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特開2015-2288042,3−ブタンジオール生産能を有する微生物およびそれを用いた2,3−ブタンジオールの製造方法、1,3−ブタジエンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-228804(P2015-228804A)
(43)【公開日】2015年12月21日
(54)【発明の名称】2,3−ブタンジオール生産能を有する微生物およびそれを用いた2,3−ブタンジオールの製造方法、1,3−ブタジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20151124BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20151124BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20151124BHJP
   C12P 7/18 20060101ALI20151124BHJP
   C12P 5/02 20060101ALI20151124BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20151124BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12P7/18
   C12P5/02
   C12N15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2014-114971(P2014-114971)
(22)【出願日】2014年6月3日
(71)【出願人】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】依田 尚文
(72)【発明者】
【氏名】湯村 秀一
【テーマコード(参考)】
4B024
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B024AA03
4B024BA80
4B024CA06
4B024DA05
4B024DA10
4B024EA04
4B024FA02
4B024GA11
4B064AB04
4B064AC05
4B064CA19
4B064CB22
4B064CB27
4B064CB28
4B064CB30
4B064CC24
4B064CD09
4B064CE08
4B064DA16
4B065AA19Y
4B065AA22X
4B065AA22Y
4B065AA24Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065BB15
4B065BB16
4B065BD16
4B065CA03
4B065CA05
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】微生物の増殖速度の低下を抑制しつつ、副生物の生成を低減させ、2,3−ブタンジオールを効率よくかつ安全に製造するための微生物を提供する。
【解決手段】2,3−ブタンジオール生産能を有し、a)ラクテートデヒドロゲナーゼ活性、b)アセテートキナーゼ活性およびホスホトランスアセチラーゼ活性のいずれか一方または両方、並びにc)CoAトランスフェラーゼ活性が非改変株と比較して低減するように改変された微生物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3−ブタンジオール生産能を有し、次のa)、b)、およびc)の活性が非改変株と比較して低減するように改変された微生物。
a)ラクテートデヒドロゲナーゼ活性
b)アセテートキナーゼ活性およびホスホトランスアセチラーゼ活性のいずれか一方または両方
c)CoAトランスフェラーゼ活性
【請求項2】
ピルベートオキシダーゼ活性が非改変株と比較して低減するように改変された、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
ピルベートカルボキシラーゼ活性が非改変株と比較して低減するように改変された、請求項1または請求項2に記載の微生物。
【請求項4】
さらに、アセトラクテートシンターゼ活性、アセトラクテートデカルボキシラーゼ活性、2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ活性、およびジアセチルレダクターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種の酵素活性が非改変株と比較して増強するように改変された、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項5】
さらに、キシロースイソメラーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変された、請求項1〜4のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項6】
さらに、キシルロキナーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変された、請求項1〜5のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項7】
前記微生物が、コリネ型細菌、大腸菌、バチルス(Bacillus)属細菌、アナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、マンヘミア(Mannheimia)属細菌、バスフィア(Basfia)属細菌、ザイモモナス(Zymomonas)属細菌、ザイモバクター(Zymobacter)属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の微生物またはその処理物を水性媒体中で有機原料に作用させることを特徴とする2,3−ブタンジオールの製造方法。
【請求項9】
前記有機原料が、グルコース、スクロース、およびキシロースからなる群より選ばれる1種類以上を含むものである、請求項8に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の方法により2,3−ブタンジオールを製造する工程、および前記工程で得られた2,3−ブタンジオールを原料として1,3−ブタジエンへの変換工程を含む、1,3−ブタジエンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3−ブタンジオール生産能を有する新規な微生物およびそれを用いた2,3−ブタンジオールの製造方法に関するものである。また、該製造方法で得られた2,3−ブタンジオールを原料とする1,3−ブタジエンンの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
2,3−ブタンジオールは炭素数4の直鎖炭化水素であり、2、3位にそれぞれヒドロキシル基が結合し、(R,R),(S,S),(meso)体の3種の光学異性体が存在する。2,3−ブタンジオールは、脱水反応により合成ゴムの原料として有用な1,3−ブタジエンや、溶媒として用いられるメチルエチルケトンなどの原料となるほか、それ自身も印刷用インク、芳香剤、可塑剤、食品、医薬品、柔軟剤などの用途での利用が期待されている。
加えて、現在、石油資源の枯渇、環境への影響などの要因から、微生物を用いた発酵生産に注目が集まっている。2,3−ブタンジオールを天然に発酵生産する微生物として、Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytoca、Enterobacter aerogenesなどが知られている(例えば非特許文献1)。
【0003】
2,3−ブタンジオールを天然に発酵生産する検討の歴史は古く、またその生産性も比較的高い。例えば前述のKlebsiella pneumoniaeでは、蓄積量150g/L、生産性4.21g/L/hの成績が報告されている(非特許文献2)。その一方で、これらの微生物は、肺炎、腸炎などの原因菌でありBSL2に指定され、産業利用上、大規模に培養することには適していない欠点がある。
【0004】
そのため、安全に培養が可能なGRASないしBSL1に分類される、2,3−ブタンジオール大量生産菌の探索または、菌株の改変による毒性の除去が試みられている。加えて一般的に用いられる大腸菌などを遺伝子組換え技術により2,3−ブタンジオールを生産させる試みが行われてきた。しかしながら、いずれの技術においても、天然菌に匹敵する生産性を示す安全な微生物は得られていない。
【0005】
また、2,3−ブタンジオールの製造に用いる微生物については、遺伝子組換え技術による2,3−ブタンジオール生産経路に関わる遺伝子の増強や、副生成物の生産経路に関わる遺伝子の破壊を行って、生産性を向上させる手法も有用な技術となり得る。
例えば非特許文献3には、ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子を破壊したBacillus licheniformisを用いることにより、乳酸の副生を抑制し、2,3−ブタンジオールの生産性が向上することが示されている。
【0006】
また、特許文献1には、ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子、ホスホアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、アセテートキナーゼ遺伝子、およびピルベートオキシダーゼ遺伝子を破壊したEscherichia coliを用いることにより、乳酸と酢酸の副生を抑制し、2,3−ブタンジオールの生産性を向上することが示されている。
さらに、非特許文献4には、ピルベートデカルボキシラーゼ遺伝子を破壊したSaccharomyces cerevisiaeを用いることにより、エタノールの副生を抑制し、2,3−ブタンジオールの生産性を向上することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2013/076144号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biotechnol Adv.,2011,May−Jun 29(3),p351−64
【非特許文献2】Appl Microbiol Biotechnol.,2009,Feb 82(1),p49−57
【非特許文献3】Biotechnol Bioeng.,2012,Jul 109(7),p1610−21
【非特許文献4】Bioresour Technol.,2013,Oct 146,p274−81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献3に記載の方法は、乳酸の副生が減少するものの、エタノール、ギ酸、酢酸、コハク酸などが依然として副生しており、2,3−ブタンジオールの生産について改善の余地があった。
また、特許文献1に記載の方法は、乳酸、酢酸の副生を減少させる遺伝子改変を行い、2,3−ブタンジオールを生産しているものの、その蓄積量は最大でも0.257g/Lと低い成績であり、さらなる副生物の低減や2,3−ブタンジオールの生産について改善の余地があった。
さらに、非特許文献4に記載の方法は、ピルベートデカルボキシラーゼ遺伝子の破壊によって、増殖速度が低下するという問題があった。そのため、増殖が回復した変異株を取得しているが、この手法は多大な労力を要するため、合理的な微生物の改変が望まれていた。
本発明の課題は、微生物の増殖速度の低下を抑制しつつ、副生物の生成を低減させ、2,3−ブタンジオールを効率よくかつ安全に製造する微生物、並びに該微生物を用いた2,3−ブタンジオールおよび1,3−ブタジエンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、2,3−ブタンジオールの製造に用いる微生物においてラクテートデヒドロゲナーゼ活性、アセテートキナーゼ活性およびホスホトランスアセチラーゼ活性のいずれか一方または両方、並びにCoAトランスフェラーゼ活性を低減することにより、微生物の増殖速度の低下を抑制しつつ、乳酸や酢酸などの副生を低減して2,3−ブタンジオールの生産性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、上記課題は以下の構成により達成される。
[1]2,3−ブタンジオール生産能を有し、次のa)、b)、およびc)の活性が非改変株と比較して低減するように改変された微生物。
a)ラクテートデヒドロゲナーゼ活性
b)アセテートキナーゼ活性およびホスホトランスアセチラーゼ活性のいずれか一方または両方
c)CoAトランスフェラーゼ活性
[2]ピルベートオキシダーゼ活性が非改変株と比較して低減するように改変された、[1]に記載の微生物。
[3]ピルベートカルボキシラーゼ活性が非改変株と比較して低減するように改変された、[1]または[2]に記載の微生物。
[4]さらに、アセトラクテートシンターゼ活性、アセトラクテートデカルボキシラーゼ活性、2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ活性、およびジアセチルレダクターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種の酵素活性が非改変株と比較して増強するように改変された、[1]〜[3]のいずれかに記載の微生物。
[5]さらに、キシロースイソメラーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変された、[1]〜[4]のいずれかに記載の微生物。
[6]さらに、キシルロキナーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変された、[1]〜[5]のいずれかに記載の微生物。
[7]前記微生物が、コリネ型細菌、大腸菌、バチルス(Bacillus)属細菌、アナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、マンヘミア(Mannheimia)属細菌、バスフィア(Basfia)属細菌、ザイモモナス(Zymomonas)属細菌、ザイモバクター(Zymobacter)属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[1]〜[6]のいずれかに記載の微生物。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の微生物またはその処理物を水性媒体中で有機原料に作用させる2,3−ブタンジオールの製造方法。
[9]前記有機原料が、グルコース、スクロース、およびキシロースからなる群より選ばれる1種類以上を含むものである、[8]に記載の2,3−ブタンジオールの製造方法。
[10][8]または[9]に記載の方法により2,3−ブタンジオールを製造する工程、および前記工程で得られた2,3−ブタンジオールを原料として1,3−ブタジエンへの変換工程を含む、1,3−ブタジエンの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、増殖速度の低下を伴うことなく、副生物の生成を低減して2,3−ブタンジオールの生産性が向上した微生物を提供することができる。
このような本発明の微生物を用いることにより、2,3−ブタンジオールを効率よくかつ安全に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】2,3-ブタンジオール生成およびその副生物生成に関する代謝経路を示す図である。
図2】pC3.14F−AlsSDの構築手順を示す図である。
図3】pTZ4F−BdhAの構築手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<本発明の微生物>
本発明の微生物は、2,3−ブタンジオール生産能を有する微生物であり、かつ、次のa)、b)、およびc)の活性が非改変株と比較して低減するように改変された微生物である。
a)ラクテートデヒドロゲナーゼ活性
b)アセテートキナーゼ活性およびホスホトランスアセチラーゼ活性のいずれか一方または両方
c)CoAトランスフェラーゼ活性
【0015】
本発明において、「2,3−ブタンジオール生産能」とは、微生物を培地中で培養したときに、該微生物が該培地中に2,3−ブタンジオールを生成蓄積することができることをいう。
2,3−ブタンジオールは炭素数4の直鎖炭化水素であり、2、3位にそれぞれヒドロキシル基が結合し、(R,R),(S,S),(meso)体の3種の光学異性体が存在する。本発明において、微生物が生産する2,3−ブタンジオールはこれらのうちいずれの異性体であってもよい。
【0016】
ここで、2,3−ブタンジオール生産能を有する微生物は、本来的に2,3−ブタンジオール生産能を有する微生物であってもよいし、育種により2,3−ブタンジオール生産能を付与したものでもよい。
育種により2,3−ブタンジオール生産能を付与する手段としては、変異処理や遺伝子組換え処理などが挙げられ、2,3−ブタンジオールの生合成経路における酵素遺伝子の発現強化など、公知の方法を採用することができる。例えば、後述するようなアセトラクテートシンターゼ活性、アセトラクテートデカルボキシラーゼ活性、2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ活性、ジアセチルレダクターゼ活性を付与または増強するような改変などが挙げられる。
【0017】
本発明で用いる微生物は、2,3−ブタンジオール生産能を有する微生物であれば特に限定されないが、コリネ型細菌、大腸菌、バチルス(Bacillus)属細菌、アナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、マンヘミア(Mannheimia)属細菌、バスフィア(Basfia)属細菌、ザイモモナス(Zymomonas)属細菌、ザイモバクター(Zymobacter)属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選択される微生物であることが好ましい。
その中でも、コリネ型細菌、大腸菌、バチルス(Bacillus)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選ばれる少なくとも1つが好ましく、より好ましくはコリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、酵母菌であり、特に好ましくはコリネ型細菌である。
【0018】
上記コリネ型細菌は、これに分類されるものであれば特に制限されないが、コリネバクテリウム属に属する細菌、ブレビバクテリウム属に属する細菌、アースロバクター属に属する細菌などが挙げられ、このうち好ましくは、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属に属するものが挙げられ、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)またはブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に分類される細菌である。
【0019】
本発明で使用可能なコリネ型細菌の特に好ましい具体例としては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)、同MJ−233 AB−41(FERM BP−1498)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネスATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831、およびブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869等が挙げられる。なお、ブレビバクテリウム・フラバムは、現在、コリネバクテリウム・グルタミカムに分類される場合もあることから(Lielbl W, Ehrmann M, Ludwig W, Schleifer KH, Int J Syst Bacteriol., 1991, Vol.41, p255−260)、本発明においては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株、およびその変異株MJ−233 AB−41株はそれぞれ、コリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株およびMJ−233 AB−41株と同一の株とする。
【0020】
上記ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233は、1975年4月28日に通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P−3068として寄託され、1981年5月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP−1497の受託番号で寄託されている。
【0021】
本発明で使用可能な大腸菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等が挙げられる。
本発明で使用可能なバチルス(Bacillus)属細菌としては、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等が挙げられる。
本発明で使用可能なアナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属細菌としては、アナエロビオスピリラム・サクシニシプロデュセン(Anaerobiospirillum succiniciproducens)等が挙げられる。
【0022】
本発明で使用可能なアクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌としては、アクチノバチルス・サクシノジェネス(Actinobacillus succinogenes)等が挙げられる。
本発明で使用可能なマンヘミア(Mannheimia)属細菌としては、バスフィア・サクシニシプロデュセン(Mannheimia succiniciproducens)等が挙げられる。
【0023】
本発明で使用可能なバスフィア(Basfia)属細菌としては、バスフィア・サクシニシプロデュセン(Basfia succiniciproducens)等が挙げられる。
本発明で使用可能なザイモモナス(Zymomonas)属細菌としては、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobyis)等が挙げられる。
本発明で使用可能なザイモバクター(Zymobacter)属細菌としては、ザイモバクター・パルメ(Zymobacter palmae)等が挙げられる。
【0024】
本発明で使用可能な糸状菌としては、Aspergillus属、Penicillium属、Rhizopus属等が挙げられる。このうち、Aspergillus属では、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)等が挙げられ、Penicillium属では、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)等が挙げられる。また、Rhizopus属では、リゾパス・オリゼー(Rhizopus oryzae)等が挙げられる。
【0025】
本発明で使用可能な酵母菌としては、サッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Shizosaccharomyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、ヤロウィア属(Yarrowia)、チゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)が挙げられる。
【0026】
上記サッカロミセス属(Saccharomyces)としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ウバラム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・バイアヌス(Saccharomyces bayanus)等が挙げられる。
上記シゾサッカロミセス属(Shizosaccharomyces)としては、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等が挙げられる。
上記カンジダ属(Candida)としては、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・ソノレンシス(Candida sonorensis)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)等が挙げられる。
上記ピキア属(Pichia)としては、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)等が挙げられる。
【0027】
上記クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)としては、クルイウェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイウェロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイウェロマイセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)等が挙げられる。
上記ヤロウィア属(Yarrowia)としては、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)等が挙げられる。
上記チゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)としては、チゴサッカロミセス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailii)、チゴサッカロミセス・ロウキシ(Zygosaccharomyces rouxii)等が挙げられる。
【0028】
上記微生物は、野生株だけでなく、UV照射やNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合若しくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
【0029】
本発明の微生物は、上述したように2,3−ブタンジオール生産能を有する微生物に、後述の通り、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性、アセテートキナーゼ活性およびホスホトランスアセチラーゼ活性のいずれか一方または両方、並びにCoAトランスフェラーゼ活性が低減するように改変することによって得ることができる。
【0030】
本発明において、「ラクテートデヒドロゲナーゼ(以下、LDHとも呼ぶ)活性」とは、ピルビン酸を還元して乳酸を生成する反応を触媒する活性(EC:1.1.1.27)をいう。「LDH活性が低減する」とは、非改変株と比較してLDH活性が低下していることをいう。LDH活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、LDH活性は完全に消失していてもよい。LDH活性が低下したことは、公知の方法、例えばKanarekらの方法(Kanarek L, Hill RL, J Biol Chem., 1964, Vol.239, p4202−4206)によりLDH活性を測定することによって確認することができる。
【0031】
LDH活性が低減するように改変された株は、上述した微生物を親株として用い、N−メチル−N’−ニトローN−ニトロソグアニジン(NTG)や亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理し、LDH活性が低減した株を選択することによってそれぞれ得ることができる。また、染色体上のldh遺伝子を破壊したり、プロモーターやシャインダルガルノ(SD)配列等の発現調節配列を改変したりすることなどによっても達成される。具体的には、染色体上のプロモーター配列を含むldh遺伝子の領域において、その一部または全てを欠失させること、塩基配列を挿入して分断すること、変異を導入すること、より微弱なプロモーターへ置換することなどが挙げられる。なお、これらLDH活性を低減する方法を複数組み合わせてもよい。
LDH活性が低減するように改変された株の作製方法としては、染色体への相同組換えによる方法(特開平11−206385号公報等参照)や、sacB遺伝子を用いる方法(Schafer A, Tauch A, Jager W, Kalinowski J, Thierbach G, Puhler A, Gene 1994 Vol.145(1), p69−73)等が挙げられる。
【0032】
以下、コリネ型細菌においてldh遺伝子を破壊する方法について説明する。ldh遺伝子の取得は、例えば、GenBankのアクセッション番号NC_006958の配列中にcg3219で登録されているコリネバクテリウム・グルタミカムのldh遺伝子配列に基づいて合成オリゴヌクレオチドを合成し、コリネバクテリウム・グルタミカムの染色体DNAを鋳型としてPCR反応を行うことによってクローニングできる。染色体DNAは、DNA供与体である細菌から、例えば、斎藤、三浦の方法(Saito H, Miura K, Biochim Biophys Acta., 1963, Vol.72, p619−629、生物工学実験書、日本生物工学会編、97〜98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。
【0033】
上記のようにして調製したldh遺伝子またはその一部を遺伝子破壊に使用することができる。ただし、遺伝子破壊に用いる遺伝子は破壊対象の細菌の染色体DNA上のldh遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性(同一性)を有していればよいため、コリネ型細菌のldh遺伝子と相同性を有する相同遺伝子も使用することができる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA(ldh遺伝子配列の相補鎖)であれば、相同組換えは起こり得る。ここで、ストリンジェントな条件としては、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、60℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0034】
上記のような遺伝子を使用し、例えば、ldh遺伝子の部分配列を欠失し、正常LDHタンパク質を産生しないように改変した欠失型ldh遺伝子を作製し、該遺伝子を含むDNAでコリネ型細菌を形質転換し、欠失型遺伝子と染色体上の遺伝子で組換えを起こさせることにより、染色体上のldh遺伝子を破壊することができる。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、直鎖状DNAを用いる方法や温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法などがある(米国特許第6303383号明細書、または特開平05−007491号公報)。また、上述のような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は、宿主上で複製能力を持たないプラスミドを用いても行うことができ、コリネ型細菌内で複製能を持たないプラスミドとしては、エシェリヒア・コリで複製能力を持つプラスミドが好ましく、例えば、pHSG299(タカラバイオ社製)、pHSG399(タカラバイオ社製)等が挙げられる。
【0035】
本発明において、「アセテートキナーゼ(以下、ACKとも呼ぶ)活性」とは、アセチルリン酸とADPから酢酸を生成する反応を触媒する活性(EC:2.7.2.1)をいう。「ACK活性が低減する」とは、非改変株と比較してACK活性が低下していることをいう。ACK活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、ACK活性は完全に消失していてもよい。ACK活性が低下したことは、公知の方法、例えばRamponiらの方法(Ramponi G, Meth Enzymol., 1975, Vol.42, p409−426)によりACK活性を測定することによって確認することができる。
【0036】
本発明において、「ホスホトランスアセチラーゼ(以下、PTAとも呼ぶ)活性」とは、アセチルCoAにリン酸を転移してアセチルリン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:2.3.1.8)をいう。「PTA活性が低減する」とは、非改変株と比較してPTA活性が低下していることをいう。PTA活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、PTA活性は完全に消失していてもよい。PTA活性が低下したことは、公知の方法、例えばKlotzschらの方法(Klotzsch HR, Meth Enzymol., 1969, Vol.12, p381−386)によりPTA活性を測定することによって確認することができる。
【0037】
ACK活性が低減するように改変された株、PTA活性が低減するように改変された株は、上述のLDH活性を低減する方法と同様にして作製することができる。ACK活性とPTA活性はいずれか一方を低減させてもよいが、酢酸の副生を効率よく低減させるためには、両方の活性を低下させることがより好ましい。
なお、コリネバクテリウム・グルタミカムにおいては、Microbiology,1999,Feb 145(Pt2),p503−513に記載されているように、両酵素はpta−ackオペロンにコードされているため、pta遺伝子を破壊した場合は、PTAおよびACKの両酵素の活性を低下させることができる。
【0038】
本発明において、「CoAトランスフェラーゼ(以下、CTFとも呼ぶ)活性」とは、アセチルCoAのCoAを他の物質に転移して酢酸を生成する反応を触媒する活性(EC:2.8.3.18)をいう。「CTF活性が低減する」とは、非改変株と比較してCTF活性が低下していることをいう。CTF活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、CTF活性は完全に消失していてもよい。CTF活性が低下したことは、公知の方法、例えばVeitらの方法(Veit A, Rittmann D, Georgi T, Youn JW, Eikmanns BJ, Wendisch VF, J Biotechnol., 2009, Vol.140(1−2), p75−83)によりCTF活性を測定することによって確認することができる。
【0039】
CTF活性が低減するように改変された株は、上述のLDH活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
また、LDH活性、ACK活性およびPTA活性のいずれか一方または両方、並びにCTF活性を低減するような改変について、その順番は問わない。
【0040】
2,3−ブタンジオール生産能を有する微生物において、LDH活性を低減するような改変を行うと、乳酸の副生を低減できるものの、その微生物の増殖速度が低下してしまうという問題が明らかとなった。そこで、その改変に加えて、アセチルCoAから酢酸を生成する代謝経路に関与するACK活性およびPTA活性のいずれか一方または両方、並びにCTF活性を低減するような改変を行うと、酢酸の副生を低減できるだけでなく、微生物の増殖速度の低下も大きく抑制でき、LDH活性を低減した際の問題を解決することができた。
【0041】
2,3−ブタンジオール、および乳酸の生合成経路はNADH等の還元力を消費する経路である。一方で、ピルビン酸からアセチルCoAを経由して酢酸を生合成する経路は、逆に、NADH等の還元力を供給する経路である。これは、ピルベートデヒドロゲナーゼ複合体(以下、PDHcとも呼ぶ)によってピルビン酸がアセチルCoAに変換される際にNADH等を生じるためである。
2,3−ブタンジオール生産能を有する微生物において、LDH活性を低減するような改変を行うと、乳酸の副生が低減され、酢酸の副生が増加する傾向が見られる。つまり、還元力を消費する経路のフラックスが減少するだけでなく、還元力を供給する経路のフラックスが増加することになる。その結果、LDH活性を低減するような改変のみを行った株では、細胞内の酸化還元バランスが大きく変化し、微生物の増殖速度が低下したと考えられる。
2,3−ブタンジオール生産能を有する微生物において、LDH活性を低減するような改変に加えて、ACK活性およびPTA活性のいずれか一方または両方、並びにCTF活性を低減するような改変を行うと、乳酸だけでなく酢酸の副生も低減し、2,3−ブタンジオールの生産が増加する。つまり、LDH活性を低減するような改変のみの場合と比べて、還元力を供給する経路のフラックスが減少し、還元力を消費する経路のフラックスが増加することになる。その結果、細胞内の酸化還元バランスが改善し、微生物の増殖速度の低下を大きく抑制できたと考えられる。
【0042】
本発明の微生物は、上述の改変に加えて、ピルベートオキシダーゼ活性を低減するように改変することが好ましい。「ピルベートオキシダーゼ(以下、PoxBとも呼ぶ)活性」とは、ピルビン酸と水から酢酸を生成する反応を触媒する活性(EC:1.2.5.1)をいう。「PoxB活性が低減する」とは、非改変株と比較してPoxB活性が低下していることをいう。PoxB活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、PoxB活性は完全に消失していてもよい。PoxB活性が低下したことは、公知の方法、例えばChangらの方法(Chang YY, Cronan JE JR, J Bacteriol., 1982, Vol.151, p1279−1289)によりPoxB活性を測定することによって確認することができる。
【0043】
PoxB活性が低減するように改変された株は、上述のLDH活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
LDH活性、ACK活性およびPTA活性のいずれか一方または両方、並びにCTF活性を低減するような改変に加えて、PoxB活性を低減するような改変を行うことで、さらに酢酸の副生を低減でき、2,3−ブタンジオールの生産性をより向上することができる。
【0044】
本発明の微生物は、上述の改変に加えて、ピルベートカルボキシラーゼ活性を低減するように改変してもよい。「ピルベートカルボキシラーゼ(以下、PCとも呼ぶ)活性」とは、ピルビン酸をカルボキシル化してオキサロ酢酸を生成する反応を触媒する活性(EC:6.4.1.1)をいう。「PC活性が低減する」とは、非改変株と比較してPC活性が低下していることをいう。PC活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、PC活性は完全に消失していてもよい。PC活性が低下したことは、公知の方法、例えばFisherらの方法(Fisher SH, Magasanik B, J Bacteriol., 1984, Vol.158(1), p55−62)によりPC活性を測定することによって確認することができる。
【0045】
PC活性が低減するように改変された株は、上述のLDH活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
LDH活性、ACK活性およびPTA活性のいずれか一方または両方、並びにCTF活性を低減するような改変に加えて、PC活性を低減するような改変を行うことで、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸等の副生を低減でき、さらに2,3-ブタンジオールの生産性を向上することができる。
【0046】
本発明の微生物は、本来的に2,3−ブタンジオール生産能を有する微生物または育種により2,3−ブタンジオール生産能を付与したものでもよい。
育種により2,3−ブタンジオール生産能を付与する具体的な改変例としては、アセトラクテートシンターゼ活性、アセトラクテートデカルボキシラーゼ活性、2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ活性、およびジアセチルレダクターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種の酵素活性を付与または増強するような改変などが挙げられる。
【0047】
ここで、「アセトラクテートシンターゼ(以下、ALSとも呼ぶ)活性」とは、ピルビン酸からアセト乳酸を生成する反応を触媒する活性(EC:2.2.1.6)をいう。「ALS活性が増強する」とは、ALS活性が非改変株よりも高くなったことをいう。ALS活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。ALS活性が付与または増強されたことは、公知の方法、例えばStormerらの方法(Stormer FC, J Biol Chem., 1968, Vol.243(13), p3735−3739)により、ALS活性を測定することによって確認することができる。
【0048】
ALS活性を増強する方法としては、例えば、親株を変異剤によって処理する方法、ALSをコードするalsS遺伝子のコピー数を高める方法、alsS遺伝子やalsS遺伝子のプロモーターを改変する方法などが挙げられる。さらに、これらALS活性を増強する方法を複数組み合わせてもよい。
【0049】
以下、ALS活性が付与または増強するように改変された株の具体的な作製方法について説明する。ALS活性が増強された株は、親株をN−メチル−N’−ニトローN−ニトロソグアニジン(NTG)や亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理し、ALS活性が上昇した株を選択することによって得ることができる。
また、ALS活性が付与または増強された株は、alsS遺伝子を用いて改変することによっても得ることができる。具体的には、alsS遺伝子のコピー数を高めることによって達成でき、コピー数を高めることは、alsS遺伝子を含むベクターで形質転換すること、または相同組換え法等の手法によって染色体上に該遺伝子を導入し、染色体上で多コピー化させることなどによって達成できる。
【0050】
さらに、ALS活性が増強された株は、染色体上またはプラスミドベクター上のalsS遺伝子に変異を導入することによって、alsS遺伝子がコードするタンパク質1分子当たりのALS活性を増加させることによっても達成できる。
また、alsS遺伝子の発現が増強された株は、染色体上またはプラスミドベクター上でalsS遺伝子のプロモーターへ変異を導入すること、より強力なプロモーターへ置換することなどでalsS遺伝子を高発現化させることによっても達成できる。
【0051】
ALS活性の付与または増強に用いるalsS遺伝子としては、ALS活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えば、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)由来の遺伝子を挙げることができる。
さらに、バチルス・サブチリス以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のalsS遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のalsS遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてALS活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、ALS活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のalsS遺伝子を用いてもよい。
【0052】
上記のようにして単離されたALSをコードする遺伝子を公知の発現ベクターに発現可能なように挿入することにより、ALS発現ベクターが提供される。この発現ベクターで形質転換することにより、ALS活性が付与または増強するように改変された株を得ることができる。あるいは、相同組換えなどによって、宿主微生物の染色体DNAにALSをコードするDNAを発現可能なように組み込むことによってもALS活性が付与または増強するように改変された株を得ることができる。なお、形質転換、相同組換えは当業者に知られた通常の方法に従って行うことができる。
【0053】
染色体上またはプラスミド上にalsS遺伝子を導入する場合には、適当なプロモーターを該遺伝子の5’−側上流に、より好ましくはターミネーターを3’−側下流にそれぞれ組み込む。このプロモーターおよびターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーターおよびターミネーターであれば特に限定されず、alsS遺伝子自身のプロモーターおよびターミネーターであってもよいし、他のプロモーターおよびターミネーターに置換してもよい。これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーターおよびターミネーターなどに関しては、例えば「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」などに詳細に記述されている。
【0054】
以下、コリネ型細菌においてalsS遺伝子を導入する方法について説明する。コリネ型細菌を使用する場合、alsS遺伝子を含むDNA断片を、コリネ型細菌内でプラスミドの複製増殖機能を司る遺伝子を含むプラスミドベクターに導入することにより、コリネ型細菌内でalsS遺伝子の発現が可能な組換えプラスミドを得ることができる。該組み換えベクターで、コリネ型細菌、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株を形質転換することにより、alsS遺伝子が導入されたコリネ型細菌が得られる。形質転換は、例えば、電気パルス法(Vertes AA, Inui M, Kobayashi M, Kurusu Y, Yukawa H, Res. Microbiol., 1993, Vol.144(3), p181−185)等によって行うことができる。
【0055】
コリネ型細菌に遺伝子を導入することができるプラスミドベクターとしては、コリネ型細菌内での複製増殖機能を司る遺伝子を少なくとも含むものであれば特に制限されない。その具体例としては、例えば、特開2006−320208号公報に記載のプラスミドpTZ4;国際公開WO2005−021770号パンフレットに記載のプラスミドpC3.14;特開平3−210184号公報に記載のプラスミドpCRY30;特開平2−72876号公報および米国特許5,185,262号明細書公報に記載のプラスミドpCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE、およびpCRY3KX;特開平1−191686号公報に記載のプラスミドpCRY2およびpCRY3;特開昭58−67679号公報に記載のpAM330;特開昭58−77895号公報に記載のpHM1519;特開昭58−192900号公報に記載のpAJ655、pAJ611、およびpAJ1844;特開昭57−134500号公報に記載のpCG1;特開昭58−35197号公報に記載のpCG2;特開昭57−183799号公報に記載のpCG4およびpCG11等を挙げることができる。それらの中でもコリネ型細菌の宿主−ベクター系で用いられるプラスミドベクターとしては、コリネ型細菌内でプラスミドの複製増殖機能を司る遺伝子とコリネ型細菌内でプラスミドの安定化機能を司る遺伝子とを有するものが好ましく、例えば、プラスミドpCRY30、pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE、およびpCRY3KX等が好適に使用される。
【0056】
上記プラスミドベクターにおいて、alsS遺伝子を発現させるためのプロモーターはコリネ型細菌において機能するものであればいかなるプロモーターであってもよく、用いるalsS遺伝子自身のプロモーターであってもよい。プロモーターを適宜選択することによっても、alsS遺伝子の発現量の調節が可能である。コリネ型細菌において機能するプロモーターの具体例としては、TZ4プロモーター、fbaプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーターなどが挙げられる。
【0057】
また、2,3−ブタンジオール生産能の付与においては、アセトラクテートデカルボキシラーゼ活性を付与または増強するように改変された微生物であってもよい。
ここで、「アセトラクテートデカルボキシラーゼ(以下、ALDCとも呼ぶ)活性」とは、アセト乳酸からアセトインを生成する反応を触媒する活性(EC:4.1.1.5)をいう。「ALDC活性が増強する」とは、ALDC活性が非改変株よりも高くなったことをいう。ALDC活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。ALDC活性が付与または増強されたことは、公知の方法、例えばLokenらの方法(Loken JP, Stormer FC, Eur. J. Biochem., 1970, Vol.14(1), p133−137)により、ALDC活性を測定することによって確認することができる。
【0058】
ALDC活性が付与または増強するように改変された株は、上述のALS活性を付与または増強する方法と同様にして作製することができる。
ALDC活性の付与または増強に用いるalsD遺伝子としては、ALDC活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)由来の遺伝子を挙げることができる。
さらに、バチルス・サブチリス以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のalsD遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のalsD遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてALDC活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、ALDC活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のalsD遺伝子を用いてもよい。
【0059】
ALS活性およびALDC活性を付与または増強する場合、導入するalsS遺伝子とalsD遺伝子は同じ遺伝子座上に存在していてもよく、それぞれ別の遺伝子座上に存在していてもよい。2つの遺伝子が同じ遺伝子座上に存在している例としては、例えば、それぞれの遺伝子が連結して形成されたオペロンなどが挙げられる。
【0060】
さらに、2,3−ブタンジオール生産能の付与においては、2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ活性を付与または増強するように改変された微生物であってもよい。
ここで、「2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ(以下、BDHとも呼ぶ)活性」とは、アセトインを還元して2,3−ブタンジオールを生成する反応を触媒する活性(EC:1.1.1.−,1.1.1.4,1.1.1.76)をいう。「BDH活性が増強する」とは、BDH活性が非改変株よりも高くなったことをいう。BDH活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。BDH活性が付与または増強されたことは、公知の方法、例えばUiらの方法(Ui S, Masuda H, Muraki H, J Ferment. Technol., 1983, Vol.61(5), p467−471)により、BDH活性を測定することによって確認することができる。
【0061】
BDH活性が付与または増強するように改変された株は、上述のALS活性を付与または増強する方法と同様にして作製することができる。
BDH活性の付与または増強に用いるbdhA遺伝子としては、BDH活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)由来の遺伝子を挙げることができる。
さらに、バチルス・サブチリス以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のbdhA遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のbdhA遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてBDH活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、BDH活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のbdhA遺伝子を用いてもよい。
【0062】
さらに、2,3−ブタンジオール生産能の付与においては、ジアセチルレダクターゼ活性を付与または増強するように改変された微生物であってもよい。
ここで、「ジアセチルレダクターゼ活性(以下、DRとも呼ぶ)」とは、ジアセチルを還元してアセトインを生成する反応を触媒する活性(EC:1.1.1.303,1.1.1.304)をいう。「DR活性が増強する」とは、DR活性が非改変株よりも高くなったことをいう。DR活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。DR活性が付与または増強されたことは、公知の方法、例えばUiらの方法(Ui S, Masuda H, Muraki H, J Ferment. Technol., 1983, Vol.61(5), p467−471)により、DR活性を測定することによって確認することができる。
【0063】
ピルビン酸から生成されたアセト乳酸は、酸素存在下で自発的に脱炭酸され、酵素活性を必要とすることなく、ジアセチルが生成する。このように生成したジアセチルをジアセチルレダクターゼによって還元し、アセトインへ変換する。このアセトインがさらに2,3−ブタンジオールへ変換されることで2,3−ブタンジオールの生産性向上に寄与することができる。
【0064】
DR活性が付与または増強するように改変された株は、上述のALS活性を付与または増強する方法と同様にして作製することができる。
DR活性の付与または増強に用いるbdhA遺伝子としては、DR活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)由来の遺伝子を挙げることができる。
さらに、バチルス・サブチリス以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のbdhA遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のbdhA遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてDR活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、DR活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のbdhA遺伝子を用いてもよい。
【0065】
なお、このbdhA遺伝子がコードする酵素のように、BDH活性を有する酵素は、DR活性も有する場合が多い。このような遺伝子を用いると、BDH活性とDR活性を同時に付与または増強することができる。
【0066】
2,3−ブタンジオールの生産性を向上させるためには、ピルビン酸から2,3−ブタンジオールを生合成する代謝経路のうち律速となる反応を触媒する酵素活性を付与または増強すればよく、アセトラクテートシンターゼ活性、アセトラクテートデカルボキシラーゼ活性、2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ活性、およびジアセチルレダクターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性を付与または増強するような改変を行うことによって達成できる。2,3−ブタンジオールの生産性をより向上させるためには、好ましくは、2種類以上、さらに好ましくは、3種類以上、特に好ましくは、4種類全ての活性を増強するような改変を行うことが望ましい。
【0067】
本発明で用いる微生物は、本来的にキシロース資化能を有する微生物であってもよいし、育種によりキシロース資化能を付与したものでもよい。
育種によりキシロース資化能を付与する具体的な改変例としては、キシロースイソメラーゼ活性、キシルロキナーゼ活性を増強するような改変などが挙げられる。
【0068】
ここで、「キシロースイソメラーゼ(以下、XylAとも呼ぶ)活性」とは、キシロースを異性化してキシルロースを生成する反応を触媒する活性(EC:5.3.1.5)をいう。「XylA活性が増強する」とは、XylA活性が非改変株よりも高くなったことをいう。XylA活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。XylA活性が付与または増強されたことは、公知の方法、例えばGaoらの方法(Gao Q, Zhang M, McMillan JD, Kompala DS, Appl. Biochem. Biotechnol., 2002, Vol.98(100), p341−55)により、XylA活性を測定することによって確認することができる。
【0069】
XylA活性が付与または増強するように改変された株は、上述のALS活性を付与または増強する方法と同様にして作製することができる。
XylA活性の付与または増強に用いるxylA遺伝子としては、XylA活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来の遺伝子を挙げることができる。
さらに、大腸菌以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のxylA遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のxylA遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてXylA活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、XylA活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のxylA遺伝子を用いてもよい。
【0070】
また、キシロース資化能の付与においては、キシルロキナーゼ活性を付与または増強するように改変された微生物であってもよい。
ここで、「キシルロキナーゼ(以下、XylBとも呼ぶ)活性」とは、キシルロースをリン酸化してキシルロース5リン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:2.7.1.17)をいう。「XylB活性が増強する」とは、XylB活性が非改変株よりも高くなったことをいう。XylB活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。XylB活性が付与または増強されたことは、公知の方法、例えばEliassonらの方法(Eliasson A, Boles E, Johansson B, Otensterberg M, Thevelein JM, Spencer−Martins I, Juhnke H, Hahn−Hatengerdal B, Appl. Microbiol. Biotechnol., 2000, Vol.53, p376−82)により、XylB活性を測定することによって確認することができる。
【0071】
XylB活性が付与または増強するように改変された株は、上述のALS活性を付与または増強する方法と同様にして作製することができる。
XylB活性の付与または増強に用いるxylB遺伝子としては、XylB活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来の遺伝子を挙げることができる。
さらに、上記以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のxylB遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のxylB遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてXylB活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、XylB活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のxylB遺伝子を用いてもよい。
【0072】
XylA活性およびXylB活性を付与または増強する場合、導入するxylA遺伝子とxylB遺伝子は同じ遺伝子座上に存在していてもよく、それぞれ別の遺伝子座上に存在していてもよい。2つの遺伝子が同じ遺伝子座上に存在している例としては、例えば、それぞれの遺伝子が連結して形成されたオペロンなどが挙げられる。
【0073】
なお、本発明の微生物は、上述のような、さらに副生物を低減するための改変(PoxB活性、PC活性の低減など)、2,3−ブタンジオール生産能を付与または増強するための改変(ALS活性、ALDC活性、BDH活性、DR活性の増強など)、キシロース資化能を付与するための改変(XylA活性、XylB活性の増強など)のうちの2種類以上の改変を組み合わせて得られる微生物であってもよい。複数の改変を行う場合、その順番は問わない。
【0074】
<2,3−ブタンジオールの製造方法>
本発明の製造方法は、本発明の微生物またはその処理物を水性媒体中で、有機原料に作用させることにより、2,3−ブタンジオールを生産させる工程(以下、「発酵工程」という)を含む。
【0075】
本発明の製造方法では、本発明の微生物の菌体の処理物を使用することもできる。微生物の処理物としては、例えば、微生物の菌体をアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した固定化菌体、菌体を破砕した破砕物、その遠心分離上清、またはその上清を硫安処理等で部分精製した画分等が挙げられる。
また、本発明の製造方法は、前記発酵工程の後に、生産された2,3−ブタンジオールを回収する工程(以下、「回収工程」という)を有することが好ましい。
【0076】
本発明の製造方法に本発明の微生物を用いるに当たっては、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接用いてもよいが、発酵工程に先立ち、必要に応じて上記微生物を予め液体培地で培養したものを用いてもよい。即ち、後述する種培養や本培養を行なうことで、本発明の微生物を予め増殖させた後に、発酵工程を行なうことができる。
なお、後述する種培養や本培養と、後述する発酵工程は、区別することなく、同時に行なうこともできる。また、種培養または本培養した微生物を反応液中で増殖させながら、有機原料と反応させることによって2,3−ブタンジオールを生産させることもできる。
【0077】
(種培養)
種培養は、本培養に供する本発明の微生物の菌体を調製するために行なうものである。種培養に用いる培地は、微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができるが、窒素源や無機塩などを含む培地であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本発明の微生物が資化して増殖できる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物等が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。
【0078】
種培養においては、必要に応じて、前記培地に炭素源を添加してもよい。種培養に用いる炭素源としては、前記微生物が資化して増殖し得るものであれば特に限定されないが、通常、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、キシロース、アラビノース、スクロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセロール、マンニトール、イノシトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、またはアラビノースが好ましく、特にグルコース、スクロースまたはキシロースが好ましい。これらの炭素源は、単独で添加してもよいし、組み合わせて添加してもよい。
【0079】
種培養は、一般的な生育至適温度で行なうことが好ましい。一般的な生育至適温度とは、2,3−ブタンジオールの生産に用いられる条件において最も生育速度が速い温度のことを言う。具体的な培養温度としては、通常25℃〜40℃であり、30℃〜37℃が好ましい。コリネ型細菌の場合は、通常25℃〜35℃であり、28℃〜33℃がより好ましく、約30℃が特に好ましい。
【0080】
種培養は、一般的な生育至適pHで行なうことが好ましい。一般的な生育至適pHとは、有機化合物の生産に用いられる条件において最も生育速度が速いpHのことを言う。具体的な培養pHとしては、通常pH4〜10であり、pH6〜8が好ましい。コリネ型細菌の場合は、通常pH6〜9であり、pH6.5〜8.5が好ましい。
【0081】
また、種培養の培養時間は、一定量の菌体が得られる時間であれば特段の制限はないが、通常6時間以上96時間以下である。また、種培養においては、通気したり攪拌したりして、酸素を供給することが好ましい。
【0082】
種培養後の菌体は、後述する本培養に用いることができるが、種培養については省略してもよく、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接本培養に用いてもよい。また、必要に応じて、種培養を何度か繰り返し行ってもよい。
【0083】
(本培養)
本培養は、後述する2,3−ブタンジオール生産反応に供する本発明の微生物の菌体を調製するために行なうものであり、主として菌体量を増やすことを目的とする。上述の種培養を行う場合は、種培養により得られた菌体を用いて本培養を行う。
【0084】
本培養に用いる培地は、微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができるが、窒素源や無機塩などを含む培地であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本微生物が資化して増殖できる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、培養時の発泡を抑えるために、培地には市販の消泡剤を適量添加しておくことが好ましい。
【0085】
また、本培養においては、前記培地に炭素源を添加することが好ましい。本培養に用いる炭素源としては、前記微生物が資化して増殖し得るものであれば特に限定されないが、通常、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、キシロース、アラビノース、スクロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセロール、マンニトール、イノシトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、またはアラビノースが好ましく、特にグルコース、スクロースまたはキシロースが好ましい。これらの炭素源は、単独で添加してもよいし、組み合わせて添加してもよい。
【0086】
また、前記発酵性糖質を含有する澱粉糖化液、糖蜜なども使用され、前記発酵性糖質がサトウキビ、甜菜、サトウカエデ等の植物から搾取した糖液であるものが好ましい。
これらの炭素源は、単独で添加してもよいし、組み合わせて添加してもよい。
【0087】
前記炭素源の使用濃度は特に限定されないが、微生物の増殖を阻害しない範囲で添加するのが有利であり、培養液に対して、通常0.1〜10%(W/V)、好ましくは0.5〜5%(W/V)の範囲内で用いることができる。また、増殖に伴う前記炭素源の減少にあわせ、炭素源を追加で添加してもよい。
【0088】
また、本培養は、一般的な生育至適温度で行なうことが好ましい。具体的な培養温度としては、通常25℃〜40℃であり、30℃〜37℃が好ましい。コリネ型細菌の場合は、通常25℃〜35℃であり、28℃〜33℃がより好ましく、約30℃が特に好ましい。
【0089】
また、本培養は、一般的な生育至適pHで行なうことが好ましい。具体的な培養pHとしては、通常pH4〜10であり、pH6〜8が好ましい。コリネ型細菌の場合は、通常pH6〜9であり、pH6.5〜8.5が好ましい。
【0090】
また、本培養の培養時間は、一定量の菌体が得られる時間であれば特段の制限はないが、通常6時間以上96時間以下である。また、本培養においては、通気したり攪拌したりして、酸素を供給することが好ましい。
【0091】
また、本培養においては、より2,3−ブタンジオールの製造に適した菌体の調製方法として、特開2008−259451号公報に記載の炭素源の枯渇と充足を短時間で交互に繰り返すように培養を行う方法も用いることができる。
【0092】
本培養後の菌体は、後述する2,3−ブタンジオール生産反応に用いることができるが、培養液を直接用いてもよいし、遠心分離、膜分離等によって菌体を回収した後に用いてもよい。
【0093】
(発酵工程)
発酵工程では、上述の2,3−ブタンジオール生産能を有する微生物またはその処理物を水性媒体中で、有機原料に作用させることにより、2,3−ブタンジオールを生産させる。この発酵工程で起こる反応を、以下、「2,3−ブタンジオール生産反応」という。
【0094】
ここで、水性媒体とは、発酵工程における2,3−ブタンジオール生産反応を行う水溶液のことであり、後述するように窒素源、無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。当該水性媒体中で、本発明の微生物またはその処理物と有機原料とを反応させることにより2,3−ブタンジオール生産反応を行うことができる。本明細書において、水性媒体とは、反応容器に含まれる液体全てを意味する。
【0095】
水性媒体としては、例えば、微生物を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよいが、反応液は窒素源や無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本発明の微生物が資化して2,3−ブタンジオールを生成させうる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、反応時の発泡を抑えるために、反応液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが好ましい。
【0096】
本発明で用いる有機原料としては、本発明の微生物が資化して2,3−ブタンジオールを生産し得るものであれば特に限定されず、いわゆる一般的な糖質を用いることができる。
具体的には、グリセルアルデヒド等の炭素数3の単糖(トリオース);エリトロース、トレオース、エリトルロース等の炭素数4の単糖(テトロース);、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、デオキシリボース、キシルロース、リブロース等の炭素数5の単糖(ペントース);アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース、フコース、フクロース、ラムノース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等の炭素数6の単糖(ヘキソース);、セドヘプツロース等の炭素数7の単糖(ヘプトース);スクロース、ラクトース、マルトース、トレハノース、ツラノース、セロビオース等の二糖類;ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース等の三糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナオリゴ糖などのオリゴ糖類;デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グルカン、ペントサン等の多糖類;グリセロール、マンニトール、イノシトール、リビトール等のポリアルコール類等が挙げられる。
【0097】
上述した糖質の中でも、炭素数3以上7以下の単糖を構成成分として含む糖質が好ましく、これらの中でも、ヘキソース、ペントース、およびこれらを構成成分とする二糖類からなる群から選ばれる少なくとも一種がより好ましい。
ヘキソースとしては、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトースが好ましく、グルコースがより好ましい。ペントースとしてはキシロース、アラビノースが好ましく、キシロースがより好ましい。ヘキソースおよびペントースを構成成分とする二糖類としては、スクロースが好ましい。グルコース、キシロース、スクロースは、自然界、植物の主な構成成分となっているため、原料の入手が容易なためである。
なお、本発明で用いる有機原料には、1種類の糖が単独で含有されていてもよいし、2種類以上の糖が含有されていてもよい。
【0098】
本発明で用いる有機原料は、前記糖質を含んでいれば特に制限されないが、例えば、1種類以上の前記糖質を水に溶解して水溶液としたもの、1種類以上の前記糖質を構成成分として含む植物体またはその一部を糖質まで分解したもの、1種類以上の前記糖質を構成成分として含む植物体またはその一部から糖質を抽出したもの等を用いることができる。具体的には、後述するようなリグノセルロース分解原料、スクロース含有原料、デンプン分解原料等が挙げられる。
【0099】
本発明で用いる有機原料は、必要に応じて水等で希釈して糖質の濃度を下げて用いてもよいし、濃縮して糖質の濃度を高めて用いてもよい。
本発明における有機原料中に含まれる糖質の濃度としては、有機原料の由来や、含有する糖質の種類等によって大きく変動するため、特に限定されないが、発酵生産プロセスおよび化学変換プロセスの生産性を考慮して、通常0.1質量%以上、好ましくは2質量%以上であり、また、通常80質量%以下、好ましくは70質量%以下である。ただし、糖質を2種類以上含む場合は、その合計の濃度を示す。
【0100】
好ましい有機原料として、リグノセルロース分解原料が挙げられる。
リグノセルロースとは、構造性多糖のセルロース、ヘミセルロース、及び芳香族化合物の重合体のリグニンから構成される有機物である。リグノセルロースは、通常、食用にはできず、通常であれば廃棄、焼却処理をされるものが多いため、安定して供給でき、資源を有効利用できる点で好ましい。
リグノセルロース分解原料としては、バガス、コーンストーバー、麦わら、稲わら、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、ササ、ススキ等の草本系バイオマスや、廃木材、オガ粉、樹皮、古紙等の木質系バイオマス等を好適に用いることができる。中でも、バガス、コーンストーバー、麦わらが好ましい。
【0101】
上述のリグノセルロース分解原料から有機原料を得る方法は、特に限定されないが、例えば、リグノセルロースに対して必要に応じて前処理を施した後、酵素、酸、亜臨界水、超臨界水等による加水分解、または熱分解を行う方法等が挙げられる。
【0102】
また、好ましい有機原料として、スクロース含有原料が挙げられる。
また、スクロースは、細胞中にスクロースを蓄積できる植物に含まれ、以下、このような植物のことを「スクロースを含む植物」という。スクロースを含む植物としては、サトウキビ、テンサイ、サトウカエデ、オウギヤシ、ソルガム等の砂糖の原料として使用されるもの等が挙げられ、中でも、サトウキビ、テンサイが好ましい。
【0103】
スクロースを含む植物から有機原料を得る方法は、特に限定されないが、例えば、当該植物を粉砕した後に圧搾または浸出を行なう方法等が挙げられる。本発明においては、このようにして得られたスクロースを含む植物の搾汁(例えば、サトウキビの場合はケーンジュース)、粗糖、廃糖蜜等も有機原料として用いることができる。
【0104】
また、好ましい有機原料として、デンプン分解原料が挙げられる。
また、デンプンは、細胞中にデンプンを蓄積できる植物に含まれ、以下、このような植物のことを「デンプンを含む植物」という。デンプンを含む植物としては、キャッサバ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦、甘藷、サゴヤシ、米、クズ、カタクリ、緑豆、ワラビ、オオウバユリ等が挙げられ、中でも、キャッサバ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦が好ましい。
【0105】
デンプンを含む植物から有機原料を得る方法は、特に限定されないが、例えば、当該植物から抽出したデンプンを加水分解する方法等が挙げられる。
【0106】
前記有機原料の使用濃度は特に限定されないが、2,3−ブタンジオールの生成を阻害しない範囲で可能な限り高くすると生産性の点で有利であり、好ましい。水性媒体中に含まれる有機原料の濃度は、そこに含まれる糖質の濃度で、水性媒体に対して、通常5%(W/V)以上、好ましくは10%(W/V)以上であり、一方、通常30%(W/V)以下、好ましくは20%(W/V)以下である。また、2,3−ブタンジオールの生産反応の進行に伴う前記有機原料の減少にあわせて、有機原料の追加で添加してもよい。
【0107】
2,3−ブタンジオール生産反応中の水性媒体のpHは、用いる本発明の微生物の種類に応じて、その活性が最も有効に発揮される範囲に調整されることが好ましい。具体的には、コリネ型細菌を用いる場合には、反応液のpHを、通常5.0以上、好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上、さらに好ましくは6.5以上であり、一方、通常10以下、好ましくは9.5以下、より好ましくは9.0以下とすることが好ましい。
【0108】
水性媒体のpHは、2,3−ブタンジオール生産反応中に生産される副生物が酸性物質である場合には、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アンモニア(水酸化アンモニウム)、またはそれらの混合物等を添加することによって調整することができる。2,3−ブタンジオール生産反応中に生産される副生物が塩基性物質である場合には、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸等の有機酸、それらの混合物等を添加すること、または二酸化炭素ガスを供給することによって調整することができる。
【0109】
2,3−ブタンジオール生産反応に用いる微生物の菌体量は、特に限定されないが、湿菌体重量として、通常1g/L以上、好ましくは10g/L以上、より好ましくは20g/L以上であり、一方、通常700g/L以下、好ましくは500g/L以下、さらに好ましくは400g/L以下である。
【0110】
2,3−ブタンジオール生産反応の時間は、特に限定はないが、通常1時間以上、好ましくは3時間以上であり、一方、通常168時間以下、好ましくは72時間以下である。
【0111】
2,3−ブタンジオール生産反応の温度は、用いる前記微生物の生育至適温度と同じ温度で行ってもよいが、生育至適温度より高い温度で行うことが有利であり、通常2℃〜20℃、好ましくは7℃〜15℃高い温度で行うことが好ましい。具体的には、コリネ型細菌の場合には、通常30℃以上、好ましくは35℃以上、さらに好ましくは39℃以上であり、一方、通常45℃以下、好ましくは43℃以下、さらに好ましくは41℃以下である。有機化合物生産反応の間、常に30℃〜45℃の範囲とする必要はないが、全反応時間の50%以上、好ましくは80%以上の時間において、上記温度範囲にすることが望ましい。
【0112】
2,3−ブタンジオール生産反応は、通気せず、酸素を供給しない嫌気的雰囲気下で行ってもよいが、通気、攪拌を行なうことが好ましい。具体的には、酸素移動速度として、通常0mmol/L/h以上、好ましくは10mmol/L/h以上、より好ましくは20mmol/L/h以上であり、一方、通常200mmol/L/h以下、好ましくは150mmol/L/h以下、さらに好ましくは100mmol/L/h以下である。
【0113】
本発明の2,3−ブタンジオールの製造方法は、特段の制限はないが、回分反応、半回分反応もしくは連続反応のいずれにも適用することができる。
【0114】
(回収工程)
本発明は、上記の2,3−ブタンジオール生産反応により2,3−ブタンジオールが生成し、反応液中に蓄積させることができる。蓄積させた2,3−ブタンジオールは、常法に従って、水性媒体より回収する工程をさらに含んでいてもよい。具体的には、例えば、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除去し、ナノ濾過膜処理後に蒸留することによって、高純度の2,3−ブタンジオールを回収することができる。
得られた2,3−ブタンジオールは、医薬品や化粧品の中間体原料、印刷用インク、芳香剤、可塑剤、柔軟剤、殺虫剤などの原料として用いることができる。
【0115】
<1,3−ブタジエンの製造方法>
本発明においては、上述した方法により2,3−ブタンジオールを製造した後に、得られた2,3−ブタンジオールを原料として、常法に従って、1,3−ブタジエンを製造することができる。具体的には、例えば、アセチル化した後に酢酸を脱離する方法などが挙げられる。
1,3−ブタジエンは合成ゴムやABS樹脂などの主原料となるほか、ヘキサメチレンジアミンやアジピン酸、1,4−ブタンジオール等といった多種類の化合物を合成可能な出発物質であり、石油由来の既存合成樹脂をバイオマス由来に置き換えられる可能性があるため、その製造技術が注目されている。











































【実施例】
【0116】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0117】
[作製例1]
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株について、以下のようにして、ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子(ldh遺伝子)、ホスホトランスアセチラーゼ遺伝子(pta遺伝子)、アセテートキナーゼ遺伝子(ack遺伝子)、およびCoAトランスフェラーゼ遺伝子(ctf遺伝子)の破壊、さらに、アセトラクテートシンターゼ遺伝子(alsS遺伝子)、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子(alsD)、および2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子(bdhA遺伝子)の導入を行ない、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH株を作製した。
【0118】
<PTA−ACK破壊株の作製>
PTA−ACK破壊株作製の供試菌株は、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH株(LDH破壊株:WO2005−021770)を用いた。該菌株の形質転換に用いるプラスミドDNAは、pTACK1(特開2008−067629)を用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,1970,53,159) により形質転換した大腸菌JM110株から調製した。
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH株の形質転換は、電気パルス法(Res. Microbiol.,1993,144,p181−5)によって行い、得られた形質転換体を50μg/mLカナマイシンを含むLBG寒天培地[トリプトン 10g、イーストエキストラクト 5g 、NaCl 5g、グルコース 20g、および寒天 15gを蒸留水1Lに溶解]に塗抹した。
この培地上に生育した株は、pTACK1がブレビバクテリウム・フラバムMJ233株菌体内で複製不可能なプラスミドであるため、該プラスミドのpta−ack遺伝子とブレビバクテリウム・フラバムMJ233株ゲノム上の同遺伝子との間で相同組み換えを起こした結果、同ゲノム上に該プラスミドに由来するカナマイシン耐性遺伝子およびSacB遺伝子が挿入されているはずである。
【0119】
次に、上記相同組み換え株を50μg/mLカナマイシンを含むLBG培地にて液体培養した。この培養液の菌体数約100万相当分を10%ショ糖含有LBG培地に塗抹にした。結果、2回目の相同組み換えによりSacB遺伝子が脱落しショ糖非感受性となったと考えられる株を数十個得た。
この様にして得られた株の中には、そのpta−ack遺伝子がpTACK1に由来する変異型に置き換わったものと野生型に戻ったものが含まれる。pta−ack遺伝子が変異型であるか野生型であるかの確認は、LBG培地にて培養して得られた菌体を直接PCR反応に供し、pta−ack遺伝子の検出を行うことによって容易に確認できる。pta−ack遺伝子をPCR増幅するためのプライマー(配列番号1および2)を用いて分析すると、野生型では1,645bp、欠失領域を持つ変異型では1,086bpのDNA断片を生成する。上記方法にてショ糖非感受性となった菌株を分析した結果、変異型遺伝子のみを有する株を選抜し、該株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPTA−ACK/ΔLDHと命名した。
【0120】
<CTF破壊株の作製>
CTF破壊株作製の供試菌株は、上記にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPTA−ACK/ΔLDH株を用いた。該菌株の形質転換に用いるプラスミドDNAは、pACH22(特開2008−067629)を用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,1970,53,159) により形質転換した大腸菌JM110株から調製した。
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPTA−ACK/ΔLDH株の形質転換および2回相同組換え体の選抜は、上記PTA−ACK破壊株の作製と同様の方法で行い、数十個のショ糖非感受性コロニーを得た。これらのうちctf遺伝子が変異型であるか野生型であるかの判定は、ctf遺伝子をPCR増幅するためのプライマー(配列番号3および4)を用いて分析することによって行うことができ、野生型では1,228bp、欠失領域を持つ変異型では1,003bpのDNA断片を生成する。上記方法にてショ糖非感受性となった菌株を分析した結果、変異型遺伝子のみを有する株を選抜し、該株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDHと命名した。
【0121】
<ALS、ALDC、BDH増強株の作製>
(A)Fbaプロモーターを用いた発現ベクターの構築
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来のFbaプロモーターを利用したコリネ型細菌においてタンパク質発現が可能なプラスミドベクターは、pTZ4ベクター(特開2006−320208)及びpC3.14ベクター(WO2005−021770)にフルクトース1,6−ビスホスフェイトアルドラーゼのプロモーター配列の領域を増幅したDNA断片を挿入することで作製した。Fbaプロモーター配列は、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株の該遺伝子上流の配列(GenBank Database Accession No.AP005276)を基に遺伝子合成サービス(Genscript社)で合成した(配列番号5)。
これを鋳型として、合成したプライマー(配列番号6および7)を用いたPCRにてFbaプロモーター領域を増幅した。反応液組成:鋳型DNA5μL、PrimeStar DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)0.3μL、5倍濃度添付バッファー10μL、100μM各々プライマー0.3μL、添付dNTPs4μLを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社)を用い、94℃で15秒、54℃で30秒、72℃で30秒からなるサイクルを5回繰り返し、続けて94℃で15秒、60℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを25回繰り返した。さらにサイクルの前に94℃での保温は3分、最終サイクル後に72℃での保温3分をそれぞれ加えた。
得られたFbaプロモーター領域のDNA断片はQIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社)を用いて精製後、制限酵素KpnIおよびPstI、または制限酵素KpnIおよびApaIで切断した。これによって生じた約0.2kbのDNA断片は、それぞれ0.9%アガロースゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することで検出し、MonoFasDNA精製キット(GLサイエンス社)を用いてゲルから回収した。
【0122】
これらのDNA断片を、コリネ型細菌発現ベクターpC3.14を制限酵素KpnIおよびPstIで、コリネ型細菌発現ベクターpTZ4をKpnI及びApaIで切断して調製したDNAと混合し、DNA Ligation Kit Mighty Mix(タカラバイオ社)を用いて連結した。得られた各プラスミドDNAで大腸菌HTS08株(タカラバイオ社)を形質転換し、前者は25μg/mLスペクチノマイシン、後者は50μg/mLカナマイシンを含むLB寒天培地に塗抹した。得られたクローンをTB培地[Terrific Broth 47g/L、Glycerol 5g/L](前者は25μg/mLスペクチノマイシン、後者は50μg/mLカナマイシンを含む)で液体培養した後、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社)を用いて各プラスミドDNAを精製した。得られた各プラスミドDNAは、プライマー(前者は配列番号8および9、後者は配列番号9および10)を用いて、Fbaプロモーター配列の導入を確認し、これらをそれぞれpC3.14F、pTZ4Fと命名した。
【0123】
(B)AlsSD増強用プラスミドの構築
枯草菌(バチルス・サブチリスATCC6051株)株由来alsS遺伝子とalsD遺伝子はオペロンを構成しており(以下、alsSDとも呼ぶ)、この構造のまま両遺伝子のクローニングを行った。
枯草菌(バチルス・サブチリスATCC6051株)をLB培地[Yeast Extract 5g/L、Bacto trypton 10g/L、塩化ナトリウム 10g/L]2mLにて、対数増殖期後期まで培養し、インビトロジェン社 ChargeSwitch gDNA Mini Bacteria Kitのプロトコールに従い、ゲノムDNAを調製した。ゲノムDNAは滅菌水にて1000倍に希釈してPCRの鋳型に利用した。
枯草菌(バチルス・サブチリスATCC6051株)株由来alsSD遺伝子断片の取得は上記で調製したDNAを鋳型とし、既に全塩基配列が報告されているゲノム配列情報(GenBank Database Accession No.AL009126.3)、および該遺伝子の配列情報(GenBank Database Accession No.L04470.1)を基に設計したプライマー(配列番号11および12)を用いたPCRによって行った。反応液組成:鋳型DNA5μL、PrimeStar DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)0.3μL、5倍濃度添付バッファー10μL、100μM各々プライマー0.3μL、添付dNTPs4μLを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社)を用い、94℃で15秒、54℃で30秒、72℃で2分からなるサイクルを5回繰り返し、続けて94℃で15秒、60℃で30秒、72℃で2分のサイクルを25回繰り返した。さらにサイクルの前に94℃での保温は3分、最終サイクル後に72℃での保温3分をそれぞれ加えた。
得られたalsSD遺伝子配列のDNA断片はQIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社)を用いて精製後、制限酵素BamHIおよびApaIで切断した。これによって生じた約2.5kbのDNA断片は0.9%アガロースゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することで検出し、MonoFasDNA精製キット(GLサイエンス社)を用いてゲルから回収した。
【0124】
このDNA断片を、上記(A)にて構築したpC3.14Fを制限酵素BamHIおよびApaIで切断して調製したDNAと混合し、DNA Ligation Kit Mighty Mix(タカラバイオ社)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌HTS08株(タカラバイオ社)を形質転換し、25μg/mLスペクチノマイシンを含むLB寒天培地に塗抹した。得られたクローンをTB培地[Terrific Broth 47g/L、Glycerol 5g/L](25μg/mLスペクチノマイシンを含む)で液体培養した後、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社)を用いてプラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素BamHIおよびApaIで切断することにより約2.5kbの挿入断片が認められたことを確認し、これをpC3.14F−AlsSDと命名した。(図2に構築手順を示す。)
【0125】
(C)BdhA増強用プラスミドの構築
枯草菌(バチルス・サブチリスATCC6051株)株由来bdhA遺伝子断片の取得は上記で調製した枯草菌ゲノムDNAを鋳型とし、既に全塩基配列が報告されているゲノム配列情報(GenBank Database Accession No.AL009126.3)、該遺伝子の配列情報(GenBank Database Accession No.CAB12443.1)を基に設計したプライマー(配列番号13および14)を用いたPCRによって行った。反応液組成:鋳型DNA5μL、PrimeStar DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)0.3μL、5倍濃度添付バッファー10μL、100μM各々プライマー0.3μL、添付dNTPs4μLを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社)を用い、94℃で15秒、54℃で30秒、72℃で1分からなるサイクルを5回繰り返し、続けて94℃で15秒、60℃で30秒、72℃で1分のサイクルを25回繰り返した。さらにサイクルの前に94℃での保温は3分、最終サイクル後に72℃での保温3分をそれぞれ加えた。
得られたbdhA遺伝子配列のDNA断片はQIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社)を用いて精製後、制限酵素BamHIおよびApaIで切断した。これによって生じた約1.1kbのDNA断片は0.9%アガロースゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することで検出し、MonoFasDNA精製キット(GLサイエンス社)を用いてゲルから回収した。
【0126】
このDNA断片を、上記(A)にて構築したpTZ4Fを制限酵素BamHIおよびApaIで切断して調製したDNAと混合し、DNA Ligation Kit Mighty Mix(タカラバイオ社)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌HTS08株(タカラバイオ社)を形質転換し、50μg/mLカナマイシンを含むLB寒天培地に塗抹した。得られたクローンをTB培地[Terrific Broth 47g/L、Glycerol 5g/L](50μg/mLカナマイシンを含む)で液体培養した後、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社)を用いてプラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素BamHIおよびApaIで切断することにより約1.1kbの挿入断片が認められたことを確認し、これをpTZ4F−BdhAと命名した。(図3に構築手順を示す。)
【0127】
(D)AlsSD、BdhA増強株の作製
AlsSD、BdhA増強株作製の供試菌株は、上記にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH株を用いた。該菌株の形質転換に用いるため、上記(B)にて構築したpC3.14F−AlsSDおよび上記(C)にて構築したpTZ4F−BdhAをそれぞれ用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,1970,53,159) により大腸菌JM110株を形質転換し、脱メチル化されたプラスミドDNAを調製した。
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH株の形質転換は、電気パルス法(Res. Microbiol.,1993,144,p181−5)によって行い、得られた形質転換体を50μg/mLカナマイシンおよび10μg/mLストレプトマイシンを含むLBG寒天培地[トリプトン 10g、イーストエキストラクト 5g 、NaCl 5g、グルコース 20g、および寒天 15gを蒸留水1Lに溶解]に塗抹した。この培地上に生育した株は、pC3.14F−AlsSDおよびpTZ4F−BdhAの双方がブレビバクテリウム・フラバムMJ233株菌体内で保持されており、この菌株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH(以下、MBD04とも呼ぶ)と命名した。
【0128】
[作製例2]
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株について、以下のようにして、ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子(ldh遺伝子)、ホスホトランスアセチラーゼ遺伝子(pta遺伝子)、アセテートキナーゼ遺伝子(ack遺伝子)、CoAトランスフェラーゼ遺伝子(ctf遺伝子)、およびピルベートオキシダーゼ遺伝子(poxB遺伝子)の破壊、さらに、アセトラクテートシンターゼ遺伝子(alsS遺伝子)、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子(alsD)、および2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子(bdhA遺伝子)の導入を行ない、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH株を作製した。
【0129】
<PoxB破壊株の作製>
PoxB破壊株作製の供試菌株は、作製例1にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH株を用いた。該菌株の形質転換に用いるプラスミドDNAは、pOXB11(特開2008−067629)を用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,1970,53,159) により形質転換した大腸菌JM110株から調製した。
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH株の形質転換および2回相同組換え体の選抜は、上記PTA−ACK破壊株の作製と同様の方法で行い、数十個のショ糖非感受性コロニーを得た。これらのうちpoxB遺伝子が変異型であるか野生型であるかの判定は、poxB遺伝子をPCR増幅するためのプライマー(配列番号15および16)を用いて分析することによって行うことができ、野生型では1,518bp、欠失領域を持つ変異型では981bpのDNA断片を生成する。上記方法にてショ糖非感受性となった菌株を分析した結果、変異型遺伝子のみを有する株を選抜し、該株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDHと命名した。
【0130】
<ALS、ALDC、BDH増強株の作製>
AlsSD、BdhA増強株作製の供試菌株は、上記にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH株を用いた。該菌株の形質転換は作製例1のAlsSD、BdhA増強株の作製と同様の方法で行い、作製した菌株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH(以下、MBD05とも呼ぶ)と命名した。
【0131】
[作製例3]
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株について、以下のようにして、ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子(ldh遺伝子)、ホスホトランスアセチラーゼ遺伝子(pta遺伝子)、アセテートキナーゼ遺伝子(ack遺伝子)、CoAトランスフェラーゼ遺伝子(ctf遺伝子)、ピルベートオキシダーゼ遺伝子(poxB遺伝子)、およびピルベートカルボキシラーゼ遺伝子(pc遺伝子)の破壊、さらに、アセトラクテートシンターゼ遺伝子(alsS遺伝子)、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子(alsD)、および2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子(bdhA遺伝子)の導入を行ない、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔPC/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH株を作製した。
【0132】
<PC破壊株の作製>
(E)PC破壊用プラスミドの構築
ゲノム上のpc遺伝子プロモーターを置換するためのプラスミドpMJPC17.2(WO2012−128231)を制限酵素BamHIおよびBglIIで切断することにより約0.4kbからなるPCのコーディング領域のアミノ末端側の配列を切り出した。残った約5.9kbのDNA断片を0.9%アガロースゲル電気泳動により分離後、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社)を用いて回収した。回収したDNA断片の末端をDNA Ligation Kit ver.2(タカラバイオ社)を用いて環状化させ、大腸菌DH5α株を形質転換した。このようにして得られた組換え大腸菌を50μg/mLカナマイシンを含むLB寒天培地に塗抹した。得られたクローンをTB培地[Terrific Broth 47g/L、Glycerol 5g/L](50μg/mLカナマイシンを含む)により液体培養した後、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社)を用いてプラスミドDNAを調製した。こうして得られたプラスミドDNAを制限酵素KpnIにより切断した結果、約2.0kbのアミノ末端側の欠損を示す断片が確認され、これをpKB−PC1と命名した。
【0133】
(F)PC増強株の作製
PC破壊株作製の供試菌株は、作製例1にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH株を用いた。該菌株の形質転換に用いるプラスミドDNAは、上記(E)にて構築したpKB−PC1を用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,1970,53,159) により形質転換した大腸菌JM110株から調製した。
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH株の形質転換および2回相同組換え体の選抜は、上記PTA−ACK破壊株の作製と同様の方法で行い、数十個のショ糖非感受性コロニーを得た。これらのうちpc遺伝子が変異型であるか野生型であるかの判定は、pc遺伝子をPCR増幅するためのプライマー(配列番号17および18)を用いて分析することによって行うことができ、野生型では1,297bp、欠失領域を持つ変異型では1,203bpのDNA断片を生成する。上記方法にてショ糖非感受性となった菌株を分析した結果、変異型遺伝子のみを有する株を選抜し、該株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPC/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDHと命名した。
【0134】
<ALS、ALDC、BDH増強株の作製>
AlsSD、BdhA増強株作製の供試菌株は、上記にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPC/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH株を用いた。該菌株の形質転換は作製例1のAlsSD、BdhA増強株の作製と同様の方法で行い、作製した菌株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔPC/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH(以下、MBD06とも呼ぶ)と命名した。
【0135】
[作製例4]
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株について、以下のようにして、アセトラクテートシンターゼ遺伝子(alsS遺伝子)、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子(alsD)、および2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子(bdhA遺伝子)の導入を行ない、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD株を作製した。
【0136】
<ALS、ALDC、BDH増強株の作製>
AlsSD、BdhA増強株作製の供試菌株は、常法(Wolf Hetal,J.Bacteriol.,1983,156(3),p1165−70、Kurusu Yetal.,Agric Biol Chem.,1990,54(2),p443−7)に従って内在性プラスミドを除去(キュアリング)したブレビバクテリウム・フラバムMJ233株を用いた。該菌株の形質転換は作製例1のAlsSD、BdhA増強株の作製と同様の方法で行い、作製した菌株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD(以下、MBD01とも呼ぶ)と命名した。
【0137】
[作製例5]
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株について、以下のようにして、ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子(ldh遺伝子)の破壊、さらに、アセトラクテートシンターゼ遺伝子(alsS遺伝子)、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子(alsD)、および2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子(bdhA遺伝子)の導入を行ない、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔLDH株を作製した。
【0138】
<ALS、ALDC、BDH増強株の作製>
AlsSD、BdhA増強株作製の供試菌株は、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH株(LDH破壊株:WO2005−021770)を用いた。該菌株の形質転換は作製例1のAlsSD、BdhA増強株の作製と同様の方法で行い、作製した菌株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔLDH(以下、MBD02とも呼ぶ)と命名した。
【0139】
[作製例6]
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株について、以下のようにして、ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子(ldh遺伝子)、ホスホトランスアセチラーゼ遺伝子(pta遺伝子)、およびアセテートキナーゼ遺伝子(ack遺伝子)の破壊、さらに、アセトラクテートシンターゼ遺伝子(alsS遺伝子)、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子(alsD)、および2,3−ブタンジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子(bdhA遺伝子)の導入を行ない、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔPTA−ACK/ΔLDH株を作製した。
【0140】
<ALS、ALDC、BDH増強株の作製>
AlsSD、BdhA増強株作製の供試菌株は、作製例1で作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔPTA−ACK/ΔLDH株を用いた。該菌株の形質転換は実施例1のAlsSD、BdhA増強株の作製と同様の方法で行い、作製した菌株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔPTA−ACK/ΔLDH(以下、MBD03とも呼ぶ)と命名した。
【0141】
[実施例1]
<MBD04株の増殖評価>
作製例1にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH(MBD04)株の増殖評価を行うため、以下の通り種培養を行って菌体を調製し、その後、本培養としてフラスコ培養を実施した。
【0142】
(A)種培養
種培養を行うため、CGXII培地(硫酸アンモニウム 20g/L、尿素 5g/L、リン酸二水素カリウム 1g/L、リン酸水素二カリウム 1g/L、MOPS 42g/L、硫酸マグネシウム・7水和物 0.25g/L、塩化カルシウム 10mg/L、硫酸第一鉄・7水和物 10mg/L、硫酸マンガン・5水和物 10mg/L、硫酸亜鉛・7水和物 1mg/L、硫酸銅 0.2mg/L、塩化ニッケル・6水和物 0.02mg/L、ビオチン 0.2mg/L、グルコース 40g/L、プロトカテク酸 30mg/L、pH7.0)2mLを15mL容の試験用培養チューブに入れ、無菌濾過した50mg/mlカナマイシン水溶液および25mg/mlストレプトマイシン水溶液を2μLずつ添加し、MBD04株を接種して一昼夜、32℃にて振とう培養した。
【0143】
(B)本培養
本培養を行うため、CGXII培地(上記と同様にカナマイシン及びストレプトマイシンを含む)50mlを200mlのノーマルフラスコに入れ、OD660の吸光度が0.1となるように得られた種培養液を添加、30℃にて振とう培養した。培養開始24時間後に80%(w/v)グルコース溶液を2.5ml添加した。また、培養開始後48時間及び69時間の段階で、サンプリングを行い、OD660の吸光度を測定した。
その結果、培養開始48時間後のOD660の値は13.1、培養開始69時間後のOD660の値は14.7であった。
【0144】
[実施例2]
<MBD05株の増殖評価>
作製例2にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH(MBD05)株を使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。その結果、培養開始48時間後のOD660の値は13.9、培養開始69時間後のOD660の値は14.2であった。
【0145】
[実施例3]
<MBD06株の増殖評価>
作製例3にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔPC/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH(MBD06)株を使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。その結果、培養開始48時間後のOD660の値は14.7、培養開始69時間後のOD660の値は16.4であった。
【0146】
[比較例1]
<MBD01株の増殖評価>
作製例4にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD(MBD01)株を使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。その結果、培養開始48時間後のOD660の値は17.1、培養開始69時間後のOD660の値は16.1であった。
【0147】
[比較例2]
<MBD02株の増殖評価>
作製例5にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔLDH(MBD02)株を使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。その結果、培養開始48時間後のOD660の値は9.34、培養開始69時間後のOD660の値は9.50であった。
【0148】
[比較例3]
<MBD03株の増殖評価>
作製例6にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔPTA−ACK/ΔLDH(MBD03)株を使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。その結果、培養開始48時間後のOD660の値は10.6、培養開始69時間後のOD660の値は11.0であった。
【0149】
実施例1〜3、比較例1〜3の結果として、培養開始48時間後および69時間後のOD660の値を表1にまとめた。
【0150】
【表1】
【0151】
表1より、2,3−ブタンジオール生産菌株であるMBD01株に対してldh遺伝子を破壊したMBD02株は、MBD01株に比べて増殖速度が大きく低下し、培養69時間後の到達OD660で比較して59%程度となることがわかった。また、MBD02株に対してさらにpta−ack遺伝子を破壊したMBD03株は、MBD02株よりもやや増殖速度が回復するものの、培養69時間後の到達OD660で比較して約16%向上するにとどまった。
一方、MBD03株に対してさらにctf遺伝子を破壊したMBD04株は、MBD02株に比べて増殖速度が大幅に回復し、培養69時間後の到達OD660で比較して約55%向上した。MBD04株に対してさらにpoxB遺伝子を破壊したMBD05株は、MBD04株と同等の増殖速度であった。MBD05株に対してさらにpc遺伝子を破壊したMBD06株は、MBD04株よりもさらに増殖速度が回復し、培養69時間後の到達OD660で比較してMBD02株に対して約73%向上、MBD01株と同等にまで回復した。
以上より、2,3−ブタンジオール生産菌株において、ldh遺伝子を破壊すると増殖が悪化するものの、pta−ack遺伝子およびctf遺伝子を破壊することで大幅に増殖速度が回復、さらにpc遺伝子を破壊すると元の菌株と同等にまで回復するということが明らかになった。これらの遺伝子改変は副生物の低減だけでなく、2,3−ブタンジオール生産菌株の増殖能を維持する上でも重要となる。
【0152】
[実施例4]
<MBD05株の2,3−ブタンジオール生産評価>
作製例2にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH(MBD05)株の2,3−ブタンジオール生産評価を行うため、以下の通り種培養を行って菌体を調製し、その後、本培養と同時に2,3−ブタンジオール生産反応を実施した。
【0153】
(G)種培養
種培養を行うため、CGXII培地(硫酸アンモニウム 20g/L、尿素 5g/L、リン酸二水素カリウム 1g/L、リン酸水素二カリウム 1g/L、MOPS 42g/L、硫酸マグネシウム・7水和物 0.25g/L、塩化カルシウム 10mg/L、硫酸第一鉄・7水和物 10mg/L、硫酸マンガン・5水和物 10mg/L、硫酸亜鉛・7水和物 1mg/L、硫酸銅 0.2mg/L、塩化ニッケル・6水和物 0.02mg/L、ビオチン 0.2mg/L、グルコース 40g/L、プロトカテク酸 30mg/L、pH7.0)2mLを15mL容の試験用培養チューブに入れ、無菌濾過した50mg/mlカナマイシン水溶液および25mg/mlストレプトマイシン水溶液を2μLずつ添加し、MBD05株を接種して一昼夜、32℃にて振とう培養した。
【0154】
(H)2,3−ブタンジオール生産反応
本培養と同時に2,3−ブタンジオール生産反応を行うため、CGXII培地(上記と同様にカナマイシン及びストレプトマイシンを含む)50mlを200mlのノーマルフラスコに入れ、OD660の吸光度が0.2となるように上記(G)で得られた種培養液を添加、30℃にて振とう培養した。培養開始24時間後、および42時間後に80%(w/v)グルコース溶液を2.5ml添加した。また、培養開始40時間後及び64時間後の段階で、サンプリングを行い、遠心分離後に培養上清を回収、蒸留水で10倍に希釈して液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーによる分析を行った。
それぞれの分析条件は以下の通りである。乳酸、酢酸、コハク酸は液体クロマトグラフィー分析により定量し、アセトイン、(Meso)−2,3−ブタンジオール、(R,R)または(S,S)−2,3−ブタンジオールはガスクロマトグラフィー分析により定量した。
【0155】
(液体クロマトグラフィー分析条件)
ポンプ:日立ハイテクノロジーズ社製 L−2130
カラムオーブン:日立ハイテクノロジーズ社製 L−2350
UV検出器:日立ハイテクノロジーズ社製 L−2400
RI検出器:日立ハイテクノロジーズ社製 L−2490
カラム:信和化工社製 ULTRON PS−80H 8.0ID×300mmL
温度:60℃
溶離液:0.11質量%過塩素酸溶液 1.0mL/分
検出方法:UV(210nm),RI
注入量:10μL
(ガスクロマトグラフィー分析条件)
装置:島津製作所製 GC17A
カラム:DB−17(0.25mmφ×30m 膜厚0.25μm)
carrier:He 1.0mL/min
スプリット比:1/50
注入口温度:260℃
検出器温度:280℃
カラム温度:50℃→280℃ 10℃/min
検出器:FID
注入量:1μL
【0156】
その結果、反応開始40時間後の乳酸は0.41g/L、酢酸は1.21g/L、コハク酸は4.67g/L、アセトインは2.10g/L、(Meso)−2,3−ブタンジオールは1.69g/L、(R,R)または(S,S)−2,3−ブタンジオールは9.08g/L、反応開始64時間後の乳酸は0.75g/L、酢酸は1.27g/L、コハク酸は1.55g/L、アセトインは3.87g/L、(Meso)−2,3−ブタンジオールは3.33g/L、(R,R)または(S,S)−2,3−ブタンジオールは12.4g/Lであった。
【0157】
[実施例5]
<MBD06株の2,3−ブタンジオール生産評価>
作製例3にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔPC/ΔPoxB/ΔCTF/ΔPTA−ACK/ΔLDH(MBD06)株を使用したこと以外は、実施例4と同様に行った。その結果、反応開始40時間後の乳酸は0.22g/L、酢酸は1.16g/L、コハク酸は4.29g/L、アセトインは1.11g/L、(Meso)−2,3−ブタンジオールは1.49g/L、(R,R)または(S,S)−2,3−ブタンジオールは11.0g/L、反応開始64時間後の乳酸は0.58g/L、酢酸は1.24g/L、コハク酸は1.24g/L、アセトインは2.82g/L、(Meso)−2,3−ブタンジオールは2.79g/L、(R,R)または(S,S)−2,3−ブタンジオールは13.4g/Lであった。
【0158】
[比較例4]
<MBD01株の2,3−ブタンジオール生産評価>
作製例4にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD(MBD01)株を使用したこと以外は、実施例4と同様に行った。その結果、反応開始40時間後の乳酸は11.4g/L、酢酸は1.02g/L、コハク酸は1.32g/L、アセトインは2.82g/L、(Meso)−2,3−ブタンジオールは1.02g/L、(R,R)または(S,S)−2,3−ブタンジオールは9.87g/L、反応開始64時間後の乳酸は11.6g/L、酢酸は1.03g/L、コハク酸は0.04g/L、アセトインは4.16g/L、(Meso)−2,3−ブタンジオールは1.11g/L、(R,R)または(S,S)−2,3−ブタンジオールは10.2g/Lであった。
【0159】
[比較例5]
<MBD02株の2,3−ブタンジオール生産評価>
作製例5にて作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/BdhA/AlsSD/ΔLDH(MBD02)株を使用したこと以外は、実施例4と同様に行った。その結果、反応開始40時間後の乳酸は0.12g/L、酢酸は5.18g/L、コハク酸は1.90g/L、アセトインは0.60g/L、(Meso)−2,3−ブタンジオールは0.53g/L、(R,R)または(S,S)−2,3−ブタンジオールは4.32g/L、反応開始64時間後の乳酸は0.36g/L、酢酸は5.22g/L、コハク酸は0.15g/L、アセトインは1.15g/L、(Meso)−2,3−ブタンジオールは0.95g/L、(R,R)または(S,S)−2,3−ブタンジオールは4.86g/Lであった。
【0160】
実施例4、5、比較例4、および5の結果として、培養開始40時間後および64時間後の乳酸、酢酸、コハク酸、アセトイン、(Meso)−2,3−ブタンジオール、(R,R)または(S,S)−2,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール合計値を表2にまとめた。
【0161】
【表2】
【0162】
表2より、2,3−ブタンジオール生産菌株であるMBD01株に対してldh遺伝子を破壊したMBD02株は、MBD01株と比べて乳酸の副生が大幅に低減するものの、2,3−ブタンジオール((Meso)、(R,R)、(S,S)の合計)の生産性も低下し、反応64時間後の蓄積濃度で比較して51%程度となってしまうことがわかった。これは、ldh遺伝子を破壊したことによって、増殖速度が低下し、菌体量が不足していることが影響していると考えられる。また、MBD02株は、MBD01株と比較して酢酸、コハク酸の副生が増加した。
一方、MBD02株に対してさらにpta−ack遺伝子、ctf遺伝子、およびpoxB遺伝子を破壊したMBD05株は、MBD02株と比べて酢酸の副生が大幅に低減し、反応64時間後の蓄積濃度で比較して約76%の低減化を達成した。また、2,3−ブタンジオール((Meso)、(R,R)、(S,S)の合計)の生産性も大きく向上し、反応64時間後の蓄積濃度で比較してMBD01株に対して約39%向上した。ただし、MBD02株よりもさらにコハク酸の副生が増加した。
MBD05株に対してさらにpc遺伝子を破壊したMBD06株は、MBD05株と比べてコハク酸の副生が低減し、反応64時間後の蓄積濃度で比較して約20%の低減化を達成した。また、2,3−ブタンジオール((Meso)、(R,R)、(S,S)の合計)の生産性もさらに向上し、反応64時間後の蓄積濃度で比較してMBD01株に対して約43%向上した。
以上より、2,3−ブタンジオール生産菌株において、ldh遺伝子、pta−ack遺伝子、ctf遺伝子、poxB遺伝子、pc遺伝子を破壊することによって、乳酸、酢酸、およびコハク酸の副生を低減することができ、2,3−ブタンジオールの生産性を向上できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明によれば、発酵の進行とともに微生物の増殖速度の著しい低下を伴うことなく、副生物の生成を低減して2,3−ブタンジオールの生産性が向上した微生物を提供することができる。
このような本発明の微生物を用いることにより、2,3−ブタンジオールを効率よくかつ安全に製造することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]