【課題】ピニオンシャフトに、ピニオンギヤのシャフト挿通孔の内側開口縁を略塞ぐ筒状突部を備えた構造の差動装置において、ピニオンギヤとピニオンシャフトとの摺接部に十分な量の潤滑油を供給する。
【解決手段】デフケース30と、デフケース30の回転軸O1と同軸に配置されるサイドギヤ42と、サイドギヤ42と直交噛合するピニオンギヤ41と、ピニオンギヤ41のシャフト挿通孔38を挿通してデフケース30に嵌合するピニオンシャフト43と、を備える差動装置において、ピニオンシャフト43は、回転軸O1方向に貫通する貫通孔24を有するとともに、ピニオンシャフト43の周面から突出してシャフト挿通孔38の内側開口縁38Aを略塞ぐ筒状突部45を備え、筒状突部45に、一端が貫通孔24の孔内面に臨み他端がシャフト挿通孔38の内側開口縁38Aに臨む潤滑油供給孔3を形成する。
【背景技術】
【0002】
自動車の終減速装置は、一般に、原動機で発生し変速機で減速されて推進軸を介して伝達された動力を再度減速し、左右の後輪に分配する装置である。終減速装置は、推進軸と一体に回転するドライブピニオンギヤと、ドライブピニオンギヤと直角に噛合するリングギヤと、リングギヤと一体に回転する差動装置と、これらの装置を収容するハウジング等から構成されている。
【0003】
差動装置は、リングギヤと一体に回転するデフケースと、デフケースの内部に配置され駆動軸(ドライブシャフト)と一体に回転するサイドギヤと、サイドギヤと噛合するとともにデフケースの内部に配置されるピニオンギヤと、ピニオンギヤのシャフト挿通孔に挿通してデフケースに嵌合するピニオンシャフト等から構成されている。
【0004】
左右の後輪に回転差が生じると、ピニオンギヤがピニオンシャフトに対して回転することで前記回転差に対応する。したがって、ピニオンギヤのシャフト挿通孔の孔内面とピニオンシャフトの外周面との間で形成される摺接部には僅かな隙間が形成されている。一般に、当該摺接部の焼き付きを防止するため、デフケース内の潤滑油が遠心力で外方に向けて流れることを利用して、デフケースの内側中心に臨むピニオンギヤの孔の開口部から潤滑油が流入して前記摺接部に供給されるようになっている。
【0005】
摺接部の潤滑性を向上させるものとして、特許文献1には、ピニオンシャフトに螺旋溝を設け、この螺旋溝を通じて摺接部に潤滑油を供給する技術が記載されている。
一方、特許文献2には、ピニオンシャフトの軸方向略中央部位に、ピニオンシャフトの周面から突出する比較的大きなジョイント部材を設けた構造が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の構造によれば、ジョイント部材がピニオンシャフトの周面から突出するように形成されていることにより、ジョイント部材がシャフト挿通孔の内側開口縁を略塞ぐように位置する。そのため、ピニオンシャフトの表面を伝って前記摺接部に供給される筈の潤滑油がジョイント部材によって遮られてしまい、前記摺接部への所定の潤滑油の供給量を確保できないおそれがある。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するために創作されたものであり、ピニオンシャフトに、ピニオンギヤのシャフト挿通孔の内側開口縁を略塞ぐ筒状突部を備えた構造において、ピニオンギヤとピニオンシャフトとの摺接部に十分な量の潤滑油を供給できる差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、デフケースと、前記デフケースの回転軸と同軸に配置されるサイドギヤと、前記サイドギヤと直交噛合するピニオンギヤと、前記ピニオンギヤのシャフト挿通孔を挿通して前記デフケースに嵌合するピニオンシャフトと、を備える差動装置において、前記ピニオンシャフトは、前記回転軸方向に沿う貫通孔が形成されるとともに、ピニオンシャフトの周面よりもピニオンシャフトの径外方向に突出して前記シャフト挿通孔の内側開口縁を略塞ぐ筒状突部を備え、前記筒状突部に、一端が前記貫通孔の内面に臨み他端が前記シャフト挿通孔の内側開口縁に臨む潤滑油供給孔が形成されていることを特徴とする。
【0010】
この差動装置によれば、デフケースが回転すると、デフケース内の潤滑油の一部は筒状突部の貫通孔の内部に入り込む。貫通孔の内面に付着した潤滑油は、デフケースの回転に伴う遠心力により潤滑油供給孔を通って、シャフト挿通孔の内側開口縁に流れ、ピニオンシャフトの外周面とシャフト挿通孔の孔内面との摺接部に供給される。これにより、十分な量の潤滑油を摺接部に効率的に供給でき、潤滑油不足による摺接部の焼き付きを防止できる。
【0011】
また、本発明は、前記貫通孔の孔内面に、前記潤滑油供給孔と連通する凹状の潤滑油溜まり部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
この差動装置によれば、貫通孔の孔内面に付着した潤滑油は、孔内面に対して凹状に形成された潤滑油溜まり部に溜まる。したがって、溜まった潤滑油がデフケースの回転に伴う遠心力により潤滑油供給孔に効率的に流れ込む。これにより、十分な量の潤滑油を摺接部に効率的に供給できる。
【0013】
また、本発明は、前記潤滑油溜まり部は、前記回転軸を中心として円弧状に形成される円弧溝から構成されていてもよい。
また、前記潤滑油溜まり部は、前記ピニオンシャフトの軸を中心として環状に形成される環状凹部から構成されていてもよい。
【0014】
また、本発明は、前記ピニオンシャフトは、それぞれ前記ピニオンギヤのシャフト挿通孔を挿通して前記デフケースに嵌合する第1シャフトおよび第2シャフトと、当該第1シャフトおよび第2シャフトの各一端を連結するためのシャフト連結孔が形成された前記筒状突部と、に分割構成され、前記潤滑油供給孔は、前記シャフト連結孔の孔内面に形成された溝から構成されていることを特徴とする。
【0015】
この差動装置によれば、分割構成されたピニオンシャフトにおいて、シャフト連結孔を利用して当該シャフト連結孔の孔内面に溝を形成するだけで容易に潤滑油供給孔を形成することができる。
【0016】
また、本発明は、前記第1シャフトおよび第2シャフトに、前記シャフト連結孔と連通するようにシャフト潤滑油溝が形成されていることを特徴とする。
【0017】
この差動装置によれば、潤滑油供給孔とシャフト潤滑油溝との両方の通路を介して、潤滑油を効率的に供給できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ピニオンシャフトにおいて、ピニオンギヤのシャフト挿通孔の内側開口縁を略塞ぐように筒状突部が形成されている場合であっても、十分な量の潤滑油をピニオンシャフトの外周面とシャフト挿通孔の孔内面との摺接部に供給できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
「第1実施形態」
図1において、四輪車の前側に配置された図示しない原動機の動力は、変速機(図示せず)、推進軸(図示せず)、粘性継手100を介して、ドライブピニオンシャフト10に入力される。終減速装置1は、ドライブピニオンシャフト10の後端に形成されるドライブピニオンギヤ12と、ドライブピニオンギヤ12と直交噛合するリングギヤ20と、リングギヤ20と一体に回転する差動装置2と、これらの装置を収容するハウジング等から構成されている。終減速装置1は、ドライブピニオンシャフト10に入力された動力を90°偏向させ、左右の後輪に伝達する。
【0021】
粘性継手100は、前輪と連動して回転するアウタープレート130の回転数と、後輪と連動して回転するインナープレート140の回転数とに差が生じた場合、内部に封入されているシリコーンオイルの剪断力を利用して、アウタープレート130(推進軸)とインナープレート140(ドライブピニオンシャフト10)との間で動力を伝達させるものである。なお、粘性継手100の具体的構造については、本発明の趣旨から外れるのでその説明は省略する。
【0022】
「差動装置2」
差動装置2は、デフケース30と、デフケース30の回転軸O1と同軸に配置される2つのサイドギヤ42と、各サイドギヤ42と直交噛合する2つのピニオンギヤ41と、ピニオンギヤ41のシャフト挿通孔38を挿通してデフケース30に嵌合するピニオンシャフト43と、を備えている。
【0023】
デフケース30は、2つのテーパーローラベアリング80を介してケース50に回転自在に支持されている。ケース50は、後記するように、第1ケース60と第2ケース70とを組み合わせて構成されている。
【0024】
図2において、デフケース30は、左右方向に延びる回転軸O1を中心として回転するものであり、球殻状のデフケース本体31と、デフケース本体31の両端にそれぞれ形成された円筒状のボス部32、32と、リング状のフランジ部33と、を備えている。ボス部32の端部には開口部36が形成されている。リングギヤ20は、ボルト34によってフランジ部33に締結されている。これにより、リングギヤ20とフランジ部33(デフケース30)とは一体で回転する。ただし、リングギヤ20とデフケース30とが一体鋳造品であったり、リングギヤ20とデフケース30を摩擦圧接やレーザー溶接で接合する構成でもよい。
【0025】
デフケース本体31は、その内部にピニオンギヤ41及びサイドギヤ42を収容するギヤ収容室を有している。デフケース本体31には、ピニオンシャフト43が回転軸O1と直交する軸O2方向に延びて取り付けられている。ピニオンギヤ41には軸O2方向に貫通するシャフト挿通孔38が形成されており、ピニオンギヤ41は、このシャフト挿通孔38を挿通するピニオンシャフト43を回転中心として回転自在に取り付けられている。各サイドギヤ42は、ピニオンシャフト43の左側又は右側のそれぞれにおいて、回転軸O1を中心として回転自在に配置されると共に、2つのピニオンギヤ41、41と噛合している。各サイドギヤ42の背面(軸方向外面)とデフケース本体31との間にはスラストワッシャ44が介装されている。
【0026】
各サイドギヤ42の背面には、左側又は右側の後輪と連動して回転するドライブシャフト(図示せず)が差し込まれ、サイドギヤ42とドライブシャフトとがスプライン結合する。これにより、サイドギヤ42とドライブシャフトとは一体で回転する。各ボス部32の中空部には、左側又は右側のドライブシャフトが挿通される。各ボス部32の内周面には、螺旋状のオイル案内溝35(
図1)が形成されている。オイル案内溝35は、テーパーローラベアリング80の外側に介在するオイルを、デフケース30の中心(車幅方向中央)に案内する溝である。
【0027】
「ピニオンシャフト43」
図2および
図4〜
図6において、ピニオンシャフト43は、回転軸O1方向に貫通する貫通孔24が形成されるとともに、ピニオンシャフト43の周面よりもピニオンシャフト43の径外方向に突出してシャフト挿通孔38の内側開口縁38Aを略塞ぐ筒状突部45を備えている。内側開口縁38Aは、シャフト挿通孔38の孔端に向かうにしたがい拡径するようにテーパ状に形成されている。また、本実施形態では、ピニオンシャフト43は、デフケース30に形成された嵌入孔37,37に嵌合して固定される第1シャフト21および第2シャフト22と、第1シャフト21および第2シャフト22の各一端を連結するためのシャフト連結孔26が形成された前記筒状突部45としての連結部材23とに分割して構成されている。
筒状突部45は、後記するように、その貫通孔24によって、差動装置2の組み付け時においてシム90の拡開を抑えるための治具200(
図2)を通す目的で形成されるものである。
【0028】
第1シャフト21と第2シャフト22とは互いに同じ形状を呈している。第1シャフト21は円柱形状の部材であり、その他端側が嵌入孔37に嵌合されることによりデフケース30に固定される。第1シャフト21の一端側には、外周面の一部が切り欠かれることにより、第1シャフト21の軸心に沿う平面部25が形成されている。平面部25はたとえば回転軸O1方向に対向するように一対形成されている。
【0029】
連結部材23は円筒形状の部材であり、デフケース30の内部に組み込まれたとき、その軸心は回転軸O1と一致する。連結部材23の周壁には、第1シャフト21,第2シャフト22の各一端を挿入させるためのシャフト連結孔26,26が連結部材23の径方向に貫通形成されている。シャフト連結孔26,26は互いに、連結部材23の軸心(回転軸O1)を挟んで180度反対の位置に形成されている。各シャフト連結孔26には第1シャフト21,第2シャフト22の平面部25に対応する平面部27が形成されている。平面部25と平面部27とが合わさることにより、第1シャフト21と第2シャフト22とは、連結部材23に対し軸O2回りに相対回転不能となる。
【0030】
連結部材23は、
図2から判るように2つのピニオンギヤ41と2つのサイドギヤ42とに囲まれるように配置されるため、これらピニオンギヤ41,サイドギヤ42と干渉しない程度の大きさを呈している。すなわち、連結部材23の外径寸法はピニオンギヤ41,41の間隔寸法よりも小さく、連結部材23の高さ寸法はサイドギヤ42,42の間隔寸法よりも小さい。また、連結部材23の外径寸法は第1シャフト21(第2シャフト22)の径寸法よりも大きい。強度の確保の点からすると、連結部材23は、ピニオンギヤ41,サイドギヤ42と干渉しない範囲でできるだけ大きな形状とすることが望ましい。
【0031】
「ケース50、テーパーローラベアリング80、シム90」
図1および
図2において、テーパーローラベアリング80は、ボス部32に外嵌した内輪81と、ケース50に内嵌した外輪82と、内輪81と外輪82とに挟まれた状態で転動する円柱状の複数のローラ83と、を備えている。そして、内輪81の外周面と、外輪82の内周面とは、円錐台状のテーパ面となっている。また、内輪81の内周面は、ボス部32の外周面に当接しており、内輪81の内側端面は、デフケース本体31に当接している。なお、内側とは、車幅方向の中央側を意味する。
【0032】
図1に示すように、ケース50は、テーパーローラベアリング80に外嵌し、周方向に延びる外嵌部51を有している。外嵌部51の端部には開口部54が形成されている。外嵌部51は、図示しないオイルシールを外嵌する孔であり、略L字形を呈しており、平断面視において、軸方向(左右方向)に延びる軸方向部52と、軸方向部52の外側部分から径方向内向きに延びる径方向部53と、を備えている。軸方向部52は、外輪82に外嵌している。径方向部53は、外輪82の軸方向外側に配置されている。径方向部53と外輪82との間にはシム90が介装されており、軸方向において、シム90は径方向部53と外輪82とで挟まれている。シム90の厚さは、デフケース30及びケース50の加工精度と、テーパーローラベアリング80に与えるべき予圧の大きさとに基づいて設定される。
【0033】
シム90の幅(径方向長さ)は、径方向において、シム90が径方向部53から内側に突出する長さに設定されている。つまり、
図2において、シム90の内縁部91は、軸方向(左右方向)において、外部に臨んでいる。このように、シム90の内縁部91が、径方向部53から突出し外部に臨んだ構成であるので、内縁部91を後記する治具200で押え付けながら、治具200と径方向部53とを干渉させずに第1ケース60と第2ケース70とを組み合わせることが可能である。そして、第1ケース60と第2ケース70とが組み合わさると同時に、径方向部53が外輪82とでシム90を挟むようになっている。
【0034】
図1において、ケース50は、回転軸O1と平行な面に沿って分割されている。本実施形態では、回転軸O1を通る鉛直面である分割面で分割されており、前側の第1ケース60と、後側の第2ケース70とを組み合わせて構成されている。したがって、外嵌部51は、第1ケース60の一部であって半円状の第1外嵌部61と、第2ケース70の一部であって半円状の第2外嵌部71とに分割されることとなる。第1ケース60と第2ケース70とは組み合わされた後、図示しないボルトにより互いに締結固定される。
【0035】
「治具200」
差動装置2を組み付ける際に用いる治具200の一例について、
図2を参照して説明する。治具200は、第1治具201と第2治具202とを備えて構成されている。
【0036】
第1治具201は、円柱台状の操作部210と、操作部210の一端面から中心軸線上で突出し、デフケース30の開口部36を挿通する円柱状の挿通部220と、挿通部220の先端に形成される雄ねじ部230と、操作部210の一端面の外縁部から突出し、2つのシム90の内の任意の一方のシム90Aの内縁部91に当接する環状のシム押さえ部240と、を備えている。
【0037】
操作部210の他端面には、治具201を回転させる工具を差し込むための六角穴211が形成されている。挿通部220の径寸法は連結部材23の貫通孔24の孔径寸法よりも小さい寸法である。雄ねじ部230は回転軸O上に位置するように形成されている。シム押さえ部240は、シム90の内縁部91を軸方向内側の外輪82に向かって押え付ける部分である。押さえ部240の外径は、ケース50と干渉しないように、外嵌部51の径方向部53の内径以下に設定されている。以上の第1治具201は一体成型品であり、操作部210、挿通部220、雄ねじ部230及びシム押さえ部240は一体に成型されている。
【0038】
第2治具202は、そのシム押さえ部240が他方のシム90Bの内縁部91に当接する。第2治具202は、挿通部220の先端に雄ねじ部230に代わって雌ねじ部231が形成されている点を除いて第1治具201と同一の構成である。雌ねじ部231は雄ねじ部230と螺合するねじ孔である。第2治具202も一体成型品であり、操作部210、挿通部220、雌ねじ部231及びシム押さえ部240は一体に成型されている。
【0039】
「差動装置2の組み付け方法」
図2において、先ず、デフケース30の内部にピニオンギヤ41,サイドギヤ42,ピニオンシャフト43を組み込んで差動装置2を組み立てる。たとえば、デフケース30が一体に成形されたものである場合、ピニオンギヤ41,サイドギヤ42は、デフケース30に形成された図示しない窓部からデフケース30の内部に組み入れられる。分割構成されたピニオンシャフト43については、たとえば連結部材23のみが前記窓部からデフケース30の内部に組み入れられ、第1シャフト21と第2シャフト22とは嵌入孔37を通してデフケース30の内部に組み入れられる。そして、第1シャフト21,第2シャフト22の各一端が連結部材23のシャフト連結孔26に差し込まれ、一体のピニオンシャフト43としてデフケース30に取り付けられる。連結部材23の貫通孔24は回転軸O1に沿う向きとなって固定される。
【0040】
なお、仮にデフケース30が、嵌入孔37を境として軸O2方向に沿って分割された構造である場合には、予め連結部材23で第1シャフト21と第2シャフト22とを連結した状態としてデフケース30の内部に組み込むことが可能となる。この場合、ピニオンシャフト43として必ずしも第1シャフト21と第2シャフト22と連結部材23とに分割構成する必要はなく、これらを一体成型したものであってもよい(
図14参照)。
【0041】
次いで、デフケース30のボス部32にテーパーローラベアリング80、シム90を取り付けたうえで、第1治具201、第2治具202の各挿通部220をデフケース30の開口部36に挿通させる。各挿通部220はピニオンシャフト43の貫通孔24も挿通する。そして、六角穴211に差し入れた図示しない工具を用いて第1治具201または第2治具202を回転させることで、雄ねじ230と雌ねじ部231とを螺合させる。このねじの締め付け作用により、
図3に示すように第1治具201のシム押さえ部240がシム90Aの内縁部91をテーパーローラベアリング80の外輪82に押さえ付けるとともに、第2治具202のシム押さえ部240がシム90Bの内縁部91をテーパーローラベアリング80の外輪82に押さえ付ける。これにより、シム90A,90Bの回転軸O方向外側への拡がりが抑えられる。
【0042】
次いで、第1治具201および第2治具202によってシム90が押さえ付けられた状態の差動装置2の前半分を、
図1に示す第1ケース60に取り付ける。すなわち、テーパーローラベアリング80及びシム90の前半分を、第1ケース60の半円弧状の第1外嵌部61に嵌め入れる。このとき、シム90は第1治具201、第2治具202で押さえ付けられているので、第1外嵌部61への嵌め入れ後、シム90の後半分が回転軸O方向の外側に拡がることはない。
【0043】
次いで、第1ケース60に対し第2ケース70を組み付ける。すなわち、テーパーローラベアリング80及びシム90の後半分を、第2ケース70の半円弧状の第2外嵌部71に嵌め入れる。このとき、シム90は第1治具201、第2治具202によって押さえ付けられた状態にあるので、シム90の後半分と第2ケース70とがぶつかり合うことなく、シム90を第2外嵌部71にスムーズに嵌め入れることができる。第1治具201および第2治具202の操作部210は外嵌部51の開口部54内に収まるため、第1治具201、第2治具202とケース50とが干渉することはない。その後、第1ケース60と第2ケース70とをボルト(図示せず)で締結してケース50の組立を完了する。その後、第1治具201および第2治具202を取り外す。
なお、先にデフ装置の後半分を第2ケース70に組み込んでから、第2ケース70に対して第1ケース60を組み合わせるようにしてもよい。
【0044】
以上のように、ピニオンシャフト43の筒状突部45(連結部材23)は、その貫通孔24によって、シム90の拡開を抑えるための治具200を通す目的で形成されている。そして、貫通孔24が形成されているため、前記したように強度の確保の点から、筒状突部45はピニオンギヤ41,サイドギヤ42と干渉しない範囲でできるだけ大きな外郭形状とすることが望まれる。しかし一方で、筒状突部45を大きな外郭形状にすると、筒状突部45がシャフト挿通孔38の内側開口縁38Aを、僅かな隙間を空けて略塞いでしまうという問題がある。
【0045】
デフケース30内には潤滑油が充填されており、もし、ピニオンシャフトが一般的な突出部のない一直線状の部材であれば、ピニオンシャフトの表面に付着した潤滑油がデフケース30の回転に伴う遠心力によりピニオンシャフトの表面をスムーズに伝って、シャフト挿通孔38の内側開口縁38Aまで達する。これにより、ピニオンシャフトの外周面とピニオンギヤ41のシャフト挿通孔38の孔内面との摺接部28に十分な量の潤滑油が供給される。しかしながら、筒状突部45がシャフト挿通孔38の内側開口縁38Aを略塞いでしまう構造の場合、潤滑油が内側開口縁38Aに達しにくくなり、ピニオンシャフトの外周面とピニオンギヤ41のシャフト挿通孔38の孔内面との摺接部28に十分な量の潤滑油を供給できずに焼き付けを起こすおそれがある。
【0046】
この問題に対し、本発明の差動装置2は、
図4ないし
図6において、筒状突部45に、一端が貫通孔24の孔内面24Aに臨み他端がシャフト挿通孔38の内側開口縁38Aに臨む潤滑油供給孔3が形成されている。潤滑油供給孔3は軸O2に沿って直線状に形成されている。また、本実施形態の潤滑油供給孔3は、シャフト連結孔26の孔内面に形成された溝から構成されている。具体的には、潤滑油供給孔3は、連結部材23の軸方向(回転軸O1方向)の略中央部の位置で、かつシャフト連結孔26を挟んで180度反対の位置に一対として形成されている。潤滑油供給孔3の溝断面形状は半円形のほかに、矩形状等であってもよい。また、潤滑油供給孔3の個数は特に限定されない。
【0047】
第1シャフト21および第2シャフト22の各外周面には、シャフト連結孔26と連通するようにシャフト潤滑油溝4が形成されている。本実施形態では、シャフト潤滑油溝4は潤滑油供給孔3と重なるように形成されている。この場合の「重なるように」とは、潤滑油供給孔3とシャフト潤滑油溝4とが、軸O2を中心とする両者の位相が一致して、かつ軸02方向において重なり代を有する状態をいう。これにより、潤滑油は潤滑油供給孔3とシャフト潤滑油溝4との両通路を通ってシャフト挿通孔38の内側開口縁38Aまで流れるようになっている。なお、シャフト潤滑油溝4を潤滑油供給孔3と重ねることなく形成してもよく、この場合には、シャフト潤滑油溝4は,一端が貫通孔24の孔内面24Aに臨み他端がシャフト挿通孔38の内側開口縁38Aに臨むように形成される。
【0048】
「作用」
デフケース30が回転軸O1周りに回転すると、デフケース30内の潤滑油の一部は連結部材23の貫通孔24の内部に入り込む。貫通孔24の孔内面24Aに付着した潤滑油はデフケース30の回転に伴う遠心力により潤滑油供給孔3を通って、またシャフト潤滑油溝4も通って第1シャフト21、第2シャフト22の外周面に流れ、摺接部28に供給される。これにより、十分な量の潤滑油を摺接部28に効率的に供給でき、潤滑油不足による摺接部28の焼き付きを防止できる。
【0049】
「第2実施形態」
図7ないし
図9を参照して第2実施形態を説明する。この第2実施形態と後記する第3実施形態は、連結部材23の貫通孔24の孔内面に、潤滑油供給孔3と連通する凹状の潤滑油溜まり部5を形成した形態である。第2実施形態の潤滑油溜まり部5は、回転軸O1を中心として円弧状に形成される円弧溝6から構成されている。円弧溝6は、連結部材23の軸方向(回転軸O1方向)の略中央部の位置に形成されている。円弧溝6の溝断面形状は矩形状であってもよいし、半円形等であってもよい。
【0050】
本実施形態によれば、貫通孔24の孔内面24Aに付着した潤滑油は、孔内面24Aに対して凹状に形成された潤滑油溜まり部5(円弧溝6)に溜まる。したがって、溜まった潤滑油がデフケース30の回転に伴う遠心力により潤滑油供給孔3に効率的に流れ込み、第1シャフト21、第2シャフト22の外周面に流れて摺接部28に供給される。これにより、十分な量の潤滑油を摺接部28に効率的に供給でき、潤滑油不足による摺接部28の焼き付きを防止できる。
【0051】
「第3実施形態」
図10ないし
図12を参照して第3実施形態を説明する。第3実施形態は、潤滑油溜まり部5が、ピニオンシャフト43の軸O2を中心として環状に形成される環状凹部7から構成される形態である。つまり、環状凹部7は、シャフト連結孔26に対していわゆるザグリ孔のように、貫通孔24の孔内面24Aに凹状に形成される。
【0052】
本実施形態によれば、貫通孔24の孔内面24Aに付着した潤滑油は、孔内面24Aに対して凹状に形成された潤滑油溜まり部5(環状凹部7)に溜まる。したがって、溜まった潤滑油がデフケース30の回転に伴う遠心力により潤滑油供給孔3に効率的に流れ込み、第1シャフト21、第2シャフト22の外周面に流れて摺接部28に供給される。これにより、十分な量の潤滑油を摺接部28に効率的に供給でき、潤滑油不足による摺接部28の焼き付きを防止できる。
【0053】
なお、環状凹部7の環状面は、回転軸O2と直交する面として形成されていてもよいし、
図13に示すように回転軸02に対して傾斜した面として形成されていてもよい。
【0054】
「第4実施形態」
既述したようにデフケース30が分割された構造である場合、ピニオンシャフト43としては、
図14に示すように筒状突部45を第1シャフト21と第2シャフト22とに対して一体成型により形成することができる。このような構造においても、筒状突部45に、一端が貫通孔24の孔内面24Aに臨み他端がシャフト挿通孔38の内側開口縁38Aに臨むように潤滑油供給孔3を形成することができる。
【0055】
「第5実施形態」
図15および
図16を参照して第5実施形態を説明する。この第5実施形態は、連結部材23に雌ねじ孔46を形成した形態である。
【0056】
この第5実施形態において用いる治具200については、第1治具201と第2治具202とは、たとえば互いに同じ形状の部材であり、それぞれ、円柱台状の操作部210と、操作部210の一端面から中心軸線上で突出し、デフケース30の開口部36を挿通する円柱状の挿通部220と、挿通部220の先端に形成される雄ねじ部230と、操作部210の一端面の外縁部から突出し、シム90の内縁部91に当接する環状のシム押さえ部240と、を備えている。
【0057】
以上により、第1治具201、第2治具202の各挿通部220をデフケース30の開口部36に挿通させ、六角穴211に差し入れた図示しない工具を用いて第1治具201または第2治具202を回転させることで、第1治具201および第2治具202の各雄ねじ部230をピニオンシャフト43の雌ねじ孔46に螺合させる。このねじの締め付け作用により、第1治具201のシム押さえ部240がシム90Aの内縁部91をテーパーローラベアリング80の外輪82に押さえ付けるとともに、第2治具202のシム押さえ部240がシム90Bの内縁部91をテーパーローラベアリング80の外輪82に押さえ付ける。これにより、シム90A,90Bの回転軸O方向外側への拡がりが抑えられる。以降は同様にして第1ケース60と第2ケース70とを組み立てる。
【0058】
このように、雌ねじ孔46に対しても、筒状突部45において、一端が雌ねじ孔46の内面に臨み他端がシャフト挿通孔38の内側開口縁38Aに臨む潤滑油供給孔3を形成することができる。これにより、デフケース30が回転軸O1周りに回転すると、デフケース30内の潤滑油の一部は連結部材23の雌ねじ孔46の内部に入り込む。雌ねじ孔46の内面に付着した潤滑油はデフケース30の回転に伴う遠心力により潤滑油供給孔3を通って、第1シャフト21、第2シャフト22の外周面に流れ、摺接部28に供給される。これにより、十分な量の潤滑油を摺接部28に効率的に供給でき、潤滑油不足による摺接部28の焼き付きを防止できる。