【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、α−オレフィン含有量が5〜25重量%であるα−オレフィン−エチレン共重合体が、極性官能基でグラフト比率0.01〜0.2重量%にグラフト変性された変性オレフィン系樹脂と、発光性分子と自己集積性分子とが結合した発光体とを含有する太陽電池モジュール用充填材シートである。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、太陽電池モジュール用充填材シート(以下、単に「充填材シート」ともいう。)に波長変換材料(発光体)を添加して波長変換性能を付与することを検討し、充填材シートを構成する樹脂として、特定範囲のα−オレフィン含有量を有するα−オレフィン−エチレン共重合体が、極性官能基でグラフト変性された変性オレフィン系樹脂を用いることを試みた。このような変性オレフィン系樹脂は、加熱により溶融して太陽電池素子に密着し得ることから、EVAのように架橋工程を要することなく効率的に太陽電池モジュールを製造することができる。また、EVAを用いた場合のように、含有される酢酸によって太陽電池素子の発光層や透明電極層、バス電極やそれに付属するフィンガー電極、更にはタブ線が汚染されることもない。更に、PMMAやPSを用いた場合のようなラミネート特性の低下も低減することができる。
しかしながら、発光体として、低濃度であっても会合することにより実用的な波長変換効率を発揮できる、発光性分子と自己集積性分子とが結合した構造を持つ発光体を用いた場合には、充填材シートとして必要な機能(ラミネート特性、透明保護材や太陽電池素子との接着性等)を確保しながら、期待されたほどの高い波長変換効率を得ることは難しかった。
【0012】
これに対して本発明者らは、発光体として、発光性分子と自己集積性分子とが結合した構造を持つ発光体を用いた場合において、特定範囲のα−オレフィン含有量を有するα−オレフィン−エチレン共重合体が、極性官能基で特定範囲のグラフト比率にグラフト変性された変性オレフィン系樹脂を用いることにより、ラミネート特性に優れ、透明保護材や太陽電池素子との接着性が高く、そのうえ波長変換性能をも有する充填材シートが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明の充填材シートは、α−オレフィン−エチレン共重合体が極性官能基でグラフト変性された変性オレフィン系樹脂を含有する。
上記変性オレフィン系樹脂を含有することにより、本発明の充填材シートは、加熱により溶融して太陽電池素子に密着し、これを封止することができる。また、EVAを用いた場合のように、含有される酢酸によって太陽電池素子の発光層や透明電極層、バス電極やそれに付属するフィンガー電極、更にはタブ線が汚染されることもない。更に、PMMAやPSを用いた場合のようなラミネート特性の低下も低減することができる。
【0014】
上記α−オレフィン−エチレン共重合体は、α−オレフィン含有量が5〜25重量%である。上記α−オレフィン含有量を上記範囲に調整することにより、充填材シートとして必要なラミネート特性を確保することができる。
上記α−オレフィンは、樹脂の非晶性向上による低融点化、柔軟化のため、炭素数が3〜10であることが好ましく、炭素数が4〜8であることがより好ましい。
上記α−オレフィンは、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等が挙げられる。なかでも、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましい。即ち、上記α−オレフィン−エチレン共重合体は、ブテン−エチレン共重合体、ヘキセン−エチレン共重合体、オクテン−エチレン共重合体が好適である。
【0015】
上記α−オレフィン含有量が5重量%未満であると、充填材シートの柔軟性が低下するとともに、その融点が高くなるため、太陽電池素子を封止する工程において太陽電池素子にクラックが生じやすくなる。上記α−オレフィン含有量が25重量%を超えると、充填材シートの融点が低くなりすぎるため、太陽電池素子を封止する工程において充填材がはみ出して装置を汚染しやすくなる。
特にブテン−エチレン共重合体の場合、ブテン含有量の好ましい下限は12重量%、好ましい上限は18重量%である。
特にヘキセン−エチレン共重合体の場合、ヘキセン含有量の好ましい下限は14重量%、好ましい上限は20重量%である。
特にオクテン−エチレン共重合体の場合、オクテン含有量の好ましい下限は17重量%、好ましい上限は24重量%である。
【0016】
上記α−オレフィン−エチレン共重合体における上記α−オレフィン含有量については、
13C−NMRのスペクトル積分値により求めることができる。具体的には、例えば1−ブテンを用いた場合、重ベンゼン/重オルトジクロロベンゼン中で10.9ppm付近や26.1ppm付近、39.1ppm付近に得られる1−ブテン構造由来のスペクトル積分値と、26.9ppm付近、29.7ppm付近、30.2ppm付近、33.4ppm付近に得られるエチレン構造由来のスペクトル積分値とを用いて算出する。スペクトルの帰属については高分子分析ハンドブック(日本分析化学会編、朝倉書店発行、2008年)等の既知データーを利用するとよい。
【0017】
上記α−オレフィン−エチレン共重合体は、極性官能基でグラフト変性されている。このときの極性官能基のグラフト比率は、0.01〜0.2重量%である。
上記α−オレフィン−エチレン共重合体を上記極性官能基で上記範囲のグラフト比率にグラフト変性することにより、充填材シートとして必要な透明保護材や太陽電池素子に対する接着性を確保しながら、高い波長変換効率を得ることができる。
高い波長変換効率を得ることができるのは、上記範囲のグラフト比率であれば、後述するような発光体の自己集積性分子が自己組織化的に集合することを阻害しないためであると推測される。発光体の自己集積性分子が自己組織的に集合することにより、該自己集積性分子に結合した発光性分子(特に蛍光性分子)は、単量体よりも励起極大波長と発光極大波長との差であるストークスシフトが大きく、かつ量子収率の高い光(特に蛍光)を発するエキサイマ(励起子二量体)を形成することができる。このようにして発光体が会合することにより、高い波長変換効率を得ることができる。
【0018】
上記極性官能基は、例えば、無水マレイン酸基、トリアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基等が挙げられる。なかでも、無水マレイン酸基が好ましい。即ち、上記変性オレフィン系樹脂は、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂が好適である。
【0019】
上記極性官能基のグラフト比率が0.01重量%未満であると、充填材シートの透明保護材や太陽電池素子に対する接着性が低下する。上記極性官能基のグラフト比率が0.2重量%を超えると、発光体の自己集積性分子が自己組織的に集合することが阻害され、波長変換効率が低下する。上記極性官能基のグラフト比率の好ましい下限は0.02重量%、好ましい上限は0.09重量%である。
【0020】
上記極性官能基のグラフト比率は、上記変性オレフィン系樹脂を用いて試験フィルムを作製し、上記試験フィルムの赤外吸収スペクトルを測定して、上記極性官能基の吸収強度(例えば、上記極性官能基が無水マレイン酸基である場合には1790cm
―1付近の吸収強度)から算出することができる。具体的には、上記変性オレフィン系樹脂における極性官能基のグラフト比率は、例えば、FT−IR(フーリエ変換赤外分光装置 Nicolet 6700 FT−IR)を用いて高分子分析ハンドブック(日本分析化学会編、朝倉書店発行、2008年)等に記載された既知の測定方法で測定することができる。
【0021】
上記α−オレフィン−エチレン共重合体を極性官能基でグラフト変性する方法は、公知の方法が用いられ、例えば、上記α−オレフィン−エチレン共重合体と上記極性官能基を有する化合物とラジカル重合開始剤とを含有した組成物を、押出機に供給して溶融混練して、上記共重合体に極性官能基をグラフト重合させる溶融変性法や、上記α−オレフィン−エチレン共重合体を溶媒に溶解させて溶解液を作製し、この溶解液に上記極性官能基を有する化合物及びラジカル重合開始剤を添加して上記共重合体に極性官能基をグラフト重合させる溶液変性法等が挙げられる。なかでも、押出機で混合でき生産性に優れることから、上記溶融変性法が好ましい。
上記極性官能基を有する化合物は、上記極性官能基が無水マレイン酸基である場合には無水マレイン酸が好ましく、上記極性官能基がトリアルコキシシリル基である場合にはビニルトリメトキシシリル基、ビニルトリエトキシシリル基、メタクリルトリメトキシシリル基等を有する化合物が好ましく、上記極性官能基がジアルコキシシリル基である場合にはビニルジメトキシメチルシリル基、ビニルジエトキシメチルシリル基、メタクリルジメトキシメチルシリル基等を有する化合物が好ましい。
【0022】
上記グラフト変性する方法において使用するラジカル重合開始剤は、従来からラジカル重合に用いられているものであれば特に限定されない。具体的には例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0023】
本発明の充填材シートは、上記変性オレフィン系樹脂のほかに、低密度ポリエチレン樹脂又は直鎖状低密度ポリエチレン樹脂等の他のオレフィン樹脂を含有してもよい。
上記低密度ポリエチレン樹脂又は直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を含有することにより、配合量の制御が困難である上記極性官能基のグラフト比率の小さい充填材シートでも精度高く製造することが可能となる。
本明細書において低密度ポリエチレン樹脂とは、繰り返し単位のエチレンがランダムに分岐を持って結合した結晶性の熱可塑性樹脂を意味する。上記低密度ポリエチレン樹脂は、その分岐構造から結晶化があまり進まず、比較的融点が低く柔らかい性質を有する。
本明細書において直鎖状低密度ポリエチレン樹脂とは、繰り返し単位のエチレンと若干量のα−オレフィン(例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチルペンテン、1−オクテン等)とを共重合させた熱可塑性樹脂を意味する。
上記他のオレフィン樹脂としては、具体的には例えば、α−オレフィン含有量が5〜25重量%であるα−オレフィン−エチレン共重合体等が好適に用いられる。
なお、低密度ポリエチレン樹脂と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂とは、単独で用いてもよく、両者を併用してもよい。
【0024】
本発明の充填材シートが、上記変性オレフィン系樹脂のほかに、低密度ポリエチレン樹脂又は直鎖状低密度ポリエチレン樹脂等の他のオレフィン樹脂を含有する場合、該他のオレフィン樹脂の含有量は、上記変性オレフィン系樹脂と該他のオレフィン樹脂との合計のうちの好ましい上限は80重量%である。他のオレフィン樹脂の含有量が80重量%を超えると、充填材シートの透明保護材や太陽電池素子に対する接着性が低下したり、耐熱性が劣ったりすることがある。
【0025】
本発明の充填材シートは、発光性分子と自己集積性分子とが結合した発光体を含有する。上記発光体は、低濃度であっても会合することにより実用的な波長変換効率を発揮できるため、上記発光体を含有することにより、本発明の充填材シートは、高い波長変換効率を得ることができる。
本明細書において波長変換とは、特定波長域の光を吸収し、より長波長域の光を発することで、吸収光を長波長側に変換するダウンコンバージョン型波長変換を意味する。
【0026】
上記発光性分子としては、特定波長域の光を吸収し、より長波長域の蛍光を発する蛍光性分子、リン光を発するリン光性分子が挙げられ、縮合反応等により、自己集積性分子と結合することができる官能基(アミノ基、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドロキシル基等)を有しているものが好ましい。上記発光性分子は、蛍光性分子、特にエキサイマ(励起子二量体)形成等により、単量体よりも励起極大波長と発光極大波長との差であるストークスシフトが大きく、かつ量子収率の高い蛍光を発する蛍光性分子であることが好ましい。
このような分子としては例えばピレン誘導体、アントラセン誘導体、ナフタレン誘導体、フルオレン誘導体、ペリレン誘導体、コロネン誘導体、フェナントレン誘導体、フルオランテン誘導体、カルバゾール誘導体、クリセン誘導体、トリフェニレン誘導体、テトラセン誘導体、ペンタセン誘導体、フルオレノン誘導体、アズレン誘導体、オリゴフェニレンビニレン誘導体、オリゴフェニレンエチニレン誘導体、ポルフィリン誘導体、シアニン色素誘導体等が挙げられる。これらの蛍光性分子は単独でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0027】
なかでも、ピレン誘導体又はアントラセン誘導体が好ましい。太陽電池モジュールでは、内部に用いられている充填材シートの劣化を防ぐために紫外線吸収剤が表層に用いられていることが多く、紫外線が有効に利用されていない。上記ピレン誘導体、又はアントラセン誘導体は、吸収波長が紫外領域にあり、かつエキサイマ蛍光波長が、ピレン誘導体で約400〜550nm、アントラセン誘導体で約450〜600nmであり、充填材材料の劣化が起こりづらく、太陽電池モジュールに用いられる太陽電池素子の吸収波長域にあるため好適である。更に、上記ピレン誘導体、又はアントラセン誘導体を使用することで、紫外線吸収剤の利用を低減することも期待できる。
【0028】
上記ピレン誘導体として、例えば、ピレンカルボン酸、ピレンジカルボン酸、ピレンブタン酸、メチルピレンカルボン酸、メトキシピレンブタン酸、ピレンカルバルデヒド、ピレンアミン、ピレンジアミン、ニトロピレンアミン、ピレンオール、ピレンジオール、フェニレンピレンを挙げることができる。より具体的には、1−ピレンカルボン酸、1,6−ピレンジカルボン酸、1−ピレンブタン酸、6−メチルピレン−1−カルボン酸、6−メトキシピレン−1−ブタン酸、ピレン−1−カルバルデヒド、ピレン−1−アミン、ピレン−2−アミン、ピレン−1,6−ジアミン、6−ニトロピレン−1−アミン、ピレン−1−オール、ピレン−1,6−ジオール、2−フェニルピレン、6−プロピルピレン−1−プロピオン酸を挙げることができるが、これらに限定されない。これらのピレン誘導体は単独でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。なかでも、1−ピレンブタン酸、ピレン−1−アミンが好適である。
【0029】
上記アントラセン誘導体としては、フェニレンアントラセンアミン、ジフェニルアントラセンアミン、(ヒドロキシフェニル)アントラセン、(カルボキシフェニル)アントラセン、ピリジルアントラセン、ナフチルアントラセン、(ヒドロキシナフチル)アントラセン、(アミノナフチル)アントラセン、アントリルオキシ酢酸、ビス(ジヒドロキシフェニル)アントラセンを挙げることができる。より具体的には、上記アントラセン誘導体としては、9−(4−ヒドロキシフェニル)アントラセン、9−(4−アミノフェニル)アントラセン、9,10−ジフェニルアントラセン−1−アミン、9−(4−カルボキシフェニル)アントラセン、9−(4−ピリジル)アントラセン、9−(1−ナフチル)アントラセン、9−(1−ヒドロキシ−4−ナフチル)アントラセン、9−(1−アミノ−4−ナフチル)アントラセン、4−(9−アントリル)フェノキシ酢酸、9,10−ビス(3,5−ジヒドロキシフェニル)アントラセンを挙げることができるが、これらに限定されない。また、これらのアントラセン誘導体は単独でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。なかでも、9−(4−ヒドロキシフェニル)アントラセン、9−(4−アミノフェニル)アントラセン、9,10−ジフェニルアントラセン−1−アミンが好適である。
【0030】
また、上記リン光性分子としては、元素周期表の8族、9族又は10族に属するいずれか1種の金属を含有し、リン光発光を示す錯体系化合物が挙げられ、例えば、イリジウム錯体、オスミウム錯体、希土類錯体等のリン光発光を示す有機金属錯体が挙げられる。
このような有機金属錯体の配位子となる有機化合物としては、例えば、カルバゾール誘導体、ビピリジン誘導体、ロザリン誘導体、アントラセン誘導体、フタロシアニン誘導体等が挙げられる。
また、上記リン光性分子として、錯体系化合物以外にもエオシン誘導体、クロロフィル誘導体、βカロチン誘導体、環状アジン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニレン誘導体等を用いてもよい。
【0031】
「自己集積性分子」とは、自己組織化的に集合する作用のある分子であり、本明細書においては上記変性オレフィン系樹脂中で自己組織化することが可能な分子を意味する。本明細書における「自己集積性分子」は、溶媒中に限らず上記変性オレフィン系樹脂を含む溶液中でも会合体を形成するものであり、溶媒を留去する等により固化した場合でも、その会合体が固体中で維持される。更に、上記変性オレフィン系樹脂を含む溶液中あるいは融液中で会合体を形成しない分子であっても、溶媒を留去する等によりフィルム化(固化)させることによって、フィルムを構成する上記変性オレフィン系樹脂中で自己組織化的に集合して配向しうる分子も、本明細書における「自己集積性分子」に該当する。
【0032】
上記自己集積性分子としては、上記変性オレフィン系樹脂中で会合を促進する部位(例えば、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合、尿素結合)を有し、かつ、適度な分散性を付与するための炭化水素部位を有する分子であることが好ましい。上記炭化水素部位は、例えば、炭素数3〜40の直鎖アルキル基、分枝アルキル基、環状アルキル基が挙げられる。なお、上記炭化水素部位は、上記変性オレフィン系樹脂との親和性が確保できる範囲で、ヘテロ原子(酸素、窒素、硫黄)が含まれていてもよい。
【0033】
上記自己集積性分子として、例えば、アミノ酸誘導体、多環芳香族誘導体、コレステロール誘導体、糖誘導体が挙げられ、好適な例としては、グルタミン酸ジアルキルアミド、アスパラギン酸ジアルキルエステル、リジンジアルキルアミド、アシルグルコサミン、アルキルオキシアゾベンゼン、ジアルコキシアントラセン等が挙げられる。好適な具体例としては、ジドデシル化グルタミド、ジブチル化グルタミド、ジドデシル化リジンが挙げられる。なお、これらの自己集積性分子は単独でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0034】
上記発光体は、上記発光性分子と上記自己集積性分子とが結合したものである。
上記発光性分子と自己集積性分子とが結合した発光体の製造方法はいかなる方法でもよく、例えば、適当な溶媒中で、上記発光性分子と上記自己集積性分子とのそれぞれが有する官能基を反応させて結合する方法が挙げられる。
【0035】
上記発光体は、上記変性オレフィン系樹脂中で会合して配向し、繊維状会合体を形成していてもよい。このような繊維状会合体の平均長さは、170nm以上が好ましく、200nm以上がより好ましい。また、太さと長さの比であるアスペクト比の平均は、10以上が好ましい。
上記繊維状会合体は、上記発光体が上記変性オレフィン系樹脂中で高効率で会合して配向したことで形成された配向性会合体である。このような繊維状会合体となることにより、上記発光性分子(特には蛍光性分子)の単量体よりも、更にはエキサイマよりも波長変換に適した構造となるため、波長変換効率が向上する。
一般に、上記繊維状会合体は、透過型電子顕微鏡によって観察される。上記繊維状会合体の平均長さは、透過型電子顕微鏡写真中の繊維状会合体100本の長さを測定し、算術平均をとったものである。また、上記繊維状会合体のアスペクト比の平均は同様に、上記透過型電子顕微鏡写真中の繊維状会合体の平均太さを測定し、平均長さを平均太さで割ったものである。
【0036】
上記繊維状会合体を形成させる方法は特に限定されないが、上記変性オレフィン系樹脂中で上記発光体が分散して再集合する方法が好ましい。具体的には例えば、従来公知の方法で一旦成形した前駆体シートに対して、上記変性オレフィン系樹脂の軟化点以上の温度で加熱養生による処理を施す方法、上記変性オレフィン系樹脂の形態を変化させず、膨潤させ、かつ上記発光体を分散させる溶媒によって上記前駆体シートを膨潤させ、一定時間静置した後、乾燥させる方法等が挙げられる。
【0037】
上記発光体の含有量は、特に限定されないが、充填材シートの形状、厚みを考慮して、充填材シートとして必要な機能を失わない範囲で任意に定めることができる。具体的には、上記発光性分子が上記蛍光性分子の場合、上記変性オレフィン系樹脂100重量部に対する好ましい下限が0.0001重量部、好ましい上限が10重量部である。上記発光体の含有量が0.0001重量部未満であると、充填材シートの波長変換効率が低下することがある。上記発光体の含有量が10重量部を超えると、充填材シートの透明性が低下したり、上記変性オレフィン系樹脂の性質を変えたりすることがある。
【0038】
本発明の充填材シートは、下記一般式(I)で表されるエポキシ基を有するシラン化合物を含有してもよい。
【0039】
【化1】
【0040】
一般式(I)中、R
1は、3−グリシドキシプロピル基又は2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基を示し、R
2は、炭素数が1〜3であるアルキル基を示し、R
3は、炭素数が1〜3であるアルキル基を示し、かつ、nは0又は1である。
【0041】
上記一般式(I)で表されるエポキシ基を有するシラン化合物は、ガラスからなる透明保護材やガラス基材に対する接着性を向上させるだけでなく、上記変性オレフィン系樹脂に対する架橋剤としての役割も果たす。即ち、上記変性オレフィン系樹脂に上記一般式(I)で表されるエポキシ基を有するシラン化合物を配合すると、上記変性オレフィン系樹脂中の極性官能基と、エポキシ基を有するシラン化合物のエポキシ基とが反応してシラン化合物が樹脂の側鎖に取り込まれる。更に、該側鎖のシラン化合物同士が加水分解縮合によりシロキサン結合を形成して、樹脂間に架橋構造が形成される。樹脂間に架橋構造が形成されることにより、本発明の充填材シートの高温での弾性率が向上して、高い高温高湿耐久性を実現することができる。
【0042】
上記一般式(I)中、R
1は、3−グリシドキシプロピル基又は2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基を示す。なかでも、より高い高温高湿耐久性を実現できることから、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基が好適である。
【0043】
上記一般式(I)中、R
2としては、炭素数が1〜3であるアルキル基であれば、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
上記一般式(I)中、R
3としては、炭素数が1〜3であるアルキル基であれば、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、メチル基が好ましい。
【0044】
上記一般式(I)で示されるエポキシ基を有するシラン化合物としては、例えば、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン等が挙げられる。これらの一般式(I)で示されるエポキシ基を有するシラン化合物は単独でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0045】
上記一般式(I)で表されるエポキシ基を有するシラン化合物の含有量は、特に限定されないが、上記変性オレフィン系樹脂100重量部に対する好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は3.0重量部である。上記一般式(I)で表されるエポキシ基を有するシラン化合物の含有量が上記範囲外であると、充填材シートの接着性が低下したり、高温高湿耐久性が低下したりすることがある。上記一般式(I)で表されるエポキシ基を有するシラン化合物の含有量のより好ましい下限は0.2重量部、より好ましい上限は1.0重量部である。
【0046】
本発明の充填材シートは、その物性を損なわない範囲内において、他の添加剤を更に含有していてもよい。上記他の添加剤としては、例えば、UV安定剤、可塑剤、充填剤、着色剤、顔料、抗酸化剤、帯電防止剤、界面活性剤、調色液、屈折率マッチング用添加剤及び分散助剤等が挙げられる。
【0047】
本発明の充填材シートは、厚みの好ましい下限が200μm、好ましい上限が1000μmである。上記厚みが200μm未満であると、太陽電池素子を封止する工程において充填材シートが太陽電池素子に充分に追従できないために空隙が発生しやすく、圧着圧力による太陽電池素子への負荷も大きくなることから、接着性及び耐久性不足や発電性能低下のおそれがある。上記厚みが1000μmを超えると、太陽電池素子を封止する工程において充填材がはみ出して装置を汚染することがある。上記厚みのより好ましい下限は150μm、より好ましい上限は700μmである。
【0048】
本発明の充填材シートは、引張破断伸びが700%以上であることが好ましい。上記引張破断伸びが700%未満であると、凝集破壊によって接着強度低下することがある。上記引張破断伸びは、1000%以上であることがより好ましい。
本明細書において引張破断伸びは、JIS K7162に規定されている測定方法により得られる値である。
【0049】
本発明の充填材シートは、引張弾性率の好ましい下限が50MPa、好ましい上限が150MPaである。上記引張弾性率が50MPa未満であると、剥離しようとする応力が、充填材シートと太陽電池素子の界面、又は、充填材シートと透明保護材との界面に集中して、凝集破壊による剥離が生じやすくなる。上記引張弾性率が150MPaを超えると、脆くなって、剥離しようとする応力に対して割れ破壊による剥離が生じやすくなる。上記引張弾性率のより好ましい下限は60MPa、より好ましい上限は130MPaである。
本明細書において引張弾性率は、JIS K7162に規定されている測定方法により得られる値である。
【0050】
本発明の充填材シートを製造する方法としては、上記変性オレフィン系樹脂、上記発光体及び必要に応じて配合する添加剤を所定の重量割合にて押出機に供給して溶融、混練し、押出機からシート状に押出して形成する方法等が挙げられる。なお、得られたシートに対して、上述したような上記変性オレフィン系樹脂の軟化点以上の温度で加熱養生による処理を施す方法等により、上記発光体の繊維状会合体を形成させてもよい。
【0051】
本発明の充填材シートを用い、太陽電池素子を封止して、太陽電池モジュールを製造することができる。本発明の充填シートを用いて作製された太陽電池モジュールもまた、本発明の1つである。
上記太陽電池素子は、一般に、受光することで電子が発生する光電変換層、発生した電子を取り出す電極層、及び、ガラス基板から構成される。
【0052】
上記光電変換層としては、例えば、単結晶シリコン、単結晶ゲルマニウム、多結晶シリコン、微結晶シリコン等の結晶系半導体、アモルファスシリコン等のアモルファス系半導体、GaAs、InP、AlGaAs、Cds、CdTe、Cu
2S、CuInSe
2、CuInS
2等の化合物半導体、フタロシアニン、ポリアセチレン等の有機半導体等から形成されたものを挙げることができる。
上記光電変換層は、単層又は複層であってもよい。
上記光電変換層の厚みは、0.1〜200μmであることが好ましい。
【0053】
上記ガラス基板としては、光電変換層や電極材が積層されるプロセスに耐え得るガラス基板であって、太陽電池として用いたときに上記光電変換層を汚染するような物質を含まないガラス基板であれば特に限定されず、例えば、ソーダーライムガラス等が挙げられる。
上記ガラス基板の厚みは、0.1〜3mmであることが好ましい。
【0054】
上記電極層は、電極材料からなる層である。
上記電極層は、必要に応じて、上記光電変換層上にあってもよいし、上記光電変換層とガラス基板との間にあってもよいし、上記ガラス基板面上にあってもよい。
また、上記太陽電池素子は、上記電極層を複数有していてもよい。
受光面側(表面)の電極層は、透明である必要があるため、上記電極材料としては、金属酸化物等の一般的な透明電極材料であることが好ましい。上記透明電極材料としては、特に限定されないが、ITO又はZnO等が好適に使用される。
透明電極を使用しない場合は、バス電極やそれに付属するフィンガー電極を銀等の金属でパターニングしたものであってもよい。
背面側(裏面)の電極層は、透明である必要はないため、一般的な電極材料によって構成されて構わないが、上記電極材料としては、銀が好適に用いられる。
【0055】
上記太陽電池素子を製造する方法としては、公知の方法であれば、特に限定されず、例えば、シリコンウェハにpn接合面を作製して電極を印刷後焼成する方法や、上記ガラス基板上に上記光電変換層や電極層を配置する方法等の公知の方法により形成することができる。
【0056】
本発明の充填材シートを用いて、太陽電池素子を封止する方法としては、例えば、透明保護材、本発明の充填材シート、太陽電池素子、本発明の充填材シート、及び、裏面保護材をこの順に積層して得られた積層体を、静止状態で、減圧下で、その厚み方向に押圧力を加えながら加熱して、太陽電池素子に本発明の充填材シートを圧着させる方法(真空ラミネート法)が挙げられる。なお、光電変換層の受光面側に透明保護材を積層する一方、裏面側には裏面保護材を積層しない態様も挙げられる。
上記積層体を、減圧下で、その厚み方向に押圧力を加えながら加熱する工程は、真空ラミネータ等の従来公知の装置を用いて行うことができる。
上記太陽電池素子、及び、本発明の充填材シートは、予め、所望の大きさに調整された矩形状のものを用いるとよい。
【0057】
上記積層体を、減圧下で、その厚み方向に押圧力を加えながら加熱する工程は、1000Pa以下の減圧雰囲気下で行うのが好ましく、80〜1000Paの減圧雰囲気下で行うのがより好ましい。
上記加熱する工程は、上記積層体を好ましくは100〜170℃、より好ましくは120〜160℃に加熱する。また、その加熱時間は、1〜15分が好ましく、2〜10分がより好ましい。
【0058】
上記透明保護材は、太陽電池モジュールの光電変換層の受光面側の最外層となり得る層である。
上記透明保護材は、透明性、耐熱性及び難燃性に優れる点で、ガラスからなることが好ましい。
上記透明保護材がガラスからなる場合、上記透明保護材の厚みは0.1〜5mmであることが好ましく、1.0〜3.5mmであることがより好ましい。
【0059】
上記裏面保護材は、太陽電池モジュールの裏面側(即ち、光電変換層の受光面とは反対側)の最外層となり得る層である。
上記裏面保護材は、水蒸気バリア性や耐候性に優れる点で、ガラスや、ステンレスや、ポリフッ化ビニル/ポリエステル/ポリフッ化ビニル積層シート、ポリエステル/アルミ/ポリエステル積層シート等の樹脂シートからなることが好ましい。なお、上記裏面保護材は、特に透明である必要はない。
【0060】
上記裏面保護材がガラスやステンレスからなる場合、上記裏面保護材の厚みは0.1〜5mmであることが好ましく、1.0〜3.5mmであることがより好ましい。
上記裏面保護材が積層シートからなる場合、上記裏面保護材の厚みは10〜500μmであることが好ましく、100〜300μmであることがより好ましい。
【0061】
上記透明保護材は、最外層となる表面にエンボス形状を有することが好ましい。上記エンボス形状を有することにより、太陽光の反射ロスを低減したり、ギラツキを防止したり、外観を向上させたりすることができる。
上記エンボス形状は、規則的な凹凸形状であっても、ランダムな凹凸形状であってもよい。
上記エンボス形状は、上記透明保護材を太陽電池素子に貼り合せる前にエンボス賦型しても、太陽電池素子に貼り合せた後でエンボス賦型しても、又は、太陽電池素子と貼り合せる工程で同時に賦型してもよい。