【解決手段】下記のポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を(A)/(B)が90/10〜10/90(質量比)の範囲で含有する水性分散体。ポリオレフィン樹脂(A):オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とが共重合されてなり、前記オレフィン成分がプロピレン(a1)とプロピレン以外のオレフィン(a2)とを含有し、プロピレン(a1)とプロピレン以外のオレフィン(a2)との質量比(a1/a2)が50/50〜99/1である;ポリエステル樹脂(B):重量平均分子量が10,000以上、ガラス転移温度が30℃以下である
プロピレン(a1)とプロピレン以外のオレフィン(a2)との合計100質量部に対し、共重合成分としてさらに不飽和カルボン酸成分(a3)を0.5質量部以上含有する請求項1または2記載の水性分散体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の水性分散体は、ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を含有するものであって、(A)/(B)が90/10〜10/90(質量比)であり、ポリオレフィン樹脂(A)およびポリエステル樹脂(B)のそれぞれが下記[I]、[II]を満たす水性分散体である。
[I]:ポリオレフィン樹脂(A)が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とが共重合されてなり、前記オレフィン成分がプロピレン(a1)とプロピレン以外のオレフィン(a2)とを含有し、プロピレン(a1)とプロピレン以外のオレフィン(a2)との質量比(a1/a2)が50/50〜99/1である
[II]:ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量が10,000以上、ガラス転移温度が30℃以下である
【0013】
本発明の水性分散体は、含有するポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との質量比(A)/(B)が90/10〜10/90である必要があり、80/20〜20/80であることが好ましく、75/25〜25/75であることがより好ましく、70/30〜30/70であることがさらにより好ましい。ポリオレフィン樹脂(A)の含有量が90質量%を超えるものであると、得られる被膜の接着性、耐湿熱性が劣るものとなり、ポリオレフィン樹脂(A)の含有量が10質量%未満であると、得られる被膜のポリプロピレン(PP)製基材やシクロオレフィン系基材への密着性、耐水性、耐薬品性、低温造膜性、接着性、耐湿熱性が劣るものとなる。
【0014】
本発明の水性分散体で用いるポリオレフィン樹脂(A)は、プロピレン(a1)とプロピレン以外のオレフィン(a2)との質量比(a1/a2)が、ポリオレフィン樹脂(A)の分散粒子径を小さくする観点および被膜のPP製基材、シクロオレフィン系基材への接着性を向上させる観点から、50/50〜99/1であることが必要であり、55/45〜95/5であることが好ましく、60/40〜80/20であることがより好ましい。プロピレン(a1)の割合が50質量%未満であると、PP製基材やシクロオレフィン系基材への密着性、耐水性、耐薬品性、低温造膜性、接着性が低下し、一方、99質量%を超えると、ポリオレフィン樹脂(A)の分散粒子径が大きくなり、樹脂の水性分散化が困難となることがある。
【0015】
プロピレン以外のオレフィン(a2)としては、エチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、ノルボルネン類等のアルケン類や、ブタジエンやイソプレン等のジエン類が挙げられる。中でも、ポリオレフィン樹脂の製造のし易さ、水性化のし易さ、各種材料に対する接着性、特にPP製基材に対する接着性、ブロッキング性等の点から、ブテン(1−ブテン、イソブテンなど)であることが好ましく、さらにはシクロオレフィン系基材に対する接着性がより向上する点から、ポリオレフィン樹脂(A)を構成するオレフィン成分がプロピレンとブテンのみからなることが最も好ましい。
【0016】
なお、プロピレン以外のオレフィン(a2)としてのエチレンは、オレフィン成分中における含有量が、10質量%以下であることが好ましく、5質量%であることがより好ましく、プロピレン以外のオレフィン(a2)としてエチレンを含まないことがさらに好ましい。一般的に、ポリオレフィン樹脂がエチレンを含むと、後述するような方法で不飽和カルボン酸成分を共重合させる際に、競争的に架橋反応が起こることが知られている。架橋反応が進行すると、酸変性により得られるポリオレフィン樹脂の高分子量化が起こり、酸変性の操業性が低下することがある。またPP製基材やシクロオレフィン系基材への接着性が低下したり、水性分散体中のポリオレフィン樹脂の粒子径が増大することがあり、さらには、エチレンの含有量によっては、ポリオレフィン樹脂の水性分散化が困難になることがある。そのため、本発明の水性分散体においては、ポリオレフィン樹脂(A)のオレフィン成分は、エチレン以外で構成されることが好ましい。
【0017】
ポリオレフィン樹脂(A)において、各成分の共重合形態は限定されず、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられるが、重合のし易さの点から、ランダム共重合されていることが好ましい。また、必要に応じて複数種のポリオレフィン樹脂を混合使用してもよい。
【0018】
本発明におけるポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸成分(a3)を共重合成分として含有する。共重合成分として用いる不飽和カルボン酸成分(a3)の含有量は、水性媒体への分散性の観点から、プロピレン(a1)とプロピレン以外のオレフィン(a2)との合計100質量部(a1+a2)に対し0.5質量部以上であることが好ましい。とりわけ、0.5〜15質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましく、0.5〜8質量部であることがさらにより好ましく、1〜7質量部であることが特に好ましく、1.5〜7質量部であることが最も好ましい。共重合成分としての不飽和カルボン酸成分(a3)の含有量が0.5質量部未満であると、ポリオレフィン樹脂(A)を水性化することが困難となる場合があり、一方、含有量が15質量部を超えると、ポリオレフィン樹脂(A)の水性化は容易になるが、PP製基材やシクロオレフィン系基材への接着性が低下することがある。
【0019】
共重合成分として用いる不飽和カルボン酸成分(a3)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸、アリルコハク酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等のように、分子内(モノマー単位内)に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物も用いることができる。中でも、プロピレン(a1)とプロピレン以外のオレフィン(a2)とを含有するポリオレフィン樹脂(以下、未変性ポリオレフィン樹脂と称する)への導入のし易さの点から、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
したがって、本発明では、上述のようにプロピレン以外のオレフィン(a2)としてブテンが好適であることから、ポリオレフィン樹脂として、(a1)/(a2)/(a3)=プロピレン/ブテン/無水マレイン酸三元共重合体を使用することが最も好ましい。
【0020】
共重合成分としての不飽和カルボン酸成分(a3)は、ポリオレフィン樹脂(A)中に共重合されていればよく、その形態は限定されるものではない。例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
なお、ポリオレフィン樹脂(A)に導入された酸無水物成分は、乾燥状態では酸無水物構造を取りやすく、後述する塩基性化合物を含有する水性媒体中ではその一部または全部が開環し、カルボン酸またはその塩となる傾向がある。
【0021】
共重合成分としての不飽和カルボン酸成分(a3)を、未変性ポリオレフィン樹脂へ導入する方法は特に限定されず、例えば、ラジカル発生剤存在下、未変性ポリオレフィン樹脂と不飽和カルボン酸成分とを未変性ポリオレフィン樹脂の融点以上に加熱溶融して反応させる方法や、未変性ポリオレフィン樹脂と不飽和カルボン酸成分を有機溶剤に溶解させた後、ラジカル発生剤の存在下で加熱、攪拌して反応させる方法等により、未変性ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸成分をグラフト共重合する方法が挙げられる。
グラフト共重合に使用するラジカル発生剤としては、例えば、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジラウリルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、エチルエチルケトンパーオキシド、ジ−tert−ブチルジパーフタレート等の有機過酸化物類や、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類が挙げられる。これらは反応温度によって、適宜選択して使用すればよい。
【0022】
本発明におけるポリオレフィン樹脂(A)には、必要に応じて上記以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類並びにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられ、これらの混合物を用いてもよい。これら他の成分の含有量は、一般に、本発明のポリオレフィン樹脂(A)の10質量%以下であることが好ましい。
【0023】
本発明では、ポリオレフィン樹脂(A)として市販のものを用いてもよい。一例として、住友化学社製のタフセレンシリーズ、三井化学社製のタフマーシリーズ、REXtac社製のAPAOシリーズ(非晶性ポリアルファオレフィン)、クラリアント社製のリコセンPPシリーズ、エボニック・デグサ社製のベストプラストなどが挙げられる。また、ポリオレフィン樹脂として、市販の未変性ポリオレフィン樹脂に、公知の方法で不飽和カルボン酸成分を導入したものを用いてもよい。
【0024】
本発明において、ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸モノマー含有量が10,000ppm以下であることが好ましく、5,000ppm以下であることがより好ましく、1,000ppm以下であることがさらに好ましく、500ppm以下であることが特に好ましく、100ppm以下であることが最も好ましい。通常、上述のような方法により不飽和カルボン酸成分を未変性ポリオレフィン樹脂に導入した場合、不飽和カルボン酸モノマーが、ポリオレフィン樹脂に少なからず残存する。不飽和カルボン酸モノマー含有量が10,000ppmを超えるポリオレフィン樹脂を含有させた場合、それらポリオレフィン樹脂を水性化、得られた水性分散体からなる被膜は、耐水性、耐薬品性、耐湿熱性に劣る場合がある。
【0025】
ポリオレフィン樹脂(A)中の、不飽和カルボン酸モノマー成分を低減する方法は特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂(A)から減圧留去する方法、ポリオレフィン樹脂(A)を溶媒に溶解させて再沈殿することにより分離する方法、粉末やペレット状にしたポリオレフィン樹脂(A)を水や有機溶媒中で洗浄する方法、ソックスレー抽出法により低減する方法などが挙げられる。中でも、操作性や低減効率の観点から、ポリオレフィン樹脂(A)から減圧留去する方法、ポリオレフィン樹脂(A)を溶媒に溶解させて再沈殿することにより分離する方法、粉末やペレット状にしたポリオレフィン樹脂(A)を水や有機溶媒中で洗浄する方法が好ましい。
【0026】
ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量は、5,000〜200,000であることが好ましく、10,000〜150,000であることがより好ましく、20,000〜120,000であることがさらに好ましく、30,000〜100,000であることが特に好ましく、35,000〜80,000であることが最も好ましい。ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が5,000未満であると、基材との接着性が低下したり、得られる被膜が硬くて脆くなる傾向があり、重量平均分子量が200,000を超えると、ポリオレフィン樹脂(A)の水性化が困難となる傾向がある。なお、ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン樹脂を標準として求めることができる。
【0027】
本発明の水性分散体で用いるポリエステル樹脂(B)は、主として、ジカルボン酸成分とグリコール成分から構成されるものである。また、ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量が10,000以上、ガラス転移温度が30℃以下である。
【0028】
ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量は、得られる被膜のヒートシール性、耐湿熱性を向上させるため、10,000以上である必要があり、10,000〜200,000であることが好ましく、15,000〜100,000であることがより好ましく、25,000〜100,000であることがより好ましい。ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量が10,000未満である場合、被膜の耐湿熱性やヒートシール性が劣るものとなる。
【0029】
ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度は、30℃以下とする必要があり、−50〜30℃であることが好ましく、−50〜25℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度を30℃以下とすることで、水性コート剤から得られる被膜を低温造膜性やヒートシール性に優れたものとすることができる。ポリステル樹脂(B)のガラス転移温度が30℃を超える場合、水性分散体から得られる被膜は低温造膜性やヒートシール性に劣るものとなる。
【0030】
ポリエステル樹脂(B)の酸価は、特に制限されないが、水性分散体の安定性を向上することができるので、2mgKOH/g以上であることが好ましく、4mgKOH/g以上であることがより好ましく、5mgKOH/g以上であることがさらにより好ましい。
【0031】
ポリエステル樹脂(B)を構成するジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、3−tert−ブチルイソフタル酸、ジフェン酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸およびその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
【0032】
本発明においては、ジカルボン酸成分として、スルホン酸塩基を有するジカルボン酸を含有させることができるが、その含有率は、ジカルボン酸成分100モル%に対して10モル%以下とすることが好ましく、5モル%以下とすることがより好ましく、1モル%以下とすることがさらにより好ましく、0モル%とすることが最も好ましい。スルホン酸塩基を有するジカルボン酸を含有する場合は、得られる水性分散体の安定性は向上するが、得られる被膜の耐水性が劣るものとなる場合がある。
【0033】
スルホン酸塩基を有するジカルボン酸としては、例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホテレフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホテレフタル酸、3,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、2,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸リチウム、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、5−ナトリウムスルホテレフタル酸ジメチル、5−カリウムスルホイソフタル酸ジメチル、5−リチウムスルホイソフタル酸ジメチルが挙げられる。
【0034】
ポリエステル樹脂(B)を構成するグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール等の脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロブタンジメタノール等の脂環族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のエーテル結合含有グリコール、2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのアルキレンオキシド付加体、ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンのアルキレンオキシド付加体が挙げられる。これらのグリコール成分は単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0035】
本発明で用いるポリエステル樹脂(B)には、本発明の特性を損なわない範囲であれば、ヒドロキシカルボン酸成分を含有させてもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、2−ヒドロキシセバシン酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、2−メチル−2−ヒドロキシコハク酸、酒石酸、テトラヒドロキシアジピン酸、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸のアルキレンオキシド付加体が挙げられる。ヒドロキシモノカルボン酸を用いる場合、その含有量は、構成成分の合計100モル%のうち、50モル%以下とすることが好ましく、40モル%以下とすることがより好ましく、30モル%以下とすることがさらに好ましい。
【0036】
本発明で用いるポリエステル樹脂(B)には、本発明の特性を損なわない範囲であれば、モノカルボン酸、モノアルコールを含有させてもよい。モノカルボン酸、モノアルコールを用いる場合、その含有量は、ジカルボン酸成分またはグリコール成分100モル%に対して、1モル%未満とすることが好ましく、0.1モル%未満とすることがより好ましく、0モル%とすることがさらに好ましい。一般的に、モノカルボン酸、モノアルコールをエステル化反応前に仕込み、ポリエステル樹脂(B)の重縮合反応を進めた場合、分子鎖の延長を阻害し、結果として必要な分子量が得られなくなる。そのため、得られる被膜は造膜性が不足する場合がある。一方、ポリエステル樹脂(B)の解重合時にモノカルボン酸、モノアルコールを用いた場合、分子鎖の末端に結合するため、水性分散体の安定性が劣るものとなる場合がある。
【0037】
モノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、フェニル酢酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられ、モノアルコールとしては、例えば、セチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オクチルアルコール、ステアリルアルコールが挙げられる。
【0038】
本発明で用いるポリエステル樹脂(B)には、本発明の特性を損なわない範囲で、3官能以上のカルボン酸または3官能以上のアルコールを含有させてもよい。3官能以上のカルボン酸または3官能以上のアルコールをエステル化反応前に仕込む場合、その含有量は、ジカルボン酸成分またはグリコール成分100モル%に対して、5モル%以下とすることが好ましく、4モル%以下とすることがより好ましく、3モル%以下とすることがさらに好ましい。一般的に、3官能以上のカルボン酸または3官能以上のアルコールをエステル化反応前に仕込み、ポリエステル樹脂(B)の重縮合反応を進めた場合、得られるポリエステル樹脂(B)の分散度が広くなったり、ゲル化して重合ができなくなったりする場合があるため、その含有量は、ジカルボン酸成分またはグリコール成分100モル%に対して、0〜1モル%とすることが好ましく、0〜0.8モル%とすることがより好ましく、0〜0.6モル%とすることがさらに好ましい。また、3官能以上のカルボン酸、3官能以上のアルコールをポリエステル樹脂(B)の解重合時に用いる場合、その含有量は、ジカルボン酸成分またはグリコール成分100モル%に対して、0.2〜5モル%とすることが好ましく、0.4〜4.8モル%とすることがより好ましく、0.6〜4.6モル%とすることがさらに好ましい。
【0039】
3官能以上のカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸が挙げられ、3官能以上のアルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが挙げられる。
【0040】
ここで、ポリエステル樹脂(B)の製造方法について説明する。
本発明で用いるポリエステル樹脂(B)は、前記のジカルボン酸成分とグリコール成分を含むモノマーを組み合わせて、公知の方法で製造することができる。例えば、全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下で反応させてエステル化反応をおこない、引き続いて重縮合触媒の存在下、減圧下で、所望の分子量に達するまで重縮合反応を進め、不活性雰囲気下、3官能以上のカルボン酸を添加して解重合反応をおこなう方法を挙げることができる。
【0041】
エステル化反応において、反応温度は180〜260℃とすることが好ましく、反応時間は2.5〜10時間とすることが好ましく、4〜6時間とすることがより好ましい。
【0042】
重縮合反応において、反応温度は、220〜280℃とすることが好ましい。減圧度は、130Pa以下とすることが好ましい。減圧度が低いと、重縮合時間が長くなる場合がある。大気圧から130Pa以下に達するまで、60〜180分かけて徐々に減圧することが好ましい。
【0043】
重縮合触媒としては、特に限定されないが、酢酸亜鉛、三酸化アンチモン、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、n−ブチルヒドロキシオキソスズ等の公知の化合物を挙げることができる。触媒の使用量は、ジカルボン酸成分1モルに対し、0.1〜20×10
−4モルとすることが好ましい。
【0044】
解重合において、反応温度は160〜280℃とすることが好ましく、160〜220℃とすることがより好ましく、反応時間は、0.5〜5時間とすることが好ましい。
【0045】
本発明の水性分散体は、上記ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を含有するものである。すなわち、ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)を水性媒体中に分散もしくは溶解させたものである。前記水性媒体とは、水を主成分とする液体であり、後述する有機溶剤や塩基性化合物を含有していてもよい。
【0046】
本発明においては、ポリオレフィン樹脂(A)やポリエステル樹脂(B)の水性化を促進し、分散粒子径を小さくするために、水性化の際に有機溶剤を配合することが好ましい。有機溶剤の含有量としては、水性媒体(C)全体に対し50質量%以下が好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下が特に好ましい。有機溶剤の含有量が50質量%を超える場合には、実質的に水性媒体とは言い難く、本発明の目的のひとつ(環境保護)を逸脱するだけでなく、使用する有機溶剤によっては水性分散体の安定性が低下することがある。
【0047】
本発明において、有機溶剤を用いる場合、分散安定性良好な水性分散体を得るという点から、20℃の水に対する溶解性が10g/L以上である有機溶剤が好ましく、20g/L以上のものがより好ましく、50g/L以上のものがさらに好ましい。
また、製膜の過程で効率よく被膜から除去させる観点から、沸点が150℃以下である有機溶剤が好ましい。沸点が150℃を超える有機溶剤は、被膜から乾燥により飛散させることが困難となる傾向にあり、特に低温乾燥時の被膜の耐水性や基材との接着性等が低下することがある。
【0048】
上記特性を満足する有機溶剤としては、公知のものを用いることができ、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2−ジメチルグリセリン、1,3−ジメチルグリセリン、トリメチルグリセリン等が挙げられる。
中でも、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルは、ポリオレフィン樹脂(A)やポリエステル樹脂(B)の水性化促進により効果的であり好ましい。また、これら有機溶剤を複数混合して使用してもよい。
【0049】
本発明において、保存安定性を高めた水性分散体を得るという点から、さらに塩基性化合物を用いることができる。用いることのできる塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、n−ブチルアミン、2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、2,2−ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ピロール、ピリジン等が挙げられる。また、これら塩基性化合物を複数混合して使用してもよい。
【0050】
塩基性化合物の含有量は、特に制限されるものではないが、例えば、ポリオレフィン樹脂(A)中のカルボキシル基とポリエステル樹脂(B)のカルボキシル基に対して、それぞれの0.5〜30倍当量であることが好ましく、0.5〜10倍当量であることがより好ましく、0.8〜10倍当量がさらにより好ましい。上記範囲で塩基性化合物を含有させることで、安定性を向上した水性分散体が得られる。塩基性化合物の含有が0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、30倍当量を超えると被膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体の安定性が低下したりすることがある。
【0051】
本発明の水性分散体についてさらに詳細に説明する。
本発明の水性分散体において、水性分散体中に分散している樹脂粒子の粒子径は、特に限定されないが、低温造膜性、被膜の緻密性や透明性、他材料との混合安定性の観点から、体積平均粒子径が0.50μm以下であることが好ましく、0.30μm以下であることがより好ましく、0.001〜0.10μmであることがさらに好ましく、0.001〜0.05μmであることが特に好ましい。
【0052】
本発明において、ゼータ電位は、−20mV以下であることが好ましく、−30mV以下であることがより好ましい。本発明の水性分散体は、ゼータ電位が−20mV以下であると、分散安定性に優れ、さらに種々の添加剤と混合した際の混合安定性にも優れる。
【0053】
本発明において、水性分散体におけるポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計含有量は、製膜条件や被膜の厚さ、性能等に応じて適宜選択でき、特に限定されるものでないが、水性分散体の粘性を適度に保ち、かつ良好な被膜形成能を発現させる点で1〜60質量%であることが好ましく、3〜55質量%であることがより好ましく、5〜50質量%であることがさらに好ましく、10〜45質量%であることが特に好ましい。
【0054】
本発明の水性分散体は、不揮発性の水性化助剤を実質的に含有しないことが好ましい。本発明は、不揮発性水性化助剤の使用を排除するものではないが、水性化助剤を用いずとも、本発明の水性分散体を用いれば、ポリオレフィン樹脂(A)やポリエステル樹脂(B)を水性媒体中に微細かつ安定的に分散することができる。このため、低温乾燥における被膜特性、特に耐水性、基材との接着性、ヒートシール性が優れており、これらの性能は長期的にもほとんど変化しない。
【0055】
ここで、「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0056】
「不揮発性水性化助剤を実質的に含有しない」とは、こうした助剤を水性分散体の水性化時に用いず、得られる水性分散体が結果的にこの助剤を含有しないことを意味する。したがって、こうした水性化助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、水性分散体に対して5質量%以下、好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%未満程度含まれていても差し支えない。
【0057】
本発明でいう不揮発性水性化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
【0058】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0059】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物等が挙げられる。
【0060】
本発明の水性分散体を得る方法としては、特に限定されないが、あらかじめポリオレフィン樹脂(A)を水性媒体に分散させた水分散体、別にポリエステル樹脂(B)を水性媒体に分散させた水分散体をそれぞれ得た後、それら水分散体を混合撹拌して水性分散体を得る方法、ポリオレフィン樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを同時に仕込み、一括で水性媒体に分散させて水性分散体を得る方法、ポリオレフィン樹脂(A)を水性媒体に分散させた水分散体に、ポリエステル樹脂(B)を加え、さらに分散を進行させて水性分散体を得る方法などが挙げられる。
そのうち、水性分散体の安定性が最も高いことから、あらかじめポリオレフィン樹脂(A)を水性媒体に分散させた水分散体、別にポリエステル樹脂(B)を水性媒体に分散させた水分散体をそれぞれ得た後、それら水分散体を混合撹拌して水性分散体を得る方法を用いることが好ましい。
【0061】
ポリオレフィン樹脂(A)を水性媒体に分散する方法、ポリエステル樹脂(B)を水性媒体に分散する方法として、例えば、以下のような方法が挙げられる。(以下、単に「樹脂」と述べる場合は、ポリオレフィン樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)、もしくは(A)と(B)を混合したものを指すこととする。)
【0062】
既述の各成分、すなわち、樹脂、水性媒体、必要に応じて有機溶剤、塩基性化合物等を、密閉可能な容器中で加熱、攪拌する方法が採用でき、この方法が最も好ましい。
【0063】
容器としては、固/液撹拌装置や乳化機として使用されている装置を使用することができ、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を使用することが好ましい。撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されないが、樹脂が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でよい。したがって、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではなく、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
【0064】
例えば、上記装置に、ポリオレフィン樹脂(A)、水性媒体等の原料を投入し、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を80〜240℃、好ましくは100〜220℃、さらに好ましくは110〜200℃、特に好ましくは110〜190℃の温度に保ちつつ、好ましくは粗大粒子が無くなるまで攪拌を続ける。撹拌混合を行う時間は、前記温度条件下、水性化の状況に応じて適宜調整が可能であるが、例えば、5〜600分間の範囲で調整できる。
【0065】
また、塩基性化合物、有機溶剤、水の合計は、配合した後の固形分濃度が1〜60質量%となるよう調整することが好ましく、2〜45質量%となる量がより好ましく、3〜40質量%となる量が特に好ましい。
【0066】
上記工程において、槽内の温度が240℃を超えると、樹脂の分子量が低下することがある。
【0067】
水性分散体の製造時に上記の有機溶剤を用いた場合には、樹脂の水性化の後に、その一部を、一般に「ストリッピング」と呼ばれる脱溶剤処理によって系外へ留去させ、有機溶剤の含有量を低減させてもよい。ストリッピングにより、水性分散体中の有機溶剤含有量は、10質量%以下とすることができ、5質量%以下とすればより好ましく、1質量%以下とすることが、環境上より好ましい。ストリッピングの工程では、水性化に使用した有機溶剤を実質的に全て留去することもできるが、装置の減圧度を高めたり、操業時間を長くしたりする必要があるため、こうした生産性を考慮した場合、有機溶剤含有量の下限は0.01質量%程度が好ましい。
ストリッピングの方法としては、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶剤を留去する方法が挙げられる。また、水性媒体が留去されることにより、固形分濃度が高くなるので、例えば、粘度が上昇して作業性が低下するような場合には、予め水性分散体に水を添加しておいてもよい。
【0068】
水性分散体の固形分濃度は、例えば、水性媒体を留去する方法や、水で希釈する方法により調整することができる。
【0069】
また、適宜、沈殿、浮遊物、皮張り等をろ過して取り除くためのろ過工程を設けてもよい。例えば、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)を設置し、常圧ろ過、または、加圧(空気圧0.2MPa)ろ過をおこなえばよい。
【0070】
上記製造条件を適宜組合わせて、水性分散体の製造を行うことで、樹脂が水性媒体中に効率よく分散または溶解された、均一な液状の水性分散体を調製することが可能となる。ここで、均一な液状であるとは、外観上、水性分散体中に沈殿、相分離あるいは皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見い出されない状態にあることをいう。
【0071】
本発明の水性分散体には、その特性を損ねない範囲において、他の重合体、粘着付与剤、無機粒子、架橋剤、顔料、染料等を添加することができる。これら添加剤を用いることで、各種機能性の付与が可能となる。
【0072】
本発明の水性分散体に添加する他の重合体、粘着付与剤は、特に限定されない。例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、ロジンなどの粘着付与樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、必要に応じて複数のものを混合使用してもよい。なお、これらの重合体は、固形状のままで使用に供してもよいが、水性分散体の安定性維持の点では、水性分散体に加工したものを用いることが好ましい。中でも、基材との密着性、耐薬品性、耐熱性の観点から、ウレタン樹脂を添加することが好ましい。
【0073】
前記ポリウレタン樹脂としては、主鎖中にウレタン結合を含有する高分子を使用することでき、例えば、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応で得られる高分子を使用することできる。
【0074】
ポリウレタン樹脂を構成するポリオール成分としては、特に限定されず、例えば、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの低分子量グリコール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの低分子量ポリオール類、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド単位を有するポリオール化合物、ポリエーテルジオール類、ポリエステルジオール類などの高分子量ジオール類、ビスフェノールAやビスフェノールFなどのビスフェノール類、ダイマー酸のカルボキシル基を水酸基に転化したダイマージオール等が挙げられる。
【0075】
ポリウレタン樹脂を構成するポリイソシアネート成分としては、芳香族、脂肪族または脂環族に属する公知のジイソシアネート類の1種または2種以上の混合物を用いることができる。ジイソシアネート類の具体例としては、例えば、トリレンジジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメチルジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート、およびこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などが挙げられる。また、ジイソシアネート類には、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどの3官能以上のポリイソシアネート類を用いてもよい。
【0076】
本発明において、水性分散体に添加するのに適した水系のポリウレタン樹脂として、市販のものを使用することができる。市販の水系のポリウレタン樹脂としては、三井化学社製のタケラックシリーズ(W−615、W−6010、W−511など)、アデカ社製アデカボンタイターシリーズ(HUX−232、HUX−320、HUX−380、HUX−401など)、第一工業製薬社製のスーパーフレックスシリーズ(500、550、610、650など)、大日本インキ化学工業社製ハイドランシリーズ(HW−311、HW−350、HW−150など)等が挙げられる。
【0077】
本発明の水性分散体において、ポリウレタン樹脂等他の重合体の含有量は、被膜の基材との密着性、耐薬品性、耐熱性等を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂の固形分合計に対し、重合体の固形分質量比が0.01〜100質量部であることが好ましく、0.1〜80質量部であることがより好ましく、0.5〜60質量部であることがさらに好ましい。重合体の含有量が0.01質量部未満であると、被膜性能の向上が十分でないことがあり、100質量部を超えると、加工性等が低下することがある。
【0078】
本発明の水性分散体に添加する無機粒子としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化すず等の金属酸化物、炭酸カルシウム、シリカ等の無機粒子や、バーミキュライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、ハイドロタルサイト、合成雲母等の層状無機化合物等が挙げられる。これらの無機粒子の平均粒子径は、水性分散体の安定性の面から、0.005〜10μmであることが好ましく、0.005〜5μmであることがより好ましい。なお、無機粒子として複数のものを混合して使用してもよい。酸化亜鉛は紫外線遮蔽の目的に、酸化すずは帯電防止の目的にそれぞれ使用できるものである。
【0079】
本発明の水性分散体に添加する架橋剤として、自己架橋性を有する架橋剤、不飽和カルボン酸成分と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属等を用いることができる。具体的には、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、必要に応じて複数のものを混合使用してもよい。中でも、取り扱い易さの観点から、オキサゾリン基含有化合物を添加することが好ましい
【0080】
前記オキサゾリン基含有化合物としては、分子中にオキサゾリン基を2つ以上有しているものが好ましく使用できる。例えば、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレン−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレン−ビス(2−オキサゾリン)、ビス(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド等のオキサゾリン基を有する化合物や、オキサゾリン基含有ポリマー等が挙げられる。これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いのし易さからオキサゾリン基含有ポリマーが好ましい。
【0081】
上記したオキサゾリン基含有ポリマーは、一般に2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリンを重合させることにより得られる。オキサゾリン基含有ポリマーには、必要に応じて他の単量体が共重合されていてもよい。オキサゾリン基含有ポリマーの重合方法としては、特に限定されず、公知の重合方法を採用することができる。
オキサゾリン基含有ポリマーの市販品としては、日本触媒社製のエポクロスシリーズが挙げられ、例えば、水溶性タイプの「WS−500」、「WS−700」;エマルションタイプの「K−1010E」、「K−1020E」、「K−1030E」、「K−2010E」、「K−2020E」、「K−2030E」などが挙げられる。
【0082】
本発明の水性分散体において、架橋剤の含有量は、被膜の耐水性や耐溶剤性等を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂の固形分合計に対し、架橋剤の固形分質量比が0.01〜80質量部であることが好ましく、0.1〜50質量部であることがより好ましく、0.5〜30質量部であることがさらに好ましい。架橋剤の含有量が0.01質量部未満であると、被膜性能の向上が十分でないことがあり、80質量部を超えると、加工性等が低下することがある。
【0083】
本発明の水性分散体に添加する顔料、染料としては、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等が挙げられ、分散染料、酸性染料、カチオン染料、反応染料等いずれのものも使用することが可能である。
【0084】
本発明の水性分散体には、さらに必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、耐候剤、難燃剤等の各種薬剤を添加することも可能である。
【0085】
本発明の水性分散体は、被膜形成能に優れるものであり、具体的には、本発明の水性分散体を、各種基材表面に均一に塗布し、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥または乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な被膜を各種基材表面に接着させて形成することができる。
【0086】
被膜の形成方法としては、公知の塗布方法を用いることができ、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。
【0087】
被膜を形成する際、水性分散体の塗布量は、その用途によって適宜選択され、乾燥後の塗布量として0.01〜100g/m
2であることが好ましく、0.1〜50g/m
2であることがより好ましく、0.2〜30g/m
2であることがさらに好ましい。乾燥後の塗布量が0.01〜100g/m
2となるよう塗布すれば、均一性に優れる被膜を得ることができる。
【0088】
塗布量を調節するためには、塗布に用いる装置やその使用条件を適宜選択することに加えて、目的とする被膜の厚さに応じて濃度調整された水性分散体を使用することが好ましい。水性分散体の濃度は、調製時の仕込み組成により調整することが可能であり、また、一旦調製した水性分散体を、適宜希釈したり、あるいは濃縮して、調整してもよい。
【0089】
乾燥や焼き付けのための加熱装置として、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用することができる。
加熱温度や加熱時間は、被塗布物である基材の特性や、水性分散体中に任意に配合しうる前述の各種材料の添加量により適宜選択される。加熱温度としては、20〜250℃であることが好ましく、60〜230℃であることがより好ましく、80〜210℃であることがさらに好ましい。一方、加熱時間は、1秒〜20分であることが好ましく、5秒〜15分であることがより好ましく、5秒〜10分であることがさらに好ましい。なお、架橋剤を添加した場合は、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基と架橋剤との反応を十分進行させるために、加熱温度および時間は架橋剤の種類によって適宜選定することが望ましい。
【0090】
本発明における水性分散体は、ポリオレフィン系基材に対して優れた密着性、ヒートシール性、低温造膜性、耐水性、耐薬品性、耐湿熱性を発現することができる。本発明においてポリオレフィン系基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、ブタジエン樹脂等のオレフィンホモポリマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂等のオレフィンコポリマー、ポリノルボルネン、ポリジシクロペンタジエン等のシクロオレフィンホモポリマー、エチレン−ノルボルネン共重合体、プロピレン−ノルボルネン共重合体等のシクロオレフィンコポリマーが挙げられる。さらに、その中でも透明性に特に優れた、シクロオレフィン系ポリマー(シクロオレフィンホモポリマー、シクロオレフィンコポリマー)に対して好適に用いることが可能である。
【0091】
シクロオレフィン系ポリマーとして市販されているものとして、例えば、TOPAS Advanced Polymers社製のTOPASシリーズ、三井化学社製のアペルシリーズ、日本ゼオン社製のゼオネックスシリーズ、ゼオノアシリーズ、JSR社製のアートンシリーズなどが挙げられる。
【0092】
本発明における水性分散体は、ポリオレフィン系基材やポリエステル基材以外の、例えばシクロオレフィン系基材のような基材上に被膜を形成したり、それら被膜を介して他の材質からなる基材と接着する場合、基材相互の密着性や接着性、ヒートシール性に優れるため、良好な積層体とすることができる。
【0093】
また、得られた被膜は、様々な基材に対する接着性が向上しているため、各種包装用途、工業用途での使用が幅広く可能である。さらには、電気、電子分野で用いるコーティング剤、プライマー、塗料、インキおよび接着剤等として好ましく使用できる。特にシクロオレフィン系基材との接着性に優れるため、そのような材質が多く用いられる光学用途での、例えば、光学レンズ部材、液晶表示用フィルム、タッチパネル用フィルム等で接着性、耐久性を向上し好適に用いることができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、各種の特性は、以下の方法により測定または評価した。
【0095】
(1)ポリオレフィン樹脂の構成
NMR分析装置(バリアン社製 GEMIN2000/300型、300MHz)を用い、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとの質量比を、オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて
1H−NMR、
13C−NMR分析を行い求めた。
13C−NMR分析では定量性を考慮したゲート付きデカップリング法に基づき測定した。
【0096】
(2)ポリオレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸成分の含有量
フーリエ変換赤外分光光度計(Perkin Elmer社製、System−2000型、分解能4cm
−1)を用い、赤外吸収スペクトル分析を行い、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとの合計に対する不飽和カルボン酸成分の含有量を求めた。
【0097】
(3)不飽和カルボン酸モノマー成分の含有量
ポリオレフィン樹脂ペレットまたは水性分散体の乾燥残渣を凍結粉砕して微細化した粉末を約0.05g精秤し、20mlのメタノールを抽出溶媒とし、連続転倒混和により室温で21時間抽出を行った。この抽出液をディスクフィルター(孔径0.45μm)で濾過した濾液について、高速液体クロマトグラフィー(Hewlett Packard社製 HP1100型)を用い定量した。なお、カラムとして、Waters社製 Puresil 5μm C18 120Å φ4.6mm×250mm(40℃)を使用した。不飽和カルボン酸モノマー量が1000ppm未満の場合、微細化した粉末を0.5gに変更して同様に定量した。
検量線は、濃度既知の不飽和カルボン酸モノマー標準サンプルを用いて作成した。
【0098】
(4)ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量
重量平均分子量は、GPC分析(東ソー社製HLC−8020、カラムはSHODEX社製KF−804L2本、KF805L1本を連結して用いた。)を用い、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、流速1ml/min、40℃の条件で測定した。約10mgの樹脂をテトラヒドロフラン5.5mLに溶解し、PTFEメンブランフィルターでろ過したものを測定用試料とした。ポリスチレン標準試料で作成した検量線から重量平均分子量を求めた。テトラヒドロフランに溶解し難い場合は、オルトジクロロベンゼンで溶解した。
【0099】
(5)ポリエステル樹脂の構成
高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製 ECA‐500型、分解能500MHz)を用いて、
1H−NMR分析(溶媒:重水素化トリフルオロ酢酸、温度:25℃)を行い、それぞれの共重合成分のピーク強度から樹脂組成を求めた。また、
1H−NMRスペクトル上に帰属・定量可能なピークが認められない構成モノマーを含む樹脂については、封管中230℃で3時間メタノール分解をおこなった後に、ガスクロマトグラム分析に供し、定量分析をおこなった。
【0100】
(6)ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル樹脂を0.5g精秤し、水/1,4−ジオキサン=1/9(体積比)50mlに室温で溶解し、クレゾールレッドを指示薬として0.1Nの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定し、中和に消費されたポリエステル樹脂1gあたりの水酸化カリウムのmg数(mgKOH/g)を酸価とした。
【0101】
(7)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
ポリエステル樹脂を10mg秤量し、入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製 Diamond DSC型、検出範囲:−50℃〜200℃)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中の、低温側ベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大となるような点で引いた接線との交点の温度を求め、ガラス転移温度とした。
【0102】
(8)ポリエステル樹脂の重量平均分子量
GPCを用いて以下の条件でポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。
[送液ユニット]:島津製作所社製LC−10ADvp
[紫外−可視分光光度計]:島津製作所社製SPD−6AV、検出波長:254nm
[カラム]:Shodex社製KF−803 1本、Shodex社製KF−804 2本を直列に接続して使用
[溶媒]:テトラヒドロフラン
[測定温度]:40℃
【0103】
(9)ポリオレフィン樹脂水分散体またはポリエステル樹脂水分散体の固形分濃度
各々の水性分散体を約1g秤量(X
1gとする)し、これを150℃で2時間乾燥した後の残存物の質量を秤量(Y
1gとする)し、下記式により固形分濃度を求めた。
固形分濃度(質量%)=(Y
1/X
1)×100
【0104】
(10)ポリオレフィン樹脂水分散体またはポリエステル樹脂水分散体の体積平均粒子径
各々の水性分散体について、粒度分布測定装置(日機装社製 Nanotrac Wave−UZ152型)を用いて、体積平均粒子径(Mv)を測定した。なお、ポリオレフィン樹脂の屈折率は1.5、ポリオレフィン樹脂の密度は1g/cm
3とし、ポリエステル樹脂の屈折率は1.57、ポリエステル樹脂の密度は1.21g/cm
3とした。
【0105】
(11)ポリオレフィン樹脂水分散体またはポリエステル樹脂水分散体のゼータ電位
各々の水性分散体について、上記(10)記載の装置を用いて測定した。
【0106】
(12)ポリオレフィン樹脂水分散体またはポリエステル樹脂水分散体のポットライフ
各々の水分散体、および水性分散体を室温で90日放置したときの外観を、下記3段階で評価した。
○:外観に変化なし。
△:凝集や沈殿物はないが、増粘がみられる。
×:固化、凝集や沈殿物の発生が見られる。
【0107】
(13)ポリプロピレン樹脂(PP)基材に対する密着性
水性分散体を、ポリプロピレン樹脂成形片(日本ポリプロピレン社製、ノバテックPP MA3)上に、乾燥後の塗布量が約2g/m
2になるようにメイヤーバーを用いて塗布し、130℃で10分間乾燥して、被膜を得た。得られたPP成形片上の被膜について、JIS K5400記載のクロスカット法によるテープ剥離(碁盤目試験)をおこなった。すなわち、クロスカットにより、被膜を100区間にカットし、テープ剥離後、残留した被膜の区間数で、以下の基準によりPP密着性を評価した。
◎:100区間残留。
○:95〜99区間残留。
△:90〜94区間残留。
×:残留が89区間以下。
【0108】
(14)シクロオレフィンポリマー樹脂(COP)基材に対する密着性
上記(13)と同様に、水性分散体を、シクロオレフィンホモポリマーフィルム(日本ゼオン社製、ゼオノアフィルム ZF14−100、厚み100μm)上に、乾燥後の塗布量が約2g/m
2になるようにメイヤーバーを用いて塗布し、130℃で10分間乾燥して、被膜を得た。得られたCOPフィルム上の被膜について、上記(13)と同様の方法で碁盤目試験をおこない、COP密着性を評価した。
【0109】
(15)被膜の耐水性
水性分散体を、延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ社製、OP U−1、厚み20μm)の未処理面上に、乾燥後の塗布量が約2g/m
2になるようにメイヤーバーを用いて塗布し、60℃で30秒、乾燥させた。このようにして作製したコートフィルムを40℃の温水中に24時間浸漬した。延伸ポリプロピレンフィルム上の被膜について、上記(13)と同様の方法で碁盤目試験をおこない、耐水性を評価した。また、被膜表面を目視で観察し、以下の指標で、外観を評価した。
○:被膜に全く白化やブリスターが確認されない。
△:被膜の一部に、白化やブリスターが確認される。
×:被膜全体に、白化やブリスターが確認される。
【0110】
(16)被膜の耐薬品性
水性分散体を、PP成形片(PP:日本ポリプロピレン社製、ノバテックPP MA3)上に、乾燥後の塗布量が約2g/m
2になるようにメイヤーバーを用いて塗布し、130℃で10分間乾燥した。このようにして得た積層体を20℃の模擬ガソリン(トルエンとイソオクタン(いずれも和光純薬工業社製)の等体積混合物)中に24時間浸漬した後、乾燥した。PP成形片上の被膜について、上記(13)と同様の方法で、耐薬品性と外観を評価した。
○:被膜に全く白化やブリスターが確認されない。
△:被膜の一部に、白化やブリスターが確認される。
×:被膜全体に、白化やブリスターが確認される。
【0111】
(17)低温造膜性
水性分散体を、シクロオレフィンホモポリマーフィルム(日本ゼオン社製、ゼオノアフィルム ZF14−100、厚み100μm)上に、乾燥後の塗布量が約2g/m
2になるようにメイヤーバーを用いて塗布し、25℃で30分間乾燥した。得られたシクロオレフィンフィルム上の被膜について、上記(14)と同様の方法で評価した。
【0112】
(18)接着性
水性分散体を、二軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製、エンブレット、S−50、厚み50μm)のコロナ処理面上と、シクロオレフィンホモポリマーフィルム(日本ゼオン社製、ゼオノアフィルム ZF14−100、厚み100μm)の面上に、乾燥後の塗布量が約3g/m
2になるようにそれぞれメイヤーバーを用いて塗布し、100℃で1分乾燥させた。このようにして作製した各々のコートフィルムのコート面同士を貼りあわせ、120℃で20秒間、2kg/cm
2でプレスすることにより、積層体を得、積層体のラミネート強度を測定した。
なお、ラミネート強度の測定は、積層体から幅15mmの試験片を採取し、引張り試験機(インテスコ社製、精密万能材料試験機2020型)を用い、20℃、65%RH下、引張速度50mm/分でT型剥離法により行った。
1N/15mm以上であれば実用上問題なく使用でき、2N/15mm以上であれば好ましく、3N/15mm以上であればより好ましく、5N/15mm以上であればさらにより好ましく、8N/15mm以上であれば非常に好ましい。
【0113】
(19)耐湿熱性
上記(18)で得た積層体を、85℃、85%RHにて1000時間処理を行った後、(18)と同様にラミネート強度を測定した。(18)で得たラミネート強度の結果を「未処理時のラミネート強度」とし、下記式により接着強度保持率を求めた。
接着強度保持率(%)=(処理後のラミネート強度/未処理のラミネート強度)×100
得られた接着強度保持率をもとにして、下記4段階で、耐湿熱性を評価した。なお、評価結果が◎または〇であるものが耐湿熱性が良好であると判断する。
◎:接着強度保持率が90%以上
○:接着強度保持率が70%以上90%未満
△:接着強度保持率が50%以上70%未満
×:接着強度保持率が50%未満
【0114】
(7)透明性(ヘイズ)
水性分散体を、シクロオレフィンホモポリマーフィルム(日本ゼオン社製、ゼオノアフィルム ZF14−100、厚み100μm)の面上に、乾燥後の塗布量が約0.5g/m
2になるようにメイヤーバーを用いて塗布し、100℃で1分乾燥させてコートフィルムを得た。JIS−K7361−1に基づいて、濁度計(日本電色工業株式会社製、NDH2000)を用いて、コートフィルムのヘイズ測定を行った。なお、基材として用いたシクロオレフィンホモポリマーフィルム単体のヘイズは0.1%である。
【0115】
[ポリオレフィン樹脂の製造例]
製造例1
プロピレン−ブテン共重合体(質量比:プロピレン/1−ブテン=80/20)280gを4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下でキシレン470gに加熱溶解させた後、系内温度を140℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸40.0gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド28.0gをそれぞれ2時間かけて加え、その後6時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この析出させた樹脂を、トリエチルアミンのアセトン溶液(質量比:トリエチルアミン/アセトン=1/4)で1回洗浄し、その後アセトンで洗浄することで未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、ポリオレフィン樹脂(A−1)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
製造例2
製造例1において、質量比がプロピレン/1−ブテン=65/35であるプロピレン−ブテン共重合体を用いた以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−2)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0118】
製造例3
製造例1において、質量比がプロピレン/1−ブテン=97/3であるプロピレン−ブテン共重合体を用いた以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−3)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0119】
製造例4
製造例1において、質量比がプロピレン/1−ブテン=53/47であるプロピレン−ブテン共重合体を用いた以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−4)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0120】
製造例5
製造例1において、無水マレイン酸の添加量を40.0gに代えて90.0gとし、ジクミルパーオキサイドの添加量を28.0gに代えて36.0gとした以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−5)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0121】
製造例6
製造例1において、無水マレイン酸の添加量を40.0gに代えて4.5gとし、ジクミルパーオキサイドの添加量を28.0gに代えて3.2gとした以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−6)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0122】
製造例7
製造例1において、プロピレン−ブテン共重合体に代えて、プロピレン−エチレン共重合体(質量比:プロピレン/エチレン=92/8)を用い、無水マレイン酸の添加量を40.0gに代えて70.0gとし、ジクミルパーオキサイドの添加量を28.0gに代えて33.0gとした以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−7)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0123】
製造例8
製造例1において、無水マレイン酸の添加量を40.0gに代えて70.0gとし、ジクミルパーオキサイドの添加量を28.0gに代えて33.0gとし、トリエチルアミンのアセトン溶液での洗浄工程およびその後のアセトンの洗浄工程を省いた以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−8)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0124】
製造例9
製造例1において、プロピレン−ブテン共重合体に代えて、プロピレン−ブテン−エチレン共重合体(質量比:プロピレン/1−ブテン/エチレン=80/12/8)を用い、無水マレイン酸の添加量を40.0gに代えて20.0gとし、ジクミルパーオキサイドの添加量を28.0gに代えて15.0gとした以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−9)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0125】
製造例10
製造例1において、プロピレン−ブテン共重合体に代えて、プロピレン−1−ペンテン共重合体(質量比:プロピレン/1-ペンテン=80/20)を用いた以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−10)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0126】
製造例11
製造例1において、無水マレイン酸の添加量を40.0gに代えて70.0gとし、ジクミルパーオキサイドの添加量を28.0gに代えて20.0gとし、トリエチルアミンのアセトン溶液の洗浄工程およびその後のアセトンの洗浄工程を省いた以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−11)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0127】
製造例12
製造例1において、プロピレン−ブテン共重合体に代えて、プロピレン−エチレン共重合体(質量比:プロピレン/エチレン=92/8)を用い、無水マレイン酸の添加量を40.0gに代えて180.0gとし、ジクミルパーオキサイドの添加量を28.0gに代えて70.0gとした以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−12)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0128】
製造例13
製造例1において、無水マレイン酸の添加量を40.0gに代えて2.0gとし、ジクミルパーオキサイドの添加量を28.0gに代えて1.5gとした以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−13)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0129】
製造例14
製造例1において、質量比がプロピレン/1−ブテン=99.5/0.5であるプロピレン−ブテン共重合体を用いた以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−14)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0130】
製造例15
製造例1において、質量比がプロピレン/1−ブテン=48/52であるプロピレン−ブテン共重合体を用いた以外は、同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(A−15)を得、特性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0131】
[ポリエステル樹脂の製造例]
製造例1
テレフタル酸1246g、イソフタル酸1454g、セバシン酸1769g、1,4−ブタンジオール2704gからなる混合物をオートクレーブ中で、220℃で4時間加熱してエステル化反応を行った。この時のモノマー成分の配合は、テレフタル酸:イソフタル酸:セバシン酸:1,4−ブタンジオール=30:35:35:120(モル比)とした。次いで、触媒としてテトラブチルチタネートを2.6g(全酸成分の合計1モルあたり3×10−4モル)添加した後、系の温度を230℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとした。この条件下でさらに重縮合反応を続け、4時間後に系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、220℃になったところでトリメリット酸を26g(全酸成分の合計1モルあたり0.005モル)添加し、220℃で2時間攪拌して解重合反応を行った。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておきシート状に払い出した。これを室温まで冷却し、シート状のポリエステル樹脂(B−1)を得た。その結果を表2に示す。また得られたポリエステル樹脂(B−1)の特性値の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0132】
【表2】
なお、略語は以下のものを示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
SEA:セバシン酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
PTMG:ポリテトラメチレングリコール(分子量1000)
1,4−BD:1,4−ブタンジオール
TMA:トリメリット酸
【0133】
【表3】
なお、略語は以下のものを示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
SEA:セバシン酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
PTMG:ポリテトラメチレングリコール(分子量1000)
1,4−BD:1,4−ブタンジオール
TMA:トリメリット酸
【0134】
製造例2〜7、9
仕込組成を表2のように変更した以外は、ポリエステル樹脂(B−1)と同様にして、ポリエステル樹脂(B−2)〜(B−7)、(B−9)を得、特性評価を行った。その結果を表3に示す。
【0135】
製造例8
仕込組成を表2のように変更した以外は、ポリエステル樹脂(B−1)と同様にして、ポリエステル樹脂(B−8)を得た。なお、ポリエステル樹脂(B−8)はオートクレーブよりストランド状に払い出し、水冷後、カッティングして、直径約3mm、長さ約3mmのペレット状とした。
【0136】
[ポリオレフィン樹脂水分散体の製造例]
製造例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂(A−1)、90.0gのn−プロピルアルコール(NPA)、9.0gのN,N−ジメチルエタノールアミン(DMEA)及び141.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部にはポリオレフィン樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を160℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、撹拌状態を維持したまま、空冷にて内温が40℃になるまで冷却した。さらに、水を添加し、ロータリーエバポレータを用い、浴温80℃で溶媒を留去させた。
その後空冷にて、室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁のポリオレフィン水分散体(EA−1a)を得た。この際、フィルター上に粗大粒径のポリオレフィン樹脂はほとんど残っていなかった。得られたポリオレフィン樹脂水分散体(EA−1a)について、その特性値を評価した。その特性値を表4に示す。
【0137】
【表4】
【0138】
製造例2
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂(A−1)、45.0gのエチレングリコール−n−ブチルエーテル、8.0gのDMEAおよび137.0gの蒸留水を、ガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部にはポリオレフィン樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を160℃に保ってさらに60分間撹拌した。
その後、空冷にて内温が80℃になるまで冷却し、開封して、45.0gのテトラヒドロフラン、5.0gのDMEAおよび30.0gの蒸留水を添加した。その後、密閉し、撹拌翼の回転速度を300rpmとして系内温度を140℃に保ってさらに60分間撹拌した。そして、空冷にて回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁のポリオレフィン樹脂水分散体(EA−1b)を得た。この際、フィルター上に粗大粒径のポリオレフィン樹脂はほとんど残っていなかった。得られたポリオレフィン樹脂水分散体(EA−1b)について、その特性値を評価した。その特性値を表4に示す。
【0139】
製造例3〜5、10、12
ポリオレフィン樹脂(A−1)に代えて、それぞれ表4に示すポリオレフィン樹脂(A−2)〜(A−4)、(A−9)、(A−11)に変更すること以外は、製造例1と同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂水分散体(EA−2)〜(EA−4)、(EA−9)、(EA−11)を得た。得られたポリオレフィン樹脂水分散体(EA−2)〜(EA−4)、(EA−9)、(EA−11)について、その特性値を評価した。その特性値を表4に示す。
【0140】
製造例6
DMEAの量を18.0gにする以外は、製造例1と同様にしてポリオレフィン樹脂水分散体(EA−5)を得て特性値を評価した。その特性値を表4に示す。
【0141】
製造例7
DMEAの量を2.0gにする以外は、製造例1と同様にしてポリオレフィン樹脂水分散体(EA−6)を得て特性値を評価した。その特性値を表4に示す。
【0142】
製造例8、9、11
DMEAの量を12.0gにする以外は、製造例1と同様にしてポリオレフィン樹脂水分散体(EA−7)、(EA−8)、(EA−10)を得て特性値を評価した。その特性値を表4に示す。
【0143】
製造例13
DMEAの量を36.0gにする以外は、製造例1と同様にしてポリオレフィン樹脂水分散体(EA−12)を得て特性値を評価した。その特性値を表4に示す。
【0144】
製造例14
DMEAの量を1.0gにする以外は、製造例1と同様にしてポリオレフィン樹脂水分散体(EA−13)を得て特性値を評価した。その特性値を表4に示す。
【0145】
製造例15
製造例2で得られたポリオレフィン水分散体(EA−1b)の250gと、蒸留水120gを0.5Lの2口丸底フラスコに仕込み、メカニカルスターラーとリービッヒ型冷却器とを設置し、フラスコをオイルバスで加熱していき、水性媒体を留去した。約120gの水性媒体を留去したところで、加熱を終了し、室温まで冷却した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水分散体(EA−1c)を得た。得られたポリオレフィン樹脂水分散体(EA−1c)について、その特性値を評価した。その特性値を表4に示す。
【0146】
製造例16
ポリオレフィン樹脂(A−1)に代えて、ポリオレフィン樹脂(A−14)を用いた以外は、製造例1と同様の操作を行ったところ、フィルター上に多量の粗大粒径ポリオレフィン樹脂が認められ、実質的に分散が進行しなかった。
【0147】
製造例17
ポリオレフィン樹脂(A−1)に代えて、ポリオレフィン樹脂(A−15)に変更すること以外は、製造例1と同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂水分散体(EA−15)を得た。得られたポリオレフィン樹脂水分散体(EA−15)について、その特性値を評価した。その特性値を表4に示す。
【0148】
製造例18
ポリオレフィン樹脂に対して不揮発性の水性化助剤であるノイゲンEA−190D(第一工業製薬社製、ノニオン性界面活性剤)が1質量%となるように添加した以外は、製造例1と同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂水分散体(EA−1d)を得た。得られたポリオレフィン樹脂水分散体(EA−1d)について、その特性値を評価した。その特性値を表4に示す。
【0149】
[ポリエステル樹脂水分散体の製造例]
製造例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、ポリエステル樹脂(B−1)を200g、ノルマルプロパノールを300g、トリエチルアミンを5.0g(ポリエステル樹脂B−1の酸価に対して2倍当量)、蒸留水を495gそれぞれガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmに保って攪拌しながら、ジャケット内に熱水を通して昇温した。内温が80℃になった時点で昇温を止め、そこから攪拌を180分間続けた。攪拌中は内温を82±2℃に保つようおこなった。その後、ジャケット内に冷水を通し、回転速度を50rpmに下げて攪拌しつつ、25℃まで冷却した。得られた分散体800gを丸底フラスコに仕込み、蒸留水を600g加えて、メカニカルスターラーとリービッヒ冷却器を設置し、フラスコをオイルバスで加熱し、水性媒体を600g留去した。その後、室温まで冷却し、固形分濃度が18質量%となるようにイオン交換水を加えて、600メッシュのステンレス製フィルターによるろ過をおこない、ポリエステル樹脂水分散体(EB−1)を得た。得られたポリエステル樹脂水分散体(EB−1)について、その特性値を評価した。その特性値を表5に示す。
【0150】
【表5】
【0151】
製造例2〜9
ポリエステル樹脂(B−1)に代えて、表5に示すポリエステル樹脂(B−2)〜(B−9)に変更すること以外は、製造例1と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂水分散体(EB−2)〜(EB−9)を得た。
なお、製造例51、52においては、トリエチルアミンを用いず、ポリエステル樹脂水分散体(EB−4)、(EB−5)の作製を行った。
得られたポリエステル樹脂水分散体(EB−2)〜(EB−9)について、その特性値を評価した。その特性値を表5に示す。
【0152】
実施例1
ポリオレフィン樹脂水分散体(EA−1a)とポリエステル樹脂水分散体(EB−1)とを、固形分質量比(A)/(B)が65/35になるように室温にて混合、撹拌して水性分散体 を得た。得られた水性分散体を用いて各種塗膜性能の評価をおこなった。その結果を表6に示す。
【0153】
【表6】
【0154】
実施例2〜23、29、比較例1〜3、5、6
ポリオレフィン樹脂水分散体、ポリエステル樹脂水分散体、および固形分質量比を、それぞれ表6〜8に示す条件に変更して、実施例1と同様の方法で水性分散体を得た。得られた水性分散体を用いて各種塗膜性能の評価をおこなった。その結果を表6〜8に示す。
【0155】
実施例24〜28、比較例4
ポリオレフィン樹脂水分散体、ポリエステル樹脂水分散体に加え、さらにオキサゾリン基含有化合物の水性溶液(日本触媒社製 エポクロス WS−700 固形分濃度25質量%)および/またはポリウレタン樹脂水性分散液(三井化学社製 タケラック W−6010 固形分濃度30質量%)を混合して用いた。
なお、オキサゾリン基含有化合物の水性溶液および/またはポリウレタン樹脂水性分散液は、ポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂の固形分合計に対し、オキサゾリン基含有化合物および/またはポリウレタン樹脂のそれぞれが、表7、8に示すような固形分質量比となるように用いた。得られた水性分散体を用いて各種塗膜性能の評価をおこなった。その結果を表7、8に示す。
【0156】
【表7】
【0157】
【表8】
【0158】
実施例1〜29においては、所定の配合にて水性分散体の作製を行ったため、ポットライフが良好な安定性の高い水性分散体を得ることができた。また、得られる被膜は、密着性、耐水性、耐薬品性、低温造膜性、ヒートシール性、耐湿熱性に優れたものであった。
中でも実施例24〜28のように、用いる水性分散体に対し、さらにオキサゾリン基含有化合物やポリウレタン樹脂を含有した場合、前記特性に加えヒートシール性や耐湿熱性が向上した。
【0159】
比較例1では、用いたポリエステル樹脂のガラス転移温度が30℃を超えるものであったため、得られた被膜は低温造膜性やヒートシール性が劣った。
【0160】
比較例2では、用いたポリエステル樹脂の重量平均分子量が10000未満であったため、得られた被膜はヒートシール性、耐湿熱性が劣った。
【0161】
比較例3では、ポリオレフィン樹脂に含有するプロピレン以外のオレフィンの含有量が上限を超えたため、得られた被膜はPP製基材への密着性、シクロオレフィン系基材への密着性、耐水性、耐薬品性、低温造膜性が劣った。
【0162】
比較例4では、比較例3で用いた水性分散体に対しさらに架橋剤を用いたものであったが、シクロオレフィン系基材への密着性、耐水性、耐薬品性、耐湿熱性が劣った。
【0163】
比較例5では、水性分散体におけるポリエステル樹脂の含有量が下限値未満であったため、接着性、耐湿熱性が劣った。
【0164】
比較例6では、水性分散体におけるポリオレフィン樹脂の含有量が下限値未満であったため、PP製基材への密着性、シクロオレフィン系基材への密着性、耐水性、耐薬品性、低温造膜性、接着性、耐湿熱性が劣った。