【解決手段】耐震壁100は、左右の柱12L、12Rと上下の梁14U、14Lとで囲まれた架構10の構面内に、開口部30が形成されるように設けられたブロック壁50と、開口部30に設けられた鉄骨枠70と、を有し、ブロック壁50は、壁体構築用のブロック52を布積みされることで構築され、また、ブロック52は、水平方向の両端部から中央部に向かうに従って鉛直方向幅が短くなった所謂蝶々型とされている。
柱と梁又はスラブとで構成された架構に開口部が形成されるように設けられ、上面と下面とに傾斜部が形成されたブロックを、前記傾斜部同士が上下に重なるように布積みされたブロック壁と、
前記開口部に設けられ、前記開口部の内壁に接合された補強部材と、
前記補強部材と前記ブロック壁との間に、及び前記ブロック壁と前記柱との間に、充填された充填材と、
前記充填材に配筋された割裂防止筋と、
を備える耐震壁構造。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る耐震壁構造の一例について説明する。
<全体構成>
図1に示すように、本実施形態の耐震壁100は、構造物11を構成する左右の柱12L、12Rと上下の梁14U、14Lとで囲まれた架構10に設けられている。耐震壁100は、開口部30が形成されるように設けられたブロック壁50と、開口部30に設けられた鉄骨枠70と、を有している。なお、本実施形態では、構造物11(架構10)は鉄筋コンクリート造であるが、鉄筋コンクリート造に特定されるものではない。
【0017】
<ブロック壁及びブロック>
次に、ブロック壁及びブロックについて説明する。
【0018】
図1に示すように、ブロック壁50は、壁体構築用のブロック52を布積みされることで構築されている。なお、「布積み」とは、ブロックを鉛直方向対して千鳥状に配置して壁体が構築される積み方である。
【0019】
図2及び
図6に示すように、ブロック52は、正面視において、水平方向の両端部から中央部に向かうに従って鉛直方向幅が短くなった所謂蝶々型とされている。なお、正面視とは、ブロック壁50を面外方向に見た場合である。また、以降、ブロック52の形状を説明では、特に断りがない場合は、正面視におけるものとする。
【0020】
図2に示すように、ブロック52は、上面54、下面56、正面62、背面64、第一側面66、及び第二側面68とで構成されている。
【0021】
ブロック52の上面54は、両端部から中央部に向かって下り勾配となった傾斜面54A、54Bが形成されている。換言すれば、上面54は、左右一対の傾斜面54A、54Bから構成されている。同様に、ブロック52の下面56は、両端部から中央部に向かって上り勾配となった傾斜面56A,56Bが形成されている。換言すれば、下面56は、左右一対の傾斜面56A、56Bから構成されている。
【0022】
ブロック52の第一側面66及び第二側面68には、平面視(上方から見た場合)において、半円形状の凹部67,69が形成されている(
図5(B)も参照)。また、ブロック52の水平方向の中央部には、上面54と下面56とに開口する貫通孔58が形成されている(
図5(B)も参照)。
【0023】
なお、ブロック52が布積みされブロック壁50となった状態(第一側面66及び第二側面68が接触した状態)では、凹部67と凹部69とが繋がり、貫通孔59を構成する(
図5(B)も参照)。また、貫通孔59は、貫通孔58と同じ大きさとされている。
【0024】
また、ブロック52には、第二側面68の凹部69と貫通孔58とを連通する案内部60が形成されている。案内部60は、貫通孔58及び凹部69よりも面外方向の幅が狭くなっている(
図5(B)も参照)。
【0025】
(ブロックの布積み方法)
つぎに、ブロック52の布積み方法の一例について説明する。
【0026】
先ず、鉄筋40を上下の梁14U,14L(
図1及び
図3を参照)に接合(定着)する。鉄筋40は、左右方向に間隔をあけて複数接合する。なお、鉄筋40の間隔は、貫通孔58、59の間隔と一致するように設ける。
【0027】
つぎに、鉄筋40にブロック52の第二側面68から案内部60を通して貫通孔58に達するようにブロック52を移動させる。鉄筋40が貫通孔44に達すると、ブロック52を90度回転させて、ブロック52の正面62及び背面64を面内方向とする。
【0028】
このようにして、ブロック52を下側から順に積み上げていく。このとき、傾斜面54Aと傾斜面56B、及び傾斜面54Bと傾斜面56Aとが上下に重なるように、積み上げていく。
【0029】
なお、ブロック52を回転させる際に、既に配置されているブロック52との干渉を回避するために、既に配置されているブロック52を水平方向にずらす等して適宜対応する。
【0030】
このようにして構築されたブロック壁50は、ブロック52が半分ずつ左右方向にずれて千鳥状に配置され、傾斜面54A、54Bと傾斜面56A、56Bとがそれぞれ上下に重なるように布積みされる(
図6も参照)。
【0031】
なお、本実施形態では、貫通孔58、59及び案内部60には、モルタルなどの充填材Mを充填する(
図5(B)を参照)。また、本実施形態では、ブロック52は、上面54、下面56、第一側面66、及び第二側面68は、エポキシ樹脂など樹脂製の接着剤を塗布し、接着接合している。
【0032】
また、本実施形態では、
図1に示すように、ブロック52と外形が同じ蝶々形の鉄骨開口部材51をブロック52と同じように布積みする。この鉄骨開口部材51は、設備開口用の開口として利用される。
【0033】
なお、ブロック壁50の側端部50Lと柱12Lとの接合部120A(
図1)、及びブロック壁50の側端部50Rと鉄骨枠70を構成する鉄骨柱72Lとの接合部120C(
図1、
図5(B))の構造は、後述する。
【0034】
<鉄骨枠>
つぎに、開口部30に設けられた鉄骨枠70について説明する。
【0035】
図1に示すように、鉄骨枠70は、開口部30の内壁32(柱12R、梁14U,14L,及びブロック壁50における面外方向の内側の端面)の全周に亘って接合されている。鉄骨枠70は、溶接接合された左右の鉄骨柱72L、72R、鉄骨梁74、及び鉄骨プレート76で構成されている。
【0036】
鉄骨枠70を構成する左右の鉄骨柱72R,72Lは、柱12R及びブロック壁50と接合部120B、120Cを介して接合されている。なお、鉄骨柱72Lと柱12Rの接合部120C(
図1、
図5(A))の構造は後述する。
【0037】
図3に示すように、鉄骨柱72L,72R(
図1も参照)及び鉄骨梁74は、上側の梁14Uに後施工のアンカー80で接合されている。また、
図4(A)に示すように、鉄骨柱72L,72Rと下側の梁14Lとも同様にアンカー80で接合されている。
【0038】
図4に示すように、鉄骨プレート76は、プレート部79と、プレート部79の上面79Uに左右方向に沿って接合されたリブ78と、を有する構造となっている。そして、鉄骨プレート76のプレート部79が下側の梁14Lに後施工のアンカー80で接合されている。
【0039】
なお、
図1に示すように、開口部30の内壁32の全周に鉄骨枠70を接合することで、鉄骨プレート76を掃き出し部とする通路開口(ドア開口)として利用可能な逆U字形状の開口部31が形成される。
【0040】
<接合部>
つぎに、ブロック壁50の側端部50Rと柱12Lとの接合部120A(
図1)、ブロック壁50の側端部50Rと鉄骨枠70の鉄骨柱72Lとの接合部120B(
図1、
図2、及び
図5(B))、鉄骨枠70の鉄骨柱72Lと柱12Lとの接合部120C(
図1及び
図5(A))の構造について説明する。
【0041】
図1、
図2、
図5(A)、
図5(B)に示すように、これら接合部120A,120B,120Cは、両者の間の隙間122A,122B,122Cにモルタルなどの充填材Mが充填されると共に、鉄筋で構成された螺旋状の割裂防止筋124A,124B,124Cが配筋(埋設)されている。
【0042】
なお、これら接合部120A,120B,120Cは、圧縮力は伝達するが、引張力は伝達しない、或いは殆ど伝達しない。
【0043】
また、接合部120A,120B,120Cは、上述したように構成は同じであるので、以降、符号の後のA,B,Cを省略して区別しないで説明する場合がある。
【0044】
<作用及び効果>
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0045】
図6に示すように、ブロック壁50に入力された水平方向の力(せん断力)Sは、ブロック52の傾斜面54A,54B,56A,56Bに作用する圧縮力Vによって、下側のブロック52に順次作用する。よって、ブロック間のせん断摩擦力で水平力を伝達する構成と比較し、伝達力が大きく、また水平方向の鉄筋(横筋)を設けることなく水平力に対抗することができる。
【0046】
図9(A)に示すように、正面視において、せん断力が矢印WAのように架構10に作用すると、せん断力は柱12L及び接合部120Aを介してブロック壁50の左上側角部55Aに入力される。ブロック壁50の左上側角部55Aに入力されたせん断力は、矢印VAで示す圧縮ストラット(上述した傾斜面54A,54B,56A,56Bに作用する圧縮力V(
図6の参照))によって右下側角部57Aに伝達される。
【0047】
右下側角部57Aに伝達されたせん断力は、接合部120Bを介して、鉄骨枠70に伝達される。そして、矢印TAに示すように、鉄骨柱72L、鉄骨プレート76、及び鉄骨柱72Rを伝達する。このとき、鉄骨プレート76には、リブ78が設けられているので、効果的にせん断力が伝達される。そして、鉄骨柱72Rに伝達されたせん断力は、接合部120Cを介して柱12Rに伝達される。
【0048】
図9(B)に示すように、正面視において、せん断力が矢印WBのように架構10に作用すると、せん断力は柱12R及び接合部120Cを介して鉄骨枠70に伝達される。そして、矢印TBに示すように、鉄骨柱72R、鉄骨梁74、及び鉄骨柱72Lを伝達する。鉄骨柱72Lに伝達されたせん断力は、接合部120Bを介して、ブロック壁50の右上側角部55Bに入力される。ブロック壁50の右上側角部55Bに入力されたせん断力は、矢印VBで示す圧縮ストラットV(圧縮力V(
図6参照))によって左側角部57Bに伝達される。
【0049】
このように、架構10を変形させるせん断力(水平力)が、架構10の左右の上側角部から架構10の左右の下側角部に伝達され、架構10の変形が抑制される。なお、せん断力は、鉄骨プレート76及び鉄骨梁74で主に伝達されるが、梁14U,14Lを介しても伝達される。
【0050】
また、ブロック壁50は、圧縮ストラットVA,VB(圧縮力V(
図6参照))によってせん断力を伝達し、引張力の伝達を期待していない。よって、ブロック壁50の側端部50Rと柱12Lとの接合部120A(
図1を参照)及びブロック壁50の側端部50Rと鉄骨枠70の鉄骨柱72Lとの接合部120B(
図1、
図2、及び
図5(B)を参照)は、引張力を伝達するアンカーなどで接合する必要がない。なお、ブロック壁50に過大な引張力が伝達されると、ブロック52が破損する虞がある。
【0051】
よって、これらの間の接合部120A,120Bには、割裂防止筋124を配筋して充填材Mを充填すればよい。したがって、引張力を伝達するアンカーなどでブロック壁50を接合する場合と比較し、施工が容易である。
【0052】
また、前述したように、傾斜面54A,54B,56A,56Bを有する蝶々形のブロック52を用いることで、ブロック壁50に入力されたせん断力は圧縮力Vによって、下側のブロック52に順次伝達される(圧縮ストラットVA,VB(
図9参照))。よって、水平方向の鉄筋(横筋)を設けることなく、ブロック52を積み上げる構造であるにも関わらず、水平力に対抗することができる。すなわち、水平方向の鉄筋(横筋)が不要となる。更に、本実施形態では、
図2に示すように、ブロック52を正面側から積み上げることができる。
【0053】
したがって、耐震性能を確保しつつ、開口部30(開口部31)を有する耐震壁100をブロック52で架構10に容易に設けることができる。
【0054】
<変形例>
つぎに、本実施形態の変形例について説明する。
【0055】
例えば、上記実施形態では、柱12Rと鉄骨枠70の鉄骨柱72Rとの接合部120Cは充填材Mと割裂防止筋124Cとで構成されていたが、これに限定されない。例えば、柱12Rと鉄骨枠70の鉄骨柱72Rとは、アンカーやスタッド等でせん断力が伝達されるように接合されていてもよい。
【0056】
また、開口部30に設ける補強部材は、枠状の鉄骨枠70に限定されない。少なくとも鉄骨柱72Lがあればよい。なお、鉄骨梁74及び鉄骨プレート76が設けられていない場合は、梁14U、14Lがブロック壁50との間でせん断力を伝達する。
【0057】
また、ブロック壁を構成するブロックは、上記実施形態の所謂蝶々型(
図2などを参照)に限定されない。例えば、
図8に示すように曲面254A,254B,256A,256Bを有するブロック252と曲面255A,255B,257A,257Bを有するブロック253との組み合わせであってもよい。また、傾斜部が左右一対でなく、いずれか一方であってもよい。要は、傾斜部に作用する圧縮力(圧縮ストラット)によって、下側のブロックに水平力(せん断力)が順次伝達される構成であればよい。
【0058】
また、ブロック壁50には、上下方向に面外の倒れ防止用の鉄筋40が配筋されていたが、これに限定されない。鉄筋40が配筋されていなくてもよい。なお、鉄筋40が配筋されていない場合は、ブロック壁50の面外の倒れ込みを防止するために、ブロック壁50と梁14U,14Lとをアンカー等で接合する。
【0059】
[開口部]
開口部の形状は、上記実施形態に限定されない。よって、つぎに開口部の変形例について説明する。なお、変形例においても、鉄骨枠又は鉄骨部材とブロック壁の側端部との間、及びブロック壁の側端部と柱12L,12Rとの間は、充填材Mと割裂防止筋124とで構成された接合部120と同様の構成であるので、説明を省略する。
【0060】
(第一変形例)
図7(A)に示す第一変形例の耐震壁102は、ブロック壁150の右側上部は上側の梁14Uと右側の柱12Rとの上部とに接合されている。そして、開口部130に鉄骨枠170を接合することで、逆U字形状の開口部131が形成される。
【0061】
(第二変形例)
図7(B)に示す第二変形例の耐震壁104は、ブロック壁250の左右方向中央部が逆U字形状に開口することで開口部230が形成されている。そして、開口部230に鉄骨枠270を接合することで、逆U字形状の開口部231が形成される。
【0062】
(第三変形例)
図7(C)に示す第三変形例の耐震壁106は、ブロック壁350の中心部が開口することで開口部330が形成されている。そして、開口部230に鉄骨枠270を接合することで、矩形状の開口部231が形成される。
【0063】
(第四変形例)
図7(D)に示す第四変形例の耐震壁108は、ブロック壁450が下側の梁14Lと左右の柱12L,12Rとに接合され、ブロック壁450と上側の梁14Uとの間が開口部430となっている。そして、開口部430の下部に鉄骨部材470が設けられ、左右の柱12R,12Lとブロック壁450とに接合されている。なお、鉄骨部材470と上側の梁14Uとの間に開口部431が形成される。
【0064】
(第五変形例)
図7(E)に示す第五変形例の耐震壁109は、ブロック壁250が下側の梁14Lと左の柱12Lとに接合され、ブロック壁250と上側の梁14U及び右側の柱12Rとの間が開口部530となっている。そして、正面視において横向きのT字形状の鉄骨部材570を構成する縦部材572が上下の梁14U,14Lとブロック壁250とに接合され、横部材574がブロック壁250及び柱12Lに接合されている。なお、開口部530に鉄骨部材570を接合することで、左側の開口部571Aと上側の開口部571Bとが形成される。
【0065】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0066】
また、例えば、上記実施形態では、鉄骨枠(補強部材)は、複数の鉄骨材を溶接接合して構成されていたが、これに限定されない。例えば、複数の鉄骨部材をボルト接合して構成されていてもよい。
【0067】
例えば、補強部材は、鉄骨製(鋼製)以外であってもよい。例えば、木製やプレキャストコンクリート製の補強部材であってもよい。
【0068】
また、例えば、上記実施形態では、架構10は、柱12L、12Rと梁14U、14Lとで囲まれて構成されたが、これに限定されない。梁14U、14Lでなくスラブと柱とで囲まれてもよい。
【0069】
また、例えば、上記実施形態では、
図1に示すように、設備開口として利用される鉄骨開口部材51は、ブロック52と外形が同じ蝶々形であったが、このような外形に限定されない。ブロック52の外形と異なる外形、例えば矩形状であってもよい。また、鉄骨開口部材が設けられていなくてもよい。
【0070】
また、例えば、上記実施形態では、鉄骨プレート76には、リブ78が設けられていたが、これに限定されない。鉄骨プレート76の板厚が大きく、鉄骨プレート76のみでせん断力を伝達する性能を十分有していれば、リブ78は無くてもよい。
【0071】
また、例えば、上記実施形態では、割裂防止筋は、螺旋状の鉄筋で構成されていたが、これに限定されない。割裂防止機能を有していれば、螺旋状以外の他の形状、例えば、支直線状であってもよい。
【0072】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。