(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-229619(P2015-229619A)
(43)【公開日】2015年12月21日
(54)【発明の名称】二酸化チタンとグラフェンとの複合体、およびその製造方法。
(51)【国際特許分類】
C01B 31/02 20060101AFI20151124BHJP
C01G 23/053 20060101ALI20151124BHJP
【FI】
C01B31/02 101Z
C01G23/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-116898(P2014-116898)
(22)【出願日】2014年6月5日
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100072039
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 洵
(74)【代理人】
【識別番号】100123722
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 幹
(74)【代理人】
【識別番号】100157738
【弁理士】
【氏名又は名称】茂木 康彦
(74)【代理人】
【識別番号】100158377
【弁理士】
【氏名又は名称】三谷 祥子
(72)【発明者】
【氏名】谷池 俊明
【テーマコード(参考)】
4G047
4G146
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CB06
4G047CC03
4G146AA01
4G146AA02
4G146AB07
4G146AD17
4G146AD23
4G146AD24
4G146AD35
4G146CB09
4G146CB10
4G146CB19
4G146CB32
4G146CB35
4G146CB36
(57)【要約】
【課題】新規なカーボンナノ複合体としての、二酸化チタンとグラフェンとの複合体の提供。
【解決手段】以下の工程で二酸化チタンとグラフェンとの複合体を製造する。
工程1:チタンテトラアルコキシドとグラファイト粉末とを混合してグラファイト懸濁液を得る工程。
工程2:工程1で得られたグラファイト懸濁液を超音波処理してグラフェンを剥離する工程。
工程3:工程2の後、沈降画分を除いてグラフェンとチタンテトラアルコキシドを含む分散液を回収する工程。
工程4:工程3で得られた分散液にグラフェン剥離剤を滴下しながら撹拌し、ゾル・ゲル反応を進行させる工程。
工程5:工程4を経た混合物を乾燥して二酸化チタンとグラフェンとの複合体を回収する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタンとグラフェンとの複合体。
【請求項2】
以下の工程を含むことを特徴とする、二酸化チタンとグラフェンとの複合体の製造方法。
工程1:チタンアルコキシドとグラファイト粉末とを混合してグラファイト懸濁液を得る工程。
工程2:工程1で得られたグラファイト懸濁液を超音波処理してグラフェンを剥離する工程。
工程3:工程2の後、沈降画分を除いてグラフェンとチタンアルコキシドを含む分散液を回収する工程。
工程4:工程3で得られた分散液にグラフェン剥離剤を滴下しながら撹拌し、ゾル・ゲル反応を進行させる工程。
工程5:工程4の後、分散液を乾燥して二酸化チタンとグラフェンとの複合体を回収する工程。
【請求項3】
グラフェン剥離剤として、ベンジルアミンを用いることを特徴とする、請求項2に記載の二酸化チタンとグラフェンとの複合体の製造方法。
【請求項4】
グラフェン剥離剤として、ジメチルスルホキシドと触媒量のフタル酸を用いることを特徴とする、請求項2に記載の二酸化チタンとグラフェンとの複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタンとグラフェンとの複合体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素は人類が最も長く使用してきた材料の一つである。炭素材料としては、木炭やコークスなどの燃料、カーボンブラックや活性炭、黒鉛などの一般材料、炭素繊維やガラス状炭素などの機能性材料など、様々な製品が知られている。そして近年は最も新しい炭素材料として、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェンといった、いわゆるナノ材料が提案され、これらを人工的に製造することが可能となった。これらは炭素結晶が二次元に層状に、あるいは三次元に多面体状あるいは中空形状に成長・延長した構造を有する。これらの構造における外殻や層の厚みは、理論上は、炭素原子1つ分であり、地球上でもっとも薄いものと言える。これらカーボンナノ材料には、そのユニークな形状に起因する、従来の炭素材料には無い特殊な化学的・物理的性質が認められる。それゆえ、カーボンナノ材料は、これまでの炭素材料に替わる新しい材料として、様々な分野での利用が期待されている。
【0003】
カーボンナノ材料の利用として、各種金属化合物、セラミックスなどの無機材料とカーボンナノ材料との複合化が、熱心に検討されている。複合化によって、軽量で、従来にない優れた導電性、熱導電性、強度を有するナノ複合体が得られると期待されている。
【0004】
このようなナノ複合体に用いる無機材料として注目されるものの一つが、導電性あるいは半導電性無機材料である。例えば、酸化チタンは幾つかの異なる結晶構造を持ち、それぞれが工業材料として優れた性質を示す。酸化チタンの用途は、顔料や着色剤、触媒、導電材料、電池材料など、幅広い。カーボンナノ材料と酸化チタン等の導電性あるいは半導電性無機材料とのナノ複合体は、広範囲の応用が期待できる新規材料として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−515132号公報
【特許文献2】特表2013−533383号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.P. Economopoulos et al., ACS Nano, 2010, 4, 7499.
【非特許文献2】Y.Hemandez et al., Nature Natotechnology, 2008, 3, 563-568
【非特許文献3】R. Hao et al., Chem. Commun., 2008, 48, 6576-6578"
【0007】
カーボンナノ材料と二酸化チタンとのナノ複合体としては、カーボンナノチューブ(CNT)と二酸化チタンとのナノ複合体については比較的多くの開発例が知られている(特許文献1,2)。しかし、グラフェンのような他のカーボンナノ材料のナノ複合体に関する報告例は、それほど多くない。
【0008】
グラフェンは興味深いナノマテリアルである。まず、グラフェンの形状が特殊である。グラフェンはそれ自体が地球上最も薄い材料である。グラフェンを構成する炭素原子は、二次元方向にハニカム格子状に共有結合している。グラフェンの厚みは、理論上は炭素原子1個分にすぎない。そして、グラフェンの物性も特殊である。グラフェンは、他のカーボンナノマテリアル、例えばカーボンナノチューブと比べても、より大きな表面積、より高い導電性、より高い熱伝導性、優れた機械的安定性、より高い耐熱性、より低い密度を有する。このような独自の形状や物性を持つグラフェンには、従来の炭素系材料では実現できなかった微細な工業製品への応用が可能である。そこで、より効率のよいグラフェンの製造方法と、グラフェンの様々な分野での応用が盛んに研究されている。
【0009】
ナノマテリアルの場合、理論的には、より小さな部位からより大きな部位へ成長させることによって目的物を製造する方法、いわゆるボトムアップ法と、より大きな部位からより小さな部位を抽出することによって目的物を製造する方法、いわゆるトップダウン法の両方が検討されている。グラフェンの場合は、トップダウン的法製造方法である、グラファイト結晶からグラフェン膜を剥離する方法が検討されてきた。グラファイトは比較的安価で大量に生産されている炭素材料である。理論上は、大量のグラファイトの積層結晶を単層に分離すれば、理論的には、大量のグラフェンが得られる。このようなグラフェンの剥離方法として、比較的大規模化に適しており単純な設備で行うことのできる方法として、化学剥離法が提案されている。(非特許文献4,5,6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の発明者は、さらに新規なナノ材料を求めるべく、カーボンナノ材料と導体・半導体材料とのナノ複合体として、これまでの検討が乏しかった、グラフェンと導体・半導体材料とのナノ複合体に注目した。そして、グラフェンの比較的低コストの製造方法である化学剥離法を、このナノ複合体と関連付けて検討した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
その結果、化学剥離法によるグラファイトからのグラフェン剥離と、グラフェンと酸化チタンとのナノ複合化とを、一連の工程で行うという、画期的な手法を見出した。
【0012】
すなわち本発明は以下のものである。
【0013】
(発明1)二酸化チタンとグラフェンとの複合体。
【0014】
(発明2)以下の工程を含むことを特徴とする、二酸化チタンとグラフェンとの複合体の製造方法。(工程1)チタンテトラアルコキシドとグラファイト粉末とを混合してグラファイト懸濁液を得る工程。
(工程2)工程1で得られたグラファイト懸濁液を超音波処理してグラフェンを剥離する工程。(工程3)工程2の後、沈降画分を除いてグラフェンとチタンテトラアルコキシドを含む分散液を回収する工程。(工程4)工程3で得られた分散液にそれ自体が触媒となるグラフェン剥離剤あるいは少量の触媒を含むグラフェン剥離剤を滴下しながら撹拌し、ゾル・ゲル反応を進行させる工程。(工程5)工程4を経た混合物を乾燥して二酸化チタンとグラフェンとの複合体を回収する工程。
【0015】
(発明3)グラフェン剥離剤として、ベンジルアミンを用いることを特徴とする、上記二酸化チタンとグラフェンとの複合体の製造方法。
【0016】
(発明4)グラフェン剥離剤として、ジメチルスルホキシドと少量のフタル酸を用いることを特徴とする、上記二酸化チタンとグラフェンとの複合体の製造方法。フタル酸の使用量は、触媒量に相当する量であって、少量である。
【0017】
(二酸化チタンとグラフェンとの複合体)本発明の複合体の出発物質は、チタンテトラアルコキシドとグラファイトである。チタンテトラアルコキシドはTi(OR)4(Rは炭素数2〜4のアルキル基)で表される液状化合物である。好ましいチタンテトラアルコキシドは、チタンテトラエトキシド:Ti(OEt)4(Et:エチル基)、チタンテトラノルマルプロポキシド:Ti(OnPr)4(nPr:n−プロピル基)、チタンテトライソ プロポキシド:Ti(OiPr)4(iPr:i−プロピル基)、チタンテトラノルマルブトキシド:Ti(OnBu)4(nBu:n−ブチル基)、チタンテトライソブトキシド:Ti(OiBu)4(iBu:i−ブチル基)である。チタンテトラアルコキシドのグラフェン剥離能を確実に発現させるためには上記チタンテトラアルコキシドは純度の高い製品を使用する必要がある。
【0018】
(二酸化チタンとグラフェンとの複合体の製造方法)本発明の複合体は以下の工程で製造することができる。
【0019】
(工程1)チタンテトラアルコキシドとグラファイト粉末を混合してグラファイト懸濁液を作成する。グラファイト粉末の濃度は、チタンテトラアルコキシド100mlに対して200〜2000mgが適当である。
【0020】
(工程2)得られたグラファイト懸濁液を超音波処理することによって、グラファイトの層状結晶から単層のグラフェンが剥離し、チタンテトラアルコキシド中に分散する。超音波処理の条件は、周波数、温度、処理時間の組合せによって、グラフェンの収率が最大になるように調節される。周波数は28〜68kHzの範囲から選択できるが、繊細な対象物の洗浄に用いられる40kHzが一般的である。温度は10〜60℃の範囲から選択できる。処理時間は長いほどグラフェンの剥離が進行し、グラフェンの収率が高くなる。しかし、グラフェン膜の欠陥を防ぐために、処理時間は1〜3時間が一般的である。
【0021】
(工程3)工程2の後、グラフェンが剥離せずグラファイト状態を維持した画分は、やがて沈降する。沈降した画分を除き、チタンテトラアルコキシドとグラフェンを含む分散液を回収する。
【0022】
(工程4)工程3で得られた分散液にグラフェン剥離剤を滴下しながら撹拌する。グラフェン剥離剤としては、化学剥離法によるグラフェン製造で従来用いられている剥離剤である、ベンジルアミン又はジメチルスルホキシドが有効である。ジメチルスルホキシドを用いる場合にはフタル酸を触媒として併用する。フタル酸の量は触媒量の範囲から選択する。使用する剥離剤の総量は、分散液の5〜20%とする。剥離剤の滴下と撹拌に従って、分散液の外観変化、粘度の変化から、この工程でゾル・ゲル反応が進行すると推測される。
【0023】
(工程5)工程4の後、分散液を乾燥して二酸化チタンとグラフェンとの複合体を回収する。
【0024】
本発明の複合体は金属光沢を示す固体である。通常半透明の黒色を示すグラフェン膜とは外見が全く異なる。金属光沢は、半導体としての二酸化チタンと半金属としてのグラフェンが高度に接合することによって生成した自由電子に由来すると推測される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】グラフェンの化学剥離法を模式的に表した図。(a)は原料であるグラファイトを表す。(b)はグラファイトと剥離剤を混合することによってグラファイトの層間に剥離剤が侵入した状態を表す。(c)はグラフェンと剥離剤の混合物に超音波処理することによってグラフェンが剥離した状態を表す。
【
図4】実施例1の工程5で得られた複合体の写真。"
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施例1](工程1)5mlのTi(OnBt)4と、グラファイト粉末40mgを混合し、Ti(OnBt)4中にグラファイト粉末を懸濁液させた。(工程2)得られた懸濁液を40kHz,50℃、2時間の条件で超音波処理した。Ti(OnBt)4に、グラフェンと、未剥離のグラファイトが含まれる分散液が得られた。(工程3)得られた分散液を2000rpm、2時間の条件で遠心分離し、分散液の沈降画分を除いてグラフェンとTi(OnBt)4を含む分散液を回収した。分散液の外観を
図3に示す。(工程4)回収した分散液に、撹拌しながらベンジルアミンを滴下した。30分間の撹拌中に、分散液に対して10%量(体積比)のベンジルアミンを滴下した。更に撹拌し、分散液に変化が見られなくなった時点で反応を終了した。(工程5)得られた混合物を60℃で真空乾燥し、二酸化チタンとグラフェンの複合体を回収した。得られた複合体の外観を
図4に示す。
図4に見られる、金属光沢を示す複合体を回収した。
[実施例2]実施例1において、Ti(OnBt)4及びベンジルアミンに替えて、Ti(OEt)4及び、3.59mol/lの濃度でフタル酸を含むジメチルスルホキシド(ジメチルスルホキシド5mlあたり2.98gのフタル酸を含む)を用いたこと以外は同じ条件で、本発明の複合体を製造した。実施例1と同様に、金属光沢を示す複合体を回収した。
[比較例]実施例1において、Ti(OnBt)4に換えて、Si(OEt)4を用いた。工程2でグラファイトからのグラフェンの剥離が起こらず、グラフェンを含む分散液を製造することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、新規なカーボンナノ複合体を製造できた点で画期的である。本発明により、カーボンナノ材料であるグラフェンの応用範囲が拡大する。本発明で、新規なカーボンナノ複合体を、化学剥離法によるグラフェンの製造と一連の工程で製造したことも、画期的である。本発明の二酸化チタンとグラフェンとの複合体は、比較的簡単な設備で製造することができる。本発明は低コストのカーボンナノ複合体の製造方法を提供することができる。本発明の二酸化チタンとグラフェンとの複合体は、電極、光触媒、燃料電池等の用途で特異な性能を発揮すると期待される。
【符号の説明】
【0028】
1 グラフェン
2 剥離剤
3 グラファイト