【実施例】
【0037】
以下に、本発明をさらに具現化した実施例及び比較例により本発明の効果を確認した。以下の実施例1〜2及び比較例1は、上述した実施形態におけるシールド用素線の耐屈曲性の効果を確認するためのものである。一方、以下の実施例3〜8及び比較例2〜4は、上述した実施形態におけるシールドケーブルの高周波数帯での電磁シールド性能の効果を確認するためのものである。
【0038】
なお、
図4(a)〜
図4(c)は実施例における屈曲試験の方法を示す図、
図5は、屈曲試験における曲げ歪と破断までの屈曲回数の関係を示すグラフである。
【0039】
<実施例1>
実施例1では、
図3(a)に示す構成のシールド用素線を作製した。この際、下記の表1に示すように、直径0.332mmのSUS304からなる線材に電解銅めっきにより厚さ0.004mmの銅層を形成した後に、線径が0.18mmとなるまで当該線材を伸線加工し、鋼占積率(=S
1/S
2)を95%とした。
【0040】
【表1】
【0041】
この実施例1のシールド用素線に対して、屈曲試験機(ユアサシステム株式会社製小型卓上試験機 TCDM111LH)を用いて屈曲試験を行った。具体的には、この屈曲試験では、
図4に示すように、一対の屈曲治具40の間にシールド用素線を挿入すると共にシールド用素線の下端に50gの荷重を印加した状態で、当該シールド用素線の上部を左右に90°屈曲させた。この時の屈曲速度は60回/分とした。なお、屈曲回数1回とは、
図4(a)〜
図4(c)に示すように、左右へ1回ずつ曲げる1往復の屈曲を意味する。
【0042】
そして、曲げ歪が0.1で破断回数が100回以上であり、且つ、曲げ歪0.01で2000回以上である場合に、シールド用素線の耐屈曲性が良好であると評価した。これに対し、曲げ歪が0.1で破断回数が100回未満であり、又は、曲げ歪0.01で2000回未満である場合に、シールド用素線の耐屈曲性が劣ると評価した。なお、本実施例における曲げ歪εとは、下記の(6)式で表わされる。但し、下記の(6)式におけるrは、シールド用素線の半径であり、Rは、屈曲治具40の円弧部41の半径である。
【0043】
ε=r/(R+r) … (6)
【0044】
この実施例1では、
図5に示すように、曲げ歪が0.1で破断回数が100回以上であり、且つ、曲げ歪が0.01で破断回数が2000回以上であり、シールド用素線の耐屈曲性は良好であった。
【0045】
<実施例2>
実施例2では、上記の表1に示すように、SUS304からなる線材の直径を0.108mmとし、銅層の厚さを0.116mmとし、鋼占積率を10%としたことを除いて、実施例1と同様の条件でシールド用素線を作製し屈曲試験を行った。その結果、
図5に示すように、曲げ歪が0.1で破断回数が100回以上であり、且つ、曲げ歪が0.01で破断回数が2000回以上であり、シールド用素線の耐屈曲性は良好であった。
【0046】
<比較例1>
比較例1では、上記の表1に示すように、銅被覆鋼線に代えて、線径が0.18mmの銅線をシールド用素線として用い、このシールド用素線に対して、実施例1と同様の条件で屈曲用試験を行った。その結果、
図5に示すように、曲げ歪が0.1で破断回数が100回未満であり、且つ、曲げ歪が0.01で破断回数が2000回未満であり、シールド用素線の耐屈曲性が劣っていた。
【0047】
<実施例3>
実施例3では、
図1に示す構成のシールドケーブルを作製した。
【0048】
この際、絶縁電線を次のように作製した。すなわち、先ず、0.32mmの銅素線を9本撚り合わせた子撚線を19本作製し、さらに、この19本の子撚線を撚り合わせることで、線径が5.3mmの中心導体を作製した。次いで、この中心導体の外周に、架橋ポリエチレンから構成され、厚さが1.1mmの絶縁層を形成した。
【0049】
また、シールド用素線としては、
図3(b)に示すような錫メッキ層を有する構造のものを作製した。具体的には、下記の表2に示すように、先ず、直径0.08mmのSUS304からなる線材に電解銅めっきにより厚さ0.085mmの銅層を形成した後に、線径が0.18mmとなるまで当該線材を伸線加工し、さらに電解めっき処理によりその表面に錫メッキ層を形成した。
【0050】
【表2】
【0051】
つまり、本実施形態では、電解銅めっき完了から伸線完了までのシールド用素線の加工の度合いを示す加工度を48%とした。具体的には、この加工度PDは、下記の(7)で表される。但し、下記の(7)式におけるΔSは、電解銅めっき完了時から伸線完了時までの間のシールド用素線の断面積の減少量であり、S
2’は、電解銅めっき完了時のシールド用素線の断面積である。
【0052】
PD=ΔS/S
2’ … (7)
【0053】
上記の表2に示すように、加工完了後のこのシールド用素線の鋼占積率(=S
1/S
2)は10%であり、中心部の比透磁率μ
Sは4.8であった。この比透磁率は、振動試料型磁力計を用いて測定した。
【0054】
以上に説明したシールド用素線を7本並べることで素線束を形成し、さらに24本の素線束を編み込むことで、
図2に示す構造を有する編組線を作製した。この編組線の長径(
図1の符号A
L)は15mmとし、当該編組線の短径(
図1の符号A
M)は7.5mmとした。また、この編組線の厚さは1.1mmであり、編組密度は98%であった。なお、この実施例3では、編組線の外周にシース層を形成しなかった。
【0055】
この実施例3のシールドケーブルに対して、高周波数帯での電磁シールド性能を評価する試験を行った。具体的には、この電磁シールド性能試験では、シールドケーブルの外周に電流プローブ(Fischer Custom Communications, Inc社製カレントプローブ TCP−9651)を配置し、信号発信機からシールドケーブルの中心導体に100MHzの信号を入力し、電流プローブに接続されたスペクトラムアナライザ(ローデ・シュワルツ・ジャパン社製EMIテストレシーバ ESPI7)を用いて、シールドケーブルの外側に漏洩するノイズレベルを測定した。
【0056】
そして、この電磁シールド試験では、シールドケーブルの100MHzにおけるノイズレベルと基準値との差分を算出し、当該差分が50dBμV以上である場合に、シールドケーブルの高周波帯における電磁シールド性能が良好であると評価した。これに対し、上記の差分が50dBμV未満である場合には、シールドケーブルの高周波帯における電磁シールド性能が劣ると評価した。
【0057】
なお、上記の基準値として、編組線のないケーブルに対して上記の同様の条件で電磁シールド性能試験を予め行い、そのケーブルの100MHzにおけるノイズレベルを設定した。
【0058】
この実施例3では、上記の表2に示すように、100MHzにおける電磁シールド効果が52dBμVであり、シールドケーブルの高周波数帯における電磁シールド性能が良好であった。
【0059】
<実施例4>
実施例4では、SUS304からなる線材の直径を0.176mmとし、銅層の厚さを0.037mmとし、シールド用素線の鋼占積率を50%としたことを除いて、実施例3と同様の条件でシールドケーブルを作製した。上記の表2に示すように、この実施例4の中心部の比透磁率μ
Sは4.5であった。
【0060】
そして、この実施例4のシールドケーブルに対して実施例3と同様の条件で電磁シールド性能試験を行った。その結果、上記の表2に示すように、100MHzにおける電磁シールド効果が52dBμVであり、シールドケーブルの高周波数帯における電磁シールド性能が良好であった。
【0061】
<実施例5>
実施例5では、SUS304からなる線材の直径を0.244mmとし、銅層の厚さを0.003mmとし、シールド用素線の鋼占積率を95%としたことを除いて、実施例3と同様の条件でシールドケーブルを作製した。上記の表2に示すように、この実施例5の中心部の比透磁率μ
Sは4.4であった。
【0062】
そして、この実施例5のシールドケーブルに対して実施例3と同様の条件で電磁シールド性能試験を行った。その結果、上記の表2に示すように、100MHzにおける電磁シールド効果が51dBμVであり、シールドケーブルの高周波数帯における電磁シールド性能が良好であった。
【0063】
<実施例6>
実施例6では、SUS304からなる線材の直径を0.108mmとし、銅層の厚さを0.116mmとした(すなわち加工度を72%とした)ことを除いて、実施例3と同様の条件でシールドケーブルを作製した。上記の表2に示すように、この実施例5の中心部の比透磁率μ
Sは9.5であった。
【0064】
そして、この実施例6のシールドケーブルに対して実施例3と同様の条件で電磁シールド性能試験を行った。その結果、上記の表2に示すように、100MHzにおける電磁シールド効果が51dBμVであり、シールドケーブルの高周波数帯における電磁シールド性能が良好であった。
【0065】
<実施例7>
実施例7では、SUS304からなる線材の直径を0.24mmとし、銅層の厚さを0.05mmとする(すなわち加工度を72%とする)と共にシールド用素線の鋼占積率を50%としたことを除いて、実施例3と同様の条件でシールドケーブルを作製した。上記の表2に示すように、この実施例6の中心部の比透磁率μ
Sは9.2であった。
【0066】
そして、この実施例7のシールドケーブルに対して実施例3と同様の条件で電磁シールド性能試験を行った。その結果、上記の表2に示すように、100MHzにおける電磁シールド効果が51dBμVであり、シールドケーブルの高周波数帯における電磁シールド性能が良好であった。
【0067】
<実施例8>
実施例8では、SUS304からなる線材の直径を0.332mmとし、銅層の厚さを0.004mmとする(すなわち加工度を72%とする)と共にシールド用素線の鋼占積率を95%としたことを除いて、実施例3と同様の条件でシールドケーブルを作製した。上記の表2に示すように、この実施例8の中心部の10kHzでの比透磁率μ
Sは9.1であった。
【0068】
そして、この実施例8のシールドケーブルに対して実施例3と同様の条件で電磁シールド性能試験を行った。その結果、上記の表2に示すように、100MHzにおける電磁シールド効果が50dBμVであり、シールドケーブルの高周波数帯における電磁シールド性能が良好であった。
【0069】
<比較例2>
比較例2では、低炭素鋼からなる線材の直径を0.108mmとし、銅層の厚さを0.116mmとした(すなわち加工度を72%とした)ことを除いて、実施例3と同様の条件でシールドケーブルを作製した。上記の表2に示すように、この比較例2の中心部の比透磁率μ
Sは42.9であった。
【0070】
そして、この比較例2のシールドケーブルに対して実施例3と同様の条件で電磁シールド性能試験を行った。その結果、上記の表2に示すように、100MHzにおける電磁シールド効果が49dBμVであり、シールドケーブルの高周波数帯における電磁シールド性能が劣っていた。
【0071】
<比較例3>
比較例3では、低炭素鋼からなる線材の直径を0.24mmとし、銅層の厚さを0.05mmとする(すなわち加工度を72%とする)と共にシールド用素線の鋼占積率を50%としたことを除いて、実施例3と同様の条件でシールドケーブルを作製した。上記の表2に示すように、この比較例3の中心部の比透磁率μ
Sは43.6であった。
【0072】
そして、この比較例3のシールドケーブルに対して実施例3と同様の条件で電磁シールド性能試験を行った。その結果、上記の表2に示すように、100MHzにおける電磁シールド効果が48dBμVであり、シールドケーブルの高周波数帯における電磁シールド性能が劣っていた。
【0073】
<比較例4>
比較例4では、低炭素鋼からなる線材の直径を0.332mmとし、銅層の厚さを0.004mmとする(すなわち加工度を72%とする)と共にシールド用素線の鋼占積率を95%としたことを除いて、実施例3と同様の条件でシールドケーブルを作製した。上記の表2に示すように、この比較例4の中心部の比透磁率μ
Sは43.3であった。
【0074】
そして、この比較例4のシールドケーブルに対して実施例3と同様の条件で電磁シールド性能試験を行った。その結果、上記の表2に示すように、100MHzにおける電磁シールド効果が48dBμVであり、シールドケーブルの高周波数帯における電磁シールド性能が劣っていた。
【0075】
以上の結果から、実施例1,2と比較例1を比較すると、
図5に示すように、銅線よりも銅被覆鋼線の方が耐屈曲性に優れており、鋼占積率を10%以上とすることで良好な耐屈曲性を得ることができた。
【0076】
また、実施例3〜8と比較例2〜4を比較すると、表2に示すように、シールド用素線の中心部を構成する鋼が、10未満の比透磁率μ
sを有していることで(μ
s<10)、100MHzにおける電磁シールド性能を良好とすることができた。
【0077】
さらに、実施例3と実施例6、実施例4と実施例7、或いは、実施例5と実施例8を比較すると、表2に示すように、シールド用素線の中心部を構成する鋼が、5未満の比透磁率μ
sを有していることで(μ
s<5)、100MHzにおける電磁シールド性能をさらに良好とすることができた。