(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-224724(P2015-224724A)
(43)【公開日】2015年12月14日
(54)【発明の名称】等速ジョイント
(51)【国際特許分類】
F16D 3/20 20060101AFI20151117BHJP
F16D 3/2237 20110101ALI20151117BHJP
【FI】
F16D3/20 C
F16D3/2237
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-110161(P2014-110161)
(22)【出願日】2014年5月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅教
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 茂徳
(72)【発明者】
【氏名】小井 良治
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 和彦
(72)【発明者】
【氏名】滝上 広行
(57)【要約】
【課題】グリース量を低減することが可能な等速ジョイントを提供する。
【解決手段】等速ジョイント1では、外側継手部材11の内部空間であって、前記外側継手部材11と対向する内側継手部材12、前記外側継手部材11と前記内側継手部材12との間に介在するボール13、前記ボール13を保持する保持器16および前記内側継手部材12に挿入される軸部材14の間で形成される空間に充填部材18が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側継手部材の内部空間であって、前記外側継手部材と対向する内側継手部材、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間に介在するボール、前記ボールを保持するケージおよび前記内側継手部材に挿入されるシャフトの間で形成される空間に充填部材が設けられている、等速ジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、等速ジョイントに関して、より特定的には、グリースで潤滑される等速ジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、等速ジョイントは、たとえば特開2009−210116号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−210116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、シャフト先端部を延長し、外側継手部材内部底面に当接させることによりジョイント作動角を規制している。
【0005】
しかしながら、ジョイント作動角の大きいフロント用ドライブシャフトの等速ジョイントでは、シャフト先端を十分に延長できないため、外側継手部材内部のグリースを循環させられないうえ、ボール溝などの摺動部へグリースを送ることができない。さらに、グリース封入量の低減もわずかとなる。
【0006】
そこで、この発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、グリース量を低減することが可能な等速ジョイントを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従った等速ジョイントでは、外側継手部材の内部であって、前記外側継手部材と対向する内側継手部材、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間に介在するボール、前記ボールを保持するケージおよび前記内側継手部材に挿入されるシャフトの間で形成される空間に充填部材が設けられている。
【0008】
このように構成された等速ジョイントでは、継手内部のグリースの潤滑性および摺動部潤滑性を改善し、外側継手部材、シャフト、内側継手部材との間に形成される空間にあって潤滑に関与しないグリースを低減できる。
【発明の効果】
【0009】
この発明に従えば、グリース量を低減することが可能な等速ジョイントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に従った等速ジョイントの断面図である。
【
図2】外側継手部材とシャフトとの間にジョイント角が形成された状態の実施の形態1に従った等速ジョイントの断面図である。
【
図3】充填部材18の開口部113方向の面が平坦形状の等速ジョイントの断面図である。
【
図4】軽量化のために充填部材18が中空構造である等速ジョイントの断面図である。
【
図5】保持器に固定される充填部材18を有する等速ジョイントの断面図である。
【
図6】比較例に従った等速ジョイントの断面図である。
【
図7】外側継手部材とシャフトとの間にジョイント角が形成された状態の比較例に従った等速ジョイントの断面図である。
【
図8】実施の形態2に従った等速ジョイントの断面図である。
【
図9】外側継手部材内部底面112の形状を充填部材21に沿う形状とした等速ジョイントの断面図である。
【
図10】外側継手部材とシャフトとの間にジョイント角が形成された状態の実施の形態2に従った等速ジョイントの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態1)
等速ジョイント1は、一端に開口部113を有する外側継手部材11と、その外側継手部材11との間でボール13を介して角度変位(ジョイント角)を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材12を備え、大径端部152を外側継手部材11の開口部113に装着すると共に小径端部153を内側継手部材12から延びる軸部材14に装着して外側継手部材11の開口部113を閉塞する筒状のブーツ15を備える。
【0012】
このブーツ15は、角度変位を許容するため蛇腹部151を備え、山部1511と谷部1512が交互に連続的に形成されている。また、外側継手部材11およびブーツ15の内部空間および外側継手部材11と軸部材14または内側継手部材12との間に形成される継手内部空間114にはグリースが封入されており、外側継手部材11内のボール13等を潤滑する。
【0013】
図1に実施例の等速ジョイントを示す。外側継手部材11と内側継手部材12,ボール13,保持器16,軸部材14との間に形成される継手内部空間114に、充填部材18を挿入する。等速ジョイント1組付時には、充填部材18は内側継手部材12,保持器16と共に外側継手部材11へ挿入し、続いてボール13を組付けた後に、外側継手部材内部底面112へ固定用ボルト181で固定する。充填部材18は、外側継手部材内部底面112に密着し、且つジョイント角が最大となっても内側継手部材12,保持器16,軸部材先端141と干渉しない形状とする。
【0014】
ここで、充填部材18の製造コスト低減のため、充填部材18の開口部113方向の面を平坦形状としても良い(
図3)。更に、等速ジョイント1の軽量化のため充填部材18を中空構造としてもよい(
図4)。
【0015】
また、継手内部空間114の容積を減少させグリース封入量を低減させるために、充填部材18を最大ジョイント角で等速ジョイント1が回転したとき、軸部材14,内側継手部材12に干渉しない形状とすれば、保持器16に固定しても良い(
図5)。
【0016】
図2に本実施例の作用を示す。グリース封入量を低減した場合において、ジョイント角がついた状態で等速ジョイント1が回転し、ボール13が外側継手部材内部底面112から開口部113の方向へ移動すると、その後方にはグリースの存在しない空隙19が発生する。一方、該反対側のボール13は開口部113から外側継手部材内部底面112の方向へ移動し、それに伴ってグリースが外側継手部材内部底面112の方向に押し出されるが、充填部材18があるため外側継手部材内部底面112へ流入せず、空隙19へ流れ込む。シャフトの回転に伴い上記作動が繰返されることにより、摺動部の潤滑性を確保しつつ封入グリース量の削減を実現することができる。
【0017】
図6,
図7に従来技術の等速ジョイントと、グリース封入量を低減した場合の作動状況を示す。
【0018】
ジョイント角がついた状態で等速ジョイント1が回転し、ボール13が外側継手部材内部底面112から開口部113の方向へ移動するとき、グリース封入量を低減しているとその後方にはグリースの存在しない空隙19が発生する。次に、ボール13が開口部113から外側継手部材内部底面112の方向へ移動するとき、グリースの存在しない空隙19を通過することとなり、この状態が続けばグリース切れやそれに伴う異音,焼きつきなどを発生する可能性がある。また、外側継手部材内部底面112に付着した滞留グリース201は内側継手部材12,ボール13,軸部材14,保持器16等に接触せず、摺動部潤滑に用いられず無駄となる。
【0019】
(実施の形態2)
図8に本実施例の等速ジョイントを示す。充填部材21を軸部材14の継手内部空間114側に固定する。保持器16との干渉防止のため、ジョイント角がついてない状況で、充填部材18と保持器16の隙間θは保持器の最大作動角以上とする。ここで、充填部材21は、外側継手部材11との隙間を小さくするため、外側継手部材内部底面112に沿う形状、例えば球面形状であることが好ましい。また、継手内部空間114の容積を減少させるため、外側継手部材内部底面112の形状を充填部材21に沿う形状とすることが好ましい(
図9)。
【0020】
図10に本発明の作用を示す。ジョイント角がついた状態で等速ジョイント1が回転すると、回転に伴う充填部材21の歳差運動により、継手内部空間114のグリースを外側継手部材ボール溝111および内側継手部材ボール溝121へ押し入れることができる。また、充填部材21の体積により、継手内部空間114の容積を減少させることでグリース封入量の低減ができる。すなわち摺動部の潤滑性改善による信頼性向上と、等速ジョイント1のグリース封入量低減によるコスト低減を両立できる。
【0021】
等速ジョイント1では、外側継手部材11の内部空間であって、前記外側継手部材11と対向する内側継手部材12、前記外側継手部材11と前記内側継手部材12との間に介在するボール13、前記ボール13を保持する保持器16および前記内側継手部材12に挿入される軸部材14の間で形成される空間に充填部材18、21が設けられている。
(1) 等速ジョイント1は、一端に開口部113を有し、他端に閉塞部を有する外側継手部材11と、外側継手部材11との間でトルク伝達部材を介して角度変位を許容しながらトルクを伝達する内側継手部材12とを備え、大径端部152を外側継手部材11の開口端部に装着すると共に小径端部153を内側継手部材12から延びる軸部材14に装着して外側継手部材11の開口部113を閉塞する筒状のブーツ15を備え、少なくとも外側継手部材11の内部空間に潤滑剤を封入した等速ジョイント1であって、外側継手部材11とボール13,ケージ(保持器16),シャフト(軸部材14),内側継手部材12との間に形成される空間に充填部材18,21を設置している。
(2) 外側継手部材11または保持器16に前記充填部材18,21が固定されることが好ましい。
(3) 外側継手部材11内部の軸部材14または内側継手部材12に前記充填部材18,21が固定されることが好ましい。
(4) 前記充填部材18,21の外側継手内部底面を球面形状としたことが好ましい。
【0022】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0023】
この発明は、車両の等速ジョイント分野において用いることが可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 等速ジョイント、11 外側継手部材、12 内側継手部材、13 ボール、14 軸部材、15 ブーツ、16 保持器、18,21 充填部材、19 空隙、111 外側継手部材ボール溝、112 外側継手部材内部底面、113 開口部、114 継手内部空間、121 内側継手部材ボール溝、141 軸部材先端、151 蛇腹部、152 大径端部、153 小径端部、181 固定用ボルト、201 滞留グリース、1511 山部、1512 谷部。