【解決手段】画像形成装置は、記録材上にトナー像を形成する画像形成ユニットと、導電層を有し、導電層が電磁誘導加熱されて発熱することで、画像形成ユニットにより形成されたトナー像を記録材に定着する定着ベルトと、電力供給手段により電力が供給されることで定着ベルトの導電層と交差する交流磁界を生成するIHヒータと、磁気特性が温度に応じて強磁性と常磁性との間で変化し、磁気特性が強磁性の場合にIHヒータにて生成された交流磁界を透過させる感温磁性部材と、電力供給手段によりIHヒータに供給された電力量が予め定めた値に達した場合に、電力供給手段がIHヒータに供給する電力の大きさを下げる制御部とを備える。
前記制御手段は、前記電力供給手段により前記磁界生成手段に対して予め定めた期間、予め定めた大きさの電力が継続して供給された場合に、当該磁界生成手段に供給する電力の大きさを下げることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
前記制御手段は、前記定着部材の温度が予め定めた目標温度に近づくように前記磁界生成手段に供給する電力を決定し、当該磁界生成手段に供給された電力量が予め定めた値に達した場合に、当該目標温度を下げることを特徴とする請求項1または2記載の画像形成装置。
前記制御手段は、前記磁界生成手段に供給された電力量が予め定めた値に達した場合に、前記定着部材に記録材を搬送する頻度を低下させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の画像形成装置。
前記磁界生成手段に供給された電力量が予め定めた値に達した場合に、警告を表示する表示部をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の画像形成装置。
導電層が電磁誘導加熱されて発熱することで記録材にトナーを定着する定着部材と、電力が供給されることで当該定着部材の当該導電層と交差する交流磁界を生成する磁界生成手段と、磁気特性が温度に応じて強磁性と常磁性との間で変化し、磁気特性が強磁性の場合に当該磁界生成手段にて生成された交流磁界を透過させる感温磁性部材とを有する定着装置を制御するコンピュータに、
前記磁界生成手段に供給する電力を算出する機能と、
前記磁界生成手段に供給された電力量が予め定めた値を超えた場合に、当該磁界生成手段に供給する電力の大きさを低下させる機能と
を実現させるプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[実施の形態1]
<画像形成装置の説明>
図1は本実施の形態が適用される画像形成装置の構成例を示した図である。
図1に示す画像形成装置1は、所謂タンデム型のカラープリンタであり、画像データに基づき画像形成を行う画像形成部10、画像形成装置1全体の動作を制御する制御手段の一例としての制御部30、画像形成装置1に対して供給される用紙Pを保持する用紙保持部40、画像が形成された用紙Pを積載する用紙積載部45を備えている。さらには、例えばパーソナルコンピュータ(PC)3や画像読取装置(スキャナ)4等との通信を行って画像データを受信する通信部41、通信部41にて受信された画像データに対し予め定めた画像処理を施す画像処理部42を備えている。さらにまた、画像形成装置1は、表示パネルなどにより構成されユーザからの情報を受け付けるとともにユーザに対して情報を表示する表示部の一例としてのユーザインタフェース(UI)34を備えている。
【0009】
画像形成部10は、一定の間隔を置いて並列的に配置されるトナー像形成手段の一例である4つの画像形成ユニット11Y、11M、11C、11K(「画像形成ユニット11」とも総称する)を備えている。各画像形成ユニット11は、静電潜像を形成してトナー像を保持する感光体ドラム12、感光体ドラム12の表面を予め定めた電位で帯電する帯電器13、帯電器13によって帯電された感光体ドラム12を各色画像データに基づき露光するLED(Light Emitting Diode)プリントヘッド14、感光体ドラム12上に形成された静電潜像を現像する現像器15、転写後の感光体ドラム12表面を清掃するドラムクリーナ16を備えている。
画像形成ユニット11各々は、現像器15に収納されるトナーを除いて同様に構成され、それぞれがイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)のトナー像を形成する。
【0010】
また、画像形成部10は、各画像形成ユニット11の感光体ドラム12にて形成された各色トナー像が多重転写される中間転写ベルト20、各画像形成ユニット11にて形成された各色トナー像を中間転写ベルト20に順次転写(一次転写)する一次転写ロール21を備えている。さらに、中間転写ベルト20上に重畳して転写された各色トナー像を記録材(記録紙)である用紙Pに一括転写(二次転写)する二次転写ロール22、二次転写後の中間転写ベルト20表面を清掃するベルトクリーナ25、二次転写された各色トナー像を用紙P上に定着させる定着手段(定着装置)の一例としての定着装置60を備えている。なお、本実施の形態の画像形成装置1では、中間転写ベルト20、一次転写ロール21、および二次転写ロール22により転写手段が構成される。
【0011】
本実施の形態の画像形成装置1では、制御部30による動作制御の下で、次のようなプロセスによる画像形成処理が行われる。すなわち、PC3やスキャナ4からの画像データは通信部41にて受信され、画像処理部42により予め定めた画像処理が施された後、各色の画像データとなって各画像形成ユニット11に送られる。そして、例えば黒(K)色トナー像を形成する画像形成ユニット11Kでは、感光体ドラム12が矢印A方向に回転しながら帯電器13により予め定めた電位で帯電され、画像処理部42から送信された黒(K)色画像データに基づきLEDプリントヘッド14が感光体ドラム12を走査露光する。それにより、感光体ドラム12上には黒(K)色画像に関する静電潜像が形成される。感光体ドラム12上に形成された黒(K)色静電潜像は現像器15により現像され、感光体ドラム12上に黒(K)色トナー像が形成される。同様に、画像形成ユニット11Y、11M、11Cにおいても、それぞれイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各色トナー像が形成される。
【0012】
各画像形成ユニット11の感光体ドラム12に形成された各色トナー像は、一次転写ロール21により矢印B方向に移動する中間転写ベルト20上に順次静電転写(一次転写)され、各色トナーが重畳された重畳トナー像が形成される。中間転写ベルト20上の重畳トナー像は、中間転写ベルト20の移動に伴って二次転写ロール22が配置された領域(二次転写部T)に搬送される。重畳トナー像が二次転写部Tに搬送されると、そのタイミングに合わせて用紙保持部40から用紙Pが二次転写部Tに供給される。そして、重畳トナー像は、二次転写部Tにて二次転写ロール22が形成する転写電界により、搬送されてきた用紙P上に一括して静電転写(二次転写)される。
【0013】
その後、重畳トナー像が静電転写された用紙Pは、定着装置60まで搬送される。定着装置60に搬送された用紙P上のトナー像は、定着装置60によって熱および圧力を受け、用紙P上に定着される。そして、定着画像が形成された用紙Pは、画像形成装置1の排出部に設けられた用紙積載部45に搬送される。
一方、一次転写後に感光体ドラム12に付着しているトナー(一次転写残トナー)、および二次転写後に中間転写ベルト20に付着しているトナー(二次転写残トナー)は、それぞれドラムクリーナ16、およびベルトクリーナ25によって除去される。
このようにして、画像形成装置1での画像形成処理がプリント枚数分のサイクルだけ繰り返し実行される。
【0014】
<定着装置の構成の説明>
次に、本実施の形態の定着装置60について説明する。
図2および
図3は本実施の形態の定着装置60の構成を示す図であり、
図2は正面図、
図3は
図2におけるIII−III断面図である。
まず、断面図である
図3に示すように、定着装置60は、用紙Pにトナー像を定着する定着部材の一例としての定着ベルト61と、定着ベルト61の外周側において、定着ベルト61に対向するように配置された加圧ロール62と、定着ベルト61の内周側に設けられるとともに、定着ベルト61を介して加圧ロール62から押圧され、加圧ロール62との間にニップ部Nを形成する押圧パッド63と、定着ベルト61の外周側に設けられ、定着ベルト61からの用紙Pの剥離を補助する剥離補助部材173とを備えている。さらに、定着装置60は、定着ベルト61の外周側に設けられ、定着ベルト61を電磁誘導加熱する磁界生成手段の一例としてのIHヒータ80と、定着ベルト61の内周側に設けられ、IHヒータ80とともに定着ベルト61を加熱する内部加熱ユニット70と、を備えている。
【0015】
<定着ベルトの説明>
図4は、定着ベルト61の層構成を説明する図である。定着ベルト61は、原形が円筒形状の無端のベルト部材で構成され、例えば原形(円筒形状)時の直径が30mm、幅方向長が370mmに形成されている。また、
図4に示したように、定着ベルト61は、内周側から、基材層611、基材層611の上に積層された導電層の一例としての導電発熱層612、トナー像の定着性を向上させる弾性層613、最上層に被覆された表面離型層614が積層された多層構造のベルト部材である。したがって、本実施の形態においては、定着ベルト61の内周側において基材層611が内部加熱ユニット70の後述する感温磁性部材64と接触し、定着ベルト61の外周側において表面離型層614が加圧ロール62およびIHヒータ80に対向している。
【0016】
基材層611は、導電発熱層612を支持するとともに、定着ベルト61全体としての機械的強度を形成する耐熱性のシート状部材で構成される。また、基材層611は、IHヒータ80にて生成された交流磁界が感温磁性部材64まで作用するように、磁界を通過させる物性(比透磁率、固有抵抗)を持った材質、厚さで形成される。一方、基材層611自身は、磁界の作用により発熱しないか、または発熱し難く構成される。
具体的には、基材層611として、例えば、厚さ30〜200μm(好ましくは50〜150μm)の非磁性ステンレススチール等の非磁性金属や、厚さ60〜200μmの樹脂材料等が用いられる。
【0017】
導電発熱層612は、IHヒータ80(
図3参照)にて生成される交流磁界によって電磁誘導加熱される電磁誘導発熱体層である。すなわち、導電発熱層612は、IHヒータ80からの交流磁界が厚さ方向に通過することにより、渦電流を発生させる層である。
通常、IHヒータ80に交流電流を供給する励磁回路88(
図3参照)の電源として、安価に製造できる汎用電源が使用される。そのため、IHヒータ80により生成される交流磁界の周波数は、一般に、汎用電源による20kHz〜100kHzとなる。それにより、導電発熱層612は、周波数20kHz〜100kHzの交流磁界が侵入し通過するように構成される。
【0018】
導電発熱層612に交流磁界が侵入できる領域は、交流磁界が1/eに減衰する領域である「表皮深さ(δ)」として規定され、次の(1)式から導かれる。(1)式において、fは交流磁界の周波数(例えば、20kHz)、ρは固有抵抗値(Ω・m)、μ
rは比透磁率である。
そのため、導電発熱層612の厚さは、周波数20kHz〜100kHzの交流磁界が導電発熱層612に侵入し通過するように、(1)式で規定される導電発熱層612の表皮深さ(δ)よりも薄く構成される。また、導電発熱層612を構成する材料として、例えば、Au、Ag、Al、Cu、Zn、Sn、Pb、Bi、Be、Sb等の金属や、これらの金属合金が用いられる。
【0020】
具体的には、導電発熱層612として、厚さ2μm〜20μm、固有抵抗値2.7×10
−8Ω・m以下の例えばCu等の非磁性金属(比透磁率が概ね1の金属)が用いられる。
また、定着ベルト61が定着設定温度まで加熱されるまでに要する時間(以下、「ウォームアップタイム」)を短縮する観点からも、導電発熱層612は、薄層に構成される。
【0021】
次に、弾性層613は、シリコーンゴム等の耐熱性の弾性体で構成される。定着対象となる用紙Pに保持されるトナー像は、粉体である各色トナーが積層して形成されている。そのため、ニップ部Nにおいてトナー像の全体に均一に熱を供給するには、用紙P上のトナー像の凹凸に倣って定着ベルト61表面が変形することが好ましい。そこで、弾性層613には、例えば厚みが100μm〜600μm、硬度が10°〜30°(JIS−A)のシリコーンゴムが用いられる。
表面離型層614は、用紙P上に保持された未定着トナー像と直接接触するため、離型性の高い材質が使用される。例えば、PFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、シリコーン共重合体、またはこれらの複合層等が用いられる。表面離型層614の厚さとしては、薄すぎると、耐摩耗性の面で充分でなく、定着ベルト61の寿命を短くする。その一方で、厚すぎると、定着ベルト61の熱容量が大きくなりすぎ、ウォームアップタイムが長くなる。そこで、表面離型層614の厚さとして、耐摩耗性と熱容量とのバランスを考慮し、1μm〜50μmが用いられる。
【0022】
<加圧ロールの説明>
加圧ロール62は、定着ベルト61に対向するように配置され、定着ベルト61に従動して
図3の矢印D方向に、例えば140mm/sのプロセススピードで回転する。そして、加圧ロール62と押圧パッド63とにより定着ベルト61を挟持した状態でニップ部Nを形成し、このニップ部Nに未定着トナー像を保持した用紙Pを通過させることで、熱および圧力を加えて未定着トナー像を用紙Pに定着する。
加圧ロール62は、例えば直径18mmの中実のアルミニウム製コア(円柱状芯金)621と、コア621の外周面に被覆された例えば厚さ5mmのシリコーンスポンジ等の耐熱性弾性体層622と、さらに例えば厚さ50μmのカーボン配合のPFA等の耐熱性樹脂被覆または耐熱性ゴム被覆による離型層623とが積層されて構成される。そして、加圧ロール62は、押圧バネ68(
図2参照)により例えば25kgfの荷重で定着ベルト61を介して押圧パッド63を押圧している。
【0023】
<押圧パッドの説明>
押圧パッド63は、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の弾性体やLCP、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂で構成され、
図3に示すように加圧ロール62と対向する位置にてホルダ65に支持される。そして、押圧パッド63は、定着ベルト61を介して加圧ロール62から押圧される状態で配置され、加圧ロール62との間でニップ部Nを形成する。
【0024】
なお、本実施の形態では、押圧パッド63による剥離の補助手段として、ニップ部Nの下流側に、剥離補助部材173を配置している。剥離補助部材173は、ニップ部Nよりも用紙搬送方向下流側において、定着ベルト61に向かって延びる剥離バッフル171と、剥離バッフル171を支持するホルダ172とから構成される。そして、ニップ部Nの出口にて押圧パッド63により用紙Pに形成されたカール部分を剥離バッフル171により支持することで、用紙Pが定着ベルト61方向に向かうことを抑制する。
【0025】
<IHヒータの説明>
続いて、IHヒータ80について説明する。本実施の形態のIHヒータ80は、定着ベルト61の導電発熱層612に交流磁界を作用させて電磁誘導加熱する。
図3に示すように、本実施の形態のIHヒータ80は、定着ベルト61の外周面に沿って設けられる支持体81と、支持体81に支持されるとともに支持体81を介して定着ベルト61に対向して設けられ、交流磁界を生成する励磁コイル82と、支持体81に支持されるとともに励磁コイル82に対向して設けられ、励磁コイル82にて生成された交流磁界の磁路を形成する磁心84とを備えている。また、本実施の形態のIHヒータ80は、励磁コイル82上に設けられ、励磁コイル82を支持体81上に固定する弾性支持部材83と、支持体81に取り付けられるとともに、励磁コイル82、弾性支持部材83および磁心84を囲んで設けられ、磁界を遮蔽するシールド85と、磁心84とシールド85との間に設けられ、磁心84を支持体81側に加圧する加圧部材86と、励磁コイル82に交流電流を供給する励磁回路88とを備えている。
また、本実施の形態のIHヒータ80は、
図3に示すように、定着ベルト61を介して、定着ベルト61の内周側に設けられる内部加熱ユニット70の後述する感温磁性部材64および誘導部材66と対向している。
【0026】
支持体81は、定着ベルト61の移動方向に直交する方向(以下では、定着ベルト61の幅方向という)を長手方向とし、定着ベルト61の全幅に亘って定着ベルト61と対向して設けられる。
さらに、支持体81は、
図3に示すように、断面が定着ベルト61の表面形状に沿って湾曲した形状で形成され、励磁コイル82を支持する上部面が定着ベルト61の表面と予め定められた間隙(例えば、0.5mm〜2mm)を保つように設定されている。
支持体81を構成する材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂、またはこれらにガラス繊維を混合した耐熱性樹脂、耐熱ガラス等の耐熱性のある非磁性材料が用いられる。
【0027】
励磁コイル82は、相互に絶縁された例えば直径0.17mmの銅線材を例えば90本束ねたリッツ線が、定着ベルト61の幅方向が長手方向となるような長円形状や楕円形状、長方形状等の中空きの閉ループ状に巻かれて構成される。そして、励磁コイル82に励磁回路88から予め定めた周波数の交流電流が供給されることにより、励磁コイル82の周囲には、閉ループ状に巻かれたリッツ線を中心とする交流磁界が生成される。励磁回路88から励磁コイル82に供給される交流電流の周波数は、一般に、上記した汎用電源により生成される20kHz〜100kHzが用いられる。
弾性支持部材83は、例えばシリコーンゴム等やフッ素ゴム等の弾性体で構成されたシート状部材である。弾性支持部材83は、励磁コイル82が支持体81に密着して固定されるように、励磁コイル82を支持体81に対して押圧するように設定されている。
【0028】
磁心84は、複数が隣接する磁心84との間に間隙を有するように、定着ベルト61の幅方向に複数が並んで設けられる。そして、それぞれの磁心84は、断面が定着ベルト61の断面形状に沿って湾曲するとともに、定着ベルト61の移動方向を長手方向とする弓状の形状を有している。そして、それぞれの磁心84は、支持体81により位置決めされている。
また、
図3に示すように、定着ベルト61の移動方向に沿った磁心84の長さは、後述する感温磁性部材64および誘導部材66の定着ベルト61の移動方向に沿った長さよりも短く構成される。これにより、磁心84から放射される磁力線H(後述する
図6(a)〜
図6(b)参照)のIHヒータ80周辺への漏洩が減り、力率が向上する。さらには、定着装置60を構成する金属製部材への電磁誘導を抑え、定着ベルト61(導電発熱層612)での発熱効率が高まる。
【0029】
磁心84を形成する材料としては、例えばソフトフェライト、フェライト樹脂、非晶質合金(アモルファス合金)、やパーマロイ、感温磁性合金等の高透磁率の酸化物や合金材質で構成される強磁性体が用いられる。磁心84は、励磁コイル82にて生成された交流磁界による磁力線H(磁束)を内部に誘導し、磁心84から支持体81を介して定着ベルト61を横切って感温磁性部材64方向に向かい、感温磁性部材64の中を通過して支持体81を介して磁心84に戻るといった磁力線Hの通路(磁路)を形成する。すなわち、励磁コイル82にて生成された交流磁界が磁心84の内部と感温磁性部材64の内部とを通過するように構成して、磁力線Hが定着ベルト61と励磁コイル82とを内部に包み込むような閉磁路を形成する。それにより、励磁コイル82にて生成された交流磁界の磁力線Hは、定着ベルト61のうち磁心84と対向する領域に集中される。
【0030】
<内部加熱ユニットの説明>
続いて、内部加熱ユニット70の構成について説明する。
図5(a)〜
図5(b)は、本実施の形態の内部加熱ユニット70の構成を説明するための図であって、
図5(a)は、内部加熱ユニット70の斜視図であり、
図5(b)は、感温磁性部材64を誘導部材66に重ねる前の状態を示した内部加熱ユニット70の斜視図である。
図3および
図5(a)〜
図5(b)に示すように、本実施の形態の内部加熱ユニット70は、定着ベルト61の内周側において定着ベルト61に接触して設けられ、IHヒータ80の励磁コイル82により生成された交流磁界を誘導して磁路を形成する感温磁性部材64と、感温磁性部材64に接触して設けられ、感温磁性部材64を通過した磁力線を誘導する誘導部材66と、を備えている。さらに、内部加熱ユニット70は、定着ベルト61の内周面に接触して設けられ、定着ベルト61の温度を検知する温度検知センサ71、72と、感温磁性部材64の内周面に接触して設けられ、感温磁性部材64が高温になった場合に、汎用電源から励磁回路88への通電を遮断する電力遮断部材の一例としてのサーモスタット73と、を備えている。さらにまた、内部加熱ユニット70は、感温磁性部材64、誘導部材66、温度検知センサ71、72およびサーモスタット73を支持するホルダ65を備えている。
【0031】
<感温磁性部材の説明>
次に、感温磁性部材64について説明する。
図3に示すように、感温磁性部材64は、定着ベルト61の内周面に倣った円弧形状で形成され、外周面が定着ベルト61の内周面と接触するように配置される。それにより、感温磁性部材64の温度は定着ベルト61の温度に対応して変化するようになっている。
【0032】
そして、感温磁性部材64は、その磁気特性の透磁率が急変する温度である「透磁率変化開始温度」が、各色トナー像が溶融する定着設定温度以上であって、定着ベルト61の弾性層613や表面離型層614の耐熱温度よりも低い温度範囲内に設定された材質で構成される。すなわち、感温磁性部材64は、定着設定温度を含む温度領域において強磁性と非磁性(常磁性)との間を可逆的に変化する特性(「感温磁性」)を有する材質で構成される。それにより、感温磁性部材64は、強磁性を呈する透磁率変化開始温度以下の温度範囲において磁路形成部材として機能し、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線を内部に誘導して、感温磁性部材64の内部を通過する磁路を形成する。そして、感温磁性部材64は、定着ベルト61とIHヒータ80の励磁コイル82(後段の
図6参照)とを内部に包み込むような閉磁路を形成する。一方、透磁率変化開始温度を超える温度範囲においては、感温磁性部材64は、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線を、感温磁性部材64の厚さ方向に横切るように透過させる。それにより、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線は、感温磁性部材64を透過し、誘導部材66の内部を通過してIHヒータ80に戻る磁路を形成する。
【0033】
なお、ここでの「透磁率変化開始温度」とは、透磁率(例えば、JIS C2531で測定される透磁率)が連続的に低下を開始する温度であり、例えば感温磁性部材64等の部材を透過する磁束量(磁力線の数)が変化し始める温度点をいう。したがって、透磁率変化開始温度は、物質が磁性を消失する温度であるキュリー点に近い温度となるが、キュリー点とは異なる概念を有するものである。
【0034】
感温磁性部材64に用いる材質としては、定着設定温度として用いられる例えば140℃〜240℃の範囲内に透磁率変化開始温度が設定された例えばFe−Ni合金(パーマロイ)等の二元系整磁鋼やFe−Ni−Cr合金等の三元系の整磁鋼等が用いられる。例えば、Fe−Niの二元系整磁鋼においては約Fe64%、Ni36%(原子数比)とすることで225℃前後に透磁率変化開始温度を設定することができる。このようなパーマロイや整磁鋼等の金属合金等は、成型性や加工性に優れ、伝熱性も高く安価である等の理由から、感温磁性部材64に適する。その他の材質としては、Fe、Ni、Si、B、Nb、Cu、Zr、Co、Cr、V、Mn、Mo等からなる金属合金が用いられる。
また、感温磁性部材64は、IHヒータ80により生成された交流磁界(磁力線)に対する表皮深さδ(上記(1)式参照)よりも厚い厚さで形成される。具体的には、例えばFe−Ni合金を用いた場合には200μm〜800μm程度に設定される。
【0035】
また、本実施の形態の感温磁性部材64は発熱体としても機能して、接触して配置される定着ベルト61に対して熱を供給する。それにより、感温磁性部材64は、トナー像を定着する定着部材として機能する定着ベルト61の発熱を補助して、画像形成時の定着ベルト61の温度を定着設定温度の範囲内に維持する。例えば、感温磁性部材64自らが発熱して定着ベルト61に対して熱を供給することで、定着動作の開始時に生じ易い定着ベルト61の温度の一時的な落ち込み(所謂「温度ドループ現象」)の発生等を抑制して、定着ベルト61の温度が定着設定温度の範囲内に安定的に維持されるように構成している。
本実施の形態において、感温磁性部材64は、定着ベルト61に熱を供給するため、定着ベルト61に対し、例えば10℃〜30℃ほど高い温度に保持される。
【0036】
また、本実施の形態の感温磁性部材64には、
図5(b)に示すように、ホルダ65に支持される温度検知センサ71、72の位置に対応して、切り欠き641、642が形成されている。具体的には、感温磁性部材64における幅方向中央部に切り欠き641が形成され、感温磁性部材64における幅方向の一方の端部側に切り欠き642が形成されている。これにより、温度検知センサ71、72は、それぞれ、切り欠き641、642を介して定着ベルト61側へ突出し、定着ベルト61の内周面に接触するようになっている。
【0037】
<ホルダの説明>
図3および
図5(a)〜
図5(b)に示すように、ホルダ65は、定着ベルト61の内周側に設けられ、押圧パッド63、感温磁性部材64および誘導部材66を支持する。そして、ホルダ65は、押圧パッド63が加圧ロール62からの押圧力を受けた状態で、押圧パッド63の撓み量が一定量以下となるように、剛性の高い材料で構成される。それにより、ニップ部Nにおける定着ベルト61の幅方向の圧力(ニップ圧)の均一性を維持している。さらに、本実施の形態の定着装置60では、電磁誘導を用いて定着ベルト61を加熱する構成を採用していることから、ホルダ65は、誘導磁界に影響を与えないか、または与え難い材料であり、かつ、誘導磁界から影響を受けないか、または受け難い材料で構成される。例えば、ガラス混入PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂や、例えばAl、Cu、Ag等の非磁性金属材料等が用いられる。
【0038】
<誘導部材の説明>
図3に示すように、誘導部材66は、感温磁性部材64の内周面に倣った円弧形状で形成され、感温磁性部材64の内周面と接触して配置される。なお本実施の形態では、誘導部材66と感温磁性部材64とは互いに接着されてはおらず、ホルダ65に支持されることで重なった状態となっている。
また、誘導部材66は、例えばAl、Cu、Agといった固有抵抗値が比較的小さい非磁性金属で構成される。そして、感温磁性部材64が透磁率変化開始温度以上の温度に上昇した際に、IHヒータ80により生成された交流磁界(磁力線)を誘導して、定着ベルト61の導電発熱層612よりも渦電流Iが発生し易い状態を形成する。それにより、誘導部材66の厚さは、渦電流Iが流れ易いように、表皮深さδ(上記(1)式参照)よりも充分に厚い厚さ(例えば、1.0mm)で形成される。なお、本実施の形態では、誘導部材66は、定着ベルト61の幅方向全域に亘って、感温磁性部材64よりも厚く形成されている。
【0039】
さらに、誘導部材66は、感温磁性部材64と接触して配置されることにより、感温磁性部材64にて発生した熱を蓄える蓄熱体としても機能する。そして、誘導部材66は、蓄えた熱を感温磁性部材64を介して定着ベルト61に供給することで、画像形成時の定着ベルト61の温度を定着設定温度の範囲内に維持する。すなわち、本実施の形態の誘導部材66は、感温磁性部材64にて発熱した熱を貯蔵し、温度が落ち込んだ定着ベルト61に対し感温磁性部材64を介して熱を供給する。それにより、例えば定着動作の開始時に生じ易い定着ベルト61の温度の一時的な落ち込み(温度ドループ現象)等の発生の抑制を補助して、定着ベルト61の温度が定着設定温度の範囲内に安定的に維持されるように機能する。
【0040】
また、本実施の形態の誘導部材66には、
図5(a)〜
図5(b)に示すように、ホルダ65に支持される温度検知センサ71、72の位置に対応して切り欠き661、662が形成され、ホルダ65に支持されるサーモスタット73の位置に対応して切り欠き663が形成されている。具体的には、誘導部材66における幅方向中央部に切り欠き661および切り欠き663が形成され、誘導部材66における幅方向の一方の端部側に切り欠き662が形成されている。なお、誘導部材66と感温磁性部材64とがホルダ65に支持され互いに重なった状態では、誘導部材66の切り欠き661と感温磁性部材64の切り欠き641とが重なるようになり、誘導部材66の切り欠き662と感温磁性部材64の切欠き642とが重なるようになっている。
【0041】
<温度検知センサの説明>
温度検知センサ71、72は、定着ベルト61の内周面に接触して設けられ、定着ベルト61の温度を検知する。本実施の形態では、定着ベルト61の幅方向中央部(ニップ部Nにおける最小通紙領域に対応する位置)に一方の温度検知センサ71が配置され、定着ベルト61における幅方向の一方の端部(ニップ部Nにおける最小通紙領域よりも端部側に対応する位置)に他方の温度検知センサ72が配置されている。そして、
図5(a)〜
図5(b)に示すように、一方の温度検知センサ71は、感温磁性部材64に形成された切り欠き641および誘導部材66に形成された切り欠き661を介して定着ベルト61の内周面に接触し、他方の温度検知センサ72は、感温磁性部材64に形成された切り欠き642および誘導部材66に形成された切り欠き662を介して定着ベルト61の内周面に接触している。
なお、それぞれの温度検知センサ71、72は、
図5(a)〜
図5(b)に示すように、ばね部材71a、72aを介してホルダ65によって支持されている。そして、それぞれの温度検知センサ71、72は、ばね部材71a、72aにより定着ベルト61の内周面に押圧されるようになっている。
【0042】
温度検知センサ71、72としては、例えばサーミスタ式の温度検知センサを用いることができる。温度検知センサ71、72として使用するサーミスタ式の温度検知センサとしては、例えば、温度の上昇に対して抵抗が減少するNTC(Negative Temperature Coefficient)サーミスタ、温度の上昇に対して抵抗が増加するPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタ、温度の上昇に対して抵抗が減少するが特定の温度範囲で感度が良好となるCTR(Critical Temperature Resistor)サーミスタ等の種々のサーミスタを使用することができる。
【0043】
そして、詳細については後述するが、本実施の形態では、通常、温度検知センサ71、72により検知される定着ベルト61の温度に応じて、励磁回路88(
図3参照)を介して励磁コイル82(
図3参照)に供給する電力を決定している。
【0044】
<サーモスタットの説明>
サーモスタット73は、感温磁性部材64の内周面に接触して設けられ、感温磁性部材64の温度が過度に上昇した場合に、励磁回路88への電力の供給を遮断するために設けられる。
図5(a)〜
図5(b)に示すように、本実施の形態の内部加熱ユニット70では、サーモスタット73は、誘導部材66に形成された切り欠き663から感温磁性部材64側に突出することで、感温磁性部材64の内周面に接触するようになっている。
【0045】
サーモスタット73は、例えば、熱膨張率の異なる2種の金属板が積層されたバイメタルにより構成される。具体的には、サーモスタット73は、例えば、鉄とニッケルとの合金(インバー)からなる第1の金属板と、鉄とニッケルとを含む合金にクロムやマンガン等の金属を添加した第2の金属板とが積層されたバイメタル等により構成される。
そして、サーモスタット73は、感温磁性部材64が過度に高温になった場合に第1の金属板と第2の金属板との熱膨張率の差によって変形することにより、励磁回路88への電力の供給を遮断する。
【0046】
<定着ベルトの駆動機構の説明>
次に、定着ベルト61の駆動機構について説明する。
正面図である
図2に示したように、内部加熱ユニット70のホルダ65(
図3参照)の軸方向両端部には、定着ベルト61の両端部の断面形状を円形に維持しながら定着ベルト61を周方向に回転駆動するエンドキャップ部材67が固定されている。そして、定着ベルト61は、両端部からエンドキャップ部材67を介した回転駆動力を直接的に受けて、例えば140mm/sのプロセススピードで
図3の矢印C方向に回転移動する。
エンドキャップ部材67を構成する材質としては、機械的強度や耐熱性の高い所謂エンジニアリングプラスチックスが用いられる。例えば、エンドキャップ部材67を構成する材質としては、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、PEEK樹脂、PES樹脂、PPS樹脂、LCP樹脂等が用いられる。
【0047】
そして、
図2に示すように、定着装置60では、駆動モータ90からの回転駆動力が伝達ギヤ91、92を介してシャフト93に伝達され、シャフト93に結合された伝達ギヤ94、95から両エンドキャップ部材67に伝達される。それによって、エンドキャップ部材67から定着ベルト61に回転駆動力が伝わり、エンドキャップ部材67と定着ベルト61とが一体となって回転駆動される。
このように、定着ベルト61が定着ベルト61の両端部から駆動力を直接受けて回転するので、定着ベルト61は安定して回転する。
【0048】
<定着ベルトが発熱する状態の説明>
引き続いて、IHヒータ80により生成された交流磁界によって定着ベルト61が発熱する状態を説明する。
図6(a)〜
図6(b)は、IHヒータ80により生成された磁力線の状態を示した図であって、
図6(a)は、定着ベルト61(感温磁性部材64)の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合の磁力線(H)の状態を示し、
図6(b)は、定着ベルト61(感温磁性部材64)の温度が透磁率変化開始温度を超えた温度範囲にある場合の磁力線(H)の状態を示している。
【0049】
まず、上記したように、感温磁性部材64の透磁率変化開始温度は、各色トナー像を定着する定着設定温度以上であって定着ベルト61の耐熱温度以下となる温度範囲内(例えば、220℃〜240℃)に設定されている。そして、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の状態にある場合には、定着ベルト61に近接する感温磁性部材64の温度も定着ベルト61の温度に対応して、透磁率変化開始温度以下となる。そのため、感温磁性部材64は強磁性を呈するので、IHヒータ80により生成された交流磁界の磁力線Hは、定着ベルト61を透過した後、感温磁性部材64の内部を広がり方向に沿って通過する磁路を形成する。ここでの「広がり方向」とは、感温磁性部材64の厚さ方向と直交する方向を意味する。
【0050】
図6(a)に示したように、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合には、IHヒータ80により生成された交流磁界の磁力線Hは、定着ベルト61を交差して透過し、感温磁性部材64の内部を広がり方向(厚さ方向と直交する方向)に沿って通過する磁路を形成する。そのため、定着ベルト61の導電発熱層612を横切る領域での単位面積あたりの磁力線Hの数(磁束密度)は多くなる。
【0051】
すなわち、IHヒータ80の磁心84から磁力線Hが放射されて定着ベルト61の導電発熱層612を横切る領域R1、R2を通過した後、磁力線Hは強磁性体である感温磁性部材64の内部に誘導される。そのため、定着ベルト61の導電発熱層612を厚さ方向に横切る磁力線Hは感温磁性部材64の内部に進入するように集中し、領域R1、R2での磁束密度は高くなる。また、感温磁性部材64の内部を広がり方向に沿って通過した磁力線Hが再び磁心84に戻るに際しても、導電発熱層612を厚さ方向に横切る領域R3では、感温磁性部材64内の磁位の低い部分から集中して磁心84に向けて発生する。そのため、定着ベルト61の導電発熱層612を厚さ方向に横切る磁力線Hは、感温磁性部材64から集中して磁心84に向かうこととなり、領域R3での磁束密度も高くなる。
【0052】
磁力線Hが厚さ方向に横切る定着ベルト61の導電発熱層612では、単位面積当たりの磁力線Hの数(磁束密度)の変化量に比例した渦電流Iが発生する。それにより、
図6(a)に示したように、磁束密度の変化量が大きい領域R1、R2および領域R3では、大きな渦電流Iが発生する。導電発熱層612に生じた渦電流Iは、導電発熱層612の固有抵抗値Rと渦電流Iの二乗の積であるジュール熱W(W=I
2R)を発生させる。それにより、大きな渦電流Iが発生した導電発熱層612では、大きなジュール熱Wが発生する。
このように、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合には、磁力線Hが導電発熱層612を横切る領域R1、R2や領域R3において大きな熱が発生する。それにより、定着ベルト61は加熱される。
【0053】
ところで、本実施の形態の定着装置60では、定着ベルト61の内周面側に対応させて定着ベルト61に接触させて感温磁性部材64を配置している。それにより、励磁コイル82にて生成された磁力線Hを内部に誘導する磁心84と、定着ベルト61を厚さ方向に横切って透過した磁力線Hを内部に誘導する感温磁性部材64とが近接した構成を実現している。そのため、IHヒータ80(励磁コイル82)により生成された交流磁界は、磁路が短いループを形成するので、磁路内での磁束密度や磁気結合度は高まる。それにより、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合、定着ベルト61はさらに効率的に熱が発生する。
【0054】
<定着ベルトの昇温を抑制する機能の説明>
一方、誘導加熱により定着ベルト61の温度が上昇し、例えばニップ部N(
図3参照)において用紙が搬送されない非通紙部に対応する領域において、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度を超えた場合には、定着ベルト61に近接する感温磁性部材64の温度も定着ベルト61の温度に対応して、透磁率変化開始温度を超える。この場合、感温磁性部材64は比透磁率が1に近づき、強磁性体としての性質が消失する。感温磁性部材64の比透磁率が低下して1に近づくことで、IHヒータ80にて生成された交流磁界の磁力線Hは感温磁性部材64の内部に誘導されず、感温磁性部材64を透過するようになる。このため、定着ベルト61の導電発熱層612を通過した後の磁力線Hは拡散し、導電発熱層612を横切る磁力線Hの磁束密度は低下する。これにより、導電発熱層612で発生する渦電流Iは減少して、定着ベルト61での発熱量(ジュール熱W)が低減される。この結果、定着ベルト61の過剰な温度上昇が抑えられ、定着ベルト61の損傷が抑制される。
【0055】
感温磁性部材64を通過した後の磁力線Hは、誘導部材66に到達してこの内部に誘導される。磁束が誘導部材66に到達してその内部に誘導されるようになると、導電発熱層612より渦電流Iの流れ易い誘導部材66の方に多くの渦電流Iが流れる。このため、導電発熱層612で流れる渦電流量はさらに抑制され、定着ベルト61の温度上昇は抑えられる。
【0056】
ところで、その後、定着ベルト61の温度が感温磁性部材64の透磁率変化開始温度よりも低くなると、感温磁性部材64の温度も透磁率変化開始温度よりも低くなる。それにより、感温磁性部材64は再び強磁性に変化して磁力線Hが感温磁性部材64に誘導されるので、導電発熱層612に渦電流Iが多く流れるようになる。これにより、定着ベルト61が再び加熱されるようになる。
【0057】
図6(b)に示すように、定着ベルト61の温度が、例えば非通紙領域において上昇し透磁率変化開始温度を超えた温度範囲にある場合には、感温磁性部材64の比透磁率が低下する。このため、IHヒータ80により生成された交流磁界の磁力線Hは、感温磁性部材64を容易に透過するように変化する。これにより、IHヒータ80(励磁コイル82)により生成された交流磁界の磁力線Hは、磁心84から定着ベルト61側に向けて拡散するように放射され、誘導部材66に到達するようになる。
【0058】
すなわち、IHヒータ80の磁心84から磁力線Hが放射されて定着ベルト61の導電発熱層612を横切る領域R1、R2では、磁力線Hは感温磁性部材64に誘導され難いため、放射状に拡散する。それにより、定着ベルト61の導電発熱層612を厚さ方向に横切る磁力線Hの磁束密度(単位面積当たりの磁力線Hの数)が減少する。また、磁力線Hが再び磁心84に戻る際に導電発熱層612を厚さ方向に横切る領域R3でも、拡散した広い領域から磁力線Hが磁心84に戻ることとなるため、定着ベルト61の導電発熱層612を厚さ方向に横切る磁力線Hの磁束密度が減少する。
そのため、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度を超える温度範囲にある場合には、領域R1、R2や領域R3において導電発熱層612を厚さ方向に横切る磁力線Hの磁束密度が減少することとなる。それにより、磁力線Hが厚さ方向に横切る導電発熱層612に発生する渦電流Iは減り、定着ベルト61に発生するジュール熱Wは減少する。この結果、定着ベルト61の温度は低下する。
【0059】
<定着装置の制御の説明>
続いて、定着装置60の制御について説明する。
ここで、定着動作の際には、制御部30(
図1参照)は、温度検知センサ71、72から取得された定着ベルト61の温度に基づき、IHヒータ80を制御している。具体的には、制御部30は、温度検知センサ71、72から取得された定着ベルト61の温度が予め定めた目標温度となるように、IHヒータ80に供給する電力量を決定している。
【0060】
図7は、IHヒータ80への供給電力の変化、および定着ベルト61、感温磁性部材64、誘導部材66の温度変化の一例を示した図である。
定着動作が開始された場合、
図7においてx1で示すように、定着ベルト61の温度は定着可能温度である目標温度a1よりも低いため、制御部30によって定着ベルト61の温度を上昇させるための電力h1が算出され、汎用電源によりIHヒータ80の励磁コイル82に電力h1が供給される。なお、ここで電力h1は、本実施の形態において励磁コイル82に供給される電力のうち最も大きな電力(フル電力)である。
【0061】
励磁コイル82に電力h1が供給されることで、
図7に示すように、定着ベルト61が誘導加熱され、定着ベルト61の温度が上昇する。
また、上述したように、本実施の形態の定着装置60では、IHヒータ80により生成された交流磁界により感温磁性部材64も発熱するため、励磁コイル82に電力h1が供給されることで、感温磁性部材64の温度も上昇する。さらに、感温磁性部材64に接して設けられる誘導部材66に感温磁性部材64から熱が伝導することで、誘導部材66の温度も上昇する。
【0062】
その後、定着ベルト61の温度が予め定められた目標温度a1(定着可能温度)に到達した場合、ニップ部Nに用紙が搬送され、定着動作が行われる。ここで、ニップ部Nに用紙が搬送され、定着ベルト61に用紙が接触した場合には、定着ベルト61から用紙へ熱が移動するため、
図7においてx2で示すように、定着ベルト61の温度が一時的に低下する。
本実施の形態の定着装置60では、上述したように、定着ベルト61の温度が低下した場合に、定着ベルト61の内周面に接触して設けられる感温磁性部材64および感温磁性部材64に接触して設けられる誘導部材66から、定着ベルト61に対して熱が供給される。これにより、通常は、定着ベルト61の温度が一時的に低下した場合であっても、励磁コイル82に対して制御部30で算出された電力(例えば電力h1)が供給されることで、
図7においてx3で示すように定着ベルト61の温度は目標温度a1に到達する。
【0063】
なお、その後は同様に、温度検知センサ71、72から取得した定着ベルト61の温度に基いて、定着ベルト61の温度が目標温度a1に維持されるように、IHヒータ80に供給する電力が制御部30によって算出され、引き続き定着動作が行われる。
通常、定着動作を継続して行うことで定着装置60を構成する各部材が次第に温まるため、定着ベルト61を目標温度a1に維持するために必要な電力は次第に小さくなる。すなわち、通常は、
図7で示すように、定着動作が続くに従い、制御部30によって算出されIHヒータ80に供給される電力は電力h1より小さくなり、IHヒータ80に対して電力h1が長時間継続して供給されにくくなっている。
【0064】
また、定着動作が継続して行われ励磁コイル82に電力が供給されることで感温磁性部材64も発熱し、
図7に示すように、感温磁性部材64の温度は、定着ベルト61の温度よりも約20℃高い温度で維持されるようになる。さらに、誘導部材66は、感温磁性部材64から熱が供給されることで、感温磁性部材64と略等しい温度(すなわち、定着ベルト61の温度よりも約20℃高い温度)に維持されるようになる。
【0065】
<感温磁性部材の異常昇温が起こる状態の説明>
ところで、上述したように、内部加熱ユニット70においては、感温磁性部材64と誘導部材66とは、互いに接着されずに単に重ねられた状態でホルダ65に支持されているにすぎない。したがって、内部加熱ユニット70では、感温磁性部材64と誘導部材66との接触面の形状が一致せずに、感温磁性部材64と誘導部材66とが部分的に接触しない接触不良が生じる場合がある。
そして、感温磁性部材64と誘導部材66とに接触不良が生じている場合、感温磁性部材64と誘導部材66との接触が良好な場合と比較して、感温磁性部材64と誘導部材66との間で熱の伝導が起こりにくくなる。この場合、特に感温磁性部材64と誘導部材66とが接触不良となっている領域で、感温磁性部材64の温度が過度に上昇しやすい。
【0066】
図8(a)は、感温磁性部材64と誘導部材66との接触が不十分な場合の、IHヒータ80への供給電力の変化、および定着ベルト61、感温磁性部材64、誘導部材66の温度変化の一例を示した図である。
図8(a)に示す例では、感温磁性部材64と誘導部材66との接触が不十分なため、感温磁性部材64と誘導部材66との接触が良好な場合と比較して、誘導部材66から定着ベルト61への感温磁性部材64を介した熱の供給が起こりにくい。このため、例えばニップ部Nに用紙が搬送され、定着ベルト61の温度が一時的に低下した場合には、
図8(a)においてy1で示すように、電力(電力h1)の供給を引き続き行った場合でも定着ベルト61の温度が目標温度a1に到達しにくい。
【0067】
上述したように、定着ベルト61の温度が目標温度a1よりも低い場合、定着ベルト61の温度を上昇させるために、制御部30によって大きな電力h1が算出され、IHヒータ80(励磁コイル82)に供給され続ける。
ここで、上述したように、IHヒータ80に電力が供給された場合には感温磁性部材64も発熱するため、IHヒータ80に電力h1が供給され続けることで、感温磁性部材64の温度も上昇する。
図8(a)に示す例では、感温磁性部材64と誘導部材66との接触不良が生じているため、感温磁性部材64と誘導部材66との接触が良好な場合と比較して、感温磁性部材64の温度が上昇した場合であっても感温磁性部材64から誘導部材66への熱の伝導が起こりにくい。
この結果、
図8(a)に示すように、感温磁性部材64の温度は上昇し続けることになる。
【0068】
また、感温磁性部材64と誘導部材66との密着性が良好な場合であっても、例えば、画像形成装置1において普通紙や薄紙に画像を形成するモード(普通紙モード、薄紙モード)が設定されている場合に誤って厚紙を搬送した場合等には、感温磁性部材64の温度が過度に上昇しやすい。
図8(b)は、画像形成装置1において普通紙に画像を形成するモード(普通紙モード)が設定されている場合に誤って厚紙を搬送した場合の、IHヒータ80への供給電力の変化、および定着ベルト61、感温磁性部材64、誘導部材66の温度変化の一例を示した図である。
【0069】
上述したように、ニップ部Nに用紙が搬送された際には、定着ベルト61の熱が用紙に伝導する。通常、厚紙のほうが普通紙と比較して熱容量が大きいため、厚紙がニップ部Nに搬送された場合のほうが、普通紙がニップ部Nに搬送された場合と比較して、定着ベルト61から用紙に伝導する熱量が多く、定着ベルト61の温度が低下しやすい。
このため、通常、画像形成装置1において厚紙モードが設定されている場合には、例えば用紙(厚紙)を搬送する間隔を大きくしたり、IHヒータ80に供給する電力を大きくしたりすることで、厚紙がニップ部Nに搬送されて定着ベルト61から厚紙に熱が伝導した場合であっても定着ベルト61の温度が過度に低下することを抑制している。
【0070】
これに対し、画像形成装置1において普通紙モードが設定されている場合に誤ってニップ部Nに厚紙を搬送した場合には、定着ベルト61から厚紙に熱が伝導することで、
図8(b)に示すように定着ベルト61の温度が大きく低下する。この結果、
図8(b)においてy2で示すように、感温磁性部材64および誘導部材66から定着ベルト61に熱が供給された場合であっても、定着ベルト61の温度が目標温度a1に到達しにくい。
上述したように、定着ベルト61の温度が目標温度a1よりも低い場合、定着ベルト61の温度を上昇させるために、制御部30により大きな電力h1が算出され、IHヒータ80(励磁コイル82)に供給され続ける。これにより、
図8(a)に示した例と同様に、感温磁性部材64の温度が過度に上昇する場合がある。
【0071】
以上説明したように、例えば感温磁性部材64と誘導部材66との接触不良が生じている場合や、画像形成装置1において画像形成モードを誤って設定した場合等において、IHヒータ80(励磁コイル82)に対して高い電力(この例では、電力h1)が継続して長期間供給されたような場合には、感温磁性部材64の温度が過度に上昇する場合がある。
特に、本実施の形態の定着装置60では、定着ベルト61の温度を検知する温度検知センサ71、72を設けているものの、感温磁性部材64の温度を検知する温度検知センサは設けていない。このため、感温磁性部材64の温度が過度に上昇した場合であってもそれを検知することはできない。
【0072】
そして、感温磁性部材64の温度が上昇し、感温磁性部材64の温度が透磁率変化開始温度を超えた場合には、感温磁性部材64の比透磁率が1に近づき、IHヒータ80にて生成された交流磁界の磁力線が感温磁性部材64を透過するようになる。磁力線が感温磁性部材64を透過するようになった場合、定着ベルト61の導電発熱層612を横切る磁力線の磁束密度が低下するため、定着ベルト61での発熱量が低減される。この結果、定着ベルト61の温度がより上昇しにくくなり、目標温度a1に到達しにくくなる。
【0073】
さらにまた、上述したように、本実施の形態では、感温磁性部材64の内周面に接触するようにサーモスタット73を設けているため、磁力線が感温磁性部材64を透過するようになることで、感温磁性部材64を透過した磁力線がサーモスタット73の内部に誘導される。この結果、サーモスタット73が直接、誘導加熱され、サーモスタット73の温度が高温になり、サーモスタット73が変形してIHヒータ80への電力の供給が遮断される場合がある。
【0074】
<感温磁性部材の昇温を抑制するための制御の説明>
そこで、本実施の形態では、IHヒータ80に供給される電力の累積が予め定めた値を超えた場合に、感温磁性部材64の異常昇温を抑制するための制御(サギング制御)を行っている。
図9は、本実施の形態が適用される制御部30の構成を示した図である。また、
図10は、本実施の形態の制御部30が行う処理の流れについて説明したフローチャートである。
【0075】
図9に示すように、本実施の形態の制御部30は、温度検知センサ71、72から定着ベルト61の温度情報を取得する温度情報取得部301と、温度情報取得部301にて取得した定着ベルト61の温度情報に基いて定着ベルト61の温度が予め定められた目標温度となるようにIHヒータ80に供給する電力を算出する電力算出部302と、電力算出部302にて算出された電力を汎用電源によりIHヒータ80に供給させる電力供給手段の一例としての電力供給部303と、電力供給部303がIHヒータ80に電力を供給する時間(供給時間)等の計時を行う計時部304と、電力h1の供給時間が予め定めた値に達した場合に、感温磁性部材64の温度上昇を抑制するためのサギング制御を行うサギング制御部305とを有している。
【0076】
図9および
図10を参照して、制御部30が行う処理について説明する。
画像形成装置1において定着動作開始の指示がなされると、まず、温度情報取得部301が温度検知センサ71、72から定着ベルト61の温度情報を取得する(ステップ101)。続いて、温度情報取得部301が取得した定着ベルト61の温度情報に基づき、電力算出部302が、IHヒータ80に供給する電力を算出する(ステップ102)。具体的には、電力算出部302は、定着ベルト61の温度が予め定められた目標温度(定着温度)に近づくように、定着ベルト61の温度情報に基いてIHヒータ80に供給する電力を算出する。
続いて、電力供給部303が、電力算出部302にて算出された電力を、励磁回路88を介してIHヒータ80(励磁コイル82)に供給させる(ステップ103)。
【0077】
次いで、ステップ102にて算出された電力が予め定めた電力h1であった場合には(ステップ104でYES)、計時部304は、電力供給部303による電力h1の供給時間tの計測を開始する(ステップ105)。
続いて、計時部304により計測される電力h1の供給時間tが予め定めた供給基準時間t1に到達した場合(ステップ106でYES)、サギング制御部305が、サギング制御を開始する(ステップ107)。ここで、サギング制御の内容については後段にて詳述するが、ステップ107においてサギング制御部305は、サギング制御として例えば定着動作を一時的に中断したり定着動作の生産性を低下させたりする制御を行う。
なお、ステップ102にて算出された電力が予め定めた電力h1でなかった場合(ステップ104でNO)、電力h1の供給時間tが予め定めた供給基準時間t1に到達しない場合(ステップ106でNO)には、ステップ101に戻り処理を継続する。
【0078】
また、サギング制御部305によるサギング制御が開始されると、計時部304は、サギング制御の実行時間Tの計測を開始する(ステップ108)。
そして、計時部304により計測されるサギング制御の実行時間Tが予め定めたサギング基準時間T2に到達した場合(ステップ109でYES)、サギング制御部305はサギング制御を終了し、制御部30による一連の処理を終了する。なお、サギング制御の実行時間Tが予め定めたサギング基準時間T2に到達していない場合(ステップ109でNO)、サギング制御を引き続き行う。
なお、サギング制御の終了後は、通常の定着動作を再開する。すなわち、ステップ101に戻り、温度情報取得部301により取得される定着ベルト61の温度情報に基いて、電力算出部302が電力を算出し、算出された電力を電力供給部303によりIHヒータ80に供給する。
【0079】
図11は、上述した
図10に示した処理が行われる場合の、IHヒータ80への供給電力の変化、および定着ベルト61、感温磁性部材64、誘導部材66、サーモスタット73の温度変化の一例を示した図である。
定着動作の開始が指示されると、定着ベルト61の温度を定着温度である目標温度a1に到達させるために、温度情報取得部301にて取得された定着ベルト61の温度情報に基いて、電力算出部302により電力h1が算出され、IHヒータ80に電力h1が供給される。
図11に示すように、IHヒータ80に対して電力h1が継続して供給されることで、感温磁性部材64の温度が上昇するとともに、サーモスタット73の温度も上昇する。
【0080】
続いて、定着ベルト61の温度が目標温度a1に到達しないまま電力h1が予め定められた供給基準時間t1継続して供給されると、サギング制御部305によりサギング制御が実行される。なお、この例では、電力h1として1150Wの電力が、供給基準時間t1として40秒間、継続して供給された場合に、サギング制御が行われるようになっている。
【0081】
本実施の形態では、サギング制御部305が実行するサギング制御として、まず、定着装置60での定着動作を一時的に停止する制御が行われる。また、定着動作を停止するのに伴い、
図11に示すように、定着ベルト61の目標温度を、定着動作を行う際の目標温度a1(定着可能温度)よりも低い目標温度a2に低下させる制御が行われる。
これにより、定着ベルト61の温度が目標温度a2よりも高い状態となるため、定着ベルト61の温度に基づいて電力算出部302により算出される電力は、電力h1よりも低い電力となる。
この結果、IHヒータ80に供給される電力が下がることで感温磁性部材64の発熱が抑制され、
図11に示すように、感温磁性部材64およびサーモスタット73の温度が低下するようになる。
【0082】
続いて、予め定めたサギング基準時間T2、上述のサギング制御を行った後、サギング制御を終了し、定着動作を再開する。また、定着動作を再開するのに伴い、
図11に示すように、定着ベルト61の目標温度を目標温度a2から目標温度a1に変更する。
ここで、
図11に示す例では、定着ベルト61の温度は、目標温度a1の近くまで上昇しているものの、定着装置60を構成する各部材が加熱されておらず温度が低い状態である。このため、定着ベルト61の温度を目標温度a1に維持するために電力算出部302により電力h1が算出され、IHヒータ80に供給される。
【0083】
そして、
図11に示すように、IHヒータ80に対して電力h1が継続して供給されることで、感温磁性部材64の温度が上昇するとともに、サーモスタット73の温度も上昇する。
続いて、電力h1が予め定められた供給基準時間t1継続して供給されると、再びサギング制御部305によりサギング制御が実行される。すなわち、定着動作を一時的に停止し、定着ベルト61の目標温度を目標温度a1から目標温度a2に低下させる制御が行われる。これにより、電力算出部302により算出される電力が、電力h1よりも低い電力となり、感温磁性部材64およびサーモスタット73の温度が低下する。
【0084】
続いて、予め定めたサギング基準時間T2、上述のサギング制御を行った後、サギング制御を終了し、定着動作を再開する。また、定着動作を再開するのに伴い、
図11に示すように、定着ベルト61の目標温度を目標温度a2から目標温度a1に変更する。
ここで、
図11に示す例では、定着ベルト61の温度は、定着動作の再開後に目標温度a1に到達しており、また定着装置60を構成する各部材が加熱され温度が上昇した状態となっている。
【0085】
このため、定着ベルト61を目標温度a1に維持するために、電力h1よりも低い電力が電力算出部302により算出され、IHヒータ80に供給されるようになる。この場合、IHヒータ80に電力h1が継続して供給されることがないため、感温磁性部材64およびサーモスタット73の過剰昇温は起こりにくい。
【0086】
以上説明したように、本実施の形態では、予め定めた電力h1が予め定めた供給基準時間t1継続して供給された場合に、サギング制御を行い、IHヒータ80に供給される電力を低下させている。
これにより、IHヒータ80に対して大きな電力(電力h1)が継続して長期間、供給されることが抑制される。この結果、IHヒータ80により生成される磁力線により感温磁性部材64の過剰昇温が抑制されるとともに、サーモスタット73の過剰昇温が抑制される。具体的には、感温磁性部材64の温度が、予め定めた目標値au(例えば、感温磁性部材64の透磁率変化開始温度)に到達することが抑制される。
そして、感温磁性部材64およびサーモスタット73の過剰昇温が抑制されることで、定着ベルト61が効果的に加熱されるようになり、またサーモスタット73によりIHヒータ80への電力の供給が遮断される事態の発生が抑制される。
【0087】
ここで、電力h1を連続して供給する際の供給時間の上限である供給基準時間t1は、電力h1がIHヒータ80に連続して供給された場合に感温磁性部材64の温度が予め定められた温度(例えば感温磁性部材64の透磁率変化開始温度)を超えないように、設定される。
また、サギング制御を行うサギング基準時間T2としては、IHヒータ80に電力h1が供給基準時間t1供給された場合に上昇した感温磁性部材64の温度を、例えば定着ベルト61の温度より約20℃高い温度に下げるために必要な時間が設定される。
なお、供給基準時間t1やサギング基準時間T2は、画像形成装置1に設定される画像形成モードや定着動作が開始されてからの経過時間等に応じて可変としてもよい。
【0088】
ここで、上述した例では、サギング制御として、定着動作を一時的に停止させるものとしたが、サギング制御では、定着動作の生産性(ニップ部Nへの用紙の搬送頻度)を低下させる制御を行ってもよい。そして、この場合にも定着動作を一時的に停止させる場合と同様に、定着ベルト61の目標温度を下げ、IHヒータ80に供給する電力を電力h1よりも低い電力に下げる制御を行う。
【0089】
また、上述した例では、制御部30がサギング制御を行うための基準として、電力h1が供給される供給時間tを計測したが、これに限られるものではない。例えば、電力h1が供給されている間の記録材の搬送枚数や定着ベルト61の回転数等が予め定めた値に達した場合に、IHヒータ80に供給された電力量が予め定めた値に達したものとしてサギング制御を行ってもよい。
さらに、上述した例では、電力h1が予め定めた供給基準時間t1、継続して供給された場合にサギング制御を行うものとしたが、例えば電力h1が断続的に供給された場合にもサギング制御を行ってもよい。すなわち、例えば、予め定めた期間内にIHヒータ80に供給された電力の累計が予め定めた値を超えた場合に、IHヒータ80に供給された電力量が予め定めた値に達したものとしてサギング制御を行うようにしてもよい。
さらにまた、定着装置60に、感温磁性部材64の温度を検知する温度検知センサが設けられている場合には、例えば感温磁性部材64の温度が予め定めた温度以上になった場合に、IHヒータ80に供給された電力量が予め定めた値に達したものとしてサギング制御を行ってもよい。
【0090】
また、本実施の形態では、画像形成装置1全体の制御を行う制御部30がサギング制御を行うものとしたが、例えば画像形成装置1が、定着装置60の制御を行う定着制御部を制御部30とは別に備えている場合、定着制御部が上述したサギング制御を行うものとしてもよい。
【0091】
<UIにおける表示について>
上述したように、サギング制御中は、定着装置60での定着動作が一時的に停止され、または定着動作の生産性を一時的に低下させる制御を行うため、画像形成装置1の使用者は、画像形成が完了するまでに少々待たされることになる。この場合、画像形成装置1にてサギング制御を行っている旨をUI34(
図1参照)において表示することで、使用者に知らせるようにしてもよい。具体的には、例えば「少々お待ち下さい」等のメッセージをUI34に表示してもよい。
【0092】
また、上述したように、IHヒータ80に電力h1が長期間継続して供給され、電力h1の供給時間tが供給基準時間t1に到達するのは、画像形成モードが普通紙モードに設定されている場合に厚紙を通紙している場合等、画像形成装置1において不具合が生じている場合が多い。
したがって、制御部30は、電力h1の供給時間tが供給基準時間t1に到達しサギング制御を実行する際に、併せて、UI34にて画像形成装置1に不具合が生じている旨の警告を表示してもよい。具体的には、サギング制御を実行する際に、UI34にて、画像形成モードが誤って設定されている旨の警告や用紙保持部40(
図1参照)にセットする用紙の種類が誤っている旨の警告を表示してもよい。
【0093】
〔定着装置の第2の構成例の説明〕
なお、本実施の形態が適用される定着装置は、
図3および
図5(a)〜
図5(b)に示した構成(以下、第1の構成例とよぶ)に限られるものではない。
図12は、本実施の形態の定着装置の第2の構成例を示した図であり、
図13は第2の構成例の定着装置に用いられる内部加熱ユニットを示した図である。なお、以下の説明において、
図3、
図5(a)〜
図5(b)に示した第1の構成例の定着装置60と同様の構成については同様の符号を用い、ここではその詳細な説明を省略する。
図12および
図13に示した第2の構成例の定着装置60は、第1の構成例の定着装置60と異なり、誘導部材66を有していない。また、定着ベルト61と感温磁性部材64とが接触せず、予め定められた距離を介して離間している点で異なる。さらに、第2の構成例の定着装置60は、誘導部材66がないため、感温磁性部材64と誘導部材66とが相互に接触することがない。これにより、特に定着装置60の立ち上げ等の際に、感温磁性部材64から発生した熱が誘導部材66に流入し、熱が奪われることが抑制される。このため、定着ベルト61が目標温度(定着設定温度)に達するまでの時間(ウォームアップタイム)を、例えば第1の構成例の定着装置60と比べて短縮できるという特徴を有する。
【0094】
また、感温磁性部材64には、
図13に示すように、厚さ方向に貫通する孔645が形成され、サーモスタット73が、孔645を介して定着ベルト61の内周面に対向するようになっている。
【0095】
さらに、感温磁性部材64には、
図13に示すように、磁力線H(
図6(a)〜
図6(b)参照)によって発生する渦電流Iの流れを分断する複数のスリット64sが形成される。本構成の定着装置60では、感温磁性部材64に発生した渦電流Iの流れを複数のスリット64sにより分断することで、渦電流Iを減少させて、感温磁性部材64に発生するジュール熱Wを低く抑えている。
具体的に説明すると、感温磁性部材64にスリット64sを形成することにより、スリット64sがない場合には感温磁性部材64の長手方向の全体に亘って大きな渦となって流れる渦電流Iが、スリット64sにより分断される。これにより、スリット64sを形成した場合には、感温磁性部材64内を流れる渦電流Iは、スリット64sとスリット64sとの間の領域内での小さな渦となり、全体としての渦電流Iの電流量は低減される。
【0096】
しかしながら、上述したように感温磁性部材64にスリット64sを設けた場合であっても、感温磁性部材64に発生するジュール熱Wを0にすることは困難である。このため、本構成の定着装置60においても、例えばIHヒータ80(励磁コイル82)に大きな電力(電力h1)を長期間継続して供給したような場合には、上述した第1の構成例と同様に、感温磁性部材64の温度が上昇するおそれがある。そして、感温磁性部材64の温度が上昇して透磁率変化開始温度を超えた場合には、定着ベルト61の加熱が抑制されたり、サーモスタット73が直接、誘導加熱されてIHヒータ80への電力の供給が遮断されたりする場合がある。
【0097】
これに対し、本実施の形態では、第1の構成例と同様に、IHヒータ80に供給される電力量が予め定めた値を超えた場合にサギング制御を行い、IHヒータ80に供給される電力を低下させている。これにより、感温磁性部材64およびサーモスタット73の昇温が抑制される。
そして、感温磁性部材64およびサーモスタット73の昇温が抑制されることで、定着ベルト61が効果的に加熱されるようになり、またサーモスタット73によりIHヒータ80への電力の供給が遮断される事態の発生が抑制される。