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特開2015-228431RFeB系磁石及びRFeB系磁石の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-228431(P2015-228431A)
(43)【公開日】2015年12月17日
(54)【発明の名称】RFeB系磁石及びRFeB系磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20151120BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20151120BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20151120BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20151120BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20151120BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20151120BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20151120BHJP
   C22C 28/00 20060101ALN20151120BHJP
【FI】
   H01F1/04 H
   H01F41/02 G
   H01F1/08 B
   B22F3/24 K
   B22F3/00 F
   C22C33/02 K
   B22F3/24 102Z
   C22C38/00 303D
   C22C28/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-113868(P2014-113868)
(22)【出願日】2014年6月2日
(71)【出願人】
【識別番号】591044544
【氏名又は名称】インターメタリックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 徹彦
(72)【発明者】
【氏名】佐川 眞人
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018CA04
4K018CA44
4K018DA21
4K018FA11
4K018KA45
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB11
5E040NN01
5E040NN17
5E062CC03
5E062CD04
5E062CG02
5E062CG07
(57)【要約】
【課題】厚みが比較的大きい場合であっても、1個の磁石の全体に亘って均一で且つ高い保磁力を有するRFeB系焼結磁石を提供する。
【解決手段】Nd及びPrのうちの少なくとも1種である軽希土類元素RL,Fe及びBを含有するRFeB系磁石の焼結体から成る基材の粒界を通して該基材内に、Dy, Tb及びHoのうちの少なくとも1種の希土類元素である重希土類元素RHが拡散したRFeB系焼結磁石であって、前記RFeB系焼結磁石の最小寸法部における寸法が3mmよりも大きく、該RFeB系焼結磁石が含有する重希土類元素RHの量を該RFeB系焼結磁石の体積で除した値が25mg/cm3以上であり、前記最小寸法部の表面における局所保磁力と、前記最小寸法部の中央における局所保磁力の差が、該表面における局所保磁力の15%以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nd及びPrのうちの少なくとも1種である軽希土類元素RL,Fe及びBを含有するRFeB系磁石の焼結体から成る基材の粒界を通して該基材内に、Dy, Tb及びHoのうちの少なくとも1種の希土類元素である重希土類元素RHが拡散したRFeB系焼結磁石であって、
前記RFeB系焼結磁石の最小寸法部における寸法が3mmよりも大きく、
該RFeB系焼結磁石が含有する重希土類元素RHの量を該RFeB系焼結磁石の体積で除した値が25mg/cm3以上であり、
前記最小寸法部の表面における局所保磁力と、前記最小寸法部の中央における局所保磁力の差が、該表面における局所保磁力の15%以下である
ことを特徴とするRFeB系焼結磁石。
【請求項2】
炭素の含有量が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のRFeB系焼結磁石。
【請求項3】
a) Nd及びPrのうちの少なくとも1種である軽希土類元素RL、Fe及びBを含有するRFeB系磁石の焼結体から成り、該焼結体の最小寸法部における寸法が3mmよりも大きい基材を作製する基材作製工程と、
b) 前記基材の表面に、Dy, Tb及びHoのうちの少なくとも1種の希土類元素である重希土類元素RHを含有する付着物を付着させたうえで、所定温度に加熱する粒界拡散処理を行う工程であって、前記付着物が含有する重希土類元素RHの量が、該粒界拡散処理後にRFeB系焼結磁石が含有する重希土類元素RHの量をRFeB系焼結磁石の体積で除した値が25mg/cm3以上となる量である粒界拡散工程と
を有することを特徴とするRFeB系焼結磁石製造方法。
【請求項4】
前記基材における炭素の含有量が1000ppm以下であることを特徴とする請求項3に記載のRFeB系焼結磁石製造方法。
【請求項5】
前記基材を、原料である軽希土類元素RL、Fe及びBを含有する合金粉末をモールドに充填し、該合金粉末に成形のための機械的圧力を印加することなく磁界を印加することで該合金粉末を配向し、該合金粉末を該モールドに収容したまま、成形のための機械的圧力を印加することなく加熱することで焼結することにより作製することを特徴とする請求項3又は4に記載のRFeB系焼結磁石製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R(希土類元素)、Fe及びBを含有するRFeB系磁石及びその製造方法に関する。本発明は特に、Nd及びPrのうちの少なくとも1種(以下、Nd及びPrのうちの少なくとも1種を「軽希土類元素RL」と呼ぶ)を主たる希土類元素Rとして含有する主相粒子の表面付近に、該主相粒子の粒界を通して、Dy, Tb及びHoのうちの少なくとも1種の希土類元素(以下、Dy, Tb及びHoのうちの少なくとも1種を「重希土類元素RH」と呼ぶ)を拡散させる粒界拡散処理が施されたRFeB系磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RFeB系焼結磁石は、RFeB系合金の粉末を配向させ、焼結させることにより製造される永久磁石である。このRFeB系焼結磁石は、1982年に佐川らによって見出されたものであるが、それまでの永久磁石をはるかに凌駕する高い磁気特性を有し、希土類、鉄及び硼素という比較的豊富で廉価な原料から製造することができるという特長を有する。
【0003】
RFeB系焼結磁石は、ハイブリッド自動車や電気自動車のモータ用の永久磁石など、今後ますます需要が拡大することが予想されている。しかしながら、自動車は過酷な負荷の下での使用を想定しなければならず、そのモータについても高い温度環境(例えば180℃)下での動作を保証しなければならない。そのため、温度の上昇による磁化(磁力)の減少を抑えることができる、高い保磁力Hcjを有するRFeB系焼結磁石が求められている。RFeB系焼結磁石では、重希土類元素RHの含有量が多いほど、保磁力Hcjは高くなることが知られている。しかし、重希土類元素RHは、その含有量が多いほどRFeB系焼結磁石の残留磁束密度Brが低くなると共に最大エネルギー積(BH)maxも低くなるうえに、高価且つ希少であるため、使用量ができるだけ少ない方が望ましい。
【0004】
保磁力Hcjは、磁化の向きとは逆向きの磁界が磁石に印加されたときに磁化が反転することに耐える力である。重希土類元素RHは、この磁化反転を妨げることにより、保磁力Hcjを増大させる効果を持つと考えられている。磁石における磁化反転現象を詳しく見ると、磁化の反転は最初に主相粒子の粒界付近で発生し、そこから主相粒子の内部に拡がってゆくという特性を有する。従って、最初に粒界における磁化の反転を防ぐことが磁石全体における磁化反転の防止に効果的であることから、重希土類元素RHは、その使用量をできるだけ少なくするために、RFeB系焼結磁石の主相粒子の表面付近(粒界の近傍)に偏在させる(主相粒子の内部において少なく、表面付近において多く存在させる)ことが望ましい。
【0005】
特許文献1には、希土類元素RとしてNdを用いたNdFeB系磁石の焼結体から成る基材の表面に、重希土類元素RHが構成元素の1つである合金の粉末を含む付着物を付着させ、所定の温度に加熱することにより、重希土類元素RHを、基材の粒界を通して基材内に拡散させる粒界拡散処理を行うことが記載されている。その際、基材の粒界には主相粒子よりも希土類(Nd)の含有率が高い希土類リッチ相が存在し、その希土類リッチ相が粒界拡散処理の際の加熱によって溶融することにより、重希土類元素RHが基材内に拡散し易くなる。粒界拡散処理により、重希土類元素RHをRFeB系焼結磁石の主相粒子の表面付近に偏在させることができるため、残留磁束密度Br及び最大エネルギー積(BH)maxの低下が抑えられつつ、保磁力Hcjが高いRFeB系焼結磁石が得られる。
【0006】
また、特許文献1では、基材中に不純物として存在する炭素の量が少ない方がよいとされている。これは、基材中において炭素が粒界(特に、3個以上の主相粒子に囲まれた粒界三重点)中に偏在し、それによって粒界拡散処理の際の加熱時に粒界が溶融し難くなることから、基材中の炭素量が少ないほど重希土類元素RHが基材内に拡散し易くなるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2013/100010号
【特許文献2】特開2006-019521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者が従来の粒界拡散処理の方法を用いて作製されたRFeB系焼結磁石を詳細に調べた結果、1個の磁石の保磁力は、その磁石中において均一なものではなく、局所的に高い部分と低い部分が存在することが分かった。詳しくは、従来の粒界拡散処理の方法を用いて作製されたRFeB系焼結磁石では、最小寸法部、すなわち基材の差し渡し寸法が最小である部分における該寸法(すなわち、該RFeB系焼結磁石の厚み)が3mm以下という比較的小さい場合には重希土類元素RHが粒界及び主相粒子の表面全体に十分に行き渡るため保磁力がほぼ均一であるのに対して、最小寸法部の寸法が3mmを超えると、重希土類元素RHが最小寸法部の中央付近の粒界及び主相粒子表面にまでは十分に行き渡らないため、保磁力が不均一になることを見いだした。このように局所的に保磁力が低い部分が存在すると、RFeB系焼結磁石の使用時に、当該部分において逆向きの磁界に耐えることができずに磁化反転が生じてしまい、その結果としてRFeB系焼結磁石全体での平均の磁化が低下してしまう。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、厚みが比較的大きい場合であっても、1個の磁石の全体に亘って均一で且つ高い保磁力を有するRFeB系焼結磁石、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るRFeB系焼結磁石は、Nd及びPrのうちの少なくとも1種である軽希土類元素RL,Fe及びBを含有するRFeB系磁石の焼結体から成る基材の粒界を通して該基材内に、Dy, Tb及びHoのうちの少なくとも1種の希土類元素である重希土類元素RHが拡散したRFeB系焼結磁石であって、
前記RFeB系焼結磁石の最小寸法部における寸法が3mmよりも大きく、
該RFeB系焼結磁石が含有する重希土類元素RHの量を該RFeB系焼結磁石の体積で除した値が25mg/cm3以上であり、
前記最小寸法部の表面における局所保磁力と、前記最小寸法部の中央における局所保磁力の差が、該表面における局所保磁力の15%以下である
ことを特徴とする。
【0011】
本発明において「局所保磁力」とは、RFeB系焼結磁石内における単位体積あたりの保磁力をいう。
【0012】
本発明に係るRFeB系焼結磁石では、粒界拡散処理を用いて作製されたRFeB系焼結磁石が含有する重希土類元素RHの量をRFeB系焼結磁石の体積で除した値を25mg/cm3以上とする。これにより、RFeB系焼結磁石の粒界及び主相粒子表面の全体にRHを行き亘らせることができる。そのため、局所保磁力はRFeB系焼結磁石内のどの位置においても表面における値との差が15%以下となり、RFeB系焼結磁石全体に亘って均一に近くなる。
【0013】
なお、本発明に係るRFeB系焼結磁石を作製する際に、基材内に重希土類元素RHを拡散させる処理を行うために従来と同様に重希土類元素RHを含有する付着物を用いることができるが、通常、当該処理後の付着物は除去される。従って、前記寸法及び体積、並びに該RFeB系焼結磁石が含有する重希土類元素RHの量は、いずれも、該付着物の部分を含まない、RFeB系焼結磁石のみについての値である。
【0014】
本発明に係るRFeB系焼結磁石製造方法は、
a) Nd及びPrのうちの少なくとも1種である軽希土類元素RL、Fe及びBを含有するRFeB系磁石の焼結体から成り、該焼結体の最小寸法部における寸法が3mmよりも大きい基材を作製する基材作製工程と、
b) 前記基材の表面に、Dy, Tb及びHoのうちの少なくとも1種の希土類元素である重希土類元素RHを含有する付着物を付着させたうえで、所定温度に加熱する粒界拡散処理を行う工程であって、前記付着物が含有する重希土類元素RHの量が、該粒界拡散処理後にRFeB系焼結磁石が含有する重希土類元素RHの量をRFeB系焼結磁石の体積で除した値が25mg/cm3以上となる量である粒界拡散工程と
を有することを特徴とする。この方法により、本発明に係るRFeB系焼結磁石を製造することができる。
【0015】
前記付着物が含有する重希土類元素RHの量は、当業者が簡単な予備実験を行うことにより、定めることができる。また、付着物中の重希土類元素RHが全てRFeB系焼結磁石内に拡散する場合には、当該付着物が含有する重希土類元素RHの量をRFeB系焼結磁石(あるいは基材)の体積で除した値が25mg/cm3以上となるようにすればよい。
【0016】
本発明に係るRFeB系焼結磁石製造方法において、前記基材における炭素の含有量は1000ppm以下であることが望ましい。これにより、粒界拡散工程において重希土類元素RHがRFeB系焼結磁石の粒界及び主相粒子の表面に拡散する際に、炭素が阻害することを防止することができる。なお、粒界拡散処理は焼結時よりも低い温度、且つ真空中又は不活性ガス中で行うため、粒界拡散処理の後の炭素含有量は粒界拡散処理の前とほとんど変わらない。このことは、実験によっても確認されている。すなわち、炭素の含有量が1000ppm以下である基材から作製されたRFeB系焼結磁石においても、炭素の含有量は1000ppm以下となる。
【0017】
本発明に係るRFeB系焼結磁石製造方法において、前記基材は、原料である軽希土類元素RL、Fe及びBを含有する合金粉末をモールドに充填し、該合金粉末に成形のための機械的圧力を印加することなく磁界を印加することで該合金粉末を配向し、該合金粉末を該モールドに収容したまま、成形のための機械的圧力を印加することなく加熱することで焼結することにより作製することが望ましい(特許文献2参照)。このように成形のための機械的圧力を印加することなくRFeB系焼結磁石を作製する方法を「PLP(Press-Less Process)法」と呼ぶ。PLP法ではプレス機を使用する必要が無いため、プレス法よりも設備を小型化することができ、設備全体を無酸素雰囲気中に配置することが容易である。従って、プレス法よりも、焼結磁石の製造中に合金粉末の粒子が酸化し難くなるため、平均粒径を小さく(合金粉末全体での粒子の表面積の合計を大きく)することができる。このように合金粉末の平均粒径を小さくすると、製造される焼結磁石内の微結晶の平均粒径も小さくなるため、外部磁界が印加されたときに磁化が反転した磁区が形成され難くなり、保磁力が一層向上する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、全体に亘って均一で且つ高い保磁力を有するRFeB系焼結磁石を得ることができる。そのため、RFeB系焼結磁石の使用時に局所的に磁化反転が生じることを防止し、それにより磁化が低下することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るRFeB系焼結磁石の製造方法の一実施形態を示す概略図。
図2】RFeB系焼結磁石の基材の例を示す斜視図(a)、及び別の例の縦断面図(b)。
図3】RFeB系焼結磁石における局所保磁力を測定するために、RFeB系焼結磁石片を切り出す方法を説明する図。
図4】実施例及び比較例のRFeB系焼結磁石における局所保磁力(各RFeB系焼結磁石片の保磁力)を測定した結果を示すグラフ。
図5】実施例及び比較例のRFeB系焼結磁石における、全体の保磁力、表面における局所保磁力、及び全体における局所保磁力の平均値の関係を示すグラフ。
図6】塗布物(ペースト)の塗布量が異なる実施例及び比較例のRFeB系焼結磁石における全体の保磁力を測定した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るRFeB系焼結磁石及びその製造方法の実施形態を、図1図6を用いて説明する。
【0021】
まず、図1を用いて、RFeB系焼結磁石の製造方法の実施例を説明する。本実施例の方法は、大きく分けると、基材作製工程11と粒界拡散工程12の2つの工程を有する。
【0022】
基材作製工程11では、原料の合金粉末に機械的圧力を加えることによって合金粉末の成形体を作製する工程を含む、いわゆるプレス法を用いてもよいが、より高い保磁力を得るために、PLP法を用いることが望ましい。以下では、PLP法により基材を作製する例を説明する。
【0023】
PLP法による基材作製工程11は、合金粉末作製工程111、充填工程112、配向工程113、焼結工程114に細分される(図1)。
【0024】
合金粉末作製工程111では、軽希土類元素RL、Fe及びBを含有する合金塊を粉砕することにより、RFeB系焼結磁石の原料である合金粉末を作製する。ここで、合金塊には、ストリップキャスト(SC)法により作製されたもの(「SC合金塊」と呼ぶ)を用いることが望ましい。SC合金塊は、原料の溶湯を回転ドラム上に注いで急冷することにより作製されるものであり、この作製方法によって塊内に板状の希土類リッチ相が形成される。このSC合金塊を粉砕することにより、主相の粉末粒子の表面に希土類リッチ相の微粉が付着した合金粉末が得られる。粉砕は、例えば以下の2段階の工程で行うことができる。1段階目では、SC合金塊を水素ガス雰囲気に晒すことで水素分子をSC合金塊に吸蔵させることにより、SC合金塊を脆化させる水素解砕による粗粉砕を行い、2段階目では、該粗粉砕により得られる粗粉をジェットミルで粉砕する微粉砕を行う。なお、一般的には、水素解砕後に、粗粉中の水素を除去するために500℃程度に加熱する(脱水素加熱)が、後述の理由により、脱水素加熱は行わずに焼結工程における加熱によって水素を除去することが望ましい。
【0025】
合金粉末作製工程111において得られた合金粉末を、充填工程112においてモールドに充填する。そして、配向工程113において、モールド内の合金粉末に磁界を印加することにより、合金粉末の粒子を1方向に配向する。その際、合金粉末には、成形のための機械的圧力は印加しない。
【0026】
その後、合金粉末に成形のための機械的圧力を印加することなく、モールド内に合金粉末を収容したままで、焼結温度(例えば900〜1100℃の範囲内の温度)に加熱することにより、基材が得られる。この加熱による昇温の際に、合金粉末中に不純物として存在する炭素と、水素解砕後に除去されることなく残留する水素が反応してCH4ガスとなることにより、炭素及び水素の双方が除去される。特許文献1においても、このように不純物である炭素を除去する手法が取られており、基材に残留する炭素濃度を1000ppm以下に抑えることができるとされている。
【0027】
こうして得られる基材は、モールド内の合金粉末が焼結時にそのまま収縮することにより、モールド内の空間形状に対応する形状となる。焼結時の収縮率はモールド内に充填された合金粉末の体積充填率にも依存するが、例えば体積充填率が50%程度の場合には、配向工程において磁界を印加した方向では約35%、それに直交する方向では約15%となる。これらの収縮率を考慮してモールド内の空間の寸法を定めることにより、最小寸法部の寸法(厚み)が3mm以上である基材を得ることができる。
【0028】
粒界拡散工程12は、重希土類元素含有塗布物作製工程121、塗布工程122、塗布済基材加熱工程123に細分される(図1)。このうち重希土類元素含有塗布物作製工程121は、基材作製工程11と並行して、又は基材作製工程11よりも前に実施してもよい。
【0029】
重希土類元素含有塗布物作製工程121では、重希土類元素RHを含有する塗布物を作製する。塗布物には、基材との接触性が良好であり、基材の表面に多量の塗布物を塗布しても該表面から離脱し難いという点において、重希土類元素RHを含有する粉末と有機物のペーストを混合することにより重希土類元素含有塗布物を作製することが望ましい。また、このようにペースト状の塗布物が基材と良好な接触性を有することにより、塗布済基材加熱工程123において塗布物内の重希土類元素RHが基材内に拡散しやすいという利点もある。重希土類元素RHを含有する粉末には、重希土類元素RHの単体金属の粉末、重希土類元素RHを含有する合金又は金属間化合物、あるいはそれらと他の金属の粉末を混合したもの等を用いることができる。
【0030】
塗布工程122では、上記のように作製した塗布物を基材の表面に塗布する。その際、塗布物の塗布量は、粒界拡散処理後にRFeB系焼結磁石が含有する重希土類元素RHの量を該RFeB系焼結磁石の体積で除した値が25mg/cm3以上となるように、予備実験により定めておく。粒界拡散処理によって塗布物内の付着物重希土類元素RHの全量がRFeB系焼結磁石内に拡散する場合には、塗布物内の重希土類元素RHの量が、RFeB系焼結磁石の体積で除した値が25mg/cm3以上となるようにする。この場合、粒界拡散処理後のRFeB系焼結磁石の体積は通常、基材の体積から変化しないため、RFeB系焼結磁石の体積の代わりに基材の体積で規定してもよい。
【0031】
そして、塗布済基材加熱工程123では、塗布物を塗布した基材を真空中又は不活性ガス中で所定の温度(例えば700〜950℃)に加熱することにより、重希土類元素RHを粒界内に拡散させる。その後、基材の表面に残留した塗布物(付着物)を除去する。
【0032】
以上の製造方法により、本発明に係るRFeB系焼結磁石を作製することができる。
【実施例】
【0033】
次に、実際に作製した本発明に係るRFeB系焼結磁石の例、及び作製したRFeB系焼結磁石に対する実験結果を説明する。
【0034】
本実施例では、基材の材料にはSC合金塊を用いた。このSC合金塊は、Nd:25.9質量%、Pr:4.11質量%、B:0.96質量%、Co:0.89質量%、Cu:0.10質量%、Al:0.27質量%、Fe:残部、という組成を有し、重希土類元素RHを含有していない。合金粉末作製工程111では、このSC合金塊を、水素解砕による粗粉砕及びジェットミルによる粗粉砕によって、レーザ法で測定される粒径の中央値が3μmとなるように粉砕することにより、合金粉末を作製した。なお、粗粉砕の後、焼結工程までの間に、脱水素加熱は行っていない。
【0035】
得られた合金粉末を、充填工程112において、直方体の内部空間を有し、5mm以上の異なる厚みを有する複数のモールドにそれぞれ充填した。そして、各モールドについて合金粉末を、配向工程113において5T以上のパルス磁界で配向した後、焼結工程114において980℃で焼結した。これにより、厚みtがそれぞれ3mm、6mm、8mm及び10mmである複数種の直方体の基材20(図2(a))を作製した。本実施例では上記のように脱水素加熱を行うことなく焼結工程を行ったため、基材内の炭素含有量が1000ppm以下に抑えられる。作製した基材の炭素含有量を測定したところ、400ppmであった。なお、基材中の炭素量を低下させる手段は、添加剤の種類及び/又は添加量を変更する、焼結条件を変更する等の工程変更等によるものであってもよい。
【0036】
基材20は直方体であるため、面間距離が最も小さい1組の対面21の面上の任意の位置で最小寸法部22が規定される。なお、図2(b)に示すように、曲面の表面21Aを有する基材20Aでは、特定の位置で最小寸法部22Aが規定される。なお、ここでは最小寸法部について基材を対象として説明したが、最終製品であるRFeB系焼結磁石においても同様に最小寸法部を規定することができる。
【0037】
粒界拡散工程12では、重希土類元素含有塗布物作製工程121において、Tb:92.0質量%、Ni:4.3質量%、Al:3.7質量%、という組成を有するTb(RH)含有合金の粉末とシリコーングリースを、質量比4:1で混合したペースト(塗布物)を作製した。そして、塗布工程122においてこの塗布物を、対面21(2面)にそれぞれ、単位面積(1cm2)あたり14mg塗布した。そして、塗布済基材加熱工程123において、900℃で10時間加熱した後、温度を500℃に下げて1.5時間維持した。これにより、本実施例及び比較例のRFeB系焼結磁石をそれぞれ作製した。本実施例と比較例の相違は、次に述べる。
【0038】
各基材の厚みtをdmm=(0.1d)cmとすると、基材の単位体積(1cm3)あたりの重希土類元素RHの量は、14mg/cm2×2×0.8(塗布物中の合金の質量比)×0.92(合金中のTbの質量比)/((0.1d)cm)=(206.08/d)mg/cm3となる。従って、各基材の厚みtと、単位体積あたりの重希土類元素RHの量は表1の通りである。
【表1】
【0039】
表1において、比較例1は基材が薄く、それによって従来から重希土類元素RHを基材内の全体に行き渡らせることができていたものである。比較例2は、RFeB系焼結磁石が含有する単位体積あたりの重希土類元素RHの量が本発明の範囲よりも小さいものである。
【0040】
得られた各試料に対して、RFeB系焼結磁石の全体の保磁力Hcj及び残留磁束密度Brを、日本電磁測器株式会社製PBH-1000型装置を用いて測定した結果を表2に示す。また、表2の括弧内には、各試料で用いた基材における保磁力Hcj及び残留磁束密度Brを合わせて示す。
【表2】
【0041】
RFeB系焼結磁石の全体の保磁力は、単位体積あたりの重希土類元素RHの量が少なくなるほど小さくなるものの、いずれも20kOeを超えるという十分に高い値が得られた。また、残留磁束密度は、いずれの試料においても基材の値との差が0.09〜0.24kG(2%未満)であり、重希土類元素RHの存在による残留磁束密度の低下がほとんど生じていないことがわかる。以上のように、RFeB系焼結磁石の全体では、実施例、比較例を問わず、十分な磁気特性が得られている。
【0042】
これら実施例及び比較例のRFeB系焼結磁石につき、以下の方法により、局所保磁力を測定した。まず、RFeB系焼結磁石31から、最小寸法部の表面に垂直な面を切断面として、幅が1mmとなるように2枚のRFeB系焼結磁石薄板321及び322を切り出す(図3(a))。次に、第1のRFeB系焼結磁石薄板321から、RFeB系焼結磁石31の最小寸法部の一方の表面から1mmまで、2mm〜3mmの範囲、4mm〜5mmの範囲(比較例1を除く)、6mm〜7mmの範囲(実施例2及び比較例2のみ)、及び8mm〜9mmの範囲(比較例2のみ)の各範囲内から、1辺1mmの立方体状のRFeB系焼結磁石片33を切り出す(図3(b))。一方、第2のRFeB系焼結磁石薄板322からは、前記一方の表面から1mm〜2mmの範囲、3mm〜4mmの範囲(比較例1を除く)、5mm〜6mmの範囲(比較例1を除く)、7mm〜8mmの範囲(実施例2及び比較例2のみ)、及び9mm〜10mmの範囲(比較例2のみ)の各範囲内から、1辺1mmの立方体状のRFeB系焼結磁石片33を切り出す(図3(b))。従って、2枚のRFeB系焼結磁石薄板321及び322において、RFeB系焼結磁石片33を切り出す各領域は、RFeB系焼結磁石31の厚み方向に1mm分だけ間を空けて設けられる。このように空けられた部分を刃物の厚みによる切り代とすることにより、各RFeB系焼結磁石片33に切り代が掛からないようにすることができる。また、2枚のRFeB系焼結磁石薄板321及び322同士ではRFeB系焼結磁石片33を切り出す各領域が厚み方向に1mmずつずらして設けられているため、厚み方向の全体に亘って1mmおきにRFeB系焼結磁石片33を得ることができる。
【0043】
こうして各実施例及び各比較例において得られた各RFeB系焼結磁石片33の保磁力を、株式会社玉川製作所製・高感度VSM(振動試料型磁力計)を用いて測定した結果を図4のグラフに示す。
【0044】
このグラフより、実施例1における各局所保磁力は、一方の表面から2〜3mmの位置では24.35kOe、3〜4mmの位置では24.36kOeとなった。これら2つの値から、最小寸法部の中央である、一方の表面から3mmの位置における局所保磁力は24.35kOeと見積もられる。一方、RFeB系焼結磁石の一方の表面側では25.37kOe、他方の表面側では25.42kOeである。従って、RFeB系焼結磁石の最小寸法部の表面における局所保磁力と中央における局所保磁力の差は、当該差が大きくなる方の表面と比較して0.07kOeである。この値から、この差は表面における局所保磁力の約0.3%となり、15%よりも十分に低くなる。なお、実施例1において最も低い局所保磁力は一方の表面から1〜2mm及び4〜5mmにおける25.13kOe、最も高い局所保磁力は前記他方の表面における25.42kOeである。最も高い局所保磁力と最も低い局所保磁力の差は、最も高い局所保磁力の((25.42-25.13)/25.42)×100=1.14…となり、約1.1%である。
【0045】
実施例1と同様の分析を実施例2で行うと以下の通りである。実施例2のRFeB系焼結磁石における最小寸法部の中央である、一方の表面から4mmの位置の前後2カ所における局所保磁力は22.08kOe(一方の表面から3〜4mmの位置)及び22.11kOe(4〜5mm)であり、一方の表面側では25.36kOe、他方の表面側では25.18kOeである。従って、RFeB系焼結磁石の最小寸法部の表面における局所保磁力と中央における局所保磁力の差は最大で(25.36-22.08)=3.28kOeとなる。この差は、表面における局所保磁力の(3.28/25.36)×100=12.93…、すなわち約12.9%である。
【0046】
それに対して比較例2では以下のようになる。比較例2のRFeB系焼結磁石における最小寸法部の中央である、一方の表面から5mmの位置の前後2カ所における局所保磁力は18.66kOe(一方の表面から4〜5mmの位置)及び18.46kOe(5〜6mm)であり、一方の表面側では22.20kOe、他方の表面側では22.78kOeである。従って、RFeB系焼結磁石の最小寸法部の表面における局所保磁力と中央における局所保磁力の差は最小でも(22.20-18.66)=3.54kOeとなる。この差は、表面における局所保磁力の(3.54/22.20)×100=15.94…、すなわち約15.9%である。従って、比較例2のRFeB系焼結磁石は、本発明の範囲に含まれない。
【0047】
なお、特許文献1では、本実施例と同じ組成を有するTbNiAl合金の粉末を、本実施例と同じ比率でシリコーングリースと混合したペーストを、厚みが6mm及び10mmである基材の対面(2面)にそれぞれ10mg/cm2塗布したうえで粒界拡散処理を行っている。この場合、ペーストに含まれる重希土類元素RHの量を基材の体積で除した値は、厚みが6mmの基材では24.5mg/cm3、厚みが10mmである基材では14.7mg/cm3となる。従って、特許文献1に記載のRFeB系焼結磁石及びその製造方法は、本発明の範囲には含まれない。
【0048】
実施例1及び2、並びに比較例1及び2の各試料につき、全体の保磁力、測定した全ての局所保磁力の平均値、及び試料表面の局所保磁力(2面の平均値)を図5のグラフに示す。このグラフより、実施例1及び2、並びに比較例1では、局所保磁力の平均値が全体の保磁力とほぼ同じ値を有するといえる。それに対して、基材の厚みが最も厚い比較例2の試料では、局所保磁力の平均値が全体の保磁力よりも低いことがわかる。この結果は、実施例1及び2(並びに他の例よりも基材が薄い比較例1)の方が比較例2よりも局所保磁力の均一性が高いことを意味している。
【0049】
次に、厚みが8mm及び10mmである基材に対して、上記実施例2及び比較例2よりもペーストの塗布量を多くした実験を行った(実施例3〜5)。それら実験の条件は表3の通りである。
【表3】
【0050】
実施例1〜5及び比較例2につき、RFeB系焼結磁石の全体の保磁力を測定した結果を図6のグラフに示す。最も厚い10mmの基材を用いた場合であっても、基材の単位体積あたりの重希土類元素RHの量が25mg/cm3を超えるようにペーストの塗布量を増加させること(実施例5)により、それよりも薄い基材を用いた場合と同程度に全体の保磁力を高めることができる。また、厚みが8mmの基材を用いた実施例2、3及び4を比較すると、ペーストの塗布量が増加するほど、全体の保磁力が高くなることがわかる。
【0051】
上記実施例では、重希土類元素RHとしてTbを用いた例を示したが、重希土類元素RHにはDyやHoを用いてもよいし、それら3種のうちの2種又は3種を混合して用いてもよい。
【符号の説明】
【0052】
11…基材作製工程
111…合金粉末作製工程
112…充填工程
113…配向工程
114…焼結工程
12…粒界拡散工程
121…重希土類元素含有塗布物作製工程
122…塗布工程
123…塗布済基材加熱工程
20、20A…基材
21、21A…面間距離が最も小さい対面
22、22A…最小寸法部
31…RFeB系焼結磁石
321、322…RFeB系焼結磁石薄板
33…RFeB系焼結磁石片
図1
図2
図3
図4
図5
図6