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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-229714(P2015-229714A)
(43)【公開日】2015年12月21日
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシウレタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 71/04 20060101AFI20151124BHJP
【FI】
   C08G71/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-116021(P2014-116021)
(22)【出願日】2014年6月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000238256
【氏名又は名称】浮間合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100098213
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】宇留野 学
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】武藤 多昭
(72)【発明者】
【氏名】花田 和行
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034KA01
4J034KB02
4J034KD07
4J034KD11
4J034KE02
4J034SA02
4J034SB01
4J034SB04
4J034SB05
4J034SC04
4J034SD02
4J034SD07
4J034SE01
(57)【要約】
【課題】製造を短時間で効率よく行うことで生産に必要なエネルギーを削減し、さらに、ほとんど反応性を示さず、原料に利用できないとされてきたアミン化合物をも原料に活用できる、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物とから環境に対応したポリヒドロキシウレタン化合物を製造する方法の提供。
【解決手段】1分子中に少なくとも1個の5員環環状カーボネート基を有する化合物と、1分子中に少なくとも1個のアミノ基を有する化合物との重付加反応によりポリヒドロキシウレタン化合物を得る際に、分子内に少なくとも1の水酸基を有し、且つ、炭素原子と、少なくとも1の窒素原子とを含んで構成された−C=N−部分を有する複素環式化合物及び/又はその互変異性体である化合物の存在下で、上記重付加反応を行うことを特徴とするポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に少なくとも1個の5員環環状カーボネート基を有する化合物と、1分子中に少なくとも1個のアミノ基を有する化合物との重付加反応によりポリヒドロキシウレタン化合物を得る際に、分子内に少なくとも1の水酸基を有し、且つ、炭素原子と、少なくとも1の窒素原子とを含んで構成された−C=N−部分を有する複素環式化合物及び/又はその互変異性体である化合物の存在下で、上記重付加反応を行うことを特徴とするポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記複素環式化合物及び/又はその互変異性体である化合物が、5員環構造あるいは6員環構造を有する請求項1に記載のポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記複素環式化合物が、下記一般式(1)〜(2)で示される少なくともいずれかの化合物である請求項1に記載のポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法。
[ただし、式(1)において、R1、R2、R3、R4、R5のうちの少なくとも1つが水酸基であり、それ以外は、水素原子であるか、または、その構造中にO、S、Nの各元素を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキル基である。]
[ただし、式(2)において、R6、R7、R8のうちの少なくとも1つが水酸基であり、それ以外は、水素原子であるか、または、その構造中にO、S、Nの各元素を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキル基である。]
【請求項4】
前記1分子中に少なくとも1個の5員環環状カーボネート基を有する化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素を原料として製造されたものであり、製造されるポリヒドロキシウレタン化合物中の−O−CO−結合が、二酸化炭素由来のものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記複素環式化合物及び/又はその互変異性体の使用量が、前記5員環環状カーボネート基有する化合物と前記アミノ基を有する化合物の混合物100質量部当たり、0.1〜20.0質量部の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記1分子中に少なくとも1個のアミノ基を有する化合物のアミノ基のうち、少なくとも1つのアミノ基が、H2N−CH2−以外の第1級アミノ基又は第2級アミノ基である請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法。
【請求項7】
前記1分子中に少なくとも1個のアミノ基を有する化合物が、イソホロンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、メチルアミノプロピルアミン、2−ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、1,2−ジアミノブタン、ピペラジン、1,6−シクロヘキサンジアミン、3−アミノピロリジン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン及びα,ω−ビス(2−アミノプロピル)ポリプロピレングリコールエーテルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物とを反応させてポリヒドロキシウレタン化合物を製造する方法に関し、詳しくは、機械的特性に優れたポリヒドロキシウレタン化合物を、短時間に効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5員環環状カーボネート基は、その原料として二酸化炭素を使用して合成することができる。このため、5員環環状カーボネート基を有する化合物を原料として利用できる技術を普及させることは、近年、世界的な環境問題となっている温室効果ガス削減に貢献できることを意味し、このような新たな観点からも、注目されるべき技術である。
【0003】
5員環環状カーボネート基とアミノ基の反応についてはすでに知られている。例えば、エチレンカーボネートと、アンモニアを反応させて、水酸基を有するカルバメート化合物(ヒドロキシウレタン化合物と同義)を得ることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
以下に、5員環環状カーボネート基を有する化合物(以下、5員環環状カーボネート化合物と略す場合がある)と、アミノ基を有する化合物(以下、アミン化合物と略す場合がある)との反応式を示す。下記に示したように、5員環環状カーボネート構造の開裂は2種類の開裂があるため、5員環環状カーボネート基を有する化合物を原料として利用した場合、2種類の構造物が得られることが知られている。
【0005】
【0006】
ここで、上記5員環環状カーボネート基を有する化合物が、二酸化炭素を原料に用いたものである場合は、上記のアミノ基を付加させて得られたヒドロキシウレタン化合物もまた、化学構造中に二酸化炭素を取り込まれた化合物となる。
【0007】
また、下記に述べるように、1分子中に2つの5員環環状カーボネート基を有する化合物と、1分子中に2つのアミノ基を有する化合物とを用いて高分子化反応を行い、ポリヒドロキシウレタン化合物を製造する方法についてもいくつかの報告がある。
【0008】
例えば、米国特許第3072613号明細書(特許文献1)には、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルビスカーボネートとヘキサメチレンジアミンなどと反応させ、ポリヒドロキシウレタン化合物を製造する方法が報告されている。しかし、上記反応においては、反応初期では比較的速く反応が進行するが、反応が終点に近づくにつれ反応速度が低下し、目的とする反応率や分子量を得るために長時間を要するという課題があり、工業的な普及に至っていない。
【0009】
このポリヒドロキシウレタン化合物は、二酸化炭素を原料として製造されるカーボンオフセット材料として応用が期待されているが、その製造時に二酸化炭素が排出されるという課題を有しており、地球規模で問題としている温室効果ガス削減を考慮すれば、製造時における二酸化炭素の排出を最小限にすることが、工業的な普及には必要になる。
【0010】
反応速度の改善を目的として、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物からポリヒドロキシウレタン化合物を合成する際、三級アミン類や各種金属化合物を触媒として用いていることで伸長速度を上げることが提案されている(特許文献2)。しかしながら、これらのいずれの触媒物質も、十分な効果を得るには多量に添加する必要があり、工業的に有用なレベルまでの反応時間の短縮、或いは高分子量化を達するに至っていない。このような多量の触媒の使用は、製造コストが増大することや、最終製品中への触媒の残存が懸念され、安全性上の問題から好ましくない。
【0011】
一方、ポリヒドロキシウレタン化合物を工業的に普及させることに対する課題の一つとして、原材料に使用できるアミン化合物の種類が限られている点が挙げられる。特に、後述するような立体障害を有するアミン化合物を原料として高分子量のポリヒドロキシウレタン化合物を得たことについての報告はなく、この点を解消し、原料の多様化を達成することも、工業上の利用性を高めるための重要な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第3072613号明細書
【特許文献2】特開2006−9001号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】F.Strain et.al. J Am.Chem.Soc.72,1254(1950)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、上記に挙げた種々の課題に対処できる、効率よく、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物とからポリヒドロキシウレタン化合物を製造する、実用化が可能な製造方法を提供することである。さらには、これまで、その立体障害等の理由で、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物との重付加反応の原料に使用することが難しかった材料の使用を可能にでき、多様な分子設計ができる工業上の利用性が高いポリヒドロキシウレタン化合物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物とを重付加反応させてポリヒドロキシウレタン化合物を製造する際に有用な、より少量で、上記反応の触媒として機能し得る特定の構造的特徴をもつ化合物を見出して、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、上記の目的は、下記の本発明によって達成される。本発明は、1分子中に少なくとも1個の5員環環状カーボネート基を有する化合物と、1分子中に少なくとも1個のアミノ基を有する化合物との重付加反応によりポリヒドロキシウレタン化合物を得る際に、分子内に少なくとも1の水酸基を有し、且つ、炭素原子と、少なくとも1の窒素原子とを含んで構成された−C=N−部分を有する複素環式化合物及び/又はその互変異性体である化合物の存在下で、上記重付加反応を行うことを特徴とするポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法を提供する。
【0017】
本発明の製造方法の好ましい形態としては、前記複素環式化合物及び/又はその互変異性体である化合物が、5員環構造あるいは6員環構造を有すること;前記複素環式化合物が、下記一般式(1)〜(3)で示される少なくともいずれかの化合物であることが挙げられる。
【0018】
[ただし、式(1)において、R1、R2、R3、R4、R5のうちの少なくとも1つが水酸基であり、それ以外は、水素原子であるか、または、その構造中にO、S、Nの各元素を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキル基である。]
【0019】
[ただし、式(2)において、R6、R7、R8のうちの少なくとも1つが水酸基であり、それ以外は、水素原子であるか、または、その構造中にO、S、Nの各元素を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキル基である。]
【0020】
[ただし、式(3)において、R9、R10、R11、R12のうちの少なくとも1つが水酸基であり、それ以外は、水素原子であるか、アミノ基、または、その構造中にO、S、Nの各元素を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R11、R12は環化していてもよい。]
【0021】
また、本発明の製造方法は、前記1分子中に少なくとも1個の5員環環状カーボネート基を有する化合物が、エポキシ化合物と二酸化炭素を原料として製造されたものであり、製造されるポリヒドロキシウレタン化合物中の−O−CO−結合が、二酸化炭素由来のものであること;前記複素環式化合物及び/又はその互変異性体の使用量が、前記5員環環状カーボネート基を有する化合物と前記アミノ基を有する化合物の混合物100質量部当たり、0.1〜20.0質量部の範囲であること;前記1分子中に少なくとも1個のアミノ基を有する化合物のアミノ基のうち、少なくとも1つのアミノ基が、H2N−CH2−以外の第1級アミノ基又は第2級アミノ基であること;前記1分子中に少なくとも1個のアミノ基を有する化合物が、イソホロンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、メチルアミノプロピルアミン、2−ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、1,2−ジアミノブタン、ピペラジン、1,6−シクロヘキサンジアミン、3−アミノピロリジン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン及びα,ω−ビス(2−アミノプロピル)ポリプロピレングリコールエーテルからなる群から選択される少なくとも1種であることが挙げられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特定の構造的特徴をもつ化合物を触媒として使用することによって、少量の使用で反応効率を向上させることができ、さらに、5員環環状カーボネート基を有する化合物と、様々な種類のアミノ基を有する化合物とを重付加反応させることができ、広範囲の用途に適用できるポリヒドロキシウレタン化合物の分子設計が可能になる。より具体的には、従来の重付加反応ではほとんど反応性を示さなかった、2級アミノ基を有する化合物や、立体障害の大きいアミノ基を有するアミン化合物を原料とした場合にも、本発明で規定する触媒として機能する化合物を存在させて反応を行った場合は、ポリヒドロキシウレタン化合物を効率よく得ることができるので、原料の多様化も達成できる。
【0023】
また、本発明のポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法によれば、短時間に効率よく、従来よりも低い反応温度で高分子量のポリヒドロキシウレタン化合物を合成することができる。このため、本発明のポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法によれば、生産に必要なエネルギーを低減でき、製造時に発生する二酸化炭素量の低減を実現でき、工業的な観点から製造経費を削減できるという顕著な効果が得られる。さらに、本発明のポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法によれば、効率化によって製造時に発生する二酸化炭素量の低減効果が得られることに加え、二酸化炭素を原料にした5員環カーボネート化合物を用い、様々な種類のアミノ基を有する化合物と反応させることで、種々のポリヒドロキシウレタン化合物を効率よく合成することができるので、省資源、環境保護に資する技術提供が可能になる。さらに、本発明の製造方法によって製造されたポリヒドロキシウレタン化合物は、有用な環境対応型材料となり、これを用いた製品の価値を高める効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明のポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法は、1分子中に少なくとも1個の5員環環状カーボネート基を有する化合物と、1分子中に少なくとも1個のアミノ基を有する化合物との重付加反応によりポリヒドロキシウレタン化合物を得る際に、分子内に少なくとも1の水酸基を有し、且つ、炭素原子と、少なくとも1の窒素原子とを含んで構成された−C=N−部分を有する複素環式化合物及び/又はその互変異性体である化合物の存在下で、上記重付加反応を行うことを特徴とする。以下、本発明の製造方法における各構成について説明する。
【0025】
[ポリヒドロキシウレタン化合物]
本発明の製造方法によって得られるポリヒドロキシウレタン化合物は、1分子中に少なくとも1個の5員環環状カーボネート基を有する化合物と、1分子中に少なくとも1個のアミノ基を有する化合物をモノマー単位として、その重付加反応により得られるものである。先にも述べたが、下記に示すように5員環環状カーボネートの開裂が2種類あるため、得られるヒドロキシウレタン化合物は、2種類の構造物が得られる。
【0026】
従って、例えば、2官能同士の化合物を反応させた場合の、2個の5員環環状カーボネート基を有する化合物と、2個のアミノ基を有するアミン化合物の重付加反応により得られる高分子樹脂は、下記式(4)〜(7)の4種類の化学構造が生じ、ランダムに存在すると考えられる。
【0027】
【0028】
<5員環環状カーボネート化合物>
本発明に使用される1分子中に少なくとも1個の5員環環状カーボネート基を有する化合物は、特に制限がなく、1分子中に1個以上の5員環環状カーボネート基を有するものであれば、いずれも使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つ化合物や、脂肪族系や脂環式系の化合物を使用することができる。以下に使用可能な化合物を例示する。
【0029】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つ化合物としては以下の構造のものが例示される。なお、下記式中のRは、HまたはCH3である。
【0030】
脂肪族系や脂環式系の5員環環状カーボネート化合物としては以下の化合物が例示される。なお、下記式中のRは、HまたはCH3である。
【0031】
本発明で使用する上記に列挙したような5員環環状カーボネート化合物(以下、環状カーボネート化合物と略す場合がある)は、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得ることが可能である。エポキシ化合物と二酸化炭素との反応により得られた環状カーボネート化合物を本発明のポリヒドロキシウレタン化合物の製造方法において使用することで、得られたポリヒドロキシウレタン化合物は、そのウレタン結合中の−O−CO−構造部が二酸化炭素由来の成分となる。その構造中に二酸化炭素が固定化されたポリヒドロキシウレタン化合物は、環境問題に対応する材料として有用であることから、本発明の製造方法においては、二酸化炭素を原料として用いられた環状カーボネート化合物を使用することが好ましい。
【0032】
具体的には、下記のようにして得られた環状カーボネート化合物を使用することが好ましい。例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させる。この結果、二酸化炭素をエステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0033】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、原料のエポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部が好ましく、より好ましくは1〜20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるために、トリフェニルホスフィンなどを同時に使用してもよい。
【0034】
エポキシ化合物と二酸化炭素の反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。この際に用いる有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであればいずれのものも使用可能である。具体的には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤が、好ましい有機溶剤として挙げられる。
【0035】
上記したような、二酸化炭素を原料として合成された環状カーボネート化合物を使用して製造されたポリヒドロキシウレタン化合物は、その構造中に二酸化炭素が固定化された、−O−CO−結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)のヒドロキシウレタン化合物中における含有量は、二酸化炭素の有効利用の立場からはできるだけ高くなる方がよいが、例えば、上記したような環状カーボネート化合物を用いることにより、ヒドロキシウレタン化合物の構造中に1〜40質量%の範囲で、二酸化炭素を含有させることができる。
【0036】
<アミン化合物>
本発明において使用されるアミン化合物としては、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとして、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン(ヘキサメチレンジアミン)、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、ノルボルナンジアミン、1,3−(ビスアミノメチル)シクロヘキサンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0037】
本発明の製造方法によれば、本発明で使用する前記に挙げたような環状カーボネート化合物に対する反応性が低く、従来技術では高分子量のポリヒドロキシウレタン化合物を得ることが困難であった立体障害の大きなアミノ基を1つ以上有するアミン化合物や、従来の重付加反応ではほとんど反応性を示さなかったアミン化合物も原料として使用することができるようになる。このようなアミン化合物の中には、安価に入手可能な化合物や、得られるポリヒドロキシウレタン化合物の物性改良に有用なものがあるため、本発明の製造方法によれば、多様なポリヒドロキシウレタン化合物を経済的に製造できるという効果を実現できる。
【0038】
上記したような、従来、使用が困難であったアミン化合物としては、例えば、その構造中のアミノ基のうちの少なくとも1つのアミノ基が、H2N−CH2−以外の第1級アミノ基又は第2級アミノ基であるものが挙げられる。このようなアミノ基を有する化合物として、例えば、以下の式(8)〜式(10)のような構造のものが挙げられる。
【0039】
[式(8)において、Qは窒素原子または炭素原子であり、Qを含んだ環状構造を有する。また、Qを含んだ環は、置換基として、アミノ基、水酸基、アルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基を有していてもよい。]
[式(9)において、R13、R14、R15は、少なくとも1つが、その構造中にO、S、Nの各元素を含んでいてもよい炭素数が1〜20の分岐或いは非分岐のアルキル基であり、それ以外は水素原子である。R16、R17は、水素原子であるかCH3である。但し、R13〜R15のうち2つが水素原子の場合、R16、R17のうちの1つはCH3である。]
[式(10)において、R18、R19は、アミノ基、水酸基を置換基として有してもよい炭素数1〜20のアルキル基である。]
【0040】
上記アミン化合物の具体的なものとしては、例えば、イソホロンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、メチルアミノプロピルアミン、2−ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、1,2−ジアミノブタン、ピペラジン、1,6−シクロヘキサンジアミン、3−アミノピロリジン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、α,ω−ビス(2−アミノプロピル)ポリプロピレングリコールエーテルなどが挙げられる。
【0041】
[複素環式化合物及び/又はその互変異性体]
本発明の製造方法は、上記した環状カーボネート化合物と、アミン化合物との重付加反応によりポリヒドロキシウレタン化合物を得る際に、分子内に少なくとも1の水酸基を有し、且つ、炭素原子と、少なくとも1の窒素原子とを含んで構成された−C=N−部分を有する複素環式化合物及び/又はその互変異性体である化合物(以下、複素環式化合物等と略す場合がある)の存在下で、上記重付加反応を行うことを特徴とする。特に、複素環式化合物等の有する複素環が、5員環構造あるいは6員環構造を有することが好ましい。このようなものとしては、下記一般式(1)〜(3)で表される窒素を含む6員環構造の複素環式化合物が挙げられるが、本発明では、これらの式で表される化合物から選択されるいずれかを使用することが好ましい。
【0042】
[ただし、式(1)において、R1、R2、R3、R4、R5のうちの少なくとも1つが水酸基であり、それ以外は、水素原子であるか、または、その構造中にO、S、Nの各元素を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキル基である。]
【0043】
[ただし、式(2)において、R6、R7、R8のうちの少なくとも1つが水酸基であり、それ以外は、水素原子であるか、または、その構造中にO、S、Nの各元素を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキル基である。]
【0044】
[ただし、式(3)において、R9、R10、R11、R12のうちの少なくとも1つが水酸基であり、それ以外は、水素原子であるか、アミノ基、または、その構造中にO、S、Nの各元素を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R11、R12は環化していてもよい。]
【0045】
上記した複素環式化合物としては、例えば、上記一般式(1)で表される化合物に該当する、2−ヒドロキシピリジン、3−ヒドロキシピリジン、4−ヒドロキシピリジン、上記一般式(2)で表される化合物に該当するシアヌル酸、上記一般式(3)で表される化合物に該当するチミン、シトシン、グアニン、ウラシルなどが挙げられる。本発明の製造方法では、これらの互変異性体を使用することもでき、勿論、複素環式化合物に、その互変異性体が含まれた状態の化合物の存在下で、環状カーボネート化合物とアミン化合物との重付加反応を行ってもよい。なお、互変異性体は意図して使用することも勿論できるが、市販されている複素環式化合物の一部として含まれている場合も多い。
【0046】
本発明者らは、上記に挙げたような構造的特徴を有する複素環式化合物等が、5員環環状カーボネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物とを重付加反応させてポリヒドロキシウレタン化合物を製造する際に、より少量で、上記反応の有用な触媒として機能し得ることを見出し、本発明に至ったものである。上記に挙げた化合物の中でも、上記一般式(1)或いは(2)で表される窒素を含む6員環複素環化合物及び/又はその互変異性体は、特に上記の効果が著しく、本発明の製造方法に好適である。より具体的には、例えば、2−ヒドロキシピリジン、3−ヒドロキシピリジン、4−ヒドロキシピリジン、或いはシアヌル酸及び/又はその互変異性体などを使用した場合に、より顕著な効果が得られる。
【0047】
上記複素環式化合物等の使用量は、環状カーボネート化合物とアミン化合物との混合物100質量部あたり0.1質量部以上であり、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.3〜10.0質量部の範囲である。上記使用量が0.1質量部未満では、触媒として反応促進効果が小さくなるので好ましくない。一方、20質量部を超えて多量に使用した場合、例えば、反応溶剤として使用しても特に問題は起こらない。しかし、製造経費低減の観点からは、触媒として機能し得る必要最小量の使用で十分である。
【0048】
[他の要件]
本発明の製造方法においては、上記した複素環式化合物等を必須成分として重付加反応を行うこと以外、特に限定されない。その好ましい条件を例示すると、上記した本発明を特徴づける複素環式化合物等の存在下、例えば、有機溶剤中、5〜200℃の範囲、好ましくは60〜120℃の範囲で重付加反応を行うことができる。本発明の製造方法では、このように、従来の製造条件よりも低温での製造が可能であり、例えば、60℃〜80℃の温度でも、十分な分子量のポリヒドロキシウレタン化合物を得ることができる。これに対し、反応時の温度が高い場合は着色や副反応の問題が生じるため、このように、反応時の温度を低くできたことは、本発明の製造方法は、従来方法に比べてランニングコストを低減できることに加えて、これらの問題の発生を低減することもできるので有用である。
【0049】
本発明の製造方法において、使用可能な溶剤としては、使用する原料及び得られたポリヒドロキシウレタン化合物に対して不活性な有機溶剤であれば、いずれも使用可能である。好ましいものを例示すると、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、ギ酸メチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、パークロルエチレン、トリクロルエチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。
【実施例】
【0050】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0051】
<製造例1>[環状カーボネート化合物(A−I)の合成]
エポキシ当量187のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エポトート YD−128、新日鐵住金化学社製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬(株)製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン150部とを、撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。その後、反応液に300部の水を加え、生成物を析出させ、ろ別した。得られた白色粉末をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部(収率42%)を得た。
【0052】
得られた化合物をIR(日本分光(株)製、FT/IR−350)にて分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ由来のピークは消失しており、1800cm-1付近に、原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来のピークが確認された。また、HPLC(日本分光製、LC−2000;カラムFinePakSIL C18−T5;移動相 アセトニトリル+水)による分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点の範囲は±5℃であった。以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により5員環環状カーボネート基が導入された、下記式で表される構造の化合物と確認された。これをA−Iと略称した。このA−Iの化合物中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%(計算値)であった。
【0053】
【0054】
<製造例2>[環状カーボネート化合物(A−II)の合成]
エポキシ樹脂として、エポキシ当量115のハイドロキノン型エポキシ樹脂(商品名:デナコール EX−203、ナガセケムテックス(株)製)を用いた以外は、製造例1と同じ方法で、下記式で表される構造の環状カーボネート化合物(A−II)を合成した。得られたA−IIは、白色の結晶であり、融点は141℃であった。また、収率は55%であり、IR分析の結果は、A−Iと同様であり、HPLC分析による純度は97%であった。A−IIの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、28.0%(計算値)であった。
【0055】
【0056】
<実施例1>
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物A−Iを78.7部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ(株)製)を21.3部、本発明で規定する複素環式化合物等として2−ヒドロキシピリジンを0.5部、さらに反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを100部加えた。そして、80℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂について、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定(東ソー製、GPC−8220;カラムSuperAW2500+AW3000+AW4000+AW5000;後述した実施例等も同様)したところ、その重量平均分子量は、41000(ポリスチレン換算)であった。また、得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。1H−NMR分析(ブルカー社製装置:溶媒DMSO−d6、温度120℃、内部標準TMS)の結果から、環状カーボネートとアミンとの付加反応が環状カーボネートの2種類の開裂に由来する結合のいずれの存在も確認され、意図した構造のポリヒドロキシウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。なお、上記DMSO−d6は、6つの水素を重水素に置換したジメチルスルホキシドの略であり、TMSは、テトラメチルシアンの略である。
【0057】
<実施例2>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンの使用量を2.0部にした以外は、実施例1と同様に反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は43000であった。
【0058】
<実施例3>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを、3−ヒドロキシピリジンに代えた以外は、実施例1と同様に反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は30000であった。
【0059】
<実施例4>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを、4−ヒドロキシピリジンに代えた以外は、実施例1と同様に反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は31000であった。
【0060】
<実施例5>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを、シアヌル酸に代えた以外は、実施例1と同様に反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は39000であった。
【0061】
<比較例1>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを使用しなかった以外は、実施例1と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は25000であった。
【0062】
<比較例2>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを、ピリジンに代えた以外は実施例1と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は25000であった。
【0063】
<比較例3>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを、トリエチルアミンに代えた以外は実施例1と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は26000であった。
【0064】
<比較例4>
比較例3で使用したトリエチルアミンの使用量を2.0部とした以外は、比較例3と同様に反応させポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は27000であった。
【0065】
<実施例6>
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物A−Iを75.9部、m−キシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)を24.1部、本発明で規定する複素環式化合物等として2−ヒドロキシピリジンを0.5部、さらに反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを100部加えた。そして、80℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、33000であった。
【0066】
<実施例7>
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例2で得た化合物A−IIを69.5部、m−キシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)30.5部、本発明で規定する複素環式化合物等として2−ヒドロキシピリジン0.5部、さらに、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド100部を加えた。そして、80℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、30000であった。
【0067】
<実施例8>
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物A−Iを71.6部、イソホロンジアミン(デュポン(株)製)28.4部、本発明で規定する複素環式化合物等として2−ヒドロキシピリジンを0.5部、さらに、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを100部加えた。そして、80℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、21000であった。
【0068】
<実施例9>
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物A−Iを75.9部、ピペラジン(広栄化学工業(株)製)を16.7部、本発明で規定する複素環式化合物等として2−ヒドロキシピリジン0.5部、さらに、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド100部を加えた。そして、80℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、19000であった。
【0069】
<比較例5>
実施例6で使用した2−ヒドロキシピリジンをトリエチルアミンに代えた以外は、実施例6と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、15000であった。
【0070】
<比較例6>
実施例7で使用した2−ヒドロキシピリジンをトリエチルアミンに代えた以外は、実施例7と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、12000であった。
【0071】
<比較例7>
実施例8で使用した2−ヒドロキシピリジンをトリエチルアミンに代えた以外は、実施例8と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、5000であった。
【0072】
<比較例8>
実施例9で使用した2−ヒドロキシピリジンをトリエチルアミンに代えた以外は、実施例9と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は5000であった。
【0073】
〔評価〕
実施例及び比較例で得たポリウレタン樹脂の製造方法を、下記の方法及び基準にて評価した。
【0074】
[基準粘度到達時間]
実施例に記載の撹拌装置に搭載されたトルク計を用いて、反応の際の粘度を測定し、一定の粘度に到達するまでの時間を測定した。具体的には、予め、反応液の粘度と撹拌機にかかるトルクの関係を算出し、合格基準となる粘度の値を定め、トルク計の値をもって粘度測定を行い、樹脂溶液がその粘度に到達した時間を基準粘度到達時間とした。なお、8時間反応後に粘度が基準に到達していない場合には、反応時間を最大24時間まで延長した。そして、24時間後も基準粘度に到達しない場合には、その評価を「>24時間」と記載した。
【0075】
[重量平均分子量]
実施例に記載の測定装置及び条件にて測定した。具体的には、実施例に記載した装置で8時間反応させた各樹脂溶液について、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定(東ソー製、GPC−8220;カラムSuperAW2500+AW3000+AW4000+AW5000)で重量平均分子量を測定し、得られた測定値で比較し、評価した。
【0076】
[破断点強度]
実施例及び比較例の方法で得た各ポリウレタン樹脂でフィルムをそれぞれ作製し、JISK6251に準拠して、得られたフィルムの破断点強度をそれぞれ測定した。具体的には、8時間反応させて得られた樹脂溶液を用いて、厚み25μmのキャストフィルムを作製し、得られたフィルムからJIS3号ダンベルを切り出した後、オートグラフにて室温(25℃)で測定した。得られた破断点強度の測定値を下記の5段階にわけ評価した。
A:50MPa以上
B:30MPa以上〜50MPa未満
C:20MPa以上〜30MPa未満
D:10MPa以上〜20MPa未満
E:10MPa未満
【0077】
実施例1〜5及び比較例1〜4では、環状カーボネート化合物としてA−Iを使用し、アミン化合物としてヘキサメチレンジアミンを使用してポリウレタン樹脂を製造したが、その際に、添加剤(触媒)として用いた各化合物の種類と量が、上記で測定した基準粘度到達時間、重量平均分子量及び機械的物性に与える影響を比較するため、表1に、これらをまとめて示した。
【0078】
【0079】
また、表2に、環状カーボネート化合物としてA−I或いはA−IIを用い、アミン化合物として、ヘキサメチレンジアミン以外の化合物を使用してポリウレタン樹脂を製造した実施例及び比較例において、本発明で規定する複素環式化合物等である2−ヒドロキシピリジンの添加の有無が、基準粘度到達時間、重量平均分子量及び機械的物性に与える影響についてまとめて示した。
【0080】
【0081】
表1に示した実施例と比較例の樹脂の特性の比較から、反応の際に、本発明で規定する構造的特徴を有する複素環式化合物等を添加することで、合格基準となる粘度に到達するまでの時間を短縮することが可能になることを確認できた。また、表1に示した実施例と比較例は、いずれも製造(反応)時間が同じであるが、表1から明らかなように、本発明で規定する複素環式化合物等を添加することで、製造される樹脂の、重量平均分子量及び破断点強度を大きくできることが確認された。
【0082】
また、表2に示されているように、環状カーボネート化合物及びアミン化合物の種類を変えた場合であっても、反応の際に、本発明で規定する構造的特徴を有する複素環式化合物等を添加することによって、ポリウレタン製造の時間短縮、品質向上に効果が得られることが確認できた。また、表2から明らかなように、従来、反応しにくいとされていた構造を持つアミン化合物を用いた場合であっても、反応の際に、本発明で規定する構造的特徴を有する複素環式化合物等を添加することで反応を促進でき、高分子量の樹脂が得られる。このことは、ポリヒドロキシウレタン化合物を製造する上で、様々な用途に応じた分子設計が可能になることを意味しており、本発明によれば、コスト的に有利な材料の使用も可能にでき、種々のポリヒドロキシウレタン化合物の製造を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、環状カーボネート化合物とアミン化合物とを原料とし、重付加反応によりポリヒドロキシウレタン化合物を得る製造方法において、本発明で規定する構造的特徴を有する複素環式化合物等の存在下で重付加反応を行うというという簡便な方法で、短時間で効率よく、多様なポリヒドロキシウレタン化合物を得ることができる。また、本発明によれば、その原料に、二酸化炭素を使用して合成された5員環カーボネート化合物を使用することで、製造した樹脂中に二酸化炭素を固定化することができるので、地球環境保護の面から工業的な応用が期待される。さらに、本発明の方法は、重付加反応の際に、本発明を特徴づける特有の複素環式化合物等を添加剤(触媒)として用いることで、反応性に劣るアミン化合物と環状カーボネート化合物との反応促進も可能にできることから、従来、ほとんど反応性を示さず、原料として利用できないとされてきた2級アミン化合物を原料として活用することが可能になる。このため、本発明は、従来合成できなかった分子設計への応用が期待される技術である。