【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の流体伝動装置の第1の特徴は、流体に仕事を与えるポンプと、流体から仕事を取り出すタービンと、流体を整流しながら前記タービンから前記ポンプへ案内するステータと、エンジンから回転駆動力が入力される入力軸と、回転駆動力を変速機へ出力する出力軸と、前記出力軸に対し回転方向に同期しながら前記入力軸と前記出力軸の両軸に対し軸方向にスライド移動可能な中間軸とを備えた流体伝動装置であって、
前記タービンは回転方向が互いに逆向きとなる第1タービンと第2タービンによって構成され、前記中間軸がスライドして一方のタービンと係合する時他方のタービンは回転が拘束されるように構成されていることである。
【0006】
上記構成では、中間軸の移動距離に応じて前記第1タービンと第2タービンの何れか一方の回転動力が中間軸を介して前記出力軸に伝達されることになる。例えば第1タービンの回転方向を正転(前進)とする一方第2タービンの回転方向を逆転(後退)とする場合、中間軸の移動距離に応じて正転(前進)に係る回転動力と逆転(後退)に係る回転動力の各トルク出力状態を切り替えることが可能となる。これにより前後進の切り替えを流体伝動装置によって実現することが可能となる。
【0007】
本発明の流体伝動装置の第2の特徴は、前記第1タービンは各回転羽根が径方向外側のケーシング内周面に沿って配設されていると共に前記第2タービンは各回転羽根が径方向内側から外側へ放射状に円板上に配設されている、ことである。
【0008】
上記構成では、第2タービンは第1タービンのケーシング内部空間に収納することが出来るため、軸方向の長さ増大させることなく2つのタービンを同一面かつ同軸上に配設することが可能となる。
【0009】
本発明の流体伝動装置の第3の特徴は、前記第2タービンの各回転羽根は翼構造を成し翼前縁が径方向外側に翼後縁が径方向内側に位置し且つ翼背が回転方向に反るように配設されている、ことである。
【0010】
上記構成では、ポンプからエネルギーを得た流体が第1タービンの各回転羽根で反射して径方向外側から第2タービンへ流れ込む際、回転羽根の翼構造によって翼背と翼腹との間において圧力差が生じ、その圧力差によって各翼において翼腹から翼背の方向へ回転力が発生する。すなわち翼前縁が径方向外側に翼後縁が径方向内側に位置し且つ翼背が回転方向に反るように配設することにより第2タービンを第1タービンに対し逆方向に回転させることが出来るようになる。
【0011】
本発明の流体伝動装置の第4の特徴は、前記第1タービンと前記第2タービンの各軸受面には内係合機構がそれぞれ設けられていると共に前記中間軸の外周面にはこれらに係合する外係合機構が設けられている、ことである。
【0012】
上記構成では、中間軸の移動距離に応じて中間軸を第1タービンと第2タービンの何れか一方のタービンに係合させることが出来るようになる。つまり、中間軸は第1タービンと第2タービンに対し選択的に係合し、中間軸の移動距離に応じて第1タービンの正転(前進)に係る回転動力と第2タービンの逆転(後退)に係る回転動力を選択的に出力軸へ伝達することが出来るようになる。
【0013】
本発明の流体伝動装置の第5の特徴は、前記中間軸は、軸方向のみ移動可能で前記第1タービンの外係合機構と係合する内係合機構を備えた第1スライダーと軸方向移動に関し一体化されている、ことである。
【0014】
上記構成では、第1スライダーは(第1タービンと第2タービンに選択的に係合する)上記中間軸を軸方向に移動させる駆動手段となると共に、中間軸が第2タービンと係合する際の第1タービンの回転を拘束する回転拘束手段としても機能するようになる。また、第1スライダーは中間軸と軸方向移動に関し一体化されているため、中間軸と第1スライダーの各移動距離は全く同じである。従って、中間軸の移動距離は第1スライダーの移動距離によって代用することが出来るようになり、第1スライダーの移動距離を操作量として前後進の切替を行うことが可能となる。
【0015】
本発明の流体伝動装置の第6の特徴は、前記第1スライダーは中空円筒構造を成し前記中間軸は前記第1スライダーの内部にベアリングを介して挿通されている、ことである。
【0016】
上記構成では、ベアリングによって中間軸は第1スライダーと軸方向移動に関し一体化しながら第1スライダーとは独立に回転することが可能となる。これにより中間軸は選択的に軸方向に移動して第1タービン又は第2タービンの何れか一方に係合し第1タービンの正転(前進)に係る回転動力と第2タービンの逆転(後退)に係る回転動力を選択的に出力軸へ伝達することが出来るようになる。
【0017】
本発明の流体伝動装置の第7の特徴は、前記中間軸と前記入力軸は二重壁構造をそれぞれ有し、一方の壁部材がインサート部材として他方の壁間に入り込んで軸方向に対し相対移動する入れ子構造を成している、ことである。
【0018】
上記構成では、他方の壁間に入り込んだ一方の壁部材が起動部材となりその壁間に設けられた従動部材(連結部材)に作用することにより、従動部材上下に変位させて中間軸と入力軸または後述の第2スライダーを一体化することが出来るようになると共に、入力軸とポンプを一体化することが出来るようになる。
【0019】
本発明の流体伝動装置の第8の特徴は、前記中間軸の二重壁構造に連続した後部側壁の外周面には環状溝が周方向に沿って形成されていると共に前記入力軸の二重壁構造に係る外壁の外周面には、前記入力軸と前記ポンプを一体化する第1連結部材が配設された複数の第1貫通穴が周方向に沿って形成されている、ことである。
【0020】
上記構成では、中間軸がスライドして中間軸の環状溝と入力軸の第1貫通穴が一致する時にその第1連結部材は環状溝に嵌り、環状溝に嵌った第1連結部材はポンプに係合することが出来ずに入力軸とポンプの結合は解除されることになる。つまり、中間軸がスライドして第1連結部材を環状溝に落とすことにより入力軸とポンプの結合を解除することが出来るようになる。
【0021】
本発明の流体伝動装置の第9の特徴は、前記中間軸の二重壁構造に係る内壁の外周面には複数の窪みが環状に形成されていると共に前記入力軸の二重壁構造に係る内壁の外周面には、前記入力軸と前記中間軸を一体化する第2連結部材が配設された複数の第2貫通穴が周方向に沿って形成されている、ことである。
【0022】
上記構成では、中間軸がスライドして中間軸の窪みと入力軸の第2貫通穴が一致する時にその第2連結部材は窪みに嵌る。窪みに嵌った第2連結部材は中間軸の二重壁構造により上下方向の移動が拘束される一方、入力軸の内壁によって横方向の移動が拘束され窪みから抜け出すことが出来なくなる。その結果、入力軸と中間軸は第2連結部材によって回転方向に関し一体化されることになる。つまり、中間軸がスライドして第2連結部材を窪みに落とすことにより入力軸とポンプを回転方向に関し一体化することが出来るようになる。
【0023】
本発明の流体伝動装置の第10の特徴は、前記第1及び第2連結部材はメタルボールである、ことである。
【0024】
上記構成では、第1連結部材が環状溝に嵌る場合あるいは第2連結部材が窪みに嵌らない場合、上記連結部材はポンプ及び中間軸との間、あるいは入力軸と中間軸との間を転がりながら摺動することになる。連結部材がメタルボールの場合転がり摺動抵抗が小さくなるため、入力軸とポンプが一体化されない場合あるいは入力軸と中間軸が一体化されない場合の回転動力の損失が小さくなる。
【0025】
本発明の流体伝動装置の第11の特徴は、前記環状溝は側部内周面が軸方向に対し傾斜している、ことである。
【0026】
上記構成では、中間軸を入力軸に対しスライドさせることにより、入力軸の外壁が第1連結部材に当接する。この場合、側部内周面が軸方向に対し傾斜していることにより第1連結部材は環状溝から押し出されることになる。つまり、上記構成により入力軸とポンプの結合を選択的に断続することが可能となる。
【0027】
本発明の流体伝動装置の第12の特徴は、前記中間軸の二重壁構造に係る後外壁の内周面先端は傾斜面を成していると共に前記窪みの側部内周面は傾斜面を成している、ことである。
【0028】
上記構成では、中間軸に窪みに嵌った第2連結部材は窪みから抜け出すことが出来なくなるが、後外壁の傾斜面と窪みの傾斜面の相乗効果により中間軸を逆方向へスライドすることにより、第2連結部材を窪みから引き上げ入力軸と中間軸の結合を解除することが出来るようになる。つまり上記構成により入力軸と中間軸の結合を選択的に断続することが可能となる。
【0029】
本発明の流体伝動装置の第13の特徴は、前記中間軸の前記二重構造に係る前外壁の外周面には、前記第2タービン及びステータの双方に係合する外係合機構を備えた第2スライダーが同軸にスライド可能に設けられている、ことである。
【0030】
上記構成では、中間軸が第1タービンに係合する時に第2スライダーによって第2タービンの回転を拘束することが可能となる。
【0031】
本発明の流体伝動装置の第14の特徴は、前記中間軸の前記前外壁の外周面には複数の貫通穴が形成されていると共に前記前外壁と前記内壁との壁間には第3連結部材が配設される一方、前記第2スライダーの内周面には内周溝が形成されている、ことである。
【0032】
上記構成では、中間軸を第2タービンに係合させる場合、第3連結部材によって中間軸と第2スライダーを一体化し、中間軸を軸方向にスライドさせることにより、中間軸の外係合機構と第2スライダーの外係合機構が離隔した状態を形成して第2スライダーと第2タービン及びステータの係合を解除することが出来るようになる。つまり、中間軸が第2タービンに係合する際、第2スライダーと第2タービン及びステータの係合を確実に切断すると共に切断した後も中間軸が第2スライダーによって妨げられることがない状態を形成することが出来るようになる。
【0033】
本発明の流体伝動装置の第15の特徴は、前記中間軸が移動する時、前記中間軸の前外壁と内壁との壁間に前記入力軸の内壁が相対移動して前記第3連結部材を押し上げて、前記第3連結部材は前記中間軸の貫通穴と前記第2スライダーの内周溝に同時に嵌る、ことである。
【0034】
上記構成では、中間軸を軸方向にスライドさせることにより第3連結部材によって中間軸と第2スライダーを一体化させ、中間軸の外係合機構と第2スライダーの外係合機構が離隔した状態を形成して第2スライダーと第2タービン及びステータの係合を解除することが出来るようになる。
【0035】
本発明の流体伝動装置の第16の特徴は、前記第2スライダーの内周溝には前記第3連結部材を径方向内側に付勢する弾性体が配設されている、ことである。
【0036】
上記構成では、弾性体は入力軸内壁による第3連結部材の急激な押し上げを抑制すると共に押し上げられた第3連結部材の姿勢を安定させる。
【0037】
本発明の流体伝動装置の第17の特徴は、前記入力軸の内壁の先端部は傾斜していると共に前記内壁が当接する前記第3連結部材の当接部位は傾斜している、ことである。
【0038】
上記構成では、入力軸の内壁が第3連結部材に係合する場合、第3連結部材に作用する入力軸の内壁の当接荷重を好適に分散させ第3連結部材を上方へ円滑に移動させることが出来る一方、入力軸の内壁が第3連連結部材に係合しなくなる場合、第3連結部材を元の位置に円滑に案内することが出来るようになる。つまり、上記構成により中間軸と第2スライダーの結合あるいは解除を円滑に行うことが出来るようになる。
【0039】
本発明の流体伝動装置の第18の特徴は、前記中間軸が軸方向に移動する時、前記第1連結部材は前記中間軸の環状溝に嵌り前記入力軸と前記ポンプの結合を解除する、ことである。
【0040】
上記構成では、入力軸の回転動力はポンプに伝達されないため、ニュートラル状態を形成することが可能となる。
【0041】
本発明の流体伝動装置の第19の特徴は、前記中間軸が軸方向に移動する時、前記第1連結部材は前記中間軸の環状溝から抜け出して前記中間軸の後外壁または後部側壁に位置し前記入力軸と前記ポンプを一体化する、ことである。
【0042】
上記構成では、入力軸の回転動力はポンプに伝達されるため、ニュートラル状態から前進状態、ロックアップ状態あるいは後退状態を形成することが可能となる。
【0043】
本発明の流体伝動装置の第20の特徴は、前記中間軸が軸方向に移動する時、前記第2連結部材は前記中間軸の窪みに嵌り前記入力軸と前記中間軸を一体化する、ことである。
【0044】
上記構成では、入力軸と中間軸は回転方向に関し一体化され、中間軸と出力軸は元々回転方向に関し一体化されているため、入力軸と出力軸が機械的に直結したロックアップ状態を形成することが可能となる。
【0045】
本発明の流体伝動装置の第21の特徴は、前記中間軸が軸方向に移動する時、前記第2連結部材は前記中間軸の窪みから抜け出して前記入力軸と前記中間軸の結合を解除する、ことである。
【0046】
上記構成では、入力軸と出力軸が機械的に直結しなくなるため、ロックアップ状態からニュートラル状態、前進状態あるいは後退状態を形成することが可能となる。
【0047】
本発明の流体伝動装置の第22の特徴は、前記中間軸が前記第1タービンに係合する時、前記第2スライダーは前記第2タービン及びステータの双方に係合している、ことである。
【0048】
上記構成では、前記タービン1から伝達される回転動力は中間軸を介して出力軸へ出力されるため、前進状態あるいはロックアップ状態を形成することが可能となる。
【0049】
本発明の流体伝動装置の第23の特徴は、前記中間軸が前記第2タービンに係合する時、前記第1スライダーは前記第1タービンに係合している、ことである。
【0050】
上記構成では、前記タービン2から伝達されるタービン1とは逆方向の回転動力は中間軸を介して出力軸へ出力されるため、後退状態を形成することが可能となる。
【0051】
本発明の流体伝動装置の第24の特徴は、前記第1スライダーの外周面にはピポットが設けられ、リング状ロータの内周面に前記ピポットが嵌る螺旋状溝が形成されたヨークカムを備えたモータによって軸方向に駆動される、ことである。
【0052】
上記構成では、第1スライダーをロータの内側に収納させることが可能となるため、変速機全体をコンパクトにすることが可能となる。
【0053】
本発明の流体伝動装置の第25の特徴は、前記第1スライダーは回転および軸方向移動不能な固定円筒部材によってスライド移動可能に支持されている、ことである。
【0054】
上記構成では、第1スライダーおよび中間軸を軸方向に安定に移動させることが出来る。