【解決手段】第1および第2の温度検出部と、第1および第2の温度検出部からの出力をデジタル変換し第1および第2のデジタル値を出力するA/D変換器と、環境温度データを出力する第1の温度算出部と、測定対象の物理量を算出する第2の温度算出部とを有し、第1の温度算出部は、第2のデジタル値より高出力側と低出力側とにそれぞれ直近の参照値と、第2のデジタル値とに基づいて、環境温度データを出力し、第2の温度算出部は、環境温度データより高出力側と低出力側とにそれぞれ直近の温度データと、第1のデジタル値とに基づいて、測定対象の物理量を算出する温度検出装置である。
定電圧電源の第1の極に接続される第1の抵抗と、前記第1の抵抗に直列接続されるとともに前記電源の第2の極に接続され、測定対象の物理量に応じた温度に対応して抵抗値が変化するとともに第1の電圧を出力する第1の温度検出素子とを有する第1の温度検出部と、
前記第1の極に接続される第2の抵抗と、前記第2の抵抗に直列接続されるとともに前記第2の極に接続され、前記測定対象の物理量の影響が低減された環境温度に対応して抵抗値が変化するとともに第2の電圧を出力する第2の温度検出素子とを有する第2の温度検出部と、
前記第1および第2の電圧に基づいて、第1および第2のデジタル値を出力するA/D変換器と、
前記第2のデジタル値を入力し、前記測定対象の物理量の影響が抑制された予め定められた前記環境温度に対応する参照値と、前記第2のデジタル値とに基づいて、環境温度データを出力する第1の温度算出部と、
前記環境温度データと、前記第1のデジタル値とを入力し、予め定められた前記環境温度における前記測定対象の物理量と前記第1のデジタル値との関係を示す温度データと、前記環境温度データと、前記第1のデジタル値とに基づいて前記測定対象の物理量に応じた温度を算出する第2の温度算出部とを有し
前記第1の温度算出部は、前記第2のデジタル値より高出力側と低出力側とにそれぞれ直近の前記参照値と、前記第2のデジタル値とに基づいて、前記環境温度データを出力し、
前記第2の温度算出部は、前記環境温度データより高出力側と低出力側とにそれぞれ直近の前記温度データと、前記第1のデジタル値とに基づいて、前記測定対象の物理量に応じた温度を算出する温度検出装置。
前記第2の温度算出部は、前記第1のデジタル値に対応する前記環境温度データより高出力側と低出力側とにそれぞれ直近の前記第1のデジタル値が同一の値に対応する前記温度データを演算することにより、前記測定対象の物理量に応じた温度を算出する請求項1に記載の温度検出装置。
前記温度データは、前記環境温度データをアドレスとし、前記測定対象の物理量に応じた温度と前記第1のデジタル値とが対応付けられている請求項1または2に記載の温度検出装置。
前記温度データは、前記環境温度データをアドレスとし、前記測定対象の物理量に応じた温度と、前記第1のデジタル値と第2のデジタル値との差分とが対応付けられている請求項1または2に記載の温度検出装置。
前記温度データは、前記測定対象の物理量を引数として、2次の以上の多項式で前記第1のデジタル値が対応付けられるとともに、前記環境温度データをアドレスとして、前記測定対象の物理量に応じた温度に対応する前記2次以上の多項式の係数が保存されている請求項1ないし4のいずれか一項に記載の温度検出装置。
測定対象の物理量に応じた温度に対応して抵抗値が変化する第1の温度検出素子が出力する第1の電圧および前記測定対象の物理量の影響が低減された環境温度に対応して抵抗値が変化する第2の温度検出素子が出力する第2の電圧に基いて、第1および第2のデジタル値を出力するA/D変換器と、
前記第2のデジタル値を入力し、前記測定対象の物理量の影響が抑制された予め定められた前記環境温度に対応する参照値と、前記第2のデジタル値とに基づいて、環境温度データを出力する第1の温度算出部と、
前記環境温度データと、前記第1のデジタル値とを入力し、予め定められた前記環境温度における前記測定対象の物理量と前記第1のデジタル値との関係を示す温度データと、前記環境温度データと、前記第1のデジタル値とに基づいて前記測定対象の物理量に応じた温度を算出する第2の温度算出部とを有し
前記第1の温度算出部は、前記第2のデジタル値より高出力側と低出力側とにそれぞれ直近の前記参照値と、前記第2のデジタル値とに基づいて、前記環境温度データを出力し、
前記第2の温度算出部は、前記環境温度データより高出力側と低出力側とにそれぞれ直近の前記温度データと、前記第1のデジタル値とに基づいて、前記測定対象の物理量に応じた温度を算出する温度検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、各図を参照しながら本発明に係わる実施形態1について説明する。各実施例に於いて、同一符号は同一部材を示すものとする。
【0023】
図1は、本実施形態1に係る温度検出装置の概略構成を示す説明図である。
図1に示すように温度検出装置21は、定電圧電源11に接続される第1の抵抗3と第1の抵抗3に直列接続されて測定対象の物理量の影響を受ける位置に配置された第1の温度検出素子1とを有する第1の温度検出部5と、第1の極に接続される第2の抵抗4と第2の抵抗4に直列接続されて測定対象の物理量の影響が低減された第2の温度検出素子2とを有する第2の温度検出部6と、第1の抵抗3の他端に接続され、第1の出力電圧(Vd)を出力する第1のインピーダンス変換部7と、第2の抵抗4の他端に接続され、第2の出力電圧(Vc)を出力する第2のインピーダンス変換部8と、第1及び第2のインピーダンス変換部(7、8)からの第1の出力電圧(Vd)および第2の出力電圧(Vc)をデジタル信号に変換してマイクロプロセッサ(MPU)10の演算部13に第1のデジタル値(Dd)および第2のデシタル値(Dc)を出力するアナログ−デジタル変換部(A/D変換部)9と、測定対象の温度(Td)を算出するために使用する温度パラメータを記憶させておく記憶部18と、A/D変換部9からの信号を受け取り、環境温度(Tc)に対応する参照値(図示せず)と、第2のデジタル値(Dc)とに基づいて、環境温度(Tc)データを算出する第1の温度算出部14と、記憶部18に記憶させている予め定めた環境温度(Tc)に於ける測定対象の温度と第1のデジタル値(Dd)との関係を示す温度パラメータ(図示せず)と、環境温度(Tc)データ(図示せず)と、第1のデジタル値(Dd)とに基づいて測定対象の温度(Td)を算出する第2の温度算出部15と、演算した結果の温度データを外部に出力する出力インタフェース20とを主要構成として備えている。
【0024】
温度検出装置21は、特定の環境温度(Tc)下に於いて、非接触にて特定の測定対象の温度(Td)を測定するものとして、その構成について説明する。ここで、測定対象の温度とは、例えば、測定対象の物理量が赤外線であった場合は、赤外線に応じた温度を指し、測定対象の物理量に応じた温度を指すものである。以下の説明では、測定対象を赤外線として説明する。ここで、赤外線を25℃とする場合、環境温度によらず測定対象物である黒体の設定温度を25℃として、25℃に相当する赤外線を指すものとする。
【0025】
第1の温度検出素子1は、基板(図示せず)上に配置された一対の第1の電極(図示せず)と、一対の第1の電極上および一対の第1の電極間に配置された第1の感熱膜(図示せず)とを備えている。第2の温度検出素子2は、基板上に配置された一対の第2の電極(図示せず)と、一対の第2の電極上および一対の第2の電極間に配置された第2の感熱膜(図示せず)とを備えている。
【0026】
第1の感熱膜上には、赤外線吸収膜(図示せず)を配置した構成となっている。第1の温度検出素子1が備える第1の感熱膜は、測定対象の温度を非接触で測定可能なサーミスタ膜である。測定対象物から放出される赤外線を赤外線吸収膜が吸収することで、赤外線の吸収により発生する熱量によって、第1の感熱膜の温度が上昇することによって、第1の感熱膜の抵抗値が変化する。従って、第1の温度検出素子1は測定対象である物理量である赤外線を検出することが可能となっている。なお、第1の感熱膜は、赤外線吸収膜が赤外線を吸収することで、赤外線の吸収により発生する熱量および周囲環境の温度に応じて抵抗値が変化することになる。
【0027】
第2の感熱膜上には、赤外線反射膜(図示せず)を配置した構成となっている。第2の感熱膜は第1の感熱膜(図示せず)と同じ材料で構成されている。測定対象物から放出される赤外線を赤外線反射膜が反射することで、測定対象である物理量である赤外線の影響が低減された状態で、第2の温度検出素子2が設置された周囲環境の温度変化により第2の感熱膜の温度が上昇又は、下降することによって第2の感熱膜の抵抗値が変化する。従って、第2の温度検出素子2は測定対象である物理量である赤外線の影響が低減された状態で周囲環境の温度を検出することが可能となっている。
【0028】
ここで、測定対象である物理量とは、赤外線以外にも、例えば、ガス濃度、湿度、流速などが挙げられる。第1の温度検出素子1は測定対象である物理量の影響を受けた第1の感熱膜が温度変化を生じた場合に第1の感熱膜の温度変化および環境温度に応じて第1の温度検出素子1の抵抗値が変化するものであれば良い。また、測定対象である物理量の影響が低減されるとは、測定対象である物理量の影響を受けにくいような手段が講じられていることを指す。
【0029】
第1の温度検出部5は、MPU10より供給される定電圧電源11に接続された第1の抵抗3と、第1の抵抗3に直列に接続されて、測定対象の物理量を検出する第1の温度検出素子1とのハーフブリッジで構成されており、測定対象の物理量に応じた温度に対応して、第1の温度検出素子1の抵抗値が変化する。従って、その変化量を電圧値に変換して出力することが可能となっている。ここで、第1の温度検出素子1と第1の抵抗3の接続点は第1の電圧を出力する。なお、接続点とは異なる第1の温度検出素子1の端部はGnd電位に接続されている。
【0030】
第2の温度検出部6は、MPU10より供給される定電圧電源11に接続された第2の抵抗4と、第2の抵抗4に直列に接続されて、測定対象の物理量の変化の影響を抑えるように配置された環境温度(Tc)を検出する第2の温度検出素子2とのハーフブリッジで構成されており、第2の温度検出素子2が配置された環境温度(Tc)の変化に対応して、第2の温度検出素子2の抵抗値が変化する。従って、その変化量を電圧値に変換して出力することが可能となっている。ここで、第2の温度検出素子2と第2の抵抗4の接続点は第2の電圧を出力する。なお、接続点とは異なる第2の温度検出素子2の端部はGnd電位に接続されている。
【0031】
第1の温度検出素子1及び、第2の温度検出素子2は、温度の上昇に応じて抵抗値が減少するNTC(negative temperature coefficient)であり、NTCサーミスタの温度に対する抵抗値は近似的に以下の式(数式1)で表わすことが出来る。
【0033】
式中のR
THはTに於けるサーミスタの抵抗値、R
0はT
0に於ける基準抵抗、T
0は基準温度、Tはサーミスタ温度、Bはサーミスタの温度に対する感度である。
【0034】
第2の温度検出素子2は、第1の温度検出素子1が配置されている環境温度(Tc)を検出するために、ほぼ同一の温度環境下又は、直近に配置されていることが望ましい。ここで、直近とは0.05mm〜50mm程度である。
【0035】
第1及び第2の温度検出素子(1、2)は、ほぼ同一の温度係数を有するものを使用している。
【0036】
次に、第1及び第2の温度検出素子(1、2)の抵抗値変化の特性について
図13に示す。
図13は、第1及び第2の温度検出素子(1、2)について、環境温度(Tc)に対する第1及び第2の温度検出素子(1、2)の抵抗変化の実測値を表したグラフであり、横軸に環境温度を、縦軸に第1および第2の温度検出素子(1、2)の抵抗値を表している。
図13のグラフより第1の温度検出素子1と第2の温度検出素子2の環境温度(Tc)対する抵抗値変化の特性は、2次近似式及び決定係数(R^2)=0.99の値より、温度に対してほぼ同じ抵抗値変化の特性を有している。従って、3次近似式以上の場合はより正確な近似が可能となることは言うまでもない。但し、関数の係数が増えてしまうので、適宜選定する。
【0037】
図14は、
図13のグラフに於ける環境温度(Tc)10℃−20℃、20−30℃及び、30℃−40℃の範囲についての第1及び第2の温度検出素子(1、2)の抵抗値変化の実測値を抜粋して表したグラフであり、横軸に環境温度(Tc)を、縦軸に素子抵抗値を表している。
【0038】
図13のグラフでは、環境温度に対する温度検出素子(1、2)の抵抗値変化は、2次曲線を有しているが、使用する環境温度(Tc)範囲を10℃の範囲に狭めることにより、
図14のグラフ(素子1 10−20℃、素子1 20−30℃、素子1 30−40℃、素子2 10−20℃、素子2 20−30℃、素子2 30−40℃)に図示したように、環境温度(Tc)10℃の範囲で、温度検出素子(1、2)の環境温度(Tc)に対する抵抗値変化は、温度検出素子(1、2)は共に、抵抗値変化率の大きい(
図14の近似式:−7.038x+282.0)低温度(Tc:10−20℃)側に於いて、直線近似式で決定係数(R^2)=0.99であり、抵抗変化率の小さくなる(
図14の近似式:−2.946x+185.8)高温度(Tc:30−40℃)側に於いて、直線近似式で決定係数(R^2)=0.99であり、低温度側と高温度側の中間温度(Tc:20−30℃)に於いても、直線近似式:−4.506x+232.1で決定係数(R^2)=0.99となっている。以上より、第1の温度検出素子1及び第2の温度検出素子2は、温度に対する抵抗値変化の特性は、ほぼ同じ直線の傾きを有しており、温度検出素子(1、2)が使用される環境温度10℃の範囲であれば、第1の温度検出素子1及び第2の温度検出素子2の温度に対する抵抗値変化はほぼ同じとなり、直線近似として扱うことができる。
【0039】
図14のグラフでは、環境温度(10−20℃、20−30℃、30−40℃)の3つの温度範囲を例示したが、例えば、環境温度15−25℃の温度範囲に於いても第1の温度検出素子1及び第2の温度検出素子2は、直線近似として扱えるものである。
【0040】
従って、第1の温度検出素子1及び第2の温度検出素子2が配置される環境に於いて、第1の温度検出素子1及び第2の温度検出素子2が同一の環境温度下に配置されている限りにおいては、第1の温度検出素子1及び第2の温度検出素子2は、温度に対してほぼ同じ抵抗値変化の特性を有し、且つ、環境温度範囲が特定の10℃の範囲に於いては直線近似として扱うことができる。
【0041】
尚、
図13、
図14のグラフでは、環境温度(Tc)10℃−40℃の範囲を示したが、温度検出装置21を使用する環境温度は、この環境温度範囲に限られるものではない。直線近似を行っている環境温度範囲(25℃〜45℃)、対象物温度範囲(25℃〜75℃)を
図5で示し実施例として説明しているが、薄膜サーミスタが使用可能な温度範囲(例えば、−20℃〜125℃)であれば、上記温度範囲に限らず、本演算方式を用いて直線近似により測定対象物の温度を求めることが可能である。また使用温度範囲を10℃ずつに区切って直線近似を行う方法を示したが、温度誤差が0.1℃よりも低下してもよいのであれば直線近似の区切りの範囲を10℃よりも広く(例えば15℃等)としても良い。
【0042】
第1及び第2の温度検出素子(1、2)を有する第1及び第2の温度検出部(1、2)からの第1の電圧及び第2の電圧は、それぞれ以下の計算式で求めることができる。
【0045】
式中のRdは第1の温度検出素子1のサーミスタの抵抗値、Rcは第2の温度検出素子2のサーミスタの抵抗値、R1は固定抵抗値3、R2は固定抵抗値4、AV
DDは温度検出素子(1、2)及び固定抵抗(3、4)に定電圧電源11から印加されている電圧値である。
【0046】
R1及びR2は、固定抵抗(3、4)であり温度に対する係数は、第1及び第2の温度検出素子(1、2)の温度に対する変化量に比べて1/100以下と小さい。そのため、第1及び第2の温度検出部(1、2)からの第1の電圧及び第2の電圧は、固定抵抗(3、4)の温度変化による影響は少ないので、第1及び第2の温度検出素子(1、2)の温度に対する抵抗値の変化分に相当する電圧となっている。
【0047】
Tdは、黒体(測定対象物)からの放射温度であり、黒体の設定温度(Td)を環境温度(Tc)と同一にすると、黒体(測定対象物)から放射されて第1の温度検出素子1に吸収される赤外線量と、第1の温度検出素子1から放射される赤外線量とが等しくなるため、第1の温度検出素子1は、環境温度に応じた抵抗変化を示しているのと同位であり、Rd=Rcとなる。これは、例えば、第1及び第2の温度検出素子(1、2)が、環境温度が25℃で、測定対象物が25℃である環境下に配置されたとすると、第1及び第2の温度検出素子(1、2)は、25℃の環境下に置かれているために、それぞれ25℃に応じた赤外線を放出している。第2の温度検出素子2は、赤外線反射膜が設けられているために、測定対象物からの赤外線は入射されないため、環境温度に応じた25℃の抵抗値を示す。赤外線吸収膜を設けている第1の温度検出素子1は、測定対象物からの赤外線が入射されるが、入射される赤外線量と放射される赤外線量とが等しくなるため、測定対象物から入射された赤外線の影響が打ち消された結果、第2の温度検出素子2と同じく環境温度に応じた25℃の抵抗値を示すこととなる。
【0048】
次に周囲環境の温度(Tc)が一定の時に、測定対象の温度(Td)が変化したときの第1及び第2の温度検出素子(1、2)のRd、Rcについて
図15を用いて説明する。
図15は、縦軸に第1の温度検出素子1の抵抗値としてRdを、横軸に測定対象の温度としてTdを取っている。第1の温度検出素子1の抵抗値(Rd)及び第2の温度検出素子2の抵抗値(Rc)は共に、温度に対してほぼ同じ抵抗値変化の特性を有している。サーミスタは温度を抵抗値に変換して表わしているものであるから、この特性は、測定する温度が環境温度(Tc)から測定対象の温度(Td)に変わったとしても同様である。
【0049】
第1の温度検出素子1と第2の温度検出素子2とは、環境温度(Tc)及び物理量の変化に応じた温度変化に対してほぼ同じ抵抗値変化の特性を有しているといえるため、第1の温度検出素子1の抵抗値であるRdは、第2の温度検出素子2の抵抗値であるRcと、測定対象からの赤外線を吸収することにより発生する熱量による抵抗値変化である(Rd−Rc)との和で構成されているとみることができる。よって、以下の式(数式4)が成立する。
【0051】
従って、測定対象の温度がTd2の値になった時、第1の温度検出素子1はRd2の値を示しており、Rd2はTd2の値を含むT30−T40間に於いて、また、Rd1(=Rc)はTd1の値を含むT10−T20間に於いて直線近似で表わされる。
【0052】
つまり、測定対象物からの赤外線を吸収することにより発生する熱量による抵抗値変化(Rd−Rc)を構成する成分Rd、Rcは直線近似として扱うことができるものである。よって、周囲環境の温度(Tc)が一定の時に、測定対象の温度(Td)が変化した場合であっても、Rd、Rcは、特定の温度範囲に於いては直線近似として扱うことができる。
【0053】
第1の温度検出部5から出力された電圧(第1の電圧)は第1のインピーダンス変換部7へ、第2の温度検出部6から出力された電圧(第2の電圧)は第2のインピーダンス変換部8へ、出力される。第1のインピーダンス変換部7は、第1の温度検出部5からの出力電圧(第1の電圧)の減衰を防ぐために、第1の温度検出部5の出力インピーダンス(第1の温度検出素子1の抵抗値)よりも十分に大きいインピーダンス(10倍以上)を有するインピーダンス回路(図示せず)で受けた後、増幅回路(図示せず)にて信号成分の増幅を行い、第1の出力電圧(Vd)として出力する。また、第2のインピーダンス変換部8は、第2の温度検出部6からの出力電圧(第2の電圧)の減衰を防ぐために、第2の温度検出部6の出力インピーダンス(第2の温度検出素子2の抵抗値)よりも十分に大きいインピーダンス(10倍以上)を有するインピーダンス回路(図示せず)で受けた後、バッファ回路(図示せず)を経由して、第2の出力電圧(Vc)として出力する。尚、インピーダンス変換部(7、8)に於ける増幅回路(図示せず)の入力インピーダンスが、第1の温度検出部5及び、第2の温度検出部6の出力インピーダンスよりも十分に大きければ、インピーダンス回路(図示せず)は無くてもよい。また、第1の温度検出部5及び、第2の温度検出部6からの温度に対する出力電圧の変化量が、A/D変換器9の分解能に対して十分に大きく且つ、A/D変換器9の入力インピーダンスが、第1の温度検出部5及び、第2の温度検出部6の出力インピーダンスよりも十分に大きければインピーダンス変換部(7、8)は無くてもよい。
【0054】
第1の出力電圧(Vd)及び、第2の出力電圧(Vc)は、A/D変換器9に入力され、デジタル値に変換後、第1のデジタル値(Dd)及び、第2のデジタル値(Dc)として、MPU10のランダムアクセスメモリー(RAM)19に一時保存される。
【0055】
RAM19に一時保存された第1のデジタル値(Dd)および第2のデジタル値(Dc)は、演算部13に転送されて、測定対象の温度(Td)及び、第1の温度検出素子1が配置されている環境温度(Tc)を演算により求める。
【0056】
演算部13は、第1の温度算出部14と第2の温度算出部15とで構成されており、第1の温度算出部14では、第2のデジタル値(Dc)を用いて演算を行い環境温度(Tc)データを求めており、第2の温度算出部15では、第1のデジタル値(Dd)を用いて演算を行い測定対象の温度(Td)データを求めている。ここで、測定対象の温度(Td)データとは、第1のデジタル値(Dd)から環境温度分に相当する第2のデシジタル値(Dc)を減算し、測定対象の物理量に応じた温度のみを指すものであり、黒体の設定温度と同等である。例えば、Dc=Ddの場合、環境温度と黒対の設定温度は同じとなる。
【0057】
出力インタフェース20は、演算部13で求めた環境温度(Tc)のデータおよび測定対象の温度(Td)データを、外部からの要求により出力する。
【0058】
次に、第1および第2のデジタル値について説明する。これ以降説明の便宜上、第1のデジタル値をDd、第2のデジタル値をDcとして併記して使用しながら説明していく(図面上についても同様である)。
【0059】
図5〜
図7に示すグラフは、測定対象物として黒体を用いて、温度検出素子1及び温度検出素子2と黒体との測定距離は15cmの距離で測定を行ったものである。
【0060】
図5は第1のデジタル値(Dd)と第2のデジタル値(Dc)について、実際の測定結果を示したものである。
図5(a)は、特定の環境温度(Tc)下に於いて測定対象物である黒体の温度を変化させた時の第2のデジタル値(Dc)の変化について示したグラフであり、縦軸に第2のデジタル値(Dc)を、横軸に測定対象の温度(Td)を示している。第2のデジタル値(Dc)は、測定対象の設定温度に応じて放射される赤外線の影響を抑えた温度検出装置21が設置された環境温度(Tc)のみを検出する構成となっている。尚、
図5(a)に表示の値は、第2の温度検出部6で検出した値をデジタル変換した値である。
図5(a)に示すように、第2のデジタル値(Dc)は測定対象の温度に応じて放射される赤外線の影響を抑えて環境温度(Tc)のみを検出しているために、測定対象の温度(Td)が変化しても、第2のデジタル値(Dc)の値は一定であり、値が変化するのは環境温度(Tc)が変わったときである。
【0061】
図5(b)は、特定の環境温度(Tc)下に於いて測定対象物である黒体の温度を変化させた時の第1のデジタル値(Dd)の変化について示したグラフであり、縦軸に第1のデジタル値(Dd)を、横軸に測定対象の温度(Td)を取っている。第1のデジタル値(Dd)は、測定対象の温度に対応する赤外線量の影響を検出する構成となっている。尚、
図5(b)に表示の値は、第1の信号検出部5で検出した値をデジタル変換した値である。
図5(b)に示すように、第1のデジタル値(Dd)は測定対象の温度に対応する赤外線量の影響を検出しているために、測定対象の温度(Td)の上昇に伴い、第1のデジタル値(Dd)の値は下降している。一定環境温度(Tc)における第1のデジタル値(Dd)の各値は、測定対象の温度に対して、2次の近似多項式にR^
2=0.99以上で一致する。
【0062】
図2は、温度算出に用いるパラメータを記憶させておく記憶部18の配列を示したものである。記憶部18は、予め定められた環境温度(Tc)に対応する参照値として第2のデジタル値(Dc)を記憶する参照値31のエリアと、予め定められた環境温度(Tc)に於ける測定対象の温度(Td)と第1のデジタル値(Dd)との関係を示す温度データのパラメータを記憶させる温度パラメータ32のエリアが設けられている。参照値31と温度パラメータ32は、測定される予め定められた環境温度(Tc)ごとに1対1で対応している。なお、
図2では、温度パラメータ32が2次方程式の係数で示される場合を示している。
【0063】
図4は、温度パラメータ32の温度検出装置21の記憶部18へ初期設定を行うための演算及び記憶部18への記憶に於ける手順を示したフローチャートである。
図2、
図4を基に温度パラメータ32の導出手順について説明する。
【0064】
ステップ101にて、温度検出装置21を使用する環境温度(Tc)範囲及び、測定ステップ数及び、測定対象の温度(Td)の検出する範囲及び、測定ステップ数を設定し、ステップ102で、環境温度(Tc)及び、測定対象の温度(Td)が測定を行う測定温度になっているか判断を行う。測定温度に達していなければ、達するまで測定を待機する。達していれば、測定を開始する。尚、温度が測定温度に達しているかどうかの判断は、環境温度(Tc)については、第2のデジタル値(Dc)を読み込み、数式6の演算を行うことにより、又、測定対象の温度(Td)については黒体装置(図示せず)の温度設定値に従って、現在の赤外線の温度の判断を行っている。
【0065】
ステップ103にて、第2のデジタル値(Dc)及び、第1のデジタル値(Dd)の値を取り込む。
【0066】
ステップ105にて、RAM19に一時的に記憶させた第2のデジタル値(Dc)の値より、温度検出装置21が配置された環境温度(Tc)を以下の式(数式6)を用いて算出し、ステップ106にて、算出した環境温度(Tc)と第2のデジタル値(Dc)とを関連付けして、
図2で示した記憶部18の参照値31のエリアに記憶させる。
【0069】
式中のRref@25は、25℃に於けるサーミスタの抵抗値、Bはサーミスタの温度に対する感度、V
DDは温度検出素子に定電圧電源11から印加されている電圧値をA/D変換器9によりデジタル値に変換された値である。
【0070】
ステップ107、108にて、特定の環境温度(Tc)に於ける測定対象の温度(Td)測定が測定開始時に設定した測定ステップを全て測定終了したか判定を行い、未測定の測定対象の温度(Td)があれば、現環境温度(Tc)にて、測定対象の温度(Td)を次に測定する温度に変えて、測定を続行する。測定済みであれば次のステップ109にて、環境温度(Tc)について測定開始時に設定した測定ステップを全て測定終了したか判定を行い、未測定の環境温度(Tc)があればステップ110にて次に測定する温度に変えて、測定を続行する。測定済みであれば次のステップに進む。
【0071】
ステップ111にて、測定対象の温度(Td)と、測定対象の温度(Td)測定時の第1のデジタル値(Dd)との関係を近似式(数式7)を用いて、各環境温度(Tc)ごとに、測定対象の温度(Td)を求める。数式7は、2次の近似式を用いた例である。ここで、yは、第1のデジタル値(Dd)であり、xは、測定対象の温度(Td)である。
【0073】
ステップ112にて、近似式(数式7)より得られた係数(a,b,c)を温度パラメータとして、ステップ106にて、記憶部18の参照値31のエリアに記憶させた所定の参照値31と関連付けを行う。つまり、所定の参照値31毎に、温度パラメータ32のエリアに係数(a,b,c)を記憶させる。
【0074】
次に
図2、3を参照しながら本実施形態1に係る、環境温度(Tc)データ及び測定対象の温度(Td)データを算出する演算フローについて説明する。
図3は、第1のデジタル値(Dd)及び、第2のデジタル値(Dc)から、環境温度(Tc)データ及び、測定対象の温度(Td)データを算出する手順を示したフローチャートである。
【0075】
まず、温度検出装置21の第1の温度検出素子1を、温度測定すべき測定対象の影響を受けるように設置すると、第1の温度検出素子1は測定対象物から放射される赤外線を検出し、又、第2の温度検出素子2は設置された環境温度(Tc)を検出し、それぞれの出力は、第1及び第2のインピーダンス変換部(7、8)に入力され、第1及び第2のインピーダンス変換部(7、8)が出力する第1の出力電圧(Vd)および第2の出力電圧(Vc)はA/D変換器9に入力され、デジタル変換された値は、MPU10のRAM19に取り込まれて(ステップ51、52)、第1のデジタル値(Dd)及び、第2のデジタル値(Dc)として、一時記憶される。
【0076】
ステップ53で、RAM19に記憶した第2のデジタル値(Dc)を第1の温度算出部14に読み出してきて、第2の温度検出素子2が設置された周囲の環境温度(Tc)について(数式6)を用いて算出する。
【0077】
ステップ54で、RAM19に取り込んだ第2のデジタル値(Dc)と、記憶部18に記憶してある参照値31の記憶エリアの各電圧とを比較し、第2のデジタル値(Dc)と比べて高出力側と低出力側とにそれぞれ直近の参照値31の記憶エリアに記憶してある参照値を高出力側(Dc_H)、低出力側(Dc_L)を選択する。
【0078】
次にステップ55で、第2のデジタル値(Dc)と参照値31の記憶エリアから選択した高出力側(Dc_H)と低出力側(Dc_L)の各参照値との差分Da(高出力側と第2のデジタル値(Dc)との差)を(数式8)、Db(低出力側と第2のデジタル値(Dc)との差)を(数式9)にて求める。
【0081】
ステップ56で、参照値31に対応して記憶させてある温度パラメータ32のブロックから、直近の高出力側(Dc_H)と低出力側(Dc_L)との各参照値にそれぞれ対応する温度パラメータ(a、b、c)を読み出す。
【0082】
ステップ57で、選択した温度パラメータ(a、b、c)について、高温側を(a
H、b
H、c
H)として、近似式(数式10)の各(a,b,c)に代入し、低温側を(a
L、b
L、c
L)として、近似式(数式11)の各(a,b,c)に代入し、直近の参照値の高出力側(D_H)と低出力側(D_L)とに対応する測定対象の温度Td_H(参照値の高出力側に対応した測定対象の温度)、Td_L(参照値の低出力側に対応した測定対象の温度)を求める。
【0085】
式中のa、b、cは温度パラメータ、yは第1のデジタル値(Dd)である。
【0086】
ステップ58では、ステップ57で算出したTd_HとTd_Lとの演算により、実際の測定対象の温度(Td)を以下の数式12により算出する。Td_HとTd_Lを用いて測定対象の温度(Td)を求める時に、数式8、数式9で求めたDa,Dbの値を補正値として用いる。言い換えれば、環境温度と測定対象の温度に関して、線形な比例演算を行っている。
【0088】
ステップ59では、ステップ53で求めた第2の温度検出素子2が設置された周囲の環境温度(Tc)及び、ステップ58で求めた第1の温度検出素子1が設置された測定対象の温度(Td)を出力させる。
【0089】
測定対象の温度(Td)を求める演算処理について
図8のグラフを用いて説明する。
図8(a)は、第2のデジタル値(Dc)を示したグラフであり、
図8(b)は、第1のデジタル値(Dd)を示したグラフである。尚、環境温度25℃及び35℃に於ける第2のデジタル値(Dc)の値は初期に行う温度パラメータ設定フローにて予め測定を行ったものである。温度検出装置21が配置された環境温度(Tc)を第2の温度検出素子2で測定した結果、
図8(a)のグラフ上でd点の値を得たとし、第1の温度検出素子1で測定(第1のデジタル値(Dd))した結果、
図8(b)のグラフ上でe点の値を得たとする。ここで、
図8(a)では、d点に相当する第2のデジタル値は、環境温度(Tc)に対応するものであり、Tdは模式的な表示である。
図8(b)では、e点はi点とj点の間に存在するが模式的な表示であり、環境温度が不明である時点では、Ddがある値になるだけであるので、Tdの値は不明である。
【0090】
次に、第1の温度検出素子1を用いて測定した結果、第1のデジタル値(Dd)は、MPU10の第2の温度算出部15に入力される。ここで、第1のデジタル値(Dd)は、環境温度(Tc)と測定対象の温度(Td)が重畳された温度となっているので、環境温度(Tc)を求める必要があることはいうまでもない。そこで、e点の環境温度(Tc)を、第2の温度検出素子2を用いて測定した第2のデジタル値(Dc)の結果から得る必要がある。第2のデジタル値(Dc)は、MPU10の第1の温度算出部14に入力される。d点の値に相当するデータ、すなわち、第2のデジタル値が第1の温度算出部14に入力されると、記憶部18から参照値31のエリアに記憶されている環境温度(Tc)と関連付けられて記憶された第2のデジタル値(Dc)を読み出してきて、入力されたd点の値(第2のデジタル値)と比較演算を行い、d点の値と直近の値を記憶部18の参照値31のエリアから読み出す。一致する値があれば1点でよいが、一致する値がない場合は、d点の値(第2ののデジタル値)を挟んで直近の高出力側と低出力側の環境温度に相当する値を参照値31のエリアから読み出す。
図8(a)のグラフ例では、環境温度25℃と環境温度35℃に相当するg点とh点の値を読み出す。
【0091】
次にg点の値からd点の値を減算し、さらに、d点の値からh点の値を減算して、それぞれd点を基準とするデジタル値の差の絶対値を求める。この演算により、測定対象の温度(Td)を求める演算に使用する高出力側と低出力側の温度パラメータについて演算式(数式12)に反映させるための第2の温度検出素子2で測定した第2のデジタル値(d点)と、予め初期に測定し記憶部18に記憶された第2のデジタル値(Dc)との差分の絶対値及び、第2の温度検出素子2で測定した第2のデジタル値(d点)と、予め初期に測定し記憶部18に記憶された第2のデジタル値(Dc)との差分の絶対値に応じた比率を求める。
【0092】
図8(a)に於けるg点とh点の値の読み出しが完了すると、続けて、g点とh点の値が格納してある記憶部18のそれぞれの環境温度(Tc)を対象としたアドレスに記憶してある温度パラメータを温度パラメータ32のエリアより読み出す。例えば、
図2を基に説明すると、g点の値が参照値31エリアの“Dc_3”、h点の値が参照値31エリアの“Dc_5”とすると、温度パラメータ32エリアの“a_3,b_3,c_3”、“a_5,b_5,c_5”の各値を選択し、読み出す。読み出した各温度パラメータ(a,b,c)は、
図8(b)のそれぞれ環境温度25℃と環境温度35℃の各近似式グラフを構成するパラメータである。温度パラメータ及び、第1のデジタル値(Dd)を数式10、数11に代入して測定対象の温度Td_H(数式10)、Td_L(数式11)を求めると、
図8(b)のグラフでは、測定対象の温度としてi点とj点を示す測定対象の温度(Td)が得られる。なお、i点は、環境温度25℃の時に対する測定対象の温度で、j点は、環境温度35℃の時に対する測定対象の温度であり、求めたいe点とは異なっている。
【0093】
図8(b)は、第1のデジタル値(Dd)を示したグラフであり、第1のデジタル値(Dd)は、環境温度(Tc)を示す第2のデジタル値(Dc)と、測定対象の温度(Td)に相当するデジタル値との差分にわけられるため、
図8(a)の第2のデジタル値(Dc)との差は、測定対象の温度(Td)に相当するデジタル値のみである。グラフの傾きは、第1および第2の温度検出素子(1、2)の抵抗値変化を電圧値に変換した傾きを示しており、
図13および
図14を用いて第1および第2の温度検出素子(1、2)の温度に対する抵抗値変化について説明したように、直近(±5℃)の比較に使用する環境温度(Tc)の範囲に於いては、ほぼ同じ傾きの直線と見做せるため、数式13が成り立つ。つまり、直近(±5℃)の比較に使用する環境温度(Tc)の範囲では、測定された第2のデジタル値の直近の高出力側と低出力側との差分に応じた比率と、測定された第1のデジタル値の測定対象の物理量に相当するデジタル値の直近の高出力側と低出力側との差分に応じた比率はほぼ等しいと見做すことが可能である。言い換えれば、比例演算を行っている。
【0095】
環境温度(Tc)を表わす第2のデジタル値(Dc)と測定対象の温度(Td)を表わす第1のデジタル値(Dd)とが同じ値を示す場合であれば、第1及び第2の温度検出素子(1、2)は共に、温度に対する抵抗値変化はほぼ同じとなるため、温度に対して同じ傾きを有する直線近似として扱うことができる。
【0096】
よって、第1の温度検出素子1及び第2の温度検出素子2のそれぞれの抵抗値(Rd、Rc)の変化をデジタル値に置き換えた第1のデジタル値(Dd)及び第2のデジタル値(Dc)も同様に直線近似式で表すことができる。このため、環境温度(Tc)に対して測定対象の温度(Td)が変化したとしても、それぞれ特定の温度範囲(±5℃)に於いて、第2のデジタル値(Dc)と第1のデジタル値(Dd)について、直線近似を用いることが可能であり、数式13に示したように第2のデジタル値(Dc)の直近の高出力側と低出力側との差分に応じた比をもって比例演算をおこなうことが可能である。
【0097】
つまり、iは、測定された第1のデジタル値に相当する高出力側(高温側)の測定対象の物理量に相当し、jは、測定された第1のデジタル値に相当する低出力側(低温側)の測定対象の物理量に相当する。また、gは、測定された第2のデジタル値に相当する高出力側(高温側)の環境温度に相当し、hは、測定された第2のデジタル値に相当する低出力側(低温側)の環境温度に相当する。これより、測定対象の温度(Td)に相当するe点は、数式12を用いて求めることが出来る。
【0098】
例えば、環境温度範囲(Tc):25℃〜45℃の環境下で、対象物温度範囲(Td):25℃〜45℃の測定対象物を測定精度0.1℃で測定する場合、参照テーブルを作成し温度検出データを登録しておく方法では、温度範囲全てに於いて環境温度及び測定対象物の温度に対するデータテーブルを測定精度0.1℃の温度データ間隔でテーブルを作成しなければならないためにメモリ容量が80KByte必要であるが、本実施形態1を使用することにより、測定対象の温度を求める近似式は、使用する環境温度範囲(Tc)に於いて、環境温度(Tc):10℃間隔につき1つの近似式を立てればよい。1つの近似式に用いられる温度パラメータに要するメモリ容量は8Byteであるため、全温度パラメータに要するメモリ容量は40Byteで済む。要するメモリ容量は、従来例に比べて1/100以下で済むことになるため、測定精度を低下させることなくメモリ容量を削減できる。
【0099】
図6は、特定の環境温度(Tc)下に於いて測定対象の温度(Td)を変化させた時の第1のデジタル値(Dd)の変化について、実測値と実施形態1で述べた演算結果(
図6のグラフ表記:“計算30−40deg”)とを比較したグラフである。縦軸に第1のデジタル値(Dd)を、横軸に測定対象の温度(Td)を取っている。つまり、第1のデジタル値(Dd)は、測定対象物からの放射温度を検出する構成となっている。グラフ表記“計算30−40deg”のグラフは、記憶部18に記憶された環境温度30℃と40℃の温度パラメータを用いて演算により35℃のグラフを図示したものである。実測結果の35℃のグラフと比較してほぼ同じ結果が得られている。
【0100】
図11は、環境温度35℃に於いて、測定対象の温度(黒体の設定値)と、実施形態1を用いて演算により算出した温度とを比較した表である。ここで、環境温度が35℃の場合では、高出力側と低出力側の温度パラメータは40℃と30℃を使用している。各対象物の温度に対して、例1では、対象物の温度設定値35℃に対して、第1の温度検出素子1で検出した値を演算により求めた温度は、35.043℃であり、対象物温度との温度差は、0.1℃以下の誤差精度を得られている。また、例2、例3についても同様に対象物温度に対して、演算で求めた温度との温度誤差は、例2で誤差が0.088℃であり、例3で誤差が0.072℃であるため、対象物温度に対する演算で求めた温度の精度は、0.1℃以下の誤差精度を得られている。
【0101】
(実施形態2)
図5(c)は、特定の環境温度(Tc)下による測定対象の温度(Td)を変化させた時の第1のデジタル値(Dd)から、特定の環境温度(Tc)下に於いて測定対象の温度(Td)を変化させた時の第2のデジタル値(Dc)を減算した結果をグラフに図示したものであり、縦軸に第1および第2のデジタル値の差分(Dd−Dc)を、横軸に測定対象の温度(Td)を取っている。
図5(c)に示すようにグラフは、測定対象の温度(Td)から環境温度(Tc)の影響分を除いた、測定対象の温度(Td)の変化によるデジタル値の変化分のみを示したものである。
【0102】
温度パラメータを格納するデータテーブルを作成するための初期設定の手順として
図10に示す。
図10に示した初期設定フローは、
図4の初期設定フローとほぼ同一である。異なる処理は、ステップ311で、測定対象の温度(Td)と環境温度(Tc)との温度差を求める処理として、第1のデジタル値(Dd)と第2のデジタル値(Dc)との差分(Dd−Dc)を求める処理を実行している。
【0103】
測定対象の温度(Td)データを算出する手順として
図9に示す。
図9に示した測定対象の温度(Td)を求める演算フローは、
図3の演算フローとほぼ同一である。異なる処理は、ステップ206で、第1のデジタル値(Dd)と第2のデジタル値(Dc)との差分(Dd−Dc)を求める処理を実行し、ステップ207で、参照値31に対応して記憶させてある温度パラメータ32のブロックから、直近の高出力側(Dc_H)と低出力側(Dc_L)との各参照値にそれぞれ対応する(Dd−Dc)の温度パラメータ(a、b、c)の読み出しを実行している。第1のデジタル値(Dd)と第2のデジタル値(Dc)との差分(Dd−Dc)を求める演算を行うことにより、環境温度(Tc)の影響分である第2のデジタル値(Dc)を、第1のデジタル値(Dd)より除いて測定対象の温度(Td)を求める演算を行うことが出来る。つまり、環境温度(Tc)に相当するオフセット分を除いて演算を行うことにより、演算対象の電圧レンジを広く取れるようになり、同一の測定対象の物理量に対する分解能が上がることにより演算精度の向上が期待出来る。また、同じ電圧レンジで測定を行う場合はオフセット分を除くことにより、使用するメモリのビット数を低減できるので、更に記憶部18のメモリ容量を低減することが可能となっている。
【0104】
測定対象の温度(Td)を求める演算処理について
図8(a、c)のグラフを用いて説明する。
図8(a)は、第2のデジタル値(Dc)を示したグラフであり、
図8(c)は、第1のデジタル値(Dd)と第2のデジタル値(Dc)との差分を示したグラフである。尚、環境温度25℃及び35℃に於ける第2のデジタル値(Dc)の値は初期に行う温度パラメータ設定フローにて予め測定を行ったものである。温度検出装置21が配置された環境温度(Tc)を第2の温度検出素子2で測定した結果、
図8(a)のグラフ上でd点の値を得たとし、第1の温度検出素子1で測定(第1のデジタル値(Dd))した値と第2のデジタル値(Dc)との差分を求めた結果、
図8(c)のグラフ上でf点の値を得たとする。ここで、
図8(a)では、d点に相当する第2のデジタル値は、環境温度(Tc)に対応するものであり、Tdは模式的な表示である。
図8(c)では、f点はk点とl点の間に存在するが模式的な表示であり、環境温度が不明である時点では、Ddがある値になるだけであるので、Tdの値は不明である。なお、第1の温度算出部14、記憶部18に保存される温度パラメータに使用する引数である第2のデジタル値(Dd)を(Dd−Dc)に変更する以外は、実施形態1と同様であるので、第2のデジタル値(Dd)を(Dd−Dc)とする以外の説明は割愛する。
【0105】
図8(c)は、第1のデジタル値(Dd)と第2のデジタル値(Dc)との差分を示したグラフである。第1のデジタル値(Dd)は、環境温度(Tc)を示す第2のデジタル値(Dc)と、測定対象の温度(Td)に相当するデジタル値との差分にわけられるため、第1のデジタル値(Dd)と第2のデジタル値(Dc)との差分は、測定対象の温度(Td)に相当するデジタル値である。グラフの傾きは、第1および第2の温度検出素子(1、2)の感度を示しており、直近(±5℃)の比較に使用する環境温度(Tc)の範囲では感度はほぼ同じと見做せるため、数式14が成り立つ。つまり、直近(±5℃)の比較に使用する環境温度(Tc)の範囲では、測定された第2のデジタル値の直近の高出力側と低出力側との差分に応じた比率と、測定された第1のデジタル値と測定された第2のデジタル値の差分である測定対象の物理量に相当するデジタル値の直近の高出力側と低出力側との差分に応じた比率はほぼ等しいと見做すことが可能である。言い換えれば、比例演算を行っている。
【0107】
つまり、kは、測定された第1のデジタル値と第2のデジタル値の差分に相当する高出力側(高温側)の測定対象物の物理量に相当し、lは、測定された第1のデジタル値と測定された第2のデジタル値の差分に相当する低出力側(低温側)の測定対象の物理量に相当する。ここで、gは、測定された第2のデジタル値に相当する高出力側(高温側)の環境温度に相当し、hは、測定された第2のデジタル値に相当する低出力側(低温側)の環境温度に相当する。これより、測定対象の温度(Td)に相当するf点は、数式12を用いて求めることが出来る。
【0108】
図7は、特定の環境温度(Tc)下に於いて測定対象の温度(Td)を変化させた時の第1のデジタル値(Dd)から第2のデジタル値(Dc)を減算した結果について、実測値と実施形態2で述べた演算結果(
図7のグラフ表記:“計算30−40deg”)とを比較したグラフであり、縦軸にデジタル値の差(Dd−Dc)を、横軸に測定対象の温度(Td)を取っている。デジタル値の差(Dd−Dc)は、測定対象物からの放射温度を検出する構成となっている。(
図7のグラフ表記:“計算30−40deg”)のグラフは、記憶部18に記憶された環境温度30℃と40℃の温度パラメータを用いて演算により35℃のグラフを図示したものである。実測結果の35℃のグラフと比較してほぼ同じ結果が得られている。
【0109】
図12は、環境温度35℃に於いて、測定対象の温度と、測定対象の温度(黒体の設定値)を実施形態2を用いて演算により算出した温度とを比較した表である。ここで、環境温度が35℃の場合、高出力側と低出力側の温度パラメータは40℃と30℃を使用している。各対象物の温度に対して、例4では、対象物の温度設定値35℃に対して、第1の温度検出素子1で検出した値を演算により求めた温度は、35.097℃であり、対象物温度との温度差は、0.1℃以下の誤差精度を得られている。また、例5、例6についても同様に対象物温度に対して、演算で求めた温度との温度誤差は、例5で誤差が0.012℃であり、例6で誤差が0.029℃であるため、対象物温度に対する演算で求めた温度の精度は、0.1℃以下の誤差精度を得られている。
【0110】
この様に上記実施例では、サーミスタから得られた温度検出データについて、最適な温度パラメータを用いて関数演算を行っているため、簡易な演算手段で測定対象の温度(Td)を精度良く求めることが可能である。又、測定対象の温度第1のデジタル値(Dd)から環境温度分に相当する第2のデジタル値(Dc)を減算し、測定対象の物理量に応じた温度分のみを表わすデジタル値(Dd−Dc)で温度パラメータを作成しているため、測定対象の温度を求める精度を低下させることなく温度演算に用いる温度パラメータを記憶するメモリ容量をより削減することが可能となる。