面に圧延方向に沿って生じた筋模様(筋状凹凸模様)をリジングマークとして、その発生の有無を目視で判定した。5%ストレッチは通常のプレス成形を想定したひずみ量であり、15%ストレッチは特に成形の厳しい成形を想定したひずみ量である。○印は筋模様なし、×印は筋模様が強い状態を示す。また、同様にして肌荒れの有無を判定した。○印は肌荒れ発生なし、×印は表面性状として問題となる程度の肌荒れが発生したことを示す。
【0068】
さらにまた、前述のようにして得られた各板材について、溶体化処理を行った日から7日後において、圧延方向と平行な方向にJIS5号試験片を切り出し、引張試験により0.2%耐力(ASYS)と伸び(ASEL)を評価した。また、それぞれ2%ストレッチ後、オイルバスを用いて170℃×20分の塗装焼付け処理を施した0.2%耐力値(BHYS)も測定した。ここで、成形性や強度の判断基準として、自動車ボディシート材として要求される基準を元に、ASYSが90MPa以上、ASELが25%以上、BHYSが160MPa以上を合格として○とし、それ以外は不合格として×とした。
【0069】
評価結果を表4に示す。
【表4】
【0070】
表3および表4の製造プロセス番号1〜5、9〜15、17〜20の例は、いずれも合金の成分組成がこの発明で規定する範囲内であって、かつ、溶体化後の結晶粒径が(1)および(2)式の規定をみたすものである。これらは通常のプレス成形のひずみに相当する5%ストレッチではリジングが発生せず、いずれも問題にならないレベルとなっていることが確認され、また、機械的性質やベークハード性も自動車材として要求される性能を十分に満たすものとなった。さらに、これらのうち、プロセス番号1〜3、5、9〜13、15、17、19〜20は(3)〜(5)式のいずれかの規定を満たすため、より厳しい成形を想定した15%ストレッチにおいてもリジングが発生しなかった。一方プロセス番号4、14、18は冷間圧延を一方向圧延としたため、板厚中層部の結晶方位が規定を満たさず、15%ストレッチにおいてリジングが確認された。
【0071】
表3および表4中の製造プロセス番号6は板厚中層部の結晶粒径が(1)式の規定を満たし、結晶方位が(3)〜(5)式のいずれかの規定を満たすが、異周速圧延を行わなかったため、板厚表層部の結晶粒径が粗大化し、(2)式の規定を満たしていなかったため、肌荒れが発生した。製造プロセス番号7、8、16はストレッチャーにより与えたひずみ量が過小または過剰であったため、板厚中層部の結晶粒径が十分に粗大化せず、(1)式の規定を満たしていなかったため、リジングが改善しなかった。
【0072】
表3および表4中の製造プロセス番号21〜29の例は、いずれも合金の成分組成がこの発明で規定する範囲を外れた組成となっている。製造条件は最適化されており、結晶粒径は(1)および(2)式を満たし、結晶方位は(3)〜(5)式のいずれかの式を満たすため、リジングマークは発生していないが、いずれも機械的性質、特に伸びが25%未満と低く、自動車材として要求される性能を満足しなかった。
【0073】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0074】
例えば、上記実施形態では、アルミニウム合金板を厚さ方向に8等分した際にその全板厚の中央部に該当する板厚3/8面から板厚4/8面の部分の層を板厚中層部とし、板厚中層部以外の領域である表面から板厚3/8面を板厚表層部としたが、厚さ方向の分割数は8には限られず、6以上の任意の数とすることができる。例えば、6等分した場合は全板厚の中央部に該当する板厚2/6面から板厚3/6面に該当する部分の層を板厚中層部、板厚中層部以外の領域である表面から板厚2/6面を板厚表層部とすることができる。また、7分割した場合は全板厚の中央部に該当する板厚3/7面から板厚4/7面に該当する部分の層を板厚中層部、板厚中層部以外の領域である表面から板厚3/7面を板厚表層部とすることができる。さらに、10等分した場合は全板厚の中央部に該当する板厚4/10面から板厚5/10面に該当する部分の層を板厚中層部、板厚中層部以外の領域である表面から板厚4/10面を板厚表層部とすることができる。
図1