【解決手段】リチウムイオン二次電池と、スイッチング部位と、を有し、リチウムイオン二次電池は、参照極、正極、および負極を有し、スイッチング部位により、参照極は正極または負極と接続され、スイッチング部位により、参照極と正極との接続および参照極と負極と接続が切り替えられ、正極電位を測定する際に参照極に流れる電流積算値から負極電位を測定する際に参照極に流れる電流積算値を引いた差分の絶対値が参照極の充放電容量の10%〜90%となるように制御されるリチウムイオン二次電池システム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態における参照極入りリチウムイオン二次電池システムの構成の概略図である。
図1において、リチウムイオン二次電池システム1000は、リチウムイオン二次電池1100、電位差評価装置1200、スイッチング部位100、充放電制御装置200、電流値ロガ―300で構成される。リチウムイオン二次電池1100は、正極400、負極500、正極400および負極500の間に配置されたセパレータ600、参照極700、電池ケース800、電解質900から構成される。
【0012】
リチウムイオン二次電池1100の構成要素である電極群は正極400、セパレータ600、負極500、セパレータ600を順に重ね合わせた構成となっているが、これらが何度も積層されていてもよい。また、正極400、セパレータ600、負極500、セパレータ600のいずれかの間に参照極700が挿入されていてもよい。リチウムイオン二次電池1100の形状は、捲回円筒型、偏平長円形型、捲回角型、積層型などがあり、いずれの形状を選択してもよい。
【0013】
参照極700と正極400または負極500間の電位差は電位差評価装置1200により評価される。この際に、スイッチング部位100を制御することにより参照極700と正極400または負極500間の電位差をそれぞれ評価することが可能である。換言すれば、スイッチング部位100により、参照極700は正極400または負極500と接続され、スイッチング部位100により、参照極700と正極400との接続および参照極700と負極500と接続が切り替えられる。
【0014】
充放電制御装置200により参照極700と正極400または負極500間に任意の電流を流すことが可能である。電流値ロガ―300により参照極700と正極400または負極500間に流れた電流値を測定することが可能である。
【0015】
このように、本発明の一実施形態では、スイッチング部位100により、参照極700の充放電量が制御されている。正極400や負極500と参照極700間に電流を流すことで参照極700のLi充填率を制御することにより、参照極700の電位変化を抑えることができる。
【0016】
参照極700で電位を測定する場合、参照極700の材料内にリチウムイオンが充填される現象や、参照極700の材料内からリチウムイオンが放出される現象が発生する。一般に、参照極700の材料内のリチウム量が大きく変化するとの電位が変化する。それに対して、本発明の一実施形態では、正極400の電位または負極500の電位を測定する際に参照極700に流れる電流の積算値が制御されることにより、参照極700の電位変化を抑えられる。このとき、正極400の電位を測定する際に参照極700に流れる電流積算値から負極500の電位を測定する際に参照極700に流れる電流積算値を引いた差分の絶対値が参照極700の充放電容量の10%〜90%、望ましくは30%〜70%、更に望ましくは40%〜60%、なるように制御されることが望ましい。また、参照極700の材料内のリチウム量が全容量の90%以上になると電位が低下し、また、10%以上になると電位が上昇する。よって、参照極700内の電位変化を抑えるには、参照極700内のリチウム量を全容量の10%〜90%に制御することが望ましい。
【0017】
<正極400>
正極400は、正極箔450、正極活物質層410から構成される。正極箔450への正極活物質層410の塗布には、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法などの既知の製法を採ることができ、手段に制限はない。
【0018】
正極活物質層410は、リチウムイオンを可逆的に挿入脱離可能なリチウム含有酸化物からなる正極活物質を含んでいる。正極活物質の種類は特に制限されないが、例えば、ニッケル酸リチウムLiNiO
2や、コバルト酸リチウムLiCoO
2、マンガン酸リチウムLiMn
2O
4、オリビン鉄FeLiPO
4などのリン酸遷移金属リチウムが挙げられる。正極活物質として上記の材料が一種単独または二種以上含まれていてもよい。正極活物質層410中の正極活物質は、充電過程においてリチウムイオンが脱離し、放電過程において、負極活物質層510中の負極活物質から脱離したリチウムイオンが挿入される。
【0019】
正極箔450には、厚さが10〜100μmのアルミニウム箔、厚さが10〜100μm、孔径0.1〜10mmのアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板などが用いられ、材質もアルミニウムの他に、ステンレス鋼、チタンなども適用可能である。本発明では、材質、形状、製造方法などに制限されることなく、任意の集電体を使用することができる。
【0020】
<負極500>
負極500は、負極箔550、負極活物質層510から構成される。負極箔550への負極活物質層510の塗布には、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法などの既知の製法を採ることができ、手段に制限はない。
【0021】
負極活物質層510は、リチウムイオンを可逆的に挿入脱離可能な負極活物質を含んでいる。負極活物質として、天然黒鉛や、天然黒鉛に乾式のCVD法もしくは湿式のスプレー法によって被膜を形成した複合炭素質材料、エポキシやフェノール等の樹脂材料もしくは石油や石炭から得られるピッチ系材料を原料として焼成により製造される人造黒鉛、シリコン(Si)、シリコンを混合した黒鉛、難黒鉛化炭素材チタン酸リチウムLi
4Ti
5O
12などを用いることができる。負極活物質として上記の材料が一種単独または二種以上含まれていてもよい。負極活物質層510中の負極活物質は、充電過程において、正極活物質層410中の正極活物質から脱離したリチウムイオンが挿入され、放電過程においてリチウムイオンが脱離する。
【0022】
負極箔550には、厚さが10〜100μmの銅箔、厚さが10〜100μm、孔径0.1〜10mmの銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板などが用いられ、材質も銅の他に、ステンレス鋼、チタンなども適用可能である。本発明では、材質、形状、製造方法などに制限されることなく、任意の集電体を使用することができる。
【0023】
<セパレータ600>
セパレータ600には、例えばポリプロピレン等が用いられる。セパレータ600としてポリプロピレン以外にも、ポリエチレンなどのポリオレフィン製の微孔性フィルムや不織布などを用いることができる。
【0024】
<電解質900>
電解質900には特に制限はないが、例えば体積比が1:1のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/l溶解させた非水電解液が、電池ケース800に注入されている。
【0025】
リチウム塩としては、特に限定はないが、無機リチウム塩では、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiI、LiCl、LiBr等、また、有機リチウム塩では、LiB[OCOCF
3]
4、LiB[OCOCF
2CF
3]
4、LiPF
4(CF
3)
2、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2CF
2CF
3)
2等を用いることができる。
【0026】
溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)等の非プロトン性有機系溶媒、あるいはこれらの2種以上の混合有機化合物の溶媒が用いられているがそれらの種類は制限されない。
【0027】
電解質900として電解液以外に固体高分子電解質(ポリマー電解質)を用いる場合には、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド等のイオン伝導性ポリマーを電解質に用いることができるがそれらの種類は制限されない。これらの固体高分子電解質を用いた場合、セパレータを省略できる。
【0028】
<電池ケース800>
電池ケース800の材料は特に制限はされない。例えば、SUSやラミネートパックを用いることができる。
【0029】
<参照極700>
参照極700の材料として、参照極700を構成する材料内のリチウム量が変化しても参照極700の電位変化が小さいものを用いることが望ましい。本発明の一実施形態における参照極700は、リチウムマンガンスピネル、リチウム合金、チタン酸リチウム、リン酸遷移金属リチウム、および金属リチウムのいずれか1つ以上を有し、それらをNiやAlなどの金属線または金属箔に接着させた構造である。これらのリチウム化合物またはリチウム合金の組成については特に限定しない。
【0030】
例えば、チタン酸リチウムは、Li
4Ti
5O
12にLiを充填させてLi
7Ti
5O
12になる。Li
4Ti
5O
12が基準(0%)、リチウムを充填して組成がLi
7Ti
5O
12となった状態を100%と定義する。この際に充填率が10〜90%では電位が1.5〜1.6V(vsLi/Li
+)の間で安定となり、参照極として機能させることが可能である。また、リン酸遷移金属リチウムは、充填率が10〜90%では3.5〜4.0V(vsLi/Li
+)の間で安定となり、参照極として機能させることが可能である。リチウム金属は、水と反応するため大気中での使用は難しい。それに対して、チタン酸リチウム、リン酸遷移金属リチウムは水との反応速度が遅いため、大気中でも使用可能である。
【0031】
一つ以上の参照極700は電池ケース800内に設置されていれば、参照極700の数、設置場所の指定は特にはない。例えば電池ケース800において、正極400とセパレータ600の間に設置することが可能である。また、負極500とセパレータ600の間に設置することも可能である。正極400と負極500の間のセパレータ600を二枚とし、セパレータ600とセパレータ600間に設置することも可能である。さらには、電池ケース800内部にて正極400と負極500が対面する外側部に設置することも可能である。
【0032】
参照極700は、正極400、負極500のいずれとも電気導電性は持たないことが望ましいため、セパレータ600に使用されるポリオレフィン系樹脂シートなどで覆われることにより絶縁処理をしてもよい。
【0033】
図2は、本発明の一実施形態によるリチウムイオン二次電池システムのシステムブロック図である。
図2において、制御回路1300は、電位差評価装置1200からの測定結果を受け取り、電流検出および電流負荷回路1400を介して電圧を基にリチウムイオン二次電池1100の充放電量を制御するものである。
【0034】
上記のようなリチウムイオン二次電池、そのリチウムイオン二次電池を有するリチウムイオン二次電池システムは、プラグインハイブリッド自動車や電気自動車に用いられる車載用蓄電システム、また、発電により生み出された電力を一時的に保管するための定置用蓄電システムに応用することが可能である。
【0035】
図3は、本発明の一実施形態における参照極を用いて測定した正極電位、負極電位を基に電池の運転方法について制御する方法である。
図3の制御フローチャートを説明する。
【0036】
<ステップS1>
初めに、リチウムイオン二次電池1100が充電中であるか否かを判定する。非充電中と判定すると(ステップS1においてNO)、ステップS6へ処理を移行する。ステップS1においてリチウムイオン二次電池1100が充電中であると判定されると(ステップS1においてYES)、ステップS2へ処理を移行する。
【0037】
<ステップS2>
電位差評価装置1200は、正極400と参照極700との電位差ΔVPおよび負極500と参照極700との電位差ΔVNを検出し、ステップS3へ処理を移行する。
【0038】
<ステップS3>
電位差評価装置1200は、電位差ΔVNが0、もしくは規定値Bよりも大きいか否かを判定する。すなわち、基準電位よりも負極500の電位の方が高いか否かが判定される。そして、電位差ΔVNが0以下であると判定されると(ステップS3においてNO)、ステップS5へ処理を移行する。ステップS3において電位差ΔVNが0よりも大きいと判定されると、もしくは規定値B(規定値が0の場合は0)よりも大きいと判定されると(ステップS3においてYES)、ステップS4へ処理を移行する。
【0039】
<ステップS4>
電位差評価装置1200は、電位差ΔVPが規定値Aよりも小さいか否かを判定する(ステップS4)。そして、電位差ΔVPが規定値A以上であると判定されると(ステップS4においてNO)、ステップS5へ処理を移行する。一方、ステップS4において電位差ΔVPが規定値Aよりも小さいと判定されると(ステップS4においてYES)、ステップS6へ処理を移行する。
【0040】
<ステップS5>
負極500において金属リチウムが析出するのを防止することを目的として、電位差評価装置1200は制御回路1300に指令を出し、リチウムイオン二次電池1100への充電量を制御させる。また、正極400が結晶崩壊するのを防止することを目的として、電位差評価装置1200は制御回路1300に指令を出し、リチウムイオン二次電池1100への充電量を抑制する。
【0041】
以上のように、本実施形態においては、正極400と参照極700との電位差ΔVPおよび負極500と参照極700との電位差ΔVNが検出される。そして、電位差ΔVNが負のとき、または電位差ΔVPが規定値A以上のとき、リチウムイオン二次電池1100への充電量が抑制される。
【0042】
図3のフローチャート以外の構成として、電位差ΔVNのみを考慮する構成や、電位差ΔVPのみを考慮する構成も挙げられる。例えば、ステップS3またはステップS4において、ΔVNが規定値Bより小さい場合や電位差ΔVPが規定値Aより大きい場合、リチウムイオン二次電池1100への充電量が制御され、ΔVNが規定値Bより大きく、電位差ΔVPが規定値Aより小さい場合はステップS6へ処理を移行する。ΔVP、ΔVNのいずれか一つ以上に基づいて、リチウムイオン二次電池1100への電流量を制御することが望ましい。
【実施例1】
【0043】
<参照極700の作製>
チタン酸リチウム90wt.%とポリフッ化ビニリデン(PVDF)10wt.%の混合物にN−メチル−2−ピロリドンを加えて混合し、参照極機能部スラリーを作製した。市販のNi金属線にこの参照極機能部スラリーを塗布し、120℃で2時間真空乾燥することで、容量が0.2mAhの参照極700を得た。
【0044】
参照極700にLiを充填するために、グローブボックス中で参照極700の参照極機能部スラリーを塗布した部分、セパレータ、Li金属の順に積層し、これらを1:1のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/l溶解させた電解液に浸漬させた状態で参照極700とLi金属の間に電流を流した。Liを50%充填させた。参照極700の電位は1.55V(vsLi/Li
+)となった。Li充填量が20−80%では電位は変化しなかった。
【0045】
<正極400の作製>
正極活物質としてLiC
OO
2、導電剤としてアセチレンブラック5wt.%、N−メチル−2−ピロリドン、PVDFを7wt.%を添加して正極スラリーを作製した。この正極スラリーを厚み25μmのアルミニウム箔である正極箔に塗布乾燥後、プレス、裁断し、正極400を得た。
【0046】
<負極500の作製>
負極活物質として、難黒鉛化炭素、N−メチル−2−ピロリドン、PVDFを10wt.%を添加して負極スラリーを作製した。この負極スラリーを厚み10μmの銅箔である負極箔に塗布乾燥後、プレス、裁断し、負極500を得た。
【0047】
<リチウムイオン二次電池1100の作製>
リチウムイオン二次電池1100として、セパレータ600、正極400、セパレータ600、参照極700、セパレータ600、負極500、セパレータ600の順に積層し、これらを外装部材に収納後、電解液を充填し、外装部材を熱融着させて封止した。ここで、セパレータ600には30μmのポリプロピレンとポリエチレン積層多孔質材を用い、外装部材にはラミネートフィルムを用いた。その結果、
図1のようなリチウムイオン二次電池1100を得た。
【0048】
<リチウムイオン二次電池1100の充放電試験>
リチウムイオン二次電池1100を25℃、1Cで容量25−75%まで充放電試験を3時間実施した。充放電試験後は50%の容量を充電した状態で保存した。2時間たってから正極400と負極500の電位を測定した。
【0049】
正極電位測定時にはスイッチング部位100を正極400につなげ、正極電位を評価した。その際に参照極700の電位は1.55Vで計算した。負極電位測定時にはスイッチング部位100を負極500につなげ、負極電位を評価した。その際に参照極700の電位は1.55Vで計算した。参照極700を用いた正極電位測定について、電流値ロガ―300を用いて、電流積算値の絶対値が0.16mAhになった時点でスイッチング部位100を切り替えることで終了し負極電位測定を開始した。さらに、負極電位測定についても電流値ロガ―300を用いて、電流積算値の絶対値が0.16mAhになった時点でスイッチング部位100を切り替えることで終了し、正極電位測定を開始した。このように制御したところ、1000hr以上の間で安定的に正負極電位を測定可能であった。
【0050】
また、リチウムイオン二次電池1100の充放電試験において、正極電位が4.3V以上(Li/Li
+基準)、負極電位がV0.05以下(Li/Li
+基準)にならないように25℃、1Cで3−4.2Vの間で充放電を繰り返した結果、1000hr後の1C容量低下率が、正極・負極電位を制御しない場合が30%であったのに対して、10%であった。
(比較例1)
実施例1で用いたリチウムイオン二次電池1100で、スイッチング部位100を用いずに、正極電位測定を200hr実施したところ、参照極700で測定した正極電位と負極電位が初期と大幅に異なった。
【実施例2】
【0051】
実施例1で用いたリチウムイオン二次電池1100で、スイッチング部位100を用いずに、正極電位測定を200hr実施したところ、参照極700で測定した正極電位と負極電位が初期と大幅に異なった。
【0052】
そこで、スイッチング部位100を正極400につなげ参照極700から正極400に電流を流すように充放電制御装置200を制御し、参照極700に流れた電流積算値の絶対値を0.10mAhにした。その結果、初期と同様の正負極電位を測定可能になった。
【0053】
上記結果から参照極により、正負極の電位を測定し、制御すると電池劣化が抑えられる。また、正極電位測定と負極電位測定時に流れる電流積算値を制御することにより、更に参照極の電位を安定させることができる。