【実施例】
【0033】
次に、実際に作製した本発明に係るRFeB系焼結磁石の例、及び作製したRFeB系焼結磁石に対する実験結果を説明する。
【0034】
本実施例では、基材の材料にはSC合金塊を用いた。このSC合金塊は、Nd:25.9質量%、Pr:4.11質量%、B:0.96質量%、Co:0.89質量%、Cu:0.10質量%、Al:0.27質量%、Fe:残部、という組成を有し、重希土類元素R
Hを含有していない。合金粉末作製工程111では、このSC合金塊を、水素解砕による粗粉砕及びジェットミルによる粗粉砕によって、レーザ法で測定される粒径の中央値が3μmとなるように粉砕することにより、合金粉末を作製した。なお、粗粉砕の後、焼結工程までの間に、脱水素加熱は行っていない。
【0035】
得られた合金粉末を、充填工程112において、直方体の内部空間を有し、5mm以上の異なる厚みを有する複数のモールドにそれぞれ充填した。そして、各モールドについて合金粉末を、配向工程113において5T以上のパルス磁界で配向した後、焼結工程114において980℃で焼結した。これにより、厚みtがそれぞれ3mm、6mm、8mm及び10mmである複数種の直方体の基材20(
図2(a))を作製した。本実施例では上記のように脱水素加熱を行うことなく焼結工程を行ったため、基材内の炭素含有量が1000ppm以下に抑えられる。作製した基材の炭素含有量を測定したところ、400ppmであった。なお、基材中の炭素量を低下させる手段は、添加剤の種類及び/又は添加量を変更する、焼結条件を変更する等の工程変更等によるものであってもよい。
【0036】
基材20は直方体であるため、面間距離が最も小さい1組の対面21の面上の任意の位置で最小寸法部22が規定される。なお、
図2(b)に示すように、曲面の表面21Aを有する基材20Aでは、特定の位置で最小寸法部22Aが規定される。なお、ここでは最小寸法部について基材を対象として説明したが、最終製品であるRFeB系焼結磁石においても同様に最小寸法部を規定することができる。
【0037】
粒界拡散工程12では、重希土類元素含有塗布物作製工程121において、Tb:92.0質量%、Ni:4.3質量%、Al:3.7質量%、という組成を有するTb(R
H)含有合金の粉末とシリコーングリースを、質量比4:1で混合したペースト(塗布物)を作製した。そして、塗布工程122においてこの塗布物を、対面21(2面)にそれぞれ、単位面積(1cm
2)あたり14mg塗布した。そして、塗布済基材加熱工程123において、900℃で10時間加熱した後、温度を500℃に下げて1.5時間維持した。これにより、本実施例及び比較例のRFeB系焼結磁石をそれぞれ作製した。本実施例と比較例の相違は、次に述べる。
【0038】
各基材の厚みtをdmm=(0.1d)cmとすると、基材の単位体積(1cm
3)あたりの重希土類元素R
Hの量は、14mg/cm
2×2×0.8(塗布物中の合金の質量比)×0.92(合金中のTbの質量比)/((0.1d)cm)=(206.08/d)mg/cm
3となる。従って、各基材の厚みtと、単位体積あたりの重希土類元素R
Hの量は表1の通りである。
【表1】
【0039】
表1において、比較例1は基材が薄く、それによって従来から重希土類元素R
Hを基材内の全体に行き渡らせることができていたものである。比較例2は、RFeB系焼結磁石が含有する単位体積あたりの重希土類元素R
Hの量が本発明の範囲よりも小さいものである。
【0040】
得られた各試料に対して、RFeB系焼結磁石の全体の保磁力H
cj及び残留磁束密度B
rを、日本電磁測器株式会社製PBH-1000型装置を用いて測定した結果を表2に示す。また、表2の括弧内には、各試料で用いた基材における保磁力H
cj及び残留磁束密度B
rを合わせて示す。
【表2】
【0041】
RFeB系焼結磁石の全体の保磁力は、単位体積あたりの重希土類元素R
Hの量が少なくなるほど小さくなるものの、いずれも20kOeを超えるという十分に高い値が得られた。また、残留磁束密度は、いずれの試料においても基材の値との差が0.09〜0.24kG(2%未満)であり、重希土類元素R
Hの存在による残留磁束密度の低下がほとんど生じていないことがわかる。以上のように、RFeB系焼結磁石の全体では、実施例、比較例を問わず、十分な磁気特性が得られている。
【0042】
これら実施例及び比較例のRFeB系焼結磁石につき、以下の方法により、局所保磁力を測定した。まず、RFeB系焼結磁石31から、最小寸法部の表面に垂直な面を切断面として、幅が1mmとなるように2枚のRFeB系焼結磁石薄板321及び322を切り出す(
図3(a))。次に、第1のRFeB系焼結磁石薄板321から、RFeB系焼結磁石31の最小寸法部の一方の表面から1mmまで、2mm〜3mmの範囲、4mm〜5mmの範囲(比較例1を除く)、6mm〜7mmの範囲(実施例2及び比較例2のみ)、及び8mm〜9mmの範囲(比較例2のみ)の各範囲内から、1辺1mmの立方体状のRFeB系焼結磁石片33を切り出す(
図3(b))。一方、第2のRFeB系焼結磁石薄板322からは、前記一方の表面から1mm〜2mmの範囲、3mm〜4mmの範囲(比較例1を除く)、5mm〜6mmの範囲(比較例1を除く)、7mm〜8mmの範囲(実施例2及び比較例2のみ)、及び9mm〜10mmの範囲(比較例2のみ)の各範囲内から、1辺1mmの立方体状のRFeB系焼結磁石片33を切り出す(
図3(b))。従って、2枚のRFeB系焼結磁石薄板321及び322において、RFeB系焼結磁石片33を切り出す各領域は、RFeB系焼結磁石31の厚み方向に1mm分だけ間を空けて設けられる。このように空けられた部分を刃物の厚みによる切り代とすることにより、各RFeB系焼結磁石片33に切り代が掛からないようにすることができる。また、2枚のRFeB系焼結磁石薄板321及び322同士ではRFeB系焼結磁石片33を切り出す各領域が厚み方向に1mmずつずらして設けられているため、厚み方向の全体に亘って1mmおきにRFeB系焼結磁石片33を得ることができる。
【0043】
こうして各実施例及び各比較例において得られた各RFeB系焼結磁石片33の保磁力を、株式会社玉川製作所製・高感度VSM(振動試料型磁力計)を用いて測定した結果を
図4のグラフに示す。
【0044】
このグラフより、実施例1における各局所保磁力は、一方の表面から2〜3mmの位置では24.35kOe、3〜4mmの位置では24.36kOeとなった。これら2つの値から、最小寸法部の中央である、一方の表面から3mmの位置における局所保磁力は24.35kOeと見積もられる。一方、RFeB系焼結磁石の一方の表面側では25.37kOe、他方の表面側では25.42kOeである。従って、RFeB系焼結磁石の最小寸法部の表面における局所保磁力と中央における局所保磁力の差は、当該差が大きくなる方の表面と比較して0.07kOeである。この値から、この差は表面における局所保磁力の約0.3%となり、15%よりも十分に低くなる。なお、実施例1において最も低い局所保磁力は一方の表面から1〜2mm及び4〜5mmにおける25.13kOe、最も高い局所保磁力は前記他方の表面における25.42kOeである。最も高い局所保磁力と最も低い局所保磁力の差は、最も高い局所保磁力の((25.42-25.13)/25.42)×100=1.14…となり、約1.1%である。
【0045】
実施例1と同様の分析を実施例2で行うと以下の通りである。実施例2のRFeB系焼結磁石における最小寸法部の中央である、一方の表面から4mmの位置の前後2カ所における局所保磁力は22.08kOe(一方の表面から3〜4mmの位置)及び22.11kOe(4〜5mm)であり、一方の表面側では25.36kOe、他方の表面側では25.18kOeである。従って、RFeB系焼結磁石の最小寸法部の表面における局所保磁力と中央における局所保磁力の差は最大で(25.36-22.08)=3.28kOeとなる。この差は、表面における局所保磁力の(3.28/25.36)×100=12.93…、すなわち約12.9%である。
【0046】
それに対して比較例2では以下のようになる。比較例2のRFeB系焼結磁石における最小寸法部の中央である、一方の表面から5mmの位置の前後2カ所における局所保磁力は18.66kOe(一方の表面から4〜5mmの位置)及び18.46kOe(5〜6mm)であり、一方の表面側では22.20kOe、他方の表面側では22.78kOeである。従って、RFeB系焼結磁石の最小寸法部の表面における局所保磁力と中央における局所保磁力の差は最小でも(22.20-18.66)=3.54kOeとなる。この差は、表面における局所保磁力の(3.54/22.20)×100=15.94…、すなわち約15.9%である。従って、比較例2のRFeB系焼結磁石は、本発明の範囲に含まれない。
【0047】
なお、特許文献1では、本実施例と同じ組成を有するTbNiAl合金の粉末を、本実施例と同じ比率でシリコーングリースと混合したペーストを、厚みが6mm及び10mmである基材の対面(2面)にそれぞれ10mg/cm
2塗布したうえで粒界拡散処理を行っている。この場合、ペーストに含まれる重希土類元素R
Hの量を基材の体積で除した値は、厚みが6mmの基材では24.5mg/cm
3、厚みが10mmである基材では14.7mg/cm
3となる。従って、特許文献1に記載のRFeB系焼結磁石及びその製造方法は、本発明の範囲には含まれない。
【0048】
実施例1及び2、並びに比較例1及び2の各試料につき、全体の保磁力、測定した全ての局所保磁力の平均値、及び試料表面の局所保磁力(2面の平均値)を
図5のグラフに示す。このグラフより、実施例1及び2、並びに比較例1では、局所保磁力の平均値が全体の保磁力とほぼ同じ値を有するといえる。それに対して、基材の厚みが最も厚い比較例2の試料では、局所保磁力の平均値が全体の保磁力よりも低いことがわかる。この結果は、実施例1及び2(並びに他の例よりも基材が薄い比較例1)の方が比較例2よりも局所保磁力の均一性が高いことを意味している。
【0049】
次に、厚みが8mm及び10mmである基材に対して、上記実施例2及び比較例2よりもペーストの塗布量を多くした実験を行った(実施例3〜5)。それら実験の条件は表3の通りである。
【表3】
【0050】
実施例1〜5及び比較例2につき、RFeB系焼結磁石の全体の保磁力を測定した結果を
図6のグラフに示す。最も厚い10mmの基材を用いた場合であっても、基材の単位体積あたりの重希土類元素R
Hの量が25mg/cm
3を超えるようにペーストの塗布量を増加させること(実施例5)により、それよりも薄い基材を用いた場合と同程度に全体の保磁力を高めることができる。また、厚みが8mmの基材を用いた実施例2、3及び4を比較すると、ペーストの塗布量が増加するほど、全体の保磁力が高くなることがわかる。
【0051】
上記実施例では、重希土類元素R
HとしてTbを用いた例を示したが、重希土類元素R
HにはDyやHoを用いてもよいし、それら3種のうちの2種又は3種を混合して用いてもよい。