(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-227002(P2015-227002A)
(43)【公開日】2015年12月17日
(54)【発明の名称】缶の印刷方法、印刷用ブランケット、缶の印刷装置及び印刷缶
(51)【国際特許分類】
B41M 1/28 20060101AFI20151120BHJP
B41F 17/22 20060101ALI20151120BHJP
B41M 1/04 20060101ALI20151120BHJP
B41M 1/14 20060101ALI20151120BHJP
【FI】
B41M1/28
B41F17/22
B41M1/04
B41M1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-113190(P2014-113190)
(22)【出願日】2014年5月30日
(71)【出願人】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】ユニバーサル製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩明
【テーマコード(参考)】
2H113
【Fターム(参考)】
2H113AA06
2H113BA01
2H113BA17
2H113BB10
2H113BB24
2H113CA25
2H113DA04
2H113DA46
2H113EA07
2H113EA25
(57)【要約】
【課題】複数の色を用いた場合でも明瞭な抜き部を形成することが可能な缶の印刷方法を提供する。
【解決手段】缶の外周面の一部にインクを転写させずに抜き部を形成する抜き印刷を行う缶の印刷方法であって、各色毎に設けられた印刷版胴の外周面に、印刷する図柄に応じた各色の図柄パターンが形成された印刷版を配設するとともに、ブランケットホイールの外周面に、前記抜き部に対応する抜き部パターン32を彫刻した印刷用ブランケット31を配設し、前記印刷版に各色のインクを付着するとともに、印刷用ブランケット31に複数の前記印刷版を接触させて各色のインクを写し取り、印刷用ブランケット31を前記缶の外周面に接触させることで前記インクを前記缶の外周面に転写し、前記缶の外周面に前記抜き部を含む図柄を印刷する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶の外周面の一部にインクを転写させずに抜き部を形成する抜き印刷を行う缶の印刷方法であって、
各色毎に設けられた印刷版胴の外周面に、印刷する図柄に応じた各色の図柄パターンが形成された印刷版を配設するとともに、
ブランケットホイールの外周面に、前記抜き部に対応する抜き部パターンを彫刻した印刷用ブランケットを配設し、
前記印刷版に各色のインクを付着するとともに、前記印刷用ブランケットに複数の前記印刷版を接触させて各色のインクを写し取り、前記印刷用ブランケットを前記缶の外周面に接触させることで前記インクを前記缶の外周面に転写し、前記缶の外周面に前記抜き部を含む図柄を印刷することを特徴とする缶の印刷方法。
【請求項2】
前記印刷用ブランケットの硬度が、前記印刷版の硬度よりも低く設定されていることを特徴とする請求項1に記載の缶の印刷方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された缶の印刷方法に用いられる印刷用ブランケットであって、
前記印刷用ブランケットの表面に抜き部パターンが彫刻されており、前記抜き部パターンの彫刻深さが、0.55mm以上0.8mm以下の範囲内とされていることを特徴とする印刷用ブランケット。
【請求項4】
前記抜き部パターンの側壁の角度θが50°以上90°以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項3に記載の印刷用ブランケット。
【請求項5】
前記印刷用ブランケットの硬度が、ショアD硬度で30以上60以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の印刷用ブランケット。
【請求項6】
缶の外周面の一部にインクを転写させずに抜き部を形成する抜き印刷を行う缶の印刷装置であって、
外周面に印刷版が配置された印刷版胴と、ブランケットホイールと、を有し、前記ブランケットホイールの外周面に請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の印刷用ブランケットが配置されていることを特徴とする缶の印刷装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の缶の印刷方法によって、外周面に抜き部が形成されたことを特徴とする印刷缶。
【請求項8】
前記抜き部は、文字又は記号であることを特徴とする請求項7に記載の印刷缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶の外周面の一部にインクを転写させずに抜き部を形成する抜き印刷を行う缶の印刷方法、この缶の印刷方法に用いられる印刷用ブランケット、缶の印刷装置、及び、この缶の印刷方法によって印刷された印刷缶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有底筒状の円筒容器から成形される飲料用容器として、開口端部にキャップが螺着されるボトル缶や、開口端部に缶蓋が巻き締められる巻締缶が知られている。このような缶は、例えばアルミニウム等の金属板を円形状に打ち抜き、それを絞り加工して有底円筒状のカップ部材を得て、さらにそれを再絞り・しごき加工することにより円筒状の缶胴を形成し、その後、缶胴の外周面に印刷が施される。
この缶胴の印刷に際しては、特許文献1、特許文献2で示すような、オフセット印刷機構を有する印刷装置が使用されている。
図1に、缶の印刷装置の一例を示す。この缶の印刷装置10は、インク付着機構11と、缶移動機構15とで概略構成されている。
【0003】
インク付着機構11は、各色のインクを供給する複数のインカーユニット20と、これらのインカーユニット20からインクを写し取った後、缶胴41の外周面に接触して該インクを印刷する(付着させる)ブランケットホイール30とから構成される。
【0004】
インカーユニット20は、インク源21と、インク源21に接触してインクを受けるダクティングロール22と、このダクティングロール22に接続する複数のロールからなる中間ローラ23と、この中間ローラ23に接続するゴムローラ24と、このゴムローラ24に接続する印刷版胴26とからなり、印刷版胴26の外周面には缶胴41に印刷される図柄に応じて形成された凸版27が形成されている。この印刷版胴26はシャフト部(図示なし)に回転自在に支持されている。
ブランケットホイール30の外周面には、印刷用ブランケット31が複数枚備えられている。この印刷用ブランケット31は、印刷版胴26の外周面に形成された凸版27に接触するとともに、缶胴41に接触する構成とされている。
【0005】
缶移動機構15は、缶胴41を取り入れる缶シュータ16と、この缶シュータ16から供給された缶胴41を回転自在に保持するマンドレル17と、このマンドレル17に装着された缶胴41を、順次、インク付着機構11側に回転移動させるマンドレルターレット18とで構成されている。
【0006】
このような構成の缶の印刷装置10では、各々のインカーユニット20のインク源21から各々異なった色のインクが、ダクティングロール22、中間ローラ23、ゴムローラ24を介して、印刷版胴26の外周面に形成された凸版27に付着させられ、これら各色のインクが、回転するブランケットホイール30上の印刷用ブランケット31に図柄パターンとして乗せられ、この図柄パターンがマンドレル17に保持された缶胴41に接触して転写されることになる。
【0007】
そして、これら各色のインクのパターンが重なり合って、缶胴41にひとつの図柄が印刷される。つまり、缶胴41に印刷される図柄は、各色の凸版27の図柄パターンが重なり合って形成されているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−176618号公報
【特許文献2】特開2008−238796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述の印刷缶においては、図柄として缶胴の一部にインクを付着させずに缶胴表面の金属面や下塗層を露呈させた抜き部を形成することがある。
このような抜き部を形成する際には、各色の印刷版胴の凸版に、それぞれ抜き部に対応した図柄パターンを形成しておき、抜き部となる部分に各色のインクが付着しないように構成していた。
【0010】
ここで、各色のインクが付着させられた凸版の見当がずれていた場合には、各色の図柄パターンの相対位置が一致せず、抜き部の輪郭が不明確となる。複数の凸版の見当を完全に一致させることは非常に困難なため、抜き部を明瞭に印刷することができなかった。
また、印刷する抜き部の形状を変更する場合には、各色の印刷版胴の凸版をすべて交換する必要があり、抜き部の形状変更が容易ではなかった。
【0011】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、複数の色を用いた場合でも明瞭な抜き部を形成することが可能な缶の印刷方法、この缶の印刷方法に用いられる印刷用ブランケット及び缶の印刷装置、並びに、明瞭な抜き部を有する印刷缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決するために、本発明に係る缶の印刷方法は、缶の外周面の一部にインクを転写させずに抜き部を形成する抜き印刷を行う缶の印刷方法であって、各色毎に設けられた印刷版胴の外周面に、印刷する図柄に応じた各色の図柄パターンが形成された印刷版を配設するとともに、ブランケットホイールの外周面に、前記抜き部に対応する抜き部パターンを彫刻した印刷用ブランケットを配設し、前記印刷版に各色のインクを付着するとともに、前記印刷用ブランケットに複数の前記印刷版を接触させて各色のインクを写し取り、前記印刷用ブランケットを前記缶の外周面に接触させることで前記インクを前記缶の外周面に転写し、前記缶の外周面に前記抜き部を含む図柄を印刷することを特徴としている。
【0013】
この構成の缶の印刷方法によれば、印刷用ブランケットに抜き部パターンを彫刻しておき、前記印刷用ブランケットに複数の印刷版を接触させて複数の色のインキを写し取り、この印刷用ブランケットを前記缶の外周面に接触させているので、各色の印刷版の見当が完全に一致していなくても、抜き部の輪郭が明確となり、明瞭な抜き部を確実に印刷することが可能となる。
また、印刷する抜き部の形状を変更する場合には、抜き部パターンが彫刻された印刷用ブランケットを交換するのみでよく、抜き部の形状変更を容易に行うことができる。
【0014】
ここで、本発明の缶の印刷方法においては、前記印刷用ブランケットの硬度が、前記印刷版の硬度よりも低く設定されていることが好ましい。
この場合、印刷用ブランケットの硬度が印刷版の硬度よりも低く設定されているので、印刷版に付着させたインクを印刷用ブランケットに確実に写し取ることができる。よって、彫刻された抜き部パターンの輪郭部分にも確実にインクを付着させることができ、明瞭な抜き部を印刷することができる。
【0015】
本発明の印刷用ブランケットは、上述の缶の印刷方法に用いられる印刷用ブランケットであって、前記印刷用ブランケットの表面に抜き部パターンが彫刻されており、前記抜き部パターンの彫刻深さが、0.55mm以上0.8mm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0016】
この構成の印刷用ブランケットによれば、前記印刷用ブランケットの表面に形成された抜き部パターンの彫刻深さが、0.55mm以上とされているので、インクが抜き部パターンの内部に蓄積して缶胴に転写されることを抑制できる。また、抜き部パターンの彫刻深さが、0.8mm以下とされているので、彫刻部分の剛性を確保することができ、抜き部パターンが変形することを抑制できる。よって、明瞭な抜き部を印刷することが可能となる。
【0017】
ここで、本発明の印刷用ブランケットにおいては、前記抜き部パターンの側壁の角度θ(水平面からの立ち上がり角度)が50°以上90°以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記抜き部パターンの側壁の角度θが50°以上90°以下の範囲内とされているので、インクが抜き部パターン内部に蓄積されることを抑制でき、明瞭な抜き部を印刷することができる。
【0018】
また、本発明の印刷用ブランケットにおいては、前記印刷用ブランケットの硬度が、ショアD硬度で30以上60以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、印刷用ブランケットの硬度がショアD硬度で30以上とされているので、彫刻部分の剛性を確保することができ、抜き部パターンが変形することを抑制できる。また、印刷用ブランケットの硬度がショアD硬度で60以下とされているので、印刷版に付着させたインクを印刷用ブランケットに確実に写し取ることができる。
【0019】
本発明の缶の印刷装置は、缶の外周面の一部にインキを転写させずに抜き部を形成する抜き印刷を行う缶の印刷装置であって、外周面に印刷版が配置された印刷版胴と、ブランケットホイールと、を有し、前記ブランケットホイールの外周面に、上述の印刷用ブランケットが配置されていることを特徴としている。
この構成の缶の印刷装置によれば、前記ブランケットホイールの外周面に、上述の印刷用ブランケットが配置されているので、缶胴の外周面に、明瞭な抜き部を印刷することが可能となる。
【0020】
本発明の印刷缶は、上述の印刷方法によって、外周面に抜き部を含む図柄が印刷されたことを特徴としている。
この構成の印刷缶によれば、複数の色のインクを用いた場合であっても、抜き部の輪郭が明確となり、意匠性に優れることになる。
【0021】
ここで、本発明の印刷缶においては、前記抜き部は、文字又は記号であることが好ましい。
この場合、抜き部によって文字及び記号を表示することができ、意匠性に優れた印刷缶を提供できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、複数の色を用いた場合でも明瞭な抜き部を形成することが可能な缶の印刷方法、この缶の印刷方法に用いられる印刷用ブランケット及び缶の印刷装置、並びに、明瞭な抜き部を有する印刷缶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】本発明の一実施形態である印刷缶の概略説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態である印刷用ブランケットの概略説明図である。
【
図5】実施例において印刷する図柄の説明図である。
【
図6】実施例において各色の凸版の見当が一致しない場合の説明図である。
【
図7】実施例において印刷した抜き部を含む図柄の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。なお、本実施の形態に係る缶の印刷装置は、
図1に示すものと同様の構成をしており、その印刷用ブランケット31に特徴を有している。よって、
図1に示したものをもって本実施形態における缶の印刷装置10とする。
【0025】
まず、本発明の実施形態である缶の印刷方法及び缶の印刷装置10によって印刷される印刷缶40について
図2を参照して説明する。
本実施形態である印刷缶40は、例えばアルミニウム若しくはアルミニウム合金により形成されており、大径の缶胴41と、缶胴41の缶軸方向上端に連設されるとともに上方へ向かうに従い漸次縮径された肩部42と、肩部42の缶軸方向上端に連設されるとともに上方へ延在した口金部とを備えている。この口金部に雄ねじ部が形成されており、この雄ねじ部にキャップ48が螺着される構成とされており、いわゆるボトル缶とされている。
【0026】
ここで、缶胴41の外周面には、複数のインクを用いて図柄50が印刷されており、その一部にインクを付着させずに缶胴41の金属面や下塗層を露呈させた抜き部56が形成されている。具体的には、
図2に示すように、インクが印刷されることによって背景パターン55が形成され、抜き部56によって文字や記号が形成されている。
【0027】
このような印刷缶40を印刷する缶の印刷装置10は、
図1に示すように、インク付着機構11と、缶移動機構15とで概略構成されている。
インク付着機構11は、各色のインクをそれぞれ供給するインカーユニット20と、このインカーユニット20に接触してインクを写し取った後、缶胴41の外周面に接触して該インクを印刷する(付着させる)ブランケットホイール30とから構成される。
【0028】
インカーユニット20は、各色毎に設けられており、インク源21と、インク源21に接触してインクを受けるダクティングロール22と、このダクティングロール22に接続する中間ローラ23と、この中間ローラ23に接続するゴムローラ24と、このゴムローラ24に接続する印刷版胴26とからなる。本実施形態では、5色の図柄パターンに応じて、5つのインカ―ユニット20(20A、20B、20C、20D、20E)が配設されている。
【0029】
印刷版胴26の外周面には、缶胴41に印刷される図柄50に応じて形成された凸版27が配設されている。本実施形態では、印刷版胴26は、版胴本体とこの版胴本体に嵌着されたスリーブ印刷版とを備えており、スリーブ印刷版の外周面にレーザ彫刻によって凸版27が形成されている。なお、この凸版27は、各色のインカ―ユニット20(20A、20B、20C、20D、20E)毎に、それぞれ図柄パターンが形成されている。
ここで、凸版27(スリーブ印刷版)の硬度H1は、ショアD硬度で50以上65以下の範囲内とされている。なお、凸版27(スリーブ印刷版)の硬度は、好ましくはショアD硬度で54以上57以下の範囲内である。
【0030】
また、ブランケットホイール30の外周面には、印刷用ブランケット31が複数枚備えられており、この印刷用ブランケット31は、印刷版胴26の外周面に形成された凸版27に回転接触するとともに、缶胴41に回転接触する構成とされている。
ここで、印刷用ブランケット31の硬度H2は、上述の凸版27(スリーブ印刷版)の硬度H1よりも低く設定されている。なお、印刷用ブランケット31の硬度H2は、凸版27(スリーブ印刷版)の硬度H1に対して、0.5×H1≦H2≦0.9×H1の関係を有している。
具体的には、本実施形態では、印刷用ブランケット31の硬度H2は、ショアD硬度で30以上60以下の範囲内とされている。なお、印刷用ブランケット31の硬度は、好ましくはショアD硬度で39以上41以下の範囲内である。
【0031】
そして、本実施形態である印刷用ブランケット31には、
図3に示すように、印刷缶40の抜き部56に対応する抜き部パターン32が彫刻されている。この抜き部パターン32は、印刷用ブランケット31の表面の一部をレーザ彫刻することによって形成されている。なお、
図3では、抜き部パターン32の形状を簡略化して記載している。
ここで、
図4に示すように、抜き部パターン32の彫刻深さdは、0.55mm以上0.8mm以下の範囲内とされている。なお、彫刻深さdは、好ましくは0.6mm以上0.7mm以下の範囲内である。彫刻深さdとは、缶胴41と接触する面を基準面とし、この基準面からの深さである。
また、抜き部パターン32の側壁の角度θ(水平面からの立ち上がり角度)が50°以上90°以下の範囲内とされている。なお、側壁の角度θは、好ましくは65°以上70°以下の範囲内である。
【0032】
なお、印刷用ブランケット31は、上述のように、ブランケットホイール30の外周面に配置されることから、ブランケットホイール30の周方向に湾曲して配置されることになる。このとき、抜き部パターン32がブランケットホイール30の周方向に伸びて変形するおそれがある。そこで、本実施形態では、ブランケットホイール30と同じ曲率を有する支持台に印刷用ブランケット31を配置した状態でレーザ彫刻を行うことにより、抜き部パターン32を形成している。
【0033】
ここで、本発明の実施形態である缶の印刷装置10においては、印刷版胴26の凸版27と、ブランケットホイール30の印刷用ブランケット31との相対位置を調整する位置調整機構を備えている。
【0034】
次に、上述のような構成とされた本実施形態である缶の印刷装置10による缶の印刷方法について説明する。
各々のインカーユニット20(20A、20B、20C、20D、20E)のインク源21から各々異なった色のインクが、ダクティングロール22、中間ローラ23、ゴムローラ24を介して、印刷版胴26の外周面に形成された凸版27に付着させられる。
【0035】
回転するブランケットホイール30上の印刷用ブランケット31が、各々のインカーユニット20(20A、20B、20C、20D、20E)の凸版27と順次接触することにより、印刷用ブランケット31の上に各色のインクがウェット状態で積層され、図柄パターンとして乗せられる。このとき、印刷用ブランケット31に形成された抜き部パターン32部分にはインクが付着しないことになる。
なお、本実施形態では、印刷用ブランケット31の硬度H2が凸版27(スリーブ印刷版)の硬度H1よりも低く設定されているので、印刷用ブランケット31と凸版27とが接触した際には、印刷用ブランケット31側が若干後退するように変形することになる。
【0036】
そして、各色のインクが乗せられた印刷用ブランケット31が、マンドレル17に保持された缶胴41に回転接触することにより、インクが缶胴41側に転写され、缶胴41の外周面に印刷が施される。
各色のインクの図柄パターンが重なり合って、缶胴41にひとつの図柄50が印刷される。つまり、缶胴41に印刷される図柄50は、各色の印刷版胴26の凸版27の図柄パターンが重なり合って形成されているのである。そして、抜き部パターン32が形成された箇所においては、インクが転写されずに、缶胴41の外周面に抜き部56が形成されることになる。
【0037】
以上のような構成とされた本実施形態である缶の印刷方法及び缶の印刷装置10によれば、印刷用ブランケット31に抜き部パターン32を彫刻しておき、印刷用ブランケット31に複数の凸版27を順次接触させて各色のインクをウェット状態で積層させて、この印刷用ブランケット31を缶胴41の外周面に接触させてインクを転写しているので、各色の凸版27の見当が完全に一致していなくても、抜き部56の輪郭が明確となり、明瞭な抜き部56を確実に印刷することが可能となる。
【0038】
また、各色のインカ―ユニット20(20A、20B、20C、20D、20E)の凸版27に抜き部56に応じた図柄パターンを形成する必要がないため、異なる抜き部56を印刷する場合には、各色のインカ―ユニット20(20A、20B、20C、20D、20E)の凸版27を交換することなく、印刷用ブランケット31のみを交換すればよく、抜き部56の図柄変更を簡単に行うことができる。また、ブランケットホイール30に配設された複数の印刷用ブランケット31の一部に異なる抜き部パターン32を形成することにより、異なる抜き部56を有する印刷缶40を同一の缶の印刷装置10において印刷することが可能となる。
【0039】
また、本実施形態では、印刷用ブランケット31の硬度H2が、凸版27(スリーブ印刷版)の硬度H1よりも低く設定されているので、凸版27と印刷用ブランケット31とを回転接触させた際に、印刷用ブランケット31側が若干後退するように変形し、凸版27に付着されたインクを印刷用ブランケット31側へと確実に写し取ることができる。よって、彫刻された抜き部パターン32の輪郭部分にも確実にインクを付着させることができ、明瞭な抜き部56を印刷することができる。特に、本実施形態では、印刷用ブランケット31の硬度H2が、凸版27(スリーブ印刷版)の硬度H1に対して、0.5×H1≦H2≦0.9×H1の関係を有しているので、確実に明瞭な抜き部56を印刷することができる。
【0040】
また、本実施形態では、印刷用ブランケット31の表面に形成された抜き部パターン32の彫刻深さdが0.5mm以上とされているので、インクが抜き部パターン32の内部に蓄積して缶胴41に転写されることを抑制できる。また、抜き部パターン32の彫刻深さdが0.8mm以下とされているので、彫刻部分の剛性を確保することができ、抜き部パターン32が変形することを抑制できる。よって、明瞭な抜き部56を印刷することが可能となる。
【0041】
さらに、本実施形態では、抜き部パターン32の側壁の角度θが50°以上とされているので、インクが抜き部パターン32の内部に蓄積されることを抑制でき、明瞭な抜き部56を印刷することができる。また、抜き部パターン32の側壁の角度θが90°以下とされているので、彫刻部分の剛性を確保することができ、抜き部パターン32が変形することを抑制できる。
【0042】
また、本実施形態では、印刷用ブランケット31の硬度が、ショアD硬度で30以上とされているので、彫刻部分の剛性を確保することができ、抜き部パターン32が変形することを抑制できる。また、印刷用ブランケット31の硬度がショアD硬度で60以下とされているので、凸版27に付着させたインクを印刷用ブランケット31に確実に写し取ることができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、印刷版胴26の凸版27と、ブランケットホイール30の印刷用ブランケット31との相対位置を調整する位置調整機構を備えているので、凸版27に形成された図柄パターンと印刷用ブランケット31に形成された抜き部パターン32との見当が一致することになり、図柄50を精度良く印刷することが可能となる。
さらに、本実施形態では、ブランケットホイール30と同じ曲率を有する支持台に印刷用ブランケット31を配置した状態でレーザ彫刻を行うことにより、抜き部パターン32を形成しているので、抜き部パターン32の変形を抑制でき、明瞭な抜き部56を印刷することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、
図2に示す抜き部や図柄を印刷するものとして説明したが、これに限定されることはなく、その他の形状の抜き部や図柄を印刷するものであってもよい。
【0045】
また、本実施形態では、
図2に示すボトル缶を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、例えばアルミニウム、アルミニウム合金若しくはスチール等により形成された有底筒状体の開口部に缶蓋が巻締められたいわゆる2ピース缶や、胴部を有する筒状体の缶軸方向両端部に缶蓋および底蓋が各々巻締められたいわゆる3ピース缶であってもよい。
【0046】
また、本実施形態では、5つのインカ―ユニットを有する缶の印刷装置を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、インカ―ユニットの数に制限はない。
さらに、インカ―ユニットや缶の移動機構等の構造は、本実施形態に限定されることはなく、他の構成のものを適用してもよい。
また、印刷版胴がスリーブ印刷版を有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、平板を版胴本体の表面に配設したものであってもよい。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
図1に示す缶の印刷装置を用いて、
図5に示すような、抜き部を有する図柄を印刷した。この図柄は、5色のインクを用いてそれぞれ図柄パターンが形成されており、その一部に抜き部が形成されている。具体的には、色Aによって矩形状の枠部が印刷されており、色B、色C、色D、色Eによって枠部の内側が4つのブロックに塗り分けられ、その中心に円形の抜き部が形成されている。色Aの枠部は幅0.25mmで内側の四角形の一辺を2mmとした。色B、色C、色D、色Eは一辺が1mmの正方形とした。抜き部は、半径0.5mmの円とした。
【0048】
なお、
図5は、色A、色B、色C、色D、色Eの凸版の見当が完全一致した場合の図柄である。通常、色A、色B、色C、色D、色Eの凸版の見当が完全一致することは難しい。このため、
図6に示すように、抜き部を有さない印刷を行った場合でも、色Aの枠体、色B、色C、色D、色Eのブロックに若干ずれが生じることになる。
【0049】
従来例1−3では、各インカ―ユニットの凸版に抜き部パターンをそれぞれ形成して印刷した。印刷結果の一例を
図7(a)に示す。
一方、本発明例1−3では、印刷用ブランケットに抜き部パターンを形成し、凸版には抜き部パターンは形成しなかった。印刷結果の一例を
図7(b)に示す。
【0050】
ここで、
図7(a)、(b)に示すように、色Aで印刷した枠部に対する色B、色C、色D、色Eの図柄パターンのずれ量を測定した。また、抜き部の輪郭部分を目視で確認した。色が切り替わる箇所において抜き部の端面にガタツキが認められないものを「○」、ガタツキが認められたものを「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、印刷版胴の凸版に抜き部パターンを形成した従来例では、色B、色C、色D、色Eの見当が一致しておらずにズレが生じた場合には、抜き部にガタツキが生じた。
これに対して、印刷用ブランケットに抜き部パターンを彫刻した本発明例では、色B、色C、色D、色Eの見当が一致していなくても、抜き部にガタツキが生じておらず、抜き部を明瞭に印刷可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0053】
10 缶の印刷装置
26 印刷版胴
27 凸版(印刷版)
30 ブランケットホイール
31 印刷用ブランケット
32 抜き部パターン
40 印刷缶
41 缶胴
50 図柄
56 抜き部