【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名 :財団法人 福岡県産業・科学技術振興財団 先端半導体部 刊行物名 :システムLSI設計技術者養成講座 応用コース LP5 「知的蓄電池制御システムの設計と応用」 発行日 :2014年3月18日
【解決手段】 蓄電残量推定装置3は、蓄電池2の状態を観測するセンサ5,6と、蓄電池2をモデル化した等価回路モデル20に含まれる複数の要素によって蓄電池2の状態を表した状態ベクトルx
とに基づき、カルマンフィルタを用いて蓄電池2の状態を更新し、蓄電池2のSOCを推定する残量推定部15と、を備えている。前記複数の要素は、時刻の線形関数及び定数によって表現されている。
前記複数の要素の内、線形関数によって表現されている要素は、時間領域で離散化されることによって、前記変数が離散時間領域における時刻とされた線形関数によって表現されている請求項1又は2に記載の蓄電残量推定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルマンフィルタを用いたSOCの推定方法は、まず、対象の蓄電池をモデル化した等価回路を設定し、設定した等価回路に含まれる複数の要素によって表現される蓄電池の状態について推定する。次いで、推定した蓄電池の状態と観測した蓄電池の状態との間の誤差を求めつつ新たに蓄電池の状態を推定し、推定される蓄電池の状態を逐次更新することで行われる。
【0006】
蓄電池の状態は、上記非特許文献1に記載されているように、前記複数の要素を含むベクトルによって表現されている。また、蓄電池の状態を示すベクトルを構成している複数の要素には、指数関数で表現されている要素が含まれている。蓄電池をモデル化した等価回路は、一般的にRC回路を含んでいるためである。
【0007】
このため、蓄電池の状態ベクトルをカルマンフィルタに与えて新たな状態ベクトルを推定するための演算を行う際に、指数関数を含んだ演算を行う必要があり、例えば、指数関数を含まない演算を行う場合と比較してその演算量が多くなることがある。
【0008】
上記従来のカルマンフィルタを用いたSOCの推定方法では、上述のように、SOCを推定するための演算量が比較的多くなることから高い処理能力を有する大型のコンピュータ等を用いて演算を行う必要があり、SOCを推定するためのシステム全体として小型化することが困難であるという問題を有していた。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、蓄電池のSOCを高精度で推定しつつも、システム全体として小型化を実現することができる蓄電残量推定装置、蓄電池の蓄電残量を推定する方法、及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、
蓄電池の蓄電残量を推定する蓄電残量推定装置であって、
前記蓄電池の状態を観測する観測部と、
前記蓄電池をモデル化した等価回路に含まれる複数の要素によって前記蓄電池の状態を表した状態ベクトルと、前記観測部の観測結果に基づいた観測値を表した観測ベクトルとに基づき、カルマンフィルタを用いて前記蓄電池の状態を更新し、前記蓄電池の蓄電残量を推定する推定部と、を備え、
前記複数の要素は、前記蓄電池の状態に応じた変数を持つ関数によって表現されるものを含み、
全ての前記関数は線形関数であることを特徴としている。
【0011】
上記のように構成された蓄電残量推定装置によれば、前記複数の要素が、前記蓄電池の状態に応じた変数を持つ関数によって表現されるものを含み、全ての前記関数が線形関数であるので、推定部が行う演算量を上記従来例のように指数関数を含んだ演算を行う場合と比較して少なくすることができる。
よって、上記従来例のように高い処理能力を有するコンピュータを用いずとも、例えば、演算の処理能力が高くない小型のマイコン等を用いてカルマンフィルタを用いた蓄電残量の推定が可能となる。
この結果、蓄電池の蓄電残量を高精度で推定しつつも、システム全体として小型化を実現することができる。
【0012】
(2)上記蓄電残量推定装置において、
前記等価回路が、少なくとも1つのRC回路を備えている場合、
前記複数の要素の内、線形関数によって表現されている要素は、前記RC回路の端子間電圧であることが好ましい。
【0013】
(3)また、
前記複数の要素の内、線形関数によって表現されている要素は、時間領域で離散化されることによって、前記変数が離散時間領域における時刻とされた線形関数によって表現することができる。
【0014】
(4)また、
前記推定部によって前記観測ベクトルの一要素として含められる関数であって、前記蓄電池を充放電させたときの測定値によって把握される前記蓄電池の充電率と前記蓄電池の開放電圧との関係に基づいて回帰的に求められた前記充電率と前記開放電圧との関係を示す関数を記憶している記憶部をさらに備え、
前記関数は、最小2乗法によって下記式に表される多項式として求められるとともに、前記充電率に対する前記開放電圧の変化率の最大値が最小となるように、下記式中のnが設定されていることが好ましい。
【数1】
【0015】
なお、上記式中、OCVは開放電圧、SOCは充電率、a
iは定数である。
この場合、上記式中のnの値が無駄に大きい値に設定されるのを抑制しつつ、蓄電残量の推定精度に影響を与える前記変化率をできるだけ小さくすることができる。
この結果、より蓄電残量の推定精度を高めつつ、演算量が増加するのを抑制することができる。
【0016】
(5)また、本発明は、
蓄電池の蓄電残量を推定する方法であって、
前記蓄電池の状態を観測する観測ステップと、
前記蓄電池をモデル化した等価回路に含まれる複数の要素によって前記蓄電池の状態を表した状態ベクトルと、前記観測ステップの観測結果に基づいた観測値を表した観測ベクトルとに基づき、カルマンフィルタを用いて前記蓄電池の状態を更新し、前記蓄電池の蓄電残量を推定するステップと、を含み、
前記複数の要素は、前記蓄電池の状態に応じた変数を持つ関数によって表現されるものを含み、
全ての前記関数は線形関数であることを特徴としている。
【0017】
(6)また、本発明は、
蓄電池の蓄電残量を推定する処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
前記蓄電池の状態を観測する観測ステップと、
前記蓄電池をモデル化した等価回路に含まれる複数の要素によって前記蓄電池の状態を表した状態ベクトルと、前記観測ステップの観測結果に基づいた観測値を表した観測ベクトルとに基づき、カルマンフィルタを用いて前記蓄電池の状態を更新し、前記蓄電池の蓄電残量を推定するステップと、を実行させるさせるためのコンピュータプログラムであり、
前記複数の要素は、前記蓄電池の状態に応じた変数を持つ関数によって表現されるものを含み、
全ての前記関数は線形関数であることを特徴としている。
【0018】
上記のように構成された蓄電池の蓄電残量を推定する方法及びコンピュータプログラムによれば、蓄電池の蓄電残量を高精度で推定しつつも、システム全体として小型化を実現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、蓄電池の蓄電残量を高精度で推定しつつも、システム全体として小型化を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔1 システムの構成について〕
図1は、蓄電池システムのブロック図である。図中、蓄電池システム1は、蓄電池2と、蓄電池管理装置3とを備えている。
【0022】
蓄電池2は、リチウムイオン電池の単位セルを単一又は複数直列して構成したものであり、その両端端子4に図示しない充電器を接続することによって直流電力を蓄電するとともに、両端端子4に充電器に替えて図示しない負荷を接続することによって蓄電した直流電力を前記負荷に対して放電する。
【0023】
蓄電池管理装置3は、蓄電池2が放電する直流電力の電流値を測定するための電流センサ5と、蓄電池2の端子間電圧を測定するための電圧センサ6と、蓄電池2の状態管理に関する処理を行う制御部7と、蓄電池2の状態管理に関する処理結果を出力する出力部8とを備えている。
【0024】
電流センサ5は、蓄電池2が充放電する際の直流電力の電流値を計測し、計測結果を示す信号を制御部7に与える。
電圧センサ6は、蓄電池2が充放電する際の直流電力の電流値を計測し、計測結果を示す計測信号を制御部7に与える。
【0025】
制御部7は、両センサ5,6から与えられる計測信号に基づいて、蓄電池2の蓄電残量を推定したり蓄電池2の劣化度合を推定し、蓄電池2の状態を推定する処理を実行するとともにその推定結果を管理する処理を実行する。
【0026】
図2は、制御部7の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、制御部7は、プロセッサ等を含む処理部10と、ROMやRAM等からなる記憶部11と、入出力部12とを備えており、マイコンによって構成されている。
記憶部11には、制御部7を動作させるために必要なオペレーティングシステムの他、制御部7が有する機能を実現するための各種コンピュータプログラムが記憶されている。
入出力部12は、両センサ5,6からの計測信号を受け取る機能を有している。入出力部12が受け取った信号は、記憶部11に記憶されるとともに処理部10によって各種処理に利用される。
処理部10は、記憶部11に記憶されているコンピュータプログラムを実行することで、以下の各機能が実現される。
【0027】
処理部10は、
図2に示すように、残量推定部15と、管理処理部16とを機能的に有している。
残量推定部15は、蓄電池2の蓄電残量を推定する処理を実行するための機能を有している。残量推定部15は、両センサ5,6からの計測信号に基づいて、蓄電池2の状態を取得し、蓄電池2の蓄電残量を示す値である蓄電率(以下、単にSOCともいう)の推定値を求める。つまり、本実施形態の蓄電池管理装置3は、蓄電池2の蓄電残量を推定する蓄電残量推定装置を構成している。
【0028】
管理処理部16は、残量推定部15が求めたSOCの推定値や、両センサ5,6からの計測信号に基づいて、蓄電池2の劣化度合を推定する。さらに、管理処理部16は、SOCの推定値や推定した劣化度合といった蓄電池2の状態に関する情報を入出力部12を介して出力部8(
図1)に出力させたり、蓄電池2の状態に関する情報を記憶部11に記憶して管理する機能を有している。
【0029】
〔2 蓄電池のSOCの推定処理について〕
残量推定部15は、上述のように蓄電池2のSOCの推定値を求める処理を実行する。
残量推定部15は、蓄電池2をモデル化した等価回路に含まれる種々のパラメータを用いて蓄電池2の状態を推定する。
さらに、残量推定部15は、両センサ5,6からの計測信号に基づいて、蓄電池2の観測値を取得する。
次いで、残量推定部15は、推定した蓄電池2の状態と、両センサ5,6からの計測信号に基づいた蓄電池2の観測値とに基づき、カルマンフィルタを用いて再度蓄電池2の状態を推定し、推定した蓄電池2の状態を更新する。
残量推定部15は、逐次推定される蓄電池2の状態に基づいて、蓄電池2のSOCの推定値を取得する。
【0030】
〔2.1 蓄電池2の等価回路モデルについて〕
図3は、残量推定部15による処理において用いられる、蓄電池2の等価回路モデルを示す図である。
図中、等価回路モデル20は、電源21と、抵抗素子22と、第1RC回路23と、第2RC回路24とを有して構成されている。
電源21は、理想電源によって構成されており、無負荷状態の蓄電池2の電圧である開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage,以下、単にOCVともいう)を表現している。
【0031】
抵抗素子22は、蓄電池2の内部抵抗を表現している。
第1RC回路23は、抵抗素子23aとキャパシタ23bとを並列に接続して構成されている。
第2RC回路24は、抵抗素子24aとキャパシタ24bとを並列に接続して構成されている。
第1RC回路23、及び第2RC回路24は、互いに直列に接続されており、これによって蓄電池2に生じる分極を表現している。
【0032】
ここで、OCVをu
OCV、抵抗素子22の抵抗値をR
0、抵抗素子23aの抵抗値をR
1、抵抗素子24aの抵抗値をR
2、キャパシタ23bの容量をC
1、キャパシタ24bの容量をC
2で表したとすると、第1RC回路23の両端電圧u
1、及び、第2RC回路24の両端電圧u
2を微分方程式で表すと、下記式(1)、式(2)となる。
また、等価回路モデル20によって表現される蓄電池2の両端電圧U
Lは、下記式(3)のように表すことができる。
【0034】
なお、上記式(1)〜(3)中、iは、等価回路モデル20から外部に放電される電流である。
【0035】
〔2.2 蓄電池2の開放電圧について〕
制御部7は、SOCとOCVとの関係を示す関数を記憶部11に記憶している。制御部7は、後述するSOCの推定処理を実行するために必要な情報として、前記関数を記憶している。
【0036】
前記関数は、蓄電池2を用いた実験によって得たSOCとOCVとの関係を示す測定値から回帰的に求められる。
以下、前記関数の求め方について説明する。
【0037】
まず、SOCが0%の状態の蓄電池2に対して、蓄電池2に作用する負荷が無視できる程度の微小電流で充電したときの蓄電池2の電圧値を連続的に測定する。さらに、SOCが100%の状態の蓄電池2に対して、蓄電池2に作用する負荷が無視できる程度の微小電流で放電したときの蓄電池2の電圧値を連続的に測定する。
【0038】
次いで、これら充電時に測定された電圧値と、放電時に測定された電圧値との間で、互いに対応する値の平均値を求め、この平均値で構成される電圧値とSOCとの関係を、蓄電池2を充放電させたときのSOCとOCVとの関係を示す測定値として取得する。
【0039】
図4は、蓄電池2におけるSOCとOCVとの関係を示す測定値の一例を示すグラフである。図中、横軸はSOC(%)、縦軸はOCV(V)である。
図中、充電時に測定された電圧値をプロットして得た曲線L1と、放電時に測定された電圧値をプロットして得た曲線L2とは、同じSOCのときのOCVの値が僅かに乖離している。
蓄電池2を充放電させたときのSOCとOCVとの関係を示す測定値は、上述のように、充電時に測定された電圧値と、放電時に測定された電圧値との平均値で構成されている。よって、蓄電池2を充放電させたときのSOCとOCVとの関係を示す曲線L3は、上記曲線L1と、曲線L2との間に位置している。
【0040】
さらに、上記のように求めた蓄電池2を充放電させたときのSOCとOCVとの関係を示す測定値を、例えば最小2乗法等によって、下記式(4)に示す多項式に回帰させることで、前記関数を求める。
【0042】
以上のようにして、SOCとOCVとの関係を示す関数であるOCV(SOC)は求められる。
制御部7は、SOCとOCVとの関係を示す関数である上記式(4)で回帰されたOCV(SOC)を記憶している。なお、本実施形態では、OCVは、式(4)に示すように12次の多項式によって回帰されている。
【0043】
〔2.3 蓄電池2における分極の影響について〕
等価回路モデル20では、一定の電流iで一定時間放電させた後に当該電流iの放電を除去(停止)したときからの電圧変化には、等価回路モデル20の第1RC回路23及び第2RC回路24によって表される分極による電圧が含まれる。分極による電圧を考慮した第1RC回路23の両端電圧u
1、及び第2RC回路24の両端電圧u
2は、下記式(5)、(6)のように表すことができる。
【0045】
なお、上記式(5)中、u
1(0)及びu
2(0)は、電流iを除去した瞬間の電圧であり、τ
1と、τ
2は、下記の通りである。
τ
1 = R
1C
1
τ
2 = R
2C
2
【0046】
放電の時間が十分に長くなると、u
1(0)及びu
2(0)は、iR
1及びiR
2に近似することができる。
よって、等価回路モデル20によって表現される蓄電池2の両端電圧U
Lは、上記式(4)から回帰される関数OCV(SOC)と、上記式(3)とに基づいて、下記式(7)のように表すことができる。
【0048】
〔2.4 蓄電池2の状態について〕
制御部7の残量推定部15は、蓄電池2の状態を離散時間領域におけるシステムとして表現し、これをカルマンフィルタに与えることで、蓄電池2の状態推定を実行する。
下記式(8)、(9)は、残量推定部15がSOCの推定処理を実行する上で想定される、蓄電池2の状態を表すシステムモデルを示しており、式(8)は、蓄電池2の状態を示すシステム状態方程式、式(9)は、蓄電池2の観測値に係る観測方程式を示している。これら式(8)、(9)で示されるシステムモデルは、非線形モデルである。
【0050】
上記式(8)中、x
kは、離散時間領域における時刻kの蓄電池2の状態を示す状態ベクトル、f(x
k)は、時刻kにおける状態ベクトルx
kと次の時刻k+1の状態ベクトルx
k+1との関係を示す遷移関数、bは定数、u
kは外部からの制御入力、ω
kはシステムノイズである。
【0051】
また、上記式(9)中、y
kは時刻kにおける蓄電池2の観測値を表した観測ベクトル、h(x
k)は、時刻kの状態ベクトルx
kと観測ベクトルy
kとの関係を示す観測関数、v
kは観測ノイズである。
【0052】
上記式(8)、(9)に示すように、残量推定部15は、蓄電池2の状態を時間領域で離散化した上で、蓄電池2の状態推定を実行する。
【0053】
上記式(8)、(9)中、状態ベクトルxkは、下記式(10)のように設定される。また、観測ベクトルy
kは、下記式(11)に示すように、上記式(7)の蓄電池2の両端電圧U
Lに設定される。
【0055】
上記式(10)に示すように、状態ベクトルx
kは、等価回路モデル20に含まれる複数の要素である、SOC(k)や、第1RC回路23の両端電圧u
1、第2RC回路24の両端電圧u
2、及び蓄電池2の内部抵抗R
0によって蓄電池2の状態を表している。
【0056】
ここで、上記式(1)、(2)を前進オイラー法によって数値解析し、第1RC回路23の両端電圧u
1、及び、第2RC回路24の両端電圧u
2の単位時間経過前後の関係を求めると、下記式(12)、(13)のように表される。
【0058】
なお、上記式(12)、(13)中、kは離散時間領域における時刻、Δtはサンプリング時間である。
このように、本実施形態では、等価回路モデル20に含まれる第1RC回路23の両端電圧u
1、及び、第2RC回路24の両端電圧u
2は、時間領域で離散化されることによって、時刻kを変数に持つ線形関数によって表現されている。
また、状態ベクトルx
kに含まれるSOC(k)も、時刻kに対して線形である。さらに、状態ベクトルx
kに含まれる内部抵抗R
0は定数である。
このように、状態ベクトルx
kを構成している、等価回路モデル20に含まれる複数の要素である、SOC(k)、第1RC回路23の両端電圧u
1、及び第2RC回路24の両端電圧u
2は、蓄電池2の状態に応じた変数である時刻kを変数に持つ線形関数で表現され、蓄電池2の内部抵抗R
0は、定数によって表現されている。
つまり、等価回路モデル20に含まれる複数の要素は、蓄電池2の状態に応じた変数(時刻k)を持つ関数によって表現されるものを含み、その全ての関数は線形関数である。
【0059】
さらに、上記式(12)、(13)を、上記式(8)に導入することで、蓄電池2の状態方程式は、下記式(14)のように表される。
【0061】
また、観測方程式は、上記式(7)及び式(11)より、下記式(15)のように表される。
なお、上記式(14)中、Cは、蓄電池2の容量である。
【0063】
なお、式(15)中、i(k)は、時刻kにおいて測定された蓄電池2の放電電流、u1(k)は、時刻kにおける第1RC回路23の両端電圧、u2(k)は、時刻kにおける第2RC回路24の両端電圧である。
さらにOCV(SOC)は、蓄電池2を実際に充放電させたときのSOCとOCVとの関係を示す測定値から回帰的に求めた関数である。
つまり、観測方程式は、実際に両センサ5,6等によって計測(観測)された蓄電池2の観測値が反映されており、観測ベクトルy
kは、観測部としての両センサ5,6の観測結果に基づいた観測値を表している。
【0064】
上記式(14)で表されるシステムモデルは線形モデルである。このように、蓄電池2の状態を表すシステムモデルは、非線形モデルである上記式(8)に、上記式(12)、(13)を導入することで、線形モデルに変換される。
【0065】
〔2.5 蓄電池2の状態推定について〕
制御部7の残量推定部15は、偏微分による線形化近似する拡張カルマンフィルタによって蓄電池2の状態推定を実行する。
よって、蓄電池2の状態方程式である上記式(14)は、x
kによって偏微分される。下記式(16)は、式(14)をx
kによって偏微分した結果を、A
kとして示している。
【0067】
また、観測方程式である上記式(15)も、x
kによって偏微分される。下記式(17)は、式(15)をx
kによって偏微分した結果を、C
kとして示している。
【0069】
残量推定部15は、上記式(16)、(17)に基づいて、カルマンフィルタを用いて蓄電池2の状態推定を実行する。
【0070】
図5は、残量推定部15が実行する、カルマンフィルタを用いた蓄電池2の状態推定の処理手順を示す図である。
なお、本明細書中において以下に示す事前推定値x^
−(k)、事後推定値x^(k)、事前誤差共分散P
−(k)は、
図5中においては、下記のように表示されている。
【0072】
残量推定部15は、
図5に示すように、まず、蓄電池2の状態の推定値である事後推定値x^の初期値x^(0)と、後述の処理に用いる事後誤差共分散Pの初期値P(0)を設定する。
【0073】
蓄電池2の初期状態を示す、事後推定値x^の初期値x^(0)と、事後誤差共分散Pの初期値P(0)とを設定すると、残量推定部15は、
図5中、予測ステップに進む。
【0074】
残量推定部15は、予測ステップにおいて、
図5の予測ステップ中に示されている式に従って、事後推定値x^の初期値x^(0)と、事後誤差共分散Pの初期値P(0)とを用いて、次の時刻(k+1)における蓄電池2の状態の推定値である事前推定値x^
−(k+1)と、事前誤差共分散P
−(k+1)とを求める。
なお、事前推定値x^
−(k+1)、及び事後推定値x^(k+1)は、蓄電池2の状態を示す状態ベクトルである。
また、
図5の予測ステップにおいて、事前誤差共分散P
−(k+1)を示す式中のδ
wで示される項は、システムノイズに関する項である。
【0075】
事前推定値x^
−(k+1)と、事前誤差共分散P
−(k+1)とを求めると、残量推定部15は、
図5中、フィルタリングステップに進む。
フィルタリングステップに進んだ残量推定部15は、カルマンフィルタを用いて、事前推定値x^
−(k+1)、及び事前誤差共分散P
−(k+1)を更新し、これらを更新した事後推定値x^(k+1)と、事後誤差共分散P(k+1)を求めて、再度予測ステップに戻る。
【0076】
フィルタリングステップにおいて、残量推定部15は、
図5のフィルタリングステップ中に示されている式によって定義されるカルマンゲインg(k+1)を求める。
また、残量推定部15は、事前推定値x^
−(k+1)を更新した事後推定値x^(k+1)を求める。残量推定部15は、
図5のフィルタリングステップ中の事後推定値x^(k+1)を示している式のように、カルマンゲインg(k+1)と、実際の観測値が反映される観測方程式の誤差値とに基づいて事前推定値x^
−(k+1)を修正し更新することで、事後推定値x^(k+1)を求める。
なお、カルマンゲインg(k+1)を示す式に含まれているδ
vで示される項は、観測ノイズに関する項である。
【0077】
さらに、残量推定部15は、事前誤差共分散P
−(k+1)を更新した事後誤差共分散P(k+1)を求める。残量推定部15は、
図5のフィルタリングステップ中の事後誤差共分散P(k+1)を示している式のように、カルマンゲインg(k+1)に基づいて事前誤差共分散P
−(k+1)を更新することで、事後誤差共分散P(k+1)を求める。
【0078】
残量推定部15は、カルマンゲインg(k+1)、事後推定値x^(k+1)、及び事後誤差共分散P(k+1)を求めた後、「k+1」を「k」に更新し、再度予測ステップに戻る。残量推定部15は、フィルタリングステップにて更新された事後推定値x^(k)と、事後誤差共分散P(k)とを用いて、再度、次の時刻における事前推定値x^
−(k+1)と、事前誤差共分散P
−(k+1)とを求める。
【0079】
以降、残量推定部15は、上述の予測ステップとフィルタリングステップとを繰り返すことで、事後推定値x^(k)、及び事後誤差共分散P(k)を繰り返し更新する。
これにより、残量推定部15は、蓄電池2の状態を示す状態ベクトルである事後推定値x^(k)を繰り返し推定する。
【0080】
残量推定部15は、事後推定値x^(k)に含まれるSOCを参照し、これを蓄電池2のSOCの推定値として取得する。
残量推定部15は、事後推定値x^(k)が逐次推定更新されるごとに蓄電池2のSOCの推定値を取得する。
残量推定部15は、取得したSOCの推定値を管理処理部16に与えたり、入出力部12を介して出力部8に出力させたりする。
【0081】
以上のように、残量推定部15は、等価回路モデル20に含まれる複数の要素によって蓄電池2の状態を表した状態ベクトルx
kと、観測結果に基づいた観測値を表した観測ベクトルy
kとに基づき、カルマンフィルタを用いて蓄電池2の状態を更新し、蓄電池2のSOCを推定する。
【0082】
〔3 効果について〕
本実施形態の蓄電池管理装置3によれば、状態ベクトルx
kを構成している複数の要素(SOC(k)、第1RC回路23の両端電圧u
1、第2RC回路24の両端電圧u
2、及び蓄電池2の内部抵抗R
0)が、蓄電池2の状態に応じた変数である時刻kを変数に含む関数によって表現されるものを含み、全ての前記関数が線形関数であるので、上記式(14)に示した蓄電池2の状態方程式や、その後x
kで偏微分された式(16)に示すA
Kにおいても、線形関数及び定数によって表現することができる。
このため、残量推定部15が、カルマンフィルタを用いて行う蓄電池2の状態推定処理において行う演算量を、上記従来例のように指数関数を含んだ演算を行う場合と比較して少なくすることができる。
よって、上記従来例のように高い処理能力を有するコンピュータを用いずとも、例えば、演算の処理能力が高くない小型のマイコン等を用いて上述のカルマンフィルタを用いた蓄電残量の推定が可能となる。
この結果、蓄電池2の蓄電残量を高精度で推定しつつも、システム全体として小型化を実現することができる。
【0083】
〔4 検証試験について〕
次に、本発明者らが行った、蓄電池管理装置3によるSOCの推定精度についての検証試験について説明する。
試験方法としては、制御部7を小型のマイコン(例えば、ARM社製 mbed)によって構成した蓄電池システム1を用意し、蓄電池2のSOCを100%にした状態から所定のパターンで放電させ、そのときに蓄電池管理装置3にSOCの推定値を求めさせる。
蓄電池2の仕様としては、公称容量2250mAh、公称電圧3.6V、最大電圧4.2V、カットオフ電圧3Vのリチウムイオン電池を用いた。
また、推定値に対する真値としては、バッテリテスタを用いて蓄電残量を測定しこれを真値とした。
【0084】
試験条件としては、2つの放電パターンを設定し、それぞれについて試験を行った。
図6(a)は、第1の放電パターンを示す図、
図6(b)は、第2の放電パターンを示す図である。
図6(a)の放電パターンは、三角波形放電、
図6(b)の放電パターンは、模擬的なランダム波形放電に設定した。
評価方法としては、蓄電池管理装置3が推定するSOCと、バッテリテスタによる真値との間の誤差を求め、この誤差に基づいて評価を行った。
【0085】
図7は、上記検証試験によって得られた誤差の経時変化を示すグラフであり、(a)は第1の放電パターンにて放電したときのグラフ、(b)は第2の放電パターンにて放電したときのグラフである。図中、縦軸は真値に対するSOCの推定値の誤差(%)、横軸は時間(秒)を示している。
図に示すように、第1の放電パターンの場合で4%以内、第2のパターンの場合で2%以内の誤差であり、高い精度で推定できることを確認することができた。
【0086】
〔5 他の実施形態について〕
上記実施形態において、制御部7は、SOCとOCVとの関係を示す関数であるOCV(SOC)を記憶部11に記憶している。
上記実施形態では、蓄電池2を充放電させたときのSOCとOCVとの関係を示す測定値を、例えば最小2乗法等によって、上記式(4)に示す12次の多項式に回帰させることで、OCV(SOC)を求め、これを制御部7に記憶させた。
【0087】
これに対して、本実施形態では、下記式(18)に示すように、回帰させる多項式としてn次の多項式を考え、多項式の次数nを調整する点において、上記実施形態とは相違している。
蓄電池2におけるSOCとOCVとの関係を示す測定値の取得方法等、その他の点については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0089】
本実施形態では、上記実施形態と同様、最小2乗法によって回帰分析を行う。すなわち、上記式(19)に示すように、式(18)の左辺と右辺との残差の2乗和εを最小化することにより、SOCとOCVとの関係を示す測定値から回帰した多項式を求めるが、このとき、回帰した多項式であるOCV(SOC)が、式(20)に示す条件を満たすような次数nに設定されている。
つまり、回帰したOCV(SOC)は、SOCに対するOCVの変化率(dOCV/dSOC)の最大値が、最小となるような次数nに設定される。
【0090】
式(18)中の次数nを設定するに当たって、まず、次数nの数値幅を設定する。次数nの数値幅は、例えば、最小値として0が設定され、最大値として12が設定される。
次数nの最小値、及び最大値は、任意の整数に設定することができるが、最大値として12よりも大きい値に設定したとしても、SOCの変化に対するOCVの変化量に与える影響に大きな変化が見られないことから、次数nの最大値としては12が好ましい。
【0091】
次いで、設定された各次数それぞれの回帰式を用いて、SOCとOCVとの関係を示す測定値から回帰した多項式を求める。
さらに、回帰した多項式におけるSOCの変化に対するOCVの変化量(dOCV/dSOC)の最大値を、各次数に設定された多項式それぞれについて求める。
そして、求めたSOCの変化量に対するOCVの変化量(dOCV/dSOC)の最大値が最小となる次数nを特定する。
【0092】
以上のように、本実施形態における、SOCとOCVとの関係を示す関数であるOCV(SOC)は、SOCに対するOCVの変化率の最大値が最小となるように、式(18)に示す多項式の次数nが設定されている。
制御部7は、上記方法によって特定された次数nに設定された多項式であるOCV(SOC)をSOCとOCVとの関係を示す関数として記憶する。
これにより、制御部7は、上記方法によって特定された次数nに設定された多項式であるOCV(SOC)を用いてSOCの推定処理を行う。
【0093】
本実施形態では、式(18)中の次数nの値が無駄に大きい値に設定されるのを抑制しつつ、SOCの推定精度に影響を与えるSOCに対するOCVの変化率をできるだけ小さくすることができる。
この結果、よりSOCの推定精度を高めつつ、制御部7によるSOCの推定処理に係る演算量が増加するのを抑制することができる。
【0094】
図8は、上記方法によって求めたSOCとOCVとの関係を示す関数であるOCV(SOC)を示すグラフの一例であり、(a)は次数nが12の場合、(b)は次数nが7の場合を示すグラフである。図中、横軸はSOC(%)、縦軸はOCV(V)である。
以下、次数nが12の場合を条件1、次数nが7の場合を条件2ともいう。
図8に示す例では、OCV(SOC)を求める際に、次数nが7の場合と、次数nが12の場合とで、同一の測定値から回帰し、次数nが7の場合に、SOCに対するOCVの変化率の最大値が最小となった場合を示している。
【0095】
図8(a)に示すように、条件1では、図中に示す丸印の部分のように、曲率が他の部分と比較して大きい部分が現れている。
これに対して、条件2では、
図8(b)に示すように、
図8(a)中の丸印の部分のような曲率が比較的大きい部分が現れていないことが判る。また、条件1の場合と比較して、条件2の場合の方が、OCV(SOC)を示すグラフ曲線が滑らかになっていることが判る。
【0096】
図9は、条件1又は条件2による関数を用いて、試験的に蓄電池2に放電させたときのSOCの誤差を示すグラフであり、(a)は条件1の場合、(b)は条件2の場合を示している。図中、縦軸は真値に対するSOCの推定値の誤差(%)、横軸は放電開始からの経過時間(秒)を示している。
なお、ここでは、SOC100%の状態の蓄電池2に所定の電流値で一定に放電させたときのSOCを推定し、得られたSOCの推定値と、バッテリテスタによる真値との間の誤差を求めた。
【0097】
図9(a)を見ると、経過時間7000秒付近で誤差が−4%程度に極端に増加している部分(図中、丸印の部分)が現れている。この部分は、
図8(a)中の左側の丸印の部分に対応している。
また、その他の部分においても誤差約−1%の付近で、約1%程度の変動が数多く見られる。
【0098】
これに対して、
図9(b)では、
図9(a)の丸印の部分に現れているような誤差が極端に大きくなっているところは見られず、また、その他の部分においても
図9の場合と比較して小さい誤差で変動も少なくなっている。
なお、
図9中、経過時間が7500秒以上の範囲は、SOCが20%以下の実用領域から外れている領域である。よって、この領域における誤差は、実質的な性能に影響を与えない。
【0099】
以上の試験結果から、本実施形態によれば、SOCの推定精度をより高めることができることが確認できた。
【0100】
〔6 その他〕
本発明は、上記各実施形態に限定されない。例えば、上記各実施形態では、蓄電池2としてリチウムイオン電池を用いた場合を示したが、他の種類の蓄電池に対しても本実施形態の蓄電池管理装置3は適用可能である。