特開2015-227617(P2015-227617A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-227617(P2015-227617A)
(43)【公開日】2015年12月17日
(54)【発明の名称】スリーブおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/00 20060101AFI20151120BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20151120BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20151120BHJP
   B22D 17/00 20060101ALI20151120BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20151120BHJP
   B22D 29/00 20060101ALI20151120BHJP
   B22C 9/24 20060101ALI20151120BHJP
【FI】
   F02F1/00 D
   C22C21/02
   C22C1/02 503J
   B22D17/00 B
   B22D21/04 A
   B22D29/00 G
   B22C9/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-112449(P2014-112449)
(22)【出願日】2014年5月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】藤曲 栄志
(72)【発明者】
【氏名】山崎 毅幸
(72)【発明者】
【氏名】千葉 秀利
【テーマコード(参考)】
3G024
4E093
【Fターム(参考)】
3G024AA22
3G024AA25
3G024FA06
3G024GA01
3G024GA06
3G024HA07
3G024HA11
4E093UA03
(57)【要約】
【課題】Si量を極力低減したアルミニウム合金で耐摩耗性を確保するアルミニウム合金製のスリーブを提供する。
【解決手段】FeおよびMnを含有する過共晶Al−Si系合金の溶湯を金型面から内側へ向けてチル層を成長させるダイキャスト法で筒状の1次成形体を得る工程と、1次成形体の内周面から内部に亘って少なくともチル層を含む部分を除去し、初晶Si、共晶SiおよびAlFeMnSi化合物の含有量がそれらの平均含有量よりも多い部分を露出させる工程とを備えた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeおよびMnを含有する過共晶Al−Si系合金からなる筒状体をなし、前記筒状体の内周面には、基地と、該基地中に晶出した初晶Si、共晶SiおよびAlFeMnSi化合物が露出し、初晶Si、共晶SiおよびAlFeMnSi化合物の含有量は、前記筒状体の外周面よりも前記内周面の方が多いことを特徴とするスリーブ。
【請求項2】
FeおよびMnを含有する過共晶Al−Si系合金の溶湯を金型面から内側へ向けてチル層を成長させるダイキャスト法で筒状の1次成形体を得る工程と、
前記1次成形体の内周面から内部に亘って少なくとも前記チル層を含む部分を除去し、初晶Si、共晶SiおよびAlFeMnSi化合物の含有量がそれらの平均含有量よりも多い部分を露出させる工程とを備えたことを特徴とするスリーブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関のシリンダブロックのスリーブに係り、特に、Si量を極力低減したアルミニウム合金で耐摩耗性を確保することができるアルミニウム合金製のスリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金製シリンダブロックの耐摩耗性を確保する技術として、特許文献1には、セラミックスと金属の複合材料でスリーブを構成する技術が提案されている。しかしながら、この技術では、高い寸法精度が要求される摺動面の加工性が悪いことと、セラミックス等とアルミニウムが混在するスクラップのリサイクルが困難であるという問題があった。
【0003】
特許文献2には、摺動面を含む全てを同一のアルミニウム合金で構成したシリンダブロックが提案されている。しかしながら、この技術では、摺動面の耐摩耗性を確保するためにSiを多く添加する必要がある。その結果、アルミニウム合金の溶解温度と注湯温度が高くなり、製造コストが高価になるという問題がある。また、発生したバリの処理や凝固収縮量の増加などといった鋳造性の悪化を伴い、製造管理が困難となる。さらに、摺動面以外の耐摩耗性を必要としない締結構造部においても初晶Siが多く晶出されるため、シリンダブロック各部の加工性が低下するとともに、形成したネジ部の靭性低下が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−222638号公報
【特許文献2】特開2010−151139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリンダブロックのスリーブは、燃焼室の形成、ピストンのガイド及び放熱機能が要求される部品である。したがって、スリーブ材料としては放熱性と軽量化を両立できるアルミニウム合金化が有効である。しかしながら、ピストンおよびピストンリングによる過酷な摺動環境のため、スリーブのアルミニウム合金化は困難とされており、鋳鉄が主流である。したがって、本発明は、過酷な摺動環境に耐えることができるアルミニウム合金製のスリーブを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスリーブは、FeおよびMnを含有する過共晶Al−Si系合金からなる筒状体をなし、筒状体の内周面には、基地と、該基地中に晶出した初晶Si、共晶SiおよびAlFeMnSi化合物が露出し、初晶Si、共晶SiおよびAlFeMnSi化合物の含有量は、筒状体の外周面よりも内周面の方が多いことを特徴とする。
【0007】
また、本発明のスリーブの製造方法は、FeおよびMnを含有する過共晶Al−Si系合金の溶湯を金型面から内側へ向けてチル層を成長させるダイキャスト法で筒状の1次成形体を得る工程と、1次成形体の内周面から内部に亘って少なくともチル層を含む部分を除去し、初晶Si、共晶SiおよびAlFeMnSi化合物の含有量がそれらの平均含有量よりも多い部分を露出させる工程とを備えたことを特徴とする。
【0008】
重力ダイキャスト法では溶湯の冷却速度は約10℃/秒程度であるが、高圧ダイキャスト法でアルミニウム合金の溶湯を金型内に射出すると、溶湯は例えば50〜800℃/秒という冷却速度で金型面から冷却される。そのような急冷により、溶湯では金型面から内側へ向けてチル層が成長する凝固が起こり、金型面で核生成した初晶Si結晶粒は金型面から遊離して等軸共晶粒と共に内側(肉厚中央部)に集まる。また、溶湯中に晶出するAlFeMnSi化合物も内側に集まる。このようにして、金型面近傍は初晶Si、共晶SiおよびAlFeMnSi化合物の含有量が低く、内側は初晶Si、共晶SiおよびAlFeMnSi化合物の含有量が高くなる。
【0009】
本発明においては、1次成形体の内周面から内部に亘って少なくともチル層を含む部分を除去し、内側の部分、つまり、初晶Si、共晶SiおよびAlFeMnSi化合物の含有量がそれらの平均含有量よりも多い部分を露出させる。これにより、スリーブの内周面の耐摩耗性を向上させることができる。一方、スリーブの内周面以外の部分では、Si量を低減することができるので、加工性の低下を抑制することができ、また、原料のSi量を低減することができるので、溶解温度の上昇と鋳造性の低下を抑制することができる。さらに、シンリンダブロック一体ではなくスリーブを個別に製造するので、スリーブのみ耐摩耗性向上に特化した成分構成が可能であり、FeやMnの添加量も増加することができる。
【0010】
ここで、本発明のスリーブ用過共晶Al−Si系合金の溶湯の成分は、質量%で、Si:16〜18%、Fe:0.8〜1.3%、Mn:0.40〜0.60%、残部:Alおよび不可避的不純物であることが望ましい。以下は成分の限定理由である。スリーブの内周面の耐摩耗性確保のためには、Siは16%以上であることが望ましい。一方、Siは、溶解温度の上昇と加工性の低下を抑制するために、18%以下であることが望ましい。また、FeとMnは、耐摩耗性を得るために、Fe:0.8%以上、Mn:0.40%以上であることが望ましく、溶湯保持中のスラッジ抑制のためにFe:1.3%以下、Mn:0.60%以下であることが望ましい。また、強度向上の目的でCuを添加しても良く、その場合は1.5%以上とすることで強度向上の十分な効果が見込める。一方、過剰なCu添加はコストアップとなるため、4.0%以下とする。同様にMgを添加しても良く、その場合は0.50%以上とすることで強度向上の十分な効果が見込める。一方、過剰なMgの添加は鋳造性の悪化を招くので0.65%以下とする。
【0011】
1次成形体の内周面から内部に亘って除去する厚さは、1次成形体の板厚の半分であれば初晶Si、共晶SiおよびAlFeMnSi化合物の最も含有量の高い部分を露出させることができるが、2mm以上であればよい。また、溶湯の金型内での冷却速度は、50〜800℃/秒であることが望ましい。このような冷却速度により、確実にチル層を成長させることができるとともに、均一な組織を得ることができ均一な耐摩耗性を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内周面に硬度の高いSiおよびAlFeMnSi化合物の含有量の高い部分を露出させるので、耐摩耗性を向上させることができ、過酷な摺動環境に耐えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例におけるスリーブの1次成形体の内周面からの深さとSi濃度との関係を示すグラフである。
図2】本発明の実施例におけるスリーブの1次成形体の内周面からの深さとFe濃度との関係を示すグラフである。
図3】本発明の実施例におけるスリーブの1次成形体の内周面からの深さとMn濃度との関係を示すグラフである。
図4】本発明の実施例におけるスリーブの1次成形体の内周面近傍における組織を示す顕微鏡写真である。
図5】本発明の実施例におけるスリーブの1次成形体の内周部をボアに加工した後の内周面近傍における組織を示す顕微鏡写真である。
【実施例】
【0014】
質量%で、Si:17%、Fe:1.04%、Mn:0.4%、残部:Alの組成を有する過共晶アルミニウム合金を溶解して760℃とし、高圧ダイキャスト法(HPDC)にて金型内に溶湯を射出し、肉厚が5.5mmの円筒状の1次成形体を鋳造した。そのときの射出スリーブの温度は180℃とし、金型は水冷回路によって冷却した。
【0015】
鋳造した1次成形体の内周面を所定深さまで切削加工し、切削面におけるSi、Fe、およびMnの濃度を測定した。その結果を図1図3に示す。図1図3に示すように、Si、Fe、およびMnの濃度は、切削深さが深くなるに従って増加し、設計寸法である深さ2.1mmの部分(ボア加工位置)でSiが18.6%、Feが1.08%、Mnが0.45%まで増加した。ここで、FeおよびMnは、AlFeMnSi化合物の形態で基地中に晶出している。AlFeMnSi化合物の粒経は3μm程度であり、硬度はHV800程度でSiと同等である。
【0016】
図4は1次成形体の金型面近傍における組織を示す顕微鏡写真である。図4に示すように、この組織では、共晶組成の基地中に初晶Si結晶粒が分散している。図5は、ボア加工位置における組織の顕微鏡写真である。図5に示すように、金型面近傍から集まった初晶Siおよび等軸共晶粒が凝集した大きな結晶粒が観察される。このことからも、ボア加工位置においてSiが濃縮されていることが確認できる。
【0017】
比較のために、質量%で、Si:17%、Fe:0.31%、残部:Alの組成を有する過共晶アルミニウム合金を用いて重力ダイキャスト法(GDC)で鋳造を行った以外は上記と同じ条件で1次成形体を製造し、ボア加工位置のSi濃度とFe濃度を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
表1に示すように、比較例におけるボア加工位置でのSi濃度は添加量(17%)と殆ど変化がなく、Fe濃度に至っては減少していた。実施例と比較例の試料に対して窒化した鋼製リングを摺動させる摺動試験を行った。摺動試験後の試料の摺動痕を表面粗さ計でプロファイル測定し、3部位の平均深さを摩耗量とした。その結果を表1に併記する。
【0020】
表1に示すように、本発明の実施例では比較例と比べて摩耗量が少なく、耐摩耗性が向上していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックのスリーブに利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5