【実施例】
【0050】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0051】
<製造例1>[環状カーボネート化合物(A−I)の合成]
エポキシ当量187のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エポトート YD−128、新日鐵住金化学社製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬(株)製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン150部とを、撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。その後、反応液に300部の水を加え、生成物を析出させ、ろ別した。得られた白色粉末をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部(収率42%)を得た。
【0052】
得られた化合物をIR(日本分光(株)製、FT/IR−350)にて分析したところ、910cm
-1付近の原材料のエポキシ由来のピークは消失しており、1800cm
-1付近に、原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来のピークが確認された。また、HPLC(日本分光製、LC−2000;カラムFinePakSIL C18−T5;移動相 アセトニトリル+水)による分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点の範囲は±5℃であった。以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により5員環環状カーボネート基が導入された、下記式で表される構造の化合物と確認された。これをA−Iと略称した。このA−Iの化合物中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%(計算値)であった。
【0053】
【0054】
<製造例2>[環状カーボネート化合物(A−II)の合成]
エポキシ樹脂として、エポキシ当量115のハイドロキノン型エポキシ樹脂(商品名:デナコール EX−203、ナガセケムテックス(株)製)を用いた以外は、製造例1と同じ方法で、下記式で表される構造の環状カーボネート化合物(A−II)を合成した。得られたA−IIは、白色の結晶であり、融点は141℃であった。また、収率は55%であり、IR分析の結果は、A−Iと同様であり、HPLC分析による純度は97%であった。A−IIの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、28.0%(計算値)であった。
【0055】
【0056】
<実施例1>
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物A−Iを78.7部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ(株)製)を21.3部、本発明で規定する複素環式化合物等として2−ヒドロキシピリジンを0.5部、さらに反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを100部加えた。そして、80℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂について、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定(東ソー製、GPC−8220;カラムSuperAW2500+AW3000+AW4000+AW5000;後述した実施例等も同様)したところ、その重量平均分子量は、41000(ポリスチレン換算)であった。また、得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。
1H−NMR分析(ブルカー社製装置:溶媒DMSO−d6、温度120℃、内部標準TMS)の結果から、環状カーボネートとアミンとの付加反応が環状カーボネートの2種類の開裂に由来する結合のいずれの存在も確認され、意図した構造のポリヒドロキシウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。なお、上記DMSO−d6は、6つの水素を重水素に置換したジメチルスルホキシドの略であり、TMSは、テトラメチルシアンの略である。
【0057】
<実施例2>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンの使用量を2.0部にした以外は、実施例1と同様に反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は43000であった。
【0058】
<実施例3>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを、3−ヒドロキシピリジンに代えた以外は、実施例1と同様に反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は30000であった。
【0059】
<実施例4>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを、4−ヒドロキシピリジンに代えた以外は、実施例1と同様に反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は31000であった。
【0060】
<実施例5>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを、シアヌル酸に代えた以外は、実施例1と同様に反応させてポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は39000であった。
【0061】
<比較例1>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを使用しなかった以外は、実施例1と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は25000であった。
【0062】
<比較例2>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを、ピリジンに代えた以外は実施例1と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は25000であった。
【0063】
<比較例3>
実施例1で使用した2−ヒドロキシピリジンを、トリエチルアミンに代えた以外は実施例1と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は26000であった。
【0064】
<比較例4>
比較例3で使用したトリエチルアミンの使用量を2.0部とした以外は、比較例3と同様に反応させポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は27000であった。
【0065】
<実施例6>
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物A−Iを75.9部、m−キシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)を24.1部、本発明で規定する複素環式化合物等として2−ヒドロキシピリジンを0.5部、さらに反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを100部加えた。そして、80℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、33000であった。
【0066】
<実施例7>
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例2で得た化合物A−IIを69.5部、m−キシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)30.5部、本発明で規定する複素環式化合物等として2−ヒドロキシピリジン0.5部、さらに、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド100部を加えた。そして、80℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、30000であった。
【0067】
<実施例8>
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物A−Iを71.6部、イソホロンジアミン(デュポン(株)製)28.4部、本発明で規定する複素環式化合物等として2−ヒドロキシピリジンを0.5部、さらに、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを100部加えた。そして、80℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、21000であった。
【0068】
<実施例9>
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物A−Iを75.9部、ピペラジン(広栄化学工業(株)製)を16.7部、本発明で規定する複素環式化合物等として2−ヒドロキシピリジン0.5部、さらに、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド100部を加えた。そして、80℃の温度で撹拌しながら、8時間反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、19000であった。
【0069】
<比較例5>
実施例6で使用した2−ヒドロキシピリジンをトリエチルアミンに代えた以外は、実施例6と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、15000であった。
【0070】
<比較例6>
実施例7で使用した2−ヒドロキシピリジンをトリエチルアミンに代えた以外は、実施例7と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、12000であった。
【0071】
<比較例7>
実施例8で使用した2−ヒドロキシピリジンをトリエチルアミンに代えた以外は、実施例8と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、5000であった。
【0072】
<比較例8>
実施例9で使用した2−ヒドロキシピリジンをトリエチルアミンに代えた以外は、実施例9と同様に反応させてポリウレタン樹脂を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は5000であった。
【0073】
〔評価〕
実施例及び比較例で得たポリウレタン樹脂の製造方法を、下記の方法及び基準にて評価した。
【0074】
[基準粘度到達時間]
実施例に記載の撹拌装置に搭載されたトルク計を用いて、反応の際の粘度を測定し、一定の粘度に到達するまでの時間を測定した。具体的には、予め、反応液の粘度と撹拌機にかかるトルクの関係を算出し、合格基準となる粘度の値を定め、トルク計の値をもって粘度測定を行い、樹脂溶液がその粘度に到達した時間を基準粘度到達時間とした。なお、8時間反応後に粘度が基準に到達していない場合には、反応時間を最大24時間まで延長した。そして、24時間後も基準粘度に到達しない場合には、その評価を「>24時間」と記載した。
【0075】
[重量平均分子量]
実施例に記載の測定装置及び条件にて測定した。具体的には、実施例に記載した装置で8時間反応させた各樹脂溶液について、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定(東ソー製、GPC−8220;カラムSuperAW2500+AW3000+AW4000+AW5000)で重量平均分子量を測定し、得られた測定値で比較し、評価した。
【0076】
[破断点強度]
実施例及び比較例の方法で得た各ポリウレタン樹脂でフィルムをそれぞれ作製し、JISK6251に準拠して、得られたフィルムの破断点強度をそれぞれ測定した。具体的には、8時間反応させて得られた樹脂溶液を用いて、厚み25μmのキャストフィルムを作製し、得られたフィルムからJIS3号ダンベルを切り出した後、オートグラフにて室温(25℃)で測定した。得られた破断点強度の測定値を下記の5段階にわけ評価した。
A:50MPa以上
B:30MPa以上〜50MPa未満
C:20MPa以上〜30MPa未満
D:10MPa以上〜20MPa未満
E:10MPa未満
【0077】
実施例1〜5及び比較例1〜4では、環状カーボネート化合物としてA−Iを使用し、アミン化合物としてヘキサメチレンジアミンを使用してポリウレタン樹脂を製造したが、その際に、添加剤(触媒)として用いた各化合物の種類と量が、上記で測定した基準粘度到達時間、重量平均分子量及び機械的物性に与える影響を比較するため、表1に、これらをまとめて示した。
【0078】
【0079】
また、表2に、環状カーボネート化合物としてA−I或いはA−IIを用い、アミン化合物として、ヘキサメチレンジアミン以外の化合物を使用してポリウレタン樹脂を製造した実施例及び比較例において、本発明で規定する複素環式化合物等である2−ヒドロキシピリジンの添加の有無が、基準粘度到達時間、重量平均分子量及び機械的物性に与える影響についてまとめて示した。
【0080】
【0081】
表1に示した実施例と比較例の樹脂の特性の比較から、反応の際に、本発明で規定する構造的特徴を有する複素環式化合物等を添加することで、合格基準となる粘度に到達するまでの時間を短縮することが可能になることを確認できた。また、表1に示した実施例と比較例は、いずれも製造(反応)時間が同じであるが、表1から明らかなように、本発明で規定する複素環式化合物等を添加することで、製造される樹脂の、重量平均分子量及び破断点強度を大きくできることが確認された。
【0082】
また、表2に示されているように、環状カーボネート化合物及びアミン化合物の種類を変えた場合であっても、反応の際に、本発明で規定する構造的特徴を有する複素環式化合物等を添加することによって、ポリウレタン製造の時間短縮、品質向上に効果が得られることが確認できた。また、表2から明らかなように、従来、反応しにくいとされていた構造を持つアミン化合物を用いた場合であっても、反応の際に、本発明で規定する構造的特徴を有する複素環式化合物等を添加することで反応を促進でき、高分子量の樹脂が得られる。このことは、ポリヒドロキシウレタン化合物を製造する上で、様々な用途に応じた分子設計が可能になることを意味しており、本発明によれば、コスト的に有利な材料の使用も可能にでき、種々のポリヒドロキシウレタン化合物の製造を実現できる。