【解決手段】本発明の耐次亜塩素酸塩溶液性評価方法は、樹脂材料の、次亜塩素酸塩溶液に対する耐性を評価する耐次亜塩素酸塩溶液性評価方法であって、樹脂材料を射出成形して、ねじ穴10aの内径が2.5〜7mmの試験用ボス10を作製するボス作製工程と、試験用ボス10に、特定材料のタッピングねじ20を所定トルク設定値でねじ込んで試験体を作製する試験体作製工程と、前記試験体の全体を、40〜60℃の範囲内の温度に調整した次亜塩素酸塩溶液中に浸漬させて耐次亜塩素酸塩溶液性を評価する評価工程と、を有し、タッピングねじ20として、軸21の最大直径が、試験用ボス10のねじ穴10aの穴径に対して1.2〜1.4倍となっているねじを用いる。
前記試験用ボスのねじ穴の内径を5.2〜5.4mmとし、前記タッピングねじをねじ込む際のトルク設定値を21〜26N・mにする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐次亜塩素酸塩溶液性評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の耐次亜塩素酸塩溶液性の評価方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の耐次亜塩素酸塩溶液性の評価方法は、樹脂材料の、次亜塩素酸塩溶液に対する耐性を評価する耐次亜塩素酸塩溶液性評価方法であって、ボス作製工程と試験体作製工程と評価工程とを有する。ここで、次亜塩素酸塩溶液とは、次亜塩素酸塩を含む溶液である。溶媒としては、水、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。次亜塩素酸塩溶液は、界面活性剤を含んでもよい。
本評価方法が適用される樹脂材料としては特に制限されず、充分な耐次亜塩素酸塩溶液性が得られる点では、各種結晶性樹脂が好ましく、汎用性、機械的物性及び成形性の点からは、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
【0009】
ボス作製工程は、樹脂材料を射出成形して試験用ボスを作製する工程である。
通常、ボスとは、ねじをねじ込み可能なねじ穴が形成された円筒体を有する成形体のことである。本実施形態においては、
図1に示すように、試験用ボス10は、平面状の基材11の一方の表面に、穴径一定のねじ穴10aが形成された円筒体12が、基材11の表面に対して垂直に形成されたものである。円筒体12は、基材11の表面に複数形成されてもよい。円筒体12が基材11の表面に複数形成される場合には、全ての円筒体12が同じ形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。例えば、円筒体12ごとに、外径、穴径、円筒体12の長さが異なってもよい。
作業性が優れる点では、円筒体12の外径が11.5〜12.5mmの範囲内であることが好ましく、ねじ穴10aの穴径は2.5〜7.0mmの範囲内であり、5.2〜5.4mmの範囲内であることが好ましく、円筒体12の長さが25〜30mmの範囲内であることが好ましい。
【0010】
樹脂材料を射出成形する際の射出成形条件は一定とすることが好ましい。射出成形条件を一定とすれば、評価の精度が向上する。
樹脂材料としてポリプロピレンを使用する場合、射出成形条件は下記の通りである。
成形温度:230〜280℃とすることが好ましく、240〜260℃とすることがより好ましい。
金型温度:30〜50℃とすることが好ましく、35〜45℃とすることがより好ましい。
試験片の作製において射出成形を適用する理由は、通常、容器及び蓋を製造する際には射出成形が適用され、また、射出成形は残留歪みが比較的大きく、環境応力腐食割れを起こしやすいためである。
【0011】
試験体作製工程は、試験用ボス10にタッピングねじ20を所定のトルク設定値でねじ込んで試験体を作製する工程である(
図1参照)。
タッピングねじ20としては、軸21の最大直径Dが、試験用ボス10のねじ穴10aの穴径に対して1.2〜1.4倍のものが使用される。軸21の最大直径Dが前記下限値以上であることにより、タッピングねじ20をねじ穴10aにねじ込んだ際に試験用ボス10に充分に歪みが生じ、試験体を次亜塩素酸塩溶液に浸漬したときの割れを促進できる。しかし、軸21の最大直径Dを前記上限値より大きくすると、試験用ボス10に生じる歪みが大きすぎて、試験体を次亜塩素酸塩溶液に浸漬する前に割れを生じることがある。
【0012】
タッピングねじ20は、少なくとも表面が、熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びチタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む材料で形成されている。これら材料は、次亜塩素酸塩溶液に対する耐性が高いものである。
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、塩素化ポリエーテル等が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
タッピングねじ20の表面の材料は、機械的物性及び価格のバランスの点からは、ポリアミドが好ましい。
前記の熱可塑性樹脂又は不飽和ポリエステル樹脂は、機械的物性を向上させるために、タルク等の充填剤、ガラス繊維等の強化繊維が含まれてもよい。
また、前記の熱可塑性樹脂又は不飽和ポリエステル樹脂は、樹脂に添加される通常の添加剤(例えば、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、着色剤等)が含まれてもよい。
タッピングねじ20は、表面のみが、熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びチタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む材料で形成されてもよいし、タッピングねじ20の全体が、熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びチタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む材料で形成されてもよい。
タッピングねじ20の表面のみが、熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びチタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む材料で形成される場合、その内側の基体は、各種の樹脂又は各種の金属からなる。
【0013】
タッピングねじ20は、その頭部22が試験用ボス10に当接するまでねじ込むことが好ましい。頭部22が試験用ボス10に当接するまでタッピングねじ20をねじ込めば、ねじ込み長さを容易に一定にでき、試験用ボス10に生じる歪みを容易に一定化できる。
ねじ込みの際のトルク設定値は10N・m以上であり、40N・m以下が好ましい。円筒体のねじ穴10aの内径を5.2〜5.4mmとした場合には、トルク設定値を21〜26N・mとすることが好ましく、21〜24N・mとすることがより好ましい。トルク設定値が前記下限値以上であることで、タッピングねじ20を確実にねじ穴10aにねじ込むことができ、前記上限値以下であることで、過剰なねじ込みを防止できる。電動ドライバーを使用すれば、トルク設定値の調整は可能である。
【0014】
評価工程は、試験体1の全体を、加熱した次亜塩素酸塩溶液S中に浸漬させて評価する工程である(
図2参照)。具体的には、ガラス容器等の非金属製容器A内に次亜塩素酸塩溶液Sを注ぎ入れ、その次亜塩素酸塩溶液S内に試験体1の全体を浸漬させ、次亜塩素酸塩溶液Sを加熱し、放置する。次亜塩素酸塩溶液Sに浸漬させた試験体1については、適宜、割れ(クラック)の発生を目視により確認する。
該評価工程では、加熱開始から、試験用ボスに割れが生じた時点までの浸漬時間を測定し、その浸漬時間によって耐次亜塩素酸塩溶液性を評価することができる。同一条件の評価方法で、樹脂材料が各々異なる複数の試験用ボスを評価する場合には、浸漬時間が長い程、耐次亜塩素酸塩溶液性に優れる。
また、浸漬時間を予め決めておき、所定の浸漬時間が経過した後の、割れの有無を判定することにより、耐次亜塩素酸塩溶液性を評価してもよい。
【0015】
次亜塩素酸塩溶液の温度は40〜60℃、好ましくは45〜55℃の範囲内に調整する。次亜塩素酸塩溶液の温度が前記下限値未満であると、環境応力腐食割れを充分に促進させることができないため、短時間に耐次亜塩素酸塩溶液性を評価することができず、前記上限値を超えると、次亜塩素酸が分解して塩素ガス等が発生するおそれがある。
次亜塩素酸塩溶液の温度調整方法としては、温水バス又はオイルバスによって非金属製容器を加熱し、温度調整することで、次亜塩素酸塩溶液の温度を調整する方法、次亜塩素酸塩溶液に投げ込み式のヒーターを入れて直接加熱し、温度調整する方法等が挙げられる。加熱した次亜塩素酸塩溶液からは塩素ガスが発生するおそれがあるため、熱風加熱機は使用しないことが好ましい。また、次亜塩素酸塩溶液は、ドラフト内で加熱することが好ましい。
非金属製容器は、外側から割れの状況を観察できることから、透明であることが好ましい。
【0016】
上記の評価方法では、評価対象の樹脂材料によって形成された試験用ボスにタッピングねじをねじ込んで、試験用ボスに歪みを付加した試験体を作製し、その試験体の全体を、加熱した次亜塩素酸塩溶液に浸漬させるため、試験用ボスの環境応力腐食割れを促進させることができる。したがって、樹脂材料の耐次亜塩素酸塩溶液性を短時間に評価でき、実用性が高い。
また、上記の評価方法では、タッピングねじとして、少なくとも表面が、熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びチタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む材料で形成されたものを使用するため、次亜塩素酸塩溶液によって腐食する器具の使用を避けることができる。
また、樹脂メーカーにおいては、試験用ボスを成形するための金型を保有していることが多い。上記評価方法で使用するポリアミド製タッピングねじやその他の器具(電動ドライバー、非金属製容器等)として汎用品を用いることができる。そのため、上記評価方法では、低コストで耐次亜塩素酸塩溶液性を評価することができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例及び比較例によって、より具体的に示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0018】
(実施例1)
ポリプロピレン(サンアロマー社製、PM500A)と着色用マスターバッチとをドライブレンドして樹脂組成物を調製し、その樹脂組成物を射出成形して試験用ボスを6個作製した。射出成形の際の成形温度を250℃、金型温度を40℃とした。試験用ボスは、外径が12mm、ねじ穴の穴径が5.2mm、長さが27mmの円筒体が平板の片面に形成されたものとした。
本例では、評価に用いるタッピングねじとして、市販の石膏ボード用ポリアミド製(充填剤としてタルクを含む)タッピングねじ(サンコー社製、BTP−3.5×25、頭部外径12mm、全長25mm)を利用した。このタッピングねじには、高さが異なる2種類のねじ山が形成されている。2種類のねじ山のうち高い方のねじ山を、ニッパーで切断し、やすり(金属平やすり、#200の紙やすり)で研削することにより、低い方のねじ山の高さと揃うように高さを調整して試験用のタッピングねじ(軸の最大直径7mm)を得た。
前記試験用ボスのねじ穴に前記タッピングねじを、タッピングねじの頭部が試験用ボスの円筒体に当接するまでねじ込んで試験体を得た。試験体は6個作製した。ねじ込みの際には、電動ドライバー(パナソニック社製 EZ6403)を使用し、電動ドライバーのトルク制御機構を利用して、ねじ込みトルク設定値を22.6N・mとした。
密閉式ガラス容器に、次亜塩素酸ナトリウム及び界面活性剤を含む次亜塩素酸塩水溶液からなる塩素系漂白剤(花王社製キッチンハイター)を注ぎ、次いで、ガラス容器内の塩素系漂白剤の中に、前記6個の試験体を浸漬させた。その際、全部の試験体について、試験体全体が塩素系漂白剤に浸漬するようにした。
塩素系漂白剤及び試験体を収容した密閉式ガラス容器を、ドラフト内に設置した水浴内に配置し、温度50℃で水浴を加熱し、その状態のまま放置した。
そして、試験用ボスの円筒体が割れるまでの浸漬時間を計測し、6個の試験体の浸漬時間の平均値を求めて、耐次亜塩素酸塩溶液性を評価した。浸漬時間の平均値を表1に示す。
【0019】
(実施例2)
試験用ボスのねじ穴の穴径を5.4mmに変更した以外は実施例1と同様にして、耐次亜塩素酸塩溶液性を評価した。
【0020】
(実施例3)
タッピングねじの軸の最大直径を6.5mmに変更した以外は実施例1と同様にして、耐次亜塩素酸塩溶液性を評価した。
【0021】
(実施例4)
試験用ボスのねじ穴の穴径を5.4mmに変更し、且つ、タッピングねじの軸の最大直径を6.5mmに変更した以外は実施例1と同様にして、耐次亜塩素酸塩溶液性を評価した。
【0022】
(比較例1)
ポリアミド製のタッピングねじを鉄製のタッピングねじ(軸の最大直径6.0mm)に変更した以外は実施例1と同様にして、耐次亜塩素酸塩溶液性を評価しようとしたが、塩素系漂白剤によって金属製タッピングねじが腐食し始めたので、ただちに評価を中止した。
【0023】
(比較例2)
タッピングねじの軸の最大直径を10.0mmに変更した以外は実施例1と同様にして、耐次亜塩素酸塩溶液性を評価しようとしたが、タッピングねじをボスのねじ穴にねじ込んだ時点で割れが発生したので、評価を中止した。
【0024】
(比較例3)
塩素系漂白剤の温度を23℃に調整した以外は実施例1と同様にして、耐次亜塩素酸塩溶液性を評価した。
【0025】
(比較例4)
市販の塩素系漂白剤の製品に使用されているポリエチレン製容器に、実施例1と同様の塩素系漂白剤を充填し、実施例1と同様の樹脂組成物を射出成形して得た蓋を装着して試験体とした。その試験体をドラフト内に設置した水浴内に配置し、設定温度50℃で水浴を加熱し、その状態のまま放置した。900時間放置したが、蓋の割れが生じず、試験を中止した。
【0026】
(比較例5)
ASTM1693に規定のベントストリップ法を利用する例である。
具体的には、まず、実施例1と同様の樹脂組成物を射出成形して、幅13mm、長さ38mm、厚さ2mmの矩形状板を複数枚作製した。その矩形状板の片面の中央部に、該矩形状板の長手方向に沿って切れ目(長さ19mm、深さ0.5mm)を形成して試験片を得た。
底板(幅15.9mm、長さ165mm、直径4.7mmの孔が10孔形成されている。)と、該底板の幅方向の両端に、底板に対して垂直に配置された側板(高さ9.5mm、長さ165mm)とからなるステンレス製金属製治具を用意した。該金属製治具においては、底板と2枚の側板とによって溝が形成されている。
前記金属製治具をテーブルの上に置き、切れ目が上に配置された状態で前記試験片を湾曲させ、その湾曲させた前記試験片を金属製治具に取り付けて試験体を得た。具体的には、切れ目が形成された面が側板に当接するように、湾曲させた試験片を金属製治具の溝に嵌め込んだ。
内径約40mmの試験管の中に実施例1と同様の塩素系漂白剤を注ぎ入れ、その塩素系漂白剤の中に前記試験体の全体を浸漬させ、試験管に栓をした。その栓をした試験管をドラフト内に設置した水浴内に配置し、温度50℃で水浴を加熱して耐次亜塩素酸塩溶液性を評価しようとしたが、塩素系漂白剤によって金属製治具が腐食し始めたので、ただちに評価を中止した。
【0027】
(比較例6)
実施例1と同様の樹脂組成物を射出成形して、幅一定部(幅6mm且つ長さ33mm)と両端に形成されたつかみ部とを有し、全長115mm、厚さ2mmの旧JIS2号ダンベル形試験片を複数枚作製した。該試験片の両方のつかみ部に、該試験片の幅方向に沿ったコの字型の切り込みを、試験片の中心点を回転中心とした点対称の位置に形成した。次いで、試験片中央部を支点に折り曲げ、コの字型の切り込み同士を嵌め合わせた。これにより、治具を用いずに湾曲させた試験体を得た。
実施例1と同様に密閉式ガラス容器に塩素系漂白剤を注ぎ、次いで、ガラス容器内の塩素系漂白剤の中に、前記試験体を浸漬させた。その際、試験体全体が塩素系漂白剤に浸漬するようにした。
塩素系漂白剤及び試験体を収容した密閉式ガラス容器を、ドラフト内に設置した水浴内に配置し、温度50℃で水浴を加熱し、その状態のまま放置した。1000時間放置したが、試験体の割れが生じず、試験を中止した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
本発明の評価方法で適用した実施例1〜4では、短時間に耐次亜塩素酸塩溶液性を評価することができた。また、実施例1〜4では、塩素系漂白剤に接触する器具に金属製のものを使用しなくてもよい。
比較例1では、鉄製ねじが塩素系漂白剤によって腐食するため、評価できなかった。
比較例2では、タッピングねじをボスのねじ穴にねじ込んだときに割れが発生し、耐次亜塩素酸塩溶液性を評価できなかった。
比較例3では、塩素系漂白剤の温度が低く、短時間に耐次亜塩素酸塩溶液性を評価することができなかった。
比較例4では、浸漬時間を900時間としても試験体に割れが発生しなかった。
比較例5では、試験体を保持する金属製治具が塩素系漂白剤によって腐食するため、評価できなかった。
比較例6では、短時間に耐次亜塩素酸塩溶液性を評価することができなかった。