【実施例】
【0036】
以下、実施例の絶縁電線について、図面を用いて説明する。
【0037】
(実施例1)
図1に示すように、本例の絶縁電線1は、導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁体3とを有している。絶縁体3は、塩素化塩化ビニル系樹脂と架橋シリコーンゴムとを含有している。
【0038】
本例では、導体2は、複数本の金属素線(不図示)が撚り合わされてなる副金属撚り線20がさらに複数本撚り合わされて構成されている。また、金属素線は、具体的には、軟銅線である。
【0039】
以下、絶縁体の構成が異なる絶縁電線の試料を複数作製し、各種評価を行った。その実験例について説明する。
【0040】
(実験例)
−材料の準備−
絶縁体の材料として以下のものを準備した。
・塩素化塩化ビニル系樹脂(1)(塩素含有量67質量%)[積水化学社製、「HA−05K」]
・塩素化塩化ビニル系樹脂(2)(塩素含有量65質量%)[積水化学社製、「HA−15F」]
・塩素化塩化ビニル系樹脂(3)(塩素含有量63質量%)[カネカ社製、「H305」]
・塩素化塩化ビニル系樹脂(4)(塩素含有量64.5質量%)[カネカ社製、「H536」]
・シリコーンゴム(1)[旭化成ワッカーシリコーン社製、「CENUSIL R160」]
・シリコーンゴム(2)[モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、「TSE221−4U」]
・シリコーンゴム(3)[KCC社製、「SH0040U」]
・塩化ビニル樹脂(1)[信越化学社製、「TK−1000」]
・塩化ビニル樹脂(2)[信越化学社製、「TK−1700E」]
・塩化ビニル樹脂(3)[大洋塩ビ社製、「TE−1050」]
・塩化ビニル樹脂(4)[大洋塩ビ社製、「TH−1700」]
・無機フィラー(炭酸カルシウム)[白石カルシウム社製、「Vigot10」]
・架橋剤[日油社製、「パーヘキシルD」]
・DINP(フタル酸ジイソノニル)
・DOP(フタル酸ジオクチル)
【0041】
―絶縁電線の作製―
架橋剤成分を除き、表1に示される所定の配合割合の各材料を二軸混練機を用いて200℃で混合した後、所定の架橋剤成分を所定の配合割合で添加して十分に分散させた。次いで、180℃で加熱し、未架橋シリコーンゴムを架橋させ、架橋シリコーンゴムを生成させた。次いで、ペレタイザーを用いて、得られた組成物をペレット状に成形した。また、表2に示される所定の配合割合の各材料を二軸混練機を用いて200℃で混合した後、ペレタイザーを用いて、得られた組成物をペレット状に成形した。その後、軟銅線を9本拠り合わせてなる軟銅撚り線をさらに19本撚り合わせて構成された導体の外周に、押し出し成形機を用いて上記ペレット状の成形物を押し出し被覆し、絶縁体を形成した。導体径は5.3mm、導体断面積は15mm
2である。また、絶縁体の厚みは1.1mmである。これにより、試料1〜試料14の絶縁電線を作製した。なお、試料1〜試料8の絶縁電線の作製において、成形したペレット状の成形物中には、未架橋シリコーンゴムが架橋剤によって架橋されてなる架橋シリコーンゴムが含まれている。
【0042】
−柔軟性−
各試料の絶縁電線から長さ500mmの試験電線を採取した。次いで、一対の板状治具が取り付けられたロードセルの各板状治具間に、試験電線を横向きのU字状に湾曲させた状態で固定した。具体的には、各板状治具の表面に形成された各V字状の溝に、上記湾曲させた試験電線の各端部をそれぞれ嵌め込んで固定した。なお、各板状治具間の距離は200mmとした。次いで、ロードセルにて試験電線に圧縮方向の荷重を加え、各板状治具間の距離が100mmになるまで荷重を負荷したときの最大荷重[N]を測定した。最大荷重の値は、その値が小さい程、絶縁電線の柔軟性が良好であることを示す。
【0043】
−耐摩耗性−
絶縁体の柔軟性が過度になると、絶縁体が摩耗し、電線特性の一つである耐摩耗性が低下することが考えられる。そこで、各試料の絶縁電線について、絶縁体の耐摩耗性の確認を行った。
【0044】
具体的には、社団法人自動車技術会規格「JASO D618」に準拠し、ブレード往復法によって絶縁体の耐摩耗性を評価した。すなわち、各試料の絶縁電線から長さ750mmの試験片を採取した。次いで、23±5℃の室温下、軸方向に10mm以上の長さ、毎分50回の速さにて、試験片の絶縁体表面上でブレードを往復させた。この際、ブレードにかかる荷重は7Nとした。そして、ブレードが導体に接するまでの往復回数を測定した。ブレードの往復回数が1500回以上2000回未満であった場合を耐摩耗性が良好であるとして「A」、ブレードの往復回数が2000回以上であった場合を耐摩耗性に優れるとして「A+」とした。
【0045】
−耐熱性−
各試料の絶縁電線から導体を抜き取り、得られた絶縁体を試験片とした。次いで、各試験片を150℃にて10日間恒温槽に入れて取り出した。その後、引張試験機を用い、恒温槽に入れる前の試験片と、恒温槽に入れた後の試験片について、標線間距離:20mm、引張速度:50mm/minの条件にて引張試験を行い、各試験片の伸びを測定した。恒温槽に入れる前の初期の伸びを100%とした場合に、恒温槽に入れた後の伸びが70%以上であった場合を、優れた耐熱性を有するとして「A+」、伸びが50%以上70%未満であった場合を、良好な耐熱性を有するとして「A」、伸びが50%未満であった場合を、耐熱性に劣るとして「C」とした。
【0046】
表1、表2に、各試料の絶縁電線における絶縁体の配合(質量部)、絶縁体の柔軟性、耐摩耗性、耐熱性の評価結果をまとめて示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表1、表2によれば、次のことがわかる。すなわち、表2に示されるように、試料9〜試料14の絶縁電線は、いずれも、塩素化されていない通常の塩化ビニル系樹脂に低分子量の可塑剤が配合されてなる絶縁体を有している。これらのうち、試料9〜試料13の絶縁電線は、表2に示される配合割合で可塑剤が配合されているものの、柔軟性試験における最大荷重が39[N]以上と大きく、柔軟性に劣っていることがわかる。また、絶縁体の柔軟性を向上させるため、さらに可塑剤が増量された試料14の絶縁電線は、絶縁体の表面に可塑剤のブルーミングが発生した。この結果から、可塑剤の増量による絶縁体の柔軟性向上には、限界があるといえる。また、試料9〜試料14の絶縁電線は、いずれも、低分子量の可塑剤が比較的多く含まれている。そのため、試料9〜試料14の絶縁電線は、絶縁電線が束で使用された場合に、他の絶縁電線が有する絶縁体に可塑剤が移行しやすく、他の絶縁電線の特性を劣化させることが懸念される。
【0050】
これらに対し、試料1〜試料8の絶縁電線は、塩素化塩化ビニル系樹脂と架橋シリコーンゴムとを含有する絶縁体を有している。つまり、試料1〜試料8の絶縁電線は、絶縁体の柔軟化のため、低分子量の可塑剤に比べて分子量が大きく、かつ柔軟な高分子化合物である架橋シリコーンゴムを用いている。そのため、試料1〜試料8の絶縁電線は、試料9〜試料14の絶縁電線に比べ、柔軟性試験における最大荷重が小さく、柔軟性が向上されている。また、試料1〜試料8の絶縁電線は、柔軟性向上のために積極的に可塑剤が配合されていないので、可塑剤のブルーミングがなく、他の絶縁電線が有する絶縁体への可塑剤の移行も抑制することが可能であるといえる。また、試料1〜試料8の絶縁電線は、架橋シリコーンゴムのブルーミングも認められなかった。
【0051】
さらに、試料1〜試料8の絶縁電線同士を比較する。試料1〜試料4、試料6の絶縁電線は、絶縁体中の架橋シリコーンゴムの含有量が、塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して0.1質量部〜100質量部の範囲内とされている。そのため、試料1〜試料4、試料6の絶縁電線は、良好な柔軟性および耐熱性を確保しつつ、十分な耐摩耗性を有していることが確認された。
【0052】
なお、試料8の絶縁電線は、絶縁体中の架橋シリコーンゴムの含有量が100質量部超とされている。しかし、試料8の絶縁電線は、無機フィラーが、柔軟性を損なわない範囲で適量配合されている。そのため、試料8の絶縁電線は、試料7の絶縁電線と比較して、優れた耐摩耗性を確保することができた。この結果から、絶縁体中の架橋シリコーンゴムの含有量が100質量部とされる場合でも、フィラーを適量併用することにより、良好な柔軟性および耐熱性を確保しつつ、優れた耐摩耗性を発揮させることが可能であることがわかる。
【0053】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。