【解決手段】水素ガスが圧縮されて貯蔵された水素貯蔵手段と、前記水素貯蔵手段から供給された水素ガスを流通する水素流通管と、前記水素流通管から水素ガスが供給され、水素吸蔵する吸蔵圧力が互いに異なりかつ前記吸蔵圧力が前記水素貯蔵手段から水素ガス流通方向に向かって低くなる順に配列された複数の水素吸蔵材料と、前記水素吸蔵材料間の前記水素流通管に配置され、水素ガスの流通量を切り替える切替弁と、を備えた水素吸蔵型ヒートポンプである。
前記水素吸蔵材料が水素吸蔵合金であり、複数の水素吸蔵合金は、前記吸蔵圧力である水素平衡圧が前記水素貯蔵手段から水素ガス流通方向に向かって低くなる順に配列されている請求項1に記載の水素吸蔵型ヒートポンプ。
前記複数の水素流通管のそれぞれに配列された複数の水素吸蔵材料において、水素貯蔵手段からそれぞれ第m番目(m≧1)の位置にある水素吸蔵材料は、互いに同一の水素吸蔵材料である請求項4に記載の水素吸蔵型ヒートポンプ。
前記複数の水素流通管のそれぞれに配列された複数の水素吸蔵材料は、各水素流通管の水素ガス流通方向において、水素ガスの脱離と、水素ガスの吸蔵と、を交互に行う請求項4又は請求項5に記載の水素吸蔵型ヒートポンプ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水素供給源として、圧縮して貯蔵されている高圧水素を使用する場合、高圧水素は、水素利用装置での利用に適した圧力まで減圧された後、利用に供される。このとき、減圧した分の圧力については利用されないため、減圧分の圧力は無駄に廃棄されていた。
減圧分の圧力を単に廃棄せずに熱エネルギーとして有効利用できれば、高圧水素を水素源として利用する場合、新たな熱の利用機会が生まれ、水素利用におけるエネルギーの利用効率を飛躍的に改善することができる。
【0006】
また、例えば水素吸蔵合金等は、水素の吸蔵に適した材料として知られている。ところが、一般に水素吸蔵合金等に吸蔵した水素は、数百〜1000℃程度の高温で加熱しなければ放出され難い。そのため、水素の利用が容易でないばかりか、高温加熱用の熱源を用意又は装備しなければならず、適用対象(用途)やシステム構築にあたっての支障ともなる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、高圧水素を水素源とした場合に、水素の利用が容易で、水素圧を有効に利用して従来より大きい熱エネルギー(温熱及び冷熱を含む)を生成する水素吸蔵型ヒートポンプ及び水素吸蔵型ヒートポンプシステムを提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。即ち、
水素利用装置へ水素ガスを供給するにあたり、例えば水素ガスを圧縮して充填した高圧水素タンク等を使用する場合、水素利用装置への水素の供給前に、あるいは水素を一時的に所望の吸蔵材に吸蔵させておく場合はその吸蔵前に、利用に適した圧力まで減圧されるが、減圧で失われる圧力(減圧前の圧力との差圧)は無駄に棄てられていた。この差圧に相当する圧力を熱に変換して取り出すことができれば、エネルギーの有効利用に資する。
水素の吸蔵が可能な材料のうち、例えば水素吸蔵合金は、合金種によって水素吸蔵が行える圧力、いわゆる水素平衡圧が異なるという特質を有している。そのため、互いに水素平衡圧の異なる水素吸蔵合金は、それぞれ特有の平衡圧に見合う圧力下でそれぞれ水素を吸蔵し又は放出することができ、同時に、水素吸蔵合金は放熱(発熱)し又は吸熱する。つまり、水素の吸放出に合わせて熱の利用が期待できるのである。
上記に鑑み、本発明においては、水素ガスが圧縮されて充填された高圧水素タンク等から供給される水素ガスの圧力の高低に見合うように、高圧水素が供給される水素供給側から水素吸蔵が行える吸蔵圧力(水素吸蔵合金の場合は水素平衡圧)が小さくなる順序に並ぶように、吸蔵圧力の異なる複数の水素吸蔵材料を配列する。これにより、水素供給側の水素吸蔵材料では、比較的高圧の水素ガスを吸蔵し、吸蔵に伴う発熱により熱エネルギーが得られ、逆に吸蔵されている水素が放出される際には冷熱が期待できる。そして、供給される水素ガスの水素圧は、水素吸蔵材料の配列方向に徐々に低下する。水素吸蔵材料は吸蔵圧力が小さくなる順に配列されているので、低下した水素圧に見合う吸蔵圧力を有する水素吸蔵材料において水素の吸蔵と放出が繰り返され、複数の水素吸蔵材料のそれぞれにおいて温熱と冷熱とを多段的に取り出すことができるため、熱効率が高く、従来より多くの熱エネルギーを利用することが可能になる。
このように、水素供給側から水素ガスが流通して水素圧が低くなる下流側に向かって、水素を吸蔵する吸蔵圧力が順次低くなるように複数の水素吸蔵材料を配列することで、高圧水素の圧力を効率的に熱に変換し、熱エネルギーとして効率良く取り出すことが可能になる。
【0009】
上記の目的を達成するために、第1の発明である水素吸蔵型ヒートポンプは、
水素ガスが圧縮されて貯蔵された水素貯蔵手段と、水素貯蔵手段から供給された水素ガスを流通する水素流通管と、水素流通管に設けられ、水素吸蔵する吸蔵圧力が互いに異なりかつ前記吸蔵圧力が前記水素貯蔵手段から水素ガス流通方向に向かって低くなる順に配列された複数の水素吸蔵材料と、水素吸蔵材料間の水素流通管に配置され、水素ガスの流通量を切り替える切替弁と、を設けて構成されたものである。
【0010】
第1の発明においては、水素ガスが高圧貯蔵されている水素貯蔵手段から供給された高圧水素を流通させる流通路において、水素流通方向の上流から下流に向かって複数の水素吸蔵材料を、各水素吸蔵材料の吸蔵圧力が順次低くなるように配列し、水素流通方向に次第に低下する水素圧力に見合った吸蔵圧力を有する水素吸蔵材料において、水素の吸蔵/放出を行う。これにより、高圧水素の圧力を一回の水素吸蔵に利用するに留まらず、高圧水素の高い圧力を、水素利用装置への供給に伴う水素圧の低下に合わせて配置された複数の水素吸蔵材料の各々において、多段的に水素の吸蔵反応と脱離反応を行わせることができる。よって、高圧水素の圧力を効率的に熱に変換して取り出すことが可能になる。
また、吸蔵圧力の異なる複数の水素吸蔵材料が水素流通方向に配列されていることで、水素放出して冷熱生成しようとする場合に、水素吸蔵合金から水素を脱離しやすい。そのため、従来のような高温加熱によることなく、冷熱生成と温熱生成との切り替えを容易に行なえ、水素脱離のための加熱によるエネルギー損失も抑制される。つまり、下流側に配置された水素吸蔵材料の吸蔵圧力が上流側に配置された水素吸蔵材料より低く、圧力差が存在するので、この圧力差で水素が引っ張られることになり、上流側材料での水素放出が容易に進行し、冷熱及び温熱の生成が行ないやすい利点がある。
さらに、水素貯蔵手段における水素圧を、熱エネルギーではなくガス圧力として複数の水素吸蔵合金へ輸送するため、複数の水素吸蔵合金に送られるまでに生じやすいエネルギー損失を最小化でき、高いエネルギー効率を実現することができる。
【0011】
水素吸蔵材料には、繊維状炭素材料又は水素吸蔵合金を好適に挙げることができる。中でも、水素吸蔵合金は、金属種により特有の水素平衡圧を有しており、予定される水素圧の低下に合わせた水素吸蔵材料の配置が容易である。
具体的には、水素吸蔵材料として水素吸蔵合金を用い、複数の水素吸蔵合金が、吸蔵圧力である水素平衡圧が水素貯蔵手段から水素ガス流通方向に向かって低くなる順に配列されている態様が好ましい。
このような配列において、例えば、水素貯蔵手段からみて奇数番目(1,3,5・・・番目)の位置にある水素吸蔵材料は、水素ガスを脱離し、偶数番目(2,4,6・・・番目)の位置にある水素吸蔵材料は、水素ガスを吸蔵する態様に構成することができる。この場合、奇数番目の位置にある水素吸蔵材料では吸熱反応により冷熱が得られ、偶数番目の位置にある水素吸蔵材料では発熱反応により温熱が得られることになる。その後は、逆に奇数番目の位置にある水素吸蔵材料で水素ガスを吸蔵し、偶数番目の位置にある水素吸蔵材料で水素ガスを脱離することで、奇数番目の位置にある水素吸蔵材料では発熱反応により温熱が得られ、偶数番目の位置にある水素吸蔵材料では吸熱反応により冷熱が得られることになる。つまり、複数の水素吸蔵材料が配列された水素流通管が単一である場合は、配列されている各水素吸蔵材料から、断続的に発熱と冷熱が得られる。
【0012】
本発明においては、水素貯蔵手段に接続される水素流通管を複数設けておき、複数の水素流通管のそれぞれに、水素吸蔵する吸蔵圧力が互いに異なりかつ吸蔵圧力が水素貯蔵手段から水素ガス流通方向に向かって低くなる順に配列された複数の水素吸蔵材料を設けた態様に構成されるのが好ましい。
複数の水素吸蔵材料が配列された水素流通管が複数配置されていることで、水素流通管間において、水素貯蔵手段からみて同じ配置位置にある水素吸蔵材料で発熱と吸熱とを交互に行うことで、温熱と冷熱とを連続的に生成することが可能になる。
【0013】
複数の水素吸蔵材料が配列された水素流通管が複数配置されている場合、複数の水素流通管のそれぞれに配列された複数の水素吸蔵材料において、水素貯蔵手段からそれぞれ第m番目(m≧1)の位置にある水素吸蔵材料は、互いに同一の水素吸蔵材料が用いられている態様に構成されるのが好ましい。例えば、3つの水素吸蔵材料が配列された水素流通管が3つ配置されている場合、3つの水素流通管における水素貯蔵手段から1つ目の水素吸蔵材料は、いずれも水素平衡圧aの同一の水素吸蔵合金Aであり、3つの水素流通管における水素貯蔵手段から2つ目の水素吸蔵材料は、いずれも水素平衡圧b(b<a)の同一の水素吸蔵合金Bであり、3つの水素流通管における水素貯蔵手段から3つ目の水素吸蔵材料は、いずれも水素平衡圧c(c<b)の同一の水素吸蔵合金Cである態様に構成されるのが好ましい。
【0014】
上記のように、水素流通管が複数配置されている場合も、複数の水素流通管のそれぞれに配列された複数の水素吸蔵材料は、各水素流通管の水素ガス流通方向において、水素ガスの脱離と、水素ガスの吸蔵と、を交互に行うことができる。
配列された複数の水素吸蔵材料では、1つおきに水素吸蔵に伴う発熱により温熱が得られ、水素吸蔵する水素吸蔵材料の間の水素吸蔵材料で水素を放出(脱離)し、水素放出に伴う吸熱により冷熱が得られる。個々の水素流通管に配列されている各水素吸蔵材料から交互に温熱と冷熱とが得られる。
【0015】
そして、複数の水素流通管のうち、例えば、所定位置からみて、奇数番目の位置にある水素流通管では、複数の水素吸蔵材料が、水素貯蔵手段側から水素ガス流通方向に水素ガスの脱離と水素ガスの吸蔵とをこの順に交互に行い、かつ偶数番目の位置にある水素流通管では、複数の水素吸蔵材料が、水素貯蔵手段側から水素ガス流通方向に水素ガスの吸蔵と水素ガスの脱離とをこの順に交互に行う構成とすることができる。
このように、水素流通管間において、水素貯蔵手段側から水素の吸放出機能が互いに異なる順に開始される構成にすることで、単一のヒートポンプで発熱と冷熱とを連続的に得ることができる。
【0016】
すなわち、水素流通管間において、水素貯蔵手段側からみた水素吸蔵材料の機能(すなわち水素の吸蔵動作と脱離動作)の設定が全て同じにならないように、例えば、奇数番の水素流通管では水素貯蔵手段から第1,3,5,・・・番目(奇数番目)の水素吸蔵材料は水素を吸蔵し、偶数番の水素流通管では水素貯蔵手段から第1,3,5,・・・番目(奇数番目)の水素吸蔵材料が水素を脱離する構成にする。
例えば、第1の水素流通管及び第2の水素流通管の2つの水素流通管を設けて構成される場合、第1の水素流通管において、水素貯蔵手段側から奇数番目の位置にある水素吸蔵材料が水素ガスを脱離し、偶数番目の位置にある水素吸蔵材料が水素ガスを吸蔵する場合、第2の水素流通管において、水素貯蔵手段側から奇数番目の位置にある水素吸蔵材料が水素ガスを吸蔵し、水素貯蔵手段側から偶数番目の位置にある水素吸蔵材料が水素ガスを脱離する構成にすることができる。
【0017】
水素流通管に接続されている水素吸蔵材料の各々又は全てには、水素吸蔵材料が水素を脱離する場合に水素吸蔵材料と熱的に接続されて、水素吸蔵材料からの冷熱を回収し、冷熱利用装置で冷熱を利用するための第1の熱源と、水素吸蔵材料が水素を吸蔵する場合に水素吸蔵材料と熱的に接続されて、水素吸蔵材料からの温熱を回収し、温熱利用装置で温熱を利用するための第2の熱源と、が設けられていることが好ましい。
水素吸蔵材料では、水素吸蔵時の熱量と、水素放出(脱離)時の熱量と、は異なるため、それぞれの水素吸蔵材料に2つの熱源が接続されていることで、熱エネルギーの損失を小さく抑えることができる。
【0018】
第1の熱源の温度t
1、及び第2の熱源の温度t
2は、温度t
1≦温度t
2の関係を満たしていることが好ましい。具体的には、温度t
1は、20℃〜35℃の範囲(例えば車室内温度)に設定されるのが好ましく、温度t
2は、35℃〜50℃の範囲(例えば車室外温度)に設定されるのが好ましい。
【0019】
冷熱が供給される第1の熱源としては、例えば、冷熱利用のために冷媒が循環する循環系統が挙げられる。この循環系統を冷熱利用装置(例えば冷却装置、温調装置(エアコンなど))と接続することで、冷熱を利用に供することができる。
また、温熱が供給される第2の熱源としては、例えば、大気環境と熱交換する熱交換器が挙げられる。この熱交換器を温熱利用装置(例えば加熱装置、温調装置(エアコンなど))と接続することで、温熱を利用に供することができる。
【0020】
また、第1の熱源の温度で水素吸蔵する吸蔵圧力(水素吸蔵合金の場合は水素平衡圧)p
1、及び第2の熱源の温度で水素吸蔵する吸蔵圧力(水素吸蔵合金の場合は水素平衡圧)p
2は、p
1≧p
2の関係を満たしていることが好ましい。
第2の熱源より低温側である第1の熱源の温度域において、水素吸蔵材料の水素吸蔵能が高いことで、水素吸蔵を行いやすい。また、第1の熱源より高温側である第2の熱源の温度域において、水素吸蔵材料の水素放出能が高いことで、水素を脱離しやすい。したがって、水素の利用がより容易に行える。
【0021】
次に、第2の発明である水素吸蔵型ヒートポンプシステムは、第1の発明である水素吸蔵型ヒートポンプと、水素吸蔵型ヒートポンプの水素流通管に接続され、減圧された水素ガスが供給される水素利用装置と、を設けて構成されている。
【0022】
第2の発明においては、既述の第1の発明である水素吸蔵型ヒートポンプを備えるので、水素利用装置を利用するにあたり、高圧水素の圧力差を熱に変換して熱エネルギーとして取り出し、大気圧に近い水素圧に減圧された水素ガスが供給される。これにより、従来は廃棄されて利用される機会のなかったエネルギーを、熱エネルギーとして利用することができる。よって、システム全体として、エネルギーの利用効率を大幅に改善することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高圧水素を水素源とした場合に、水素の利用が容易に行え、水素圧を有効に利用して従来より大きい熱エネルギー(温熱及び冷熱を含む)を生成する水素吸蔵型ヒートポンプ及び水素吸蔵型ヒートポンプシステムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、
図1〜
図4を参照して、本発明の水素吸蔵型ヒートポンプの実施形態について具体的に説明し、該説明を通じて、水素吸蔵型ヒートポンプを備えた水素吸蔵型ヒートポンプシステムの詳細も示すこととする。但し、本発明においては、以下に示す実施形態に制限されるものではない。
【0026】
本実施形態の水素吸蔵型ヒートポンプシステム100は、
図1に示すように、水素吸蔵型ヒートポンプ10と、水素利用装置50と、を設けて構成されている。このシステムでは、水素吸蔵型ヒートポンプ10において熱エネルギーを取り出しながら高圧水素を減圧し、水素利用装置に供給可能な水素圧に達した水素を水素利用装置50に供給する。
【0027】
水素吸蔵型ヒートポンプ10は、
図2に示すように、水素貯蔵手段の一例である高圧水素タンク15と、水素吸蔵材料の一例である水素吸蔵合金が配設された反応器と、水素ガスを流通する水素流通管41(第1の水素流通管)及び43(第2の水素流通管)と、を備えている。
【0028】
水素流通管41には、水素吸蔵合金21を有する第1反応器と、水素吸蔵合金23を有する第2反応器と、水素吸蔵合金25を有する第3反応器と、水素吸蔵合金27を有する第4反応器と、を含む4つの反応器が直列に配列された第1の反応器群20が接続されている。
また、水素流通管43には、第1の反応器群20と同様に、水素吸蔵合金31を有する第1反応器と、水素吸蔵合金33を有する第2反応器と、水素吸蔵合金35を有する第3反応器と、水素吸蔵合金37を有する第4反応器と、を含む4つの反応器が直列に配列された第2の反応器群30が接続されている。
【0029】
高圧水素タンク15は、水素ガスを圧縮することで高い圧力をかけて貯留器であるタンクに水素が貯蔵されたものである。本実施形態では、圧縮された水素の水素圧が70MPa(700気圧)の高圧水素タンクを用いている。
貯蔵されている水素を供給する場合、タンクより供給される水素ガスは高圧であるため、利用に適した水素圧まで減圧する必要がある。本発明では、このような高圧水素を使用する場合に生じる圧力損失を、熱エネルギーとして取り出し、エネルギーの利用効率を高めようとするものである。
【0030】
高圧とは、大気圧より高く、一般的に10MPa(100気圧)以上の圧力を指す。圧縮された水素の水素圧としては、本発明の作用効果がより効果的に奏される観点から、高いほど望ましく、具体的には、15MPa(150気圧)以上であるのがより好ましく、30MPa(300気圧)以上であるのが更に好ましい。
【0031】
高圧水素タンク15には、水素ガスを流通する水素流通管41,43が、それぞれ一端で接続されている。水素流通管41,43の他端は、水素ガス供給が可能な形態で水素利用装置50と接続されている。水素流通管41,43によって、高圧水素タンク15から供給された高圧水素ガスを、およそ大気圧まで減圧された水素ガスとして水素利用装置に供給することができる。
【0032】
水素流通管41には、第1の反応器群20が配設されている。第1の反応器群20は、
図2に示すように、高圧水素タンク15側から順次、水素吸蔵合金21を有する第1反応器と、水素吸蔵合金23を有する第2反応器と、水素吸蔵合金25を有する第3反応器と、水素吸蔵合金27を有する第4反応器と、を含む4つの反応器を直列に設けて構成されている。高圧水素タンク15から水素流通管41に供給された高圧水素ガスは、第1反応器から第4反応器へ順に送られ、第4反応器から放出された後、大気圧付近まで減圧された水素ガスとして水素利用装置50に供給される。
【0033】
本実施形態の第1の反応器群20に配列された4つの水素吸蔵合金は、それぞれ、水素吸蔵合金21はTi
0.8Zr
0.2Cr
0.7Fe
1.2V
0.1(水素平衡圧[15℃]=24MPa(240atm))であり、水素吸蔵合金23はTiCrMn
0.7Fe
0.2V
0.1(水素平衡圧[15℃]=5.6MPa(56atm))であり、水素吸蔵合金25はTi
1.3Cr
1.2Mn
0.8(水素平衡圧[15℃]=1.3MPa(13atm))であり、水素吸蔵合金27はTi
0.7Zr
0.3Mn
0.8CrCu
0.2(水素平衡圧[15℃]=0.2MPa(2atm))である。
第1の反応器群20における4つの水素吸蔵合金は、後述する第1熱源及び第2熱源における温度(すなわち水素の利用温度)において、水素平衡圧[Pa]が「水素吸蔵合金21>水素吸蔵合金23>水素吸蔵合金25>水素吸蔵合金27」の順に、高圧水素タンク15側から低くなる関係を有している。
【0034】
水素流通管43には、水素流通管41と同様の態様で、第2の反応器群30が配設されている。第2の反応器群30は、
図2に示すように、高圧水素タンク15側から順次、水素吸蔵合金31を有する第1反応器と、水素吸蔵合金33を有する第2反応器と、水素吸蔵合金35を有する第3反応器と、水素吸蔵合金37を有する第4反応器と、を含む4つの反応器を直列に設けて構成されている。高圧水素タンク15から水素流通管43に供給された高圧水素ガスは、第1反応器から第4反応器へ順に送られ、第4反応器から放出された後、大気圧付近まで減圧された水素ガスとして水素利用装置50に供給される。
【0035】
第2の反応器群30を構成する反応器には、高圧水素タンクから順に第1の反応器群20の反応器に配設された水素吸蔵合金と同一の水素吸蔵合金が配設されている。すなわち、水素吸蔵合金31は水素吸蔵合金21と、水素吸蔵合金33は水素吸蔵合金23と、水素吸蔵合金35は水素吸蔵合金25と、水素吸蔵合金37は水素吸蔵合金27と、それぞれ同一である。したがって、水素流通管43に配列された4つの水素吸蔵合金も、後述する第1熱源及び第2熱源における温度(すなわち水素の利用温度)において、水素平衡圧[Pa]が「水素吸蔵合金31>水素吸蔵合金33>水素吸蔵合金35>水素吸蔵合金37」の順に、高圧水素タンク15側から低くなる関係を有している。
【0036】
水素吸蔵合金は、その組成に応じて、水素の吸蔵反応又は放出反応が平衡となるときの水素圧力(水素平衡圧)が異なり、この水素平衡圧は温度の低下に伴い低下する。水素吸蔵合金は、水素利用装置で水素利用するという観点から、水素平衡圧が0.1MPa(1atm)以上である材料が好ましい。水素吸蔵合金としては、Ti、Co、Zr、Fe、Mn、V、Cu、及びCrから選ばれる2以上の金属元素を含む合金材料から所望とする水素平衡圧に合わせて適宜選択することができる。
水素吸蔵合金の具体例としては、TiCrMn,Ti
1.05CrMn,Ti
1.1CrMn,Ti
1.3Cr
1.2Mn
0.8,Ti
1.3Cr
0.4Mn
1.6,Ti
1.1Cr
0.7Mn
1.3,Ti
1.2Cr
0.8Mn
1.6,Ti
1.2CrMn,TiCrMn
0.7Fe
0.2V
0.1,Ti
1.2Cr
1.9Mn
0.1,Ti
1.2Cr
1.4Mn
0.6,Ti
0.8Zr
0.2Cr
0.7Fe
1.2V
0.1,Ti
0.7Zr
0.3Mn
0.8CrCu
0.2,TiMn
1.5,Ti
0.98Zr
0.02V
0.43Fe
0.09Cr
0.05Mn
1.5などが挙げられる。
【0037】
単一の水素流通管に配列される水素吸蔵合金において、水素貯蔵手段に最も近い位置に配置される水素吸蔵合金は、水素平衡圧が少なくとも水素貯蔵手段の水素圧より低いことが望ましく、水素貯蔵手段の水素圧に近いほど好ましい。
また、水素貯蔵手段に最も遠い位置に配置される水素吸蔵合金の水素平衡圧は、水素利用装置での利用を考慮し、少なくとも0.1MPaより高いことが望ましい。
【0038】
さらに、単一の水素流通管に配列される水素吸蔵合金は、隣り合う水素吸蔵合金間の水素平衡圧の差が、吸蔵された水素の脱離及び脱離した水素の下流側での吸蔵のしやすさの観点から、上流側の水素吸蔵合金の水素平衡圧が下流側の水素吸蔵合金の水素平衡圧に対し、3倍〜6倍である場合が好ましい。
【0039】
水素吸蔵材料としては、本実施形態で用いた水素吸蔵合金のほか、繊維状炭素材料を用いることができる。繊維状炭素材料としては、例えば、炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレンなどのカーボン材料を挙げることができる。
【0040】
水素流通管41には、高圧水素タンク15と水素吸蔵合金21との間、並びに、配列された水素吸蔵合金21,23,25,27のそれぞれの間に、切替弁の例として、流通させる水素ガスの流通量を切替える切替バルブV1,V2,V3,V4が取り付けられている。また、水素吸蔵合金27と水素利用装置50との間には、切替弁の例である切替バルブV5が取り付けられている。
【0041】
また、水素流通管43にも、高圧水素タンク15と水素吸蔵合金31との間、並びに、配列された水素吸蔵合金31,33,35,37のそれぞれの間に、切替弁の例として、流通させる水素ガスの流通量を切替える切替バルブV11,V12,V13,V14が取り付けられている。また、水素吸蔵合金37と水素利用装置50との間には、切替弁の例である切替バルブV15が取り付けられている。
【0042】
切替バルブV1〜V5、V11〜V15を設けることで、各反応器での水素吸蔵合金における水素の吸蔵反応又は放出反応を制御することができるようになっている。
【0043】
水素流通管41に配列されている各水素吸蔵合金には、
図2に示すように、それぞれ分岐配管51〜54を介して、第1熱源121及び第2熱源122、第1熱源123及び第2熱源124、第1熱源125及び第2熱源126、第1熱源127及び第2熱源128が接続されている。また、水素流通管43に配列されている各水素吸蔵合金にも、水素流通管41と同様に、それぞれ分岐配管61〜64を介して、第1熱源131及び第2熱源132、第1熱源133及び第2熱源134、第1熱源135及び第2熱源136、第1熱源137及び第2熱源138が接続されている。
【0044】
分岐配管51,52,53,54には、それぞれ、切替バルブV21,V22,V23,V24が取り付けられている。切替バルブV21〜V24は、それぞれ、分岐配管によって接続される水素吸蔵合金での水素の吸蔵又は脱離の別に応じて切替えられ、切替バルブの切替により、水素吸蔵時は発熱反応のため反応器(水素吸蔵合金)を、低温域の熱の授受を担う第1の熱源(第1熱源121,123,125,127)に接続し、水素放出時は吸熱反応のため反応器(水素吸蔵合金)を、中温域の熱の授受を担う第2の熱源(第2熱源122,124,126,128)に接続する。
また、分岐配管61,62,63,64には、それぞれ、切替バルブV31,V32,V33,V34が取り付けられている。切替バルブV31〜V34は、それぞれ、分岐配管によって接続される水素吸蔵合金での水素の吸蔵又は脱離の別に応じて切替えられる。切替バルブV31〜V34の切替えにより、上記と同様に、水素吸蔵時は反応器を第1の熱源(第1熱源131,133,135,137)に接続し、水素放出時は反応器を第2の熱源(第2熱源132,134,136,138)に接続する。
【0045】
本実施形態では、各水素吸蔵合金に接続された第1熱源(温度=t
1℃)及び第2熱源(温度=t
2℃)では、温度条件をいずれも15℃とし、両者は同条件(t
1=t
2=15℃)に設定されている。
よって、本実施形態においては、第1熱源の温度t
1で水素吸蔵する吸蔵圧力p
1と、第2熱源の温度t
2で水素吸蔵する吸蔵圧力p
2と、はp
1=p
2の関係を満たしている。
【0046】
本実施形態では、図示しないが、水素吸蔵合金で水素を脱離し放出した場合に生成される冷熱が出力される第1熱源として、冷熱利用のために冷媒が循環する循環系統が接続されている。この循環系統を冷熱利用装置(例えば、冷却装置、温調装置(エアコンなど))と接続することで、冷熱を利用に供することができる。
第1熱源の温度t
1℃としては、例えば、冷房利用時の車両室内の温度等である。
【0047】
また、本実施形態では、図示しないが、水素吸蔵合金で水素を吸蔵した場合に生成される温熱が出力される第2熱源として、大気環境と熱交換する熱交換器が接続されている。この熱交換器を温熱利用装置(例えば、加熱装置、温調装置(エアコンなど))と接続することで、温熱を利用に供することができる。
第2熱源の温度t
2℃としては、例えば、冷房利用時の車両室外の温度等である。
【0048】
水素利用装置50としては、水素を利用して作動する装置であれば特に制限されるものではなく、例えば、燃料電池、原油由来の燃料の水素改質装置、水素エンジンなどを挙げることができる。
【0049】
次に、本実施形態の水素吸蔵型ヒートポンプの動作について、
図3〜
図4を参照して詳細に説明する。
本実施形態の水素吸蔵型ヒートポンプ10は、電源がオンされて水素利用装置15からの水素要求があった場合、
図3に示されるように、水素流通管43の切替バルブV11,V13,V15を開き、さらに水素流通管41の切替バルブV2,V4を開く。このとき、水素流通管43に取り付けられた切替バルブV12,V14、及び水素流通管41に取り付けられた切替バルブV1,V3,V5は、閉状態のままである。
【0050】
この場合、第2の反応器群30において、水素吸蔵合金31を有する第1反応器には、高圧水素タンク15から70MPaの高圧水素ガスが供給され、水素吸蔵合金35を有する第3反応器には、第2反応器から5.6MPaの中圧水素ガスが供給され、さらに水素利用装置50には、第4反応器から大気圧に近い低圧水素ガスが供給される。
【0051】
そして、第2の反応器群30において、第1反応器及び第3反応器では、供給された水素ガスを吸蔵して発熱反応を生じるので、切替バルブV31,V33を駆動し、第1反応器、第3反応器を、それぞれに接続された第1熱源131、第1熱源135と接続する。第1反応器及び第3反応器の各水素吸蔵合金で発現した熱は、それぞれ第1熱源131,135に送られ、熱交換により熱エネルギーとして利用される。
【0052】
また、第2の反応器群30における第2反応器及び第4反応器では、水素吸蔵合金に吸蔵されている水素を脱離し、第3反応器及び水素利用装置への水素源として脱離水素を水素流通管に放出する必要がある。そのため、切替バルブV32,V34を駆動し、第2反応器、第4反応器をそれぞれ第2熱源134,第2熱源138と接続する。水素を放出する第2反応器及び第4反応器の水素吸蔵合金では、水素の脱離に伴う吸熱反応が進行し、冷熱が生成される。生成された冷熱は、図示しない循環系統を介して、第2熱源134,138において利用される。
【0053】
第2の反応器群30において、高圧水素タンク15から第1反応器への水素ガスの供給は、高圧水素タンクの水素圧と水素吸蔵合金31の水素平衡圧との圧力差によって、同温度条件下、高圧水素タンク15から水素が容易に脱離し、脱離した高圧水素は水素平衡圧の低い水素吸蔵合金31に引っ張られるようにして水素吸蔵合金31に容易に吸蔵される。
これと同様にして、第2反応器から第3反応器への水素ガスの供給は、水素吸蔵合金33の水素平衡圧と水素吸蔵合金35の水素平衡圧との圧力差によって、同温度条件下、水素吸蔵合金33から水素が容易に脱離し、脱離した中圧水素は水素平衡圧のさらに低い水素吸蔵合金35に引っ張られ、水素吸蔵合金35において容易に吸蔵される。
また、第4反応器から水素利用装置への水素ガスの供給も、上記と同様に、水素吸蔵合金37の水素平衡圧と水素利用装置での水素利用圧力(すなわり大気圧)との間の圧力差によって、同温度条件下、水素吸蔵合金37から水素が容易に脱離し、脱離した低圧水素は大気圧下にある水素利用装置へ容易に供給されることになる。
【0054】
一方、第1の反応器群20においては、水素吸蔵合金23を有する第2反応器には、第1反応器から24MPaの中圧水素ガスが供給され、水素吸蔵合金27を有する第4反応器には、第3反応器から1.3MPaの中圧水素ガスが供給される。
【0055】
そして、第1の反応器群20において、第2反応器及び第4反応器では、供給された水素ガスを吸蔵して発熱反応を生じるので、切替バルブV22,V24を駆動し、第2反応器、第4反応器を、それぞれに接続された第1熱源123、第1熱源127と接続する。第2反応器及び第4反応器の各水素吸蔵合金で発現した熱は、それぞれ第1熱源123,127に送られ、熱交換により熱エネルギーとして利用される。
【0056】
また、第1の反応器群20における第1反応器及び第3反応器では、水素吸蔵合金に吸蔵されている水素を脱離し、第2反応器及び第4反応器への水素源として脱離水素を水素流通管に放出する必要がある。そのため、切替バルブV21,V23を駆動し、第1反応器、第3反応器をそれぞれ第2熱源122,第2熱源126と接続する。水素を放出する第1反応器及び第3反応器の水素吸蔵合金では、水素の脱離に伴う吸熱反応が進行し、冷熱が生成される。生成された冷熱は、図示しない循環系統を介して、第2熱源122,126において利用される。
【0057】
第1の反応器群20において、第1反応器から第2反応器への水素ガスの供給は、水素吸蔵合金21の水素平衡圧と水素吸蔵合金23の水素平衡圧との圧力差によって、同温度条件下、水素吸蔵合金21から水素が容易に脱離し、脱離した比較的中圧の水素ガスは水素平衡圧のさらに低い水素吸蔵合金23に引っ張られ、水素吸蔵合金23において容易に吸蔵される。
また、第3反応器から第4反応器への水素ガスの供給も同様に、水素吸蔵合金25の水素平衡圧と水素吸蔵合金27の水素平衡圧との間の圧力差によって、水素吸蔵合金25から水素が容易に脱離し、脱離した中圧水素ガスは水素平衡圧のさらに低い水素吸蔵合金27に引っ張られ、水素吸蔵合金27において容易に吸蔵される。
【0058】
このように、第2の反応器群30の第1反応器及び第3反応器で温熱生成する場合、第1の反応器群20の第1反応器及び第3反応器で冷熱生成することができ、同時に、第2の反応器群30の第2反応器及び第4反応器では冷熱生成され、第1の反応器群20の第2反応器及び第4反応器では温熱生成される。
【0059】
ここで、上記のようにして移動した水素量をA[mol]とし水素1[mol]あたりの水素吸蔵合金の反応熱量をΔHi[kJ/mol]とすると、得られる総冷熱量Qc[kJ]及び総温熱量Qh[kJ]は、下記の式で表される。
総冷熱量Qc[kJ]=(ΔH1+ΔH2+ΔH3+ΔH4)×A
総温熱量Qh[kJ]=(ΔH1+ΔH2+ΔH3+ΔH4)×A
したがって、反応器数(すなわち水素吸蔵合金の配列数)iに応じた大きい熱エネルギーを取り出すことが可能である。
【0060】
上記のように、第2の反応器群30において、第1反応器及び第3反応器で温熱生成し、第2反応器及び第4反応器で冷熱生成し、かつ第1の反応器群20において、第1反応器及び第3反応器で冷熱生成し、第2反応器及び第4反応器で温熱生成した後は、引き続いて
図4に示すように、第2の反応器群30側に取り付けられた切替バルブV11〜V15と、第1の反応器群20側に取り付けられた切替バルブV1〜V5と、を上記とは逆に作動させることで、連続的に温熱及び冷熱を取り出すことができる。
【0061】
具体的には、
図4に示されるように、水素流通管41の切替バルブV1,V3,V5を開き、さらに水素流通管43の切替バルブV12,V14を開く。このとき、水素流通管41に取り付けられた切替バルブV2,V4及び水素流通管43に取り付けられた切替バルブV11,V13,V15は、閉状態のままである。
【0062】
第1の反応器群20では、既述のように第1反応器及び第3反応器において水素の脱離反応が進行した後であるので、水素の吸蔵が可能な状況にある。水素吸蔵合金21を有する第1反応器には、高圧水素タンク15から70MPaの高圧水素ガスが供給され、水素吸蔵合金25を有する第3反応器には、第2反応器から5.6MPaの中圧水素ガスが供給され、さらに水素利用装置50には、第4反応器から大気圧に近い低圧水素ガスが供給される。
【0063】
そして、第1の反応器群20において、第1反応器及び第3反応器では、供給された水素ガスを吸蔵して発熱反応を生じるので、切替バルブV21,V23を駆動し、第1反応器、第3反応器を、それぞれに接続された第1熱源121、第1熱源125と接続する。第1反応器及び第3反応器の各水素吸蔵合金で発現した熱は、それぞれ第1熱源121,125に送られ、熱交換により熱エネルギーとして利用される。
【0064】
また、第1の反応器群20における第2反応器及び第4反応器では、既述の動作によって水素吸蔵合金に吸蔵された水素を脱離し、第3反応器及び水素利用装置への水素源として脱離水素を水素流通管に放出する必要がある。そのため、切替バルブV22,V24を駆動し、第2反応器、第4反応器をそれぞれ第2熱源124,第2熱源128と接続する。水素を放出する第2反応器及び第4反応器の水素吸蔵合金では、水素の脱離に伴う吸熱反応が進行し、冷熱が生成される。生成された冷熱は、図示しない循環系統を介して、第2熱源124,128において利用される。
【0065】
第1の反応器群20において、高圧水素タンク15から第1反応器への水素ガスの供給は、既述のように高圧水素タンクの水素圧と水素吸蔵合金21の水素平衡圧との圧力差によって、同温度条件下、高圧水素タンク15から水素が容易に脱離し、下流の水素吸蔵合金21に容易に吸蔵される。これと同様に、第2反応器から第3反応器への水素ガスの供給は、水素吸蔵合金23及び水素吸蔵合金25の水素平衡圧の差によって、同温度条件下、水素吸蔵合金23から水素が容易に脱離し、水素吸蔵合金23と隣り合う下流の水素吸蔵合金25に容易に吸蔵される。
また、第4反応器から水素利用装置への水素ガスの供給も、上記と同様に、水素吸蔵合金27の水素平衡圧と水素利用装置での水素利用圧力(すなわり大気圧)との間の圧力差によって、同温度条件下、水素吸蔵合金27から水素が容易に脱離し、水素利用装置での利用に供されることになる。
【0066】
一方、第2の反応器群30においては、水素吸蔵合金33を有する第2反応器には、第1反応器から24MPaの中圧水素ガスが供給され、水素吸蔵合金37を有する第4反応器には、第3反応器から1.3MPaの中圧水素ガスが供給される。
【0067】
そして、第2の反応器群30において、第2反応器及び第4反応器では、供給された水素ガスを吸蔵して発熱反応を生じるので、切替バルブV32,V34を駆動し、第2反応器、第4反応器を、それぞれに接続された第1熱源133、第1熱源137と接続する。第2反応器及び第4反応器の各水素吸蔵合金で発現した熱は、それぞれ第1熱源133,137に送られ、熱交換により熱エネルギーとして利用される。
【0068】
また、第2の反応器群30における第1反応器及び第3反応器では、水素吸蔵合金に吸蔵されている水素を脱離し、第2反応器及び第4反応器への水素源として脱離水素を水素流通管に放出する必要がある。そのため、切替バルブV31,V33を駆動し、第1反応器、第3反応器をそれぞれ第2熱源132,第2熱源136と接続する。水素を放出する第1反応器及び第3反応器の水素吸蔵合金では、水素の脱離に伴う吸熱反応が進行し、冷熱が生成される。生成された冷熱は、図示しない循環系統を介して、第2熱源132,136において利用される。
【0069】
第2の反応器群30において、第1反応器から第2反応器への水素ガスの供給は、既述のように水素吸蔵合金31及び水素吸蔵合金33の水素平衡圧の差によって、同温度条件下、水素吸蔵合金31から水素が容易に脱離し、水素吸蔵合金31と隣り合う下流の水素吸蔵合金33に容易に吸蔵される。また、第3反応器から第4反応器への水素ガスの供給も同様に、水素吸蔵合金35の水素平衡圧と水素吸蔵合金37の水素平衡圧との間の圧力差によって、同温度条件下、水素吸蔵合金35から水素が容易に脱離し、水素吸蔵合金35と隣り合う下流の水素吸蔵合金37に容易に吸蔵される。
【0070】
このように、第2の反応器群30の第1反応器及び第3反応器で冷熱生成する場合、第1の反応器群20の第1反応器及び第3反応器で温熱生成することができ、同時に、第2の反応器群30の第2反応器及び第4反応器では温熱生成され、第1の反応器群20の第2反応器及び第4反応器では冷熱生成される。
【0071】
この場合にも、既述と同様に、下記の式で表される総冷熱量Qc及び総温熱量Qhが得られ、反応器数(すなわち水素吸蔵合金の配列数)に応じた大きい熱エネルギーが取り出せる。
総冷熱量Qc[kJ]=(ΔH1+ΔH2+ΔH3+ΔH4)×A
総温熱量Qh[kJ]=(ΔH1+ΔH2+ΔH3+ΔH4)×A
【0072】
上記したように、本実施形態においては、第2の反応器群30の第1反応器及び第3反応器で温熱生成する場合、第1の反応器群20の第1反応器及び第3反応器で冷熱生成することができ、逆に第2の反応器群30の第1反応器及び第3反応器で冷熱生成する場合、第1の反応器群20の第1反応器及び第3反応器で温熱生成することができる。
このとき同時に、第2の反応器群30の第2反応器及び第4反応器では冷熱生成され、第2反応器及び第4反応器で冷熱生成する場合、第1の反応器群20の第2反応器及び第4反応器では温熱が生成される。逆に、第2の反応器群30の第2反応器及び第4反応器で温熱生成する場合は、第1の反応器群20の第2反応器及び第4反応器で冷熱が生成される。
【0073】
本実施形態のように、2つ以上の水素流通管を設け、それぞれの水素流通管に、水素平衡圧に差のある水素吸蔵合金が水素平衡圧が低くなる順に配置されるように、複数の反応器を配設することにより、温熱と冷熱の利用を連続的に行なうことができる。
【0074】
本実施形態では、2つの水素流通管を設けた態様を中心に説明したが、高圧水素タンクから供給される水素を流通は、単一の水素流通管のみを設けて行ってもよい。この場合は、既述の実施形態において、例えば水素流通管41に設けられた第1の反応器群のみが配設された態様とすることができる。既述したように、配列された反応器において、高圧水素タンク15側から例えば奇数番目の位置にある水素吸蔵合金で水素吸蔵し、偶数番目の位置にある水素吸蔵合金で水素放出し、その後は逆に奇数番目の位置にある水素吸蔵合金で水素放出し、偶数番目の位置にある水素吸蔵合金で水素吸蔵することを繰り返し行なうことによって、断続的に温熱と冷熱の供給が行える。
【0075】
また、水素吸蔵型ヒートポンプには、3つ以上の水素流通管を配設してもよい。例えば5つの水素流通管(第1水素流通管〜第5水素流通管)を設けた態様では、奇数番の水素流通管は、高圧水素タンク(水素貯蔵手段)側から水素ガス流通方向に水素ガスの脱離と水素ガスの吸蔵とをこの順に交互に行い、かつ偶数番の水素流通管は、高圧水素タンク(水素貯蔵手段)側から水素ガス流通方向に水素ガスの吸蔵と水素ガスの脱離とをこの順に交互に行うようにすることができる。
これにより、既述の実施形態より大きい温熱及び冷熱を取り出すことができる。
【0076】
更に、本実施形態では、単一の水素流通管に4つの反応器を配列した態様を中心に説明したが、反応器は4つに限られるものではなく、2つ又は3つでもよいし、5つ以上の反応器を配列して構成されてもよい。配列される反応器(水素吸蔵合金)の数を増やすことによって、水素貯蔵手段における水素圧の熱エネルギーの変換効率はより向上し、より大きい温熱及び冷熱を取り出すことが期待される。